同期フェーザ測定装置
【課題】高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ装置を提供すること。
【解決手段】電力系統の電圧を計測して時系列のアナログデータを生成する電圧計測部1と、時系列のアナログデータを時系列のデジタルデータに変換するA/D変換部2と、時系列のデジタルデータの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する現時点周波数算出部3と、電圧瞬時値および周波数を用いて現時点のフェーザを算出する現時点フェーザ算出部6と、現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する時間同期フェーザ算出部7と、を備える。
【解決手段】電力系統の電圧を計測して時系列のアナログデータを生成する電圧計測部1と、時系列のアナログデータを時系列のデジタルデータに変換するA/D変換部2と、時系列のデジタルデータの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する現時点周波数算出部3と、電圧瞬時値および周波数を用いて現時点のフェーザを算出する現時点フェーザ算出部6と、現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する時間同期フェーザ算出部7と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期フェーザ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統内の潮流が複雑化するにつれ、信頼性および精度の高い電力系統の制御および保護が要求されるようになっている。中でも、電力系統の制御および保護に必要な基本装置の一つである同期フェーザ測定装置(Phasor Measurement Unit:PMU)に対する性能向上の必要性が高まってきている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
従来、この種の電力系統制御保護に用いられる同期フェーザ測定装置には、主として基準波比較方式と1サイクル積分方式とがある。基準波比較方式は、PMUの内部に系統定格周波数の基準波とGPS時刻を有し、入力データを基準波と比較し、その差分を同期フェーザとする方式であり、1サイクル積分方式は1サイクルの積分演算で自端の同期フェーザを計算する方式である。
【0004】
しかしながら、基準波比較方式では、一点のみの差分計算方式(同じ時刻の入力データと基準波点の差分計算)であるため誤差は非常に大きく、平均化処理などをしているが安定した値が得られないという問題点がある(非特許文献1参照)。
【0005】
また、1サイクル積分方式では、系統周波数が定格周波数からずれた場合、計算誤差が非常に大きくなるという問題点がある(非特許文献2参照)。
【0006】
現在の2つの方式は、共に実数瞬時値ベースで交流波形を模擬するものであり、例えばフーリエ変換で電圧瞬時値波形を分解してその中の基本波(同期フェーザ)を抽出し、その後、基本波の周波数を求めるという方法であり、更に周波数―ゲイン特性曲線により各交流電気量の補正を行う必要もあった。したがって、これらの従来方式を具現するには、フーリエ変換、周波数―ゲイン補正処理、平均化処理などの遅れ時間要素が導入されるため、リアルタイムな計測値が得られず、高速・高精度な同期フェーザを測定することができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第08/126240号
【特許文献2】特開平5−274049号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「IEEE Standard for Synchrophasors」C37.118−2005
【非特許文献2】「IEEJ Trans.PE,Vol.123、No.12,pp1471−1479, 2003」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、本発明者が既に提案した動的周波数測定手法を用いると共に、本発明者が新たに提案する時間同期フェーザの概念を導入して高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる同期フェーザ測定装置は、電力系統の電圧を計測する電圧計測部と、前記電圧計測部が計測した電圧時系列データの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する周波数算出部と、前記電圧瞬時値および前記周波数を用いて現時点のフェーザを算出するフェーザ算出部と、現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する時間同期フェーザ算出部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる同期フェーザ測定装置によれば、本発明者が新たに提案した時間同期フェーザにより、高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ装置を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、複素平面上の電圧回転ベクトルを示す図である。
【図3】図3は、複素平面上でのサンプリング1刻みによる電圧回転ベクトを示す図である。
【図4】図4は、入力周波数が定格周波数である場合の電圧回転ベクトル振幅および電圧回転ベクトル弦長の測定結果の一例を示す図である。
【図5】図5は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧振幅の測定結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、入力周波数が異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧弦長の測定結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施の形態の手法を用いた場合の周波数測定に係るゲイン特性の一例を示す図である。
【図8】図8は、サンプリング1刻みに対応する中心角の半値(α)に係る測定結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、各入力周波数における電圧振幅と電圧弦長の測定結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、複素平面の上半面におけるフェーザを示す図である。
【図11】図11は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザの測定結果を示す図である。
【図12】図12は、複素平面の上半面におけるフェーザ推定値を示す図である。
【図13】図13は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザ測定結果を示す図である。
【図14】図14は、正方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。
【図15】図15は、逆方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。
【図16】図16は、反転モードで回転しているフェーザを説明する図である。
【図17】図17は、フェーザ測定までに至る一連の処理フローを示すフローチャートである。
【図18】図18は、正正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図19】図19は、正逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図20】図20は、逆逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図21】図21は、逆正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図22】図22は、ラッチモードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図23】図23は、入力周波数に対する時間同期フェーザの変化特性を示す図である。
【図24】図24は、入力周波数が定格周波数より小さい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図である。
【図25】図25は、入力周波数が定格周波数より大きい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図である。
【図26】図26は、時間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。
【図27】図27は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図28】図28は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図29】図29は、空間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。
【図30】図30は、入力周波数が定格周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図31】図31は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図32】図32は、入力周波数が定格周波数から外れ、且つ、自端または他端のうちの何れかの周波数が変化する場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図33】図33は、本実施の形態の同期フェーザ測定装置が適用される電力系統の一構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の構成を示す図である。図1の構成図では、母線A,B,Cを有する電力系統において、電力系統の一端(自端)に位置する母線Aに設けられた計器用変圧器PTに同期フェーザ測定装置100が接続され、電力系統の他端に位置する母線Cに設けられた計器用変圧器PTに同期フェーザ測定装置100と同等の同期フェーザ測定装置(PMU(Phasor Measurement Unit)として図示)102が接続される場合を一例として示している。なお、離間されて配置された同期フェーザ測定装置100,102同士は、通信チャンネル15にて接続されており、所要の情報が相互に伝達される構成となっている。
【0015】
つぎに、本実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置100の構成および概略の機能について説明する。図1に示すように、同期フェーザ測定装置100は、電圧測定部1、A/D変換部2、現時点周波数算出部3、電圧瞬時値推定値算出部4、電圧振幅推定値算出部5、現時点フェーザ算出部6、時間同期フェーザ算出部7、他端同期フェーザ受信部8、母線間同期フェーザGPS時間同定部9、空間同期フェーザ算出部10、インターフェース11、記憶部12、および送信部13を備えている。なお、本実施の形態において、電圧測定部1およびA/D変換部2は、広義の電圧測定部を構成する。
【0016】
電圧測定部1は、計器用変圧器PTにて実測された電圧時系列データ(アナログデータ)を取り込み所定のタイミングごとにA/D変換部2に送り込む。A/D変換部2は、時系列のアナログデータを時系列のデジタルデータに変換する。現時点周波数算出部3は、実測されたデジタルデータの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する。なお、電圧回転ベクトルは、複素平面上で反時計周りに回転している動的ベクトルであり、電圧回転ベクトルの実数部が電圧瞬時値に対応する。
【0017】
電圧瞬時値推定値算出部4は、算出した周波数および計測した電圧瞬時値を用いて電圧瞬時値推定値を算出する。電圧振幅推定値算出部5は、周波数および電圧瞬時値推定値を用いて電圧振幅推定値を算出する。なお、電圧瞬時値推定値および電圧振幅推定値は、例えば最小二乗法などを利用して算出することができる。
【0018】
現時点フェーザ算出部6は、電圧瞬時値推定値および電圧振幅推定値を用いて現時点におけるフェーザを算出する。時間同期フェーザ算出部7は、現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する。他端同期フェーザ受信部8は、他端にある同期フェーザ測定装置102から通信チャンネル15を通じて送信された同期フェーザの情報を受信する。なお、受信した同期フェーザには、GPSの時間情報(GPS時間)が付されている。母線間同期フェーザGPS時間同定部9は、自端フェーザに対応するGPS時間と受信した他端フェーザに対応するGPS時間とを同定する処理を行う。なお、同期フェーザに付される時間情報はGPS時間である必要はなく、両装置が個別に有している時計の時刻を用いてもよい。
【0019】
空間同期フェーザ算出部10は、自端フェーザと、同定された他端フェーザとの差分である空間同期フェーザを算出する。インターフェース11は、上述の算出結果を表示装置や外部装置に出力する機能を提供する。記憶部12は、計測データや算出結果などを記憶する機能を提供する。送信部13は、算出した同期フェーザ等を対向する装置等に送信する機能を提供する。
【0020】
なお、上記の構成において、電圧測定部1およびA/D変換部2は、デジタル電圧出力端子を有する電圧計などを用いることができる。また、現時点周波数算出部3、電圧瞬時値推定値算出部4、電圧振幅推定値算出部5、現時点フェーザ算出部6、時間同期フェーザ算出部7、他端同期フェーザ受信部8、母線間同期フェーザGPS時間同定部9、空間同期フェーザ算出部10、インターフェース11、記憶部12、および送信部13は、CPU、RAM、ROMおよびインターフェース回路を有する汎用のコンピュータならびに、汎用のコンピュータに接続され、所要の通信機能を有する機器等を用いることができる。
【0021】
つぎに、本実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の詳細機能について説明する。なお、ここではまず、図2〜9を参照し、本実施の形態における周波数測定手法を説明する。
【0022】
図2は、複素平面上の電圧回転ベクトルを示す図である。この電圧回転ベクトルは、電圧振幅V(t)を有し、反時計周りにω(=2πf)で回転している。ここで、いま、電力系統の周波数をf1(t)で表せば、この周波数f1(t)は、次式を用いて計算することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
上記(1)式において、f0は系統の定格周波数(50Hzまたは60Hz)であり、Ψ(t)は定格周波数に対応する1サイクル周期時間に回転した位相角(ラジアン)である。
【0025】
ここで、本実施の形態では、上記Ψ(t)を、次の積分計算式を用いて算出することを提案する。
【0026】
【数2】
【0027】
上記(1)および(2)式において、T0は定格周波数に対応する1サイクル周期時間であり、次式を用いて計算できる。
【0028】
【数3】
【0029】
図3は、複素平面上でのサンプリング1刻みによる電圧回転ベクトを示す図である。図3において、三角形AOBの両斜辺V(t)およびV(t-T)を等しいと仮定し、弦長ABの中心点をCとすれば、サンプリング1刻みの回転位相角(中心角2α)の半値αに対し、次の関係式が成立する。
