説明

合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法並びにリン酸亜鉛処理液

【課題】接着性及び潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法、並びに、リン酸亜鉛処理液を提供する。
【解決手段】表面調整工程と、表面調整がなされためっき鋼板の表面へリン酸亜鉛処理液を接触させるリン酸亜鉛処理工程と、めっき鋼板の表面を乾燥する乾燥工程とを備え、リン酸亜鉛処理液は、リン酸根をPO換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、酸比が2.5以上6.5以下である合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンが10mg/m以上300mg/m以下であり、可溶性リン酸亜鉛率が50%未満である合金化溶融亜鉛めっき鋼板、並びに、PO換算で20g/L以上70g/L以下のリン酸根、及び、0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根が含有され、酸比が2.5以上6.5以下であるリン酸亜鉛処理液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法、並びに、リン酸亜鉛処理液に関し、特に、接着性及び潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法、並びに、当該合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法における使用に適したリン酸亜鉛処理液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に用いられる鋼板の防錆対策として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の適用が拡大している。自動車に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いる場合、該合金化溶融亜鉛めっき鋼板のほとんどは、プレス成形により所定の形状に成形されて使用される。しかしながら、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は従来用いられてきた冷延鋼板に比べて、プレス成形性に問題があった。これは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合には軟質なζ相が残存するために、鋼板表面の潤滑性が冷延鋼板と比較して劣るからであると考えられている。このような問題を解決するため、例えば溶融亜鉛めっき皮膜の上層にリン酸亜鉛皮膜を設けることにより潤滑性に優れた溶融亜鉛系めっき鋼板とする技術がある(例えば、特許文献1〜特許文献4)。中でも、特許文献3及び特許文献4では、接着性及び潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−138764号公報
【特許文献2】特開2000−64054号公報
【特許文献3】特開2005−54202号公報
【特許文献4】特開2005−54203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動車のドア及びトランク等の蓋物における開閉時の静粛性を確保するために、このような部位では接着剤を適用した構造が用いられている。近年、環境対策の観点から、自動車車体に適用される接着剤についても、例えば合成ゴム系の接着剤に変更されてきている。合成ゴム系の接着剤の場合、通常、従来の接着剤(例えばポリウレタン系や塩化ビニル系接着剤)と比較して、従来のリン酸亜鉛被膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板との接着強度が低く、特許文献1〜特許文献4に開示されている技術では、合成ゴム系の接着剤との接着強度が高い合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することが困難である、という問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、このような課題を解決すべく、接着性及び潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法、並びに、当該製造方法における使用に適したリン酸亜鉛処理液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決する合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法、並びに、リン酸処理液を開示するものであり、具体的には、以下のとおりである。
【0007】
第1の本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を表面調整する表面調整工程と、該表面調整工程に引き続き、表面調整がなされた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面へ、リン酸亜鉛処理液を接触させるリン酸亜鉛処理工程と、該リン酸亜鉛処理工程に引き続き、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を乾燥する乾燥工程と、を備え、リン酸亜鉛処理液は、リン酸根をPO換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.(以下において単に「酸比」ということがある。)が2.5以上6.5以下であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0008】
