説明

合金微粒子コロイドの製造方法

【課題】合金微粒子コロイドを合理的で効率的に製造する。
【解決手段】常温常圧環境下で固体状態である原料の2元合金を減圧環境下で加熱蒸発させて、発生する蒸気を冷却して凝縮凝固させて形成した合金の微粒子を液体媒質中に捕集する合金微粒子コロイドの製造方法であって、(1)原料合金の全原子数に対する成分元素の原子数分率をXとした時に、原料合金の蒸気の全圧に対する成分元素の蒸気圧の分率が、X−0.1からX+0.1の範囲内になるように、原料合金の各元素の成分比を調整すること、(2)原料の2元合金を、合金塊において均一な合金相を形成する合金種とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合金微粒子コロイドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子の製造方法としては、真空蒸着法やガス中蒸発法などの物理的方法、共沈法や水熱反応法などの化学的方法、粉砕法などの機械的方法が知られている。このなかで、物理的方法は、製品微粒子に残存する不純物の問題が他の手法に比べて小さく、品質が安定することから、様々な材料、用途に利用されている。
【0003】
真空蒸着法については、特に、原料金属を真空中で加熱し、蒸発させ、原料の原子状金属の蒸気を液体媒質表面に接触させ、液体媒質表面で微粒子を発生させることにより、液体媒質中に分散した微粒子コロイドを製造する活性液面連続真空蒸着法(たとえば、特許
文献1、2)と呼ばれている方法があり、高品質のナノメーターサイズの金属微粒子コロ
イドを製造する方法として知られている。図1は、この方法と、これを利用した金属微粒子コロイドの製造装置の概略図である。この方法では、回転真空槽2の上部にて、金属蒸発源5から蒸発させた金属蒸気10を液体媒体膜9に接触させ、そこで形成された金属微粒子11を、その場で、界面活性剤分子で覆われたコロイド粒子とし、回転真空槽2の回転に乗せて底部に輸送する。それと同時に新しい液体媒体膜9を回転真空槽2の底部から上部に供給する。この過程を連続的に行うことにより、底部の液体媒体3を金属微粒子が高濃度に分散した安定なコロイド分散液12に変化させる。
【0004】
一方、ガス中蒸発法(たとえば、非特許文献1)は、容器を排気した後、少量のアルゴンガスなどの不活性ガスを導入し、内部を不活性ガスの減圧状態に保ちつつ、その容器中で原料金属を加熱し蒸発させることで、蒸発源近傍で不活性ガス分子との衝突により金属蒸気が冷却されて金属微粒子が形成され、同時に蒸発源近傍に有機溶剤の蒸気を供給し、発生した金属微粒子を有機溶剤のガス流とともに排気管に導いて排気管低温部に付着させ、次いで回収する方法である。このガス中蒸発法は先の真空蒸着法と比べて、金属を蒸発させるのに、大量の熱エネルギーの供給が必要なので、効率や経済性は高くないが、高品質の金属微粒子を製造することができる方法として利用されている。
【0005】
しかしながら、上記のような金属微粒子コロイドの製造方法においては、複数種の元素からなる合金の微粒子コロイドを製造する場合、形成される合金微粒子の組成が徐々に変化してしまうという問題があった。この問題は以下のことが起因している。
【0006】
すなわち、まず、原料合金として元素成分A、Bからなる合金を用いる場合、両者の原子数比が1−X:Xの合金A1−Xを真空中で加熱して融解させ、均一な融液とし、さらに温度を上げてそれを気化させるとき、金属蒸気として各成分元素に固有の蒸気圧によって決まる比率1−Y:Yの原子数比で真空中に放射され、固体の基板上、あるいは本明細書に述べている液体媒質の液膜上にそれぞれ到達し、A及びB原子は基板上でお互いに凝縮凝固する。凝縮凝固比を1−Z:Zとすると、A1−Zという組成の合金微粒子が形成されることになる。式で表わすと次のとおりである。
【0007】
1−X(s)→ A1−XB(l)
→(1−Y)A(g) + YB(g) → A1−Z(s)
ここで(s)は固体状態、(l)は液体状態、(g)は気体状態にあることを意味している。YとZの関係は通常、真空中を飛来してくる原子のほとんど全部が回収されると考えられるので、Y=Zである。Yは、Xには依存せず、合金の成分元素の蒸気圧に依存する。こ
れはいわゆる分留現象であり、原油などの多成分溶液を沸点の違いを用いて分離精製する手法として利用されている現象である。この分留現象によって、一定組成の合金を一定量の原料から蒸発させようとしたとき,蒸気圧の高い成分から優先的に蒸発が起こり,原料が消費されていくにつれて、原料組成比が徐々に変化し、蒸気圧の低い成分が最後に残留するようになる。従って、初期に生成される微粒子の合金組成と終期に生成される微粒子の合金組成が大きく異なり、均一な組成の合金微粒子を得ることが難しくなる。
【0008】
このような問題を回避するための方策として、金属蒸発源5を複数設置することも考えられるが、装置が大型化、煩雑化してしまうのと、各々の蒸発源の蒸発速度の制御が難しいという問題がある。
【特許文献1】特開昭60−161490号公報
【特許文献2】特開昭60−162704号公報
【非特許文献1】T. Suzuki and M. Oda :Proceedings of IMC 1996, Omiya, pp.37, 1996.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は以上のとおりの背景から、装置の大型化や煩雑化をともなうことなく、簡便に蒸発源の蒸発速度の制御を容易として均一組成の合金粒子を製造することのできる合金微粒子コロイドの新しい製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の合金微粒子コロイドの製造方法においては、まずなによりも以下のことを基本的な技術認識として踏まえている。
【0011】
成分A、Bからなる合金A1−Xを真空中で加熱蒸発させるとき、各成分の分圧P及びPが合金の成分比に比例して次のように与えられるとき、その系は正則系と呼ばれる。
【0012】
= (1−X) P (1)
= XP (2)
