説明

合成繊維の製造方法、繊維処理剤および合成繊維の融着防止方法

【課題】 本発明の目的は、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止でき、優れた製糸性、加工性、生産性を有する高強度の合成繊維の製造方法、該合成繊維を製造する際に用いられる繊維処理剤および該処理剤を用いた合成繊維の融着防止方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、強度が18cN/dtex以上の合成繊維の製造方法であって、一般式(1)で示される化合物、一般式(2)で示される化合物および一般式(3)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を必須に含有する繊維処理剤を原料合成繊維に付与する工程(A)と、該繊維処理剤が付与された原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する工程(B)とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維の製造方法、繊維処理剤および合成繊維の融着防止方法に関するものである。更に詳しくは、高強度の合成繊維を製造する際に発生しやすい単繊維間の融着を防止できる合成繊維の製造方法、該合成繊維を製造する際に用いられる繊維処理剤および該処理剤を用いた合成繊維の融着防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、合成繊維に対する要求が高度化し、特に高強力や高弾性率を示す繊維への要求が高くなっている。この要求を満たすべく、原料合成繊維を高温下で熱延伸したり、長時間の熱処理を行ったりして、高強度の合成繊維(いわゆるスーパー繊維)が製造されている。
【0003】
高強力、高弾性率を得るため、高強度の合成繊維となる原料合成繊維に対して熱延伸、熱処理を行うと、繊維が軟化し単繊維間ではりつき、融着または膠着と称される問題が発生する。単繊維間で融着が発生すると、繊維の製糸性が悪化するばかりでなく、高強力、高弾性率の繊維が得られなくなり、近年の市場要求に対応できない。
【0004】
これらの問題を解決すべく、種々の無機微粒子を用いる方法が提案されている。例えば、融着性繊維に水和ゲル形成無機化合物を付与する方法(特許文献1)、タルク、アルミナ、グラファイト等の不活性無機粒子を表面処理する方法等(特許文献2)、合成繊維に無機粒子を付与して熱延伸、熱処理を行う方法が提案されている。しかしながら、これらの無機微粒子を用いた方法では、繊維に付与された無機微粒子が熱延伸または熱処理後に多量に残存するため、製糸工程を汚す。また、その無機微粒子の平滑性の欠如により繊維が損傷しやすく、得られた原糸は毛羽が多く見られ、品位が低下する。また、製糸工程や撚糸工程、製織工程等の後加工工程では、無機微粒子の脱落によりガイド摩耗やスカムが発生し、加工性が著しく低下する。
【0005】
これらの加工性の問題を解決すべく、水付与と空気噴射処理を施し、無機微粉末を除去する方法(特許文献3)、親水性無機微粉末を用いて熱処理後に除去する方法(特許文献4)、非融着性微粉末の残存量を限定する方法(特許文献5)等が提案されている。しかし、これらの方法では、後加工性を改善できるが、無機微粒子を除去する工程が必要となり、生産性が低下するばかりでなく、工程の増加により原糸損傷が増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−54021公報
【特許文献2】特開昭50−157619号公報
【特許文献3】特開昭62−149934号公報
【特許文献4】特開2005−23500号公報
【特許文献5】特開2005−15931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止でき、優れた製糸性、加工性、生産性を有する高強度の合成繊維の製造方法、該合成繊維を製造する際に用いられる繊維処理剤、および該処理剤を用いた合成繊維の融着防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の有機リン化合物を含有する繊維処理剤を用いれば、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止でき、優れた製糸性を有することを見出した。また、後工程でのスカム発生が無く、加工性に優れること、さらに該有機リン化合物を除去する必要がないので、生産性に優れ、原糸の損傷もないことを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の製造方法は、強度が18cN/dtex以上の合成繊維の製造方法であって、下記一般式(1)で示される化合物、下記一般式(2)で示される化合物および下記一般式(3)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を必須に含有する繊維処理剤を原料合成繊維に付与する工程(A)と、該繊維処理剤が付与された原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する工程(B)とを含むものである。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
(式(1)、(2)、(3)において、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基を示す。X、XおよびXは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびNRで示される基から選ばれる少なくとも1種を示す。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルカノール基又はポリオキシアルキレン基を示す。)
【0014】