また、上記第1の本発明において、リン酸亜鉛処理液は、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することが好ましい。
【0009】
ここに、本発明において、「合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有」とは、リン酸亜鉛処理液に亜硝酸根が含有されず硝酸根が含有される場合には、リン酸亜鉛処理液に含有される硝酸根の量が、リン酸亜鉛処理液1Lあたり1g以上7g以下であることを意味する。また、リン酸亜鉛処理液に硝酸根が含有されず亜硝酸根が含有される場合には、リン酸亜鉛処理液に含有される亜硝酸根の量が、リン酸亜鉛処理液1Lあたり1g以上7g以下であることを意味する。これに対し、リン酸亜鉛処理液に硝酸根及び亜硝酸根が含有される場合には、リン酸亜鉛処理液に含有される硝酸根及び亜硝酸根の合計量が、リン酸亜鉛処理液1Lあたり1g以上7g以下であることを意味する。
【0010】
また、上記第1の本発明において、リン酸亜鉛処理工程で合金化溶融亜鉛めっき鋼板に接触するリン酸亜鉛処理液の総流量が、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の片面当たり100L/min以上であることが好ましい。
【0011】
また、上記第1の本発明において、リン酸亜鉛処理工程で、スプレーを用いて塗布することによりリン酸亜鉛処理液を合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面へと接触させた後、リンガーロールを用いてリン酸亜鉛処理液が絞られ、塗布が開始されてからリンガーロールでリン酸亜鉛処理液が絞られるまでの時間が2秒以上であることが好ましい。
【0012】
第2の本発明は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき被膜の上にリン酸亜鉛皮膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンが10mg/m以上300mg/m以下であり、リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率が50%未満であることを特徴とする、表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0013】
第3の本発明は、PO換算で20g/L以上70g/L以下のリン酸根、及び、0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根が含有され、全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下であることを特徴とする、リン酸亜鉛処理液である。
【0014】
また、上記第3の本発明において、さらに、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方が含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
第1の本発明では、リン酸根をPO換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、酸比が2.5以上6.5以下であるリン酸亜鉛処理液を用いて、リン酸亜鉛皮膜が形成される。そのため、合成ゴム系の接着剤にも十分な接着強度を有し且つ潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することが可能な、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法を提供することができる。
【0016】
第2の本発明によれば、リン酸亜鉛皮膜に10mg/m以上300mg/m以下のリンが含有され、リン酸亜鉛皮膜中の可溶性リン酸亜鉛率が50%未満とされるので、合成ゴム系の接着剤にも十分な接着強度を有し且つ潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができる。
【0017】
第3の本発明によれば、合成ゴム系の接着剤にも十分な接着強度を有し且つ潤滑性に優れたリン酸亜鉛皮膜を形成することが可能な、リン酸亜鉛処理液を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
1.リン酸亜鉛皮膜及びリン酸亜鉛処理方法
(1)リン酸亜鉛皮膜
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、めっき被膜の上に、リン酸亜鉛皮膜を備えるものであって、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量(以下、この値をリン酸亜鉛皮膜の「付着量」とも呼ぶ。)が10mg/m以上300mg/m以下であり、リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率が50%未満である。ここで、リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率(以下において単に「可溶性リン酸亜鉛率」ということがある。)とは、合金化溶融亜鉛めっき鋼板を50℃の温水へ5分間に亘って浸漬したときに、下記式1で表される値R[%]である。
