説明

同定済み代謝物を処理するシステムおよび方法

代謝物分析システムで予期しない代謝物を迅速に分析する方法を開示する。対照サンプルの分析を実行し、分析して、不要なサンプル成分の除外リストを発生させる。次いで、1つの分析物サンプルを分析し、不要な代謝物を含む除外リストをプログラムにより用いて、対照サンプルと分析物サンプルの両方に存在する成分に関するデータを動的にフィルター除去する。分析物サンプル中の残りの成分を問題の予期しない代謝物について分析する。本発明は、分析の自動化を可能にし、サンプル中の共通の成分を除去する目的のための第2の分析物サンプルの分析の必要をなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の例示的実施形態は、一般的に代謝物分析に関し、より具体的には、対照サンプルからプログラムにより得られた不要な代謝物の除外リストを用いた予期しない代謝物の同定および分析に関する。
【0002】
優先出願
本出願は、2003年2月24日に出願された米国出願番号60/449534の「不要な代謝物を除外するシステムおよび方法(System and Method for Excluding Unwanted Metabolites)」と題する米国仮出願および2003年12月19日に出願された米国出願番号60/531044の「同定済み代謝物を処理するシステムおよび方法(System and Method for Processing Identified Metabolites)」と題する米国仮出願の優先権を主張する。
【背景技術】
【0003】
代謝は、有糸分裂のような重要な生命過程に必要なエネルギーおよび基本物質を産生するのに用いられる細胞または生物体内で起こる化学変化と定義することができる。その化学反応の副生成物は、代謝物と呼ばれる。サンプル中に存在する代謝物を分析し、同定することにより、代謝経路を決定することが可能である。例えば、尿中の代謝物の分析を用いて、尿を生産した個体によってどのような物質が摂取されたかを判断することができる。代謝物の同定および分析は、質量分析と組み合わせた液体クロマトグラフィーを用いて行われることが多い。
【0004】
液体クロマトグラフィーは、サンプルに含まれている個々の成分を、同定することができるように分離する。液体クロマトグラフィーには、移動相と固定層の2つの相が含まれる。構成成分の分離を行うために、液体サンプル混合物(「移動相」)を粒子を充填したカラム(「固相」)に通す。カラム中の粒子は、移動相と反応するように意図された液体で被覆してもよく、あるいは被覆しなくてもよい。移動相中(すなわち、サンプル中)の構成成分は多くの因子に基づいて異なる速度で充填カラムを通過する。サンプルがカラムの遠位端から出るときに、サンプルを観察することによって、サンプルの構成成分への分離を分析する。
【0005】
異なる構成成分がカラムを通過する速度は、移動相と固相との相互作用に依存する。サンプル中の成分は、カラム中の移動が遅れるように、粒子または粒子を被覆している物質と物理的に相互作用することができる。分析されるサンプル中の異なる成分は、成分の化学的構成によって異なる程度の強さで個々の粒子および/または被膜と相互作用することによって、個々の粒子および/または被膜と異なった反応をする。粒子および/または被膜とより強く結合する傾向がある成分は、粒子および/または被膜と弱く結合するかまたは全く結合しない成分よりカラムをゆっくり通過する。化学反応に加えて、サンプル中の成分のサイズがカラムを通過する速度を決定することがある。例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいて、分析される溶液中の異なる分子が細孔を含むマトリックスを異なる速度で通過し、それにより、サンプル中の異なる分子の分離がもたらされる。サイズ排除クロマトグラフィーにおいて、カラム中の粒子のサイズおよびそれらの充填方法とサンプル中の成分のサイズとがあいまって、サンプルがカラムを通過する速度を決定する(特定のサイズの成分のみが粒子間の隙間/間隙を容易に通過する)。
【0006】
分離されたサンプルは、カラムの遠位端にある検出器に移動し、そこで、サンプル中の種々の成分の保持時間が計算される。保持時間は、サンプルが注入口(サンプルがカラム中に導入される)からカラムを経て検出器まで移動するのに必要な時間である。固相から出ていく成分の量を保持時間に対してグラフ化して、クロマトグラフピークとして知られているピークを有するチャートを作ることができる。ピークにより、種々の成分が同定される。
【0007】
