説明

同軸ケーブル

【課題】銅害防止効果に優れた同軸ケーブルを提供する。
【解決手段】中心導体21と、該中心導体21を覆う絶縁体22と、該絶縁体22を覆う外部導体23と、該外部導体23を覆う外皮部材24とを備えた同軸ケーブル1において、上記中心導体21は、Cu導体11と該Cu導体11を覆うCoを主成分とする層12と該Coを主成分とする層12を覆うSnを主成分とする層13とを有する素線14を複数本撚り合わせてなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅害防止効果に優れた同軸ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、同軸ケーブルの中心導体は、Cu線からなる導体(Cu導体)の外周に、防食、防錆のための該Cu導体を覆うめっき層を形成してなる。同軸ケーブルは、この中心導体の外周に、該中心導体を覆う絶縁体を形成してなる。絶縁体は、ポリプロピレン系樹脂(ポリプロピレン又はポリプロピレンを含有した樹脂)からなる。
【0003】
【特許文献1】特開2006−196209号公報
【特許文献2】特開平8−7960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、このようなポリプロピレン系樹脂を絶縁体とした同軸ケーブルは、絶縁体とCu導体とが接触すると、絶縁体がCuと化学的に反応し、絶縁体が分解する現象(銅害)が発生する。
【0005】
従来から銅害を防止するため、絶縁体中に銅害防止剤を添加したり、Cu導体の表面にSnめっきを施したりしている。特許文献1では、銅害防止効果を高めるために、Cu導体の外側、もしくは絶縁体の内側にポリエチレンなどからなる銅害防止層を設けている。
【0006】
しかしながら、絶縁体中に銅害防止剤を添加する場合、添加量が十分でないと、銅害防止効果が得られないため、必要十分な量を添加することになる。そのため、絶縁体の特性、例えば、可塑性、屈曲性、可とう性などに影響が及ぶ。
【0007】
Cu導体の表面にSnめっきを施す場合、Sn中にCu原子が拡散する現象を防止しているわけではないので、経時的にCu原子がめっき表面に析出し、銅害を引き起こす。
【0008】
特許文献1では、銅害防止効果を高めるために複数の樹脂層を設けているが、複数の樹脂層を重ねて構成するために、内側の樹脂を硬化した後に、外側の樹脂を形成する工程を複数回行う必要があり、銅害防止剤を含んでいる樹脂材料と通常の樹脂材料を熱的に安定なまま交互に構成することは、樹脂の熱劣化等の問題があり、事実上困難である。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、銅害防止効果に優れた同軸ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、中心導体と、該中心導体を覆う絶縁体と、該絶縁体を覆う外部導体と、該外部導体を覆う外皮部材とを備えた同軸ケーブルにおいて、上記中心導体は、Cu導体と該Cu導体を覆うCoを主成分とする層と該Coを主成分とする層を覆うSnを主成分とする層とを有する素線を複数本撚り合わせてなるものである。
【0011】
上記外部導体は、上記素線を複数本網組したものであってもよい。
【0012】
上記Coを主成分とする層は、Sn−Co、Sn−Cu−Co、Co−W、Co−W−P、Co−Pdのいずれかの金属間化合物層であってもよい。
【0013】
上記絶縁体は、ポリプロピレン又はポリプロピレンを含有した樹脂からなってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0015】
(1)銅害防止効果に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0017】
本発明に係る同軸ケーブルは、図2に示されるように、中心導体21と、該中心導体21を覆う絶縁体22と、該絶縁体22を覆う外部導体23と、該外部導体23を覆う外皮部材24とを備えた同軸ケーブル1において、上記中心導体21は、図1に示されるように、Cu導体11と該Cu導体11を覆うCoを主成分とする層12と該Coを主成分とする層12を覆うSnを主成分とする層13とを有する素線14を、図2に示されるように、複数本撚り合わせてなる。また、外部導体23は、同様の素線14を複数本網組してなる。
