説明

同調クレイドル型制振装置

【課題】振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮して、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる制振装置を提供することにある。
【解決手段】当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面2aを持つ支持体2と、前記支持体の幅方向両外側に位置する二つの揺動子3と、各々前記支持面上でその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、両端部を前記二つの揺動子にそれぞれ回転自在に結合されてそれらの揺動子を支持する二つの転動ローラ4と、を具えてなり、前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものである、同調クレイドル型制振装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震、風、通過車両等による構造物の揺れに同調して質量が揺動することで構造物の振動エネルギーを吸収する同調揺動型制振装置に関し、特には凹曲面をなす支持面を有する同調クレイドル型制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物には、ビルディング、橋梁、鉄塔、煙突、タンク、水門、ダム等の固定構造物や、船舶、航空機、車両等の移動構造物がある。これらの構造物が地震、風、通過車両等が伝える力によって揺れる場合、その構造物に凹曲面をなす支持面で支持した転動ローラを持つ揺動子を設置し、その揺動子の揺れを構造物と同調させて制振する制振装置が、例えば本願出願人が開示した特許文献1等で知られている。
【特許文献1】特開2005−083499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記従来の制振装置について本願発明者が研究を進めたところ、その制振装置の凹曲面をなす支持面は一定曲率半径の円弧状であることから、大きな振動に対して揺動子の揺動周期が変化してしまうということが判明した。
【0004】
すなわち、一般に振り子は、微小な振動であればほぼ一定の周期で揺れる。しかしながら、振動が大きくなればその大きさに応じて周期が変化し、大きくなるに従って周期は長くなる。
【0005】
上記従来の制振装置も同様であり、揺動子(クレイドル)が揺動するための転動ローラの支持面の曲率半径が一定であるため、微小な揺動であれば、ほぼ一定の周期で揺れる。しかしながら、特に長周期用の制振装置の場合、揺動子の揺動振幅が大きくなると揺動周期が変化して、制振性能が低下する可能性がある。
【0006】
この発明は上記課題に着目してなされたものであり、振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮し得る制振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を有利に解決したこの発明の同調クレイドル型制振装置は、請求項1記載のものでは、当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面を持つ支持体と、前記支持体の幅方向両外側に位置する二つの揺動子と、各々前記支持面上でその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、両端部を前記二つの揺動子にそれぞれ回転自在に結合されてそれらの揺動子を支持する二つの転動ローラと、を具えてなり、前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものであることを特徴としている。
【0008】
またこの発明の同調クレイドル型制振装置は、請求項3記載のものでは、各々当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面を持つとともに、前記側面同士を互いに平行にして間隔を空けて延在する二つの支持体と、前記二つの支持体の間に位置する揺動子と、前記二つの支持体の前記支持面上でそれぞれその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、互いに異なる二本の軸線上で前記揺動子に一端部をそれぞれ回転自在に結合されてその揺動子を支持する二つまたは四つの転動ローラと、を具えてなり、前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものであることを特徴としている。
【0009】
さらにこの発明の同調クレイドル型制振装置は、請求項5記載のものでは、各々当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面を持つとともに、前記側面同士を互いに平行にして延在する四つの支持体であって、二つずつ互いに隣接して組をなし、各組の二つが前記支持面同士を、前記支持体の側面に沿う方向に互いにずらしており、それら二組の間に間隔が空くように位置する支持体と、前記二組の支持体の間に位置する揺動子と、前記二組の支持体の前記支持面でそれぞれその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、互いに異なる二本の軸線上で前記揺動子に一端部をそれぞれ回転自在に結合されてその揺動子を支持する四つの転動ローラと、を具えてなり、前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
かかる請求項1,3および5記載の同調クレイドル型制振装置にあっては、支持体の側面に沿う方向に支持体が振動すると、その支持体の振動に同調して、互いに異なる二本の軸線上の二つまたは四つの転動ローラを介して支持体の凹曲面をなす支持面で支持された揺動子が転動せずに揺動するとともに、それら二つまたは四つの転動ローラが転動して、支持体の振動エネルギーを吸収する。しかも、支持体の凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものであるので、支持体の振動の振幅が大きくても、揺動子の揺動周期は殆ど若しくは全く変化しない。
【0011】
従って、この発明の同調クレイドル型制振装置によれば、振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮し得て、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる。
【0012】
そして請求項5に記載のものでは特に、二つずつ互いに隣接して組をなす四つの支持体を、各組の二つが支持面同士をその支持体の側面に沿う方向に互いにずらすように配置しているので、支持体が支持面をその支持体の側面に沿う方向に並べて二つ持つ場合よりも制振装置の設置面積を大幅に縮小することができる。
【0013】
なお、この発明の同調クレイドル型制振装置においては、請求項2に記載のように、請求項1記載のものにおいて、前記支持体が前記支持面を、前記支持体の側面に沿う方向に並べて二つ持ち、前記二つの転動ローラがそれら二つの支持面上にそれぞれ配置されていてもよく、このようにすれば、比較的長尺の二個の揺動子を安定して揺動させ得て、制振効果をより高めることができるとともに、各支持面上に一つだけ転動ローラが乗るので、支持面を支持体の側面に沿う方向に長く使い得て、より振幅が大きい振動に対して制振性能を充分に発揮することができる。
【0014】
また、この発明の同調クレイドル型制振装置においては、請求項4に記載のように、請求項3記載のものにおいて、前記二つの支持体が前記支持面同士を、前記支持体の側面に沿う方向に互いにずらしており、前記転動ローラが二つであってもよく、このようにすれば、支持体が支持面をその支持体の側面に沿う方向に並べて二つ持つ場合よりも制振装置の設置面積を大幅に縮小しつつ、比較的長尺の一個の揺動子を安定して揺動させ得て、制振効果をより高めることができるとともに、各支持面上に一つだけ転動ローラが乗るので、支持面を支持体の側面に沿う方向に長く使い得て、より振幅が大きい振動に対して制振性能を充分に発揮することができる。
【0015】
さらに、この発明の同調クレイドル型制振装置においては、請求項6に記載のように、前記支持面の前記凹曲線が、渦巻き曲線状であってもよく、渦巻き曲線状の凹曲線を用いれば、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなる凹曲面を形成することができ、特に、最下部から遠ざかるに連れて所定の条件で曲率半径を小さくすることで、振動の大きさに関わらず揺動周期を常に一定にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、この発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1(a)および(b)は、この発明の同調クレイドル型制振装置の第1実施例を模式的に示す正面図および側面図、図2は、上記第1実施例の同調クレイドル型制振装置を横揺れする構造物に設置した状態で模式的に示す正面図であり、図中符号1は、上記第1実施例の同調クレイドル型制振装置を示す。
【0017】
この第1実施例の同調クレイドル型制振装置1は、概略角棒状の支持体2と、その支持体2の幅方向(図1(b)では左右方向)両外側に位置する二つの揺動子3とを具えており、支持体2は、各々当該支持体2の側面(図1(a)では正面向きの面)に沿って延在する仮想鉛直平面上の上向きの凹曲線を当該支持体2の上記幅方向に掃引した上向きの凹曲面をなす二つの支持面2aを持ち、それらの支持面2aは、支持体2の上記側面に沿う方向に並んでいる。
【0018】
また、この第1施例の同調クレイドル型制振装置1は、各々上記支持面2a上でその支持面2aに沿って転動可能に支持されるとともに、両端部を上記二つの揺動子3にそれぞれ回転自在に挿通されてそれらの揺動子3を支持する二つの転動ローラ4を具えており、それら二つの転動ローラ4は、上記二つの支持面2a上にそれぞれ配置されている。ここで、二つの揺動子3にそれぞれ回転自在に挿通された二つの転動ローラ4の両端部は、図示例ではCリング5を嵌着されて揺動子3に対し抜け止めされている。
【0019】
そして、この第1施例の同調クレイドル型制振装置1では、上記二つの支持面2aの凹曲面は各々、支持体2の上記側面に沿う水平方向に最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものとされている。なお、比較のために図1(a)中に仮想線で示す支持面2bは、曲率半径一定の円弧状の上向きの凹曲面をなす従来のものである。
【0020】
かかる第1実施例の同調クレイドル型制振装置1を、図2に示すように、同図中矢印Bで示す如く横揺れするラーメン構造の構造物6に設置すると、その横揺れにより、図1(a)中矢印Aで示すように、支持体2の上記側面に沿う方向に支持体2が振動し、これにより、その支持体2の振動に同調して、互いに異なる二本の軸線上の二つの転動ローラ4を介して支持体2の凹曲面をなす支持面2aで支持された揺動子3が転動せずに揺動するとともに、それら二つの転動ローラ4が支持面2a上で転動して、支持体2の振動エネルギーを吸収する。しかも、支持体2の支持面2aを形成している凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものであるので、支持体2の振動の振幅が大きくても、揺動子3の揺動周期は殆ど若しくは全く変化しない。
【0021】
従って、この第1実施例の同調クレイドル型制振装置1によれば、振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮し得て、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる。
【0022】
しかも、この第1実施例の同調クレイドル型制振装置1によれば、支持体2が支持面2aを、支持体2の側面に沿う方向に並べて二つ持ち、二つの転動ローラ4がそれら二つの支持面2a上にそれぞれ配置されているので、比較的長尺の二個の揺動子3を安定して揺動させ得て、制振効果をより高めることができるとともに、各支持面2a上に一つだけ転動ローラ4が乗るので、一つの支持面2a上に二つの転動ローラ4が乗る場合より支持面2aを支持体2の側面に沿う方向に長く使い得て、より振幅が大きい振動に対して制振性能を充分に発揮することができる。
【0023】
図3(a),(b)および(c)は、この発明の同調クレイドル型制振装置の第2実施例を模式的に示す正面図、平面図および図3(b)中のC−C線に沿う断面図であり、図3中、先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。.
【0024】
図中符号11で示すこの第2実施例の同調クレイドル型制振装置は、基板7上に立設された概略厚板状の二枚の支持体2と、それら二枚の支持体2の間に位置する一つの揺動子3とを具えており、二枚の支持体2は、各々当該支持体2の側面(図3(a)では正面向きの面)に沿って延在する仮想鉛直平面上の凹曲線を当該支持体2の幅方向(図3(c)では左右方向)に掃引した上向きの凹曲面をなす支持面2aを持つとともに、上記側面同士を互いに平行にして上記幅方向に互いに間隔を空けて延在している。
【0025】
また、この第2施例の同調クレイドル型制振装置11は、各々上記支持面2a上でその支持面2aに沿って転動可能に支持されるとともに、一端部を上記揺動子3にそれぞれ回転自在に結合されてその揺動子3を支持する二つの転動ローラ4を具えており、それら二つの転動ローラ4は、上記二つの支持面2a上にそれぞれ配置されている。ここで、揺動子3にそれぞれ回転自在に結合された二つの転動ローラ4の他端部(外方端部)は、図示例ではその転動ローラ4より若干大きい円盤8を外側に設けられて支持体2に対し外れ止めされている。
【0026】
そして、この第2施例の同調クレイドル型制振装置11では、上記二つの支持面2aの凹曲面は各々、支持体2の上記側面に沿う水平方向に最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものとされている。なお、比較のために図3(a)中に仮想線で示す支持面2bは、曲率半径一定の円弧状の上向きの凹曲面をなす従来のものである。
【0027】
さらに、この第2施例の同調クレイドル型制振装置11では、図3(a),(b)から明らかなように、二つの支持体2が支持面2a同士を、それらの支持体2の側面に沿う水平方向に互いにずらしており、二つの転動ローラ4が、その支持面2a同士のずれ量に等しい距離だけ互いに水平方向に離間した二本の軸線上に位置して、それらの支持面2a上でそれぞれその支持面2aに沿って転動可能に支持されている。
【0028】
かかる第2実施例の同調クレイドル型制振装置11によれば、先の第1実施例と同様、支持体2の側面に沿う方向に支持体2が振動すると、その支持体2の振動に同調して、互いに異なる二本の軸線上の二つの転動ローラ4を介して支持体2の凹曲面をなす支持面2aで支持された揺動子3が転動せずに揺動するとともに、それら二つの転動ローラ4が支持面2a上で転動して、支持体2の振動エネルギーを吸収する。しかも、支持体2の支持面2aを形成している凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものであるので、支持体2の振動の振幅が大きくても、揺動子3の揺動周期は殆ど若しくは全く変化しない。
【0029】
従って、この第2実施例の同調クレイドル型制振装置11によっても、振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮し得て、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる。
【0030】
さらに、この第2施例の同調クレイドル型制振装置11によれば、二つの支持体2が支持面2a同士を、それらの支持体2の側面に沿う方向に互いにずらすとともに、二つの転動ローラ4が、その支持面2a同士のずれ量に等しい距離だけ互いに水平方向に離間した二本の軸線上に位置して、それらの支持面2a上でそれぞれその支持面2aに沿って転動可能に支持されていることから、先の第1実施例のように支持体2が支持面2aをその支持体2の側面に沿う方向に並べて二つ持つ場合よりも制振装置の設置面積を大幅に縮小しつつ、比較的長尺の一個の揺動子3を転動させずに安定して揺動させ得て、制振効果をより高めることができるとともに、先の第1実施例と同様に各支持面2a上に一つだけ転動ローラ4が乗るので、支持面2aを支持体2の側面に沿う方向に長く使い得て、より振幅が大きい振動に対して制振性能を充分に発揮することができる。
【0031】
図4(a),(b)および(c)は、この発明の同調クレイドル型制振装置の第3実施例を模式的に示す正面図、平面図および図4(b)中のD−D線に沿う断面図であり、図4中、先の実施例と同様の部分はそれと同一の符号にて示す。.
【0032】
図中符号21で示すこの第3実施例の同調クレイドル型制振装置は、二枚ずつ互いに隣接して組をなし、それら二枚ずつ二組の間に間隔が空くように基板7上に立設された概略厚板状の四枚の支持体2と、それら二組の支持体2の間に位置する揺動子3とを具えており、四枚の支持体2は、各々当該支持体2の側面(図4(a)では正面向きの面)に沿って延在する仮想鉛直平面上の凹曲線を当該支持体2の幅方向(図4(c)では左右方向)に掃引した上向きの凹曲面をなす支持面2aを持つとともに、上記側面同士を互いに平行にして、上記各組の二枚の間でも幅方向に互いに僅かに間隔を空けて延在している。
【0033】
また、この第3施例の同調クレイドル型制振装置21は、各々上記支持面2a上でその支持面2aに沿って転動可能に支持されるとともに、一端部を上記揺動子3にそれぞれ回転自在に結合されてその揺動子3を支持する四つ転動ローラ4を具えており、それら四つ転動ローラ4は、上記四枚の支持体2の四つ支持面2a上にそれぞれ配置されている。ここで、揺動子3にそれぞれ回転自在に結合された四つ転動ローラ4の他端部(外方端部)は、図示例ではその転動ローラ4より若干大きい円盤8を外側に設けられて支持体2に対し外れ止めされている。
【0034】
そして、この第3施例の同調クレイドル型制振装置21では、上記四つの支持面2aの凹曲面は各々、支持体2の上記側面に沿う水平方向に最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものとされている。なお、比較のために図4(a)中に仮想線で示す支持面2bは、曲率半径一定の円弧状の上向きの凹曲面をなす従来のものである。
【0035】
さらに、この第3施例の同調クレイドル型制振装置21では、図4(a),(b)から明らかなように、各組の二つの支持体2が支持面2a同士を、それらの支持体2の側面に沿って水平方向および鉛直方向に互いにずらしており、四つ転動ローラ4が、その支持面2a同士のずれ量に等しい距離だけ互いに水平方向および鉛直方向に離間した二本の軸線上に二つずつ位置して、それらの支持面2a上でそれぞれその支持面2aに沿って転動可能に支持されている。
【0036】
かかる第3実施例の同調クレイドル型制振装置21によれば、先の第1,第2実施例と同様、支持体2の側面に沿う方向に支持体2が振動すると、その支持体2の振動に同調して、互いに異なる二本の軸線上の四つ転動ローラ4を介して支持体2の凹曲面をなす支持面2aで支持された揺動子3が図4中仮想線で示す二つの揺動限位置の間で図4(a)中矢印Eで示すように転動せずに揺動するとともに、それら四つの転動ローラ4が支持面2a上で転動して、支持体2の振動エネルギーを吸収する。しかも、支持体2の支持面2aを形成している凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものであるので、支持体2の振動の振幅が大きくても、揺動子3の揺動周期は殆ど若しくは全く変化しない。
【0037】
従って、この第3実施例の同調クレイドル型制振装置21によっても、振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮し得て、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる。
【0038】
さらに、この第3施例の同調クレイドル型制振装置21によれば、各組の二つの支持体2が支持面2a同士を、それらの支持体2の側面に沿う水平方向および鉛直方向に互いにずらすとともに、四つの転動ローラ4が、その支持面2a同士のずれ量に等しい距離だけ水平方向および鉛直方向に互いに離間した二本の軸線上に位置して、それらの支持面2a上でそれぞれその支持面2aに沿って転動可能に支持されていることから、先の第1実施例のように支持体2が支持面2aをその支持体2の側面に沿う方向に並べて二つ持つ場合よりも制振装置の設置面積を大幅に縮小しつつ、比較的長尺の一個の揺動子3を転動させずに安定して揺動させ得て、制振効果をより高めることができるとともに、先の第1実施例と同様に各支持面2a上に一つだけ転動ローラ4が乗るので、支持面2aを支持体2の側面に沿う方向に長く使い得て、より振幅が大きい振動に対して制振性能を充分に発揮することができる。
【0039】
図5(a)は、上記第1乃至第3実施例の同調クレイドル型制振装置1,11,21で支持面2aを形成する、支持体2の側面に沿う水平方向に最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなる上向きの凹曲面の一例を示す説明図、図5(b)は、その例の凹曲面を求める計算方法の各係数を示す説明図である。
【0040】
すなわち、この計算方法では、転動ローラ4の半径をr、支持面2aを形成する凹曲面の半径をR、転動ローラ4の転動半径をl(エル)、支持面2aの最下部からの転動ローラ4の揺動角度をθ、最大揺動角度をθm、揺動子3および転動ローラ4の質量をm、転動ローラ4の慣性モーメントをI、重力加速度をgとしており、これらにより転動ローラ4の揺動周期Tは、sin(θ/2)=sin(θm/2)sinφと置き換えることで、次式(1)によって求めることができる。
【数1】

【0041】
ここで、転動ローラ4は小さいので(m+I/r)/m=1とし、また
【数2】


とすると、上記式(1)は、次式(2)となる。
【数3】

【0042】
この式(2)の両辺を2乗してl(l=R−r)に関して求めると、次式(3)となる。
【数4】

【0043】
上記式(3)において、揺動周期Tを一定値とするとともに、θmの値を例えば0°から90°まで5°ずつ増やしてki(但しi=1,2,3・・・)の値を変化させると、揺動周期Tが常に一定となる転動ローラ4の転動半径lの値の変化状態が求まり、これからRi(Ri=l+r)(但しi=1,2,3・・・)を求めて図示すると、図5(a)に示す如き、最下部から遠ざかるにつれて所定位置の中心からの距離が小さくなるとともに曲率半径が小さくなる渦巻き曲線状の上向きの凹曲線を水平方向に掃引した凹曲面となる。
【0044】
従って、この図5(a)に示す凹曲面を上述した各実施例の同調クレイドル型制振装置1,11,21で支持面2aに用いれば、支持体2の振動の振幅が大きくても、揺動子3の揺動周期を全く変化させず常に一定に保つことができ、これにより振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても常に制振性能を充分に発揮し得て、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる。
【0045】
以上、図示例に基づき説明したが、この発明は上述の例に限定されるものでなく、例えば、支持面2aの、最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなる上向きの凹曲面は、アルキメデスの渦巻きや、放物渦巻き、双曲渦巻き、対数渦巻き等の種々の渦巻き曲線状の凹曲線を掃引したものでも良い。また支持面2aを形成する、最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなる凹曲面は、図5(a)に示す如き、最下部から遠ざかるにつれて所定位置の中心からの距離が小さくなる上向きの凹曲線を掃引したものでも良い。そして支持体や揺動子や転動ローラ等の構成も、特許請求の範囲の記載範囲内で所要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
