説明

含リン難燃剤の製造方法、含リン難燃剤並びに難燃性ポリエステル

ポリエステル製造時に共重合する含リン難燃剤であって、ポリエステルの重縮合における高温、減圧下という条件では、熱分解を起こす、系外に飛散する、ポリエステル生成反応中に重合体のゲル化を引き起こす、等の問題を起こさず、しかも製造した難燃性ポリエステルの色調が良好な含リン難燃剤及びその製造方法並びに該含リン難燃剤を共重合した難燃性ポリエステルを提供する。有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、少なくとも1種の酸化防止剤を、有機リン化合物に対して合計0.001〜10重量%の割合となるように含有させて反応させる製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含リン難燃剤の製造方法、含リン難燃剤及び該含リン難燃剤を構成単位として含む難燃性ポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年人命尊重の立場から、繊維を初めとする種々の成型品において難燃化が要求特性として挙げられ、様々な研究が行なわれている。線状ポリエステルから製造される成型品においても、難燃剤をポリマー製造時に添加して共重合あるいはブレンドさせる方法や、成型時にポリエステル中に練り込む方法、さらには成型品を後加工して難燃性、耐炎性を付与する方法等が提案されている。これらの方法の中で工業的価値を考慮した場合、最も簡便でしかも得られる成型品の諸性能を損なわないという点で、ポリマー製造時に難燃剤を添加して共重合させる方法が有利である。ポリエステル製造時に共重合させる難燃剤としてはリン化合物が多く用いられている。しかしながら、多くのリン化合物は、ポリエステルの重縮合における高温、減圧下という条件では、熱分解を起こす、系外に飛散する、ポリエステル生成反応中に重合体のゲル化を引き起こす、等の問題を有するため、改善が要求されていた。
【0003】
係る問題を生じない含リン難燃剤であるポリエステルに共重合可能なリン化合物としては、エチレングリコールの存在下に9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドとイタコン酸とから製造される含リン化合物が公知である(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭52−97981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された含リン化合物のエチレングリコール溶液には顕著な着色があり、これを用いて製造した難燃性ポリエステルは色調が悪いという問題を有しており、さらなる改善が求められていた。
【0005】
本発明は、ポリエステル製造時に共重合する含リン難燃剤であって、ポリエステルの重縮合における高温、減圧下という条件では、熱分解を起こす、系外に飛散する、ポリエステル生成反応中に重合体のゲル化を引き起こす、等の問題を起こさず、しかも製造した難燃性ポリエステルの色調が良好な含リン難燃剤及びその製造方法並びに該含リン難燃剤を共重合した難燃性ポリエステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究した結果、有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、酸化防止剤を有機リン化合物に対し特定の割合となるように含有させる含リン難燃剤の製造方法により前記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明の含リン難燃剤の製造方法は、有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、少なくとも1種の酸化防止剤を、有機リン化合物に対して合計0.001〜10重量%の割合となるように含有させて反応させることを特徴とする。
【0008】
係る製造方法により得られる含リン難燃剤は、含リン難燃剤化合物、酸化防止剤及びアルキレングリコールを含む組成物であり、含リン難燃剤化合物はカルボキシル基を含有し、重合後において難燃性ポリエステルの重合体構成単位となる。
【0009】
本発明の含リン難燃剤は、含リン難燃剤、酸化防止剤及びアルキレングリコールを含有し、色相(APHA)が120以下であることを特徴とする。係る難燃剤は、本発明の含リン難燃剤の製造方法によって得られたものであることが好ましい。含リン難燃剤の組成物は、そのまま難燃性ポリエステルの製造に使用する。
【0010】
係る含リン難燃剤は、ポリエステルの重縮合における高温、減圧下という条件では、熱分解を起こす、系外に飛散する、ポリエステル生成反応中に重合体のゲル化を引き起こす、等の問題を起こさず、しかも製造した難燃性ポリエステルの色調が良好である。
【0011】
また本発明の難燃性ポリエステルは、本発明の含リン難燃剤を使用して製造され、重合体構成単位として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法により製造された含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液は、着色が効果的に防止されている。また得られた含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液を用いて製造される難燃性ポリエステルは色調が改善されたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の含リン難燃剤の製造方法は、有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び又はその酸無水物(以下、不飽和カルボン酸類という)をアルキレングリコール中で反応させる反応系に、少なくとも1種の酸化防止剤を含リン難燃剤を含有させることを特徴とするものである。含リン難燃剤の製造時に反応系に酸化防止剤を含有させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、