【0020】
【数1】

ここで、M1は、温水へ浸漬する前の合金化溶融亜鉛めっき鋼板に付着していたリン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量[mg/m]であり、M2は、温水へ浸漬した後の合金化溶融亜鉛めっき鋼板に付着しているリン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量[mg/m]である。
【0021】
リン酸亜鉛皮膜の付着量は、少なすぎると潤滑性に乏しく、多すぎてもその効果は飽和する。コストや製造安定性等の観点から、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量は、20mg/m以上120mg/m以下とすることが好ましい。
【0022】
リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率は、小さい方が接着性に優れる。この理由は以下のように考えられる。
リン酸亜鉛皮膜は、特許文献4の段落番号0018にも記載されているように、結晶性のホパイト及び非晶質性のリン酸塩から概ね構成される(その他、金属亜鉛やAl酸化物も含有される)。非晶質性の部分は、概ねリン酸亜鉛処理の処理液がそのまま乾燥されて成膜されたものであるため、水に再溶解しやすい成分を含む。このような成分が、接着剤の塗布、焼き付け工程で発生した水に溶解することで、接着性が損なわれるものと考えられる。
【0023】
本発明では、前述の水に再溶解しやすい成分の指標として、上記式1の可溶性リン酸亜鉛率を採用した。可溶性リン酸亜鉛率は、リン酸亜鉛処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、50℃の温水中へ5分間に亘って浸漬した場合の、浸漬前後前後におけるリン酸亜鉛皮膜の付着量を用いて、上記式1により求めることができる。なお、X線回折によれば、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の温水への浸漬前後で、ホパイト(020)面の回折強度がほとんど低下しない。そのため、リン酸亜鉛皮膜に含まれる結晶性ホパイトは、温水にほとんど溶解しないものと考えられる。
【0024】
リン酸亜鉛皮膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下において単に「めっき鋼板」ということがある。)について、接着性が不芳なめっき鋼板及び接着性が良好なめっき鋼板の表面を、走査型電子顕微鏡(以下において「SEM」という。)で観察したSEM像の例を、図1(a)及び図1(b)に示す。図1(a)は接着性が不芳なめっき鋼板の表面SEM像であり、図1(b)は接着性が良好なめっき鋼板の表面SEM像である。また、図1(a)及び図1(b)にそれぞれ四角で囲んだ部分について、オージェ電子分光分析をすることにより、元素濃度を測定した。元素濃度の結果、並びに、可溶性リン酸亜鉛率の結果、及び、接着性評価の結果を、表1に併せて示す。
【0025】
【表1】

【0026】
図1(a)に示すめっき鋼板は、結晶性ホパイトの形成が少なく平滑な部分が多いのに対し、図1(b)に示すめっき鋼板は、微細な結晶性ホパイトが可溶性リン酸亜鉛中に形成されていた。また、オージェ電子分光分析によれば、図1(b)のめっき鋼板ではフッ素が検出され、図1(b)のめっき鋼板では、図1(a)のめっき鋼板よりも多くの酸素が検出された。これは、図1(b)のめっき鋼板は、後述するような、フッ素を含有する処理液で処理したためであると考えられる。すなわち、フッ素を含有する処理液で処理したことによって、処理液とめっき被膜との反応量が多くなり、その結果、結晶性ホパイトが多く形成され、また、平滑な部分でも、処理液とめっき被膜との反応が図1(a)のめっき鋼板よりも進行したためであると考えられる。多くの結晶性ホパイトが形成され、平滑な部分でも処理液とめっき被膜との反応が進行したため、図1(b)のめっき鋼板に備えられるリン酸亜鉛皮膜は、水に再溶解しやすい成分が少なく、その結果、接着性が良好になったと考えられる。
【0027】
(2)リン酸亜鉛処理方法
前述のリン酸亜鉛めっき皮膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板(本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板)の製造方法におけるリン酸亜鉛処理方法は、特に限定されるものではない。連続めっきラインの後処理設備で、合金化溶融亜鉛めっき鋼板にリン酸亜鉛処理液をスプレー方式で接液させ、水洗することなく乾燥させて被膜を形成させるいわゆる塗布型の処理により、リン酸亜鉛皮膜が形成される形態について、以下に説明する。
【0028】
本実施形態にかかる合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法(以下において「本発明の製造方法」ということがある。)に備えられる工程例を、図2に示す。図2に示すように、本発明の製造方法は、表面調整工程(工程S1)と、リン酸亜鉛処理工程(工程S2)と、乾燥工程(工程S3)と、を備え、工程S1〜工程S3を経て、本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板が製造される。