前記工程(B)において、熱延伸および/または熱処理する温度が260℃以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の製造方法は、前記合成繊維が、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維および全芳香族コポリアミド繊維から選ばれる少なくとも1種である場合に好適である。
【0016】
前記合成繊維に対する前記有機リン化合物の付着量は、0.05〜10重量%であることが好ましい。
【0017】
本発明の繊維処理剤は、強度が18cN/dtex以上の合成繊維を製造する際に用いられる繊維処理剤であって、上記一般式(1)で示される化合物、上記一般式(2)で示される化合物および上記一般式(3)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を必須に含有するものである。
【0018】
本発明の繊維処理剤は、処理剤の不揮発分全体に占める前記有機リン化合物の重量割合が50〜100重量%であることが好ましい。
本発明の繊維処理剤は、溶媒を含有し、前記有機リン化合物が該溶媒に溶解した状態であることが好ましい。
【0019】
本発明の繊維処理剤は、前記合成繊維が、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維および全芳香族コポリアミドから選ばれる少なくとも1種である場合に好適である。
【0020】
本発明の合成繊維の融着防止方法は、強度が18cN/dtex以上の合成繊維を製造する際の単繊維間の融着を防止する方法であって、原料合成繊維にあらかじめ上記の繊維処理剤を付与した後に、該繊維を熱延伸および/または熱処理するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の合成繊維の製造方法は、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止でき、製糸性に優れる。また、後工程でのスカム発生が無く、加工性に優れる。さらに、上記の有機リン化合物を除去する必要がないので、生産性に優れ、原糸の損傷もない。
本発明の繊維処理剤は、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止でき、優れた製糸性、加工性、生産性を付与できる。
本発明の合成繊維の融着防止方法は、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の繊維処理剤は、高強度の合成繊維を製造する際に用いられる繊維処理剤であって、特定の有機リン化合物を必須に含有するものである。また、本発明の製造方法は、特定の有機リン化合物を必須に含有する繊維処理剤を用いた、高強度の合成繊維の製造方法である。以下、詳細に説明する。
【0023】
[有機リン化合物]
本発明で用いられる有機リン化合物は、リン原子と炭化水素基との結合を少なくとも1つ有するものであり、上記一般式(1)で示される化合物、上記一般式(2)で示される化合物および上記一般式(3)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種である。このような該有機リン化合物を熱延伸および/または熱処理する前に原料合成繊維に予め付与しておくにより、熱延伸および/または熱処理する際に発生する単繊維間の融着を防止でき、優れた製糸性を付与できる。また、後工程でのスカム発生の発生が無く、優れた加工性を付与できる。さらに、該有機リン化合物を除去する必要がないので、優れた生産性を付与でき、原糸への損傷もない。
【0024】
上記一般式(1)で示される有機リン化合物は、リン原子と炭化水素基との結合を1つ有するものであり、有機ホスホン酸、有機ホスホン酸塩、有機ホスホン酸モノエステル、有機ホスホン酸モノエステル塩および有機ホスホン酸ジエステルから選ばれる少なくとも1種である。
一般式(1)において、Rは、炭素数が2〜18の炭化水素基を示す。炭化水素基の炭素数が2未満の場合は、有機リン化合物を付与した繊維の摩擦が高くなり、毛羽の原因となる。一方、炭素数が18超の場合、融着を防止する効果が低く、また繊維に対する付与量を多くする必要があり、好ましくない。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。これらの中でも炭化水素基としては、溶解液の作成のしやすさ、入手のしやすさの点より、アルキル基、アルケニル基、アリール基が好ましい。
【0025】
アルキル基の炭素数は、2〜18が好ましく、4〜18がより好ましく、4〜12がさらに好ましい。このようなアルキル基としては、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ラウリル基、トリデシル基、イソトリデシル基、セチル基、イソセチル基、ステアリル基等が挙げられる。
また、アルケニル基の炭素数は、2〜18が好ましく、4〜18がより好ましく、8〜18がさらに好ましい。このようなアルケニル基としては、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、パルミトレイル基、オレイル基、リノレイル基等が挙げられる。
また、アリール基の炭素数は、6〜18が好ましく、6〜12がより好ましく、6がさらに好ましい。このようなアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
また、アラルキル基の炭素数は、7〜18が好ましく、7〜15がより好ましく、7〜13がさらに好ましい。このようなアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルブチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0026】
一般式(1)において、XおよびXは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびNRで示される基から選ばれる少なくとも1種を示す。
