説明

同期型ACサーボモータおよびその制御システム

【課題】一つの同期型ACサーボモータに複数の固定子巻線系統を独立して設け、これらの各固定子巻線系統に対して、独立した複数の同期型ACサーボモータの同期駆動と同様の駆動システムを構築する。
【解決手段】1つの回転子26に対して、電気的に独立した固定子巻線系統28、29を複数設けるとともに、回転子26の軸に単一のシリアル通信型位置検出器34を取り付けた同期型ACサーボモータを用い、それぞれ各固定巻線系統の位置制御、速度制御、電流制御を行う複数のサーボ制御回路と、前記各サーボ制御回路を同期して動作させる同期手段と、複数の前記サーボ制御回路のうち、特定の一のサーボ制御回路からのリクエスト信号に応答した前記シリアル通信型位置検出器から同時刻の位置情報を前記各サーボ制御回路に分配する分配器と、から制御システムを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期型ACサーボモータを制御するシステムに係り、特に、電気的に独立した複数の固定子巻線系統をもつ1つの同期型ACサーボモータを複数のサーボドライバーで同期駆動するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械、産業用ロボットなどの分野では、複数の同期型ACサーボモータを用いた駆動システムが採用されている。
【0003】
一つの同期型ACサーボモータでは、通常、独立した固定子巻線系統は1つであり、一つの位置検出器が具備され、一つのサーボドライバで運転するのが基本型である。
【0004】
そこで、複数の同期型ACサーボモータを駆動するシステムでは、複数の同期型ACサーボモータを同数のサーボドライバで駆動制御して、1つの被駆動体を駆動するのが一般的である。この場合、複数の同期型ACサーボモータの動力を伝動するプーリやボールネジなどの機構要素は、サーボモータと同数分必要になる。また、一つの同期型ACサーボモータには、一つの位置検出器が設けられ、それを個別のサーボドライバに接続している。
【0005】
この種の複数の同期型サーボモータを駆動するシステムの従来技術としては、例えば、特許文献1に開示されているものがある。この特許文献1では、それぞれのサーボモータの速度制御部の積分要素の出力を同一にする手段を設けることにより、それぞれ速度制御部の積分要素の積分値の偏りを改善している。
【0006】
なお、同期型ACサーボモータの中には、一つのモータの中に独立した複数の固定子巻線系統を有するものがあるが、この場合でも、短絡して一つの固定巻線系統として扱って一つのサーボドライバーで運転するのが一般的である。
【特許文献1】特開2003−189657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数の同期型ACサーボモータで一つの被駆動体を駆動する従来のシステムでは、それぞれサーボドライバ、およびモータ出力の伝達要素をサーボモータと同数分必要とされていた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、一つの同期型ACサーボモータに複数の固定子巻線系統を独立して設け、これらの各固定子巻線系統に対して、独立した複数の同期型ACサーボモータの同期駆動と同様の駆動システムを構築できるようにした同期型ACサーボモータおよびその制御システムを提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、各固定子巻線系統に接続される各サーボドライバに一つのシリアル通信型位置検出器の同時刻位置情報を分配して同期駆動できるようにした同期型ACサーボモータ駆動システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するために、本発明は、被駆動体の運動を制御するサーボ機構を駆動するサーボモータにおいて、1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けたことを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明による制御システムは、1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けた同期型ACサーボモータと、それぞれ各固定巻線系統の位置制御、速度制御、電流制御を行う複数のサーボ制御回路と、前記各サーボ制御回路を同期して動作させる同期手段と、複数の前記サーボ制御回路のうち、特定の一のサーボ制御回路からのリクエスト信号に応答した前記シリアル通信型位置検出器から同時刻の位置情報を前記各サーボ制御回路に分配する分配器と、を具備したことを特徴とするものである。
【0012】
さらに、本発明による制御システムは、1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けた同期型ACサーボモータと、それぞれ各固定巻線系統の電流制御を実行する複数の電流制御回路と、前記複数の電流制御回路の上位の制御系を構成する上位コントローラと、を備え、前記上位コントローラに、前記シリアル通信型位置検出器から位置情報信号をフィードバックし、前記各固定子巻線系統にそれぞれ対応する位置制御回路および速度制御回路を構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一つの同期型ACサーボモータに複数の固定子巻線系統を独立して設け、これらの各固定子巻線系統に対して、独立した複数の同期型ACサーボモータの同期駆動と同様の駆動システムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明による同期型ACサーボモータ制御システムの一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムを適用した駆動システムを示すブロックである。