分離された成分は、それらの化学的構成を決定するために、さらなる分析のための質量分析計に供給することができる。液体クロマトグラフィー段階と組み合わされた1つの質量分析計段階を有するシステムは、LC−MSシステムと呼ばれる。2つの質量分析計段階を有するシステムは、LC−MS−MSシステムと呼ばれる。質量分析計はサンプルを送入サンプルとし、サンプルをイオン化して陽イオンを生成させる。電子線の使用を含む多種類のイオン化法を用いることができる。陽イオンは、一般的にMSIと呼ばれる第1段階分離で質量によって分離される。質量分離は、陽イオンをイオンの重量に基づいて異なる角度に偏らせる磁石の使用を含む多くの手段によって達成される。分離されたイオンは、衝突セルに入り、衝突ガスまたはイオンと相互作用する他の物質と接触する。反応したイオンは次に一般的にMS2と呼ばれる第2段階の質量分離を受ける。
【0008】
分離されたイオンは、質量分析段階(または複数の段階)の終了時に分析される。分析は、イオンのシグナルの強度に対するイオンの質量を質量スペクトルと呼ばれるグラフで示す。質量スペクトルの分析により、検出器に到達したイオンの質量と相対存在率が得られる。相対存在率は、シグナルの強度から得られる。液体クロマトグラフィーと質量分析との組合せは、代謝物のような化学物質を同定するのに用いることができる。分子が電子を失うとき、共有結合はしばしば切断されて、正に荷電したフラグメントのアレイを生ずる。質量分析計はフラグメントの質量を測定し、次にこれを分析して、元の分子の構造および/または組成を決定することができる。この情報を用いてサンプル中の個々の物質を分離することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
通常、代謝物の分析は3つの独立したサンプル分析を必要とする。最初のサンプル分析は対照である。対照サンプル分析の後に、最初の分析物サンプル分析を行う。分析物サンプル結果からのクロマトグラフピークを対照のクロマトグラフピークと比較し、比較の結果を用いて両サンプルに存在する成分を除去する。次に、分析物サンプルに存在し、対照サンプルに存在しない予期しない代謝物を同定するために、分析物サンプルに特有な成分に重点を置いた第2の分析物サンプル分析を行う。残念なことに、対照サンプルと第1の分析物サンプルとの比較は、ほとんどの場合に人の直接の関与を必要とする時間集約的な作業である。さほど一般的でない代替法は不要な成分の一般的リストを使用するが、そのリストは、比較法と組み合わせない限り、通常、行われるサンプル分析に特別に適応できるものではない。さらに、一般的リストは、分析物サンプルと対照サンプルとの比較により得られるリストより長く、したがって、処理するのにより長時間を必要とする傾向がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の例示的実施形態は、代謝物分析システムにおいて予期しない代謝物を迅速に分析するための自動化メカニズムを提供する。対照サンプルの分析を実行し、不要なサンプル成分の除外リストを得るために分析する。次いで、1つの分析物サンプルを分析し、不要な代謝物を含む除外リストをプログラムにより用いて、対照サンプルと分析物サンプルの両方に存在する成分に関するデータを動的にフィルター除去する。分析物サンプル中の残りの成分を問題の予期しない代謝物について分析する。本発明は、分析の自動化を可能にし、サンプル中の共通の成分を除去する目的のための第2の分析物サンプルの分析の必要をなくす。
【0011】
一実施形態において、代謝物を分析する方法は、不要な代謝物を決定するために単一の対照サンプルをプログラムにより分析する段階を含む。不要な代謝物の決定の後に、代謝物分析システムは、保存された除外リストに不要な代謝物を加える。次いで、代謝物サンプルは、代謝物分析システムによって除外リストを用いて予期しない代謝物についてプログラムにより評価される。
【0012】
他の実施形態において、代謝物分析装置は、クロマトグラフィーモジュールを含む。装置は、少なくとも1つの質量分析モジュールも含む。装置はさらに、記憶場所を保持する電子素子を含む。記憶場所は、単一の対照サンプルに関するクロマトグラフィーモジュールにより得られたクロマトグラフデータを保持する。同定された代謝物の除外リストも代謝物分析装置の一部である。除外リストは、予期しない代謝物を同定する助けとするために分析物サンプルにプログラムにより適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の例示的実施形態は、予期しない代謝物を分析するメカニズムを提供する。対照サンプルがLC−MS−MSシステムのような代謝物分析システムで分析され、LC段階を出てゆく成分のクロマトグラフデータが保存される。対照サンプル成分を除外リストに加える。その後、単一の分析物サンプルを代謝物分析システムで分析する。システムの液体クロマトグラフィー段階を出てゆくときに、成分が除外リストと比較される。共通の成分が除去され、予期しない代謝物を含む可能性がある残りの成分が分析される。データの実時間でのフィルター除去を実施する能力は、システムがプログラムにより動作することを可能にし、また、操作者が第2の分析物サンプルの分析を実施する必要を避けることも可能にする。