1)有機リン化合物、不飽和カルボン酸類及びアルキレングリコールに酸化防止剤を含有させて反応させて含リン難燃剤を製造する方法
2)有機リン化合物と不飽和カルボン酸類に酸化防止剤を含有させて反応させ、更にアルキレングリコールと反応させて含リン難燃剤を製造する方法
3)不飽和カルボン酸類とアルキレングリコールに酸化防止剤を含有させて反応させ、更に有機リン化合物を添加して反応させて含リン難燃剤を製造する方法
等が挙げられる。
【0014】
本発明において使用可能な有機リン化合物とは、不飽和カルボン酸類と反応してカルボキシル基を有するリン化合物を形成可能な含リン化合物であれば特に限定されるものではないが、例えば、
1)ジメチルホスフィンオキシド、ジエチルホスフィンオキシド、ジプロピルホスフィンオキシド、ジブチルホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド誘導体
2)9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド、メチルメタンホスフィネート、エチルメタンホスフィネート、メチルエタンホスフィネート、エチルエタンホスフィネート、メチルプロパンホスフィネート、エチルプロパンホスフィネート、メチルブタンホスフィネート、エチルブタンホスフィネート、メチルベンゼンホスフィネート、エチルベンゼンホスフィネート等のホスフィネート誘導体
等が挙げられる。これら例示化合物のなかでも、難燃効果が優れている点でホスフィネート誘導体を使用することが好ましく、とりわけ9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド(以下、DOPという)を使用することが好ましい。
【0015】
本発明において使用可能な不飽和カルボン酸としては、
1)アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和モノカルボン酸
2)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル等の不飽和モノカルボン酸アルキル
3)マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸
4)マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、メサコン酸ジメチル、メサコン酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸アルキル
5)無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸の酸無水物が挙げられる。上記例示化合物のなかでも不飽和ジカルボン酸、不飽和ジカルボン酸の酸無水物から選択される少なくとも1種の使用が好ましく、イタコン酸、無水イタコン酸の使用がより好ましい。
【0016】
本発明の含リン難燃剤の製造方法に使用可能な酸化防止剤は、特に限定されるものではないが、例えば、1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤、2)リン系酸化防止剤、3)イオウ系酸化防止剤等が挙げられるなどである。
【0017】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、4−t−ブチルカテコール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシートルエン、n−オクタデシル−β−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6’−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、カルシウム(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジル−モノエチル−フォスフェート)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)〕−1,3,5−トリアジン、3,9−ビス〔1,1−ジメチル−2−{β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、ビス〔3,3−ビス(4’−ヒドロキシ−3’−t−ブチルフェニル)酪酸〕グリコールエステル、トリフェノール、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェノール)、N,N−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン、2,2’−オキサミドビス〔エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,1,3−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−S−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシヒドロシンナミックアシドトリエステルウイズ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)、N,N−へキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナアミド)等が挙げられる。
【0018】