図1において、参照番号10は、工作機械のテーブルなどの被駆動体を示す。被駆動体10の駆動モータとして、同期型ACサーボモータ12が用いられ、その動力をボールねじ機構によって被駆動体10に伝動している。同期型ACサーボモータ12は、継手13を介してボールねじ14と連結されている。このボールねじ14には、被駆動体10に固定されている図示しないボールナットが螺合している。
【0015】
図1において、参照番号20は、制御装置を示す。この制御装置20は、上位コントローラ22、ここでは一般化してn個のサーボドライバ、信号分配器36を備えている。図2は、制御装置20のブロック構成図である。
【0016】
同期型ACサーボモータ12では、ロータ軸25に回転子26が取り付けられいる。この実施形態では、同期型ACサーボモータ12は、一つの回転子26に対して、固定子を構成する固定子巻線系統が2系統設けられている。図2では、第1の固定子巻線系統28、第2の固定子巻線系統29として示す。これらの第1固定子巻線系統28と第2固定子巻線系統29は、電気的に互いに独立した巻線系統であり、独立に制御される。したがって、第1固定子巻線系統28を制御するサーボ機構としては第1サーボドライバ30が設けられ、第2固定子巻線系統29を制御するサーボ機構としては第2サーボドライバ31が設けられている。これら第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31は、相互に独立したドライバであるが、上位コントローラ32から指令が与えられるとともに同期信号により同期して動作するように制御されている。
【0017】
第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31は、それぞれ位置制御部、速度制御部、電流制御部を有しており、同期型ACサーボモータ12の位置情報を位置検出器からフィードバックして、NC装置などから与えられる指令と比較する位置制御、速度制御のループが構成されている。
【0018】
本実施形態の同期型ACサーボモータ12には、位置検出器として、シリアル通信型位置検出器34が設けられている。上述したように、固定子巻線系統は、2系統あるが、シリアル通信型位置検出器34は、ロータ軸25の回転角を位置情報として検出する単一の検出器である。このシリアル通信型位置検出器34は、信号分配器36を介してそれぞれ第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31に接続されている。
【0019】
次に、図3は、シリアル通信型位置検出器34と第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31との間での信号の流れを示すブロック図である。
【0020】
この実施形態では、第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31のそれぞれからデータリクエスト信号が第1トランシーバ、第2トランシーバを介して信号分配器36の信号分配回路37に導入される。信号分配回路37は、第1サーボドライバ30からのデータリクエスト信号#1のみをトランシーバを介してシリアル通信型位置検出器34に送信する。
【0021】
シリアル通信型位置検出器34は、このテータリクエスト信号#1に対する同時刻の位置情報信号をトランシーバを介して信号分配器36に応答することになる。そこで、信号分配回路37は、シリアル通信型位置検出器34が応答した位置情報信号を分配して、それぞれ第1トランシーバ、第2トランシーバを介して第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31ににフィードバックする。このようにして、第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31には、同時刻の位置情報信号がフィードバックされることになる。
【0022】
そして、第1サーボドライバ30、第2サーボドライバ31は、上位コントローラ32から与えられる同期信号に基づき同期がとられているので、それぞれ第1サーボドライバ30と第2サーボサーボドライバ31は、同時刻の位置情報信号に基づいて位置制御、速度制御、電流制御の処理を同期して行うことができる。このように制御の実質としては、独立した2台のACサーボモータを同期制御するのと同じ同期制御を、独立の固定子巻線系統を2系統備えた1台のACサーボモータ12で実現していることになる。なお、同期信号は上位コントローラ32からではなく、例えば、第1サーボドライバ30から第2サーボドライバ31に与えるようにして同期をとるようにすることも可能である。
【0023】
以上の第1実施形態では、固定巻線系統が2系統の例であるが、それ以上の巻線系統を設けた場合でも同様に、図4に示すように、特定のサーボドライバ(ここでは第1サーボドライバ)のリクエスト信号#1に対して同時刻の位置情報信号を他のサーボドライバに分配すればよい。
【0024】
以上にように構成される同期型ACサーボモータ制御システムを図1のような駆動システムに適用することにより、単一のシリアル通信型位置検出器34を取り付けた1台の同期型ACサーボモータ12を使って、被駆動体10を駆動することができる。これにより、サーボモータを複数台組み合わせ、それぞれボールねじ機構などの伝達要素により駆動するシステムと実質的に同じ駆動システムを実現した上で、システムの構成をより簡素化することができる。
【0025】
第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムを示すブロック図である。