【0030】
【数4】
【0031】
また、この半値αは、次式を用いて計算できる。
【0032】
【数5】
【0033】
さらに、定格周波数に対応する1サイクル周期時間に回転した位相角は、同じ周期時間に対応するサンプリングステップ数の2倍であるため、1周期時間におけるサンプリングステップ数を4N(Nは自然数)とすれば、回転位相角Ψ(t)は、次式のように計算できる。
【0034】
【数6】
【0035】
この(6)式を上記(1)式に代入すれば、電力系統の周波数f1(t)は、次式のように計算される。
【0036】
【数7】
【0037】
以上のように、本実施の形態における周波数測定手法では、周波数測定問題を従来のサイン波の零クロスポイントを検出する手法から、定格周波数に対応する1サイクル周期時間に回転した位相角を積算する手法((2)式、(6)式、および(7)式を用いる手法)に変更している。なお、従来の零クロス手法が微分計算を用いる方式であるのに対し、新しい提案手法は積分計算を用いる手法である。言うまでもないが、新しい提案手法の方が、安定した周波数の算出が可能となる。
【0038】
つぎに、回転位相角の算出手法について説明する。スパイラルベクトル理論によれば、電力系統の電圧複素数状態変数は、フーリエ変換式を用いて次式のように表すことができる。
【0039】
【数8】
【0040】
すなわち、電圧複素数状態変数は、電圧基本波成分と複数の電圧高調波成分より構成される。ここで、上記(8)式における各記号の意味は、次のとおりである。
V:基本波電圧振幅
ω:基本波角速度
θ:基本波電圧初期位相
Vk:k次高調波電圧振幅
ωk:k次高調波電圧角速度
φk:k次高調波電圧初期位相
M:正の整数
【0041】
一方、実測電圧値は、複素数状態変数の実数部で表すことができ、余弦関数にて次式のように表すことができる。
【0042】
【数9】
【0043】
なお、以下の展開において、説明の便宜のために、実測電圧値は次式のように基本波のみで表すこととする。
【0044】
【数10】
【0045】
また、以下の展開式はすべて積分計算式であるため、実測電圧値の中に基本波周波数2倍以上の高調波成分は計算の過程で打ち消されることとなり、計算結果に高調波の影響が現れない。つまり、本実施の形態の手法では、全ての計算を積分計算式を用いて行っているため、基本波周波数2倍以上の高調波が存在する場合に、その高調波の影響を小さくすることが可能となる。
【0046】
つぎに、実測されたデジタルデータの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルの振幅(電圧回転ベクトル振幅)について考える。この電圧回転ベクトル振幅は、数学的に、次式を用いて計算することができる。
【0047】
【数11】
【0048】
また、サンプリング周波数fsは、定格周波数に対応する1サイクル周期時間のサンプリングステップ数4Nを用いて、次式のように表すことができる。
【0049】
【数12】
【0050】
また、サンプリング1刻み時間は、次式を用いて計算できる。
【0051】
【数13】
【0052】
例えば、定格周波数f0を50Hz、Nを3とすれば、サンプリング周波数fSは、600Hz、1刻み時間は、0.001666667秒である。これらの条件を適用すると、電圧回転ベクトル振幅のアナログ計算式である(11)式は、電圧回転ベクトル振幅のデジタル計算式として、次式のように表すことができる。なお、Tは(13)式を用いて計算されるサンプリング1刻み時間である。
【0053】
【数14】
【0054】
つぎに、電圧回転ベクトルの弦長(電圧回転ベクトル弦長)について考える。この電圧回転ベクトル弦長は、数学的に、次式を用いて計算することができる。
【0055】
【数15】
【0056】
電圧回転ベクトル振幅と同様に、電圧回転ベクトル弦長のデジタル計算式は、次式のように表すことができる。
【0057】
【数16】
【0058】
図4は、入力周波数が定格周波数である場合の電圧回転ベクトル振幅および電圧回転ベクトル弦長の測定結果の一例を示す図である。なお、図4に示すグラフは、下記「表1」に示すケース1のパラメータを用いて、シミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。
【0059】
【表1】
【0060】
図4において、小さな「黒三角」でプロットした曲線は電圧瞬時値(理論値)であり、大きな「黒四角」でプロットした曲線は電圧回転ベクトル振幅(以下「電圧振幅」と称する)の計算値であり、大きな「黒三角」でプロットした曲線は電圧回転ベクトル弦長(以下「電圧弦長」と称する)の計算値である。このように、入力電圧の周波数が定格周波数である場合、電圧振幅の計算値と理論値(45V)および電圧弦長の計算値と理論値(V2=2×45sin15=23.2937)とは、それぞれが一致していることがわかる。
【0061】
しかしながら、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合、上式による電圧振幅および電圧弦長の計算結果は振動する。このため、上式をそのまま適用すると周波数測定に誤差を生じる。この問題を解決するため、以下に、差分振幅積分計算式および差分弦長積分計算式の導入を提案する。
【0062】
まず、次式で示される差分振幅積分計算式および差分弦長積分計算式を導入する。
【0063】
【数17】
【0064】
【数18】
【0065】
上記2つの差分積分計算式では、1サイクルサンプリング数の半分の瞬時値が自乗され、半分の瞬時値が自分の反対側180度の瞬時値と掛算される。この演算によれば、入力周波数が定格周波数の場合、普通の理論計算式と同じ結果になり、入力周波数が異常周波数の場合、普通の理論計算式と異なり、振動のない計算結果が得られる。
【0066】
つぎに、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数の場合の具体的な計算例を示す。まず、入力周波数が50Hz(定格周波数)、サンプリング周波数が600Hz(すなわちN=3)である場合を考える。このとき、電圧振幅は、次式で計算される。
【0067】
【数19】
【0068】
同様に、電圧弦長は、次式で計算される。
【0069】
【数20】
【0070】
図5は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧振幅の測定結果の一例を示す図であり、下記「表2」に示すケース2のパラメータを用いてシミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。ここで、2種類の積分式とは、一般積分式と差分積分式とがあり、(14)式が一般積分式であり、(19)式が差分積分式である。
【0071】
【表2】
【0072】
図5において、「黒三角」でプロットした曲線が一般積分式による計算値であり、「黒四角」でプロットした曲線が差分積分式による計算値である。一般積分式の場合には計算結果が振動し、差分振幅積分式の場合には計算測定が安定していることが確認できる。但し、差分振幅積分式の測定結果は、実際入力電圧の振幅と異なることに注意が必要である。これは、入力電圧の周波数が定格周波数から外れているためであり(本ケースにおける周波数は45Hz)、計算の過程で自動的に補正されたものと考えられる。この点については、後述する図9の図面を参照するところで説明する。
【0073】
また、図6は、入力周波数が異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧弦長の測定結果の一例を示す図であり、上記「表2」に示すケース2のパラメータを用いて、シミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。なお、2種類の積分式は、図5のときと同様であり、(16)式が一般積分式であり、(20)式が差分積分式である。
【0074】
図6において、「黒三角」でプロットした曲線が一般積分式による計算値であり、「黒四角」でプロットした曲線が差分積分式による計算値である。電圧振幅のときと同様に、一般積分式の場合には計算結果が振動し、差分振幅積分式の場合には計算結果が安定していることが確認できる。
【0075】
図7は、本実施の形態の手法を用いた場合の周波数測定に係るゲイン特性の一例を示す図である。図7に示すゲイン特性図では、サンプリング周波数が600Hzのときに測定周波数の大きさが入力周波数に対しどの様に変動するかの関係を示している。なお、入力パラメータは、下記「表3」に示すケース3のパラメータを用いている。
【0076】
【表3】
【0077】
図7によれば、300Hzまでの入力周波数に対してはゲインが1であり、入力周波数を正確に測定できていることが確認できる。このことは、標本化定理に合致していることの裏返しであり、当然の結果でもある。ただし、300Hz以下のサンプリング周波数において、100Hz/200Hz/300Hzなどの幾つかの特異点がある。その理由については、後述する図9の図面を参照するところで説明する。
【0078】
図8は、サンプリング1刻みに対応する中心角の半値(α)に係る測定結果の一例を示す図である。入力パラメータは、上記「表3」に示すケース3のパラメータを用いている。例えば、入力周波数が50Hz、100Hzの場合、サンプリング1刻みに対応する中心角の半値は、それぞれ15度および30度であることが確認できる。
【0079】
図9は、各入力周波数における電圧振幅と電圧弦長の測定結果の一例を示す図である。入力パラメータは、上記「表3」に示すケース3のパラメータを用いている。
【0080】
図9において、「黒四角」でプロットした曲線が電圧振幅の計算値であり、「黒三角」でプロットした曲線が電圧弦長の計算値である。また、これらの曲線を横断する太実線は、理論値(入力電圧振幅)である。
【0081】
図9から理解できることは、理論値と計算値とは全体としては一致しないが、300Hz以下の周波数では50Hz,150Hz,250Hzの3ポイントで一致していることにある。図5の計算結果において、差分振幅積分式の測定結果が実際の入力電圧振幅と異なっていたのは、図5の計算結果がケース2のパラメータ(入力電圧の周波数が45Hz)を用いてシミュレーションしたものであり、図9に示すような周波数に対する周期的な変動特性を有しているためである。なお、図7の計算結果において、100Hz/200Hz/300Hzが特異点となっているのも同様な理由による。
【0082】
つぎに、図10〜17を参照し、本実施の形態におけるフェーザ測定手法を説明する。
【0083】
図10は、複素平面の上半面におけるフェーザを示す図である。ここで、フェーザは次式のように定義される。
【0084】
【数21】
【0085】
上記(21)式において、v(t)は実測される電圧瞬時値である。なお、V(t)は上述した電圧振幅(電圧回転ベクトルの振幅値)である。(21)式に示されるように、本実施の形態におけるフェーザとは、複素平面の上半面において回転している電圧回転ベクトルの位相角である。なお、複素平面の上半面を変動域としているので、α(t)のとり得る値は、0〜πであり、負の値になることはない。
【0086】
図11は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザの測定結果を示す図であり、上記「表1」に示すケース1を入力パラメータとし、式(21)により求めた測定結果を示したものである。入力周波数が定格周波数の場合、図11に示すように、定格周波数の逆数の周期で0〜πの値をとるフェーザが得られている。
【0087】
一方、入力周波数が定格周波数ではない場合、測定した電圧振幅および電圧瞬時値は実際の入力電圧と異なる値になる。特に、電圧瞬時値の実測値は、高調波、電圧フリッカなどに影響されるため不安定な値となる。したがって、測定した電圧振幅および電圧瞬時値を(21)式にそのまま適用すると、フェーザは不安定な値をとる。そこで、実際の入力電圧に基づくより正確な電圧振幅および電圧瞬時値となるよう、それらの推定値(電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値)を求める。電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値を用いるようにすれば、高調波、電圧フリッカなどの影響を抑制することが可能となる。
【0088】
なお、電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値の推定手法として、従属変数(目的変数)と独立変数(説明変数)との間を定量的に分析する種々の回帰分析手法が適用可能であるが、ここでは、重み付け係数を用いた回帰分析手法の一つである、最小二乗法を用いる場合について説明する。
【0089】
まず、電圧瞬時値は次式のように展開される。
【0090】
【数22】
【0091】
つぎに、上記(22)式に最小二乗法で適用する。この場合、(22)式の係数P1,P2は、次式のように計算される。
【0092】
【数23】
【0093】
なお、上記(23)式における係数行列[P]は、列ベクトル形式にて、以下のとおり表される。
【0094】
【数24】
【0095】
また、電圧瞬時値は、列ベクトル形式にて、以下のとおり表される。
【0096】
【数25】
【0097】
さらに、上記(23)式における係数行列[A]は、以下のとおり表される。
【0098】
【数26】
【0099】
上記(26)式において、ω1は角周波数であり、次式のように計算される。
【0100】
【数27】
【0101】
上記(27)式において、f1は上記(7)式にて計算された周波数である。また、t1〜t4Nは、時系列に並べたサンプリング時間であり、次式のように計算される。
【0102】
【数28】
【0103】
電圧瞬時値推定値は、上記(24)式、(27)式、および(28)式を用いて、次式のように計算される。
【0104】
【数29】
【0105】
また、電圧振幅推定値は、上記(29)式を用いて、次式のように計算される。
【0106】
【数30】
【0107】
上記(30)式において、時間刻み幅T1(t)は、次式のように計算される。
【0108】
【数31】
【0109】
このように、(29)式および(30)式により、電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値の算出が可能である。
【0110】
図12は、複素平面の上半面におけるフェーザ推定値を示す図である。ここで、フェーザ推定値は、(29)式および(30)式にて算出された電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値を(21)式に適用することにより、次式のように計算される。
【0111】
【数32】
【0112】
なお、これ以降の演算処理では、上記(32)式に示されるフェーザ推定値を用いることになる。このため、今後、(32)式で表されるフェーザ推定値を、単にフェーザと呼称する。
【0113】
図13は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザ測定結果を示す図であり、上記「表2」に示すケース2のパラメータを用いてシミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。
【0114】
入力周波数定格周波数から外れた異常周波数(45Hz)であるため、図11に示した定格周波数におけるフェーザ変化曲線とは異なり、時間軸におけるフェーザ値間の対称関係が失われていることが確認できる。
【0115】