かくしてこの発明の同調クレイドル型制振装置によれば、振幅が小さい振動のみならず振幅が大きい振動に対しても制振性能を充分に発揮し得て、構造物を、地震、風、車両等によってもたらされる振動から有効に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(a)および(b)は、この発明の同調クレイドル型制振装置の第1実施例を模式的に示す正面図および側面図である。
【図2】上記第1実施例の同調クレイドル型制振装置を横揺れする構造物に設置した状態で模式的に示す正面図である。
【図3】(a),(b)および(c)は、この発明の同調クレイドル型制振装置の第2実施例を模式的に示す正面図、平面図および(b)中のC−C線に沿う断面図である。
【図4】(a),(b)および(c)は、この発明の同調クレイドル型制振装置の第3実施例を模式的に示す正面図、平面図および(b)中のD−D線に沿う断面図である。
【図5】(a)および(b)は、上記第1乃至第3実施例の同調クレイドル型制振装置で支持面を形成する上向きの凹曲面の一例を示す説明図および、その例の凹曲面を求める計算方法の各係数を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1, 11, 21 同調クレイドル型制振装置
2 支持体
2a 最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなる支持面
2b 円弧状支持面
3 揺動子
4 転動ローラ
5 Cリング
6 構造物
7 基板
8 円盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面(2a)を持つ支持体(2)と、
前記支持体の幅方向両外側に位置する二つの揺動子(3)と、
各々前記支持面上でその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、両端部を前記二つの揺動子にそれぞれ回転自在に結合されてそれらの揺動子を支持する二つの転動ローラ(4)と、
を具えてなり、
前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるにつれて曲率半径が小さくなるものである、同調クレイドル型制振装置。
【請求項2】
前記支持体(2)は前記支持面(2a)を、前記支持体の側面に沿う方向に並べて二つ持ち、
前記二つの転動ローラ(4)はそれら二つの支持面上にそれぞれ配置されていることを特徴とする、請求項1記載の同調クレイドル型制振装置。
【請求項3】
各々当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面(2a)を持つとともに、前記側面同士を互いに平行にして間隔を空けて延在する二つの支持体(2)と、
前記二つの支持体の間に位置する揺動子(3)と、
前記二つの支持体の前記支持面上でそれぞれその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、互いに異なる二本の軸線上で前記揺動子に一端部をそれぞれ回転自在に結合されてその揺動子を支持する二つまたは四つの転動ローラ(4)と、
を具えてなり、
前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものである、同調クレイドル型制振装置。
【請求項4】
前記二つの支持体は前記支持面同士を、前記支持体の側面に沿う方向に互いにずらしており、
前記転動ローラは二つであることを特徴とする、請求項3記載の同調クレイドル型制振装置。
【請求項5】
各々当該支持体の側面に沿って延在する鉛直平面上の凹曲線を当該支持体の幅方向に掃引した凹曲面をなす支持面(2a)を持つとともに、前記側面同士を互いに平行にして延在する四つの支持体であって、二つずつ互いに隣接して組をなし、各組の二つが前記支持面同士を、前記支持体の側面に沿う方向に互いにずらしており、それら二組の間に間隔が空くように位置する支持体(2)と、
前記二組の支持体の間に位置する揺動子(3)と、
前記二組の支持体の前記支持面でそれぞれその支持面に沿って転動可能に支持されるとともに、互いに異なる二本の軸線上で前記揺動子に一端部をそれぞれ回転自在に結合されてその揺動子を支持する四つの転動ローラ(4)と、
を具えてなり、
前記二つの支持面の前記凹曲面が、最下部から遠ざかるに連れて曲率半径が小さくなるものである、同調クレイドル型制振装置。
【請求項6】
前記支持面の前記凹曲線は、渦巻き曲線状であることを特徴とする、請求項1から5までの何れか記載の同調クレイドル型制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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