【0018】
Coを主成分とする層12は、Cu導体11の表面にCoめっきを施すことにより形成されるCoめっき層である。Snを主成分とする層13は、Coを主成分とする層12の表面にSnめっきを施すことにより形成されるSnめっき層である。各めっき層は、各金属層界面に該界面で接するそれぞれの元素で構成される合金層を含む。また、めっき時に還元剤として金属イオンを含む水溶液を用いた場合、それらの金属元素、金属間化合物を含んでもよい。Snのめっき方法には、電気めっき、無電解めっき、溶融めっきなどの方法がある。
【0019】
Coを主成分とする層12とは、Sn−Co、Sn−Cu−Co、Co−W、Co−W−P、Co−Pdなどの金属間化合物層のことである。
【0020】
図2に示されるように、図1の素線14を撚り線加工することにより、撚り線導体からなる中心導体21が形成されている。絶縁体22は、ポリプロピレン又はポリプロピレンを含有した樹脂(ポリプロピレン系樹脂)からなる。図1の素線14を網組加工することにより、撚り線網組からなる外部導体23が形成されている。外皮部材24は、PFAからなり、外部絶縁体(シース)とも言う。
【0021】
ここで、めっき層について説明しておく。
【0022】
Cu導体にSnめっきを施した線材の場合、Snに対するCuの溶解量が大きいために容易にSn中にCuが拡散し、Su−Cu合金を形成し、めっき表面にCuが析出してくる。
【0023】
金属原子の拡散現象を抑制するためには、対象となる金属に対し、高融点金属、および窒素化合物を用いる(バリア層の形成)。例えば、W、Ta、TiN、Ta2Nなどの高融点金属、窒素化合物を用いる。
【0024】
Cu導体を覆うバリア層としては、電気伝導率が高い必要がある。しかし、多くの窒素化合物は、電気伝導率が低い。
【0025】
また、窒素化合物は、反応性スパッタ法などに代表される真空技術を用いた形成方法で形成されるため、製造コストが高いと共に、その工程にリール・トゥ・リールなどの電線製造技術との親和性がない(なじまない)。
【0026】
電気めっき、無電解めっき、溶融めっきなどのめっき法は、めっき液が入っているめっき浴槽中に電線であるCu導体を通過させることでCu導体の表面に所望のめっき層を形成することができ、リール・トゥ・リールなどの電線製造技術との親和性が高い(電線製造ライン中にめっき工程を入れることができる)。
【0027】
Coは、無電解めっきによりめっき層を形成することが可能である。Coの無電解めっきは、Coイオンを含む水溶液に次亜リン酸塩を還元剤として用いる。Cu導体表面では、一時的に次亜リン酸塩を利用しためっき反応が発生しにくい。Cu導体表面にCoを析出するために、Pdイオンを含んだ水溶液を触媒として用いる。これにより、Cu導体表面に選択的にCoを析出することができる。
【0028】
このような無電解めっきによりCoめっき層をCu導体表面に形成することが可能である。Coめっき層は、電気伝導率が高いので、Cu導体を覆うバリア層として好ましい。また、Coめっきの工程は、電線製造技術との親和性が高い。
【0029】
本発明にあっては、中心導体21は素線14を複数本撚り合わせてなる。その素線14は、Cu導体11をCoを主成分とする層(Coめっき層)12で覆い、そのCoめっき層12をSnを主成分とする層(Snめっき層)13で覆うため、Coめっき層12がバリア層となり、Cu導体11からCuがSnめっき層13に拡散することがなく、Snめっき層13の表面にCuが析出しない。よって、中心導体21に接する絶縁体22への銅害を効果的に防止することができる。
【0030】
また、本発明によれば、外部導体23は素線14を複数本網組したものである。よって、外部導体23に接する絶縁体22への銅害を効果的に防止することができる。
【0031】
このように、本発明によれば、素線14のめっき構造をCu導体11、Coめっき層12、Snめっき層13としたので、Cu導体11から外部へ拡散する銅原子を抑制することができ、その結果、絶縁体22への銅害を効果的に防止することができる。
【0032】
また、従来は銅害防止対策として絶縁体に銅害防止剤を添加する必要があったが、本発明によれば、絶縁体に銅害防止剤を添加する必要がなくなり、ケーブル使用用途に応じて、ケーブルの可塑性、可とう性、屈曲性等の諸特性に応じた絶縁体を選択することが可能となる。
【実施例】
【0033】
実施例として、図2と同じ構造及び組成の同軸ケーブル1を製造した。中心導体21は、φ0.064mm単線(素線14)を7本撚ったものである。その中心導体21の周囲に0.06mmの肉厚で絶縁体22を形成した。中心導体21と絶縁体22とをコアと呼ぶ。コアの外径がφ0.184mmである。このコアの外周にφ0.04mm単線(素線14)を網組して外部導体23を形成した。その外部導体23の周囲に肉厚0.04mmのPFAからなる外皮部材24を形成した。この同軸ケーブル1の外径はφ0.344mmである。
【0034】
素線14は、図1と同じ構造及び組成であり、Coめっき層12の厚さを約300nm、Snめっき層13の厚さを約700nmとした。
【0035】
比較例として、図2と同じ構造で、素線の組成が異なる同軸ケーブルを製造した。中心導体21は、φ0.064mm単線を7本撚ったものである。その中心導体21の周囲に0.06mmの肉厚で絶縁体22を形成した。コアの外径がφ0.184mmである。このコアの外周にφ0.04mm単線を網組して外部導体23を形成した。その外部導体23の周囲に肉厚0.04mmのPFAからなる外皮部材24を形成した。この同軸ケーブルの外径はφ0.344mmである。
【0036】
素線は、図1と異なり、Cu導体の外側にCoめっき層がなく、Snめっき層のみを厚さ約700nm形成したものである。
【0037】
これら実施例と比較例の同軸ケーブルを約200℃の雰囲気下に放置し、絶縁体22に亀裂が発生するまでの時間を測定すると共に、中心導体21外部導体23間の絶縁抵抗を測定した。実施例、比較例とも20本ずつ試験し、評価を行った。
【0038】
実施例の同軸ケーブルでは、約48時間経過後に半数の10本において絶縁体22に亀裂が入り、13本において中心導体21と外部導体23との間の短絡が確認された。比較例の同軸ケーブルでは、約15時間経過後に半数の10本において絶縁体22に亀裂が入り、11本において中心導体21と外部導体23との間の短絡が確認された。
【0039】
この試験評価から、実施例の同軸ケーブルは、銅害防止効果が高いので、高温環境下でも長期にわたり良好なケーブル特性を維持できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態を示す素線の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す同軸ケーブルの断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 同軸ケーブル
11 Cu導体
12 Coを主成分とする層(Coめっき層)
13 Snを主成分とする層(Snめっき層)
14 素線
21 中心導体
22 絶縁体
23 外部導体
24 外皮部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体と、該中心導体を覆う絶縁体と、該絶縁体を覆う外部導体と、該外部導体を覆う外皮部材とを備えた同軸ケーブルにおいて、
上記中心導体は、Cu導体と該Cu導体を覆うCoを主成分とする層と該Coを主成分とする層を覆うSnを主成分とする層とを有する素線を複数本撚り合わせてなることを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項2】
上記外部導体は、上記素線を複数本網組したものであることを特徴とする請求項1記載の同軸ケーブル。
【請求項3】
上記Coを主成分とする層は、Sn−Co、Sn−Cu−Co、Co−W、Co−W−P、Co−Pdのいずれかの金属間化合物層であることを特徴とする請求項1又は2記載の同軸ケーブル。
【請求項4】
上記絶縁体は、ポリプロピレン又はポリプロピレンを含有した樹脂からなることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の同軸ケーブル。

【図1】
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【図2】
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