ここでP、Pはそれぞれ純物質A元素、B元素の蒸気圧である。この法則をRaoultの法則という。各種の合金系においては、Raoultの法則が成り立つことは極稀であり、一般には蒸気相の成分蒸気圧P及びPは合金の原子数分率に比例せず、活量係数γ、γを用いて次のように表すことができる。
【0013】
= γ (1−X)P (3)
= γXP (4)
γ、γは0〜1の間の値をとり、それぞれの合金系に関して固有の量であり、それぞれ原子数分率(1−X)、Xの複雑な関数となる。各合金系に関して測定されたγ、γの値は、定数表(非特許文献1)に見ることができる。γ(1−X)を合金A1−XにおけるA成分の活量aといい、γ・Xを活量aという。活量を用いて各成分の蒸気圧を表すとそれぞれ
= a (5)
= a (6)
で与えられる。各成分の蒸気圧の分率a/(a+a)、a/(a+a)を、それぞれ原料合金の原子数分率に等しく、
/(a+a)=1−X (7)
/(a+a)=X (8)
となるように、原料合金の原子数分率の比1−X:Xを設定すれば、合金の蒸発において
、合金組成と蒸発する蒸気組成が等しくなり、蒸発時間の経過とともに分留現象を起こさない。このような蒸発を調和的蒸発と呼ぶ。
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するために、上記の調和的蒸発の重要性を踏まえている。本発明の製造方法の特徴は以下のとおりである。
【0015】
第1:常温常圧環境下で固体状態である原料の2元合金を減圧環境下で加熱蒸発させて、発生する蒸気を冷却して凝縮凝固させて形成した合金の微粒子を液体媒質中に捕集する合金微粒子コロイドの製造方法であって、(1)原料合金の全原子数に対する成分元素の原子数分率をXとした時に、原料合金の蒸気の全圧に対する成分元素の蒸気圧の分率が、X−0.1からX+0.1の範囲内になるように、原料合金の各元素の成分比を調整し、かつ、(2)原料の2元合金を、合金塊において均一な合金相を形成する合金種とする。
【0016】
ここで、本発明において「コロイド」とは、界面活性剤によって表面処理され分散安定化された微粒子(コロイド粒子)と、それが液体媒質に分散した分散液(コロイド溶液)の総称である。
【0017】
第2:常温常圧環境下で固体状態である原料の2元合金を真空度5x10−4Torr以下の真空中で加熱蒸発させて、発生する蒸気を液体媒質の表面に接触させて冷却することで凝縮凝固させて形成した合金の微粒子を液体媒質中に分散させる合金微粒子コロイドの製造方法であって、(1)原料合金の全原子数に対する成分元素の原子数分率をXとした時に、原料合金の蒸気の全圧に対する成分元素の蒸気圧の分率が、X−0.1からX+
0.1の範囲内になるように、原料合金の各元素の成分比を調整し、かつ、(2)原料の
2元合金を、合金塊において均一な合金相を形成する合金種とする。
【0018】
第3:上記第1又は第2の製造方法によるAgとInの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Ag1−XIn(0.0<X≦0.20)とする。
【0019】
第4:上記第1又は第2の製造方法によるAuとPdの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Au1−XPd(0.0<X<1.0)とする。
【0020】
第5:上記第1又は第2の製造方法によるAuとSnの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Au1−XSn(0.0<X≦0.16)とする。
【0021】
第6:上記第1又は第2の製造方法によるCoとFeの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Co1−XFe(0.0<X<1.0)とする。
【0022】
第7:上記第1又は第2の製造方法によるCoとNiの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Co1−XNi(0.0<X<1.0)とする。
【0023】
第8:上記第1又は第2の製造方法によるCoとPdの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Co1−XPd(0.0<X<1.0)とする。
【0024】
第9:上記第1又は第2の製造方法によるCrとNiの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Cr1−XNi(0.75≦X<1.0)とする。
【0025】
第10:上記第1又は第2の製造方法によるCuとSiの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Cu1−XSi(0.0<X≦0.45)とする。
【0026】
第11:上記第1又は第2の製造方法によるCuとSnの合金微粒子コロイドの製造で
あって、原料合金の組成を、Cu1−XSn(0.0<X≦0.33)とする。
【0027】
第12:上記第1又は第2の製造方法によるFeとNiの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Fe1−XNi(0.60≦X<1.0)とする。
【0028】
第13:上記第1又は第2の製造方法によるFeとPdの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Fe1−XPd(0.64≦X<1.0)とする。
【0029】
第14:上記第1又は第2の製造方法によるFeとSiの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Fe1−XSi(0.30≦X≦0.37)とする。
【0030】
第15:上記第1又は第2の製造方法によるNiとPdの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Ni1−XPd(0.0<X<1.0)とする。
【0031】
第16:上記第1又は第2の製造方法によるAgとCuの合金微粒子コロイドの製造であって、原料合金の組成を、Ag1−XCu(0.0<X≦0.25)とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、従来技術の問題点を解決し、装置の大型化や煩雑化をともなうことなく、簡便に、蒸発源の蒸発速度の制御を容易として均一組成の合金微粒子コロイドを製造することができる。