【0029】
<工程S1>
工程S1は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下において単に「めっき鋼板」ということがある。)のリン酸亜鉛処理に先立って、めっき鋼板の表面調整を行う工程である。表面調整を行うことで、リン酸亜鉛処理において処理液とめっきとの反応性を増大させることが可能になる。表面調整に用いる表面調整剤は、特に限定されるものではなく、市販の表面調整剤、例えばTiコロイド系の処理液、リン酸亜鉛コロイド含有水性液等を用いれば良い。表面調整の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、めっき鋼板を表面調整剤に浸漬する浸漬処理、又は、表面調整剤をめっき鋼板にスプレー塗布するスプレー処理等を行えば良い。工程S1で用いる表面調整剤は、自動車用化成処理鋼板に対して使用される、市販の表面調整剤を用いても良い。なお、工程S1に先立って、めっき鋼板表面の活性化や汚れの除去を目的として、アルカリ洗浄を行ってもよい。
【0030】
<工程S2>
工程S2は、上記工程S1に引き続き、表面調整がなされためっき鋼板の表面へ、リン酸亜鉛処理液を接触させる(塗布する)工程である。以下、工程S2で使用されるリン酸亜鉛処理液、及び、工程S2の形態について説明する。
【0031】
a.リン酸亜鉛処理液
工程S2で使用される本発明のリン酸亜鉛処理液(以下において単に「処理液」ということがある。)は、リン酸根をPO換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下である。さらに、処理液は、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することが好ましい。以下、各成分等について説明する。
【0032】
(リン酸根)
処理液は、PO換算で20g/L以上70g/L以下のリン酸根を含有する。処理液中において、リン酸根は、PO3−のほか、P4−(ピロリン酸イオン)、P5−(トリポリリン酸イオン)のような縮合した形態や、HPO2−(第1リン酸イオン)、HPO(第2リン酸イオン)のような形態でも存在しているが、これらがPO3−の形で存在するとして含有量を規定する。なお、リン酸亜鉛処理の後、水洗せずにそのまま乾燥させる処理形式(以下、このような処理形式を「塗布型処理」という。)の場合、リン酸イオンの濃度は皮膜付着量に直接影響するので、前述した含有量の範囲内で、リン酸亜鉛皮膜の付着量が所定範囲となるように調整する。
【0033】
(フッ酸根)
処理液は、F換算で0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根を含有する。処理液にフッ酸根が含有されることより、めっき表面がエッチングされる速度が増し、結果的に可溶性リン酸亜鉛率が小さくなると考えられる。フッ酸根としては、F(フッ化物イオン)のほか、TiF2−、SiF2−等ように錯イオンの形であっても良く、これらがFの形で存在するとして含有量を規定する。
【0034】
(硝酸根、亜硝酸根)
本発明において、処理液は、硝酸根及び/又は亜硝酸根を含有することが好ましい。硝酸根及び/又は亜硝酸根の含有により、めっき表面の反応が増し、結果的に可溶性リン酸亜鉛率が小さくなると考えられる。好ましい硝酸根又は亜硝酸根の濃度は、合計で1g/L以上7g/L以下である。硝酸根及び/又は亜硝酸根を処理液へ過剰に添加すると、処理液中にスラッジが溜まりやすくなる。より好ましくは、合計で1g/L以上5g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することが好ましい。
【0035】
(酸比)
ホパイトの形成と関連性を有する処理液の酸比は、皮膜に所定量以上のホパイトを形成可能にする等の観点から、2.5以上とする。一方、処理液中にスラッジが溜まりにくい形態にする等の観点から、酸比は6.5以下とする。本発明の製造方法は、必ずしも結晶性ホパイトの形成を目的とするものではないが、前述したように結晶性ホパイトは水に再溶解しない成分と考えられ、図1(a)及び図1(b)で示したように、結晶性ホパイトの割合の多い皮膜の方が、接着性が良好である。酸比の調整方法としては、Na、NH等のカチオン元素を添加することによって所定の酸比に維持する等の形態を例示することができる。酸比の調整を容易にする等の観点からは、NHを添加することが好ましい。
【0036】
(その他)
本発明において、処理液に含有されるその他の元素は、特に限定されるものではないが、Zn、Fe、Al等、合金化溶融亜鉛めっき鋼板からエッチングされて処理液中へ溶出する成分も、30g/L以下であれば、処理液に含有されていても良い。また、処理液に含有され得るその他のカチオン及びアニオン等も、特に限定されるものではなく、接着性及び潤滑性に悪影響を及ぼさない限り許容される。
その他、処理液のpHは特に限定されるものではないが、1以上4以下程度とすることが好ましい。
【0037】
b.スプレー処理
前述の表面調整に引き続き、前記の処理液をめっき鋼板の表面にスプレー塗布する。安定して反応させるために、塗布する液量は、めっき鋼板の片面当たり、100L/min以上とすることが好ましい。また、反応の進行を容易にして、可溶性リン酸亜鉛率を所定値以下に抑えやすくする等の観点から、処理液の温度は、20℃以上50℃以下程度とすることが好ましい。本発明の製造方法において、スプレー塗布の後は、例えば、リンガーロールで処理液を絞り、リン酸亜鉛皮膜付着量が目的の値となるようにする。処理液とめっきとの反応を進行させるため、スプレー処理開始から(スプレー塗布を開始してから)リンガーロール絞りまでを2秒以上とすることが好ましい。
【0038】
<工程S3>
工程S3は、上記工程S2に引き続き、めっき鋼板の表面を乾燥する工程である。工程S3は、めっき鋼板の表面を乾燥させることができれば、その形態は特に限定されるものではない。工程S3が採り得る形態としては、自然乾燥する形態のほか、ドライヤーやオーブンを用いて乾燥させる形態等を挙げることができる。
【0039】
2.合金化溶融亜鉛めっき鋼板
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、さらに説明する。めっき母材となる鋼板の種類は特に限定されるものではなく、あらゆる種類の冷間圧延鋼板や熱間圧延鋼板を適用することができる。母材の化学組成も特に限定されるものではなく、Ti、Nb等を必要に応じて含有させた極低炭素鋼若しくは低炭素鋼、又は、Si、Mn、P、Cr、Ni、Cu、V等を適宜含有させた高強度鋼若しくは高張力鋼等を適用することができる。
【0040】
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、合金化溶融亜鉛めっき層中に、7質量%以上15質量%以下のFeが含有されることが好ましい。Fe含有量を7質量%以上とすることにより、めっき層表面近傍へのη相の残存を防止することが可能になり、めっき鋼板の外観を向上させることが可能になる。一方、プレス成形時におけるパウダリングの発生を抑制する等の観点から、Fe含有量は15質量%以下とする。より好ましいFe含有量は、8質量%以上13質量%以下である。
【0041】
さらに、上記合金化溶融亜鉛めっき層には、通常、0.05質量%以上0.5質量%以下のAlが含有される。Alは、めっき層と母材との密着性を向上させる為には必要元素であるが、めっき層の表面にアルミナが形成され、リン酸亜鉛処理の反応を阻害する因子となる。そのため、上述したように、本発明では、処理液中にフッ酸根を含有させる等により処理液とめっき表面との反応を促進させる。その他、めっき層にはCu、Ni、Cr、Si、Mn、Pb、Sb、Sn及びミッシュメタル等が微量含有されていても良い。
また、本発明のめっき鋼板は、多くの場合、皮膜形成後(合金化処理後)に、公知の方法で調質圧延がなされる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。
【0043】
1)合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造
Ti添加IF鋼板を基材とする、調質圧延済の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(0.7mm厚、めっき付着量:45g/m、めっき被膜中Fe組成:約10%)を、7%NaOH処理液(70℃)へ5秒間に亘って浸漬する前処理を行った後、水洗した。続いて、1g/LのパーコレンZ(日本パーカライジング株式会社製)を含有する液(常温)へ、水洗後のめっき鋼板を10秒間に亘って浸漬することにより、表面調整を行った。表面調整に引き続き、組成を変更した各種のリン酸亜鉛処理液をめっき鋼板の表面へスプレー処理し、リン酸亜鉛処理液をリンガーロールで絞るリン酸亜鉛処理を行った。その後、鋼板温度55℃で乾燥した。ここで、上記リン酸亜鉛処理では、スプレーの流量及びスプレーからリンガーロール絞りまでの時間(処理時間)、並びに、リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンの量を変動させた。実施したリン酸塩処理液の液組成及び処理条件を表2に併せて示す。
【0044】
【表2】

【0045】
また、作製した各サンプルめっき鋼板の性能評価として、下記評価を実施した。
【0046】
2)サンプルめっき鋼板の分析及び評価
<リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率>
作製したサンプルめっき鋼板を蛍光X線分析することにより、リン酸亜鉛皮膜の付着量(M1)を測定した。その後、リンの量を測定したサンプルめっき鋼板を50℃の温水へ5分間に亘って浸漬し、温水へ浸漬したサンプルめっき鋼板を蛍光X線分析することにより、リン酸亜鉛皮膜の付着量(M2)を測定し、上記式1で表される可溶性リン酸亜鉛率Rを算出した。
【0047】
<摺動性評価>
特開2003−136151号公報に記載のピンオンディスク試験法により、防錆油を塗布した状態で、以下の条件にて摩擦係数を測定し、摩擦係数及び摩擦係数の変動から、摺動性を評価した。
試験条件;
押し付け荷重:30N
試験具先端形状:球
試験具先端形状曲率:2.5mmR
試験具先端材質:SKD鋼
試験温度:60℃
回転半径:10mm
摺動速度:63mm/min(1rpm)
摺動回数:10回転
摩擦係数μ:1回転毎に12個の測定値から算出した平均値10個の最大値
摩擦係数の変動ν:上記最大摩擦係数が得られた周回における12個の測定結果の標準偏差値
評価基準;
×:μが0.15以上
△:μが0.12以上0.15未満
○:μが0.12未満
【0048】
<接着性評価>
サンプルめっき鋼板を25mm×100mmに切断し、プレス潤滑油320H(パーカー興産株式会社製)を塗油(塗油量2g/m)したまま下記の接着条件で接着させた。その後、剪断剥離試験(引張速度:50mm/min)に供し、その際の剥離の剪断強度で評価した。なお、接着剤は環境対応型接着剤を用いた。
接着剤:合成ゴム系の熱硬化型接着剤
接着剤厚さ:2mm
加熱条件:165℃、10分間
接着後養生時間:24時間
評価基準;
◎:剪断強度が250kPa以上(極めて良好で合格)
△:剪断強度が200kPa以上250kPa未満(合格)
×:剪断強度が200kPa未満(不合格)
【0049】
サンプルめっき鋼板の性能評価結果を、表3に併せて示す。
【0050】
【表3】

【0051】
表2及び表3より、本発明の製造方法により製造した本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、何れも可溶性リン酸亜鉛率が50%未満であり、接着性が極めて良好であった。加えて、本発明の製造方法により製造した本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、良好な摺動性を有し、潤滑性に優れていた。これに対し、リン酸亜鉛処理液に含有されるフッ酸根が0.9g/L未満である等により、本発明の製造方法以外の方法により製造した合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、何れも可溶性リン酸亜鉛率が50%以上となり、接着性が低下した。以上より、本発明によれば、接着性及び潤滑性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板及びその製造方法、並びに、当該製造方法における使用に適したリン酸亜鉛処理液を提供可能であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】合金化溶融亜鉛めっき鋼板のSEM像である。図1(a)は接着性が不芳なめっき鋼板の表面SEM像であり、図1(b)は接着性が良好なめっき鋼板の表面SEM像である。
【図2】本発明の製造方法に備えられる工程例を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板を表面調整する表面調整工程と、
前記表面調整工程に引き続き、前記表面調整がなされた前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面へ、リン酸亜鉛処理液を接触させるリン酸亜鉛処理工程と、
前記リン酸亜鉛処理工程に引き続き、前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面を乾燥する乾燥工程と、を備え、
前記リン酸亜鉛処理液は、リン酸根をPO換算で20g/L以上70g/L以下、フッ酸根を0.9g/L以上5g/L含有し、前記リン酸亜鉛処理液中の全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下であることを特徴とする、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸亜鉛処理液は、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方を含有することを特徴とする、請求項1に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記リン酸亜鉛処理工程で前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板に接触する前記リン酸亜鉛処理液の総流量が、前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の片面当たり100L/min以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸亜鉛処理工程で、スプレーを用いて塗布することにより前記リン酸亜鉛処理液を前記合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面へと接触させた後、リンガーロールを用いて前記リン酸亜鉛処理液が絞られ、前記塗布が開始されてから前記リンガーロールで前記リン酸亜鉛処理液が絞られるまでの時間が2秒以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき被膜の上にリン酸亜鉛皮膜を備える合金化溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記リン酸亜鉛皮膜に含有されるリンが10mg/m以上300mg/m以下であり、前記リン酸亜鉛皮膜の可溶性リン酸亜鉛率が50%未満であることを特徴とする、表面処理合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
PO換算で20g/L以上70g/L以下のリン酸根、及び、0.9g/L以上5g/L以下のフッ酸根が含有され、全酸濃度T.A.と遊離酸濃度F.A.との比で表される酸比T.A./F.A.が2.5以上6.5以下であることを特徴とする、リン酸亜鉛処理液。
【請求項7】
さらに、合計で1g/L以上7g/L以下の硝酸根若しくは亜硝酸根のいずれか又は両方が含有されることを特徴とする、請求項6に記載のリン酸亜鉛処理液。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−249661(P2009−249661A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96919(P2008−96919)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】