説明

含フッ素チオフェン重合体

【課題】有機溶媒への溶解性が良好である新規な含フッ素チオフェン重合体を提供する。
【解決手段】式(I):


(式中、Yは水素またはフッ素原子を示し、Rf1は炭素数1〜9のフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基を示し、nは5〜2000の整数を示す)で表わされる構成単位(I)からなる含フッ素チオフェン重合体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な含フッ素チオフェンおよび含フッ素チオフェン重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
π共役系導電性高分子は、ダイオード、電界効果トランジスタなどの有機半導体デバイス用材料として注目されている。また、π共役系導電性高分子であるポリチオフェンは、有機半導体デバイスとして広く一般的に用いられているが、共役系が発達した主鎖間の相互作用が強いため、一般的な有機溶媒に対して不溶である。そのため、多くの有機半導体デバイスは有機半導体用材料を真空プロセスを用いた蒸着によって作製されている。近年、プロセスコストの軽減を目的として真空プロセスを用いた蒸着よりも、安価な印刷技術を用いた塗布プロセスを用いて有機半導体デバイスを作製する試みがされている。そのためには有機半導体デバイス用材料を種々の溶剤に可溶化し、印刷時のインクとして使用する必要がある。例えば、ポリチオフェンの側鎖にアルキル基等の様々な置換基を導入することにより溶媒への溶解性を向上させる検討が行われているが(例えば非特許文献1)、溶媒への溶解性についてさらなる向上が望まれている。
【0003】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science:Part A:Polymer Chemistry, vol 43, 4280-4287(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、有機溶媒への溶解性が良好である新規な含フッ素チオフェン重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(I):
【0006】
【化1】

(式中、Yは水素またはフッ素原子を示し、Rf1は炭素数1〜9のフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基を示し、nは5〜2000の整数を示す)
で表わされる含フッ素チオフェン重合体に関する。
【0007】
また、本発明は、式(II):
【0008】
【化2】

(式中、X1およびX2は、ハロゲン原子であり、同一であっても異なっていてもよく、Yは水素またはフッ素原子を示し、Rf1は炭素数1〜9のフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基を示す)
で表わされる含フッ素チオフェンにも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電子供与性を有するフッ素原子を含有する置換基とチオフェン環とをエステル結合し、フッ素原子を含有する置換基の末端に水素原子を導入することにより、溶媒溶解性を向上した有機半導体デバイス用材料、有機導電性材料として期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、式(II):
【0011】
【化3】

で表わされる含フッ素チオフェンに関する。
【0012】
式中、X1およびX2は、ハロゲン原子であり、同一であっても異なっていてもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などがあげられるが、これらの中で、式(II)をモノマーとして用いる場合、反応性向上の観点から、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、さらに、X1およびX2が同一の原子であることが好ましい。
【0013】
Yとしては、水素またはフッ素原子があげられ、電子親和性の観点からフッ素原子が好ましい。Rf1は、炭素数1〜9のフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基であり、炭素数1〜7が好ましく、炭素数1〜5がより好ましい。また、溶媒への溶解性の観点から炭素数1〜3が特に好ましい。具体的な構造式としては、−CF2−、−(CF2n−:n=2〜9などがあげられる。
【0014】
式(II)における置換基の位置としては、2位および5位にハロゲン原子が置換され、3位にエステル結合を有することが、合成上の簡便性の点で好ましく、具体的には、例えば以下に示す式(III)〜(VI)であることが特に好ましい。
【0015】
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【0016】
本発明の製造方法としては、例えば、カルボキシチオフェンを出発原料として、チオフェン環をハロゲン化し、その後、該反応生成物をアルコールでエステル化することが好ましい。
【0017】
ハロゲン化およびエステル化としては、特に限定されず、公知の方法によって行われるが、例えば、ハロゲン化が臭素化である場合、カルボキシチオフェン、臭素および酢酸を混合して臭素の還流温度で反応させることが好ましい。また、エステル化としては、ハロゲン化したカルボキシチオフェンのカルボキシル基に塩化チオニル、二塩化オキサリルまたは三塩化リン、五塩化リンなどのリン塩化物などを反応させて酸クロリドを生成させた後、該酸クロリドとアルコールを反応させることによって得られることが好ましい。
【0018】
また、本発明は、前記の含フッ素チオフェンを重合して得られる含フッ素チオフェン重合体にも関する。具体的には、式(I):
【0019】
【化8】