【0033】
より詳しくは、第1の発明では、小粒径で単分散の、均一な組成の合金微粒子コロイドを製造することが可能になる。
【0034】
第2の発明によれば、小粒径で単分散の、均一な組成の合金微粒子コロイドを、低エネルギーで効率的、経済的に製造することが可能になる。
【0035】
そして、第3から第16の発明によれば、各々、小粒径で単分散の、均一な組成のAg−In合金微粒子コロイド、Au−Pd合金微粒子コロイド、Ag−Sn合金微粒子コロイド、Co−Fe合金微粒子コロイド、Co−Ni合金微粒子コロイド、Co−Pd合金微粒子コロイド、Cr−Ni合金微粒子コロイド、Cu−Si合金微粒子コロイド、Cu−Sn合金微粒子コロイド、Fe−Ni合金微粒子コロイド、Fe−Pd合金微粒子コロイド、Fe−Si合金微粒子コロイド、Ni−Pd合金微粒子コロイド、Ag−Cu合金微粒子コロイドを製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0037】
まず、本発明における「原料合金」の構成元素は、2種の金属元素からなる化合物又は単一種の金属元素と単一種の非金属元素からなる化合物であって、少なくとも光学顕微鏡で観察可能なサイズ以上の巨視的なサイズの合金塊において均一な合金相を形成する合金種である。本発明における「均一な合金相」とは、少なくとも光学顕微鏡で観察可能なサイズで組成と構造が一様な合金の相であり、かつ固溶体を形成している相を言う。本発明における「合金種」とは、合金を形成している元素の種類と各成分元素の割合(組成)で区別される合金の種類のことを言う。「マクロのサイズの合金塊において均一な合金相を形成する」合金の元素の組み合わせとしては、例えば、Ag−In、Au−Pd、Au−Sn、Co−Fe、Co−Ni、Co−Pd、Cr−Ni、Cu−Si、Cu−Sn、Fe−Ni、Fe−Pd、Fe−Si、Ni−Pd、Ag−Cuを含んだ多くの組み合わせ
が存在することが知られている。合金をA−Bとした場合、全原子数に対する成分元素Bの原子数分率がXである時、原料合金の組成式はA1−Xである。調和的蒸発をさせるための原料合金の組成は、上記の(7)式、(8)式を用い、可能なすべての種類の2元合金に関して公知の値a、a、P、及びPを用いて、図式的方法により求めることができる。
【0038】
Ag−In合金を例として、調和的蒸発をする合金組成を求める図式的方法を以下に説明する。Ag−In合金系において、その成分元素が蒸発する典型的な温度1300K(=1027
゜C)における、Ag1−XIn合金の全組成にわたるAg、及びInの活量aAg,及
びaIn を図2に示す。成分元素の活量は成分元素の蒸発性のパラメータなので、Ag
1−XIn合金融液のIn濃度が増大するのに伴い、融液から蒸発するInの蒸発圧が高くなり、それと反対に、Agの濃度の減少に伴いAgの蒸気圧が低くなる。しかしながら、両曲線が変則的に大きく下に凸になっていることは、Ag原子とIn原子が共存することによって、両者とも、単一金属の場合より、合金融液から蒸発しにくくなることを意味している。これはAg原子同士やIn原子同士の結合エネルギーよりもAgとIn原子間の結合エネルギーが大きいからである。1300K(1027゜C) でAg及びIn単一金属はそれぞれ固有の蒸気圧(PAg=1.31Pa、PIn=1.69Pa)を有する。1300K(1027゜C)でのAg1−XIn合金融液から蒸発するAgとInの
蒸気圧の値は次式により計算することができる。
【0039】
Ag= aAgAg (9)
In= aInIn (10)
Ag、PInをAg1−XIn合金のInの原子数分率Xの関数として図3に示す。図3において縦軸の切片がそれぞれAg、およびIn各純物質の蒸気圧の値を示しており、グラフはAg及びInの蒸気圧の絶対値を示している。全圧に対する各成分蒸気の割合、すなわち各成分の蒸気圧の分率は次のように与えられる。
【0040】
In蒸気圧の分率、YIn =PIn/(PAg+PIn) (11)
Ag蒸気圧の分率、YAg =PAg/(PAg+PIn) (12)
=1− YIn (13)
Ag、YInをAg1−XIn合金融液のInの原子数分率Xの関数として図4に示す。
図4は原料合金の融液組成とそれから蒸発する蒸気相組成の関係を示している。図4において原点を通る右上がりの45度の直線Mを引いたとき、In蒸気圧の分率を示す曲線が直線Mと交差する点Pは、原料融液と蒸気の組成が一致する調和的蒸発をする組成である。図4より点Pの座標を読み取ると、Ag1−XIn合金の調和的蒸発をする組成はAg0.86In0.14と求められる。本発明では、求められたXの値を調和的蒸発組成と言う。次に、点(0、0.1)を通り45度の傾きをもつ直線Lと、点(0.1、0)を通り45度の傾きをもつ直線Nとの間に挟まれた領域では、原料Ag1−XInにおけるInの原子数分率Xに対してIn蒸気圧の分率YIn
X−0.10 ≦ YIn ≦ X+0.10 (14)
、すなわち原料の原子数分率と蒸気圧の分率のずれが±0.10の範囲内になる。分圧曲
線がこの範囲にある原子数分率Xを図4から直接読み取ると、原料の原子数分率と蒸気圧の分率のずれを±0.10の範囲内にするためには
0 ≦ X ≦ 0.2
の範囲の組成をもつ原料を用いればよいことがわかる。本発明では、このようにして求められた範囲を、許容組成範囲という。
【0041】
このように合金の元素、組成比を選定することにより、均一な合金微粒子を得ることができる。
【0042】
調和的蒸発組成は、Au1−XPd合金では、例えば,1727゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aAu、aPd、及び1727゜Cにおける各純物質の蒸気圧PAu=3.40x10 Pa、PPd=3.57x10 Paから、上記と同様にして、調和的蒸発組成は、0.0<X<1.0と求められる。
【0043】