つぎに、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザについて説明する。なお、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザの説明には、以下に定義する「フェーザ回転モード」の情報が必要となるので、以下に、当該フェーザ回転モードの定義および計算手法について説明する。
【0116】
まず、フェーザ回転モードの定義式について説明する。フェーザ回転モードαm(t)は、次式のように定義される。
【0117】
【数33】
【0118】
上記(33)式では、3つのモードが定義されている。これら3つのモードについては、それぞれ図14、図15および図16を参照して説明する。
【0119】
図14は、正方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。図14によれば、フェーザは、時間の経過と共に反時計方向に回転しており、回転位相角の値は次第に大きくなって行く。よって、図14に示すようなフェーザ回転モードを正方向モードと定義し、その値は“1”とする。
【0120】
図15は、逆方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。図15によれば、フェーザは、時間の経過と共に時計方向に回転しており、回転位相角の値は次第に小さくなって行く。よって、図15に示すようなフェーザ回転モードを逆方向モードと定義し、その値は“−1”とする。
【0121】
図16は、反転モードで回転しているフェーザを説明する図である。図16によれば、フェーザの回転はV(t-T)のところで反転している。したがって、図16に示す例は、正方向モードでもなく、逆方向モードでもない。よって、この例のような正方向モードでもなく、逆方向モードでもない場合を反転モードと定義し、その値は“0”とする。
【0122】
図17は、上述したフェーザ測定までに至る一連の処理フローを示すフローチャートである。まず、ステップS101では、入力したアナログデータのサンプリングおよびA/D変換が実行され、ステップS102では、上述した周波数測定手法により、現時点の周波数が測定される(上記(7)式を参照)。
【0123】
ステップS103では、ステップS102で測定された現時点の周波数および時系列瞬時値データに基づき、例えば最小二乗法を適用して現時点における電圧瞬時値推定値を算出する(上記(23)式および(29)式を参照)。
【0124】
ステップS104では、ステップS103と同様、ステップS102で測定された現時点の周波数および時系列瞬時値データに基づき、例えば最小二乗法を適用して現時点における電圧振幅推定値を算出する(上記(30)式および(31)式を参照)。
【0125】
ステップ105では、ステップS103で推定された電圧瞬時値推定値と、ステップS104で推定された電圧振幅推定値を用いて、現時点におけるフェーザを算出する(上記(32)式を参照)。
【0126】
ステップ106では、ステップS104で算出された現時点におけるフェーザ、サンプリング1刻み前のフェーザ、およびサンプリング2ステップ前のフェーザを用いて、現時点におけるフェーザ回転モードを確定する(上記(33)式を参照)。
【0127】
ステップ107では、本フローによる処理を終了するか否かを判定し、終了しない場合にはステップ101へ戻り、終了する場合には、本フローを抜け出る。
【0128】
つぎに、本願発明者が、今回新規に提案する時間同期フェーザおよびその測定手法について図18〜25の図面を参照して説明する。なお、時間同期フェーザとは、複素平面の上半面で回転している現在のフェーザと1または数サイクル前の同じ交流電圧のフェーザとの差分である。
【0129】
まず、時間同期フェーザαTPの定義式について説明する。現時点のフェーザが1または数サイクル前の時点のフェーザよりも進んでいる場合の時間同期フェーザαTPは、次式のように定義される。
【0130】
【数34】
【0131】
上記(34)式において、α2(t)は、1サイクルまたは数サイクル前の時点のフェーザであり、次式で与えられる。なお、nは自然数である。また、現時点のフェーザα1(t)が、1または数サイクル前の時点のフェーザα2(t)よりも遅れている場合の時間同期フェーザαTPは、後述の(37)式で示される。
【0132】
【数35】
【0133】
また、上記(34)式において、α1m,α2mはそれぞれフェーザα1(t),α2(t)の回転モードである。これらα1m,α2mについては、それぞれ図18〜22を参照して以下に説明する。
【0134】
図18は、正正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。ここで「正正モード」は上記(34)式の第1式(1行目の式)に対応しており、時間同期フェーザ変化モードの一つである。図18において、フェーザα1(t),α2(t)は、それぞれ反時計方向に回転しているので、それらの回転モードα1m,α2mはそれぞれ“1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“1”のとき、時間同期フェーザ変化モードを「正正モード」と定義する。
【0135】
図19は、正逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図19において、フェーザα1(t)は反時計方向に回転しているので、その回転モードα1mは“1”であり、フェーザα2(t)は時計方向に回転しているので、その回転モードα2mは“−1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“−1”のときの時間同期フェーザ変化モードを「正逆モード」と定義する。なお、「正正モード」時の時間同期フェーザは、上記(34)式の第2式(2行目の式)を用いて計算される。
【0136】
図20は、逆逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図20において、フェーザα1(t),α2(t)は、それぞれ時計方向に回転しているので、それらの回転モードα1m,α2mはそれぞれ“−1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“−1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“−1”のときの時間同期フェーザ変化モードを「逆逆モード」と定義する。なお、「逆逆モード」時の時間同期フェーザは、上記(34)式の第3式(3行目の式)を用いて計算される。
【0137】
図21は、逆正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図21において、フェーザα1(t)は時計方向に回転しているので、その回転モードα1mは“−1”であり、フェーザα2(t)は反時計方向に回転しているので、その回転モードα2mは“1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“−1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“1”のときの時間同期フェーザ変化モードを「逆正モード」と定義する。なお、「逆正モード」時の時間同期フェーザは、上記(34)式の第4式(4行目の式)を用いて計算される。
【0138】
図22は、ラッチモードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図22に示す例では、フェーザα1(t)は時計方向に回転しており、その回転モードα1mは“−1”であるものの、フェーザα2(t)の回転モードα2mは不明である。すなわち、図22に示す例は、時間同期フェーザ変化モードが上記4つの場合以外を示している。このような場合を、ここではラッチモードと定義する。なお、時間同期フェーザ変化モードがラッチモードの場合には、上記(34)式の第5式(5行目の式)に示すように、サンプリング1刻み前の値をラッチするようにする。この処理は、時間同期フェーザの不確定性の影響を回避する処理である。このラッチモードを定義することにより、従来のPMU測定手法において現れた同期フェーザのパルス値を回避することができる。
【0139】
図23は、入力周波数に対する時間同期フェーザの変化特性を示す図である。図23に示す変化特性では、定格周波数が50Hzであるときの時間同期フェーザが入力周波数に対しどの様に変動するかの関係を示している。例えば、入力周波数が40Hzである場合、1サイクル前後の時間同期フェーザは72度である。なお、この時間同期フェーザの値は、次式のように計算できる。
【0140】
【数36】
【0141】
図23は、時間同期フェーザが入力周波数に対しどの様に変動するかの関係を示したものであったが、図24および図25は、時間同期フェーザが時間に対しどの様に変動するかの関係を示すものである。具体的に、図24は、入力周波数が定格周波数より小さい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図であり、図25は、入力周波数が定格周波数より大きい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図である。
【0142】
ここで、図24の変化特性図は、以下の内容を明らかにしている。
(1)時間同期フェーザが変化しない場合、入力周波数も変化しない。
(2)時間同期フェーザが増大する場合、入力周波数は定格周波数から離れ更に減少して行く。
(3)時間同期フェーザが減少する場合、入力周波数は定格周波数に向け増大して行く。
【0143】
また、図25の変化特性図は、以下の内容を明らかにしている。
(1)時間同期フェーザが変化しない場合、入力周波数も変化しない。
(2)時間同期フェーザが増大する場合、入力周波数は定格周波数から離れ更に増大して行く。
(3)時間同期フェーザが減少する場合、入力周波数は定格周波数に向け減少して行く。
【0144】
つぎに、現時点のフェーザα1(t)が、1または数サイクル前の時点のフェーザα2(t)よりも遅れている場合の時間同期フェーザαTPの計算式を下記に示す。
【0145】
【数37】
【0146】
なお、上式における、回転モードα1m,α2mは、上記(34)式に示したものと同一である。また、時間同期フェーザ変化モードに対応する計算式も(34)式と同じである。なお、各計算式との対応関係を具体的に示せば、以下の通りである。
(1)「正正モード」→(37)式の第1式(1行目の式)
(2)「正逆モード」→(37)式の第2式(2行目の式)
(3)「逆逆モード」→(37)式の第3式(3行目の式)
(4)「逆正モード」→(37)式の第4式(4行目の式)
(5)「ラッチモード」→(37)式の第5式(5行目の式)
【0147】
図26は、時間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。なお、本フローにおいて、現時点のフェーザを「フェーザ1」とし、1または数サイクル前の時点のフェーザを「フェーザ2」として説明する。
【0148】
ステップ201では、フェーザを測定し、フェーザ回転モードを確定する。なお、フェーザの測定およびフェーザ回転モードの確定は、前述した図17に示すフローチャートにて実行される。
【0149】
ステップ202では、フェーザ1がフェーザ2に対してリードしているか否か(進んでいるか否か)を判別する。フェーザ1がリードしている(進んでいる)場合にはステップS203に移行し、フェーザ2がリードしている場合にはステップS213に移行する。なお、ステップS213の処理は、これ以降で説明するステップS203〜S212と同等の処理が実行される。フェーザ1がリードしている場合の処理と、フェーザ2がリードしている場合の処理との差異は、時間フェーザを計算する際の計算式が異なるのみであり、処理の流れ等は同一である。なお、フェーザ1がリードしている場合には、(34)式と(35)式とが用いられ、フェーザ2がリードしている場合には、(35)式と(37)式とが用いられる。
【0150】
ステップ203では、時間同期フェーザ変化モード(以下単に「変化モード」と称する)が正正モードか否かを判別する。変化モードが正正モードの場合、ステップS204にて、正正モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが正正モードではない場合、ステップS205に移行する。
【0151】
ステップ205では、変化モードが正逆モードか否かを判別する。変化モードが正逆モードの場合、ステップS206にて、正逆モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが正逆モードではない場合、ステップS207に移行する。
【0152】
ステップ207では、変化モードが逆逆モードか否かを判別する。変化モードが逆逆モードの場合、ステップS208にて、逆逆モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが逆逆モードではない場合、ステップS209に移行する。
【0153】
ステップ209では、変化モードが逆正モードか否かを判別する。変化モードが逆正モードの場合、ステップS210にて、逆正モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが逆正モードではない場合、ステップS211に移行する。
【0154】
ステップ211では、変化モードをラッチモードとし、サンプリング1刻み前の値をラッチして、ステップS212へ移行する。
【0155】
ステップ212では、本フローによる処理を終了するか否かを判定し、終了しない場合にはステップ201へ戻り、終了する場合には本フローを抜け出る。
【0156】
図27は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図であり、上記「表1」に示すケース1を入力パラメータとし、式(34)もしくは式(37)により求めた測定結果である。なお、フェーザ2としては、フェーザ1よりも2サイクル前の時点のフェーザ値を用いている。
【0157】
図27において、「黒三角」でプロットした曲線がフェーザ(フェーザ1を図示)であり、「黒丸」でプロットした曲線が時間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数の場合、図27に示すように、時間同期フェーザは常に零であり、時間に対して変化しないことが分かる。
【0158】
図28は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図であり、上記「表2」に示すケース2を入力パラメータとし、式(34)もしくは式(37)により求めた測定結果である。なお、図27と同様に、フェーザ2としては、フェーザ1よりも2サイクル前の時点のフェーザ値を用いている。
【0159】
図28において、「黒三角」でプロットした曲線がフェーザ(フェーザ1を図示)であり、「黒丸」でプロットした曲線が時間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合、図28に示すように、時間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持する。なお、図28の例における、時間同期フェーザは、次式のように計算することができる。
【0160】
【数38】
【0161】
つぎに、系統母線間の空間同期フェーザおよびその測定手法について説明する。なお、空間同期フェーザとは、複素平面の上半面で回転しているフェーザであって、自端装置で計測したフェーザ(以下「自端フェーザ」と称する)と、他端装置で計測したフェーザ(以下「他端フェーザ」と称する)との差分である。
【0162】