またリン系酸化防止剤としては、トリス(ミックスド、モノ及びジノニルフェニル)フォスファイト、トリス(2,3−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)フォスファイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルフォスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンフォスファナイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリストール−ジ−フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)4,4’−ビフェエレンジホスフォナイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、トリドデシルトリチオホスファイト等を挙げることができる。
【0019】
またイオウ系酸化防止剤としては、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジウロビオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジラウリルチオジプロピオネ−ト、ジオクタデシルサルファイド、ペンタエリストリール−テトラ(β−ラウリル−チオプロピオネート)エステル等が挙げられる。なかでも含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液の着色防止効果が優れている点でヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、4−t−ブチルカテコールが特に好ましい。
【0020】
上記の酸化防止剤は、そのままでも添加、使用できるが、アルキレングリコールに溶解した溶液として反応系に添加しても構わない。また、酸化防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本発明においては、酸化防止剤の含有割合は有機リン化合物に対して、合計0.001〜10重量%とする。酸化防止剤の含有割合が0.001重量%より少ないと、反応生成物溶液の着色を十分に抑制することができない。また含有割合が10重量%を超えて使用してもそれに見合う効果はなく、逆にこの酸化防止剤を導入した後のポリエステル中の異物となり、溶融樹脂のろ過性を悪化させる原因となる場合がある。酸化防止剤の含有割合は、有機リン化合物に対して、合計0.05〜1重量%とすることがより好ましい。
【0021】
本発明においては、含リン難燃剤の製造において酸化防止剤の添加時期は、含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液の着色が抑制される限り特に限定されるものではないが、有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物とアルキレングリコールとを反応させる前に添加することが好ましい。
【0022】
本発明において使用するアルキレングリコールは、ポリエステル構成成分であるアルキレングリコールを使用することが好ましく、具体的にはエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどの炭素数が2〜5のグリコールが例示される。
【0023】
本発明の含リン難燃剤の製造方法としては、1工程で含リン難燃剤を製造する製造方法であることが好ましい。具体的には有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び/又はその無水物とアルキレングリコールとを、酸化防止剤の存在下に不活性ガス雰囲気下で加熱撹拌して反応させることによって行なわれる。この反応は、100℃以上に加熱することによって進行するが、あまり低い温度では反応の完結に時間がかかり、逆に加熱温度が高すぎると有機リン化合物や不飽和カルボン酸が熱分解してしまうため、120〜200℃とすることが好ましい。有機リン化合物と不飽和カルボン酸もしくはその無水物の反応比は実質的には等モルで行なうが、リン化合物に対して不飽和カルボン酸及び/又はその無水物をモル比にて1.0〜1.1倍仕込むことが好ましい。
【0024】
アルキレングリコールの使用量は、不飽和カルボン酸もしくはその無水物に対してモル比にて1.5〜20倍、好ましくは2〜5倍の範囲である。アルキレングリコールの使用量が不飽和カルボン酸及び/又はその無水物に対してモル比にて1.5倍より少ない場合には、不飽和カルボン酸及び/又はその無水物によるカルボキシル基とのエステル化反応が不充分となり、反応溶液の粘度も高くなるため好ましくない。アルキレングリコールの使用量が20倍を超える場合には反応溶液の粘度が低くなって取扱いは容易となるが、不経済である。
【0025】
上述の本発明の含リン難燃剤の製造方法により得られる本発明の含リン難燃剤は、分子中に水酸基を一つ又は二つ有する含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液であって、酸化防止剤を含有するものである。本発明の含リン難燃剤は、上記酸化防止剤を添加することにより着色が少なく、高白度が必要とされるポリエステルに難燃性を付与するものとして非常に有用である。本発明の含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液中の濃度は特に限定されるものではないが、10〜90重量%である。
【0026】
本発明の難燃性ポリエステルは、難燃性ポリエステルを製造する原料の少なくとも一部として本発明の含リン難燃剤を用いるものである。難燃性ポリエステルを製造する原料として用いる場合、本発明の含リン難燃剤のアルキレングリコール溶液として用いることが好ましい。難燃性ポリエステルを製造する原料としては、ポリエステルの原料として用いられる従来公知の原料化合物から適宜選択することができる。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等のジオール化合物、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸ナトリウム、アジピン酸等のジカルボン酸、フタル酸ジメチル、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル−5−スルホン酸ナトリウム、アジピン酸ジメチル等のジカルボン酸のエステル形成性化合物等が挙げられる。また難燃性ポリエステルを製造する縮重合反応としてはそれ自体公知の方法が適用できる。