この第2実施形態では、第1サーボドライバ40、第2サーボドライバ41は、それぞれ第1固定子巻線巻線系統28、第2固定子巻線系統29の電流制御のみを行なう制御回路である。上位のコントローラ42は、それぞれシリアル通信型位置検出器34からフィードバックした位置情報信号に基づいて位置制御、速度制御を行う第1位置・速度制御部43、第2位置・速度制御部44を備えており、第1位置・速度制御部43、第2位置・速度制御部44は、同一コントローラ内にあるため制御動作の同期がとられている。
【0026】
したがって、この第2実施形態では、第1実施形態と異なり、信号分配器36を不要とすることができる。すなわち、シリアル通信型位置検出器34からは、上位コントローラ44へ直接位置情報信号が送信され、第1位置・速度制御部43、第2位置・速度制御部44には、同時刻の位置情報信号がフィードバックされる。したがって、第1位置・速度制御部43、第2位置・速度制御部44は、上位コントローラ42の内部で同期がとられているので、それぞれ同時刻の位置情報信号に基づいて位置制御、速度制御を同期して行うことができる。このように、位置・速度制御部を上位コントローラ42にもってくることにより、制御の実質としては、第1実施形態と同等の制御システムを構成することができる。
【0027】
そして、本実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムを図1のような駆動システムに適用することにより、単一のシリアル通信型位置検出器34を取り付けた1台の同期型ACサーボモータ12を使って、被駆動体10を駆動することができ、システムの構成の簡素化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による同期型ACサーボモータ制御システムを適用した駆動システムのブロック構成図。
【図2】本発明の第1実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムのブロック構成図。
【図3】本発明の第1実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムの信号分配器での信号のやり取りを示すブロック図。
【図4】本発明の第1実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムの信号分配器での信号のやり取りをn個のサーボドライバに拡張したブロック図。
【図5】本発明の第2実施形態による同期型ACサーボモータ制御システムのブロック構成図。
【符号の説明】
【0029】
10 被駆動体
12 同期型ACサーボモータ
13 継手
14 ボールねじ
20 制御装置
22 上位コントローラ
26 回転子
28 第1固定子巻線系統
29 第2固定子巻線系統
34 シリアル通信型位置検出器
36 信号分配器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被駆動体の運動を制御するサーボ機構を駆動するサーボモータにおいて、
1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けたことを特徴とするACサーボモータ。
【請求項2】
1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けた同期型ACサーボモータと、
それぞれ各固定巻線系統の位置制御、速度制御、電流制御を行う複数のサーボ制御回路と、
前記各サーボ制御回路を同期して動作させる同期手段と、
複数の前記サーボ制御回路のうち、特定の一のサーボ制御回路からのリクエスト信号に応答した前記シリアル通信型位置検出器から同時刻の位置情報を前記各サーボ制御回路に分配する分配器と、
を具備したことを特徴とする同期型ACサーボモータの制御システム。
【請求項3】
前記同期手段は、前記複数のサーボ制御回路に同期信号を与える上位コントローラからなることを特徴とする請求項2に記載の同期型ACサーボモータ制御システム。
【請求項4】
1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けた同期型ACサーボモータと、
それぞれ各固定巻線系統の電流制御を実行する複数の電流制御回路と、
前記複数の電流制御回路の上位の制御系を構成する上位コントローラと、を備え、前記上位コントローラに、前記シリアル通信型位置検出器から位置情報信号をフィードバックし、前記各固定子巻線系統にそれぞれ対応する位置制御回路および速度制御回路を構成したことを特徴とする同期型ACサーボモータ制御システム。
【請求項5】
被駆動体と、
1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けた1台の同期型ACサーボモータと、
前記同期型ACサーボモータの動力を前記被駆動体に伝動する単一の伝動要素と、
それぞれ各固定巻線系統の位置制御、速度制御、電流制御を行う複数のサーボ制御回路と、
前記各サーボ制御回路を同期して動作させる同期手段と、
複数の前記サーボ制御回路のうち、特定の一のサーボ制御回路からのリクエスト信号に応答した前記シリアル通信型位置検出器から同時刻の位置情報を前記各サーボ制御回路に分配する分配器と、
を具備したことを特徴とする同期型ACサーボモータ駆動システム。
【請求項6】
被駆動体と、
1つの回転子に対して、電気的に独立した固定子巻線系統を複数設けるとともに、前記回転子の軸に単一のシリアル通信型位置検出器を取り付けた同期型ACサーボモータと、
前記同期型ACサーボモータの動力を前記被駆動体に伝動する単一の伝動要素と、
それぞれ各固定巻線系統の電流制御を実行する複数の電流制御回路と、
前記複数の電流制御回路の上位の制御系を構成する上位コントローラと、を備え、前記上位コントローラに、前記シリアル通信型位置検出器から位置情報信号をフィードバックし、前記各固定子巻線系統にそれぞれ対応する位置制御回路および速度制御回路を構成したことを特徴とする同期型ACサーボモータ駆動システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate