説明

合成皮革を製造するための方法及びそれから製造した合成皮革

不織布又は織布に、非イオン化性ポリウレタンと外部安定化界面活性剤とを含む水性ポリウレタン分散液を含浸するか、又はコーティングすることによって合成皮革を作製する。次いで、その含浸した布地を、分散液を凝固させるのに十分な凝固時間、凝固剤を含有する水に曝す。コーティングした布地を加熱して多孔質層を形成する。本方法は、優れた湿潤層間密着力を有する合成皮革を形成するために使用することができ、かつ不溶性の有機酸の多価カチオン塩を含むことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成皮革の製造の改良された方法に関する。具体的には、本発明は水性ポリウレタン分散液を用いた合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革すなわち模造皮革は、多孔性ポリマー皮膜(多孔質)層をその上に有していてよい、ポリウレタンのようなポリマーを含浸した織布又は不織布である。
【0003】
合成皮革は一般に、材料を結合させ本物の皮革に類似した機械的特性と感触(手触り)を与えるために、不織布にポリウレタンを含浸することによって製造する。一般に、合成皮革は湿潤凝固法又は乾燥凝固法によって有機溶媒を用いて製造する。湿潤凝固法では布地に、ジメチルホルムアミド(DMF)のような揮発性有機溶媒中に溶解したポリウレタンを含浸し、そのポリウレタンを水のような非溶媒中で凝固させ、溶媒を水で抽出する。乾燥凝固法では布地に、例えば有機溶媒中に溶解したポリウレタンを含浸し、続いて含浸布地を乾燥する。有機溶媒を用いるので、凝固するに従って多孔性の柔軟な構造が現れ、柔軟な皮革状材料が得られる。
【0004】
これらの方法は有用な合成皮革はもたらすが、過剰量の揮発性有機溶媒を必要とし、その溶媒は環境に放出されるか又は高価な回収系を必要とする。更に、多孔構造をもたらす溶媒の除去と分配を制御することが困難なので、得られる合成層は、合成皮革に多様性をもたせる、十分に規定された多孔構造を有していないのが典型的である。
【0005】
これらの問題を是正するため、布地に含浸するために水性ポリウレタン分散液を用いて、溶媒をベースとした方法を置き換え、望む場合には、多孔質層皮膜層を作製する試みがなされてきた。米国特許第4171391号及び同4376148号などの初めの方の例は、布地中に含浸された内部安定化ポリウレタン分散液(例えば2,2−ジ−(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を用いてアニオン内部安定化されている)を記載している。これらの分散液は汚染や不十分な凝固を避けるために酢酸のような弱酸を用いて凝固させている。その結果、凝固時間が例えば5〜10分と長くなっている。形成された合成皮革はゴワゴワしており、セルロースのボール紙に類似している。合成皮革に悪影響を及ぼす大量の界面活性剤を使用する必要があるので、外部安定化ポリウレタン分散液は回避されている。
【0006】
別の例である米国特許第4496624号は、布地中に含浸し、ケイフッ化ナトリウムと熱水(例えば93℃(200°F))を用いて凝固させた他のポリマー系分散液(例えば塩化ビニル/塩化ビニリデンコポリマー)とブレンドしたアニオン性内部安定化ポリウレタン分散液を記載している。次いで含浸したシートを乾燥させた。乾燥した含浸シートは堅いものであった。次いで乾燥シートを高温で(例えば135℃(275°F))プレスした。加熱しプレスしたシートは柔らかく曲げ易いものであった。
【0007】
最近の例である米国特許第6231926号も、布地が完全に含浸されるまで、布地に内部安定化水性ポリウレタン分散液を含浸することを記載している。含浸布地を乾燥する。乾燥した含浸布地を苛性溶液に曝し、布地中に含浸したポリウレタンのいくらかを除去して満足すべき手触りが実現されている。
【0008】
最近の別の例である国際特許出願WO02/33001は、布地中に含浸したアニオン性内部安定化ポリウレタン及び多孔質層の形成を記載している。この方法は、分散液を含浸するために消泡剤と撥水剤を必要とする。凝固時間は5分又はそれ以上であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、上記のうちの1つのような従来技術の諸問題(例えば有機溶媒の使用、遅い凝固時間、凝固させるための有害な薬品又は苛性薬品の使用、高価な添加剤や苛性濾出法のような余分な処理ステップの使用)のうちの1つ又はそれ以上を回避する、合成皮革及び合成皮革を形成するための方法を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1のアスペクトは、
(a)不織布又は織布に、非イオン化性ポリウレタンと外部安定化界面活性剤を含むポリウレタン分散液を含浸するステップと、
(b)その含浸した布地を、前記分散液を凝固させるのに十分な凝固時間、凝固剤を含有する水に曝すステップと
を含む、含浸布地合成皮革を製造するための方法である。
【0011】
改善された合成皮革を製造するための本方法は、例えば中性塩を単に加えるだけで、急速に凝固できる水性ポリウレタン分散液を用いる。具体的には、本方法は、単に外部安定化されただけのポリウレタン分散液を使用することが好ましい。中性塩の添加は、ポリウレタン分散液を凝固させるだけでなく、1種又は複数の添加剤(例えば界面活性剤)と反応して添加剤が水不溶性化合物を生成するようにすることができる。驚くべきことに、このような方法の使用によって、生み出された微細構造によって良好な手触りと柔らかさを有する合成皮革の迅速な製造が可能になることが見出された。更に得られた水不溶性化合物は撥水性のような所望の特性を合成皮革に付与することができる。
【0012】
本発明の第2のアスペクトは、
(a)ポリマーを含浸した布地上に、起泡した水性ポリウレタン分散液を適用するステップであって、前記水性ポリウレタン分散液が外部安定化界面活性剤を有する上記ステップと、次いで
(b)ステップ(a)の生成物を乾燥し硬化させるのに十分な温度に加熱して、多孔質層を有する合成皮革を形成するステップと
を含む、多孔質層をその上に有する合成皮革を製造するための方法である。
【0013】
第2のアスペクトの方法では、良好な手触りと外観を有する均一な多孔構造を有する多孔質層を含浸布地上に形成することが見出された。驚くべきことに、この合成皮革は、外部安定化界面活性剤を有するポリウレタン分散液を用いて、添加する凝固剤を用いることなく単に加熱するだけで形成することができる。具体的には、外部安定化界面活性剤を有する水性ポリウレタン分散液の使用によって、例えば、乾燥した合成皮革をこし出して優れた手触りと特性並びに非光沢性の外観を有する合成皮革を形成することができることを発見した。
【0014】
本発明の第3のアスペクトは、複数の繊維を有する布地を含む合成皮革であって、その布地がポリウレタンと多価カチオンの実質的に水不溶性の有機酸の塩とをその中に有する合成皮革である。実質的に水不溶性であるということは、化合物が最大でも水にわずかしか(例えば水に1%未満溶解する)溶解しないことを意味する。上記化合物は水不溶性であることが好ましい。
【0015】
