説明

吐出用液体、吐出方法、液滴化方法、液体吐出カートリッジ及び吐出装置

【課題】 蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含有した場合でもインクジェット方式により安定に吐出可能である吐出用液体、これをもちいら蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含有する液体の吐出方法及び吐出装置を提供すること。
【解決手段】 蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む水溶液に塩化ベンザルコニウムを添加して、インクジェット方式での吐出に対する適正を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む液体の液滴化に適した液体組成物及びその液滴化方法、並びにこの液滴化方法を用いた吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、蛋白質溶液を液滴として利用する試みが多くなされている。例えば薬物送達方法としての経粘膜投与や、極微量の蛋白質が必要とされるバイオチップやバイオセンサーへの適用が挙げられる。また、蛋白質の結晶制御、生理活性物質のスクリーニングにおいても蛋白質の微小液滴を用いる方法が注目されている(特許文献1および非特許文献1、2)。
【0003】
近年では、蛋白質、特に酵素や生理活性を持つ有用な蛋白質は遺伝子組み換え技術により量産可能になりつつあり、蛋白質の新たな医薬としての探索や利用、および応用分野に対して蛋白質の液滴化は有用な手段となり得る。中でも、微小液滴を用いて患者に多彩な薬剤を投与する手段はその重要性を増しつつある。特に蛋白質やペプチドを始め、その他の生体物質を含む微小液滴を肺から投与することが重要となっている。肺はその肺胞表面積が50〜140mと広大であり、吸収障壁である上皮は0.1μmと非常に薄い。加えて酵素活性も消化管と比して小さいために、インスリンに代表される高分子ペプチド系薬物の注射に代わる投与ルートとして注目されてきた。
【0004】
一般に、薬物微小液滴の肺内沈着は、その空力学的粒子径に大きく依存することが知られている。中でも肺深部である肺胞への送達には、粒度分布が1〜5μmの間に存在し、かつ粒度分布の狭い液滴を、高い再現性で投与できる投与形態と安定な製剤の開発が必須となる。
【0005】
体内、特に呼吸器周囲に製剤を投与する方法が従来から幾つかあり、これらを例示する。
【0006】
懸濁物エアロゾル形態の定量噴霧吸入器(MDI)では、噴射剤として、不燃性、あるいは難燃性ガスを液化したものを利用し、単回噴射に供される液化ガスの単位容量を規定することで、定量噴霧を可能としている。しかし、この液化ガスの単位容量によるが、上記の範囲での液滴径の制御には課題が残る上に、噴射剤が健康に対して良いとは言い難い。
【0007】
また、媒体として水やエタノールを用いる液剤の噴霧に利用されるスプレー方式の噴霧では、キャピラリーを介して、液剤を搬送用加圧気体とともに放出することで、細かな液滴に変換している。従って、原理的には、かかるキャピラリー流路に供給される液剤の液量を規定することで、噴霧量を制御することは可能であるが、液滴径の制御は難しい。
【0008】
特に、スプレー方式の噴霧では、液剤を細かな液滴に変換する過程で利用される加圧気体を、その後、噴霧された微細な液滴を搬送する気体の流れとしても使用する。そのため、この搬送用の気流中に浮遊される微細な液滴の量(密度)を目的に応じて変化させることが、構造上困難である。
【0009】
粒度分布が狭い液滴を作製する方法として、インクジェット印刷に使用される液体吐出の原理に基づいた液滴生成器を使用して極めて微細な液滴を生成し、利用することが報告されている(特許文献2、3)。ここで、当該種のインクジェット方式による液体吐出では、吐出する液体を小さな室に導き、液体に押出す力を与えて、オリフィス(吐出口)から液滴を吐出させる。このための押出す方法として、薄膜抵抗器等の熱変換機を用いて気泡を生成する(サーマルインクジェット方式)、ピエゾ振動子を用いて液体を直接押出す(ピエゾインクジェット方式)などを例示できる。液体導入室及びオリフィスはプリントヘッド素子に組み込まれ、このプリントヘッド素子は、液体の供給源に接続されると共に、液滴の吐出を制御するコントローラに接続されている。
【0010】
薬剤を肺から吸収させるにあたっては、特に上記の蛋白質製剤などでは投与量の精密な制御が必要であり、吐出量を制御できるインクジェット方式の原理に基づく液滴化は非常に好ましい形態である。しかし、液が確実に吐出していることが求められるにもかかわらず、表面張力や粘度を調整しただけの蛋白質溶液の吐出は不安定であり、再現性と効率が高い吐出が困難な場合があった。
【0011】
蛋白質やペプチドを含む溶液をインクジェット方式により液滴化する際に伴う問題点は、蛋白質の立体構造の脆弱な性質にあり、構造が破壊されると蛋白質の凝集及び分解を招く場合がある。インクジェット方式による液滴化の際に加わる物理的な力、例えば圧力、剪断力や微小液滴特有の高い表面張力により、多くの蛋白質の構造が不安定になる(サーマルインクジェット方式を用いる場合には、この他に熱を加えることになる)。この場合、通常の攪拌や加熱処理などの場合に比べて、溶液に加わる剪断力や熱エネルギーは極端に大きく、また同時に複数の物理的な力が加わる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、瞬間的に300℃、90気圧の負荷がかかると考えられている。このため、蛋白質の安定性は非常に低下しやすく、従来から用いられている蛋白質の安定化技術では不十分な場合があった。この問題が生じると、液滴を作成する際に蛋白質が凝集し、ノズル詰まりを生じさせるため、液滴の吐出が困難となる。