である。
【0020】
式中、Rf1およびYは、前記式(II)に示すRf1およびYと同様のものである。
【0021】
式中、nは5〜2000の整数が好ましく、5〜1000がより好ましく、5〜500がさらに好ましい。nが5未満であると、塗布時の塗膜性が低下する傾向がある。一方、nが2000をこえると、溶解性が低下する傾向がある。
【0022】
また、式(I)における置換基および結合の位置としては、式(VII)となることが、π共役系が発達するため、導電性が高くなるなどの点で好ましい。
【0023】
【化9】

【0024】
式(I)の重合末端としては、特に限定されないが、たとえば、フッ素原子、ベンゼン誘導体、ナフタレン誘導体、チエノチオフェン誘導体、ジチエノチオフェン誘導体、フルオレン誘導体、オキサゾール誘導体、ピロール誘導体などの芳香族誘導体、およびその含フッ素誘導体、アシル基、アルキル基、エーテル基、アルデヒド基、カルボニル基、シラン含有基、メルカプト基、エステル基、含フッ素アシル基、含フッ素アルキル基、含フッ素エーテル基、含フッ素アルデヒド基、含フッ素カルボニル基、含フッ素シラン含有基、含フッ素メルカプト基または式(VIII):
【0025】
【化10】

が好ましい。ここで、R6〜R8は、水素原子、アルデヒド基、アシル基、アルキル基、エーテル基、アルデヒド基、カルボニル基、シラン含有基、メルカプト基、エステル基、含フッ素アシル基、含フッ素アルキル基、含フッ素エーテル基、含フッ素アルデヒド基、含フッ素カルボニル基、含フッ素シラン含有基、含フッ素メルカプト基が好ましく、含フッ素アシル基の具体例としては、式(IX):
−CO−Rf1−CFYH (IX)
であることが好ましい。ここで、式(IX)におけるRf1およびYは、前記式(II)と同様のものであることが好ましい。これらの中で、式(X):
【0026】
【化11】

であることが、合成上容易である点から好ましい。
【0027】
本発明の含フッ素チオフェン重合体の製造方法としては、式(II)をモノマーとして、金属触媒を添加し、クロスカップリング反応により重合を行うことが好ましい。重合触媒としては、銅、ニッケル、パラジウム、スズ、亜鉛などの触媒があげられる。
【0028】
また、本発明の含フッ素チオフェン重合体の用途としては、光学、電気光学または電子デバイスに利用することができ、例えば液晶ディスプレイ、光学膜、薄膜トランジスタ液晶ディスプレイ用の有機電界効果トランジスタ(FETまたはOFET)、およびRFIDタグなどの集積回路デバイス、フラットパネルディスプレイにおける電子発光デバイス、および光起電およびセンサーデバイス、導電性フィルム用材料、コンデンサー用材料などに好適に用いられる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施例で得られた各化合物の同定は、1H−NMR分析により行った。また、ポリマーの分子量測定はGPC測定により行った。1H−NMR分析およびGPC測定における測定条件および測定装置を以下に示す。
【0031】
(1)1H−NMR測定(BRUKER社製)
・測定条件:300MHz(テトラメチルシラン=0ppm)
・測定サンプル:試料10〜20mgを重アセトン中または重ジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解し、得られたサンプルをプローブにセットして測定した。
【0032】
(2)GPC:数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、東ソー(株)製のGPC HLC−8020を用い、Shodex社製のカラム(GPC KF−801を1本、GPC KF−802を1本、GPC KF−806Mを2本直列に接続)を使用し、溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を流速1ml/分で流して測定したデータより算出した。
【0033】
実施例1
(2,5−ジブロモ−チオフェン−3−カルボン酸の2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエステル(2,5-Dibromo-thiophene-3-carboxylic acid 2,2,3,3-tetrafluoro-propyl ester)の合成)
・2,5−ジブロモ−3−カルボキシチオフェンの合成
【化12】

【0034】
温度計、還流管、滴下ロートを備えた三口フラスコに3−カルボキシチオフェン:3g、酢酸(AcOH):60mlを導入し、N2フロー下、臭素:18.7gをゆっくり滴下した。滴下終了後、臭素の還流温度である約60℃に保ち、終夜攪拌を行った。その後、亜硫酸ナトリウム水溶液で臭素を除去し、大過剰の純水中に反応系を投入し、再沈殿をおこなった。反応生成物を減圧濾過により回収し、1H−NMRにより分析したところほぼ純度100%で目的生成物である2,5−ジブロモ−3−カルボキシチオフェンを得た(収量:5.7g、収率:85%)。
1H−NMR(DMSO):13.38(1H),7.43(1H)
【0035】
・(2,5−ジブロモ−チオフェン−3−カルボン酸の2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエステル(2,5-Dibromo-thiophene-3-carboxylic acid 2,2,3,3-tetrafluoro-propyl ester)の合成)
【化13】