まず、空間同期フェーザαSPの定義式について説明する。自端フェーザα1(t)が他端フェーザα2(t)よりも進んでいる場合の空間同期フェーザαSPは、次式のように定義される。
【0163】
【数39】
【0164】
上記(39)式において、α1m,α2mはそれぞれ自端フェーザα1(t)、他端フェーザα2(t)の回転モードである。なお、これらα1m,α2mについては、図18〜22の時間同期フェーザαTPを空間同期フェーザαSPに変更したものと同一の概念である。すなわち、空間同期フェーザは、時間同期フェーザと同様に、空間同期フェーザ変化モードとして、「正正モード」、「正逆モード」、「逆逆モード」、「逆正モード」および「ラッチモード」を有すると共に、これらの変化モードに応じて計算式を切り替えて使用する。
【0165】
なお、自端フェーザが他端フェーザよりも進んでいる場合の空間同期フェーザの計算式と空間同期フェーザ変化モードとの対応関係は、以下の通りである。
(1)「正正モード」→(39)式の第1式(1行目の式)
(2)「正逆モード」→(39)式の第2式(2行目の式)
(3)「逆逆モード」→(39)式の第3式(3行目の式)
(4)「逆正モード」→(39)式の第4式(4行目の式)
(5)「ラッチモード」→(39)式の第5式(5行目の式)
【0166】
また、自端フェーザα1(t)が他端フェーザα2(t)よりも遅れている場合の空間同期フェーザαSPは、次式のように定義される。
【0167】
【数40】
【0168】
なお、自端フェーザが他端フェーザよりも遅れている場合の空間同期フェーザの計算式と空間同期フェーザ変化モードとの対応関係は、以下の通りである。
(1)「正正モード」→(40)式の第1式(1行目の式)
(2)「正逆モード」→(40)式の第2式(2行目の式)
(3)「逆逆モード」→(40)式の第3式(3行目の式)
(4)「逆正モード」→(40)式の第4式(4行目の式)
(5)「ラッチモード」→(40)式の第5式(5行目の式)
【0169】
図29は、空間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。まず、ステップS301では、通信チャンネル15を利用して、他端フェーザに対応するGPS時間を受信する。ステップS302では、自端フェーザに対応するGPS時間と他端フェーザに対応するGPS時間を同定する。ステップS303では、自端フェーザを測定し、フェーザ回転モードを確定する。なお、フェーザの測定およびフェーザ回転モードの確定は、前述した図17に示すフローチャートにて実行される。
【0170】
ステップS304では、自端フェーザが他端フェーザに対してリードしているか否か(進んでいるか否か)を判別する。自端フェーザがリードしている(進んでいる)場合にはステップS305に移行し、他端フェーザがリードしている場合にはステップS315に移行する。なお、ステップS315の処理は、これ以降で説明するステップS305〜S314と同等の処理が実行される。自端フェーザがリードしている場合の処理と、他端フェーザがリードしている場合の処理との差異は、空間同期フェーザを計算する際の計算式が異なるのみであり、処理の流れ等は同一である。なお、自端フェーザがリードしている場合には、(39)式が用いられ、他端フェーザがリードしている場合には、(40)式が用いられる。
【0171】
ステップ305では、空間同期フェーザ変化モード(以下単に「変化モード」と称する)が正正モードか否かを判別する。変化モードが正正モードの場合、ステップS306にて、正正モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが正正モードではない場合、ステップS307に移行する。
【0172】
ステップ307では、変化モードが正逆モードか否かを判別する。変化モードが正逆モードの場合、ステップS308にて、正逆モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが正逆モードではない場合、ステップS309に移行する。
【0173】
ステップ309では、変化モードが逆逆モードか否かを判別する。変化モードが逆逆モードの場合、ステップS310にて、逆逆モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが逆逆モードではない場合、ステップS311に移行する。
【0174】
ステップ311では、変化モードが逆正モードか否かを判別する。変化モードが逆正モードの場合、ステップS312にて、逆正モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが逆正モードではない場合、ステップS313に移行する。
【0175】
ステップ313では、変化モードをラッチモードとし、サンプリング1刻み前の値をラッチして、ステップS314へ移行する。
【0176】
ステップ314では、本フローによる処理を終了するか否かを判定し、終了しない場合にはステップ301へ戻り、終了する場合には本フローを抜け出る。
【0177】
図30は、入力周波数が定格周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図であり、下記「表4」に示すケース4を入力パラメータとし、式(39)もしくは式(40)により求めた測定結果である。
【0178】
【表4】
【0179】
図30において、「黒三角」でプロットした曲線が自端フェーザであり、「黒四角」でプロットした曲線が他端フェーザであり、「黒丸」でプロットした曲線が空間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数の場合、図30に示すように、空間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持している。なお、入力周波数が定格周波数であるため、自端フェーザと他端フェーザとは、時間軸に関して波形の対称性がある。
【0180】
ここで、「時間軸に関する対称性」とは、定格周波数の1サイクル前後において、自端フェーザおよび他端フェーザのそれぞれが、同一の瞬時値を有して推移していることを意味する。
【0181】
例えば、図30では、ノード1とノード2の入力周波数は共に定格周波数50Hzであり、両者の初期位相角に80度の位相差があるため、両フェーザは80度の位相間隔で振動しているものの、自端フェーザおよび他端フェーザは、それぞれ定格周波数の1サイクル前後において、同一の瞬時値を有して推移している。このように、定格周波数の1サイクル前後において、同一の瞬時値を有して推移している場合、「時間軸に関する対称性」があると定義する。
【0182】
一方、図31は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図であり、下記「表5」に示すケース5を入力パラメータとし、式(39)もしくは式(40)により求めた測定結果である。なお、測定の間、入力周波数は変化しないものとする。
【0183】
【表5】
【0184】
図31において、「黒四角」でプロットした曲線が自端フェーザであり、「黒三角」でプロットした曲線が他端フェーザであり、「黒丸」でプロットした曲線が空間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合、図31に示すように、自端フェーザと他端フェーザとの時間軸に関する対称性が失われているものの、空間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持している。
【0185】
例えば、図31では、ノード1とノード2の入力周波数は共に異常周波数45Hzであり、両者の初期位相角に80度の位相差があるため、両フェーザは80度の位相間隔で振動している。また、自端フェーザおよび他端フェーザは、それぞれ異常周波数の1サイクル前後において、瞬時値を少しずつ変動させて推移している。
【0186】
このように、入力周波数が異常周波数の場合、1サイクル前後において、瞬時値を少しずつ変動させ(図31の例では、45Hz<50Hzのため、その値を少しずつ減少させ)推移しており、時間軸に関する対称性は失われている。
【0187】
しかしながら、図30および図31の両者共に、空間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持するように推移しており、空間同期フェーザの測定が可能である。すなわち、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数であっても、測定の間、入力周波数が大きく変化しなければ、空間同期フェーザの安定的な測定が可能となる。
【0188】
図32は、入力周波数が定格周波数から外れ、且つ、自端または他端のうちの何れかの周波数が変化する場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図であり、下記「表6」に示すケース6を入力パラメータとし、式(39)もしくは式(40)により求めた測定結果である。
【0189】
【表6】
【0190】
図32において、「黒三角」でプロットした曲線が自端フェーザであり、「黒四角」でプロットした曲線が他端フェーザであり、「黒丸」でプロットした曲線が空間同期フェーザである。図32に示す例では、自端ノードの入力周波数は定格周波数であるため、そのフェーザは時間軸に関する対称性がある一方で、他端ノードの入力周波数は異常周波数であるため、そのフェーザは時間軸に関する対称性がない。この場合、図32に示すように、空間同期フェーザは周期的に変化している。このケースの場合、空間同期フェーザが180度変化に必要な時間は以下の通り計算できる。なお、この理論値は、図32に示す測定結果に一致している。
【0191】
【数41】
【0192】
このことは、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数であっても、自端または他端のうちの何れかの周波数が変化せず、変化しない端の周波数が既知であれば、空間同期フェーザの安定的な測定が可能になることを意味している。
【0193】
つぎに、上述してきた同期フェーザ測定装置の応用例として、脱調検出継電保護装置に適用した場合について図33を参照して説明する。なお、図33は、本実施の形態の同期フェーザ測定装置が適用される電力系統の一構成例を示す図である。
【0194】
図33において、母線Aと母線Bとの間には遮断器CB,CBを介して送電線50が敷設され、自端側の母線Aには発電機群G1が接続され、他端側の母線Bには発電機群G2が接続されると共に、自端側には発電機群G1の脱調を検出して母線A側のCBを遮断する脱調検出継電保護装置Ry1が配置され、他端側には発電機群G2の脱調を検出して母線B側のCBを遮断する脱調検出継電保護装置Ry2が配置されている。なお、図中に示されるφA,φBは、脱調検出継電保護装置Ry1,Ry2が電力系統を通じて測定した同期フェーザである。これらの同期フェーザは、通信チャンネル52を介して相互に伝達された系統の電気量の情報を用いて測定される。
【0195】
つぎに、図33に示した脱調検出継電保護装置の動作について、自端側の脱調検出継電保護装置Ry1を用いて説明する。なお、脱調検出継電保護装置Ry2側の動作についても同様である。
【0196】
脱調検出継電保護装置Ry1は、自身が計測した同期フェーザφAと、脱調検出継電保護装置Ryから伝達された同期フェーザφBを用いて、空間同期フェーザφABを算出する。ここで、空間同期フェーザφABが閾値φSETより大きい場合、すなわち、
【数42】
が成立する場合、系統は脱調していると判別し、自端の遮断器CBを動作させる。なお、上記(42)式が成立する場合、遮断器CBを動作せず、発電機群G1を構成する少なくとも一つの発電機を遮断する制御を行ってもよいことは無論である。
【0197】
また、通信中断などにより他端情報を受信できない場合、装置が誤起動する虞がある。このため、時間同期フェーザφTPの変化率が閾値φT0より大きいか否かを判定する条件式、すなわち、
【数43】
という判定条件を付加することが好ましい。
【0198】
自端における時間同期フェーザの変化率が閾値を超えていない場合とは、自端における時間同期フェーザはあまり変動していない場合であるので、系統は安定であり、発電機が脱調しているとは考えにくい。このため、上記(43)式を付加することにより、装置が誤起動する確率を低下することに寄与できる。
【0199】
なお、以上の説明では、計測対象の電力系統における周波数、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザの全てを生成するように構成された同期フェーザ測定装置について説明してきたが、種々の適用例(例えば、上記特許文献1に示されている周波数測定装置、同期フェーザ測定装置、開閉極位相制御装置、同期投入装置、相判別装置)に応じた必要なもののみを計測できればよく、周波数、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザの全ての情報を計測する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0200】
以上のように、本発明は、高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ測定装置として有用である。
【符号の説明】
【0201】
1 電圧測定部
2 A/D変換部
3 現時点周波数算出部
4 電圧瞬時値推定値算出部
5 電圧振幅推定値算出部
6 現時点フェーザ算出部
7 時間同期フェーザ算出部
8 他端同期フェーザ受信部
9 母線間同期フェーザGPS時間同定部
10 空間同期フェーザ算出部
11 インターフェース
12 記憶部
13 送信部
15,52 通信チャンネル
50 送電線
100,102 同期フェーザ測定装置
PT 計器用変圧器
Ry1,Ry2 脱調検出継電保護装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期フェーザ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統内の潮流が複雑化するにつれ、信頼性および精度の高い電力系統の制御および保護が要求されるようになっている。中でも、電力系統の制御および保護に必要な基本装置の一つである同期フェーザ測定装置(Phasor Measurement Unit:PMU)に対する性能向上の必要性が高まってきている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
従来、この種の電力系統制御保護に用いられる同期フェーザ測定装置には、主として基準波比較方式と1サイクル積分方式とがある。基準波比較方式は、PMUの内部に系統定格周波数の基準波とGPS時刻を有し、入力データを基準波と比較し、その差分を同期フェーザとする方式であり、1サイクル積分方式は1サイクルの積分演算で自端の同期フェーザを計算する方式である。
【0004】
しかしながら、基準波比較方式では、一点のみの差分計算方式(同じ時刻の入力データと基準波点の差分計算)であるため誤差は非常に大きく、平均化処理などをしているが安定した値が得られないという問題点がある(非特許文献1参照)。
【0005】
また、1サイクル積分方式では、系統周波数が定格周波数からずれた場合、計算誤差が非常に大きくなるという問題点がある(非特許文献2参照)。
【0006】
現在の2つの方式は、共に実数瞬時値ベースで交流波形を模擬するものであり、例えばフーリエ変換で電圧瞬時値波形を分解してその中の基本波(同期フェーザ)を抽出し、その後、基本波の周波数を求めるという方法であり、更に周波数―ゲイン特性曲線により各交流電気量の補正を行う必要もあった。したがって、これらの従来方式を具現するには、フーリエ変換、周波数―ゲイン補正処理、平均化処理などの遅れ時間要素が導入されるため、リアルタイムな計測値が得られず、高速・高精度な同期フェーザを測定することができないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第08/126240号