炭化水素基の炭素数が2未満の場合は、有機リン化合物を付与した繊維の摩擦が高くなり、毛羽の原因となることがある。一方、炭素数が18超の場合、融着を防止する効果が低く、また繊維に対する付与量を多く必要とすることがある。炭素数が2〜18の炭化水素基としては、Rのところで説明した炭素数2〜18の炭化水素基と同じものを挙げることができる。
アルカリ金属としては、たとえば、リチウム、ナトリウム、カリウム等を挙げることができる。本発明でいうアルカリ土類金属は、第2族元素全体を示す広義のアルカリ土類金属をいう。アルカリ土類金属としては、たとえば、マグネシウム、カルシウム、バリウム等を挙げることができる。
【0027】
NRで示される基のR、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルカノール基またはポリオキシアルキレン基を示す。
アルキル基の炭素数は、1〜18が好ましく、4〜18がより好ましく、4〜12がさらに好ましい。アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、オクチル基、ラウリル基、ステアリル基等が挙げられる。
アルカノール基の炭素数は、通常1〜8が好ましく、2〜4がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。アルカノール基としては、たとえば、メタノール基、エタノール基、n−プロパノール基、イソプロパノール基、ノルマルブタノール基、オクタノール基、等が挙げられる。
ポリオキシアルキレン基の炭素数は、2〜6が好ましく、2〜4がより好ましく、2〜3がさらに好ましい。ポリオキシアルキレン基としては、たとえば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等が挙げられる。
【0028】
およびXは、熱処理時の熱劣化による装置の汚れを抑制でき、繊維の毛羽を抑制できる点から、水素原子、ナトリウム、カリウム、マグネシウムが好ましく、水素、ナトリウム、カリウムがさらに好ましい。
【0029】
上記一般式(1)で示される有機リン化合物としては、モノブチルホスホン酸、モノヘキシルホスホン酸、モノオクチルホスホン酸、モノラウリルホスホン酸、モノステアリルホスホン酸、モノオレイルホスホン酸、モノフェニルホスホン酸、モノベンジルホスホン酸等の有機ホスホン酸;これら有機ホスホン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、ラウリルアミノエーテル塩等の有機ホスホン酸塩;モノブチルホスホン酸モノブチルエステル、モノブチルホスホン酸モノヘキシルエステル、モノブチルホスホン酸モノオクチルエステル、モノブチルホスホン酸モノラウリルエステル、モノブチルホスホン酸モノオレイルエステル、モノオクチルホスホン酸モノブチルエステル、モノオクチルホスホン酸モノヘキシルエステル、モノオクチルホスホン酸モノオクチルエステル、モノオクチルホスホン酸モノラウリルエステル、モノオクチルホスホン酸モノオレイルエステル、フェニルホスホン酸モノブチルエステル、フェニルホスホン酸モノヘキシルエステル、フェニルホスホン酸モノオクチルエステル、フェニルホスホン酸モノラウリルエステル等の有機ホスホン酸モノエステル;これら有機ホスホン酸モノエステルのカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、ラウリルアミノエーテル塩等の有機ホスホン酸モノエステル塩;モノブチルホスホン酸ジブチルエステル、モノブチルホスホン酸ジオクチルエステル、モノブチルホスホン酸ジラウリルエステル、モノオクチルホスホン酸ジブチルエステル、モノオクチルホスホン酸ジヘキシルエステル、モノオクチルホスホン酸ジオクチルエステル、モノオクチルホスホン酸ジラウリルエステル、フェニルホスホン酸ジブチルエステル、フェニルホスホン酸ジヘキシルエステル、フェニルホスホン酸ジオクチルエステル、フェニルホスホン酸ジラウリルエステル、フェニルホスホン酸ジフェニルエステル等の有機ホスホン酸ジエステル等が挙げられる。
【0030】
これらの上記一般式(1)で示される有機リン化合物のなかでも、有機リン化合物の溶解性の観点から、モノブチルホスホン酸、モノヘキシルホスホン酸、モノオクチルホスホン酸、モノラウリルホスホン酸、モノステアリルホスホン酸、モノオレイルホスホン酸、モノフェニルホスホン酸、モノベンジルホスホン酸等の有機ホスホン酸;これら有機ホスホン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、ラウリルアミノエーテル塩等の有機ホスホン酸塩;モノブチルホスホン酸モノブチルエステル、モノブチルホスホン酸モノヘキシルエステル、モノブチルホスホン酸モノオクチルエステル、モノブチルホスホン酸モノラウリルエステル、モノブチルホスホン酸モノオレイルエステル、モノオクチルホスホン酸モノブチルエステル、モノオクチルホスホン酸モノヘキシルエステル、モノオクチルホスホン酸モノオクチルエステル、モノオクチルホスホン酸モノラウリルエステル、モノオクチルホスホン酸モノオレイルエステル、フェニルホスホン酸モノブチルエステル、フェニルホスホン酸モノヘキシルエステル、フェニルホスホン酸モノオクチルエステル、フェニルホスホン酸モノラウリルエステル等の有機ホスホン酸モノエステル;これら有機ホスホン酸モノエステルのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、ラウリルアミノエーテル塩等の有機ホスホン酸モノエステル塩が好ましい。
