説明

合成樹脂製容器

【課題】衝撃強度が改善され、CO排出量の削減に有利な合成樹脂製容器を提案する。
【解決手段】内層と外層との相互間にバイオマスプラスチックからなる中間層を備えた積層型の合成樹脂製容器において、前記内外層の樹脂の使用量を全樹脂量の20〜75質量%とし、前記中間層の使用量を全樹脂量の25〜80質量%とし、さらに、該中間層として、中間層を形成する全樹脂量の15質量%以下の改質剤を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスプラスチックを使用した合成樹脂製容器に関するものであり、耐内容物保存性・容器物性の劣化を極力抑制し、かつ、COの排出量の削減を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
食料品、飲料及び医薬品用容器に適用されているペットボトル等の合成樹脂製の容器は、その製造及び廃棄に際しては多大なエネルギーが消費されており、CO排出量にも多大な影響を与えていることから、近年ではCO排出量の削減を図るのに有利な植物(植物はカーボンニュートラルの性質をもつことから、焼却時のCO排出量をカウントしない、及び/又は自然環境に存在するバクテリア等によって崩壊、消滅させることができる(生分解性))を原料としたバイオマスプラスチックを適用した容器の開発が試みられている。
【0003】
かかるバイオマスプラスチックとしては、具体的にポリ乳酸(でんぷんの乳酸発酵物)樹脂、でんぷん樹脂、PHA樹脂あるいは脂肪族ポリエステル樹脂等が存在しているが、何れの樹脂も水分を透過しやすい特性を有しており、液体又は固体を内容物として充填する容器にあってはそのままの状態では使用することができない不具合があり、この点に関する先行技術としてバイオマスプラスチックを中間層としてその内側及び外側にポリプロピレン樹脂やポリエチレンテレフタレート等からなる内層、外層を配設した積層複合型容器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特許第3052467号明細書
【0004】
しかしながら、この種の容器はとくに、内容物の保存性の観点、容器物性を維持するための層構成及び材料選定が不十分であり、かつ中間層に落下等の衝撃に対する十分な強度をもたせることが困難なことから、未だ実用化の域には達しているとはいえないのが現状であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、内容物保存性の観点、容器物性を維持するための層構成及び材料選定、とくに耐衝撃性が改善され、CO排出量を削減するのに有利な合成樹脂製容器を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされたものであり、
内外層の間に中間層を備えた積層型の合成樹脂製容器であって、
前記中間層はバイオナスプラスチックを主成分とする構成体からなり、
前記内外層の樹脂の使用量が全樹脂量の20〜75質量%、前記中間層の使用量が全樹脂量の25〜80質量%であり、該中間層は、中間層を形成する全樹脂量の15質量%以下の改質剤を含有する、ことを特徴とする合成樹脂製容器である。
【0007】
上記の構成になる合成樹脂製容器において、内外層は、水分及び水蒸気透過の少ないポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂、環状オレフィン樹脂のオレフィン樹脂が適用される。又はポリエチレンテレフタレート等芳香族ポリエステル樹脂でも代用可能である。
【0008】
また、中間層には、改質剤として柔軟性樹脂が添加され、中間層となるバイオマスプラスチックとしては、ポリ乳酸、でんぷん樹脂、PHA樹脂又はバイオマスを主成分とする脂肪族ポリエステル及び/又はバイオマスを由来とする非生分解性プラスチック(バイオマスを主成分とする脂肪ポリエステルと、バイオマスを由来とする非生分解性プラスチックは、それぞれ単独で個別に適用される場合と、同時に適用される場合の2通りを含む)のうちの少なくとも1種が適用される。中間層には容器の成形時に生成されたスクラップ材(内層、中間層、外層を形成する樹脂)を添加することができる。