本発明の第4のアスペクトは、その上にポリウレタンを含む多孔質層を有する布地を含む合成皮革であって、その合成皮革は少なくとも痕跡量から最大で多孔質層の4重量%の界面活性剤を有し、本明細書で説明する方法で測定して少なくとも1.5kg/cmの湿潤層間密着力を有する。第4のアスペクトの好ましい態様では、布地に、本発明の第1のアスペクトで形成されたもののようなポリマーを含浸する。
【0016】
合成皮革とそれを製造する方法は、任意の皮革又は合成皮革用途のための合成皮革を製造するために使用することができる。具体的な例には、履物、ハンドバッグ、ベルト、小物入れ、衣類、家具装飾用品及び自動車装飾用品並びに手袋が含まれる。
【0017】
内部安定化ポリウレタン分散液は、液媒体中に分散された粒子のポリウレタン中に、イオン性若しくは非イオン性の親水性懸垂基を組み込むことによって安定化させたものである。ノニオン性内部安定化ポリウレタン分散液の例は米国特許第3905929号及び同3920598号に記載されている。イオン性の内部安定化ポリウレタン分散液はよく知られており、米国特許第6231926号の第5欄4〜68行目及び第6欄1及び2行目に記載されている。典型的には、アニオン性内部安定化ポリウレタン分散液を作製するためには、米国特許第3412054号に記載されているもののようなジヒドロキシアルキルカルボン酸が使用される。アニオン性内部安定化ポリウレタン分散液を作製するために用いられる普通のモノマーは、ジメチロールプロピオン酸(DMPA)である。
【0018】
外部安定化ポリウレタン分散液は、イオン性若しくはノニオン性親水性懸垂基が実質的に欠けているものであり、したがって、ポリウレタン分散液を安定化させるために、界面活性剤の添加を必要とする。外部安定化ポリウレタン分散液の例は米国特許第2968575号、同5539021号、同5688842号及び同5959027号に記載されている。
【0019】
柔らかくしなやかな感触(手触り)を有する合成皮革は、不織布又は織布に水性ポリウレタン分散液を含浸し、次いでその含浸布地を、凝固剤を含む水に、分散液を凝固させるのに十分な凝固時間、曝すことによって作製される。ポリウレタン分散液は、更に以下で説明する非イオン化性ポリウレタンと外部安定化界面活性剤を含む。
【0020】
布地は織布でも不織布でもよい。布地は不織布であることが好ましい。布地は当技術分野で周知の方法のような任意の適切な方法で作製することができる。布地は任意の適切な繊維材料から作製することができる。適切な繊維材料には、以下に限定されないが、合成繊維材料及び天然若しくは半合成の繊維材料並びにその混合物又はブレンド物が含まれる。合成繊維材料の例にはポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール並びにそのブレンド物又は混合物が含まれる。天然、半合成繊維材料の例には、綿、羊毛及び麻が含まれる。
【0021】
水性ポリウレタン分散液は当技術分野で周知の方法のような任意の適切な方法で含浸する。例としては浸漬法、噴霧法又はドクターブレード法がある。含浸した後、含浸布地から過剰の分散液又は水を除去して布地中に所望の量の分散液を残すことができる。典型的には、これは含浸布地をゴムローラーに通して行われる。
【0022】
水性ポリウレタン分散液はその中に実質的に有機溶媒が存在していない分散液である。有機溶媒は、溶媒として典型的に使用される有機化合物を意味する。一般に、有機溶媒は高い可燃性と蒸気圧(すなわち0.1mmHg超)を示す。実質的に有機溶媒が存在しないということは、分散液が、プレポリマー又は分散液を作製するために意図的な有機溶媒を故意に添加することなく、作製されたことを意味する。このことは、反応器の洗浄に起因する汚染のような意図しない発生源によって、いくらかの量の溶媒が存在してよいということではない。一般に、水性分散液は最大で分散液の全量の1重量%の溶媒を有する。水性分散液は好ましくは最大で2000ppm、より好ましくは最大で1000ppm、更により好ましくは最大で500ppm、最も好ましくは最大で痕跡量の溶媒を有する。好ましい態様では、有機溶媒を使用せず、水性分散液には検出可能な有機溶媒が存在しない(すなわち、有機溶媒は「実質的に存在しない」)。
【0023】
繰り返すことになるが、ポリウレタン分散液は非イオン化性ポリウレタンと外部安定化界面活性剤とを含む。非イオン化性ポリウレタンとは、親水性のイオン化性基を含まないものである。親水性のイオン化性基とは、DMPAのように、水系で容易にイオン化するものである。他のイオン化性基の例には、カルボン酸、スルホン酸及びそのアルカリ金属塩のようなアニオン性基が含まれる。カチオン性基の例には、第三級アミンと、リン酸、硫酸、ハロゲン化水素酸のような強鉱酸又は強い有機酸との反応、或いはC1〜C6アルキルハライド又はベンジルハライド(例えばBr又はCl)のような適切な四級化剤との反応によるアンモニウム塩が含まれる。
【0024】
以下で述べるように、分散液が容易にかつ迅速に凝固する限り、非イオン化性ポリウレタン分散液は他の分散液と混合することができる。非イオン化性分散液を内部安定化ポリウレタン分散液と混合することさえも、結果として得られる分散液が(例えばその分散液を、中性塩を含有する水に曝すことによって)容易に凝固する限り可能である。非イオン化性ポリウレタン分散液と混合する場合に有用である他のポリマー分散液又はエマルションには、ポリアクリレート、ポリイソプレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ニトリルゴム、天然ゴム及びスチレンとブタジエンのコポリマーのようなポリマーが含まれる。非イオン化性分散液を単独で(すなわち、他のいずれのポリマー系分散液又はエマルションとも混合しないで)使用することが最も好ましい。
【0025】
一般に、非イオン化性ポリウレタンは、水性媒体中、安定化させる量の外部界面活性剤の存在下で、ポリウレタン/尿素/チオ尿素プレポリマーを連鎖延長剤と反応させて調製する。ポリウレタン/尿素/チオ尿素プレポリマーは当技術分野でよく知られているもののような任意の適切な方法で調製することができる。プレポリマーは、少なくとも2個の活性水素原子を有する高分子量有機化合物を十分なポリイソシアナートと、プレポリマーが少なくとも2個のイソシアナート基を末端に有することを保証するような条件下で接触させることにより有利に調製される。
【0026】