Au1−XSn合金では、例えば,550゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aAu、aSn、及び550゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PAu=1.36x10―12 Pa、PSn=3.32x10―9 Paから、同様にして、調和的蒸発組成は、X=0.11と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒
子の原子数分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.0<X≦0.16と求
められる。
【0044】
Co1−XFe合金では、例えば,1600゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aCo、aFe、及び1600゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PCo
4.70 Pa、PFe=5.72 Paから、同様にして、調和的蒸発組成は、0.5
0≦X<1.0と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子数
分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.0<X<1.0と求められる。
【0045】
Co1−XNi合金では、例えば,1627゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aCo、aNi、及び1627゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PCo
6.83 Pa、PNi=5.44 Paから、同様にして、調和的蒸発組成は、0.0<X<1.0と求められる。
【0046】
Co1−XPd合金では、例えば,1577゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aCo、aPd、及び1577゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PCo
3.39 Pa、PPd=1.89 Paから、調和的蒸発組成は、0.0<X<1.0
と求められる。
【0047】
Cr1−XNi合金では、例えば,1927゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aCr、aNi、及び1927゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PCr
8.06x10 Pa、PNi=1.95x10Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、0.96≦X<1.0と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子数分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.75≦X<1.
0と求められる。
【0048】
Cu1−XSi合金では、例えば,1427゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aCu、aSi、及び1427゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PCu
1.05x10 Pa、PSi=6.31 Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、0.0<X<0.15又はX=0.40と求められる。また、原料の原子数分率と製造さ
れる合金微粒子の原子数分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.0<X≦0.45と求められる。
【0049】
Cu1−XSn合金では、例えば,1127゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aCu、aSn、及び1127゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PCu
8.00x10−2 Pa、PSi=1.92x10−1Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、X=0.26と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微
粒子の原子数分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.0<X≦0.33と
求められる。
【0050】
Fe1−XNi合金では、例えば,1600゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aFe、aNi、及び1600゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PFe
5.76 Pa、PNi=3.72 Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、X=
0.80と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子数分率の
ずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.60≦X<1.0と求められる。
【0051】
Fe1−XPd合金では、例えば,1577゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aFe、aPd、及び1600゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PFe
4.25 Pa、PPd=1.89 Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、0.70≦X≦0.75と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子