さらには、モノブチルホスホン酸、モノヘキシルホスホン酸、モノオクチルホスホン酸、モノラウリルホスホン酸、モノステアリルホスホン酸、モノオレイルホスホン酸、モノフェニルホスホン酸、モノベンジルホスホン酸等の有機ホスホン酸;これら有機ホスホン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等の有機ホスホン酸塩;モノブチルホスホン酸モノブチルエステル、モノブチルホスホン酸モノヘキシルエステル、モノブチルホスホン酸モノオクチルエステル、モノブチルホスホン酸モノラウリルエステル、モノブチルホスホン酸モノオレイルエステル、モノオクチルホスホン酸モノブチルエステル、モノオクチルホスホン酸モノヘキシルエステル、モノオクチルホスホン酸モノオクチルエステル、モノオクチルホスホン酸モノラウリルエステル、モノオクチルホスホン酸モノオレイルエステル、フェニルホスホン酸モノブチルエステル、フェニルホスホン酸モノヘキシルエステル、フェニルホスホン酸モノオクチルエステル、フェニルホスホン酸モノラウリルエステル等の有機ホスホン酸モノエステル;これら有機ホスホン酸モノエステルのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等の有機ホスホン酸モノエステル塩が好ましい。
【0031】
上記一般式(2)で示される有機リン化合物は、リン原子と炭化水素基との結合を2つ有するものであり、有機ホスフィン酸、有機ホスフィン酸塩および有機ホスフィン酸モノエステルから選ばれる少なくとも1種である。
一般式(2)において、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基を示す。炭化水素基の炭素数が2未満の場合は、有機リン化合物を付与した繊維の摩擦が高くなり、毛羽の原因となる。一方、炭素数が18超の場合、融着を防止する効果が低く、また繊維に対する付与量を多くする必要があり、好ましくない。RおよびRとしては、それぞれ独立して、Rで説明した炭素数が2〜18の炭化水素基と同じものを挙げることができる。
【0032】
一般式(2)において、Xは、炭素数が2〜18の炭化水素基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびNRで示される基から選ばれる少なくとも1種を示す。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルカノール基又はポリオキシアルキレン基を示す。Xとしては、XおよびXで説明したものと同じものを挙げることができる。
【0033】
上記一般式(2)で示される有機リン化合物としては、ジブチルホスフィン酸、ジヘキシルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、ジラウリルホスフィン酸、ジステアリルホスフィン酸、ジオレイルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジベンジルホスフィン酸等の有機ホスフィン酸;これら有機ホスフィン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、ラウリルアミノエーテル塩等の有機ホスフィン酸塩;ジブチルホスフィン酸モノブチルエステル、ジブチルホスフィン酸モノオクチルエステル、ジオクチルホスフィン酸モノブチルエステル、ジオクチルホスフィン酸モノオクチルエステル、ジラウリルホスフィン酸モノブチルエステル、ジラウリルホスフィン酸モノオクチルエステル等の有機ホスフィン酸モノエステル等が挙げられる。
【0034】
これらの上記一般式(2)で示される有機リン化合物のなかでも、有機リン化合物の溶解性の観点から、ジブチルホスフィン酸、ジヘキシルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、ジラウリルホスフィン酸、ジステアリルホスフィン酸、ジオレイルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジベンジルホスフィン酸等の有機ホスフィン酸;これら有機ホスフィン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、ジエタノールアミン塩、ラウリルアミノエーテル塩等の有機ホスフィン酸塩が好ましい。
さらには、ジブチルホスフィン酸、ジヘキシルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、ジラウリルホスフィン酸、ジステアリルホスフィン酸、ジオレイルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジベンジルホスフィン酸等の有機ホスフィン酸;これら有機ホスフィン酸のカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩等の有機ホスフィン酸塩が好ましい。
【0035】
上記一般式(3)で示される有機リン化合物は、リン原子と炭化水素基との結合を3つ有する第三級ホスフィンオキシドである。
一般式(3)において、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基を示す。炭化水素基の炭素数が2未満の場合は、有機リン化合物を付与した繊維の摩擦が高くなり、毛羽の原因となる。一方、炭素数が18超の場合、融着を防止する効果が低く、また繊維に対する付与量を多くする必要があり、好ましくない。R、RおよびRとしては、それぞれ独立して、Rで説明した炭素数が2〜18の炭化水素基と同じものを挙げることができる。
【0036】
上記一般式(3)で示される有機リン化合物としては、トリブチルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリラウリルホスフィンオキシド、トリステアリルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等が挙げられる。これらのなかでも、トリオクチルホスフィンオキシド、トリラウリルホスフィンオキシドがさらに好ましい。
【0037】
また、本発明で用いられる有機リン化合物は、水、有機溶剤等で希釈し原料合成繊維に付与されるが、取扱い性の観点より水溶液で使用することが好ましい。このような点より、上記一般式(1)で示される化合物、上記一般式(2)で示される化合物、上記一般式(3)で示される化合物の中でも、上記一般式(1)で示される化合物、上記一般式(2)で示される化合物が好ましく、上記一般式(1)で示される化合物がさらに好ましい。
【0038】