【0012】
さらに、肺吸入に適した大きさである1〜5μmの液滴は、現在市販されているプリンターの液滴径約16μmと比較して非常に小さいため、液滴にはより大きな表面エネルギーや剪断力が加わる。そのため、蛋白質を肺吸入に適した微小な液滴として吐出することは非常に困難なことである。上記のような様々な利用を考えた場合、蛋白質溶液を吐出する方法は、製造コストが低く、ノズルの高密度化が可能なサーマルインクジェット方式の原理に基づくことが好ましい。ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式は、利用される圧電体素子の微小化に限界があり、単位面積当たりに設けられる噴出口の数が制限される。また、単位面積当たりに設けられる噴出口の数が多くなるに伴い、その作製に要するコストが急激に高くなる。それに対して、サーマルインクジェット方式では、利用するマイクロ・ヒーター素子の微小化は比較的容易であり、ピエゾ圧電体素子などを利用する振動方式と比較して、単位面積当たりに設ける噴出口の数も多くできる。また、その作製に要するコストも遥かに低くできる。
【0013】
サーマルインクジェット方式の原理に基づく液滴の噴出機構に関しても、様々な技術開発が進められている。プリンターに装備される通常のインクジェットヘッドでは、噴出される個々の液滴の液量は数ピコリットル程度であるのに対し、その液量が、サブピコリットル、あるいはフェムトリットルオーダーの極めて微細な液滴が得られる噴出機構・方法の技術も開発されている(特許文献4)。これにより例えば、数μmサイズの体細胞を、薬剤の塗布を施す対象物とする際に、吐出される個々の液滴として、前記の極めて微細な液滴を利用する必要が生じる場合も想定される。
【0014】
一方、蛋白質を安定化する方法として従来知られている、二次成分を添加する方法は、サーマルインクジェット方式に基づく蛋白質を吐出する場合における吐出性能の向上にはほとんど或いは全く効果がない場合が多い。二次成分とは具体的にはグリセロール、種々の糖質、ポリエチレングリコールのような水溶性高分子、アルブミンなどである。
【0015】
サーマルインクジェット方式を用いて作成した液滴の肺吸入に関する液組成物については、表面張力を調節する化合物や保湿剤を添加する方法(特許文献5)が開示されている。ここでは、溶液の表面張力や粘度、保湿作用によって液滴化した溶液中の蛋白質の安定性が上昇するとして、界面活性剤やポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を加えている。
【特許文献1】特開2002−355025号公報
【特許文献2】米国特許第5894841号明細書
【特許文献3】特開2002−248171号公報
【特許文献4】特開2003−154655号公報
【特許文献5】国際公開WO02/094342号パンフレット
【非特許文献1】Allain LR et.al.「Fresenius J. Anal.Chem.」 2001年、371巻p.146−150
【非特許文献2】Howard EI、Cachau RE「Biotechniques」2002年33巻p.1302−1306
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献5には吐出の安定性についての記載はなく、さらに、本発明者らの検討によれば、界面活性剤や水溶性高分子の添加は、蛋白質やペプチドの濃度が高くなると効果が不十分であり、添加物自体が吐出の安定性を阻害することもあった。また、界面活性剤は効果が全く認められないものが多く、表面張力や粘度あるいは保湿作用が蛋白質溶液の吐出安定性を規定しているわけではなかった。言い換えれば、前記の方法は蛋白質やペプチドを含む溶液をサーマルインクジェット方式で吐出する際、吐出安定化の一般的な方法ではなかった。
【0017】
本発明は、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含有する液滴をインクジェット方式の原理に基づいて安定に吐出するための吐出用液体としての吐出用液体(液体組成物)、並びにこの吐出用液体の吐出に適した吐出方法及び吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の吐出用液体は、吐出用エネルギーを付与して吐出口から吐出させるための吐出用液体において、蛋白質及びペプチドから選択された少なくとも1種と、塩化ベンザルコニウムと、水を主体とする液媒体とを含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の吐出方法は、上記の吐出用液体をインクジェット方式の原理に基づいて吐出することを特徴とする。
【0020】
本発明の液体吐出用カートリッジは、上記の吐出用液体が収納されるタンクと、吐出用ヘッドとを有することを特徴とする。
【0021】
本発明の吐出装置は、上記構成の液体吐出用カートリッジ、該カートリッジの有するヘッドの液体吐出部から吐出する液体を利用者の吸入部位へ誘導するための流路及び開口部を有することを特徴とする。
【0022】