【0014】
本発明は、図1に示すLC−MS−MSシステムのような代謝物分析システムにおいて実施される。LC−MSシステムのような他のタイプの代謝物分析システムは、本発明の範囲から逸脱することなく、LC−MS−MSシステムの代わりに用いることができる。代謝物分析システム2は、液体クロマトグラフィーモジュールのようなクロマトグラフィーモジュール4を含む。イオン化モジュール10も含まれる。イオン化モジュール10は、クロマトグラフィーモジュール4からの送出物を送入サンプルとして受け取る。イオン化モジュールは、サンプルのイオン化を実施する。当業者は、高エネルギー電子の流れによりサンプルを衝撃することによるような、サンプルをイオン化することができる多種類の方法があることを理解するであろう。
【0015】
イオン化モジュール10によって生成されるイオンは、MS1第1段階質量分離モジュール12に通される。質量分離は、多くのよく知られている技術を用いて実施される。例えば、イオンを、イオンの質量に基づいてイオンの経路を変化させる磁力のもとにおくことができる。次に、分離されたイオンは衝突セルモジュール14に通され、そこで、分離されたイオンと反応するように意図されたガスへのイオンの曝露のような、さらなる反応に供される。サンプルは、検出器モジュール18に到達する前に、MS2第2段階質量分離モジュール16でさらに分離させることができる。検出器モジュール18は、出てゆくイオンにより発生した検出シグナルに基づいて質量スペクトルを発生させるのに用いられる。当業者は、質量分離の多種類の方法を用いることができ、問題の個々のイオンと反応させるために種々の物質を衝突セル14に導入することができることを理解するであろう。同様に、本発明の例示的実施形態は、1段階の質量分離のみを行うLC−MSシステムを含む多種類の代謝物分析システムを用いて実施することもできる。
【0016】
プロセッサを含む電子素子6は、検出器モジュール18およびクロマトグラフィーモジュール4に接続されている。電子素子6は、サーバー、デスクトップコンピュータシステム、ラップトップ、メインフレーム、ネットワーク接続素子またはプロセッサを含むある種の同様な素子であってよい。電子素子は、本発明の範囲から逸脱することなく、代謝物分析システム2におけるモジュールの1つに組み込むこともできる。電子素子6は、除外リスト7を保持する記憶装置8を含む。当業者は、記憶装置8は代謝物分析システムにアクセスできる場所に配置することができることを理解するであろう。
【0017】
1回のLC−MS−MS分析を行うために実行されるステップのシーケンスを図2のフローチャートに示す。シーケンスは、サンプル中の成分の液体クロマトグラフィー分離(ステップ30)から始まる。液体クロマトグラフィーシステムから出るサンプル成分は、イオン化モジュール10に通され、そこでイオン化が行われる(ステップ32)。第1段階の質量分離が実行され(ステップ34)、分離されたイオンが衝突セルに通され、そこでそれらが衝突セル反応物と反応する(ステップ36)。次いで、第2段階の質量分離が、衝突セルから出てゆく反応済みイオンにおいて実行される(ステップ38)。分離されたイオンが検出器モジュール18に通され、そこで、収集されたデータから質量スペクトルが得られ、それにより、サンプルに含まれる代謝物の同定が可能になる(ステップ40)。
【0018】
図3は、分析物サンプルを処理するために用いられるステップの従来技術のシーケンスのフローチャートである。シーケンスは、代謝物分析システムによる対照サンプルの分析から始まる(ステップ50)。次いで、第1の分析物サンプルが分析システムにより分析される(ステップ52)。各分析によって得られたクロマトグラフピークが、分析システムの操作者によって比較される。共通の成分が操作者によって同定される(ステップ54)。所望の予期しない代謝物を含む分析物サンプルに特有の成分に焦点を合わせるためにシステムを再校正した後に、第2の分析物サンプルを分析する(ステップ56)。
【0019】
対照サンプル分析と第1の分析物サンプル分析とを比較する必要があることは、通常、システムの操作者の関与が必要となることを意味する。これは、分析物サンプルに固有の第2の分析物サンプル分析の除外パラメーターを生じさせるが、時間集約的過程である。本発明は、単一の対照サンプル分析からプログラムによりかつ迅速に得られる不要な成分(不要な代謝物を含む)の目的に合ったリストを生じさせる。対照サンプル中の不要な成分は、除外リストに加えられる。除外リストは、検出器モジュールを制御するソフトウエアにアクセスでき、分析が所望の予期しない代謝物を含む成分に焦点を合わせるように第1および唯一の分析物サンプル分析の実時間フィルタリング/構成を可能にする。これは、第2の分析物サンプルの分析が必要でないので、分析過程の時間の節約が可能になる。さらに、対照サンプルによって得られる除外リストは、目的に合致しないリストより短く、問題のデータのみが処理されるので、より迅速なスクリーニング過程につながる。
【0020】
予期しない代謝物を分析するための本発明によるステップのより合理化されたシーケンスを図4のフローチャートに示す。シーケンスは、先のように、代謝物分析システムによる対照サンプル分析(ステップ70)から始まる。対照サンプルからのクロマトグラフデータは除外「リスト」に保存される(ステップ72)。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの異なるデータ構造で保存することができることを理解するであろう。分析物サンプル分析は、分析中にデータを動的にフィルターにかけるために除外リストを用いて行われる(ステップ74)。検出モジュール18は、問題の予期しない代謝物を同定し、その情報を、問題の予期しない代謝物を衝突セル内に分流させることができる第1段階MS1質量分析計12に伝達することができる。このようにして、検出モジュール18は、分析物サンプルに特有な成分に含まれる問題の予期しない代謝物を分析することだけが必要となる。次に、標的代謝物の質量分析データが解析される(ステップ76)。操作をモニターするためにシステム操作者を待機させずに、処理をプログラムにより実行することができる。
【0021】
対照サンプルクロマトグラフデータと分析物サンプルデータとの比較は、以下のようにプログラムにより表すことができる。
//非MSデータトレースから生じたピークにおける予期しない代謝物を捜す
if(m_pcChroPeak->GetMetaboliteType() == ChroPeak::unexpected||
m_pcChroPeak->GetMetaboliteType() == ChroPeak::all)
{
if(m_pcMetabolitePars)
if(!bSampleIsControl || m_pcUnexpectedMetabolitePars->ExcludeControl
Masses()
if(m_pcUnexpectedMetabolitePars->FindUnexpectedMetabolites())
{
bSearchDone=true;
CheckForUnexpectedMetabolites(
bSpectrumContainsParent, bSampleIsControl);
}
}
【0022】
同様に、クロマトグラフピークにより表された質量の除外リストへの追加は、以下のようにプログラムにより表すことができる。
//パラメーターの一般的な準備を行うルーチンにおいて、
//TGR3740は対照サンプル質量を除外する
//対照サンプルの予期しない代謝物を除外質量リストに加える
AddControlMassesToExcludeMassList();
新しいルーチンの定義
/***************************************
方法: AddControlMassesToExcludeMassList
クラス: APSample
目的: 対照サンプルからのエントリをパラメーターに指定されたものに加えることによって、除外質量リストを作る。
コメント: TGR 3740
戻り: void
****************************************/
void APSample::AddControlMassesToExcludeMassList(void)
{
m_cUnexpectedMetabolitePars =
m_cAutoProcParsData.UnexpectedMetabolitePars();
//サンプルは対照を含む分析物であるか?
if(!m_pControlSample)
return;
//MS/MS処理のみか?
if(m_bAutoMSMSRun)
return;
//ユーザーがこの機能を要求したか?
if(!m_cAutoProcParsData.UnexpectedMetabolitePars().FindUnexpectedMetabolites())
return;
if(!m_cAutoProcParsData.UnexpectedMetabolitePars().ExcludeControlMasses())
return;
BOOLbUseTimes =
m_cAutoProcParsData.UnexpectedMetabolitePars().ExcludeControlTimes();
//我々は対照サンプルにおける情報を有しているか?
if(m_pControlSample->GetUnexpectedMetaboliteCount()<=0)
return;
//代謝物を通してループし、予期しない各代謝物をリストに加える
for(int nMetabolite = 0; nMetabolite < m_pControlSample->
GetMetaboliteCount();nMetabolite++)
{
CMetaboliteData *pMetabolite = m_pControlSample->GetMetabolite
(nMetabolite);
if(!pMetabolite)
continue;
if(!pMetabolite->IsUnexpected())
continue;
double fTime = 0.0;
if(bUseTimes)
fTime = pMetabolite->GetPeakTime();
m_cUnexpectedMetabolitePars.AppendToExcludeMassList(pMetabolite->
GetMzFound(),fTime);
}
//質量リストを昇順に並べ替える
m_cUnexpectedMetabolitePars.Sort();
return;
}
【0023】
当業者は、対照サンプル分析と分析物サンプル分析の生データが、品質管理チェックとして管理されていない分析の正確さを検証するために後に見直すことができるデータベースに保存されることを理解するであろう。データ(生データおよび解析済みデータ)は、必要な情報を検索することができる多次元アレイまたは他のデータ構造に保存することができる。
【0024】
本発明の例示的実施形態は、薬剤サンプル中の不純物を同定するのに用いることができる。同様に、それは、可能な化学的侵害を診断するために、化学反応の副生成物を分析することにより特許権を行使するのにも用いることができる。さらに、本発明の例示的実施形態は、天然物を分析し、それらの純度を測定するのにも用いることができる。本発明の例示的実施形態を用いて作成された代謝物のリストは、MSまたはMS/MSモードにおけるフラクション収集、すなわち、正確な質量を用いた、または用いない前駆イオン、中性損失または生成物イオンの収集を誘発するのに用いることができる。当業者は、本明細書において明らかにした分析システムは、分析物サンプルを分析するために質量分析以外の分析システム構成要素を使用することができ、本発明の範囲から逸脱することなく、ガスクロマトグラフィーを液体クロマトグラフィーの代わりに用いることができることを理解するであろう。さらに、本発明は、代謝物のほかにサンプル中に含まれる他の物質を同定し、分析するのに用いることができる。
【0025】
質量分析による質量データを用いて追加の処理およびフィルタリングを行うことができる。正確な質量を用いた質量フィルターウインドーを代謝物の質量の周りに適用して、それを結果に含めるか、または結果から除外することができる。この付加的フィルターウインドーを適用するために、質量値は少なくとも小数点以下第4位を含まなければならない。小数点以下第4位の必要性は、MSおよびMS/MS分析モードの質量分析装置から得られるすべての正確な質量データに当てはまる。分析を行うユーザーは出発薬剤または化合物の質量小数位値を認識しているので、正確な質量を用いた質量フィルターウインドーを用いることは、偽陽性を除外する助けとなり得る。
【0026】
薬剤ベラパミル(Verapamil)の検討は、本発明の例示的実施形態によって実施される使用方法を例示するのに用いることができる。この場合、ベラパミルは、N−脱アルキル化代謝物を含む親薬物である。+/−70mDaまたは+/−0.070のまわりの質量ウインドーは、偽陽性を除外すると判明した代謝物のまわりに置くことができる。
【化1】

【0027】
親薬物ベラパミルは、455.2910の質量を有する。0.070の+/−フィルター(小数点以下第4位を有する質量値)をベラパミルの出発質量に加えることにより、本発明の例示的実施形態は、455.2210と455.3610の間の質量を有する上記の方法を用いて同定された予期しない代謝物のみを示す。質量ウインドーの適用は、得られた結果をベラパミルの質量に近い予期しない代謝物に限定する。同定された予期しないN−脱アルキル化代謝物は、ウインドー内にある441.2753の質量を有するので、得られた結果に表示される。
【0028】
本発明の例示的実施形態は、ユーザーが、予期しない代謝物を同定するために適用される質量ウインドーのサイズを迅速に選択することを可能にする。図5に、ユーザーがウインドーのサイズを指定することができるように、ユーザー向けに表示されるグラフィカルユーザーインターフェース80を示す。表示された実装形態では、ユーザーは最大の偏りの大きさを、グラフィカルユーザーインターフェース80のコントロールウインドー82にタイプする。指定された偏りの範囲内のサンプルのみが結果に表示される。当業者は、本発明の範囲から逸脱することなく、最大の偏りの大きさを指定するために、ラジオボタン、スライダーコントロール、プルダウンメニュー等の最大の偏りの大きさを示す他の方法を用いることもできることを認識するであろう。同様に、複数のウインドーを同時にユーザー向けに表示することができ、非連続結果データも代替実装形態において表示することができる。
【0029】
本発明の例示的実施形態は、同定された予期しない代謝物に関する生データを後に見るために乱されない状態にしておくことに注目すべきである。すなわち、ユーザーは、生データに戻り、原データに対して異なるサイズの質量ウインドーを再適用し、かつ/または異なる種類の解析を行う機会を有する。質量ウインドーの適用は、原データを乱さない。
【0030】
本発明の範囲から逸脱することなく特定の変更を行うことができるので、上の記述に含まれる、または添付図面に示されているすべての事項は、例示的なものであり、字義どおりの意味でないと解釈されることを意図するものである。当業者は、図に示すステップのシーケンスおよびアーキテクチャは本発明の範囲から逸脱することなく変更することができ、本明細書に含まれている図表は本発明の複数の可能な記述の一例であることを認識するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の例示的実施形態を実施するのに適切な環境を示す図である。
【図2】液体クロマトグラフィーおよび質量分析を実施するために用いられるステップのシーケンスのフローチャートを示す図である。
【図3】分析物サンプルの分析から不要な代謝物を除外するために用いられるステップの従来技術のシーケンスのフローチャートを示す図である。
【図4】分析物サンプルのデータを動的にフィルターにかけるための本発明の例示的実施形態によるステップのシーケンスのフローチャートを示す図である。
【図5】ユーザーが質量フィルターウインドーを選択することができる、本発明の例示的実施形態により得られるグラフィカルユーザーインターフェースを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不要な代謝物を決定するように、代謝物分析システムを用いて単一の対照サンプルをプログラムにより分析する段階と、
前記代謝物分析システムにより、前記決定済みの不要な代謝物を除外リストにプログラムにより加える段階と、
前記除外リストを用いて、予期しない代謝物について、前記代謝物分析システムで分析物サンプルをプログラムにより評価する段階と
を含む代謝物を分析する方法。
【請求項2】
前記代謝物分析システムがLC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)システムおよびLC−MS−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析−質量分析)システムのうちの1つである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記単一の対照サンプルにより得られた保存クロマトグラフデータとの参照によって、決定済みの不要な代謝物を除外リストに加える請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記評価が分析物サンプル分析中に前記除外リストにおいて特定された不要な代謝物をフィルター除去する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記分析物サンプル分析の液体クロマトグラフィー相から得られたクロマトグラフデータを、前記単一の対照サンプルにより得られ、前記除外リストによって参照される保存クロマトグラフデータの集合と比較することによって、不要な代謝物を前記評価がフィルター除去する請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記除外リストを用いて、天然物の同定および発見のために分析物サンプルを評価する請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記除外リストを用いて、サンプルについて不純物分析を実施する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記除外リストを用いて、化合物特許保護を行うようにサンプルを評価する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記除外リストを用いて、MS/MS指向フラクション収集を誘発する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記代謝物分析システムがガスクロマトグラフィーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項11】
