説明

合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法および製造装置

【課題】吐出線状ポリマーの全数に対して、均斉に効率よく冷却するのに顕著な効果を発揮するマルチフィラメント糸の製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】以下の(A)〜(D)から成る合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。(A)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出すること。(B)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却すること。(C)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引すること。(D)冷却された線状ポリマーを引取ること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維マルチフィラメント糸を溶融紡糸装置により紡糸するに際しては、溶融紡糸口金から吐出された線状ポリマーを冷却し、油剤付与、延伸などの必要な処理をして引き取る。
【0003】
一般に、この冷却は、溶融紡糸口金の直下において、所定温度の空気流を線状ポリマーに吹き付けることにより行われ、従来の一般的な冷却は、溶融紡糸口金から吐出された線状ポリマー群の周囲から冷却風を吹き付けるという手法がとられ、空気流の安定化や紡糸口金ごとの環境の独立のため、紡糸筒と呼ばれる円筒状の通路内で行われている。
【0004】
この冷却手法は、得られる合成繊維マルチフィラメント糸の物性・糸質を左右する大きな要素となるので、溶融紡糸の著しい高速化や、より多くのフィラメント本数のマルチフィラメント化、異形断面化、極細繊維化などの技術進展に伴い、技術検討が行われてきている(特許文献1、特許文献2)。このような従来の技術検討の中心は、均質な安定した効率の良い冷却の実現であり、紡糸筒の構造や口金の吐出口の配置・配列など、多方面からの検討が現在もなされている。
【0005】
このような中で、紡糸口金上で紡糸孔を環状に配置して構成し、環状をなして吐出されたフィラメント群の中心側から外周側に向けて冷却風を吹き付けて冷却を行うという手法が提案されている(特許文献3−6)。この手法は、外周側から中心部側に向けて冷却風を吹き付ける手法よりも、1本1本のフィラメントに対して確実に冷却風を当てることができる可能性がより大きく秘められていると考えられるものである。すなわち、中心側から外周側に向けて冷却風を送った方が、フィラメント群を広げる方向なのでフィラメントどおしの重なり合いもなく、その逆の場合よりも確実で均一な冷却が可能と考えられるのである。
【0006】
特に、極細繊維化されたフィラメントの群の場合には、一般にフィラメント本数も多くなり、また、1本1本のフィラメントの横断面積も小さいので、より瞬時に冷却され得ることにもなるので、より一層の確実かつ均斉な冷却作用を全フィラメントに瞬時に与えて、均一な冷却を実現することが望まれるのである。例えば、特許文献3には、紡糸孔の開口個数密度を40ホール/cm2 まででき、単繊維繊度が0.8デシテックス以下という極細フィラメント糸の冷却に関し、紡糸口金と冷却ユニットとの間の距離の求め方についての提案がされている。
【0007】
図4は、このように、紡糸口金上で紡糸孔を環状に配置して構成し、環状をなして吐出されたフィラメント群の中心側から外周側に向けて冷却風を吹き付けて冷却を行う、従来の方式の概略モデルを示した側面概略モデル図である。
【0008】
同図において、1は溶融紡糸機、2は溶融紡糸口金、3は線状ポリマー、4は冷却吹出し空気の供給口、5は冷却空気吹き出し部材、6は給油ガイドまたはガイド、7は給油ガイド、オイリングロールまたは集束ガイドである。
【0009】
図4からわかるように、この方式では、鍔状の構造を有する6の給油ガイドまたはガイドを用いることにより糸道がしっかりと固定され、線状ポリマーが、冷却風の作用を受けて重なり合うことや揺動することも少なく、外周側から中心部側に向けて冷却風を吹き出す方式よりも、より安定した効率の良い冷却が可能なものである。
【0010】
すなわち、外周側から中心部側に向けて冷却風を吹き付ける方式では、糸道の固定部材が一般的に存在しないので、線状ポリマーが重なり合ったり揺動したりすることがあり、正確で効率良い冷却ができない場合もあった。
【特許文献1】特開平5−195307号公報
【特許文献2】特開平7−278940号公報
【特許文献3】特公平7−18047号公報
【特許文献4】特開平6−158414号公報
【特許文献5】特開平11−350238号公報
【特許文献6】特開2004−84134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上述したような中心側から外周側に向けて冷却風を送り冷却を行う溶融紡糸機の態様において、線状ポリマーの全数に対して、より均斉に効率よく冷却するのに顕著な効果を発揮する合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法と製造装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成する本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法は、以下の(1) の構成からなるものである。
(1)以下の(A)〜(D)を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸することを特徴とする合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
(A)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出すること。
