説明

含フッ素ノルボルネニルエステル化合物、およびその重合体

【課題】 フルオロアルキル基を持ち、開環メタセシス重合の反応性に優れたノルボルネン化合物、およびその重合体を提供する。
【解決手段】 下式(1)で示される含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
【化1】


ただし、式中のXは酸素原子、メチレン基、メチルメチレン基、またはジメチルメチレン基、Rはフッ素原子またはトリフルオロメチル基、Rはエーテル性酸素原子を含まず、かつ末端に水素原子を持たない炭素原子数1〜20のポリフルオロアルキル基、または任意の場所に1つ以上のエーテル性酸素原子を含む炭素原子数3〜20のポリフルオロアルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ノルボルネニルエステル化合物、およびその重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノルボルネン骨格をもつ化合物(以下「ノルボルネン化合物」という場合がある。)は、メタセシスにより開環重合させて重合体を得るためのモノマーとして広く使用されている。また、このノルボルネン化合物に基づく構成単位を含む重合体及びその水素添加物は、高ガラス転移温度(高耐熱性)、低吸水性、高光線透過率等の諸特性のバランスに優れているため、射出成形、押出成形、圧縮成形などの各種成形法により、電気・電子材料、半導体材料、光学材料等、多種多様な分野に利用されている。
なかでも、フルオロアルキル基を持つノルボルネン化合物(以下「含フッ素ノルボルネン化合物」という場合がある。)、特にパーフルオロアルキル基を持つ含フッ素ノルボルネン化合物が合成され、開環メタセシス重合のモノマーとして使用されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
含フッ素ノルボルネン化合物に基づく構成単位を含む重合体は、フルオロアルキル基の特性により、他のノルボルネン化合物の重合体よりも化学的耐久性、耐候性、光透過性に優れることが期待される。しかし、含フッ素ノルボルネン化合物は、他のノルボルネン化合物の重合体よりも開環メタセシス重合の反応性が低い。そのため、重合に長時間を要する問題や、重合体が効率良く得られない問題がある。
【非特許文献1】Journal of Fluorine Chemistry、1988年、39号、173頁
【非特許文献2】POLYMER、1986年、27号、1296頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、フルオロアルキル基を持ち、開環メタセシス重合の反応性に優れたノルボルネン化合物、およびその重合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]下式(1)で示される含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
【化1】

ただし、式中のXは酸素原子、メチレン基、メチルメチレン基、またはジメチルメチレン基、Rはフッ素原子またはトリフルオロメチル基、Rはエーテル性酸素原子を含まず、かつ末端に水素原子を持たない炭素原子数1〜20のポリフルオロアルキル基、または任意の場所に1つ以上のエーテル性酸素原子を含む炭素原子数3〜20のポリフルオロアルキル基である。
【0005】
[2]Xが酸素原子またはメチレン基である[1]に記載の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
[3]Rがトリフルオロメチル基である[1]または[2]に記載の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
[4][1]〜[3]の何れかに記載の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物に基づく構成単位を含む重合体。
[5]さらに、重合性アルケンに基づく構成単位を含む[4]に記載の重合体。
[6]開環メタセシス重合により得られる[4]または[5]に記載の重合体。
[7]数平均分子量がポリメタクリル酸メチル換算で1,000−1,000,000である[4]〜[6]の何れかに記載の重合体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物は、フルオロアルキル基を持ち、開環メタセシス重合の反応性に優れたノルボルネン化合物である。また、本発明の重合体は、フルオロアルキル基の優れた特性を備えると共に、効率良く製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(含フッ素ノルボルネニルエステル化合物)
本発明の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物は、下式(1)で示される。なお、本明細書においては、式(1)で表される化合物を「化合物(1)」のようにも記す。他の式で表される化合物についても同様に記す。
【0008】
【化2】