【特許文献2】特開平5−274049号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「IEEE Standard for Synchrophasors」C37.118−2005
【非特許文献2】「IEEJ Trans.PE,Vol.123、No.12,pp1471−1479, 2003」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、本発明者が既に提案した動的周波数測定手法を用いると共に、本発明者が新たに提案する時間同期フェーザの概念を導入して高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる同期フェーザ測定装置は、電力系統の電圧を計測する電圧計測部と、前記電圧計測部が計測した電圧時系列データの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する周波数算出部と、前記電圧瞬時値および前記周波数を用いて現時点のフェーザを算出するフェーザ算出部と、現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する時間同期フェーザ算出部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかる同期フェーザ測定装置によれば、本発明者が新たに提案した時間同期フェーザにより、高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ装置を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、複素平面上の電圧回転ベクトルを示す図である。
【図3】図3は、複素平面上でのサンプリング1刻みによる電圧回転ベクトを示す図である。
【図4】図4は、入力周波数が定格周波数である場合の電圧回転ベクトル振幅および電圧回転ベクトル弦長の測定結果の一例を示す図である。
【図5】図5は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧振幅の測定結果の一例を示す図である。
【図6】図6は、入力周波数が異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧弦長の測定結果の一例を示す図である。
【図7】図7は、本実施の形態の手法を用いた場合の周波数測定に係るゲイン特性の一例を示す図である。
【図8】図8は、サンプリング1刻みに対応する中心角の半値(α)に係る測定結果の一例を示す図である。
【図9】図9は、各入力周波数における電圧振幅と電圧弦長の測定結果の一例を示す図である。
【図10】図10は、複素平面の上半面におけるフェーザを示す図である。
【図11】図11は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザの測定結果を示す図である。
【図12】図12は、複素平面の上半面におけるフェーザ推定値を示す図である。
【図13】図13は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザ測定結果を示す図である。
【図14】図14は、正方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。
【図15】図15は、逆方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。
【図16】図16は、反転モードで回転しているフェーザを説明する図である。
【図17】図17は、フェーザ測定までに至る一連の処理フローを示すフローチャートである。
【図18】図18は、正正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図19】図19は、正逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図20】図20は、逆逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図21】図21は、逆正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図22】図22は、ラッチモードで変化する時間同期フェーザを示す図である。
【図23】図23は、入力周波数に対する時間同期フェーザの変化特性を示す図である。
【図24】図24は、入力周波数が定格周波数より小さい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図である。
【図25】図25は、入力周波数が定格周波数より大きい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図である。
【図26】図26は、時間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。
【図27】図27は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図28】図28は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図29】図29は、空間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。
【図30】図30は、入力周波数が定格周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図31】図31は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図32】図32は、入力周波数が定格周波数から外れ、且つ、自端または他端のうちの何れかの周波数が変化する場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図である。
【図33】図33は、本実施の形態の同期フェーザ測定装置が適用される電力系統の一構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の構成を示す図である。図1の構成図では、母線A,B,Cを有する電力系統において、電力系統の一端(自端)に位置する母線Aに設けられた計器用変圧器PTに同期フェーザ測定装置100が接続され、電力系統の他端に位置する母線Cに設けられた計器用変圧器PTに同期フェーザ測定装置100と同等の同期フェーザ測定装置(PMU(Phasor Measurement Unit)として図示)102が接続される場合を一例として示している。なお、離間されて配置された同期フェーザ測定装置100,102同士は、通信チャンネル15にて接続されており、所要の情報が相互に伝達される構成となっている。
【0015】
つぎに、本実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置100の構成および概略の機能について説明する。図1に示すように、同期フェーザ測定装置100は、電圧測定部1、A/D変換部2、現時点周波数算出部3、電圧瞬時値推定値算出部4、電圧振幅推定値算出部5、現時点フェーザ算出部6、時間同期フェーザ算出部7、他端同期フェーザ受信部8、母線間同期フェーザGPS時間同定部9、空間同期フェーザ算出部10、インターフェース11、記憶部12、および送信部13を備えている。なお、本実施の形態において、電圧測定部1およびA/D変換部2は、広義の電圧測定部を構成する。
【0016】
電圧測定部1は、計器用変圧器PTにて実測された電圧時系列データ(アナログデータ)を取り込み所定のタイミングごとにA/D変換部2に送り込む。A/D変換部2は、時系列のアナログデータを時系列のデジタルデータに変換する。現時点周波数算出部3は、実測されたデジタルデータの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する。なお、電圧回転ベクトルは、複素平面上で反時計周りに回転している動的ベクトルであり、電圧回転ベクトルの実数部が電圧瞬時値に対応する。
【0017】
電圧瞬時値推定値算出部4は、算出した周波数および計測した電圧瞬時値を用いて電圧瞬時値推定値を算出する。電圧振幅推定値算出部5は、周波数および電圧瞬時値推定値を用いて電圧振幅推定値を算出する。なお、電圧瞬時値推定値および電圧振幅推定値は、例えば最小二乗法などを利用して算出することができる。
【0018】
現時点フェーザ算出部6は、電圧瞬時値推定値および電圧振幅推定値を用いて現時点におけるフェーザを算出する。時間同期フェーザ算出部7は、現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する。他端同期フェーザ受信部8は、他端にある同期フェーザ測定装置102から通信チャンネル15を通じて送信された同期フェーザの情報を受信する。なお、受信した同期フェーザには、GPSの時間情報(GPS時間)が付されている。母線間同期フェーザGPS時間同定部9は、自端フェーザに対応するGPS時間と受信した他端フェーザに対応するGPS時間とを同定する処理を行う。なお、同期フェーザに付される時間情報はGPS時間である必要はなく、両装置が個別に有している時計の時刻を用いてもよい。
【0019】
空間同期フェーザ算出部10は、自端フェーザと、同定された他端フェーザとの差分である空間同期フェーザを算出する。インターフェース11は、上述の算出結果を表示装置や外部装置に出力する機能を提供する。記憶部12は、計測データや算出結果などを記憶する機能を提供する。送信部13は、算出した同期フェーザ等を対向する装置等に送信する機能を提供する。
【0020】
なお、上記の構成において、電圧測定部1およびA/D変換部2は、デジタル電圧出力端子を有する電圧計などを用いることができる。また、現時点周波数算出部3、電圧瞬時値推定値算出部4、電圧振幅推定値算出部5、現時点フェーザ算出部6、時間同期フェーザ算出部7、他端同期フェーザ受信部8、母線間同期フェーザGPS時間同定部9、空間同期フェーザ算出部10、インターフェース11、記憶部12、および送信部13は、CPU、RAM、ROMおよびインターフェース回路を有する汎用のコンピュータならびに、汎用のコンピュータに接続され、所要の通信機能を有する機器等を用いることができる。
【0021】
つぎに、本実施の形態にかかる同期フェーザ測定装置の詳細機能について説明する。なお、ここではまず、図2〜9を参照し、本実施の形態における周波数測定手法を説明する。
【0022】
図2は、複素平面上の電圧回転ベクトルを示す図である。この電圧回転ベクトルは、電圧振幅V(t)を有し、反時計周りにω(=2πf)で回転している。ここで、いま、電力系統の周波数をf1(t)で表せば、この周波数f1(t)は、次式を用いて計算することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
上記(1)式において、f0は系統の定格周波数(50Hzまたは60Hz)であり、Ψ(t)は定格周波数に対応する1サイクル周期時間に回転した位相角(ラジアン)である。
【0025】
ここで、本実施の形態では、上記Ψ(t)を、次の積分計算式を用いて算出することを提案する。
【0026】
【数2】
【0027】
上記(1)および(2)式において、T0は定格周波数に対応する1サイクル周期時間であり、次式を用いて計算できる。
【0028】
【数3】
【0029】
図3は、複素平面上でのサンプリング1刻みによる電圧回転ベクトを示す図である。図3において、三角形AOBの両斜辺V(t)およびV(t-T)を等しいと仮定し、弦長ABの中心点をCとすれば、サンプリング1刻みの回転位相角(中心角2α)の半値αに対し、次の関係式が成立する。
【0030】
【数4】
【0031】
また、この半値αは、次式を用いて計算できる。
【0032】
【数5】
【0033】
さらに、定格周波数に対応する1サイクル周期時間に回転した位相角は、同じ周期時間に対応するサンプリングステップ数の2倍であるため、1周期時間におけるサンプリングステップ数を4N(Nは自然数)とすれば、回転位相角Ψ(t)は、次式のように計算できる。
【0034】
【数6】
【0035】
この(6)式を上記(1)式に代入すれば、電力系統の周波数f1(t)は、次式のように計算される。
【0036】
【数7】
【0037】
以上のように、本実施の形態における周波数測定手法では、周波数測定問題を従来のサイン波の零クロスポイントを検出する手法から、定格周波数に対応する1サイクル周期時間に回転した位相角を積算する手法((2)式、(6)式、および(7)式を用いる手法)に変更している。なお、従来の零クロス手法が微分計算を用いる方式であるのに対し、新しい提案手法は積分計算を用いる手法である。言うまでもないが、新しい提案手法の方が、安定した周波数の算出が可能となる。
【0038】
つぎに、回転位相角の算出手法について説明する。スパイラルベクトル理論によれば、電力系統の電圧複素数状態変数は、フーリエ変換式を用いて次式のように表すことができる。
【0039】
【数8】
【0040】
すなわち、電圧複素数状態変数は、電圧基本波成分と複数の電圧高調波成分より構成される。ここで、上記(8)式における各記号の意味は、次のとおりである。
V:基本波電圧振幅
ω:基本波角速度
θ:基本波電圧初期位相
Vk:k次高調波電圧振幅
ωk:k次高調波電圧角速度
φk:k次高調波電圧初期位相
M:正の整数
【0041】
一方、実測電圧値は、複素数状態変数の実数部で表すことができ、余弦関数にて次式のように表すことができる。
【0042】
【数9】
【0043】
なお、以下の展開において、説明の便宜のために、実測電圧値は次式のように基本波のみで表すこととする。
【0044】
【数10】
【0045】
また、以下の展開式はすべて積分計算式であるため、実測電圧値の中に基本波周波数2倍以上の高調波成分は計算の過程で打ち消されることとなり、計算結果に高調波の影響が現れない。つまり、本実施の形態の手法では、全ての計算を積分計算式を用いて行っているため、基本波周波数2倍以上の高調波が存在する場合に、その高調波の影響を小さくすることが可能となる。
【0046】
つぎに、実測されたデジタルデータの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルの振幅(電圧回転ベクトル振幅)について考える。この電圧回転ベクトル振幅は、数学的に、次式を用いて計算することができる。
【0047】
【数11】
【0048】
また、サンプリング周波数fsは、定格周波数に対応する1サイクル周期時間のサンプリングステップ数4Nを用いて、次式のように表すことができる。
【0049】
【数12】
【0050】
また、サンプリング1刻み時間は、次式を用いて計算できる。
【0051】
【数13】
【0052】
例えば、定格周波数f0を50Hz、Nを3とすれば、サンプリング周波数fSは、600Hz、1刻み時間は、0.001666667秒である。これらの条件を適用すると、電圧回転ベクトル振幅のアナログ計算式である(11)式は、電圧回転ベクトル振幅のデジタル計算式として、次式のように表すことができる。なお、Tは(13)式を用いて計算されるサンプリング1刻み時間である。
【0053】
【数14】
【0054】
つぎに、電圧回転ベクトルの弦長(電圧回転ベクトル弦長)について考える。この電圧回転ベクトル弦長は、数学的に、次式を用いて計算することができる。
【0055】
【数15】
【0056】
電圧回転ベクトル振幅と同様に、電圧回転ベクトル弦長のデジタル計算式は、次式のように表すことができる。
【0057】
【数16】
【0058】
図4は、入力周波数が定格周波数である場合の電圧回転ベクトル振幅および電圧回転ベクトル弦長の測定結果の一例を示す図である。なお、図4に示すグラフは、下記「表1」に示すケース1のパラメータを用いて、シミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。
【0059】
【表1】
【0060】
図4において、小さな「黒三角」でプロットした曲線は電圧瞬時値(理論値)であり、大きな「黒四角」でプロットした曲線は電圧回転ベクトル振幅(以下「電圧振幅」と称する)の計算値であり、大きな「黒三角」でプロットした曲線は電圧回転ベクトル弦長(以下「電圧弦長」と称する)の計算値である。このように、入力電圧の周波数が定格周波数である場合、電圧振幅の計算値と理論値(45V)および電圧弦長の計算値と理論値(V2=2×45sin15=23.2937)とは、それぞれが一致していることがわかる。
【0061】
しかしながら、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合、上式による電圧振幅および電圧弦長の計算結果は振動する。このため、上式をそのまま適用すると周波数測定に誤差を生じる。この問題を解決するため、以下に、差分振幅積分計算式および差分弦長積分計算式の導入を提案する。
【0062】
まず、次式で示される差分振幅積分計算式および差分弦長積分計算式を導入する。
【0063】
【数17】
【0064】
【数18】
【0065】
上記2つの差分積分計算式では、1サイクルサンプリング数の半分の瞬時値が自乗され、半分の瞬時値が自分の反対側180度の瞬時値と掛算される。この演算によれば、入力周波数が定格周波数の場合、普通の理論計算式と同じ結果になり、入力周波数が異常周波数の場合、普通の理論計算式と異なり、振動のない計算結果が得られる。
【0066】
つぎに、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数の場合の具体的な計算例を示す。まず、入力周波数が50Hz(定格周波数)、サンプリング周波数が600Hz(すなわちN=3)である場合を考える。このとき、電圧振幅は、次式で計算される。
【0067】
【数19】
【0068】
同様に、電圧弦長は、次式で計算される。
【0069】
【数20】
【0070】
図5は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧振幅の測定結果の一例を示す図であり、下記「表2」に示すケース2のパラメータを用いてシミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。ここで、2種類の積分式とは、一般積分式と差分積分式とがあり、(14)式が一般積分式であり、(19)式が差分積分式である。
【0071】
【表2】
【0072】
図5において、「黒三角」でプロットした曲線が一般積分式による計算値であり、「黒四角」でプロットした曲線が差分積分式による計算値である。一般積分式の場合には計算結果が振動し、差分振幅積分式の場合には計算測定が安定していることが確認できる。但し、差分振幅積分式の測定結果は、実際入力電圧の振幅と異なることに注意が必要である。これは、入力電圧の周波数が定格周波数から外れているためであり(本ケースにおける周波数は45Hz)、計算の過程で自動的に補正されたものと考えられる。この点については、後述する図9の図面を参照するところで説明する。
【0073】
また、図6は、入力周波数が異常周波数である場合の2種類の積分式による電圧弦長の測定結果の一例を示す図であり、上記「表2」に示すケース2のパラメータを用いて、シミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。なお、2種類の積分式は、図5のときと同様であり、(16)式が一般積分式であり、(20)式が差分積分式である。
【0074】
図6において、「黒三角」でプロットした曲線が一般積分式による計算値であり、「黒四角」でプロットした曲線が差分積分式による計算値である。電圧振幅のときと同様に、一般積分式の場合には計算結果が振動し、差分振幅積分式の場合には計算結果が安定していることが確認できる。
【0075】
図7は、本実施の形態の手法を用いた場合の周波数測定に係るゲイン特性の一例を示す図である。図7に示すゲイン特性図では、サンプリング周波数が600Hzのときに測定周波数の大きさが入力周波数に対しどの様に変動するかの関係を示している。なお、入力パラメータは、下記「表3」に示すケース3のパラメータを用いている。
【0076】
【表3】
【0077】
図7によれば、300Hzまでの入力周波数に対してはゲインが1であり、入力周波数を正確に測定できていることが確認できる。このことは、標本化定理に合致していることの裏返しであり、当然の結果でもある。ただし、300Hz以下のサンプリング周波数において、100Hz/200Hz/300Hzなどの幾つかの特異点がある。その理由については、後述する図9の図面を参照するところで説明する。
【0078】
図8は、サンプリング1刻みに対応する中心角の半値(α)に係る測定結果の一例を示す図である。入力パラメータは、上記「表3」に示すケース3のパラメータを用いている。例えば、入力周波数が50Hz、100Hzの場合、サンプリング1刻みに対応する中心角の半値は、それぞれ15度および30度であることが確認できる。
【0079】
図9は、各入力周波数における電圧振幅と電圧弦長の測定結果の一例を示す図である。入力パラメータは、上記「表3」に示すケース3のパラメータを用いている。
【0080】
図9において、「黒四角」でプロットした曲線が電圧振幅の計算値であり、「黒三角」でプロットした曲線が電圧弦長の計算値である。また、これらの曲線を横断する太実線は、理論値(入力電圧振幅)である。
【0081】
図9から理解できることは、理論値と計算値とは全体としては一致しないが、300Hz以下の周波数では50Hz,150Hz,250Hzの3ポイントで一致していることにある。図5の計算結果において、差分振幅積分式の測定結果が実際の入力電圧振幅と異なっていたのは、図5の計算結果がケース2のパラメータ(入力電圧の周波数が45Hz)を用いてシミュレーションしたものであり、図9に示すような周波数に対する周期的な変動特性を有しているためである。なお、図7の計算結果において、100Hz/200Hz/300Hzが特異点となっているのも同様な理由による。
【0082】
つぎに、図10〜17を参照し、本実施の形態におけるフェーザ測定手法を説明する。
【0083】
図10は、複素平面の上半面におけるフェーザを示す図である。ここで、フェーザは次式のように定義される。
【0084】
【数21】
【0085】
上記(21)式において、v(t)は実測される電圧瞬時値である。なお、V(t)は上述した電圧振幅(電圧回転ベクトルの振幅値)である。(21)式に示されるように、本実施の形態におけるフェーザとは、複素平面の上半面において回転している電圧回転ベクトルの位相角である。なお、複素平面の上半面を変動域としているので、α(t)のとり得る値は、0〜πであり、負の値になることはない。
【0086】
図11は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザの測定結果を示す図であり、上記「表1」に示すケース1を入力パラメータとし、式(21)により求めた測定結果を示したものである。入力周波数が定格周波数の場合、図11に示すように、定格周波数の逆数の周期で0〜πの値をとるフェーザが得られている。
【0087】
一方、入力周波数が定格周波数ではない場合、測定した電圧振幅および電圧瞬時値は実際の入力電圧と異なる値になる。特に、電圧瞬時値の実測値は、高調波、電圧フリッカなどに影響されるため不安定な値となる。したがって、測定した電圧振幅および電圧瞬時値を(21)式にそのまま適用すると、フェーザは不安定な値をとる。そこで、実際の入力電圧に基づくより正確な電圧振幅および電圧瞬時値となるよう、それらの推定値(電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値)を求める。電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値を用いるようにすれば、高調波、電圧フリッカなどの影響を抑制することが可能となる。
【0088】
なお、電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値の推定手法として、従属変数(目的変数)と独立変数(説明変数)との間を定量的に分析する種々の回帰分析手法が適用可能であるが、ここでは、重み付け係数を用いた回帰分析手法の一つである、最小二乗法を用いる場合について説明する。
【0089】
まず、電圧瞬時値は次式のように展開される。
【0090】
【数22】
【0091】
つぎに、上記(22)式に最小二乗法で適用する。この場合、(22)式の係数P1,P2は、次式のように計算される。
【0092】
【数23】
【0093】
なお、上記(23)式における係数行列[P]は、列ベクトル形式にて、以下のとおり表される。
【0094】
【数24】
【0095】
また、電圧瞬時値は、列ベクトル形式にて、以下のとおり表される。
【0096】
【数25】
【0097】
さらに、上記(23)式における係数行列[A]は、以下のとおり表される。
【0098】
【数26】
【0099】
上記(26)式において、ω1は角周波数であり、次式のように計算される。
【0100】
【数27】
【0101】
上記(27)式において、f1は上記(7)式にて計算された周波数である。また、t1〜t4Nは、時系列に並べたサンプリング時間であり、次式のように計算される。
【0102】
【数28】
【0103】
電圧瞬時値推定値は、上記(24)式、(27)式、および(28)式を用いて、次式のように計算される。
【0104】
【数29】
【0105】
また、電圧振幅推定値は、上記(29)式を用いて、次式のように計算される。
【0106】
【数30】
【0107】
上記(30)式において、時間刻み幅T1(t)は、次式のように計算される。
【0108】
【数31】
【0109】
このように、(29)式および(30)式により、電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値の算出が可能である。
【0110】
図12は、複素平面の上半面におけるフェーザ推定値を示す図である。ここで、フェーザ推定値は、(29)式および(30)式にて算出された電圧振幅推定値および電圧瞬時値推定値を(21)式に適用することにより、次式のように計算される。
【0111】
【数32】
【0112】
なお、これ以降の演算処理では、上記(32)式に示されるフェーザ推定値を用いることになる。このため、今後、(32)式で表されるフェーザ推定値を、単にフェーザと呼称する。
【0113】
図13は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザ測定結果を示す図であり、上記「表2」に示すケース2のパラメータを用いてシミュレーション計算を行い、その計算結果を示したものである。
【0114】
入力周波数定格周波数から外れた異常周波数(45Hz)であるため、図11に示した定格周波数におけるフェーザ変化曲線とは異なり、時間軸におけるフェーザ値間の対称関係が失われていることが確認できる。
【0115】
つぎに、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザについて説明する。なお、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザの説明には、以下に定義する「フェーザ回転モード」の情報が必要となるので、以下に、当該フェーザ回転モードの定義および計算手法について説明する。
【0116】
まず、フェーザ回転モードの定義式について説明する。フェーザ回転モードαm(t)は、次式のように定義される。
【0117】
【数33】
【0118】
上記(33)式では、3つのモードが定義されている。これら3つのモードについては、それぞれ図14、図15および図16を参照して説明する。
【0119】
図14は、正方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。図14によれば、フェーザは、時間の経過と共に反時計方向に回転しており、回転位相角の値は次第に大きくなって行く。よって、図14に示すようなフェーザ回転モードを正方向モードと定義し、その値は“1”とする。
【0120】
図15は、逆方向モードで回転しているフェーザを説明する図である。図15によれば、フェーザは、時間の経過と共に時計方向に回転しており、回転位相角の値は次第に小さくなって行く。よって、図15に示すようなフェーザ回転モードを逆方向モードと定義し、その値は“−1”とする。
【0121】
図16は、反転モードで回転しているフェーザを説明する図である。図16によれば、フェーザの回転はV(t-T)のところで反転している。したがって、図16に示す例は、正方向モードでもなく、逆方向モードでもない。よって、この例のような正方向モードでもなく、逆方向モードでもない場合を反転モードと定義し、その値は“0”とする。
【0122】
図17は、上述したフェーザ測定までに至る一連の処理フローを示すフローチャートである。まず、ステップS101では、入力したアナログデータのサンプリングおよびA/D変換が実行され、ステップS102では、上述した周波数測定手法により、現時点の周波数が測定される(上記(7)式を参照)。
【0123】
ステップS103では、ステップS102で測定された現時点の周波数および時系列瞬時値データに基づき、例えば最小二乗法を適用して現時点における電圧瞬時値推定値を算出する(上記(23)式および(29)式を参照)。
【0124】
ステップS104では、ステップS103と同様、ステップS102で測定された現時点の周波数および時系列瞬時値データに基づき、例えば最小二乗法を適用して現時点における電圧振幅推定値を算出する(上記(30)式および(31)式を参照)。
【0125】
ステップ105では、ステップS103で推定された電圧瞬時値推定値と、ステップS104で推定された電圧振幅推定値を用いて、現時点におけるフェーザを算出する(上記(32)式を参照)。
【0126】
ステップ106では、ステップS104で算出された現時点におけるフェーザ、サンプリング1刻み前のフェーザ、およびサンプリング2ステップ前のフェーザを用いて、現時点におけるフェーザ回転モードを確定する(上記(33)式を参照)。
【0127】
ステップ107では、本フローによる処理を終了するか否かを判定し、終了しない場合にはステップ101へ戻り、終了する場合には、本フローを抜け出る。
【0128】
つぎに、本願発明者が、今回新規に提案する時間同期フェーザおよびその測定手法について図18〜25の図面を参照して説明する。なお、時間同期フェーザとは、複素平面の上半面で回転している現在のフェーザと1または数サイクル前の同じ交流電圧のフェーザとの差分である。
【0129】
まず、時間同期フェーザαTPの定義式について説明する。現時点のフェーザが1または数サイクル前の時点のフェーザよりも進んでいる場合の時間同期フェーザαTPは、次式のように定義される。
【0130】
【数34】
【0131】
上記(34)式において、α2(t)は、1サイクルまたは数サイクル前の時点のフェーザであり、次式で与えられる。なお、nは自然数である。また、現時点のフェーザα1(t)が、1または数サイクル前の時点のフェーザα2(t)よりも遅れている場合の時間同期フェーザαTPは、後述の(37)式で示される。