(B)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却すること。
(C)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引すること。
(D)冷却された線状ポリマーを引取ること。
【0013】
さらに、かかる本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法において、より好ましくは、以下の(2) 〜(6) の具体的構成を有するものである。
(2)冷却された線状ポリマーを引取る工程が、引取り速度2000m/分〜6000m/分であることを特徴とする上記(1) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
(3)線状ポリマーの本数が、100本以上500本以下であることを特徴とする上記(1) または(2) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
(4)線状ポリマーの走行方向における、冷却風の吹付け域長さと吸引機構の吸引域長さとが実質的に等しいものであることを特徴とする上記(1) 、(2) または(3) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
(5)合成繊維マルチフィラメント糸が、単繊維繊度1.1dtex以下のフィラメントからなることを特徴とする上記(1) 、(2) 、(3) または(4) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
(6)冷却風の吹き付けが、設定温度15〜25℃の空気流を、冷却部長さ200〜1000mm、流速15〜60m/分で吹き出すことにより行うものであることを特徴とする上記(1) 、(2) 、(3) 、(4) または(5) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
【0014】
また、上述した目的を達成する本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置は、以下の(7) の構成からなる。
(7)以下の(E)〜(H)の要素を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸するように構成されてなることを特徴とする合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
(E)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出する要素。
(F)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却する要素。
(G)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引する要素。
(H)冷却された線状ポリマーを引取る要素。
【0015】
さらに、かかる本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置において、より好ましくは、以下の(8) 〜(11) の具体的構成を有するものである。
(8)冷却された線状ポリマーを引取る工程が、引取り速度2000m/分〜6000m/分であることを特徴とする上記(7) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
(9)紡糸孔が、100個以上500個以下であることを特徴とする上記(7) または(8) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
(10)線状ポリマーの走行方向における、冷却風の吹付け域長さと吸引機構の吸引域長さとが実質的に等しいものであることを特徴とする上記(7) 、(8) または(9) 記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
(11)上記(7) 、(8) 、(9) または(10)記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置が、複数台、隣接して設けられ生産ラインをなしていることを特徴とする合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
【発明の効果】
【0016】
請求項1にかかる本発明によれば、中心側から外周側に向けて冷却風を送り冷却を行う溶融紡糸機の態様において、線状ポリマーの全数に対して、より均斉に効率よく冷却するのに顕著な効果を発揮する合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法が提供される。
【0017】
請求項6にかかる発明によれば、中心側から外周側に向けて冷却風を送り冷却を行う溶融紡糸機の態様において、線状ポリマーの全数に対して、より均斉に効率よく冷却するのに顕著な効果を発揮する合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置が提供される。
【0018】
本発明によれば、口金から吐出される線状ポリマーの全数に対して、より均斉に効率よく冷却することができるので、高速の紡糸速度で、かつ、1.1デシテックス以下などの極細の線状ポリマーに対しても、その全本数のフィラメントを、高速で均斉かつ均一に冷却できるという効果を有する。
【0019】
特に、高速で吐出されてくる極細の線状ポリマーは、より細いがゆえに即座に冷却がなされてしまうのであり、より多くの本数の線状ポリマーに対して、短時間で効率の良い冷却を全本数の線状ポリマーに対してすることが要求されるのであり、本発明の方法と装置は該要求を満足するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、更に詳しく本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法および製造装置について、説明する。