【0009】
前記式(1)中のXは、酸素原子、メチレン基、メチルメチレン基、またはジメチルメチレン基であり、酸素原子またはメチレン基であることが好ましい。Xが酸素原子またはメチレン基である場合、製造が容易であり、安価に製造できる。
【0010】
前記式(1)中のRはフッ素原子またはトリフルオロメチル基であり、トリフルオロメチル基であることが好ましい。後述のように、前記式の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物は、ノルボルネン骨格もつアルコールと含フッ素アルキル酸フルオライドのエステル化反応より合成される。Rがトリフルオロメチル基であると、原料となる含フッ素アルキル酸フルオライドの製造が容易であるため好ましい。
【0011】
前記式(1)中のRは、エーテル性酸素原子を含まず、かつ末端に水素原子を持たない炭素原子数1〜20のポリフルオロアルキル基、または任意の場所に1つ以上のエーテル性酸素原子を含む炭素原子数3〜20のポリフルオロアルキル基である。
すなわち、Rは任意の場所に1つ以上のエーテル性酸素原子を含んでもよいポリフルオロアルキル基である。ただし、エーテル性酸素原子を含まない場合、末端に水素原子を持たず炭素原子数は1〜20である。この場合、炭素原子数が1〜10であることが好ましい。また、エーテル性酸素原子を含む場合、炭素原子数は3〜20、好ましくは3〜9である。
【0012】
また、Rは、アルキル基の水素原子が、フッ素原子によって置換されている割合の高い方が好ましく、パーフルオロアルキル基であることが特に好ましい。フッ素原子が多いほど、重合した際に、フルオロアルキル基の優れた特性が得られるからである。Rにおけるフッ素原子以外の置換基としては塩素原子が挙げられるが、フッ素原子以外の置換基は存在しない方が好ましい。
は直鎖状、分岐状のいずれの構造でもよい。
【0013】
[含フッ素ノルボルネニルエステル化合物の製造方法]
化合物(1)は、下式(2)で示されるノルボルネン骨格もつアルコールと、下式(3)で示される含フッ素アルキル酸フルオライドとのエステル化反応により合成される。下式(2)におけるXは、前記式(1)におけるXと同じである。また、下式(3)におけるRとRは、前記式(1)におけるR、Rと同じである。
【0014】
【化3】