ポリイソシアナートは、好ましくは有機ジイソシアナートであり、芳香族、脂肪族若しくは脂環式、又はその組合せとすることができる。プレポリマーの調製に適しているジイソシアナートの代表的な例には、米国特許第3294724号、第1欄、55〜72行目及び第2欄、1〜9行目、並びに米国特許第3410817号、第2欄、62〜72行目及び第3欄、1〜24行目に開示されているものなどが含まれる。好ましいジイソシアナートには、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、イソホロンジイソシアナート、p−フェニレンジイソシアナート、2,6−トルエンジイソシアナート、ポリフェニルポリメチレンポリイソシアナート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアナート、1,5−ナフタレンジイソシアナート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアナート、4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、2,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、及び2,4−トルエンジイソシアナート、或いはその組合せが含まれる。より好ましいジイソシアナートは4,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4’−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、及び2,4’−ジイソシアナトジフェニルメタンである。最も好ましいのは4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン及び2,4’−ジイソシアナトジフェニルメタンである。
【0027】
本明細書では、「活性水素基」という用語は、イソシアナート基と反応して一般反応式:
【化1】


(式中、XはO、S、NH、又はNであり、R及びR’は脂肪族、芳香族、若しくは脂環式、又はその組合せであり得る連結基である)
で示される尿素基、チオ尿素基又はウレタン基を形成する基を指す。少なくとも2個の活性水素原子を有する高分子量有機化合物は典型的には500ダルトン以上の分子量を有する。
【0028】
少なくとも2個の活性水素原子を有する高分子量有機化合物は、ポリオール、ポリアミン、ポリチオール、或いはアミン、チオール、及びエーテルを組み合わせて含有する化合物とすることができる。所望の特性に応じて、ポリオール、ポリアミン若しくはポリチオール化合物は、主として、より多い活性水素官能基を有するジオール、トリオール若しくはポリオール又はその混合物とすることができる。これらの混合物は、例えばポリオール混合物中のモノオールの量が少ないため、全体として2より若干少ない活性水素官能基を有することも理解される。
【0029】
例示としては、分散液を含浸するためには2つの活性水素官能基を有する高分子量化合物又は化合物の混合物を使用することが好ましいのに対して、多孔質層を作製するために用いるポリウレタン分散液には、官能基が多い方が典型的にはより望ましい。少なくとも2個の活性水素原子を有する高分子量有機化合物はポリオール(例えばジオール)、ポリアミン(例えばジアミン)、ポリチオール(例えばジチオール)又はこれらの混合物(例えばアルコール−アミン、チオール−アミン又はアルコール−チオール)とすることができる。これらの化合物は少なくとも500の重量平均分子量を有するのが典型的である。
【0030】
少なくとも2個の活性水素原子を有する高分子量有機化合物は、
一般式
【化2】


(式中、各Rは独立にアルキレン基であり、R’はアルキレン又はアリーレン基であり、各Xは独立にS又はOであって、好ましくはOであり、nは正の整数であり、n’は負でない整数である)
を有するポリアルキレングリコールエーテル若しくはチオエーテル又はポリエステルポリオール若しくはポリチオールであることが好ましい。
【0031】
一般に、少なくとも2個の活性水素原子を有する高分子量有機化合物は、少なくとも500ダルトン、好ましくは少なくとも750ダルトン、より好ましくは少なくとも1000ダルトンの重量平均分子量を有する。重量平均分子量は好ましくは最大で20,000ダルトン、より好ましくは最大で10,000ダルトン、より好ましくは最大で5000ダルトン、最も好ましくは最大で3000ダルトンである。
【0032】
布地に含浸するポリウレタン分散液を作製するためには、例えば、ポリアルキレンエーテルグリコール及びポリエステルポリオールが好ましい。ポリアルキレンエーテルグリコールの代表的な例は、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリ−1,2−プロピレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ−1,2−ジメチルエチレンエーテルグリコール、ポリ−1,2−ブチレンエーテルグリコール及びポリデカメチレンエーテルグリコールである。好ましいポリエステルポリオールには、ポリブチレンアジペート、カプロラクトン系ポリエステルポリオール及びポリエチレンテレフタレートが含まれる。
【0033】
NCO:XH比(ただし、XはO又はSであって、好ましくはOである)は好ましくは1.1:1以上、より好ましくは1.2:1であって、好ましくは5:1以下である。
【0034】
ポリウレタンプレポリマーは回分法又は連続法で調製することができる。有用な方法には、当技術分野で周知のもののような方法が含まれる。例えば、化学量論的に過剰なジイソシアナートとポリオールを、別々の流れで、試薬の制御された反応に適した温度、典型的には40℃〜100℃で静的攪拌機又は動的攪拌機中に導入することができる。試薬の反応を容易にするために、有機スズ触媒(例えばオクチル酸スズ)のような触媒を使用することができる。一般に攪拌槽中で反応が実質的に完結するまで行ってプレポリマーを形成する。
【0035】
外部安定化界面活性剤はカチオン性、アニオン性又はノニオン性とすることができる。適切な界面活性剤の部類には、以下に限定されないが、ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)α−スルホ−ω(ノニルフェノキシ)アンモニウム塩のようなエトキシ化されたフェノールの硫酸塩;アルカリ金属オレイン酸塩及びアルカリ金属ステアリン酸塩のようなアルカリ金属脂肪酸塩;ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリブチレンオキシド及びそのコポリマーのようなポリオキシアルキレンノニオン体;アルコールアルコキシレート;エトキシ化脂肪酸エステル及びアルキルフェノールエトキシレート;アルカリ金属ラウリル硫酸;トリエタノールアミンラウリル硫酸のようなアミンラウリル硫酸;四級アンモニウム界面活性剤;分枝及び線状ナトリウムドデシルベンゼンスルホネートのようなアルカリ金属アルキルベンゼンスルホネート;トリエタノールアミンドデシルベンゼンスルホネートのようなアミンアルキルベンゼンスルホネート;フッ素化アルキルエステル及びアルカリ金属ペルフルオロアルキルスルホネートのようなアニオン性及びノニオン性フルオロカーボン界面活性剤;改質ポリジメチルシロキサンのような有機ケイ素界面活性剤;及び改質樹脂のアルカリ金属石けんが含まれる。
【0036】
好ましくは外部安定化界面活性剤は、中性塩中に存在する多価カチオンと反応して有機酸の不溶性多価カチオン水不溶性塩を生成できるものである。好ましい界面活性剤の例にはジナトリウムオクタデシルスルホスクシニメート、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、ステアリン酸ナトリウム及びステアリン酸アンモニウムが含まれる。
【0037】
ポリウレタン分散液は当技術分野でよく知られているもののような任意の適切な方法で調製することができる(例えば、米国特許第5539021号、第1欄、9〜45行目を参照のこと)。