数分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.64≦X<1.0と求められる

【0052】
Fe1−XSi合金では、例えば,1600゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aFe、aSi、及び1600゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PFe
6.25 Pa、PSi=6.03x10 Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は
、X=0.35と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子数
分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.30≦X≦0.37と求められる

【0053】
Ni1−XPd合金では、例えば,1600゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aNi、aPd、及び1600゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PNi
3.72 Pa、PPd=2.53 Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、0.0<X≦0.25と求められる。また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子数
分率のずれが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.0<X<1.0と求められる。
【0054】
Ag1−XCu合金では、例えば,1150゜Cにおける各成分元素の原子数分率に対する活量値aAg、aCu、及び1150゜Cにおける各純物質の蒸気圧 PAg
1.18x10 Pa、PPd=1.39x10−1Pa から、同様にして、調和的蒸発組成は、0.10、また、原料の原子数分率と製造される合金微粒子の原子数分率のず
れが±0.10以内になる許容組成範囲は、0.0<X≦0.25と求められる。
【0055】
以下に、合金微粒子コロイドの製造方法の一例として、活性液面連続真空蒸着法による製造方法を説明する。
【0056】
上記のように選定した合金について、それぞれの金属元素を算出した好適な合金組成範囲の比率、望ましくは最適な合金組成の比率に秤量し、真空中あるいは不活性ガス中で加熱融解させて混合し、均一な合金インゴットを製造する。加熱融解の方法は、アーク融解法、高周波融解法、抵抗加熱融解法など公知の技術を使用することができる。得られた合金インゴットを圧延加工あるいは線引き加工した後、適当な大きさに裁断し、原料合金4とする。Cu1−XSn合金とFe1−XSi合金は、ハンマーで衝撃を加えることにより容易に破砕することができ、適当な原料合金の小片を作製することができる。
【0057】
図1に、本発明にて使用した活性液面連続真空蒸着法による微粒子製造装置の概略図を例示する。真空排気管を兼ねた固定軸1の周りに内部が高真空に排気されるようになった回転真空槽2が設けられており、回転真空槽2の円筒内部に界面活性剤を添加した液体媒質3が入れられている。液体媒質3の充填量は、円筒内部の全体積の3〜8%とすることが好ましい。微粒子合成時は真空度5x10−4Torr以下の真空中とするのが微粒子の酸化防止、微粒子の分散性、並びに生産効率の点で好ましい。「液体媒質」3は合金微粒子コロイドの分散媒となる液体であり、油性媒質が好ましく使用される。
【0058】
また、液体媒質3は、蒸気圧が低く、耐熱性があるものが好ましい。液体媒質3の室温における蒸気圧は5x10−4 Torr以下であることが好ましい。蒸気圧が5x10−4 Torrを超えると、微粒子の純度、粒径分布に悪影響が及ぶ場合がある。具体的には、アルキルナフタリン、低蒸気圧の炭化水素、アルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、ジエステル、シリコーン油、フルオロカーボン油を例示することができる。
【0059】
界面活性剤は金属微粒子を液体媒質3に分散させる分散剤の役割を担っている。界面活性剤は使用する液体媒質にミセルを作ることなく一様に溶解するものであることが微粒子の凝集を防ぐために好ましい。液体媒質中における界面活性剤の濃度は、2〜10%であることが、製造される合金微粒子コロイドの分散性、並びに原料歩留まりの点で好ましい。界面活性剤は、分散する微粒子の表面の化学的特性、液体媒質にあわせて、アニオン性、カチオン性、ノニオン性の何れも使用することができる。具体的には、アニオン性界面活性剤として脂肪酸のアルカリ金属塩やアミン塩、アルキルアリルスルホン酸塩やオクタデシルベンゼンスルホネートなどのスルホン酸塩、リン酸塩、カチオン性活性剤としてアミン誘導体、ノニオン性界面活性剤としてペンタエリスリトールモノオレエート、ソルビタンオレエートなどを例示することができる。固定軸1には蒸発源5が設置されており、その中に原料合金4が充填されている。
【0060】
作製した原料合金4を蒸発源5に入れて減圧環境下で加熱し、原料合金4を蒸発させる。蒸発源5は、原料合金4を蒸発させるのに十分な高温まで加熱することができるものであれば使用可能であり、例えば、図1にあるような原料合金4を入れた耐熱性るつぼにタングステン抵抗線を巻き付け、タングステン抵抗線に通電して耐熱性るつぼを加熱することにより、効率的に原料合金4を蒸発させることができる。加熱温度は原料合金4の種類により調整可能であり、原料合金4の構成元素の個々の常圧下における融点のうち最も高い融点の100〜180%とすることが好ましい。るつぼに供給する電力は50〜600Wの範囲内であることが好ましい。高温に熱せられた蒸発源5から放射される輻射熱を周囲の液体媒質3から遮断するために、蒸発源5の周囲は輻射断熱板6で遮蔽されている。
【0061】
また、熱除去のために、回転真空槽全体2は冷却水流7で冷却されており、液体媒質3の温度は合金微粒子11の合成時もほぼ室温に保持されている。加熱された蒸発源5により原料合金4が加熱されて蒸発し、蒸発した金属蒸気10が回転真空槽の内壁面の蒸発源対向部分に吸着する形で、原料合金4が蒸着される。熱電対8は蒸着時の液体媒質の液膜の温度を監視するために設けられている。蒸着の際には、回転真空槽2を一定速度にて回転させる。回転の周速度は10〜100mm/sであることが好ましいが,周速度の上限は特に限定しない。液体媒質3は薄い液膜9となって回転真空槽2の上部まで展開し、回転真空槽2の内壁面は液体媒質3で一様に濡れた状態になる。液体媒質3は上述のように界面活性剤を含んでおり、液体媒質が油性媒質である場合は、界面活性剤分子は分子の一端が親油基、他端が親水基になっているので、回転真空槽2の内壁面に展開した液体媒質の液膜9の表面に、親水基を膜表面側に向けて集まる傾向がある。その結果、液体媒質の液膜9の表面は親水性物質に対して吸着性に富んだ表面に改質されることになる。そのため蒸発源5から蒸発する金属蒸気10は液体媒質の液膜9に効率よく吸着し、そこで合金微粒子11を形成する。このことが活性液面蒸着法と呼ばれる理由である。
【0062】
このようにして回転真空槽2の上部内壁面で形成された合金微粒子11は、その場で界面活性剤分子で覆われ、液体媒質になじむ形態になって、回転真空槽2の回転に乗って底部に輸送される。それと同時に新しい液体媒質の液膜9が回転真空槽2の底部から上部に供給される。回転真空槽を回転させながら原料合金4の加熱蒸発を続けることにより、回転真空槽の底部に油に均一に分散した所定の合金微粒子コロイド分散液12が得られる。

【0063】
通常、蒸発速度は0.3〜1.0g/min程度であり、最初に装填した原料合金は数分間から数十分間で消耗するが、蒸気圧の低い成分が残渣として残るようなことがないのが本発明の方法の特徴である。もし、濃厚なコロイドを製造しようとするときは,適当な方法により合金原料塊を蒸発源に追加的に装填し,再び以上の工程を繰り返す。このようにして、組成の均一な、所定の組成の合金微粒子コロイドを製造することが可能となる。

【0064】
以上のようにして得られた合金微粒子コロイドのサイズは合金種により固有の大きさを有する。Fe、Co、Cr,Pd系の合金が最も小さく、直径が2nm、他方Ag系合金が最も大きく直径が10〜17nmである。これら合金微粒子の合金組成を微粒子一個ずつについて微小ビーム電子顕微鏡を用いエネルギー分散型微小分析計により測定することができる。さらに,電子顕微鏡の視野内で無作為に多数個の微粒子について、それぞれ組成を分析して、微粒子ごとの合金組成のばらつきを評価することができる。
【0065】
本発明にて原料とした合金を原料合金として用いれば、活性液面連続真空蒸着法に限ることなく、合金の蒸気を冷却し合金微粒子を発生させ、それを有機溶剤中に取り込み捕集する方法であればどんな方法であってもよく、例えばガス中蒸発法の場合でも同じような作用効果を発揮する。
【0066】
本発明による合金微粒子コロイドはナノメーターサイズの合金微粒子が液体中に高濃度で分散したコロイドであり、特に電気伝導性が高いものは導電性インクとして用いられ、印刷法によるプリント回路基板の製造、積層コンデンサー、チップ型抵抗器などの電極の形成に利用される。また、貴金属を含む合金微粒子は合金組成により変化する種々の色調を呈するので、色調を制御した顔料インクとしても用いられる。合金微粒子コロイドの中には強く光を吸収し、強い黒色を示すものも存在し、それらは遮光フィルターとして、液晶パネルディスプレー装置をはじめとして、プラズマパネルディスプレーや有機電界発光ディスプレー装置に利用される。鉄属遷移金属を含んだ強磁性を示す合金微粒子コロイドは磁性流体の性質を示すので、磁性流体が応用される種々の機器、すなわち真空回転軸受けの真空シール、音を忠実に再現するハイファイ(Hi−Fi)スピーカ、回転軸の防塵シールなどに利用される。
【0067】
さらに,合金微粒子コロイドを原料として、それに適切な処理を施すことにより製造する合金微粒子を担持した珪藻土、活性炭、アルミナなどは種々の触媒、すなわち、メタン(CH)やその他炭化水素から水蒸気改質法による水素(H)の製造やアンモニア(NH
)の分解反応などの脱水素反応の触媒、不飽和脂肪酸から飽和脂肪酸への転換、不飽和
の液状食用油からマーガリンや石けんなどの硬化油の製造、オレフィンからパラフィンへの転換など水素添加反応の触媒、クラッキングによる重質油からガソリンへの転換、石油ナフサからハイオクタンガソリンの製造などの合成燃料の製造用触媒、エンジン排気ガスに対する大気汚染防止用触媒として利用される。また、活性炭などの導電性物質に担持させたPdを含む合金微粒子は化学エネルギーを電気エネルギーに変換する燃料電池の陽極及び陰極活物質として利用される。
【0068】
次に、本発明の具体的態様を実施例にて説明する。もちろん、本発明がこれらの例示に限定されることはない。
【実施例】
【0069】
<実施例1> コバルト−鉄合金微粒子コロイドの製造
コバルト−鉄合金(Co1−XFe)系では、本発明を用いて全組成領域0.0< X
< 1.0の範囲で合金微粒子コロイドを製造することが可能であり、特には0.50≦ X
< 1.0の範囲では正確に原料合金組成を反映した合金微粒子コロイドを製造すること
ができる。その代表的な実施例として、Co0.5Fe0.5合金微粒子コロイドについて述べる。
【0070】
先ずCo及びFe金属元素をそれぞれ化学的量論比に秤量し、高周波融解法で均一に融解混合した後、鋳型に流し込み鋳造塊を作製した。このようにして得た鋳造塊は化学分析により組成を測定した結果、仕込み組成が正確に再現されていた。Co0.5Fe0.5合金の鋳造塊を切断することにより,数グラム〜20グラムの合金小片を作製した。このCo0.5Fe0.5合金小片の約30gを図1に示した活性液面連続真空蒸着法における蒸発源るつぼに装填した。一方分散媒として、10%ポリブテニルコハク酸ペンタミンイミドーアルキルナフタリン溶液260g(300cc)を回転真空槽の底部に注入した。回転真空槽を周速度34mm/s の速度で回転させながら、蒸発源を加熱し、合金の融点を