【0015】
化合物(2)は、従来公知の、シクロペンタジエン誘導体またはフランとビニルアルコール誘導体とのディールス−アルダー反応により、簡便に合成できる。
化合物(3)は、従来公知の、含フッ素アルキル酸エステルを、フッ化カリウム、フッ化セシウム等の金属フッ化物の存在下で熱分解反応させることにより、簡便に合成できる。また、ヘキサフルオロプロピレンオキサイド等のパーフルオロアルキレンオキサイドを、金属フッ素化物の存在下、単独で反応させると、パーフルオロアルキレンオキサイドのオリゴマー化がおこり、パーフルオロポリエーテルアルキル酸フルオライドを合成できる。
【0016】
化合物(2)と化合物(3)とのエステル化反応において、化合物(3)の使用量は、化合物(2)に対して、1〜10倍当量とすることが好ましい。エステル化反応を効率よく、かつ温和に進行させるためには、1.5〜3倍当量使用するのがより好ましい。
このエステル化反応では、反応副生成物としてフッ酸が発生し、反応機器の腐食を起こす等製造上問題があり、吸着処理が必要である。その吸着剤としては、従来公知のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のフッ化物が用いられる。例えば、NaF、KF、MgF、CaFが好ましく挙げられ、フッ酸吸着率の良いNaFが特に好ましい。
【0017】
エステル化反応の反応溶媒としては、化合物(3)の溶解性の観点から、フッ素含有の溶媒が使用される。フッ素含有の溶媒としては、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。これらの化合物は、直鎖状、分岐状または環状の構造のいずれであってもよい。
具体的には、CFClCFCHClF、CFClCFCl等のハイドロクロロフルオロカーボン、CF(CFCHF、CF(CHF)CFCF、CFCHCFCH等のハイドロフルオロカーボン、CHFCFOCHCF、COCH等のハイドロフルオロエーテルが挙げられる。なかでも、環境負荷が低く、酸フルオロライドに対し不活性で、かつ取扱いの利便性が高いCFClCFCHClFが好ましい。
【0018】
エステル化反応における化合物(3)の濃度は、反応で発生する反応熱の除熱の観点から、反応溶媒に対して、70質量%以下となる量とすることが好ましい。
エステル化反応の反応温度は、反応で発生する反応熱を除熱するため、反応開始時は、−20℃〜10℃とするのが好ましい。また、反応時間は、化合物(3)の種類により異なるが、2〜24時間反応させるのが好ましく、12〜24時間反応させるのがより好ましい。
【0019】
エステル化反応において、反応溶媒から生成した化合物(1)を抽出するには、カラムクロマトフィー、分留、再結晶等一般的な分離手法を用いることができる。簡便にかつ高純度の化合物(1)を抽出するには、減圧蒸留で分離を行うのが好ましい。
【0020】
[重合体]
本発明の重合体は、化合物(1)のみを構成単位とするホモポリマーであっても、化合物(1)と共重合可能なモノマー(以下「共重合モノマー」という場合がある。)を構成単位として含む共重合体であってもよい。共重合体の場合、共重合モノマーは一種類でも複数種類の組み合わせでもよい。
また、本発明の重合体は、開環メタセシス重合により得られる開環メタセシス重合体であっても、ラジカル重合により得られるラジカル重合体であってもよい。
重合体の数平均分子量は、ポリメタクリル酸メチル換算で1,000−1,000,000であることが好ましい。これにより、機械的物性、物理的物性に優れ、加工性にも優れる重合体を得ることができる。
【0021】
(開環メタセシス重合体)
化合物(1)は単独でも開環メタセシス重合するが、その他の開環メタセス重合性モノマーと共重合させることができる。共重合モノマーとしては、ノルボルネン、または置換若しくは無置換のノルボルネン誘導体が好適に用いられる。ノルボルネン誘導体としては、下記の化合物等が挙げられる。
【0022】
無置換のノルボルネン誘導体:ノルボルナジエン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン等。
パーフルオロアルキル基を有するノルボルネン誘導体:5−トリフルオロメチル−2−ノルボルネン、5−ペンタフルオロエチル−2−ノルボルネン、5−ヘプタフルオロプロピル−2−ノルボルネン、5−ノニルフルオロブチル−2−ノルボルネン、5−トリデカフルオロヘキシル−2−ノルボルネン、5−ヘプタデカフルオロオクチル−2−ノルボルネン等。
その他の置換基を有するノルボルネン誘導体:5−アセチル−2−ノルボルネン、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド、5−ノルボルネン−2−カルボニトリル、5−ノルボルネン−2−カルボキシアルデヒド、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸モノメチルエステル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸ジメチルエステル、55−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2−メタノール、6−トリエトキシシリル−2−ノルボルネン、5−ノルボルネン−2−オール等。
多環のノルボルネン誘導体:ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどの三環ノルボルネン誘導体、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセンなどの四環ノルボルネン誘導体、トリシクロペンタジエン(シクロペンタジエンの三量体)、テトラシクロペンタジエン(シクロペンタジエンの四量体)などの五環以上のノルボルネン誘導体等。
【0023】
ノルボルネン、またはノルボルネン誘導体以外の共重合可能なモノマーとしては、シクロヘキサエン、シクロヘキサヘプテン、シクロヘキサオクテン等のシクロアルケン類が挙げられる。
【0024】
化合物(1)、または化合物(1)と共重合モノマーを開環メタセシス重合させるためには、触媒を用いるのが好ましい。触媒としては、タングステン、モリブデン、レニウム、チタン、ルテニウム、レニウム、イリジウム等の遷移金属化合物とアルキルアルミニウム等の助触媒を組み合わせたもの、あるいは、タングステン、モリブデン、オスミウムカルベン錯体、ルテニウムカルベン錯体等の従来公知の重合触媒を用いることができる。
なかでも、酸素や水分が存在しても充分な重合活性を示すルテニウムカルベン錯体またはオスミウムカルベン錯体を使用するのが好ましい。ルテニウムカルベン触媒及びオスミウムカルベン触媒は、それぞれ単独で用いても併用してもよい。
触媒の配合量は、モノマーの総量100質量部に対して、0.001〜10質量部であることが好ましく、0.05〜5質量部であることがより好ましい。
【0025】
開環メタセシス重合は、重合溶媒の存在下で行うことが好ましい。重合溶媒としては、触媒の活性を低下させない溶媒であれば特に制限はないが、化合物(1)と触媒双方の溶解性、混合性の観点から、フッ素系溶媒と一般的な有機溶媒との併用が好ましい。フッ素系溶媒を用いることにより化合物(1)を溶解できる。また、有機溶媒を用いることにより触媒を溶解できる。
フッ素系溶媒と一般的な有機溶媒との混合比は、フッ素系溶媒の1質量部に対して、有機溶媒を1〜20質量部とするのが好ましい。
【0026】
フッ素系溶媒としてはクロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテルが好ましい。これらの化合物は、直鎖状、分岐状または環状の構造のいずれであってもよい。
具体的には、CFCCl等のクロロフルオロカーボン、CFClCFCHClF、CFClCFCl等のハイドロクロロフルオロカーボン、CF(CFCHF、CF(CHF)CFCF、CFCHCFCH等のハイドロフルオロカーボン、CHFCFOCHCF、COCH等のハイドロフルオロエーテル等が挙げられる。
【0027】
一般的な有機溶媒としては、トルエン、アセトン、ベンゼン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、n−ペンタン、シクロペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘプタン、n−オクタン、シクロオクタン、ジエチルエーテルが挙げられる。
【0028】
溶媒に対するモノマーの濃度は1〜80質量%とすることが好ましく、1〜20質量%とすることがより好ましい。1〜20質量%とすることにより、重合後の反応溶液の粘度上昇を容易に抑制できる。
【0029】
重合体の分子量調節を目的に、連鎖移動剤を使用できる。連鎖移動剤としては、例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、アリルアルコール、アリルイソシアナート、アリルグリシジルエーテル、アリルトリエトキシシラン、アリルメタクリレート、2−(アリルオキシ)エチルアルコール、マレイン酸ジアリル、o−アリルフェノール等のアリル化合物、スチレン、p−メトキシスチレン、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキサイド等のビニル化合物が挙げられる。
連鎖移動剤の添加量は所望の分子量によって異なるが、触媒に対して0.5〜100当量加えることで数平均分子量(ポリメタクリル酸メチル換算)数千〜数十万のポリマーを得ることができる。
【0030】
重合温度は、使用する重合溶媒により変化するが、0〜100℃であることが好ましい。また、急速な重合反応を抑制する観点から、0〜30℃であることがより好ましい。
反応は、モノマーが反応して全て消費されてしまうと自然に停止する。反応が終了するまでの時間は、モノマーの組成、触媒の種類および添加量、溶媒量、反応温度によって変化するが、通常10分〜24時間である。反応停止まで反応を継続させて行うことが好ましい。
【0031】
モノマーが反応して全て消費されてしまうと重合反応は自然に停止するが、触媒は活性を保持したまま存在する。このため、重合体同士がカップリングしたり、触媒成分が酸化されて重合体が着色したりする可能性がある。
これら触媒による悪影響を排除するために、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、酢酸ビニル等のビニル化合物を添加して触媒を不活性化させてもよい。また、アルミナ、セライト、活性炭等の吸着剤で吸着処理を行い、触媒成分を取り除いてもよい。
【0032】
(ラジカル重合体)
化合物(1)は、ラジカル重合性のモノマーとしても使用できる。また、その他のラジカル重合性モノマーとフリーラジカル存在下で共重合できる。
ラジカル重合の共重合モノマーとしては、置換または無置換のアルケン誘導体が好適に用いられる。共重合モノマーは複数を組み合わせて用いることができる。
具体例としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン等の含フッ素アルケン化合物、エチレン、プロピレン等のアルケン化合物、パーフルオロ(n−メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(n−プロピルビニルエーテル)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)化合物、ペンタフルオロエチルエチレン、ノナフルオロブチルエチレン等のパーフルオロアルキルエチレン化合物、酢酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル化合物が挙げられる。
【0033】
ラジカル重合では、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の種々の重合形態をとることができる。ラジカル発生源としては、種々の有機および無機の過酸化物化合物等の開始剤が使用でき、用いる重合様式により選ばれる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下において、テトラメチルシランをTMS、CClFCClFをR−113、CFClCFCHClFをR−225と記す。
また、数平均分子量、重量平均分子量は、東ソー株式会社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCと記す。)HLC−8220 GPCによって測定した。
GPCによる測定では、R−225(旭硝子(株)製、商品名:アサヒクリンAK−225SECグレード1)およびテトラヒドロフラン(THF)の(体積比60:40)混合溶媒を移動相として用い、PLgel MIXED−Cカラム(ポリマーラボラトリーズ社製)を2本直列に連結して分析カラムとした。分子量測定用標準試料としては、ポリマーラボラトリーズ社製の、分子量分散(重量平均分子量/数平均分子量)が1.20未満で、数平均分子量が1944000,790000,281700,144000,79250,28900,13300,5720,1960,1020のポリメタクリル酸メチルの10種を用いた。また移動相流速は1.0mL/min、カラム温度は37℃とし、検出器としては、紫外吸収検出器を用いた。
【0035】
(実施例1)化合物(1a)の製造例
【化4】

【0036】
温度計および滴下ロートを備えた300mL丸底フラスコに、化合物(2a)(5−ヒドロキシ−2−ノルボルネン、Aldrich社製)の5.0g(45.3mmol)、R−225(旭硝子(株)製)の40gおよびフッ化ナトリウム粉末(森田化学(株)製)の3.9g(90.8mmol)を投入し、氷浴に浸して撹拌した。そこへ反応温度が10℃を越えないように保持しながら、化合物(3a)(2,3,3,3−テトラフルオロ−2−[1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]プロピオン酸フルオライド、旭硝子(株)製)の27.3g(54.5mmol)をゆっくり滴下した。全量滴下後、氷浴を外して室温で更に終夜撹拌を続けた。
フッ化ナトリウムを加圧ろ過によって除去し、ろ液を一旦エバポレーターで濃縮してR−225および過剰の化合物(3a)を除去した。濃縮液を再びR−225で10質量%になるよう希釈して分液ろうとに投入し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて3回、イオン交換水を加えて3回洗浄した。有機層に硫酸マグネシウム粉末を加えて脱水した後、エバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留して、無色の溶液を得た(20.9g)。留分をNMRとGCで分析した結果、化合物(1a)(純度99.6%、収率78%)の生成を確認した。
【0037】
化合物(1a)のNMRスペクトルは、以下のとおりである。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):0.97〜1.69(3H)、1.79〜2.28(1H)、2.92〜3.25(2H)、4.91〜5.53(1H)、5.92(1H)、6.33(1H)。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−79.1〜−80.6(4F)、−81.8〜−82.7(8F)、−84.2〜−85.4(1F)、−130.1(2F)、−132.1(1F)、−145.6(1F)。
【0038】
(実施例2)化合物(1b)の製造例
【化5】

【0039】
温度計および滴下ロートを備えた300mL丸底フラスコに、化合物(2a)(5−ヒドロキシ−2−ノルボルネン、Aldrich社製)の5.0g(45.3mmol)、R−225の20gおよびフッ化ナトリウム粉末の3.8g(90.4mmol)を投入し、氷浴に浸して撹拌した。そこへ反応温度が10℃を越えないように保持しながら、化合物(3b)(2,3,3,3−テトラフルオロ−2−(ヘプタフルオロプロポキシ)プロピオン酸フルオライド、旭硝子(株)製)の18.1g(54.5mmol)をゆっくり滴下した。全量滴下後、氷浴を外して室温で更に終夜撹拌を続けた。
フッ化ナトリウムを加圧ろ過によって除去し、ろ液を一旦エバポレーターで濃縮してR−225および過剰の化合物(3b)を除去した。濃縮液を再びR−225で10質量%になるよう希釈して分液ろうとに投入し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて3回、イオン交換水を加えて3回洗浄した。有機層に硫酸マグネシウム粉末を加えて脱水した後、エバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留して、無色の溶液を得た(14.2g)。留分をNMRとGCで分析した結果、化合物(1b)(純度99.5%、収率74%)の生成を確認した。
【0040】
化合物(1b)のNMRスペクトルは、以下のとおりである。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):0.97〜1.69(3H)、1.79〜2.28(1H)、2.92〜3.25(2H)、4.91〜5.53(1H)、5.92(1H)、6.33(1H)。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−79.9〜−80.5(1F)、−81.8(3F)、−82.5(3F)、−86.5〜−87.3(1F)、−130.2(2F)、−132.1〜−132.5(1F)。
【0041】
(実施例3)化合物(1a)の開環メタセシス重合例
【化6】

ただし、式中のnは正の整数である。
【0042】
アルゴンガスラインに接続した、磁石製撹拌子入りの100mLのシュレンクチューブに、アルゴンガスを流入しながら化合物(1a)の7.54gを入れた。さらに、R−113(旭硝子(株)製)の72.0g、塩化メチレン(関東化学(株)製)の6.6gを、シリンジを用いて入れ、最後にビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロライド(関東化学(株)製)の10.2mgを入れ蓋をした。シュレンクチューブをスターラーにセットし、室温で24時間撹拌した。反応終了後、反応液にエチルビニルエーテル(関東化学(株)製)の1.0gを加え、さらに10分間撹拌した。
300mLのメタノール(三菱瓦斯化学(株)製)を500mLのプラスチック製容器に入れ、激しく撹拌しながら前記の反応液をゆっくり添加すると、白色ポリマーが析出した。析出物を吸引ろ過により取り出した後、真空乾燥機中にて25℃で5時間乾燥し、化合物(4a)の7.47g(収率99%)を得た。化合物(4a)のGPC分析を行ったところ、ポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は679,000、分子量分散(重量平均分子量/数平均分子量)は1.48であった。
【0043】
化合物(4a)のNMRスペクトルは、以下のとおりである。
H−NMR(399.78MHz、溶媒:CDCl/CF2ClCFCl2)δ(ppm):1.07〜3.24(7H)、4.77〜5.93(2H)。 19F−NMR(367.17MHz溶媒:CDCl/CFClCFCl)δ(ppm):−79.0〜−80.8(4F)、−81.3〜−82.1(8F)、−83.0〜−85.0(1F)、−129.8(2F)、−131.5(1F)、−145.1(1F)。
【0044】
(実施例4)化合物(1b)の開環メタセシス重合例
【化7】

ただし、式中のmは正の整数である。
【0045】
アルゴンガスラインに接続した、磁石製撹拌子入りの100mLのシュレンクチューブに、アルゴンガスを流入しながら化合物(1b)の3.70gを入れた。さらに、R−113の59.2g、塩化メチレンの3.98gを、シリンジを用いて入れ、最後にビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロライドの1.3mgを入れ蓋をした。シュレンクチューブをスターラーにセットし、室温で24時間撹拌した。反応終了後、反応液にエチルビニルエーテル(関東化学(株)製)の1.0gを加え、さらに10分間撹拌した。
300mLのメタノールを500mLのプラスチック製容器に入れ、激しく撹拌しながら前記の反応液をゆっくり添加すると、白色ポリマーが析出した。析出物を吸引ろ過により取り出した後、真空乾燥機中にて25℃で5時間乾燥し、化合物(4b)の3.65g(収率99%)を得た。化合物(4b)のGPC分析を行ったところ、ポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は608,000、分子量分散(重量平均分子量/数平均分子量)は1.84であった。
【0046】
化合物(4b)のNMRスペクトルは、以下のとおりである。
H−NMR(399.78MHz、溶媒:CDCl/CFClCFCl)δ(ppm):1.10〜3.26(7H)、4.79〜5.85(2H)。 19F−NMR(367.17MHz溶媒:CDCl/CFClCFCl)δ(ppm):−79.6〜−80.3(1F)、−81.6(3F)、−82.2(3F)、−86.1〜−87.0(1F)、−129.8(2F)、−131.8〜−132.1(1F)。
【0047】
(比較例1)5−n−ヘプタデカフルオロオクチル−2−ノルボルネンのメタセシス重合
アルゴンガスラインに接続した、磁石製撹拌子入りの100mLのシュレンクチューブに、アルゴンガスを流入しながら5−n−ヘプタデカフルオロオクチル−2−ノルボルネンの3.24gを入れた。さらに、R−113の59.2g、塩化メチレンの3.98gを、シリンジを用いて入れ、最後にビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロライドの1.1mgを入れ蓋をした。シュレンクチューブをスターラーにセットし、室温で24時間撹拌した。反応終了後、反応液にエチルビニルエーテルの1.0gを加え、さらに10分間撹拌した。
300mLのメタノールを500mLのプラスチック製容器に入れ、激しく撹拌しながら反応液をゆっくり添加すると、白色ポリマーが析出した。析出物を吸引ろ過により取り出した後、真空乾燥機中にて25℃で5時間乾燥し、白色の開環メタセシス重合体の2.51g(収率77%)を得た。この重合体のGPC分析を行ったところ、ポリメタクリル酸メチル換算の数平均分子量は26,000、分子量分散(重量平均分子量/数平均分子量)は4.51であった。
【0048】
(実施例5)化合物(1a)と重合性アルケンのラジカル重合例
【化8】