【0036】
温度計、還流管、滴下ロートを備えた三口フラスコに2,5−ジブロモ−3−カルボキシチオフェン:5gを導入し、塩化チオニル(SOCl2):25mlを系内温度に気をつけながらゆっくりと滴下した。ついでSOCl2を加熱還流させ7時間攪拌を行った。その後、SOCl2を減圧留去した。その後、トリエチルアミン(NEt3):2g、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(HCF2CF2CH2OH):4gを滴下ロートを用いて滴下し、THFを15ml加え、60℃で5時間攪拌した。反応終了後1NのHClとヘキサンを加え、ヘキサン層を分液抽出した。次いでヘキサンを減圧留去し目的化合物である化合物1を得た(収量:6.9g、収率:98%)。
1H−NMR(重アセトン):7.52(1H),6.76−6.33(1H),4.86−4.74(2H)
【0037】
実施例2(含フッ素チオフェン重合体の合成)
・1−(5−ブロモ−チオフェン−2−イル)−2,2,3,3−テトラフルオロプロパン−1−オン(1-(5-bromo-thiophen-2-yl)-2,2,3,3-tetrafluoro-propan-1-one)の合成
【化14】

【0038】
温度計、還流管、滴下ロートを備えた三口フラスコに2−ブロモチオフェン:5g、トリクロロアルミニウム(AlCl3):4.9g、ジクロロメタン(CH2Cl2):15ml、2,2,3,3−テトラフルオロプロピオン酸クロリド(HC24COCl):6.1gを導入し、室温で5時間攪拌した。ヘキサン/水を加え、分液抽出しヘキサン層を分取し、ヘキサンを減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン)により目的物である化合物2を分離した(収量:3.9g、収率:43%)。
1H−NMR(重アセトン):7.99−7.95(1H)、7.51−7.48(1H)、6.92−6.49(1H)
【0039】
・ポリRfエステルチオフェンの合成
【化15】

【0040】
温度計、還流管、滴下ロートを備えた三口フラスコに化合物1:3g、DMF:24ml、Cu:1.9gを導入し、加熱還流させ14時間攪拌を行った。その後、化合物2:3.3gを加え9時間加熱還流を行った。その後、セライトろ過によりCuを除去後、水中に投入し再沈殿により精製を行った。更に得られた固体をアセトン中に溶解させヘキサン中で再沈精製を行った(収量4.6g、収率70%)。
【0041】
得られた固体の分子量測定を行った(数平均分子量(Mn):9,700、重量平均分子量(Mw):16,000、Mw/Mn=1.62)。
【0042】
実施例3(溶剤溶解性試験)
つぎの試験方法に従って、実施例2で得られたポリマーおよび非特許文献1記載のポリマーの溶剤(N,N−ジメチルホルムアミド(DMF))溶解性を調べた。
【0043】
その結果、非特許文献1記載のポリマーの重量減少係数(R)は4.5%でありDMFに不溶であったが、実施例2で得られたポリマーの重量減少係数(R)は0.1%であり、非特許文献1記載のポリマーが不要なDMFに対して可溶であり、溶解性が向上した。
【0044】
(試験方法)
200ml容量のビーカーA(自重を精秤済)内にN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)100mlを入れ、磁気スターラにより50rpmで攪拌しつつDMF中に被験ポリマー5gを投入する。更に、5分間攪拌した後、溶液入りビーカーAの重量を精秤し、溶液の重量X(g)を測定する。
【0045】
次いで25℃で1時間攪拌後、メンブラン・フィルタ(アドバンテック(株)社製DISMIC−13HP PTFE0.45μm)を通し、攪拌後の溶液を200ml容量のビーカーB(自重を精秤済)内へ濾過した後、溶液入りのビーカーBの重量を精秤し、濾液の重量Y(g)を測定する。
【0046】
評価は、被験ポリマーの重量減少係数(R)(=100×(X−Y)/X)が3%以下の場合、可溶とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、Yは水素またはフッ素原子を示し、Rf1は炭素数1〜9のフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基を示し、nは5〜2000の整数を示す)
で表わされる含フッ素チオフェン重合体。
【請求項2】
式(II):
【化2】

(式中、X1およびX2は、ハロゲン原子であり、同一であっても異なっていてもよく、Yは水素またはフッ素原子を示し、Rf1は炭素数1〜9のフルオロアルキレン基またはパーフルオロアルキレン基を示す)
で表わされる含フッ素チオフェン。

【公開番号】特開2008−195911(P2008−195911A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106812(P2007−106812)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】