上記一般式(1)で示される化合物、上記一般式(2)で示される化合物、上記一般式(3)で示される化合物の製造方法については、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。また、これら有機リン化合物の多くは市販されており、本発明はそれらを使用できる。
【0039】
[繊維処理剤]
本発明の繊維処理剤は、強度が18cN/dtex以上の合成繊維(以下、高強度繊維ということがある)を製造する際に用いられる処理剤である。このような高強度繊維を製造するためには、通常熱延伸および/または熱処理する必要があるが、その際に発生しやすい単繊維間の融着を防止するために、本発明の繊維処理剤を用いることができる。高強度繊維については、合成繊維の製造方法で後述する。
本発明の繊維処理剤は、上記の有機リン化合物を必須に含有するものである。処理剤の不揮発分全体に占める該有機リン化合物の重量割合は、40重量%以上が好ましく、60重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。重量割合が40重量%未満の場合、融着防止性が低下する。また、同時に用いた該有機リン化合物以外の成分の熱劣化により装置の汚れが発生し、生産性が低下することがある。なお、本発明における不揮発分とは、処理剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
【0040】
処理剤に含まれる溶媒としては、水、低粘度鉱物油、及びエタノール、イソプロピルアルコール、ペンタノール、トルエンといった有機溶剤等が挙げられる。優れた融着防止性を得るためには、処理剤を単繊維間に十分に浸透させ、繊維表面に均一に付着させる必要がある。均一に付与する点、利便性の点より、処理剤は水系であることが好ましい。つまり、溶媒として水を必須に含有することが好ましい。
【0041】
本発明の繊維処理剤は、前述したように原料合成繊維に均一に付与する点から、上記の有機リン化合物が溶媒に溶解した状態が好ましく、有機リン化合物が水に溶解した状態がさらに好ましい。なお、溶解した状態とは、液体(溶媒)に有機リン化合物が均一に混合した状態をいい、24時間室温で静置し、分離や沈降物が発生しない状態をいう。
【0042】
本発明の繊維処理剤は、有機リン化合物を単独で水に溶解させてもよいが、水溶性を補助する目的で乳化剤等を併用してもよい。乳化剤を使用する場合の処理剤の不揮発分全体に占める乳化剤の重量割合は、2〜60重量%が好ましく、5〜55重量%がより好ましく、10〜50重量%がさらに好ましい。重量割合が2重量%未満の場合、安定な溶解液が得られないことがある。一方、60重量%超の場合、工程(B)において、乳化剤の熱劣化による装置の汚れが発生し、生産性が低下することがある。なお、乳化剤を使用する場合の処理剤の不揮発分全体に占める有機リン化合物の重量割合は、40〜98重量%が好ましく、50〜95重量%がより好ましく、60〜90重量%がさらに好ましい。
【0043】
乳化剤としては、特に限定はないが、例えば、POE(5モル付加)オクチルエーテル、POE(5モル付加)ラウリルエーテル、POE(9モル付加)ラウリルエーテル、POE(8モル付加)オレイルエーテル、POE(10モル付加)ステアリルエーテル、POE(9モル付加)ノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;POE(10モル付加)ひまし油エーテル、POE(10モル付加)水添ひまし油エーテル、POE(20モル付加)水添ひまし油エーテル、POE(20モル付加)水添ひまし油エーテルトリオレエート、POE(20モル付加)水添ひまし油エーテルモノラウレート等のひまし油誘導体;POE(20モル付加)ソルビタンエーテルモノラウレート、POE(20モル付加)ソルビタンエーテルトリラウレート、POE(20モル付加)ソルビタンエーテルモノオレエート、POE(20モル付加)ソルビタンエーテルトリオレエート等のソルビタン誘導体;POE(15モル付加)エーテル、ポリエチレングリコールモノオレエート、ポリエチレングリコールジラウレート等の多価アルコール誘導体等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の繊維処理剤は、他の特性を待たせるために、本発明の効果を阻害しない範囲で、制電剤、集束剤、防腐剤、防錆剤等の他の成分を含んでもよい。
【0045】
本発明の繊維処理剤は、不揮発分のみからなる前述の成分で構成されていてもよく、不揮発分を水や低粘度鉱物油で希釈したものでもよく、乳化剤を用いて水中に不揮発分を乳化した水系エマルジョンであってもよい。繊維処理剤を工場等へ移送する場合の繊維処理剤に占める不揮発分の重量割合は、輸送コストや処理剤の安定性の点から、30〜100重量%が好ましい。原料合成繊維に付与する場合の繊維処理剤に占める不揮発分の重量割合は、0.01〜20重量%が好ましく、0.1〜15重量%がさらに好ましい。
【0046】
本発明の繊維処理剤の製造方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。例えば、未中和の上記有機リン化合物を中和した水溶液の場合、所定量のアルカリを溶解した水溶液に徐々に有機リン化合物を投入して中和し、水溶液を調製することができる。上記有機リン化合物を乳化した水溶液(乳化液)の場合、乳化剤とあらかじめ混合された上記有機リン化合物を攪拌下の軟水中に徐々に投入して、乳化液を調製することができる。この場合必要に応じて軟水を加温しておいてもよい。有機溶剤で希釈して使用する場合は、有機溶剤中に該有機リン化合物を徐々に添加して作成することができる。
【0047】
[合成繊維の製造方法]
本発明の製造方法は、強度が18cN/dtex以上となる合成繊維(高強度繊維)を対象とした製造方法であって、本発明の繊維処理剤を原料合成繊維に付与する工程(A)と、該繊維処理剤が付与された原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する工程(B)とを含む。前述したように、高強度繊維を製造するためには、通常熱延伸および/または熱処理する必要があるが、本発明は、その際に発生しやすい単繊維間の融着を防止して、高強度繊維を製造できるものである。