ただし、式中のx、y、zは重合比率で、x=85〜99、y=0.1〜10、z=0.1〜5である。
【0049】
1Lの撹拌機付きオートクレーブに、イオン交換水の437g、R−225(旭硝子(株)製)の272g、化合物(6)(パーフルオロ(n−プロピルビニルエーテル)、旭硝子(株)製)の20g、化合物(1a)の14gを仕込み、50℃の内温で、化合物(5)(テトラフルオロエチレン、旭硝子(株)製)を圧力が1.35MPaになるまで仕込んだ。ついで開始剤溶液である(FCF2CF2CF2COO)2の1質量%溶液(溶媒:R−225)(日本油脂(株)製)をlmL仕込み、重合を開始させた。
重合中に開始剤溶液は断続的に仕込み、合計13mLを仕込んだ。重合の進行にともない、圧力が低下するので、圧力が一定になるように化合物(5)を連続的に後仕込みした。後仕込みの化合物(5)の量が120gになったところで内温を室温まで冷却し、未反応化合物(5)を空放し、圧力容器を開放した。容器の内容物をガラスフィルタで濾過して共重合体をスラリー状態で得た。得られたスラリーを120℃で8時間乾燥して、化合物(7)の121gを得た。
【0050】
実施例3、実施例4を比較例1と比較してわかるように、本発明の化合物(1a)及び化合物(1b)を開環メタセシス重合させると、高い収率で重合体が得られた。また、これらの重合体は分子量分散が低かった。
すなわち、本発明の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物が、フルオロアルキル基を持ち、開環メタセシス重合の反応性に優れたノルボルネン化合物であることが確認できた。
また、実施例5に示されるように、本発明のノルボルネニルエステル化合物はラジカル重合に用いる単量体としても使用できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物の重合体は、必要な処理の後、電気・電子材料、半導体材料、光学材料、光ファイバー、光導波路材等、多種多様な用途に応用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で示される含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
【化1】

ただし、式中のXは酸素原子、メチレン基、メチルメチレン基、またはジメチルメチレン基、Rはフッ素原子またはトリフルオロメチル基、Rはエーテル性酸素原子を含まず、かつ末端に水素原子を持たない炭素原子数1〜20のポリフルオロアルキル基、または任意の場所に1つ以上のエーテル性酸素原子を含む炭素原子数3〜20のポリフルオロアルキル基である。
【請求項2】
Xが酸素原子またはメチレン基である請求項1に記載の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
【請求項3】
がトリフルオロメチル基である請求項1または2に記載の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の含フッ素ノルボルネニルエステル化合物に基づく構成単位を含む重合体。
【請求項5】
さらに、重合性アルケンに基づく構成単位を含む請求項4に記載の重合体。
【請求項6】
開環メタセシス重合により得られる請求項4または請求項5に記載の重合体。
【請求項7】
数平均分子量がポリメタクリル酸メチル換算で1,000−1,000,000である請求項4〜6の何れかに記載の重合体。



【公開番号】特開2006−342075(P2006−342075A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166941(P2005−166941)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】