超えてさらに温度を上げていくと、合金が蒸発を開始し、回転真空槽の上部内壁面に合金微粒子が発生した。耐熱ガラス製の回転真空槽を透かしてその様子を観測することができた。なお,蒸発源に供給する電力は370Wとした。約50分間の蒸発時間で原料はすべて消費され、るつぼ内部に蒸発しにくい金属成分が残留することはなかった。回転真空槽内部に不活性ガスを導入しながら、回転真空槽側面のガラス栓を開けてさらに30gのCo0.5Fe0.5合金片を装填し、同様なプロセスを繰り返した。
【0071】
以上のようにして、高濃度の安定なコバルト−鉄合金微粒子コロイドを製造した。原料の平均蒸発速度は0.6g/minであった。また、得られたコロイドの比重は1.07であり、この比重からコロイド分散相の濃度は16.5%と推定された。これらの値から収率は92%と算出された。得られたコバルト−鉄合金コロイド分散液は、低い粘度を示し、
滑らかな流動性を示した。分散液は強い黒色を呈し、磁界に強く反応し、磁性流体としての性質を示した。
【0072】
微小ビーム電子顕微鏡とそれに付属しているエネルギー分散型X線分析計(EDX)を用
いて合金微粒子一個一個について、それらの結晶構造と組成を解析した。図5、及び図6に微粒子1個の電子線回折図形、及び特性X線スペクトルをそれぞれ示す。図5から微粒子は単結晶であり、その構造はbcc構造であることが理解される。測定したすべての微粒子について同様であった。また、図6において左から1番目のスペクトル線はFeの特性X線、2番目のスペクトル線はCoの特性X線を示している。それらの積分強度比から
微粒子の組成は50at.%Co−Feであることが分かる。なお、3番目のスペクトル線は微粒子を保持している銅メッシュから発生している銅の特性X線であり、微粒子から発生しているものではない。このようにして多数個の粒子について組成分析を行った結果、粒子ごとの組成のばらつきは測定できる精度の範囲で認められなかった。コロイドの平均粒径は約2nmであった。
<実施例2> Fe−Pd 合金微粒子コロイドの製造
本発明を用いることによりFe1−XPd系合金における0.64 ≦ x < 1.0の
範囲で原料合金組成を反映したほぼ一様なFe1−XPd系合金微粒子コロイドを製造することができる。さらに望ましくは、0.70 ≦ x ≦ 0.75の範囲を限定すれば、
原料合金組成と正確に一致した一様なFe1−XPd系合金微粒子コロイドを製造することができる。その代表的な実施例として、Fe0.25Pd0.75合金微粒子コロイドについて述べる。この合金はFePdという金属間化合物を構成する。
【0073】
Fe0.25Pd0.75合金塊は先の実施例1の場合と同様にして作製した。この合金は冷間圧延が可能であり、圧延機を用いて適当な厚さに圧延を行い、その後切断し、数グラム〜20グラムの合金小片を作製した。このFe0.25Pd0.75合金小片を図1に示した活性液面連続真空蒸着法における蒸発源るつぼに装填し、合金微粒子コロイドを製造する過程は実施例1Co0.5Fe0.5の場合と同様にして行った。微小ビーム電子顕
微鏡とEDXを用いて微粒子一個一個について結晶構造と組成を分析した結果。測定したすべての微粒子は面心正方(fct)構造と25at.%Fe−Pdの組成を有し、金属間化合物FePd相であることを確認した。コロイドの平均粒径は約2nmであった。<実施例3>Ag−In合金微粒子コロイドの製造
本発明を用いることによりAg1−XIn系合金における0.0 < x ≦ 0.20の
範囲で原料合金組成を反映したほぼ一様なAg1−XIn系合金微粒子コロイドを製造することができる。望ましくは、X = 0.14に限定し、Ag0.86In0.14 合金を原料として用いれば,原料合金組成と正確に一致した一様なAg0.86In0.14合金微粒子コロイドを製造することができる。本実施例では、Ag0.86In0.14合金微粒子コロイドについて詳述する。
【0074】
Ag0.86In0.14合金の原料塊の準備、並びに活性液面連続真空蒸着法による合金微粒子コロイドの作製は、分散媒としては7%ソルビタントリオレエート−アルキルナフタリン溶液260g(300cc)を用い、回転真空槽の周速度を100mm/sとし、原料合金が定常的な蒸発をするために蒸発源に供給する電力を105Wとしたこと以外は、先の実施例1と同様にして行った。ソルビタントリオレートは安定で安全なAgコロイドを得るために適切なものとして使用した。適宜原料合金を追加しながら、蒸発を続けていく過程で、るつぼ内部に蒸発しにくい金属成分が残留することはなかった。
【0075】
微小ビーム電子顕微鏡とそれに付属しているエネルギー分散型X線分析計(EDX)を用
いて合金微粒子一個一個について、それらの結晶構造と組成を解析した結果、測定したすべての微粒子はfcc構造をもち、それらの組成は14at.%In−Agであり、原料合金の組成と一致していると同時に、粒子ごとの組成のばらつきは測定できる精度の範囲で認められなかった。コロイドの平均粒径は15nmであった。
【0076】
以上のとおり、本発明を用いると、原料組成と等しい組成をもつ合金微粒子コロイドが得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】活性液面連続真空蒸着法の略図である。
【図2】Ag1−XIn合金の全組成にわたるAg、及びInの活量aAg,及びaInを、Inの原子数分率Xに対してプロットした図である。
【図3】Ag、Inの蒸気圧PAg、PInをAg1−XIn合金のInの原子数分率Xの関数としてプロットした図である。
【図4】Ag、Inの分圧YAg、YInをAg1−XIn合金のInの原子数分率Xの関数としてプロットした図である。
【図5】実施例1で得られたCo0.5Fe0.5微粒子の1個の電子回折図形である。
【図6】実施例1で得られたCo0.5Fe0.5微粒子の1個のエネルギー分散型X線分析(EDX)スペクトルである。
【符号の説明】
【0078】
1 固定軸
2 回転真空槽
3 界面活性剤を添加した液体媒質
4 原料金属(合金)
5 蒸発源
6 輻射断熱板
7 冷却水流
8 熱電対
9 界面活性剤を含有した液体媒質の液膜
10 金属蒸気
11 界面活性剤で内包された金属(合金)微粒子
12 金属(合金)微粒子のコロイド分散液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温常圧環境下で固体状態である原料の2元合金を減圧環境下で加熱蒸発させて、発生する蒸気を冷却して凝縮凝固させて形成した合金の微粒子を液体媒質中に捕集する合金微粒子コロイドの製造方法であって、(1)原料合金の全原子数に対する成分元素の原子数分率をXとした時に、原料合金の蒸気の全圧に対する成分元素の蒸気圧の分率が、X−0.1からX+0.1の範囲内になるように、原料合金の各元素の成分比を調整すること、(2)原料の2元合金を、合金塊において均一な合金相を形成する合金種とすることを特徴とする合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項2】
常温常圧環境下で固体状態である原料の2元合金を真空度5x10−4Torr以下の真空中で加熱蒸発させて、発生する合金の各成分の蒸気を液体媒質の表面に接触させ、冷却することで凝縮凝固させて形成した合金の微粒子を液体媒質中に分散させる合金微粒子コロイドの製造方法であって、(1)原料合金の全原子数に対する成分元素の原子数分率をXとした時に、原料合金の蒸気の全圧に対する成分元素の蒸気圧の分率が、X−0.1
からX+0.1の範囲内になるように、原料合金の各元素の成分比を調整すること、(2
)原料の2元合金を、合金塊において均一な合金相を形成する合金種とすることを特徴とする請求項1に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項3】
Ag−In合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Ag1−XIn(0.0<X≦0.20)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項4】
Au−Pdの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Au1−XPd(0.0<X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項5】
Au−Snの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Au1−XSn(0.0<X≦0.16)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項6】
Co−Feの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Co1−XFe(0.0<X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項7】
Co−Niの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Co1−XNi(0.0<X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項8】
Co−Pdの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Co1−XPd(0.0<X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項9】
Cr−Niの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Cr1−XNi(0.75≦X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項10】
Cu−Siの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Cu1−XSi(0.0<X≦0.45)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項11】
Cu−Snの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Cu1−XSn(0.0<X≦0.33)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項12】
Fe−Niの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Fe1−XNi(0.60≦X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項13】
Fe−Pdの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Fe1−XPd(0.64≦X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項14】
Fe−Siの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Fe1−XSi(0.30≦X≦0.37)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項15】
Ni−Pdの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Ni1−XPd(0.0<X<1.0)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。
【請求項16】
Ag−Cuの合金微粒子コロイドの製造方法であって、原料合金の組成を、Ag1−XCu(0.0<X≦0.25)とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の合金微粒子コロイドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−291443(P2007−291443A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120263(P2006−120263)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】