本発明の繊維処理剤や製造方法においては、本発明の効果をより発揮できる観点から、以下のような強度、弾性率を有する高強度繊維の場合に好適である。強度、弾性率の測定方法については、実施例で記載した方法を用いることができる。
高強度繊維の強度としては、18cN/dtex以上であり、18〜60cN/dtexがより好適であり、19〜40cN/dtexがさらに好適である。高強度繊維の弾性率としては、450cN/dtex以上が好適であり、450〜2000cN/dtexがより好適であり、500〜1000cN/dtexがさらに好適である。
【0048】
(原料)合成繊維としては、熱処理および/熱延伸したときに高強度を発現し、その際に融着が発生するような合成繊維である。このような(原料)合成繊維としては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸・2,6−ヒドロキシナフトエ酸共重合繊維等の全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維等の全芳香族ポリアミド繊維、コポリパラフェニレン・3,4−オキシジフェニレンアミド繊維等の全芳香族コポリアミド繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、ポリエチレン繊維、ポリオレフィンケトン繊維等を挙げることができる。これらの中でも、260℃以上で熱処理および/または熱延伸が行われる、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族コポリアミド繊維、ポリオレフィンケトン繊維が好ましく、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族コポリアミド繊維がさらに好ましい。
【0049】
上記の原料合成繊維自体は公知なものである。例えば、特開2004−107826号公報に挙げられている。なお、ここでいう原料合成繊維とは、熱処理および/熱延伸が可能なフィラメントをいう。原料合成繊維を製造する方法(紡糸する方法)としては、特に限定はなく、公知の技術・手法を採用できる。例えば、液晶紡糸、乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸、溶融紡糸、ゲル紡糸等の方法を挙げることができる。通常、全芳香族ポリエステル原料合成繊維や全芳香族ポリアミド原料繊維は液晶紡糸によって得られ、全芳香族コポリアミド原料繊維は半乾半湿式紡糸によって得られ、ポリエチレン原料繊維はゲル紡糸半乾半湿式紡糸によって得られる。
【0050】
工程(A)は、本発明の繊維処理剤を原料合成繊維に付与する工程であり、高強度発現のための熱延伸および/または熱処理する工程(B)より前に、上記の有機リン化合物を原料合成繊維に付与するものである。つまり、融着防止性の効果を付与するために、融着が発生する工程(B)の通過前に上記の有機リン化合物を付与するものである。
【0051】
原料合成繊維に有機リン化合物を付与する方法としては、特に限定は無く、公知の方法を採用できる。例えば、上記の有機リン化合物を含む処理液(繊維処理剤)に原料合成繊維をディップさせた後に乾燥する方法、該処理液をガイドにより原料合成繊維に定量付与する方法、該処理液をローラーにより原料合成繊維に付与する方法、該処理液をスプレーにより原料合成繊維に付与する方法等を挙げることができる。これらの中でも、有機リン化合物を均一に付与できる観点から、該処理液に原料合成繊維をディップさせた後に乾燥する方法、ガイドにより原料合成繊維に定量付与する方法、該処理液をローラーにより原料合成繊維に付与する方法が好ましい。また有機リン化合物を原料合成繊維により均一に付与するために、処理液を希釈して付与してもよい。その場合の不揮発分の重量割合は前述した通りである。
【0052】
合成繊維に対する上記の有機リン化合物の付着量は、0.05〜10重量%が好ましく、0.1〜5重量%がより好ましく、0.1〜3重量%がさらに好ましい。付与量が0.05%未満の場合、高温下での熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を十分に抑える事が困難となるおそれがある。一方、付与量が10.0重量%を超える場合、糸切れ、毛羽、糸道汚れの原因となるおそれがある。
【0053】
工程(B)は、本発明の繊維処理剤が付与された原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する工程(B)である。一般的に、高強度繊維は、高温下で、原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理して、該繊維の強度および弾性率を向上させて得られる。工程(B)は、そのような繊維の強度および弾性率を向上させるための工程である。工程(B)のように、原料合成繊維に有機リン化合物が付与された状態で、熱延伸および/または熱処理することにより、熱延伸および/または熱処理する際の単繊維間の融着を防止でき、製糸性に優れる。また、熱延伸および/または熱処理された繊維上に有機リン化合物は残存しているが、後工程でのスカム発生の原因とならないので、加工性に優れる。さらに、有機リン化合物を除去する必要がないので、原糸を損傷させることもない。
【0054】
原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する方法としては、特に限定はなく、公知の手法を採用できる。全芳香族ポリエステル繊維の場合、一般には熱処理する方法が取られる。例えば、紡糸されて一旦巻き取られた全芳香族ポリエステル原料繊維を所定温度で所定時間、静置して熱処理する方法等を挙げることができる。
全芳香族コポリアミド繊維やポリエチレン繊維等は、一般には熱延伸する方法が取られる。例えば、紡糸後に又は紡糸されて一旦巻き取られた後に、所定温度の雰囲気下または加温された複数のローラーを用いて、ローラーに接触または巻きつけることにより繊維を把持し、ローラーの速度差を利用して、徐々にかつ連続的に延伸する方法等を挙げることができる。