【0038】
ポリウレタン分散液を作製する場合、プレポリマーは水だけを用いても伸長させることができるが、当技術分野で周知のもののような連鎖延長剤を用いて伸長させることもできる。用いる場合、連鎖延長剤は、別のイソシアナート反応基を有し、かつ分子量が60〜450である任意のイソシアナート反応性ジアミン若しくはアミンとすることができるが、アミノ化ポリエーテルジオール;ピペラジン、アミノエチルエタノールアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン及びその混合物からなる群から選択されることが好ましい。アミン連鎖延長剤は、分散液を作るために用いられた水に溶解されていることが好ましい。
【0039】
非イオン化性ポリウレタン分散液を調製するための好ましい方法では、プレポリマーを含む流動流れを、十分なせん断をかけ、水を含む流動流れと合体させてポリウレタン分散液を形成する。ある量の安定化用界面活性剤は、プレポリマーを含む流れ、水を含む流れ、又は別の流れ中のいずれかにも存在している。プレポリマーを含む流れ(R2)と、水を含む流れ(R1)との相対速度は、好ましくはHIPRエマルションの多分散性(粒子又は液滴の容積平均径と数平均径の比、すなわちDv/Dn)が5以下、より好ましくは3以下、より好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、最も好ましくは1.3以下であるか、或いは容積平均粒子径が2ミクロン以下、より好ましくは1ミクロン以下、より好ましくは0.5ミクロン以下、最も好ましくは0.3ミクロン以下である。更に、水性ポリウレタン分散液は、内部の相から外部の相への相の反転又は段階的分散のない連続的プロセスで調製することが好ましい。
【0040】
界面活性剤は水中濃厚液として使用することもある。この場合、界面活性剤を含む流れを、まずプレポリマーを含む流れと合体させてプレポリマー/界面活性剤混合物を生成させることが有利である。ポリウレタン分散液はこの単一ステップで調製することができるが、プレポリマーと界面活性剤を含む流れを水流れと合体させて界面活性剤を希釈し、水性ポリウレタン分散液を生成させることが好ましい。
【0041】
分散液はポリウレタン粒子の任意の適切な固形分含有率を有することができるが、一般に固形分含有率は、布地中への含浸を容易にするために、全分散液重量の1〜30重量%の固形分とする。固形分含有率は好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも4%、最も好ましくは少なくとも6%から、好ましくは最大で25%、より好ましくは最大で20%、最も好ましくは最大で15重量%である。
【0042】
分散液は、凝固する前に、布地中に分散液が保持される能力を向上させる増粘剤のようなレオロジー調整剤も含有することができる。任意の適切なレオロジー調整剤は当技術分野で周知のものなどを使用できる。レオロジー調整剤は分散液の不安定化を引き起こさないものであることが好ましい。レオロジー調整剤はイオン化しない水溶性増粘剤であることがより好ましい。有用なレオロジー調整剤の例には、メチルセルロースエーテル、アルカリ膨潤性増粘剤(例えば、ナトリウム若しくはアンモニウムで中和したアクリル酸ポリマー)、疎水性改変アルカリ膨潤性増粘剤(例えば疎水性改変アクリル酸コポリマー)及び結合性増粘剤(例えば疎水性改変エチレン−オキシド系ウレタンブロックコポリマー)が含まれる。レオロジー調整剤はメチルセルロースエーテルであることが好ましい。増粘剤の量は任意の有用な量とすることができる。典型的には増粘剤の量は、全分散液重量の少なくとも0.1〜5重量%である。増粘剤の量は0.5〜2重量%であることが好ましい。
【0043】
当技術分野で周知のもののような他の添加剤をポリウレタン分散液に加えて、向上した柔らかさ又は改善された紫外線安定性のようなある種の所望の特性を付与することができる。
【0044】
一般に、分散液は、布地を容易に含浸し、また同時に布地中に容易に保持される粘度を有することになる。一般に粘度は少なくとも100センチポアズ(cp)から最大で10,000cpである。粘度は少なくとも500cpから最大で5000cpであることが好ましい。粘度は少なくとも1000cpから最大で3000cpであることがより好ましい。
【0045】
布地に水性ポリウレタン分散液を含浸した後、分散液を凝固させるのに十分な凝固時間、凝固剤を含む水に含浸布地を曝すことによって分散液を凝固させる。布地は、当技術分野で周知の方法のような任意の適切な方法によって凝固剤を含む水に曝すことができる。
【0046】
含浸布地を、溶解した凝固剤を含む水浴中に、布地中のポリウレタン分散液を凝固させるのに十分な凝固時間、浸漬させることが好ましい。十分に凝固しているということは、一般に更に時間をかけても、せいぜいわずかな追加量のポリウレタンしか布地中で凝固しない結果となる場合である。例示として、十分に凝固しているということは、布地中でせいぜい10重量%増のポリウレタンしか凝固しない場合である。
【0047】
驚くべきことに、遥かに過酷な薬品や条件を用いて内部安定化ポリウレタン分散液では何分間もかかるのに対し、凝固時間は数秒程度である。一般に60秒間という凝固時間は、典型的な環境条件又はそれに近い条件で、ポリウレタン分散液を凝固させるのに十分過ぎるほどである。凝固時間は好ましくは最大で30秒間、より好ましくは最大で20秒間、更により好ましくは最大で15秒間、最も好ましくは最大で10秒間である。
【0048】
凝固剤は、水に溶解していることができ、上の段落で述べたように非イオン化性水性ポリウレタン分散液を凝固させる(室温で60秒未満で凝固させる)一価若しくは多価中性塩のような任意の化合物とすることができる。凝固剤は少なくとも一部が外部安定化界面活性剤と反応して有機酸の不溶性の塩を生成する中性塩であることが好ましい。不溶性塩は、例えば界面活性剤の一価カチオンを置換し、それによって有機酸の多価カチオン水不溶性塩を生成する多価カチオンの反応で得られることが望ましい。中性塩の例には、塩化ナトリウム、塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、クロム酸銀、炭酸バリウム、フッ化バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硝酸銀、硫酸銅、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム及び硝酸バリウムが含まれる。凝固剤はアルカリ土類塩であることが好ましい。凝固剤はアルカリ土類の硝酸塩であることがより好ましい。凝固剤は硝酸カルシウムのようなカルシウム塩であることが最も好ましい。
【0049】
凝固させた後、布地を例えば水で洗浄/こし出して過剰の塩や増粘剤のような他の化合物を除去する。布地のこし出しの前に、例えば布地を先に述べたのと同様の方法でローラーに通して、過剰の液を除去することができる。次いで、布地を水浴中に1秒間〜20分の時間浸漬させるなどの適切な方法によって、布地をこし出すことができる。その時間は1分〜10分が好ましい。
【0050】
最後に、こし出させ、凝固した含浸布地から再度過剰の液をローラーで除去し、続いて乾燥して合成皮革を形成する。合成皮革の分解が始まるほど温度が高くない限り、乾燥は任意の適切な温度と時間で行うことができる。一般に、温度は少なくとも50℃〜200℃である。温度は75℃〜150℃であることが好ましい。
【0051】
好ましい態様では、得られる合成皮革は複数の繊維を有する布地を含み、布地はその中にポリウレタンと多価カチオンの実質的に水不溶性の有機酸の塩(例えばスルホン酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩)を有する。多価カチオンの水不溶性塩の例には、酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸、ガムロジン、ウッドロジン、トールオイルロジン、アビエチン酸、カルボン酸基を含む酸化ポリエチレン、エチレン−アクリル酸コポリマー、エチレン−メタクリル酸コポリマー、不飽和カルボン酸でグラフト化されたポリオレフィン、無水物でグラフト化されたポリオレフィン、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、及びアルキルベンゼンスルホン酸からなる群から選択される有機酸の多価カチオン塩が含まれる。
【0052】
他の例には、アルカリ金属ラウリル硫酸と反応した多価カチオン;トリエタノールアミンラウリル硫酸のようなアミンラウリル硫酸;四級アンモニウム界面活性剤;分枝及び直鎖ナトリウムドデシルベンゼンスルホネートのようなアルカリ金属アルキルベンゼンスルホネート;トリエタノールアミンドデシルベンゼンスルホネートのようなアミンアルキルベンゼンスルホネート;フッ素化アルキルエステル及びアルカリ金属ペルフルオロアルキルスルホネートのようなアニオン性及びノニオン性フルオロカーボン界面活性剤;改質ポリジメチルシロキサンのような有機ケイ素界面活性剤;並びに改質樹脂のアルカリ金属石けんが含まれる。多価カチオンの水不溶性塩は、カチオンが、ジナトリウムオクタデシルスルホスクシニメート、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム及びステアリン酸アンモニウムと反応したアルカリ土類であるものが好ましい。
【0053】
多価カチオンは好ましくはアルカリ土類カチオンである。多価カチオンはCa、Mg又はSrであることがより好ましい。多価カチオンはCaであることが最も好ましい。
【0054】
合成皮革中に残存する多価カチオンの量は広い範囲にわたってよいが、典型的には合成皮革の重量に対して10ppm〜20,000ppmである。合成皮革中の多価カチオンの量は合成皮革の重量に対して好ましくは少なくとも20、より好ましくは少なくとも50、最も好ましくは少なくとも100ppmから好ましくは最大で10,000ppm、より好ましくは最大で5000ppm、最も好ましくは最大で2500ppmである。多価カチオンの量は中性子放射化分析のような既知の方法で測定することができる。
【0055】
合成皮革はそのままで使用することも、また多孔質層をその上に有する合成皮革用の支持層として使用することもできる。支持層として使用する場合、適用される多孔質層は当技術分野で合成皮革多孔質層を作製するのに適した任意のポリマー、例えばポリウレタン、ポリ塩化ビニル、エチレンビニルアセテート、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチル−ヘキシルアクリレート、天然ゴムラテックス、エラストマー性ポリオレフィン及びその混合物とすることができる。多孔質層は、当技術分野で周知のもののような任意の適切な方法で適用し形成することができる。多孔質層は、ポリマー系分散液を起泡させ、ドクターブレード法のような適切な方法を用いて適用することにより形成することが好ましい。
【0056】
多孔質層を有する合成皮革を作製する場合、驚くべきことに、水性ポリウレタン分散液を使用して優れた手触り、外観及び特性をもつ多孔質層を有する合成皮革を形成することができることが見出された。そのような合成皮革を作製するために、起泡した水性ポリウレタン分散液を布地上に適用する。その布地は予めポリマーで含浸しておくことが好ましい。起泡した水性ポリウレタン分散液は、外部安定化界面活性剤を有する。次いで、適用され起泡した水性ポリウレタン分散液を、起泡した分散液を乾燥し硬化させるのに十分な温度に加熱して多孔質層を有する合成皮革を形成する。
【0057】
手触り、外観及び特性をもたらすには、多孔質層を適用した後、凝固剤を用いることなく加熱して、乾燥し硬化させることによって多孔質層を形成させなければならない。所望の外観と特性を達成するように、均一な泡の球状の多孔を保持するため、加熱することにより多孔質層を固定させることが重要である。
【0058】
外部界面活性剤が存在する限り、多孔質層を作製するために用いる水性分散液は、内部安定化ポリウレタン分散液でも外部安定化ポリウレタン分散液でもよい。内部安定化分散液中に存在する外部界面活性剤は泡を安定化させるために使用されるのに対して、外部安定化ポリウレタン分散液中では、それは泡だけでなくポリウレタンコロイド粒子自体も安定させるために使用されることが理解される。本明細書で述べる外部安定化ポリウレタン分散液は、含浸布地合成皮革を作製するために使用することが好ましい。本質的に有機溶媒抜きで作製され得る能力を有するためである。これは、それを作製するのに要するプレポリマーの粘性のゆえに何らかの有機溶媒の使用を常に必要とする内部安定化ポリウレタン分散液とは対照的である。
【0059】
多孔質層を作製する場合、水性ポリウレタン分散液中で少なくとも2種の外部安定化界面活性剤を使用して泡の形成を助けることが好ましい。界面活性剤のうちの1つは両性のものであることが好ましい。両性界面活性剤はコカミドプロピルベタインのようなベタインであることが好ましい。多孔質層の調製に有用な他の界面活性剤は上記したものと同じである。
【0060】
水性ポリウレタン分散液は任意の適切な方法で起泡させることができるが、機械的に、例えば当技術分野で周知の方法で起泡することが好ましい。起泡した外部安定化分散液は当技術分野で周知のもののような任意の適切な方法(例えばドクターブレード法)で布地に適用することができる。布地は、合成皮革形成用の当技術分野で周知のもののような含浸布地であることが好ましい。含浸布地は本明細書で述べる含浸布地合成皮革であることが好ましい。
【0061】
起泡した水性ポリウレタン分散液を布地に適用した後、それを乾燥し硬化させるのに十分な時間加熱する。一般に、以下で述べる所望のセル構造を固定させるのに実施可能なできるだけ迅速な速さで加熱を行う。温度は、所望のセル構造が保持され、かつ合成皮革のどの成分も分解を起こさない限り、任意の適切な温度とすることができる。例えば、温度は典型的には少なくとも50℃から最高で250℃である。温度は、好ましくは低くとも75℃、より好ましくは低くとも100℃、最も好ましくは低くとも110℃から好ましくは最高で225℃、より好ましくは最高で200℃、最も好ましくは最高で150℃である。加熱時間は実施できる限り短いほうが望ましい。典型的な加熱時間は数秒間から1時間までの範囲である。対流式加熱オーブン、加熱プレート、赤外線加熱オーブン、マイクロ波加熱又はその組合せのような任意の適切な加熱方法又は加熱エネルギー源を使用することができる。