本発明の液滴化方法は、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む液体に吐出用エネルギーを付与して該液体を液滴化する方法である。具体的には、流路中に充填された液体に吐出用エネルギーを付与して該流路に連通する吐出口から液滴として吐出する工程を有し、前記液体が、上記の吐出用液体であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む溶液に、塩化ベンザルコニウムを添加することで、インクジェット方式に基づいた安定な吐出が可能である吐出用液体を得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明における蛋白質とは、アミノ酸が多数ペプチド結合でつながった、水溶液中に溶解または分散する任意のポリペプチドを意味する。また、本発明におけるペプチドとは、2つ以上のアミノ酸がペプチド結合でつながったアミノ酸数100以下のものを意味する。蛋白質及びペプチドは化学的に合成しても天然源から精製しても良いが、典型的には天然蛋白質及びペプチドの組換え体である。蛋白質及びペプチド分子へのアミノ酸残基の共有結合によって蛋白質及びペプチドを化学的に改質し、それによって蛋白質及びペプチドの治療効果を長引かせるなど、効果の向上を図ることも可能である。
【0026】
本発明を実施する際には、液滴化することが望ましい各種蛋白質及びペプチドが使用され得る。最も典型的には、本発明による蛋白質及びペプチドの液滴化は、治療上有用な蛋白質及びペプチドを肺に送達させるために好適に利用可能である。
【0027】
例としてはカルシトニン、血液凝固因子、シクロスポリン、G−CSF、GM−CSF、SCF、EPO、GM−MSF及びCSF−1のような各種造血因子、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11及びIL−12のようなインターロイキン類、IGF類、M−CSF、チモシン、TNF及びLIFを含めたサイトカイン類が挙げられる。使用し得るほかの治療効果を有する蛋白質には、血管作用ペプチド、インターフェロン類(アルファ、ベータ、ガンマまたは共通インターフェロン)、成長因子又はホルモン、例えばヒト成長ホルモン又は(ウシ、ブタまたはニワトリ成長因子のような)他の動物成長ホルモン、インスリン、オキシトシン、アンジオテオシン、メチオニンエンケファリン、サブスタンスP、ET−1、FGF、KGF、EGF、IGF、PDGF、LHRH、GHRH、FSH、DDAVP、PTH、バソプレッシン、グルカゴン、ソマトスタチン、等が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、例えばロイペプチン、ペプスタチン、(TIMP−1、TIMP−2又は他のプロテイナーゼ阻害剤のような)メタロプロテイナーゼ阻害剤も使用される。BDNFやNT3のような神経成長因子も使用される。tPA、ウロキナーゼ及びストレプトキナーゼのようなプラスミノーゲン活性化因子も使用される。親蛋白質の主構造のすべてもしくは一部を有しており且つ親蛋白の生物学的諸性質の少なくとも一部を有している蛋白質のペプチド部分も使用される。アナログ、例えば置換又は欠陥アナログ、あるいはペプチド類似物のような改変アミノ酸、PEG、PVAなどの水溶性高分子で修飾された上記物質を含むものも使用される。前記の蛋白質が肺に送達できることはCritical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, 12(2&3)(1995)で明らかにされている。
【0028】
さらに、バイオチップ、バイオセンサーの作製や蛋白質及びペプチドのスクリーニングなどの利用には、上記の蛋白質及びペプチドに加え、オキシダーゼ、リダクターゼ、トランスフェラーゼ、ハイドラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、シンテターゼ、エピメラーゼ、ムターゼ及びラセアーゼなどの各種酵素、IgG、IgEなどの各種抗体及びレセプター、及びこれらの抗原、アレルゲン、シャペロニン、アビジン及びビオチンなど診断に用いられる蛋白質及びペプチド、固定化するための試薬で修飾された上記物質も使用され得る。
【0029】
前記の吐出用液体中に含有される蛋白質及びペプチドとしては、例えば分子量が0.5k〜150kDaの範囲にあるものを用いることができる。また、蛋白質及びペプチドから選択された少なくとも1種の含有量は、その目的や用途に応じて選択されるが、好ましくは、1ng/ml〜200mg/mlの範囲から選択される。
【0030】
インクジェット方式によるインクの吐出性の改善については、一般的に界面活性剤やエチレングリコールなどの溶剤を添加することが知られている。しかし、蛋白質及びペプチド溶液を吐出する場合には、これらを添加するだけでは吐出性の向上は認められず、新たな添加剤が必要であった。
【0031】
なお、以下の説明においてはサーマルインクジェット方式の原理に基づいた構成を中心に述べる。これは、サーマルインクジェット方式が最も吐出性向上を顕著に示すためであって、本発明においてはピエゾ素子の振動圧を利用してノズル内の液体を吐出させるピエゾインクジェット方式を用いることも可能である。しかし、サーマルインクジェット方式を用いた場合、個々の液剤吐出ユニットについて、吐出口の口径、吐出に利用される熱パルスの熱量、それに用いるマイクロ・ヒーターなどのサイズ精度、再現性を高くすることが可能である。このため、ヘッド上に高密度に配置される多数の液剤吐出ユニット全体における狭い液滴径分布を達成することが可能である。また、製作コストが低く、ヘッドを頻繁に交換する必要がある、小型の装置が求められるといった本発明が多く利用される状況においては、サーマルインクジェット方式をより好適に用いられる。
【0032】
本発明者らは、鋭意検討進めた結果、有効成分として蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む溶液に塩化ベンザルコニウムを添加した溶液が、インクジェット方式の原理に基づいて安定した液滴化に適していることを見出した。本発明で使用される塩化ベンザルコニウムは下記式(1)のベンザルコニウムにおいてXが塩化物イオンである場合である。
【0033】
【化1】

【0034】
式(1)中のRは炭素数が8から18の間にある置換または無置換の任意のアルキル基であり、炭素数が8〜16の間にある飽和アルキル基であることがより好ましい。式(1)中のXはカウンターイオンであり、アニオン種であればよく、無機及び/又は有機のアニオンから選ばれる少なくとも1種である。例としては、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオンなどのハロゲンイオン、水酸化物イオン、カルボン酸類イオン、硝酸類イオン、燐酸類イオン及び硫酸類イオンなどが挙げられる。カウンターイオンは1種類であっても、複数種類であっても良い。
【0035】
塩化ベンザルコニウムが吐出の安定性に大きく寄与する原因は以下のように考えられる。ベンザルコニウムは四級アンモニウムカチオンを分子中に有し、且つカウンターアニオンと共存して水和性を有している。また、その水和性および水への溶解性は高く、分子中に長鎖のアルキル基を有していても高い水和性を有する特徴がある。一方、蛋白質及びペプチドは疎水性が強く、水和安定化が困難である。塩化ベンザルコニウム中に前記の長鎖アルキル基、すなわち疎水基を有することで、その疎水基が蛋白質やペプチド中の疎水部に作用し、且つ、水和性の高いカチオンとアニオンの水和力で蛋白質及びペプチドを水和安定化させる。その結果、蛋白質及びペプチド同士の作用を抑制することができる。この作用によりサーマルインクジェット方式の原理に基づいて吐出する際のエネルギー負荷に由来する蛋白質及びペプチドの変性、凝集を抑止でき、また、吐出を安定化することができる。
【0036】
塩化ベンザルコニウムの添加量は、共存する蛋白質またはペプチドの種類によって異なるが、吐出安定性の観点から、一般に吐出液の全重量に対して重量%で0.01〜20%の範囲内とすることが好ましく、0.1%〜10%の範囲内とすることがより好ましい。
【0037】
本発明では、塩化ベンザルコニウムに加えて、それ以外の界面活性剤を添加することで、添加する塩化ベンザルコニウムの濃度を大幅に減少しても、吐出の安定性を保てることを見出した。界面活性剤の添加濃度は、共存する蛋白質等の種類にも依るが、塩化ベンザルコニウム1重量部に対して、0.2〜1重量部添加することが好ましい。それによって、同じ蛋白質濃度の溶液に対する塩化ベンザルコニウムの添加量を10分の1〜2分の1に減らすことができる。
【0038】
界面活性剤は蛋白質の変性を抑制する作用と、凝集した蛋白質を再溶解させる作用を有しており、これらの作用により吐出を安定化しているものと考えられる。塩化ベンザルコニウムによる効果と、界面活性剤による効果の2つの異なる効果が組み合わさることによって相乗効果が得られ、吐出の安定性が大幅に改善されると考えられる。界面活性剤単独では、これらの作用が大きくないために蛋白質の凝集を完全には抑制できず、吐出の安定性を確保できないと考えられる。
【0039】
本発明における界面活性剤とは、極性部分と非極性部分との両方を一つの分子中に有する化合物、または、極性部分と非極性部分とがイオン結合などの2次結合で結ばれている化合物であって、前記各部分が分子中の離れた局在領域位置し、当該界面活性剤が二つの非混和性相間の界面張力を界面での分子整列によって減少させ、かつミセルを形成し得るような性質を保有する化合物を意味する。
【0040】
使用され得る界面活性剤に制限はないが、例えばソルビタンモノカプリレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノミリテート、グリセリンモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;デカグリセリルモノステアレート、デカグリセリルジステアレート、デカグリセリルモノリノレート等のポリグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビットテトラステアレート、ポリオキシエチレンソルビットテトラオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレングリセリルモノステアレート等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールジステアレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンプロピルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル;ポリオキシエチエレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン水素ヒマシ油)等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシエチレンソルビットミツロウ等のポリオキシエチレンミツロウ誘導体;ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレンラノリン誘導体;ポリオキシエチレンステアリン酸アミド等のポリオキシエチレン脂肪酸アミド等のHLB6〜18を有するもの;陰イオン界面活性剤、例えばセチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム等の炭素原子数8〜18のアルキル基を有するアルキル硫酸塩;ポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム等の、エチレンオキシドの平均付加モル数が2〜4でアルキル基の炭素原子数が8〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキル基の炭素原子数が8〜18であるアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリルスルホコハク酸エステルナトリウム等の、アルキル基の炭素原子数が8〜18のアルキルスルホコハク酸エステル塩;天然系の界面活性剤、例えばレシチン、グリセロリン脂質;スフィンゴミエリン等のフィンゴリン脂質;炭素原子数8〜18の脂肪酸のショ糖脂肪酸エステル等を典型的例として挙げることができる。本発明の吐出用液体(液体組成物)には、これらの界面活性剤の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。
【0041】
好ましい界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルであり、特に好ましいのはポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン20ソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(5)ソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレン20ソルビタントリオレートであり、最も好ましいのはポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート及びポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレートである。また、肺吸収用として特に好適なものは、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノオレートである。
【0042】
液媒体の構成としては、蛋白質等の溶解性等の観点から、水を主とすることが好ましく、媒体中の水比率は50%以上であることが望ましい。媒体の主成分である水の他に、アルコールなどの水溶性有機溶媒を含む混合液媒体を用いることができる。
【0043】
具体的な水溶性有機溶剤の例としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;エタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0044】
本発明においては、蛋白質とアミノ酸や界面活性剤は、予め混合されていても良いし、吐出直前に混合されても良いが、吐出前に均一に混合されていることが好ましい。
【0045】
本発明の実施形態において、微生物の影響を除去するために抗菌剤、殺菌剤、防腐剤を添加しても良い。本発明に用いる塩化ベンザルコニウムにも前記の作用が見られるが、更に例えば、塩化ベンザトニウムのような4級アンモニウム塩類、フェノール、クレゾール、アニソール等のフェノール誘導体、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステルのような安息香酸類、ソルビン酸などが挙げられる。
【0046】
本発明の実施形態において、保存時の物理的安定性を増加させるためにオイル、グリセリン、エタノール、尿素、セルロース、ポリエチレングリコール、アルギン酸塩を添加してもよい。また、化学的安定性を増加させるために、アスコルビン酸、クエン酸、シクロデキストリン、トコフェロールまたは他の抗酸化剤を添加しても良い。
【0047】
吐出用液体のpHを調整するために、緩衝剤を添加しても良い。例えば、アスコルビン酸、クエン酸、希塩酸、希水酸化ナトリウムなどの他、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、EDTA、DTPA、PBS、HEPES、Trisなどの緩衝液を用いても良い。
【0048】
液体の等張化剤として、アミノエチルスルホン酸、塩化カリウム、塩化ナトリウム、グリセリン、炭酸水素ナトリウムを添加しても良い。
【0049】
矯味・矯臭剤としてグルコースやソルビトールといった糖類やアステルパームのような甘味剤、メントールや各種香料を添加しても良い。また、親水性のものだけでなく、疎水性の化合物、例えばオイル状のものを用いても良い。
【0050】
更には、必要に応じて、適用対象の噴霧液の使用目的に適合する種々の添加剤、例えば、表面調整剤、粘度調整剤、溶剤、保湿剤を適正量添加することができる。
【0051】
具体的には、配合可能な添加剤として、親水性バインダー、疎水性バインダー、親水性増粘剤、疎水性増粘剤、グリコール誘導体類、アルコール類、嬌味成分、矯臭成分および電解質を例示でき、これらより選ばれて単一でもよく、また混合物でもよい。
【0052】
なお、上記に例示した添加剤として利用する各種の物質に関しては、治療用の液剤の調製に添加可能な副次成分として、各国の薬局方などに記載されている、医薬用途のもの、あるいは、食品、化粧品において利用が許容されているものを用いることがより好ましい。
【0053】
上記の添加剤として、配合される各種の物質の添加量は、その種類や組み合わせによっても、対象となる蛋白質及びペプチドの種類によっても異なる。しかし、吐出性の観点から、一般に、各々重量で0.01%〜40%の範囲に選択することが好ましく、0.1%〜20%の範囲内とすることがより好ましい。
【0054】
上記吐出用液体をバイオチップ、バイオセンサーの製造や蛋白質のスクリーニングに用いる場合には、現在市販されているインクジェットプリンターとほとんど同様のシステムを利用することができる。
【0055】
本発明にかかる液体吐出装置は、サーマルインクジェット方式によって吐出用液体の微小液滴を吐出させることが可能な吐出用ヘッド部を有し、ヘッド部を構成する多数の吐出ユニットを独立駆動可能な構成とすることが好ましい。その際、各吐出ユニットの独立駆動に要する複数の制御信号等の接続に供する電気接続部と、各液剤吐出ユニットとの間を繋ぐ配線とを一体化し、加えて、吐出用液体を収納するタンクと、このタンクから吐出用ヘッドへ吐出用液体を供給する手段としての液流路とを含めて、各部が一体的に構成された液体吐出用カートリッジの形態とすることが好ましい。
【0056】
図1に、本発明にかかる吐出用液体を用いた基板上への蛋白質スポットの形成を行うための装置の概要を示す。基板5は、例えば試料中に含まれる各種物質を検出するための蛋白質、ペプチド、酵素、抗体などの標準品の固定領域を形成した検出用プレートとして利用されるものである。液体吐出ヘッド3は、吐出エネルギーが液体に付与される液路(不図示)と、液路に連通する吐出口(不図示)とを少なくとも有する。液体を貯留したタンク1から液体供給路2を介して液路に供給された液体に対して吐出エネルギーが付与され、液体は吐出口から液滴4として基板5表面の所定位置に吐出される。基板5は、矢印で示される面方向に位置調整を可能とするステージ上に配置され、ステージを移動させることで、液滴4の基板5上での着弾位置が調整される。液滴4の吐出のタイミングは吐出ヘッド3に電気的に接続された駆動コントローラ6により制御される。
【0057】
図2に、蛋白質のスポットを基板表面に配置した一例の平面図を示す。図示した例では、1種類の吐出用液体を用いているが、吐出ヘッド部に、それぞれが異なる吐出用液体を吐出する独立駆動可能な吐出ユニットを複数配置し、各ユニットのそれぞれに所定の吐出用液体の供給系を接続することで、複数種のスポットを基板上に形成できる。更に、各スポット形成位置への液体付与量を変化させることで、異なる付与量のスポットを形成可能である。
【0058】
吐出ヘッド3には、基板上に形成されるスポットの大きさや配置密度などに応じて種々の構成のものが利用できる。1液適量をサブピコリットル、あるいは、フェムトリットルオーダーとする場合は、かかるオーダーでの液適量の制御性にも優れている特開2003−154655号公報に開示される、極微小の液滴吐出用ヘッドを利用することが好ましい。
【0059】
次に、本発明にかかる吐出用液体を噴霧用に用いる場合、特に、吸入装置に適用する場合について述べる。吸入装置としては、吐出用液体(液剤)を細かな液滴に変換する部分と、噴霧された微細な液滴をその搬送用の気流中に混入する部分と、を独立して有する構成の吸入装置を用いることが好ましい。このように、微細液滴への変換部分と微細液滴を含む気流を形成する部分とを分離することで、その利点を活かして、投与対象者に気流を吸入させる際に、気流中に有効成分としての蛋白質やペプチドの量、すなわち各単回投与あたりの所定用量をより均一に調整することが可能となる。また、上記のように、吐出ヘッド部分をそれぞれが多数の吐出口を有する複数のユニット毎に異なる有効成分を吐出する構成とすることで、複数の有効成分の吐出量を制御することもできる。
【0060】
また、噴霧機構としての吐出ヘッドとして、吐出口を高密度に配置し得るサーマルインクジェット原理に基づいた吐出用ヘッドを利用することで、使用者が携帯所持できるような吸入装置の小型化が容易となる。
【0061】
肺吸入の吸入装置においては、気流中に含まれる液滴の粒度分布が1〜5μmの間に存在し、かつ狭い粒度範囲を示していることが重要である。更に、携帯用として利用される場合には、コンパクトな構成を有する必要がある。
【0062】
そのような吸入装置の有する液体吐出部の一例の概要を図3に示す。この液体吐出部は、ヘッド部9、吐出用液体を貯留するタンク7、タンク7からヘッド部9に供給するための液流路8、ヘッド部9を駆動するコントローラ11、ヘッド部9とコントローラ11とを電気的に接続する配線10からなる。さらに、この液体吐出部は前記の部品が一体形成されたヘッドカートリッジユニットとしての構造を有する。このヘッドカートリッジユニットは、必要に応じて吸入装置から着脱自在な構成とされる。ヘッド部9としては、特開2003−154665号公報に記載された液滴吐出ヘッドの構成を有するものが好適である。
【0063】
吸入装置は、医療目的で利用者が携帯して所持できるように構成されており、薬剤を粒子サイズが均一な液滴として定量吐出することを可能とした、前記利用者に吸入させる吸入器である。図4及び5を参照にして本発明において使用され得る吸入器の概略について説明する。
【0064】
図4は、吸入器の外観を示す斜視図である。この吸入器では、吸入器本体15及びアクセスカバー12によりハウジングが形成されている。図5は、アクセスカバー12を開いた状態を図示したもので、アクセスカバーを開くとヘッドカートリッジユニット16とマウスピースとの接続部が見えてくる。利用者の吸入動作によって、空気取り入れ口から空気が、マウスピース13内に入り込み、ヘッドカートリッジユニット16のヘッド部に設けた吐出口から吐出され、液滴化された薬剤と混合流体となり、人が咥える形状をなしているマウスピース出口へと向かう。マウスピースの先端を利用者が口内に挿入して歯で保持し咥え、息を吸込むことで、ヘッドカートリッジユニット16の液体吐出部から液滴として吐出してくる薬液を効果的に吸引することができる。
【0065】
なお、ヘッドカートリッジユニット16は、必要に応じて吸入器から着脱可能な構成となる。
【0066】
図4及び図5に示す構成を採用することで、形成された微小液滴は、吸気と共に投与対象者の咽喉、気管内部へと自然到達可能となる。従って、噴霧される液体の量(有効成分の投与量)は、吸気される空気の容量の大小には依存せず、独立にコントロール可能である。なお、上記では経口吸入の形態を示したが、本発明の吸入装置としてはこれに限られることはなく、鼻から吸入する形態も可能である。
【実施例】
【0067】
(参考例)
実施例に入る前に、蛋白質溶液の吐出が困難であることのより一層の理解のため、蛋白質のみをサーマルインクジェット方式で吐出させた場合の吐出量を示す。蛋白質溶液はアルブミンをPBSに溶解させたものを用い、各濃度にてサーマルインクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)を溶液が回収できるよう改造したものを用いて吐出した。純水を同様に吐出したときの吐出量を100%として、各アルブミン溶液の吐出量を表した。結果を図6に示す。
【0068】
アルブミン濃度1μg/mLの低濃度でも吐出の安定性は完全ではなく、さらに蛋白質濃度が高くなると、徐々に吐出されなくなることがわかる。本発明の実施においては、さらに小さな液滴径で吐出しなければならず、蛋白質溶液の吐出は困難となることが考えられる。
【0069】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例は、より一層の深い理解のために示される具体例であって、本発明は、これらの具体例に何ら限定されるものではない。なお、「%」は重量%を示す。
【0070】
(実施例1〜11及び比較例1〜15)
(サーマルインクジェット方式の原理に基づいた蛋白質溶液の液滴化)
吐出用液体の作製手順としては、予め適切な濃度のアルブミンを精製水中に溶解させ、さらに攪拌しながら塩化ベンザルコニウムを加えた後、各物質の濃度を所望の濃度になるように精製水を用いて定容した。
【0071】
あらかじめ吐出実験に用いる3μmのノズル径を持つ上記ヘッドカートリッジに30%エタノール水溶液を充填し、レーザー回折式粒度分布測定装置(スプレーテック、マルバーン社製)を用いて粒径及び粒度分布を測定により確認したところ、3μmにシャープな粒度分布を持つ液滴として検出された。
【0072】
調製した吐出用液体を3μmのノズル径を持つ上記ヘッドカートリッジに充填し、吐出コントローラに接続した後、周波数20kHz、電圧12Vにて1秒間吐出を行い、3秒間インターバルを置いてから次の吐出を行った。これを50回繰り返し、吐出するかを目視にて確認した。50回吐出されたものを○、15回以上50回未満のものを△、15回未満のものを×として評価した。また、吐出用液体を吐出前後でHPLC分析(測定条件:装置;日本分光、カラム;YMC−Pack Diol−200、500×8.0mmID、溶離液;0.1MKHPO−KHPO(pH7.0)containing 0.2M NaCl、流量;0.7mL/min、温度;25℃、検出;UV at 215nm)を行い吐出用液体の組成の変化を確認した。
【0073】
比較例として、純水または各種蛋白質溶液のみの吐出用液体、及び本発明にかかる以外の物質を加えた吐出用液体を調製し、実施例と同様に吐出する実験を行った。なお、実施例、比較例で検討した処方、及び結果を下記表1に列挙した。
【0074】
【表1】

【0075】
比較例1の純水は蛋白質を含んでいないので安定に吐出されつづけたが、蛋白質を含有する比較例は、蛋白質の種類、添加物の有無に関わらず全く又はほとんど吐出しなかった。比較例13〜15に挙げた界面活性剤TWEEN類を添加した場合にはある程度は吐出されたが、十分な安定性はなかった。それに対し、実施例1〜11においては、吐出が正常に行われ、吐出が安定化していることがわかる。HPLC分析の結果、実施例1〜11において吐出前後でピーク位置の変化やピーク面積の変化はなく、液組成の変化も認められなかった。
【0076】
(実施例12〜15)
(塩化ベンザルコニウムと界面活性剤による相乗効果)
蛋白質に塩化ベンザルコニウムを添加した溶液に、さらに界面活性剤を加え、吐出用液体を調製した。これら吐出用液体を実施例1と同様の吐出実験により評価を行った。なお本実施例で検討した処方、及び結果を下記表2に列挙した。
【0077】
【表2】

【0078】
塩化ベンザルコニウムと界面活性剤を同時添加すると、単独の添加に比べて、非常に少量の塩化ベンザルコニウム濃度にて蛋白質溶液を吐出することが可能であった。その結果、全体の添加剤量においても大幅に減少できる。実施例12〜16についてHPLC分析を行った結果、吐出前後でピークチャートに変化はなく、液組成に変化は認められなかった。
【0079】
(実施例16)
(インクジェットプリンターを用いた抗体チップの作製及びセンシング)
図7に本実施例のモデル図を示す。Human IL2モノクローナル抗体、Human IL4モノクローナル抗体及びHuman IL6モノクローナル抗体をそれぞれ0.1〜500μg/mLの濃度に調製した。ここに塩化ベンザルコニウムを5%(w/w)となるように添加して吐出用液体とした。この液体をインクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、Poly−L−Lysinコートスライドガラス板上に個々に吐出して、各抗体のスポットを所定の配置パターンで形成した。
【0080】
液体を付与したガラス板を4℃でインキュベートし、インキュベート後のガラスを1%BSAでマスキングした。マスキング後はよく洗浄し、抗体チップ基板とした。次に、チップと被検出物質であるリコンビナントIL2、IL4、IL6それぞれ1μg/mLを3.0%塩化ベンザルコニウム(w/w)、0.5%TWEEN20(w/w)、0.1%BSA(w/w)とともに調製した。この液体をインクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、先ほどの基板上に同じパターンで吐出した。吐出後、基板上にカバーガラスをかけ、4℃で反応させた。反応終了後交代チップをよく洗浄し、乾燥させ、検出用基板とした。