【0021】
本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法は、以下の(A)〜(D)を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸することを特徴とするものである。
(A)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出すること。
(B)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却すること。
(C)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引すること。
(D)冷却された線状ポリマーを引取ること。
【0022】
また、本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置は、以下の(E)〜(H)の要素を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸するように構成されてなることを特徴とするものである。
(E)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出する要素。
(F)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却する要素。
(G)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引する要素。
(H)冷却された線状ポリマーを引取る要素。
【0023】
かかる本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法および製造装置は、図1(a)、(b)に示したように、図4に示した従来の構造に加えて、上記(C)の線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構8により吸引するようにしたことに特徴がある。
【0024】
すなわち、図1は、本発明の合成繊維の製造方法に用いられる溶融紡糸機の口金直下における冷却風吹き出し部、吸引機構部の構造の1例を示したものであり、(a)は冷却風吹き出し部、吸引機構部の側面概略モデル図、(b)は冷却風吹き出し部、吸引機構部の構造を示す概略モデル横断面図である。
【0025】
本発明において、「口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔」とは、例えば、図5(a)、(b)に溶融紡糸口金の吐出面をモデル的に示しているが、口金の中心点を含んで口金全面積の数分の1を占める領域Cを「口金面の中央領域」と想定して、該領域を囲う外周域に多数の紡糸孔13が配置されている状態をいう。
【0026】
図5(a)は多数の紡糸孔13が二重の同心円を呈した環状に配置されている例、同図(b)は多数の紡糸孔13が二重の同心円を呈しているが、一部において紡糸孔の存在が区切れていて、紡糸後に2糸条に分けて引取りをするのに好都合な例を示している。
【0027】
「口金面の中央領域を囲う外周域に配置された」とは、必ずしも完全な環状、円状などを呈している必要はなく、中央領域、すなわち、冷却空気吹き出し部材が設けられる位置に対応した領域の外側周辺に配置されていればよいもので、例えば、「コ」の字形、「U」の字形、上下間隔の広い「=」の字形、「□」の字形、あるいは「△」の字形状に、中央領域を開けて、多数の紡糸孔が存在しているような態様でも良いものである。
【0028】
本発明の方法、装置によれば、冷却空気吹き出し部材から吹き出された冷却空気を、該冷却空気が線状ポリマー間を通過したあとに、吸引機構8により吸引をするようにしているため、冷却空気の流れが整流として形成されていて、6の糸ガイドで糸道が固定化されている線状ポリマーに対して、より効果的かつ速やかに冷却作用を与えることができるものである。
【0029】
本発明において、溶融紡糸口金の温度は、溶融紡糸される合成繊維フィラメントであれば、280〜300℃の範囲内であることが好ましい。口金面上での紡糸孔の配置は、特に限定されるものではなく、上述したように、冷却空気吹き出し部材が設けられる位置に対応した領域の外側周辺域に配置されていればよいものである。図5(a)、(b)は、好ましい配置例を示したモデル図である。
【0030】
本発明の溶融紡糸装置は、複数台を隣接して設けて生産ラインを構成してもよい。その場合は、直径100mm程度の口金で、隣接口金間距離(隣接して設置された2つの口金の中心軸間最短距離)を130〜200mmの範囲内とするのがよい。これは吸引機構を用いない場合には、空気流が干渉することがあるので、該距離を短くできないものであるが、本発明の吸引機構を用いる方法、装置によれば、該距離を上記のように短くでき、このことは、溶融ポリマーの紡糸機内経路を短くできることにつながり、生産性の向上、糸品質の向上につながるものである。
【0031】
冷却風の吹き出し速度(冷却空気吹き出し部材5の最外部にある整流メディアを、冷却空気が通過する速度)は、15〜60m/分の程度の範囲内がよいが、該速度は、単繊維太さ、紡出フィラメントの総繊度などに応じて変更されるべきものである。一般的には、単繊維太さが太いほど、紡出フィラメントの総繊度値が大きいほど、風量を多くする必要があり、該吹き出し速度も大きくするのがよい。
【0032】
冷却部長さ(冷却空気吹き出し部材5の、フィラメント通過方向と平行な有効吹き出し部長さ)は200〜1000mm程度の範囲とするのがよいが、これも、単繊維太さや紡出フィラメントの総繊度などに応じて変更されるべきものであり、一般的には、単繊維太さが太いほど、紡出フィラメントの総繊度値が大きいほど、冷却部長さを大きくするのがよい。ただし、本発明の方法、装置によれば、効率的かつ高速に均斉な冷却を実現できるので、冷却部長さは従来の同種のものよりも短くできる方向である。
【0033】
また、冷却開始点距離(口金吐出面から冷却空気吹き出し部材5の最外部にある整流メディアの上端までの距離)は10〜150mm程度の範囲内とするのがよく、一般的には、単繊維太さが細いほど、該距離は短くするのがよい。
【0034】
該整流メディアの濾過精度は20〜100μmの範囲とするのがよく、より好ましくは40〜60μmの範囲である。該整流メディアの種類は金属粒子、金属繊維の焼結体、金網、あるいは紙状のものを積層したものなどを使用するのが好ましい。
【0035】
また、吸引機構8での吸引速度は、上記した冷却空気の吹き出し速度の0.8〜1.2倍とするのが好ましく、より好ましくは0.9〜1.1倍とするのがよい。吸引機構の最内側には、整流のために、上述した冷却空気吹き出し部材5の整流メディア種類として記載したもののほか、パンチングメタルなどを使用することが好ましい。
【0036】
本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法、製造装置において、冷却された線状ポリマーを引取る工程における引取り速度は2000m/分〜6000m/分の範囲内であることが好ましい。本発明によれば、より高速度でも優れた冷却効果が得られるので、高速引き取りにも対応できるからである。また、紡糸孔が100個以上500個以下であること、すなわち、フィラメント本数が100本以上500本以下であることが好ましい。
【0037】
線状ポリマーの走行方向に平行な、冷却風の冷却部長さと吸引機構の吸引域長さとは、実質的に等しいものであることが好ましい。
【0038】
本発明は、前述のように、より短時間で冷却がされ得る、より細繊度の合成繊維フィラメントの製造に際して好適なものであり、単繊維繊度1.1dtex以下のフィラメントの製造に最適である。
【0039】
本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法を実施する製造装置は、以下の(E)〜(H)の要素を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸するように構成されてなるものである。
(E)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出する要素。
(F)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却する要素。
(G)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引する要素。
(H)冷却された線状ポリマーを引取る要素。
【0040】
図2は、本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置により製造された合成繊維糸条が巻取り機に巻取られるまでの工程の一例を例示した概略モデル図である。
【0041】
図3は、特に、一つの口金から紡出されたマルチフィラメント糸条を、2つのフィラメント群に分けて引き取る場合の工程例を例示したものである。この場合、前述した図5(b)の多数の紡糸孔13が二重の同心円を呈しているが、一部において紡糸孔の存在が区切れているような構造のものを用いるのが好ましい。
【0042】
本発明の合成繊維の製造装置は、複数台、隣接して設けられ生産ライン系列をなすことが好ましい。
【実施例】
【0043】
本発明方法・装置の実施例として、図1に概略を示したものを用い、比較例として図4に概略を示したものを用い、さらに図5(a)に示した口金をいずれも用いて、ポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(56デシテックス)を製造し、得られた繊維物性などを評価し比較した。
【0044】
実施例、比較例の共通の条件は、次のとおりである。
【0045】
すなわち、ポリマー吐出量18.6g/分、溶融温度295℃、口金直径100mm、紡出孔数144個(フィラメント数144本)、紡出孔配置は二重円で外側65mm、内側55mm、整流メディアの外径37mm、整流メディアの長さ280mm、整流メディアの濾過精度40μm、冷却風吐出速度24m、冷却開始点距離20mm、引取り速度2500m/分である。
【0046】
本発明の実施例では、特に、吸引メディア内径89.9mm、吸引メディア長さ280mm、吸引速度24m/分の吸引機構を用いており、比較例では吸引機構そのものが存在していない状態で実施をした。
【0047】
実施例、比較例で得られた各フィラメントを評価、比較した結果は次の表1のとおりである。
【0048】
この表1からわかるように、本発明の方法・装置を用いれば、ウースターハーフが0.6%から0.3%となり、糸の長手方向斑を抑制することができる。このことは、冷却風吹き出し部材から出た冷却風を吸引機構で吸引することにより、線状ポリマーの通過領域の冷却風流れが整流化され、糸揺れが抑えられたことによるものと考えられる。
【0049】
このことから、本発明の合成繊維の製造方法・製造装置によれば、糸揺れが発生しやすい細い糸、特に単繊維繊度が1.1dtex以下において、最適な冷却を行うことが可能となるものであり、そのような細い糸の生産において糸長手方向の斑を抑制することができたということは、産業上、非常に大きな意義がある。
【0050】
また、本発明によれば、溶融紡糸装置を複数台隣接して生産ラインを構成しても、隣接する装置間での冷却風流れが干渉することなく、装置間の距離を短くすることができ、生産性を向上させることができる点でも極めて優れた方法・装置であるということができる。 なお、かかる評価において各繊維物性の評価測定方法は、次のとおりである。
(1)強度・伸度:
強度および伸度は、一般的な引っ張り試験器を用いて製造された糸条(マルチフィラメント)から切り出した長さ50mmの試験糸条を、引っ張り速度400mm/分で破断に至るまで延伸心させて取得した値であり、n数を5として平均値を求めたものである。
(2)ウースターハーフ:
Zellweger社製 USTER TESTER MODELCを使用して、100m/分の速度で糸条を供給しながらハーフモードで測定して取得した値であり、n数を5として平均値を求めたものである。