【0132】
【数35】
【0133】
また、上記(34)式において、α1m,α2mはそれぞれフェーザα1(t),α2(t)の回転モードである。これらα1m,α2mについては、それぞれ図18〜22を参照して以下に説明する。
【0134】
図18は、正正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。ここで「正正モード」は上記(34)式の第1式(1行目の式)に対応しており、時間同期フェーザ変化モードの一つである。図18において、フェーザα1(t),α2(t)は、それぞれ反時計方向に回転しているので、それらの回転モードα1m,α2mはそれぞれ“1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“1”のとき、時間同期フェーザ変化モードを「正正モード」と定義する。
【0135】
図19は、正逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図19において、フェーザα1(t)は反時計方向に回転しているので、その回転モードα1mは“1”であり、フェーザα2(t)は時計方向に回転しているので、その回転モードα2mは“−1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“−1”のときの時間同期フェーザ変化モードを「正逆モード」と定義する。なお、「正正モード」時の時間同期フェーザは、上記(34)式の第2式(2行目の式)を用いて計算される。
【0136】
図20は、逆逆モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図20において、フェーザα1(t),α2(t)は、それぞれ時計方向に回転しているので、それらの回転モードα1m,α2mはそれぞれ“−1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“−1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“−1”のときの時間同期フェーザ変化モードを「逆逆モード」と定義する。なお、「逆逆モード」時の時間同期フェーザは、上記(34)式の第3式(3行目の式)を用いて計算される。
【0137】
図21は、逆正モードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図21において、フェーザα1(t)は時計方向に回転しているので、その回転モードα1mは“−1”であり、フェーザα2(t)は反時計方向に回転しているので、その回転モードα2mは“1”である。このように、フェーザα1(t)の回転モードα1mが“−1”であり、且つ、フェーザα2(t)の回転モードα2mが“1”のときの時間同期フェーザ変化モードを「逆正モード」と定義する。なお、「逆正モード」時の時間同期フェーザは、上記(34)式の第4式(4行目の式)を用いて計算される。
【0138】
図22は、ラッチモードで変化する時間同期フェーザを示す図である。図22に示す例では、フェーザα1(t)は時計方向に回転しており、その回転モードα1mは“−1”であるものの、フェーザα2(t)の回転モードα2mは不明である。すなわち、図22に示す例は、時間同期フェーザ変化モードが上記4つの場合以外を示している。このような場合を、ここではラッチモードと定義する。なお、時間同期フェーザ変化モードがラッチモードの場合には、上記(34)式の第5式(5行目の式)に示すように、サンプリング1刻み前の値をラッチするようにする。この処理は、時間同期フェーザの不確定性の影響を回避する処理である。このラッチモードを定義することにより、従来のPMU測定手法において現れた同期フェーザのパルス値を回避することができる。
【0139】
図23は、入力周波数に対する時間同期フェーザの変化特性を示す図である。図23に示す変化特性では、定格周波数が50Hzであるときの時間同期フェーザが入力周波数に対しどの様に変動するかの関係を示している。例えば、入力周波数が40Hzである場合、1サイクル前後の時間同期フェーザは72度である。なお、この時間同期フェーザの値は、次式のように計算できる。
【0140】
【数36】
【0141】
図23は、時間同期フェーザが入力周波数に対しどの様に変動するかの関係を示したものであったが、図24および図25は、時間同期フェーザが時間に対しどの様に変動するかの関係を示すものである。具体的に、図24は、入力周波数が定格周波数より小さい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図であり、図25は、入力周波数が定格周波数より大きい場合の時間同期フェーザの変化特性を定性的に示した図である。
【0142】
ここで、図24の変化特性図は、以下の内容を明らかにしている。
(1)時間同期フェーザが変化しない場合、入力周波数も変化しない。
(2)時間同期フェーザが増大する場合、入力周波数は定格周波数から離れ更に減少して行く。
(3)時間同期フェーザが減少する場合、入力周波数は定格周波数に向け増大して行く。
【0143】
また、図25の変化特性図は、以下の内容を明らかにしている。
(1)時間同期フェーザが変化しない場合、入力周波数も変化しない。
(2)時間同期フェーザが増大する場合、入力周波数は定格周波数から離れ更に増大して行く。
(3)時間同期フェーザが減少する場合、入力周波数は定格周波数に向け減少して行く。
【0144】
つぎに、現時点のフェーザα1(t)が、1または数サイクル前の時点のフェーザα2(t)よりも遅れている場合の時間同期フェーザαTPの計算式を下記に示す。
【0145】
【数37】
【0146】
なお、上式における、回転モードα1m,α2mは、上記(34)式に示したものと同一である。また、時間同期フェーザ変化モードに対応する計算式も(34)式と同じである。なお、各計算式との対応関係を具体的に示せば、以下の通りである。
(1)「正正モード」→(37)式の第1式(1行目の式)
(2)「正逆モード」→(37)式の第2式(2行目の式)
(3)「逆逆モード」→(37)式の第3式(3行目の式)
(4)「逆正モード」→(37)式の第4式(4行目の式)
(5)「ラッチモード」→(37)式の第5式(5行目の式)
【0147】
図26は、時間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。なお、本フローにおいて、現時点のフェーザを「フェーザ1」とし、1または数サイクル前の時点のフェーザを「フェーザ2」として説明する。
【0148】
ステップ201では、フェーザを測定し、フェーザ回転モードを確定する。なお、フェーザの測定およびフェーザ回転モードの確定は、前述した図17に示すフローチャートにて実行される。
【0149】
ステップ202では、フェーザ1がフェーザ2に対してリードしているか否か(進んでいるか否か)を判別する。フェーザ1がリードしている(進んでいる)場合にはステップS203に移行し、フェーザ2がリードしている場合にはステップS213に移行する。なお、ステップS213の処理は、これ以降で説明するステップS203〜S212と同等の処理が実行される。フェーザ1がリードしている場合の処理と、フェーザ2がリードしている場合の処理との差異は、時間フェーザを計算する際の計算式が異なるのみであり、処理の流れ等は同一である。なお、フェーザ1がリードしている場合には、(34)式と(35)式とが用いられ、フェーザ2がリードしている場合には、(35)式と(37)式とが用いられる。
【0150】
ステップ203では、時間同期フェーザ変化モード(以下単に「変化モード」と称する)が正正モードか否かを判別する。変化モードが正正モードの場合、ステップS204にて、正正モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが正正モードではない場合、ステップS205に移行する。
【0151】
ステップ205では、変化モードが正逆モードか否かを判別する。変化モードが正逆モードの場合、ステップS206にて、正逆モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが正逆モードではない場合、ステップS207に移行する。
【0152】
ステップ207では、変化モードが逆逆モードか否かを判別する。変化モードが逆逆モードの場合、ステップS208にて、逆逆モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが逆逆モードではない場合、ステップS209に移行する。
【0153】
ステップ209では、変化モードが逆正モードか否かを判別する。変化モードが逆正モードの場合、ステップS210にて、逆正モードにおける時間同期フェーザを算出してステップS212に移行する。一方、変化モードが逆正モードではない場合、ステップS211に移行する。
【0154】
ステップ211では、変化モードをラッチモードとし、サンプリング1刻み前の値をラッチして、ステップS212へ移行する。
【0155】
ステップ212では、本フローによる処理を終了するか否かを判定し、終了しない場合にはステップ201へ戻り、終了する場合には本フローを抜け出る。
【0156】
図27は、入力周波数が定格周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図であり、上記「表1」に示すケース1を入力パラメータとし、式(34)もしくは式(37)により求めた測定結果である。なお、フェーザ2としては、フェーザ1よりも2サイクル前の時点のフェーザ値を用いている。
【0157】
図27において、「黒三角」でプロットした曲線がフェーザ(フェーザ1を図示)であり、「黒丸」でプロットした曲線が時間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数の場合、図27に示すように、時間同期フェーザは常に零であり、時間に対して変化しないことが分かる。
【0158】
図28は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合のフェーザおよび時間同期フェーザの測定結果を示す図であり、上記「表2」に示すケース2を入力パラメータとし、式(34)もしくは式(37)により求めた測定結果である。なお、図27と同様に、フェーザ2としては、フェーザ1よりも2サイクル前の時点のフェーザ値を用いている。
【0159】
図28において、「黒三角」でプロットした曲線がフェーザ(フェーザ1を図示)であり、「黒丸」でプロットした曲線が時間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合、図28に示すように、時間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持する。なお、図28の例における、時間同期フェーザは、次式のように計算することができる。
【0160】
【数38】
【0161】
つぎに、系統母線間の空間同期フェーザおよびその測定手法について説明する。なお、空間同期フェーザとは、複素平面の上半面で回転しているフェーザであって、自端装置で計測したフェーザ(以下「自端フェーザ」と称する)と、他端装置で計測したフェーザ(以下「他端フェーザ」と称する)との差分である。
【0162】
まず、空間同期フェーザαSPの定義式について説明する。自端フェーザα1(t)が他端フェーザα2(t)よりも進んでいる場合の空間同期フェーザαSPは、次式のように定義される。
【0163】
【数39】
【0164】
上記(39)式において、α1m,α2mはそれぞれ自端フェーザα1(t)、他端フェーザα2(t)の回転モードである。なお、これらα1m,α2mについては、図18〜22の時間同期フェーザαTPを空間同期フェーザαSPに変更したものと同一の概念である。すなわち、空間同期フェーザは、時間同期フェーザと同様に、空間同期フェーザ変化モードとして、「正正モード」、「正逆モード」、「逆逆モード」、「逆正モード」および「ラッチモード」を有すると共に、これらの変化モードに応じて計算式を切り替えて使用する。
【0165】
なお、自端フェーザが他端フェーザよりも進んでいる場合の空間同期フェーザの計算式と空間同期フェーザ変化モードとの対応関係は、以下の通りである。
(1)「正正モード」→(39)式の第1式(1行目の式)
(2)「正逆モード」→(39)式の第2式(2行目の式)
(3)「逆逆モード」→(39)式の第3式(3行目の式)
(4)「逆正モード」→(39)式の第4式(4行目の式)
(5)「ラッチモード」→(39)式の第5式(5行目の式)
【0166】
また、自端フェーザα1(t)が他端フェーザα2(t)よりも遅れている場合の空間同期フェーザαSPは、次式のように定義される。
【0167】
【数40】
【0168】
なお、自端フェーザが他端フェーザよりも遅れている場合の空間同期フェーザの計算式と空間同期フェーザ変化モードとの対応関係は、以下の通りである。
(1)「正正モード」→(40)式の第1式(1行目の式)
(2)「正逆モード」→(40)式の第2式(2行目の式)
(3)「逆逆モード」→(40)式の第3式(3行目の式)
(4)「逆正モード」→(40)式の第4式(4行目の式)
(5)「ラッチモード」→(40)式の第5式(5行目の式)
【0169】
図29は、空間同期フェーザの算出処理を示すフローチャートである。まず、ステップS301では、通信チャンネル15を利用して、他端フェーザに対応するGPS時間を受信する。ステップS302では、自端フェーザに対応するGPS時間と他端フェーザに対応するGPS時間を同定する。ステップS303では、自端フェーザを測定し、フェーザ回転モードを確定する。なお、フェーザの測定およびフェーザ回転モードの確定は、前述した図17に示すフローチャートにて実行される。
【0170】
ステップS304では、自端フェーザが他端フェーザに対してリードしているか否か(進んでいるか否か)を判別する。自端フェーザがリードしている(進んでいる)場合にはステップS305に移行し、他端フェーザがリードしている場合にはステップS315に移行する。なお、ステップS315の処理は、これ以降で説明するステップS305〜S314と同等の処理が実行される。自端フェーザがリードしている場合の処理と、他端フェーザがリードしている場合の処理との差異は、空間同期フェーザを計算する際の計算式が異なるのみであり、処理の流れ等は同一である。なお、自端フェーザがリードしている場合には、(39)式が用いられ、他端フェーザがリードしている場合には、(40)式が用いられる。
【0171】
ステップ305では、空間同期フェーザ変化モード(以下単に「変化モード」と称する)が正正モードか否かを判別する。変化モードが正正モードの場合、ステップS306にて、正正モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが正正モードではない場合、ステップS307に移行する。
【0172】
ステップ307では、変化モードが正逆モードか否かを判別する。変化モードが正逆モードの場合、ステップS308にて、正逆モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが正逆モードではない場合、ステップS309に移行する。
【0173】
ステップ309では、変化モードが逆逆モードか否かを判別する。変化モードが逆逆モードの場合、ステップS310にて、逆逆モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが逆逆モードではない場合、ステップS311に移行する。
【0174】
ステップ311では、変化モードが逆正モードか否かを判別する。変化モードが逆正モードの場合、ステップS312にて、逆正モードにおける空間同期フェーザを算出してステップS314に移行する。一方、変化モードが逆正モードではない場合、ステップS313に移行する。
【0175】
ステップ313では、変化モードをラッチモードとし、サンプリング1刻み前の値をラッチして、ステップS314へ移行する。
【0176】
ステップ314では、本フローによる処理を終了するか否かを判定し、終了しない場合にはステップ301へ戻り、終了する場合には本フローを抜け出る。
【0177】
図30は、入力周波数が定格周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図であり、下記「表4」に示すケース4を入力パラメータとし、式(39)もしくは式(40)により求めた測定結果である。
【0178】
【表4】
【0179】
図30において、「黒三角」でプロットした曲線が自端フェーザであり、「黒四角」でプロットした曲線が他端フェーザであり、「黒丸」でプロットした曲線が空間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数の場合、図30に示すように、空間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持している。なお、入力周波数が定格周波数であるため、自端フェーザと他端フェーザとは、時間軸に関して波形の対称性がある。
【0180】
ここで、「時間軸に関する対称性」とは、定格周波数の1サイクル前後において、自端フェーザおよび他端フェーザのそれぞれが、同一の瞬時値を有して推移していることを意味する。
【0181】
例えば、図30では、ノード1とノード2の入力周波数は共に定格周波数50Hzであり、両者の初期位相角に80度の位相差があるため、両フェーザは80度の位相間隔で振動しているものの、自端フェーザおよび他端フェーザは、それぞれ定格周波数の1サイクル前後において、同一の瞬時値を有して推移している。このように、定格周波数の1サイクル前後において、同一の瞬時値を有して推移している場合、「時間軸に関する対称性」があると定義する。
【0182】
一方、図31は、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図であり、下記「表5」に示すケース5を入力パラメータとし、式(39)もしくは式(40)により求めた測定結果である。なお、測定の間、入力周波数は変化しないものとする。
【0183】
【表5】
【0184】
図31において、「黒四角」でプロットした曲線が自端フェーザであり、「黒三角」でプロットした曲線が他端フェーザであり、「黒丸」でプロットした曲線が空間同期フェーザである。入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数である場合、図31に示すように、自端フェーザと他端フェーザとの時間軸に関する対称性が失われているものの、空間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持している。
【0185】
例えば、図31では、ノード1とノード2の入力周波数は共に異常周波数45Hzであり、両者の初期位相角に80度の位相差があるため、両フェーザは80度の位相間隔で振動している。また、自端フェーザおよび他端フェーザは、それぞれ異常周波数の1サイクル前後において、瞬時値を少しずつ変動させて推移している。
【0186】
このように、入力周波数が異常周波数の場合、1サイクル前後において、瞬時値を少しずつ変動させ(図31の例では、45Hz<50Hzのため、その値を少しずつ減少させ)推移しており、時間軸に関する対称性は失われている。
【0187】
しかしながら、図30および図31の両者共に、空間同期フェーザは所定値に推移した後、当該所定値を維持するように推移しており、空間同期フェーザの測定が可能である。すなわち、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数であっても、測定の間、入力周波数が大きく変化しなければ、空間同期フェーザの安定的な測定が可能となる。
【0188】
図32は、入力周波数が定格周波数から外れ、且つ、自端または他端のうちの何れかの周波数が変化する場合の空間同期フェーザの測定結果を示す図であり、下記「表6」に示すケース6を入力パラメータとし、式(39)もしくは式(40)により求めた測定結果である。
【0189】
【表6】
【0190】
図32において、「黒三角」でプロットした曲線が自端フェーザであり、「黒四角」でプロットした曲線が他端フェーザであり、「黒丸」でプロットした曲線が空間同期フェーザである。図32に示す例では、自端ノードの入力周波数は定格周波数であるため、そのフェーザは時間軸に関する対称性がある一方で、他端ノードの入力周波数は異常周波数であるため、そのフェーザは時間軸に関する対称性がない。この場合、図32に示すように、空間同期フェーザは周期的に変化している。このケースの場合、空間同期フェーザが180度変化に必要な時間は以下の通り計算できる。なお、この理論値は、図32に示す測定結果に一致している。
【0191】
【数41】
【0192】
このことは、入力周波数が定格周波数から外れた異常周波数であっても、自端または他端のうちの何れかの周波数が変化せず、変化しない端の周波数が既知であれば、空間同期フェーザの安定的な測定が可能になることを意味している。
【0193】
つぎに、上述してきた同期フェーザ測定装置の応用例として、脱調検出継電保護装置に適用した場合について図33を参照して説明する。なお、図33は、本実施の形態の同期フェーザ測定装置が適用される電力系統の一構成例を示す図である。
【0194】
図33において、母線Aと母線Bとの間には遮断器CB,CBを介して送電線50が敷設され、自端側の母線Aには発電機群G1が接続され、他端側の母線Bには発電機群G2が接続されると共に、自端側には発電機群G1の脱調を検出して母線A側のCBを遮断する脱調検出継電保護装置Ry1が配置され、他端側には発電機群G2の脱調を検出して母線B側のCBを遮断する脱調検出継電保護装置Ry2が配置されている。なお、図中に示されるφA,φBは、脱調検出継電保護装置Ry1,Ry2が電力系統を通じて測定した同期フェーザである。これらの同期フェーザは、通信チャンネル52を介して相互に伝達された系統の電気量の情報を用いて測定される。
【0195】
つぎに、図33に示した脱調検出継電保護装置の動作について、自端側の脱調検出継電保護装置Ry1を用いて説明する。なお、脱調検出継電保護装置Ry2側の動作についても同様である。
【0196】
脱調検出継電保護装置Ry1は、自身が計測した同期フェーザφAと、脱調検出継電保護装置Ryから伝達された同期フェーザφBを用いて、空間同期フェーザφABを算出する。ここで、空間同期フェーザφABが閾値φSETより大きい場合、すなわち、
【数42】
が成立する場合、系統は脱調していると判別し、自端の遮断器CBを動作させる。なお、上記(42)式が成立する場合、遮断器CBを動作せず、発電機群G1を構成する少なくとも一つの発電機を遮断する制御を行ってもよいことは無論である。
【0197】
また、通信中断などにより他端情報を受信できない場合、装置が誤起動する虞がある。このため、時間同期フェーザφTPの変化率が閾値φT0より大きいか否かを判定する条件式、すなわち、
【数43】
という判定条件を付加することが好ましい。
【0198】
自端における時間同期フェーザの変化率が閾値を超えていない場合とは、自端における時間同期フェーザはあまり変動していない場合であるので、系統は安定であり、発電機が脱調しているとは考えにくい。このため、上記(43)式を付加することにより、装置が誤起動する確率を低下することに寄与できる。
【0199】
なお、以上の説明では、計測対象の電力系統における周波数、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザの全てを生成するように構成された同期フェーザ測定装置について説明してきたが、種々の適用例(例えば、上記特許文献1に示されている周波数測定装置、同期フェーザ測定装置、開閉極位相制御装置、同期投入装置、相判別装置)に応じた必要なもののみを計測できればよく、周波数、時間同期フェーザおよび空間同期フェーザの全ての情報を計測する必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0200】
以上のように、本発明は、高速・高精度性の更なる向上を可能とする同期フェーザ測定装置として有用である。
【符号の説明】
【0201】
1 電圧測定部
2 A/D変換部
3 現時点周波数算出部
4 電圧瞬時値推定値算出部
5 電圧振幅推定値算出部
6 現時点フェーザ算出部
7 時間同期フェーザ算出部
8 他端同期フェーザ受信部
9 母線間同期フェーザGPS時間同定部
10 空間同期フェーザ算出部
11 インターフェース
12 記憶部
13 送信部
15,52 通信チャンネル
50 送電線
100,102 同期フェーザ測定装置
PT 計器用変圧器
Ry1,Ry2 脱調検出継電保護装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の電圧を計測する電圧計測部と、
前記電圧計測部が計測した電圧時系列データの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する周波数算出部と、
前記電圧瞬時値および前記周波数を用いて現時点のフェーザを算出するフェーザ算出部と、
現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する時間同期フェーザ算出部と、
を備えたことを特徴とする同期フェーザ測定装置。
【請求項2】
前記フェーザ算出部は、現時点の周波数および電圧時系列データの電圧瞬時値を用いて電圧瞬時値推定値を算出するとともに、この電圧瞬時値推定値および前記周波数を用いて電圧振幅推定値を算出し、これら電圧瞬時値推定値および電圧振幅推定値を用いて前記フェーザを算出することを特徴とする請求項1に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項3】
自端に設けられた同期フェーザ測定装置は、他端に設けられた同期フェーザ測定装置との間で、所要の情報が相互に伝達可能となるように構成されており、
前記他端から送信された他端フェーザを受信して自端フェーザとの間で同定し、この自端フェーザと同定された他端フェーザとの差分である空間同期フェーザを算出する空間同期フェーザ算出部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項4】
時間的に変化しているフェーザの回転方向に応じて定まるフェーザ回転モードが定義されるとともに、現時点のフェーザおよび、1または数サイクル前のフェーザの各フェーザ回転モードの組合せに応じて定まる時間同期フェーザ変化モードが定義されるとき、
前記時間同期フェーザ算出部は、前記フェーザ回転モードおよび前記時間同期フェーザ変化モードの組合せに応じて前記時間同期フェーザを算出することを特徴とする請求項1または2に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項5】
時間的に変化しているフェーザの回転方向に応じて定まるフェーザ回転モードが定義されるとともに、前記自端フェーザおよび前記他端フェーザの各フェーザ回転モードの組合せに応じて定まる空間同期フェーザ変化モードが定義されるとき、
前記空間同期フェーザ算出部は、前記フェーザ回転モードおよび前記空間同期フェーザ変化モードの組合せに応じて前記空間同期フェーザを算出することを特徴とする請求項3に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項6】
前記フェーザ回転モードには、フェーザの回転方向に応じて正方向モード、逆方向モード、および反転モードが含まれ、
前記時間同期フェーザ変化モードおよび前記空間同期フェーザ変化モードには、正正モード、正逆モード、逆逆モード、逆正モード、ラッチモードが含まれ、
ることを特徴とする請求項4または5に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項1】
電力系統の電圧を計測する電圧計測部と、
前記電圧計測部が計測した電圧時系列データの電圧瞬時値にて決まる電圧回転ベクトルを用いて現時点の周波数を算出する周波数算出部と、
前記電圧瞬時値および前記周波数を用いて現時点のフェーザを算出するフェーザ算出部と、
現時点のフェーザと1または数サイクル前のフェーザとの差分である時間同期フェーザを算出する時間同期フェーザ算出部と、
を備えたことを特徴とする同期フェーザ測定装置。
【請求項2】
前記フェーザ算出部は、現時点の周波数および電圧時系列データの電圧瞬時値を用いて電圧瞬時値推定値を算出するとともに、この電圧瞬時値推定値および前記周波数を用いて電圧振幅推定値を算出し、これら電圧瞬時値推定値および電圧振幅推定値を用いて前記フェーザを算出することを特徴とする請求項1に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項3】
自端に設けられた同期フェーザ測定装置は、他端に設けられた同期フェーザ測定装置との間で、所要の情報が相互に伝達可能となるように構成されており、
前記他端から送信された他端フェーザを受信して自端フェーザとの間で同定し、この自端フェーザと同定された他端フェーザとの差分である空間同期フェーザを算出する空間同期フェーザ算出部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項4】
時間的に変化しているフェーザの回転方向に応じて定まるフェーザ回転モードが定義されるとともに、現時点のフェーザおよび、1または数サイクル前のフェーザの各フェーザ回転モードの組合せに応じて定まる時間同期フェーザ変化モードが定義されるとき、
前記時間同期フェーザ算出部は、前記フェーザ回転モードおよび前記時間同期フェーザ変化モードの組合せに応じて前記時間同期フェーザを算出することを特徴とする請求項1または2に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項5】
時間的に変化しているフェーザの回転方向に応じて定まるフェーザ回転モードが定義されるとともに、前記自端フェーザおよび前記他端フェーザの各フェーザ回転モードの組合せに応じて定まる空間同期フェーザ変化モードが定義されるとき、
前記空間同期フェーザ算出部は、前記フェーザ回転モードおよび前記空間同期フェーザ変化モードの組合せに応じて前記空間同期フェーザを算出することを特徴とする請求項3に記載の同期フェーザ測定装置。
【請求項6】
前記フェーザ回転モードには、フェーザの回転方向に応じて正方向モード、逆方向モード、および反転モードが含まれ、
前記時間同期フェーザ変化モードおよび前記空間同期フェーザ変化モードには、正正モード、正逆モード、逆逆モード、逆正モード、ラッチモードが含まれ、
ることを特徴とする請求項4または5に記載の同期フェーザ測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2010−266411(P2010−266411A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120306(P2009−120306)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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