【0055】
熱延伸および/または熱処理する温度は、より高強度の繊維を得る理由から、260℃以上が好ましく、270〜700℃がより好ましく、280〜700℃がさらに好ましい。該温度が260℃未満の場合、目的の強度が得られないか、融着が発生しないことがある。
熱延伸および/または熱処理する時間は、原料繊維によって違いがあり、特に限定はない。例えば、全芳香族ポリエステル繊維の場合では、280℃以上で10時間以上の熱処理であり、全芳香族コポリアミド繊維の場合では、350℃以上で数秒の熱延伸が行われる。
【0056】
本発明の製造方法で得られる高強度繊維の用途としては、特に限定されていないが、フィラメント間の膠着が防止されていることより、タイヤコード、セメント補強材、樹脂補強材等の補強用途、複合材料用途、衣料材料用途等に特に適している。
【0057】
[合成繊維の融着防止方法]
本発明は、強度が18cN/dtex以上の合成繊維を製造する際の単繊維間の融着を防止する方法であって、原料合成繊維にあらかじめ本発明の繊維処理剤を付与した後に、該繊維を熱延伸および/または熱処理する、合成繊維の融着防止方法ということもできる。(原料)合成繊維、繊維処理剤、該処理剤を付与すること、熱延伸および/または熱処理すること等は、前述した通りである。
【実施例】
【0058】
以下、実施例と比較例をもとに、本発明の内容及び効果について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。文中および表中の%や比率は、特に指定しない限り、重量%、重量比を意味する。なお、実施例中における各物性値は下記の方法で測定した。
【0059】
[繊維処理剤の付着量]
繊維処理剤が付与された合成繊維20gを採取し、105℃の熱風乾燥機内に60分放置した後の質量(S)を電子天秤で測定し、ソックスレー抽出器に入れた。次にメタノール約100gを加えて、約4時間加熱環流した後、メタノールを回収し、抽出分の絶乾重量(M)を測定し、次式から残留油分量を求め、付着量とした。
残留油分量(重量%)=M/S×100
【0060】
[合成繊維の強度]
合成繊維の強度(cN/dtex)はJIS−L−1013に準じて測定した。
つかみ間隔:20cm
引張速度:1分当たりつかみ間隔の100%
引っ張り試験機:
【0061】
[合成繊維の弾性率]
合成繊維の弾性率(cN/dtex)はJIS−L−1013に準じて測定した。
【0062】
[融着防止性]
試料繊維のフィラメント総数(A)のうち、融着が無く1本ずつ分離可能なフィラメント数(n)を数え、下式で融着度を求める。
融着度(%) = {(A−n)/A}×100
融着度が10%以下の場合を良好○とし、10%を超えた場合を不良×とした。
【0063】
[糸道汚れ]
繊維処理剤が付与された後に、繊維が接触するガイドに蓄積するスカム(ガイドを洗浄した後に、該繊維を24時間紡糸した後のガイドの汚れ状態)を目視で確認した。他量のスカム又は粘着物が認められた場合を不良×、スカムおよび粘着物が認められないか僅かであり、かつ毛羽が発生しなければ良好○とした。
【0064】
[毛羽]
ワインダーにおいてチーズ状に巻き取った、熱延伸および/または熱処理後の合成繊維5kgのチーズ表面及び側面を目視で観察し、毛羽の数を測定した。5個以下の場合を良好○とし、5個を超えた場合を不良×とした。
【0065】
[処理剤の安定性]
繊維処理剤を24時間室温で静置し、分離や沈降物が発生しない場合を良好○、処理剤の一部またはすべてが沈降、浮遊、またはその両方が認められたものを不良×とした。
【0066】
(実施例1)
表1にあるように、モノオクチルホスホン酸カリウム塩/ペンタノール=90/10(重量比)からなる処理剤成分を、処理剤全体に占めるこれら成分の合計の重量割合(表1では付与濃度と記載)が10重量%となるよう所定量の軟水に徐々に投入し、60分間、撹拌均一化して、水溶液である繊維処理剤を調製した。
次いで、パラヒドロキシ安息香酸と2,6−ヒドロキシナフトエ酸を共重合して得られたポリマーを液晶紡糸し、得られた原料合成繊維に対して、上記で調製した繊維処理剤をガイド給油により付与し、ワインダーによりチーズ状に一旦巻き取った。このときの該繊維に対する繊維処理剤の不揮発分の付着量は、0.7重量%であった。
次いで、チーズ状に巻き取られた合成繊維を280〜330℃のオーブン中で24時間熱処理することで、高強度の合成繊維を得た。処理剤の付着量、合成繊維の強度、弾性率、融着防止性、糸道汚れ、毛羽、処理剤の安定性については、上述の方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0067】
(実施例2〜11)
実施例1において、表1に示す処理剤組成、処理剤付与条件(付与濃度、給油方法、付与量)を変更する以外は実施例1と同様にして、評価した。その結果を表1に示す。
【0068】
(実施例12)
表1にあるように、トリベンジルホスフィンオキシドを、処理剤全体に占めるこれら成分の合計の重量割合(表1では付与濃度と記載)が10重量%となるよう、溶剤イソプロパノールに溶解させて、繊維処理剤を調製した。
得られた繊維処理剤および表1に示す処理剤付与条件(付与濃度、給油方法、付与量)を変更する以外は実施例1と同様にして、評価した。その結果を表1に示す。
【0069】
(実施例13)
表1にあるように、モノオクチルホスホン酸カリウム塩/エタノール=90/10(重量比)からなる処理剤成分を、処理剤全体に占めるこれら成分の合計の重量割合(表1では付与濃度と記載)が1重量%となるよう所定量の軟水に徐々に投入し、60分間、撹拌均一化して、水溶液である繊維処理剤を調製した。
次いで、パラフェニレンジアミンと3,4‐ジアミノジフェニルエーテルとテレフタル酸クロリドを共重合して得られたコポリパラフェニレン・3,4−オキシジフェニレンアミド共重合物を半乾半湿式紡糸し、得られた原料合成繊維に対して、上記で調製した繊維処理剤をディップ給油により付与した。このときの該繊維に対する繊維処理剤の不揮発分の付着量は、0.7重量%であった。