【0051】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明の合成繊維の製造方法に用いられる溶融紡糸機の口金直下における冷却風吹き出し部、吸引機構部の構造の1例を示したものであり、(a)は冷却風吹き出し部、吸引機構部の側面概略モデル図、(b)は冷却風吹き出し部、吸引機構部の構造を示す概略モデル横断面図である。
【図2】図2は、本発明の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置により製造された合成繊維糸条が巻取り機に巻取られるまでの工程の一例を例示した概略モデル図である。
【図3】図3は、特に、一つの口金から紡出されたマルチフィラメント糸条を、2つのフィラメント群に分けて引き取る場合の工程例を例示したものである。
【図4】図4は、このように、紡糸口金上で紡糸孔を環状に配置して構成し、環状をなして吐出されたフィラメント群の中心側から外周側に向けて冷却風を吹き付けて冷却を行う従来の方式の概略モデルを示した側面概略モデル図である。
【図5】図5(a)、(b)は、溶融紡糸口金の吐出面の構造の1例をモデル的に示した概略図である。
【符号の説明】
【0053】
1:溶融紡糸機
2:溶融紡糸口金
3:線状ポリマー
4:冷却吹出し空気供給口
5:冷却空気吹き出し部材
6:給油ガイドまたはガイド
7:給油ガイド、オイリングロールまたは集束ガイド
8:吸引機構
9:交絡ノズル
10:第1ゴデーローラ
11:第2ゴデーローラ
12:巻取り装置
13:紡糸孔
C:口金面の中心領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)〜(D)を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸することを特徴とする合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
(A)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出すること。
(B)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却すること。
(C)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引すること。
(D)冷却された線状ポリマーを引取ること。
【請求項2】
冷却された線状ポリマーを引取る工程が、引取り速度2000m/分〜6000m/分であることを特徴とする請求項1記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項3】
線状ポリマーの本数が、100本以上500本以下であることを特徴とする請求項1または2記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項4】
線状ポリマーの走行方向における、冷却風の吹付け域長さと吸引機構の吸引域長さとが実質的に等しいものであることを特徴とする請求項1、2または3記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項5】
合成繊維マルチフィラメント糸が、単繊維繊度1.1dtex以下のフィラメントからなることを特徴とする請求項1、2、3または4記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項6】
冷却風の吹き付けが、設定温度15〜25℃の空気流を、冷却部長さ200〜1000mm、流速15〜60m/分で吹き出すことにより行うものであることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造方法。
【請求項7】
以下の(E)〜(H)の要素を少なくとも有する溶融紡糸プロセスにより合成繊維マルチフィラメント糸を紡糸するように構成されてなることを特徴とする合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
(E)口金面の中央領域を囲う外周域に配置された多数の紡糸孔から線状ポリマーを多数吐出する要素。
(F)前記口金面の中央領域の直下の下流域において、線状ポリマーの吐出方向に延在する冷却風吹き出し部材を設け、該冷却風吹き出し部材から外周側に向けて冷却風を吹き出して前記吐出された線状ポリマーに当て、該線状ポリマーを冷却する要素。
(G)線状ポリマーに吹き付けられて、該線状ポリマー間を通過した前記冷却風を、線状ポリマーの通過領域を囲う外周域において、線状ポリマーの吐出方向に延在して設けられている吸引機構により吸引する要素。
(H)冷却された線状ポリマーを引取る要素。
【請求項8】
冷却された線状ポリマーを引取る工程が、引取り速度2000m/分〜6000m/分であることを特徴とする請求項7記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
【請求項9】
紡糸孔が、100個以上500個以下であることを特徴とする請求項7または8記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
【請求項10】
線状ポリマーの走行方向における、冷却風の吹付け域長さと吸引機構の吸引域長さとが実質的に等しいものであることを特徴とする請求項7、8または9記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。
【請求項11】
請求項7、8、9または10記載の合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置が、複数台、隣接して設けられ生産ラインをなしていることを特徴とする合成繊維マルチフィラメント糸の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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