【0062】
驚くべきことに、得られた合成皮革の多孔質層は、凝固剤を用いるか溶媒を用いて作製した多孔質層に匹敵する均一な球状の形態を有することができる。例えば、層の断面で見ると、多孔質層は平方センチメートル当たり2000〜300,000個のセルを有している。一般に、球状の形態とは、セルのアスペクト比がほぼ5以下であることを意味する。細孔は好ましくは最大で4.5、より好ましくは最大で4、最も好ましくは最大で3.5のアスペクト比を有する。アスペクト比は、少なくとも100セルの最も短いフェレ(feret)長さと最も長いフェレ長さを、例えばSEM顕微鏡写真上での画像分析ソフトウェアを用いて測定することにより求める。適切なソフトウェアには例えば「Leica QWin」、Leica Microsystems AG、Wetzlar、Germanyが含まれる。
【0063】
一般に、平均細孔径は、先の段落で説明した方法を用いて細孔の面積を無作為に測定して300μmから最大で49000μmである。平均細孔径は好ましくは少なくとも500μm、より好ましくは少なくとも1000μm、最も好ましくは少なくとも2000μmから好ましくは最大で30000μm、より好ましくは最大で25000μm、最も好ましくは最大で20000μmの値である。
【0064】
好ましい態様では、加熱した後、多孔質層を有する合成皮革をこし出す。驚くべきことに、水を用いた簡単に多孔質層のこし出しが合成皮革の湿潤層間密着力を増大させ、同時に手触り、外観及びしなやかさを改善することが見出された。例えば、こし出し前の湿潤層間密着力が典型的には最大で0.8kg/cmであるのに対し、こし出し後で湿潤層間密着力は少なくとも1.5kg/cmである。湿潤層間密着力は好ましくは少なくとも2kg/cm、より好ましくは少なくとも2.5kg/cm、更により好ましくは少なくとも2.7kg/cm、最も好ましくは少なくとも3.0kg/cmである。
【0065】
一般に湿潤層間密着力の改善を見るには、界面活性剤の少なくとも10重量%を除去しなければならない。より好ましくは界面活性剤の少なくとも50重量%を除去し、最も好ましくは界面活性剤の少なくとも70重量%を多孔質層から除去する。除去された界面活性剤の量は液体クロマトグラフィー及び質量分析のような既知の方法で求めることができる。
【0066】
一般に、多孔質層中に存在する界面活性剤の量は多孔質層の最大で4重量%である。多孔質層中の界面活性剤の量は、多孔質層の好ましくは最大で3%、より好ましくは最大で2.5%、更により好ましくは最大で1.5%、最も好ましくは最大で1重量%である。
【0067】
こし出しは多孔質層を水に接触させる任意の適切な方法で実施する。例えば多孔質層を有する合成皮革を水に浸漬するか又は水で噴霧する。こし出し時間は上記したような外観、手触り及び特性を実現するのに適した任意の時間とすることができる。例示としては、こし出し時間は数秒間から1〜2時間とすることができる。こし出し時間は数分から10〜20分の程度が好ましい。
【0068】
本発明のいずれのポリウレタン分散液についても、充てん剤及び顔料のような他の既知の充てん剤を使用することができる。更に、合成皮革はUV保護層、触感(手触り/感触)改変層及び老化防止層のような他の層を有することができる。
【実施例】
【0069】
(例1)
不織布を水性ポリウレタン分散液に5秒間完全に浸漬させ、次いで浸漬させた布地から過剰な液を切って取り出した。布地はニードルパンチ法で形成した1.5デニールのポリエステル繊維と2.0デニールのポリアミド繊維の80:20ブレンド品であった。布地は厚さが1mmで重量は213g/mであった。
【0070】
ポリウレタン分散液は国際特許出願第00/61651号(米国出願第09/548822号)の例4に記載の手順及び材料によって作製された外部安定化ポリウレタン分散液であった。この材料は、以前INTACTA1000(The Dow Chemical Company、Midland、MI)の商品名で市販されていたもので、水で希釈して10重量%のポリウレタン粒子を有する分散液を形成したものである。この水性ポリウレタン分散液は本質的に全く溶媒を用いない方法で調製したものである。希釈する前で、分散液は45重量%のポリウレタン固形分含有率を有していた。
【0071】
水酸化アンモニウムでpHを8〜10に調節しておいた、1000重量部の希釈ポリウレタン分散液に対して、10重量部のMETHOCEL(登録商標)228(The Dow Chemical Company、Midland、MI)を加えて、希釈分散液の粘度を高めた。この増粘分散液は1500センチポアズの粘度を有していた。
【0072】
次いで濡れた布地を、ローラー圧2バール、6m/分の速度で、ゴムコーティングしたニップローラーに通した。ニップローラーにかけた布地を、次いで室温で5秒間、10重量%硝酸カルシウム溶液中に完全に浸漬させて、布地中のポリウレタン分散液を凝固させた。凝固させた後、布地を再度上記したのと同一の速度と圧力でゴムニップローラーに通した。含浸し、凝固した布地を、次いで水浴中に5分間浸漬させて布地から水溶性成分をこし出させた。余剰の水を切った後、こし出しした布地を再度前述のようにゴムニップローラーに通した。こし出し後、最後に、赤外線パイロメーターで測定して布地が110℃の温度に達するまで布地を130℃でオーブン中に置き、含浸した合成皮革を形成した。
【0073】
この合成皮革は35g/mのポリウレタン含有量を有していた。この合成皮革は優れた柔らかさ、しなやかさ及び手触りを有していた。現れた微細構造を図1に示す。合成皮革中に残存するCa量は500重量ppmであり、これは反応してドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムを生成する界面活性剤に起因するものであった。
【0074】
(例2)
凝固浴として10重量%NaCl水溶液を使用し、凝固時間を5分としたこと以外は、例1で述べたのと同じ手順を用いて含浸合成皮革を形成した。
【0075】
その合成皮革は32.3g/mのポリウレタン含有量を有していた。その合成皮革は優れたしなやかさ、柔らかさ及び手触りを有していた。この含浸合成皮革の微細構造を図2に示す。
【0076】
(例3)
凝固浴としてpH3.6を有する10重量%NaClと酢酸の水溶液を用いたこと以外は、例1で述べたのと同じ手順を用いて含浸合成皮革を形成した。
【0077】
その合成皮革は32.3g/mのポリウレタン含有量を有していた。その合成皮革は優れたしなやかさ、柔らかさ及び手触りを有していた。この含浸合成皮革の微細構造を図3に示す。
【0078】
(例4)
例1で述べた方法を用いて含浸合成皮革を作製した。ポリウレタン多孔質層を含浸した合成皮革に以下のようにして適用した。
【0079】
起泡ポリウレタン分散液を、180重量部の外部安定化ポリウレタン分散液(The Dow Chemical Companyから入手可能なDYL100.01新規開発品ポリウレタン分散液)と次段落で述べる添加剤とをブレンドして調製した。DYL100.01分散液は米国特許第6261276号の例1に記載されているようにして調製したものである。