引き続き、繊維処理剤が付与された合成繊維を530℃で10倍に延伸し、高強度の合成繊維を得た。処理剤の付着量、合成繊維の強度、弾性率、融着防止性、糸道汚れ、毛羽、処理剤の安定性については、上述の方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0070】
(比較例1〜11)
実施例1において、表1に示す処理剤組成、処理剤付与条件(付与濃度、給油方法、付与量)を変更する以外は実施例1と同様にして、評価した。その結果を表2に示す。なお、比較例1は処理剤を使用しなかった場合である。比較例3は、処理剤として珪酸マグネシウム5重量%の水分散液を使用した場合である。比較例5は、処理剤として鉱物油(粘度100mm/秒)100重量%を使用した場合である。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
実施例1〜13で得られた合成繊維は、その強度が18cN/dtex以上であり、高強度を有するものであった。また、比較例で得られた合成繊維と比べ、融着が防止され、非常に柔軟であり、毛羽が観察されず、非常に品質の高いものが得られた。さらに、処理剤を付与した後のガイド等にスカムの発生は認められず、糸道汚れは発生しなかった。
一方、比較例1〜11(比較例4を除く)では、得られた合成繊維において、非常に多くの融着が発生しており、原糸が剛直であった。比較例1〜4では、得られた合成繊維において、毛羽が多く観察され、品位の劣るものであった。比較例2〜5、9では、処理剤を付与した後の繊維が接触するガイド等に多量のスカムが付着し、頻繁な洗浄が必要となり、生産性が低下した。比較例3では、処理剤の安定性が悪く、珪酸マグネシウムの沈降が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強度が18cN/dtex以上の合成繊維の製造方法であって、
下記一般式(1)で示される化合物、下記一般式(2)で示される化合物および下記一般式(3)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を必須に含有する繊維処理剤を原料合成繊維に付与する工程(A)と、該繊維処理剤が付与された原料合成繊維を熱延伸および/または熱処理する工程(B)とを含む、合成繊維の製造方法。
【化1】

【化2】

【化3】

(式(1)、(2)、(3)において、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基を示す。X、XおよびXは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびNRで示される基から選ばれる少なくとも1種を示す。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルカノール基又はポリオキシアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記工程(B)において、熱延伸および/または熱処理する温度が260℃以上である、請求項1に記載の合成繊維の製造方法。
【請求項3】
前記合成繊維が、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維および全芳香族コポリアミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の合成繊維の製造方法。
【請求項4】
前記合成繊維に対する前記有機リン化合物の付着量が0.05〜10重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の合成繊維の製造方法。
【請求項5】
強度が18cN/dtex以上の合成繊維を製造する際に用いられる繊維処理剤であって、
下記一般式(1)で示される化合物、下記一般式(2)で示される化合物および下記一般式(3)で示される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機リン化合物を必須に含有する、繊維処理剤。
【化4】

【化5】

【化6】

(式(1)、(2)、(3)において、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基を示す。X、XおよびXは、それぞれ独立して、炭素数が2〜18の炭化水素基、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属およびNRで示される基から選ばれる少なくとも1種を示す。R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルカノール基又はポリオキシアルキレン基を示す。)
【請求項6】
処理剤の不揮発分全体に占める前記有機リン化合物の重量割合が50〜100重量%である、請求項5に記載の繊維処理剤。
【請求項7】
前記合成繊維が、全芳香族ポリエステル繊維、全芳香族ポリアミド繊維および全芳香族コポリアミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項5または6に記載の繊維処理剤。
【請求項8】
溶媒を含有し、前記有機リン化合物が該溶媒に溶解した状態である、請求項5〜7のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項9】
強度が18cN/dtex以上の合成繊維を製造する際の単繊維間の融着を防止する方法であって、
原料合成繊維にあらかじめ請求項5〜8のいずれかに記載の繊維処理剤を付与した後に、該繊維を熱延伸および/または熱処理する、合成繊維の融着防止方法。

【公開番号】特開2012−188776(P2012−188776A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52446(P2011−52446)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】