偽陽性を除外するように、既知の出発薬物または出発化合物の1つの質量を含む質量フィルターウインドーを同定済みの予期しない代謝物の質量に適用することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
指定の質量値を含む質量フィルターウインドーを同定済みの予期しない代謝物の質量に適用することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
代謝物分析システムを接続した電子機器における
不要な代謝物を決定するように、代謝物分析システムを用いて単一の対照サンプルをプログラムにより分析する段階と、
前記代謝物分析システムにより、前記決定済みの不要な代謝物を除外リストにプログラムにより加える段階と、
前記除外リストを用いて、予期しない代謝物について、前記代謝物分析システムで分析物サンプルをプログラムにより評価する段階と
を含む方法の実行可能な段階を保持する媒体。
【請求項14】
前記代謝物分析システムがLC−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析)システムおよびLC−MS−MS(液体クロマトグラフィー−質量分析−質量分析)システムのうちの1つである請求項13に記載の媒体。
【請求項15】
前記単一の対照サンプルにより得られた保存クロマトグラフデータとの参照によって、決定済みの不要な代謝物を除外リストに加える請求項14に記載の媒体。
【請求項16】
前記評価が分析物サンプル分析中に前記除外リストにおいて特定された不要な代謝物をフィルター除去する請求項13に記載の媒体。
【請求項17】
前記分析物サンプル分析の液体クロマトグラフィー相から得られたクロマトグラフデータを、前記単一の対照サンプルにより得られ、前記除外リストによって参照される保存クロマトグラフデータの集合と比較することによって、前記評価が不要な代謝物をフィルター除去する請求項16に記載の媒体。
【請求項18】
前記除外リストを用いて、天然物の同定および発見のために分析物サンプルを評価する請求項13に記載の媒体。
【請求項19】
前記除外リストを用いて、サンプルについて不純物分析を実施する請求項13に記載の媒体。
【請求項20】
前記除外リストを用いて、化合物特許保護を行うようにサンプルを評価する請求項13に記載の媒体。
【請求項21】
前記除外リストを用いて、MS/MS指向フラクション収集を誘発する請求項13に記載の媒体。
【請求項22】
前記代謝物分析システムがガスクロマトグラフィーを含む請求項13に記載の媒体。
【請求項23】
偽陽性を除外するように、既知の出発薬物または出発化合物の1つの質量を含む質量フィルターウインドーを同定済みの予期しない代謝物の質量に適用することをさらに含む請求項13に記載の媒体。
【請求項24】
指定の質量値を含む質量フィルターウインドーを同定済みの予期しない代謝物の質量に適用することをさらに含む請求項13に記載の媒体。
【請求項25】
クロマトグラフィーモジュール、
少なくとも1つの質量分析モジュール、
単一の対照サンプルの前記クロマトグラフィーモジュールによって得られるクロマトグラフデータを保持する記憶場所を保持する電子素子、および
保存クロマトグラフデータへの参照を含み、予期しない代謝物を同定するように分析物サンプルにプログラムにより適用される同定済み代謝物の除外リスト
を含む代謝物分析装置。
【請求項26】
前記クロマトグラフィーモジュールが液体クロマトグラフィーモジュールである請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記クロマトグラフィーモジュールがガスクロマトグラフィーモジュールである請求項25に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2006−518856(P2006−518856A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503877(P2006−503877)
【出願日】平成16年2月24日(2004.2.24)
【国際出願番号】PCT/US2004/005652
【国際公開番号】WO2004/076681
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(504438255)ウオーターズ・インベストメンツ・リミテツド (80)
【Fターム(参考)】