【0080】
起泡ポリウレタン分散液は、55重量%の固形分含有量を有し、3乾燥重量部(pbw)ステアリン酸アンモニウム(STANFAX320、Para−Chem Standard Division、Dalton、GA)、1pbwジナトリウムオクタデシルスルホスクシニメート(STANFAX318、Para−Chem)、1pbwコカミドプロピルベタイン(STANFAX590、Para−Chem)、10pbw二酸化チタン(Ti−Pure(登録商標)R−706、DuPont、Wilmington、DE)及び0.8pbwアクリル酸コポリマー増粘剤(ACUSOL810A、Rohm and Haas、Philadelphia、PA)であり、したがって分散液は46重量%の水を有していた。この起泡ポリウレタン分散液のpHは10であり、粘度は14,300センチポアズであった。
【0081】
多孔質層を有する合成皮革を作製するために、含浸した合成皮革をピンフレームに取り付けた。起泡ポリウレタン分散液を、800rpm、0.06slpmの空気流量及び240g/分の分散液流速で動作する、モデル2MT1A泡立機(E.T.Oakes Corp.、Hauppauge、NY)を用いて起泡させた。湿潤泡密度は840g/lであった。Labcoater LTE−S型(Werner Mathis AG、Concord、NC)を用いて、泡を含浸した合成皮革に適用した。ドクターナイフを、含浸した合成皮革の上方0.78mmに設置した。起泡した分散液を調製し、ドクターブレード法で含浸して、合成皮革上に起泡したポリウレタン分散液の皮膜を形成した。コーティングした含浸合成皮革を次いでオーブン中に80℃で置き、次いで11分間後に150℃まで加熱して多孔質層をその上に有する合成皮革を形成した。
【0082】
この合成皮革は0.8kg/cmの湿潤層間密着力を有していた。
【0083】
湿潤層間密着力は以下のようにして測定した。大きな合成皮革シートから5”×6”の合成皮革の切片を切り出し、次いで、溶媒をベースとしたポリウレタン接着剤を用いて同じサイズのゴムスラブ上に貼り付けた。ゴムは伸びの小さいタイプのもので、その厚さは約2.5mmであった。接着剤を室温で終夜硬化させた後、接着された合成皮革サンプルの2枚の1”×6”切片を試験用に切断した。試験する前に、各1”×6”サンプルを脱塩水の容器中に10分間浸した。次いでサンプルを水の容器から取り出した。サンプル上の余分の水を、ペーパータオルを用いて静かに拭き取った。次いでサンプルを、試験用のInstron装置(Instron5581、Instron Corporation、Canton、Massachusetts)の2つのグリップ上に載せた。Instron装置の引張速度は5.1cm(2インチ)/分であった。合成皮革の2つの層を分離させるための力を記録した。2つの層間の分離の5.1cm(2インチ)間隔毎に記録された最も低い力を平均して湿潤層間密着力をkg/cmで得た。
【0084】
(例5)
合成皮革を乾燥/硬化させた後、70℃の温度で4分間水に浸して、界面活性剤のような可溶性成分を多孔質層からこし出したこと以外は例4に述べたのと同じ方法によって、その上に多孔質層を有する合成皮革を作製した。こし出した合成皮革を例1で述べたのと同一条件下でニップローラーに通し、次いでオーブン中で130℃で乾燥した。
【0085】
多孔質層をその上に有するこの合成皮革は2.8kg/cmの湿潤層間密着力を有していた。
【0086】
(比較例1)
ポリウレタン分散液がWitco Corporation、Perth Amboy、NJ.から入手可能な内部安定化ポリウレタン分散液WITCOBOND W−290Hであったこと以外は例1で述べたのと同じ手順を用いて、含浸合成皮革を作製した。
【0087】
この分散液は凝固させることができず、布地中にポリウレタンは保持されなかった。
【0088】
(比較例2)
ポリウレタン分散液が比較例1で使用したのと同一のものであること以外は、例2で述べたのと同じ手順を用いて、含浸合成皮革を作製した。
【0089】
この分散液は凝固させることができず、布地中にポリウレタンは保持されなかった。
【0090】
(比較例3)
ポリウレタン分散液が比較例1で使用したのと同一のものであること以外は例3で述べたのと同じ手順を用いて、含浸合成皮革を作製した。
【0091】
この合成皮革のポリウレタン含有量は0.15g/mであった。この数値から分散液が凝固しなかったことは直ちに明らかである。
【0092】
(比較例4)
比較例3で述べたのと同じ手順を用いて、含浸合成皮革を作製した。
【0093】
この合成皮革のポリウレタン含有量は1.2g/mであった。この数値から分散液が丁度凝固し始めたところであったことは直ちに明らかである。
【0094】
これらの結果から、外部安定化界面活性剤を有する非イオン化性ポリウレタンは、上記の例におけるように、数秒程度の時間で凝固するのに、内部安定化ポリウレタン分散液はそれと同程度に凝固するのに5分以上要することが直ちに明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】布地に水性ポリウレタン分散液を含浸し、10重量%硝酸カルシウム水溶液を用いることにより5秒後に凝固した、本発明の合成皮革のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【図2】10重量%塩化ナトリウム水溶液を用いることによりポリウレタン分散液を5分間凝固させた、本発明の合成皮革のSEM顕微鏡写真を示す図である。
【図3】塩化ナトリウム水溶液と酢酸水溶液を用いることによりポリウレタン分散液を5秒間凝固させた、本発明の合成皮革のSEM顕微鏡写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)不織布又は織布に、非イオン化性ポリウレタンと外部安定化界面活性剤を含むポリウレタン分散液を含浸するステップと、
(b)含浸した布地を、前記分散液を凝固させるのに十分な凝固時間、凝固剤を含有する水に曝すステップと
を含む、含浸布地合成皮革を製造するための方法。
【請求項2】