【0081】
次に試料と特異的な結合をする物質と基板を反応させ、その後その物質の標識を行った。試料と特異的な結合をする物質としてビオチン標識されたそれぞれの抗体液(ビオチン化Human IL2モノクローナル抗体、ビオチン化Human IL4モノクローナル抗体及びビオチン化Human IL6モノクローナル抗体)を各1μg/mL、3.0%塩化ベンザルコニウム(w/w)、0.5%Tween20(w/w)、0.1%BSA(w/w)と最終濃度がなるように調製した後、インクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、先ほどの基板上に同じパターンで吐出した。標識を付与した検出用基板にカバーガラスをかけ、4℃で反応させた。反応後よく洗浄し、乾燥させた。
【0082】
標識を光学的に検出するためにCy3ラベル化ストレプトアビジン10μg/mLを3.0%塩化ベンザルコニウム(w/w)、0.5%Tween20(w/w)、0.1%BSA(w/w)と最終濃度がなるように調製した後、インクジェットプリンター(商品名PIXUS950i;キヤノン(株)社製)のヘッドに充填し、先ほどの検出用基板上に同じパターンで吐出した。吐出後、検出用基板上にカバーガラスをかけ、4℃で反応させた。反応後よく洗浄し、乾燥させた。
【0083】
その後、検出用基板に励起光を照射し、Cy3の発光量を透過波長532nmのフィルターを配置した蛍光スキャナーを用いて、蛍光シグナル量を測定した。その結果、サンプルの種類、濃度に応じた蛍光シグナルを検出することができた。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】蛋白質やペプチドを含む溶液を基板上に吐出する方法の概要説明図である。
【図2】蛋白質のスポットを基板表面に配置した一例の平面図である。
【図3】吸入器用ヘッドカートリッジユニットの概略説明図である。
【図4】吸入器の外観を示す斜視図である。
【図5】図4でアクセスカバーを開いた状態の斜視図である。
【図6】アルブミン溶液をサーマルインクジェット方式にて吐出したときの吐出量を示したグラフである。
【図7】実施例16の実験方法のモデル図である。
【符号の説明】
【0085】
1 タンク
2 液体供給路
3 吐出ヘッド
4 液滴
5 基板
6 駆動コントローラ
7 タンク
8 液流路
9 ヘッド部
10 配線
11 コントローラ
12 アクセスカバー
13 マウスピース
14 電源ボタン
15 吸入器本体
16 ヘッドカートリッジユニット
17 基板
18 マスキング剤
19 被検物質と特異的な反応をする物質、蛋白質、ペプチド等
20 被検物質
21 被検物質と特異的な物質
22 標識

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出用エネルギーを付与して吐出口から吐出させるための吐出用液体であって、蛋白質及びペプチドから選択された少なくとも1種と、塩化ベンザルコニウムと、水を主とする液媒体とを含有することを特徴とする吐出用液体。
【請求項2】
前記蛋白質及びペプチドの少なくとも1種が、カルシトニン、インスリン類、グルカゴン類、インターフェロン類、プロテアーゼ阻害剤、サイトカイン類、成長ホルモン類、造血因子蛋白質、抗体およびこれらのアナログおよびこれらの誘導体から選ばれる物質の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の吐出用液体。
【請求項3】
塩化ベンザルコニウム以外の界面活性剤を更に含有する請求項1または2に記載の吐出用液体。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪族エステルである請求項3に記載の吐出用液体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吐出用液体をインクジェット方式の原理に基づいて吐出することを特徴とする吐出方法。
【請求項6】
前記インクジェット方式がサーマルインクジェット方式である請求項5に記載の吐出方法。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吐出用液体が収納されるタンクと、吐出用ヘッドとを有することを特徴とする液体吐出用カートリッジ。
【請求項8】
前記吐出用ヘッドが、サーマルインクジェット方式により液体を吐出する請求項7に記載の液体吐出用カートリッジ。
【請求項9】
請求項7または8に記載のカートリッジ、該カートリッジの有するヘッドの液体吐出部から吐出する液体を利用者の吸入部位へ誘導するための流路、及び開口部を有することを特徴とする吐出装置。
【請求項10】
利用者の口から吸入することを目的とするものである請求項9に記載の吐出装置。
【請求項11】
蛋白質及びペプチドの少なくとも1種を含む液体に吐出用エネルギーを付与して該液体を液滴化する方法であって、流路中に充填された液体に吐出用エネルギーを付与して該流路に連通する吐出口から液滴として吐出する工程を有し、前記液体が請求項1乃至4のいずれか1項に記載の吐出用液体であることを特徴とする液滴化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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