【発明の効果】
【0009】
中間層に、該中間層を形成する全樹脂量に対して15質量%を上限として柔軟性樹脂を含有させて複合化を図ることにより該中間層は柔軟性を有することになり落下等の衝撃が加えられても簡単に破損するとこはない。また、柔軟性樹脂の使用量を抑えることで、バリア性の低下抑制及びCO排出量の抑制も可能となる。
【0010】
容器の成形時に発生するスクラップ材は中間層に添加することが可能であり、その場合、改質剤としてPBAT(ポリブチレンアジペート・テレフタレート)及びオレフィン系エラストマーを使用することが望ましく、これにより原料歩留りを高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
内層、外層は、とくに内外気の水分に対して安定的な性質を有するポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)及び環状オレフィン樹脂(COC又はCOP)を使用し、求められる水分あるいは水蒸気バリア性を考慮してその使用量は容器を構成する全樹脂量の20〜75質量%とする。
【0012】
バイオマスプラスチックの使用量はCOの削減効果を発揮させる観点から全樹脂量の25〜80質量%とする。
【0013】
バイオマスプラスチックに添加できる改質剤(柔軟性樹脂)としてはPBAT(BASF製エコフレックス(商品名))、PTMAT(ケミテック製EasterBio(商品名))、PBS(昭和高分子製ビオノーレ(商品名)、三菱化学製GS Pla(商品名))、PBSA(昭和高分子製ビオノーレ(商品名))、PCL(ダイセル化学製セルグリーン(商品名)、ダウケミカル日本製TonePolymer(商品名))、PCLBS(ダイセル化学製セルグリーン(商品名))、乳酸成分と脂肪族ポリエステル成分との共重合体(PLA樹脂用改質剤として使用、大日本インキ社製プラメート(商品名))その他各種エラストマー(オレフィン系、エステル系等)等が適用される。
【0014】
本発明にしたがう容器を製造するには、内層、外層及び中間層を形成するための樹脂の所定量をそれぞれ共押出して試験管状になるプリフォームを形成し、該プリフォームに対して所定の条件のもとでブロー成形を行うか、プリフォームを成形することなしに直接ブロー成形を行うダイレクトブロー成形法が適用される。
【0015】
本発明に適用し得るバイオマスプラスチックとしては、ポリ乳酸、でんぷん樹脂、PHA樹脂又は脂肪族ポリエステルの少なくとも1種を適用することが可能であり、その他、ひまし油を主原料としたナイロン11(アルケマ製リルサン(商品名))、とうもろこしを主原料としたPTT(デュポン製ソロナ(商品名))を用いることもできる。
【0016】
内外層を形成する樹脂としては、PP樹脂やPE樹脂あるいは環状オレフィン樹脂、又はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂が適用される。
【0017】
容器の層構成は、内層、中間層、外層の3層構造に限定されるものではなく、用途に応じて種々変更が可能であり、また、各層は接着層(AD)を介して相互に接合する。
【0018】
実施例1
バイオマスプラスチックとしてPLA樹脂を使用した表1に示す3層構造になる容器(ボトル質量20g)を作製(成形条件:密度0.958のHDPEを内外層に使用し、中間層としてバイオマスプラスチック(ポリ乳酸(NatureWorks社製))と中間層使用樹脂量に対して15質量%のBASF製エコフレックスを添加して使用し、接着層は三井化学製アドマーSF600(以下、ADと表記する)を使用し、ボトル質量20g中の50質量%のポリ乳酸を配する層厚比にて試作した容器)してPP樹脂単体、PE樹脂単体で作製した容器と比較しCO排出量の削減率(%)がどの程度にあるかについての調査を行った。その結果を表1に併せて示す。なお、表1〜4中オレフィン類とは、一般的なホモ・ブロック・ランダムPP及びPP系接着樹脂等のPP系樹脂、一般的なHDPE・L-LDP及びPE系接着剤等PE系樹脂を含むものとする。このうち、PP系接着樹脂やPE系接着樹脂には、改質剤(柔軟性樹脂)として寄与する材料が存在する。
【0019】
【表1】

【0020】
表1より明らかなように本発明にしたがう容器は通常のPPボトルやPETボトルに比較してCOの排出量が格段に軽減されることが確認された。なお、表中、環境配慮判定はCOのみの排出削減率である。合否判定としては、京都議定書目標(日本はCOとそれに換算した他5種の温室効果ガスの排出量を1990年に較べ6%削減することが定められている)を参考に、2006年度実質削減率−12%を基準として設定した。
【0021】
実施例2
バイオマスプラスチックとしてPLA樹脂を使用した表2に示す層構成なる(2種3層:PE/PLA系/PE、PP/PLA系/PP、3種4層:PE/PLA系/AD/PE、3種5層:PE/AD/PLA系/AD/PE,PP/AD/PLA系/AD/PP)で作製された質量20gのボトル状容器、PET樹脂単体で作製した容器(質量20g)、PLA樹脂とPE樹脂とをブレンドした単層の容器(質量20g)につき、経時保管後の外観形状の変化について調査した。その結果を表2に併せて示す。なお、外観良否判定は、各種恒温恒湿度室にて長期間保存した際の、外観変化の有無で判断したものである。なお、PLA樹脂に改質剤が添加されている場合には、PLA系として表記した。
【表2】

【0022】
実施例3
バイオマスプラスチックとしてPLA樹脂を使用した表3に示す層構成(2種3層:PE/PLA系/PE(PLA50質量%)、3種4層:PE/PLA系/AD/PE(PLA50質量%、PLA75質量%)、3種5層:PE/AD/PLA系/AD/PE(PLA25質量%、PLA50質量%))を作製した質量20gの容器、PE樹脂単体で作製した容器(質量20g)、PLA樹脂とPE樹脂とをブレンドした単層の容器、PET樹脂単体で作製した容器につき、水蒸気バリア性について調査した。その結果を表3に併せて示す。バリア性の判定は市販のビタミン等の製剤を容器内に規定量(約50g)添加し、高温多湿下で60日保管した際の製剤の変色の有無で判断したものである。なお、表3において40℃-75%RH、60日保管後の数値、40℃-90%RH、60日保管後の値は、変化量をg(グラム)で表示している。
【0023】
【表3】

【0024】
実施例4
バイオマスプラスチックとしてPLA樹脂を使用した表4に示す層構成(3種5層)で作製された容量が200mlになる容器を作製し、PP樹脂単体で作製した容器(200ml)につき、水分バリア性について調査した。その結果を表4に併せて示す。バリア性の判定は容器内に水を200ml充填し40°C、30日保管した際の水分透過率が1%以内であるかどうかで合格、不合格として判断したものである。なお、この実施例は5層の層構成以上で接着性樹脂を配置した場合におけるバリア性についての調査結果である。
【0025】
【表4】

【0026】
実施例5
バイオマスプラスチックとしてPLA樹脂を使用した表5、6に示す層構成になる容量200ml、100mlの容器をそれぞれ製作し、PP樹脂単体で作製した容器、PE樹脂単体で作製した容器につき、落下による衝撃を加えた場合における破損状況について調査した。その結果を表5、6に併せて示す。なお、落下による衝撃は5°Cで24時間保管したのち高さ100cmより垂直方向にて落下させたときの破損の有無で判定した。表5中PP系樹脂とは一般的なホモ・ブロック・ランダムPP及びPP系接着樹脂を含むものであり、表6中PE系樹脂とは一般的なHDPE・L-LDPE及びPE系接着剤を含むものである。なお、この実施例は、バリア性低下を考慮し、実使用上問題のないレベルの柔軟性樹脂配合での落下試験結果を示したものである。
【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
上記調査の結果、本発明にしたがう合成樹脂製の容器は、ポリオレフィン樹脂製容器と比較して、CO排出量の削減が可能であり、長期間にわたり保管しても経時的な劣化が極めて小さく、低温落下衝撃については高さ1mからの落下においても損傷は認められなかった。そして、水分バリア性、水蒸気バリア性はオレフィン系樹脂ボトルに対して大きく低下することはなく、再生材を使用してもとくに容器の品質に影響がないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
衝撃強度が改善され、CO排出量の削減に有利な合成樹脂製容器が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内層と外層との相互間に中間層を備えた積層型の合成樹脂製容器であって、
前記中間層はバイオマスプラスチックを主成分とする構成体からなり、
前記内外層の樹脂の使用量が全樹脂量の20〜75質量%、前記中間層の使用量が全樹脂量の25〜80質量%であり、該中間層は、中間層を形成する全樹脂量の15質量%以下の改質剤を含有する、ことを特徴とする合成樹脂製容器。
【請求項2】
前記内外層は、オレフィン系樹脂である請求項1記載の合成樹脂製容器。
【請求項3】
前記改質剤は、柔軟性樹脂である請求項1記載の合成樹脂製容器。
【請求項4】
前記中間層が、ポリ乳酸、でんぷん樹脂、PHA樹脂、バイオマスを主成分とする脂肪族ポリエステル及び/又はバイオマスを由来とする非生分解性プラスチックのうちの少なくとも1種からなる請求項1又は2記載の合成樹脂製容器。
【請求項5】
前記中間層は、容器の成形時に生成されたスクラップ材を含む請求項1〜4の何れかに記載の合成樹脂製容器。
【請求項6】
前記スクラップ材は、オレフィン系樹脂を含有する請求項5記載の合成樹脂製容器。

【公開番号】特開2009−241991(P2009−241991A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94355(P2008−94355)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】