前記方法を2000重量ppm未満の有機溶媒を含む雰囲気で実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法を本質的に有機溶媒の存在なしで実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記凝固剤が多価カチオン中性塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記凝固剤がアルカリ土類カチオン塩である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記凝固剤が硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム及び硝酸バリウム又はその混合物である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリウレタン分散液が非ポリウレタンポリマー粒子を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記凝固時間が最大で2分である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記凝固時間が最大で1分である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記凝固時間が最大で30秒である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップ(b)後に前記含浸布地を水に曝すことによって、前記含浸布地をこし出すステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリウレタン分散液が増粘剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記増粘剤がイオン化しない水溶性増粘剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記増粘剤がメチルセルロースエーテルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(b)後に、起泡したポリマー系分散液を適用して、多孔質層をその上に有する合成皮革を形成するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記起泡したポリマー系分散液が、水性外部安定化ポリウレタン分散液である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記多孔質層を十分に加熱して前記多孔質層を乾燥し硬化させ、次いで水中にこし出す、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(a)ポリマーを含浸した布地上に、起泡した水性ポリウレタン分散液を適用するステップであって、前記水性ポリウレタン分散液が外部安定化界面活性剤を有する上記ステップと、次いで
(b)ステップ(a)の生成物を乾燥し硬化させるのに十分な温度に加熱して、多孔質層を有する合成皮革を形成するステップと
を含む、多孔質層をその上に有する合成皮革を製造するための方法。
【請求項19】
前記起泡した水性ポリウレタンが芳香族ポリイソシアナート製である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記芳香族ポリイソシアナートが2,2’−ジフェニル−メタンジイソシアナート、4,4’ジフェニル−メタンジイソシアナート、2,4’ジフェニル−メタンジイソシアナート又はその混合物である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記起泡したポリウレタン分散液が機械的に起泡されている、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
ステップ(b)の前記合成皮革を、本質的に有機溶媒を含まない水を用いて、外部安定化界面活性剤の少なくとも10重量%を除去するのに十分な時間こし出す、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
ステップ(b)の前記合成皮革を、前記外部安定化界面活性剤の少なくとも50%を除去するのに十分な時間こし出す、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ステップ(b)の前記合成皮革を、前記外部安定化界面活性剤の少なくとも70%を除去するのに十分な時間こし出す、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記外部安定化界面活性剤が、アニオン性界面活性剤と両性界面活性剤の混合物である、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
前記両性界面活性剤がベタインである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
本質的に有機溶媒の存在なしで実施する、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
複数の繊維を有する布地を含む合成皮革であって、前記布地がその中にポリウレタンと多価カチオンの実質的に水不溶性の有機酸の塩とを有する上記合成皮革。
【請求項29】
前記有機酸が酪酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、ステアリン酸、リノレン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸又はその混合物である、請求項28に記載の合成皮革。
【請求項30】
前記水不溶性塩の多価カチオンがアルカリ土類である、請求項28に記載の合成皮革。
【請求項31】
前記多価カチオンがカルシウムである、請求項30に記載の合成皮革。
【請求項32】
前記布地がその上に透過性ポリマー多孔質層を有する、請求項28に記載の合成皮革。
【請求項33】
前記多孔質層がポリウレタンである、請求項32に記載の合成皮革。
【請求項34】
前記多孔質層のポリウレタンが、本質的にいかなる有機溶媒もない水性外部安定化ポリウレタンからできる、請求項33に記載の合成皮革。
【請求項35】
多孔質セル状皮膜が、数値で300平方ミクロン〜25000平方ミクロンの平均サイズの均一な球形細孔を有する、請求項32に記載の合成皮革。
【請求項36】
その上にポリウレタンを含む多孔質層を有する布地を含む合成皮革であって、前記合成皮革が少なくとも痕跡量から最大で前記多孔質層の4重量%の量の界面活性剤を有し、かつ少なくとも1.5kg/cmの湿潤層間密着力を有する、合成皮革。
【請求項37】
前記界面活性剤の量が最大で前記多孔質層の2重量%である、請求項36に記載の合成層。
【請求項38】
前記多孔質層が、数値で300平方ミクロン〜25000平方ミクロンの平均サイズの均一な球形細孔を有する、請求項36に記載の合成皮革。
【請求項39】
前記合成皮革が少なくとも2.0kg/cmの湿潤層間密着力を有する、請求項36に記載の合成皮革。
【請求項40】
前記多孔質層ポリウレタンが外部安定化ポリウレタン分散液からできる、請求項38に記載の合成皮革。
【請求項41】
本質的に有機溶媒の存在しない雰囲気下で調製された、請求項36に記載の合成皮革。
【請求項42】
前記布地にポリマーを含浸した、請求項36に記載の合成皮革。
【請求項43】
前記ポリマーがポリウレタンであった、請求項42に記載の合成皮革。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−511727(P2006−511727A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564671(P2004−564671)
【出願日】平成15年6月27日(2003.6.27)
【国際出願番号】PCT/US2003/020084
【国際公開番号】WO2004/061198
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】