【0027】
本発明の難燃性ポリエステルは、含リン難燃剤から形成される構成単位をポリエステルに対してリン濃度として0.1.〜5.0重量%の割合で含有するものである。リン濃度が0.1重量%未満の場合には十分な難燃効果が得られず、5.0重量%を超えると難燃効果がそれ程高くならずにポリエステルの強度などに影響がでる場合がある。
【0028】
本発明の含リン難燃剤の製造方法、含リン難燃剤及び難燃性ポリエステルにおいて、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、分子量調整剤、金属不活性化剤、有機及び無機系の核剤、中和剤、制酸剤、防菌剤、蛍光増白剤、充填剤、難燃剤、難燃助剤、有機及び無機系の顔料など添加剤を必要に応じて適宜組み合わせて使用しても構わない。
【0029】
本発明の含リン難燃剤の製造方法及び含リン難燃剤として好適な特に実施形態は、次の1)〜3)である。
1)DOPとイタコン酸をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、酸化防止剤として4−t−ブチルカテコールを、DOPに対して合計で0.01重量%の割合となるように含有させる含リン難燃剤の製造方法、並びに該方法によって得られた含リン難燃剤。
2)DOPとイタコン酸をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、酸化防止剤として4−t−ブチルカテコールを、DOPに対して合計で0.1重量%の割合となるように含有させる含リン難燃剤の製造方法、並びに該方法によって得られた含リン難燃剤。
3)DOPとイタコン酸をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、酸化防止剤として4−t−ブチルカテコールを、DOPに対して合計1重量%の割合となるように含有させる含リン難燃剤の製造方法、並びに該方法によって得られた含リン難燃剤。
【0030】
本発明の難燃性ポリエステルの好適な実施形態は、ポリエステルの構成単位として、前記した1)〜3)の含リン難燃剤から形成される構成単位をポリエステルに対してリン濃度として0.1〜5.0重量%の割合で含有することを特徴とする。
【0031】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例等に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は重量部を、また%は重量%を意味する。
【0032】
本発明及び以下の実施例において、含リン難燃剤の色相(APHA)は、JIS K 1557−1970記載のAPH標準液との比較で測定した。
【実施例】
【0033】
<含リン難燃剤の製造例>
(実施例1)含リン難燃剤(P−1)の製造
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入管、留出管を装備した1Lの4つ口反応フラスコに、エチレングリコール300g(4.83モル)、DOP187g(0.87モル)、イタコン酸113g(0.87モル)、4−t−ブチルカテコール(酸化防止剤(A−1))0.06g(0.01重量%)を仕込み、窒素ガス雰囲気下、加熱撹拌してエステル化反応を行った。反応温度は約6時間をかけて室温から190℃とし、同温度でさらに4時間反応を続けて、含リン難燃剤(P−1)を66重量%含有するエチレングリコール溶液を得た。この反応においてエステル化によって生成した水の量は約32mlであった。得られた含リン難燃剤(P−1)のエチレングリコール(EG)溶液の色相は、APHAカラー標準を用いて、目視で評価した結果、色相(APHA)が90であった。
【0034】
(実施例2、3)含リン難燃剤(P−2)、(P−3)の製造
酸化防止剤の添加量、酸化防止剤の種類を変更した以外は実施例1と同様にして、含リン難燃剤(P−2)、(P−3)(実施例2、3)の製造を行った。得られた含リン難燃剤(P−2)、(P−3)のエチレングリコール(EG)溶液の色相(APHA)は、(P−2)が70,(P−3)が60であった。結果をまとめて表1に示した。
【0035】
(実施例4)含リン難燃剤(P−4)の製造
酸化防止剤としてテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(酸化防止剤(A−2)を0.6g(0.1重量%)添加した以外は実施例1と同様にして、含リン難燃剤(P−4)(実施例4)の製造を行った。得られた含リン難燃剤(P−4)のエチレングリコール(EG)溶液の色相(APHA)は100であった。結果をまとめて表1に示した。
【0036】
(比較例1)含リン難燃剤(R−1)の製造
撹拌装置、温度計、窒素ガス導入管、留出管を装備した1Lの4つ口反応フラスコに、エチレングリコール300g(4.83モル)、DOP187g(0.87モル)、イタコン酸113g(0.87モル)を仕込み、窒素ガス雰囲気下、加熱撹拌した。反応温度は約6時間をかけて室温から190℃とし、この温度で更に4時間反応を続けて含リン難燃剤(R−1)を66重量%含有するエチレングリコール溶液を得た。反応系は加熱を開始してすぐに着色が確認された。この反応においてエステル化反応によって生成した水の量は約32mlであった。得られた含リン難燃剤(R−1)のエチレングリコール溶液は色相(APHA)が200であり、着色が著しいものであった。
【0037】
【表1】

【0038】
<難燃性ポリエステルの製造例>
(実施例5)難燃性ポリエステル(AP−1)の製造
撹拌機、蒸留塔、圧力調整器を備えた5Lステンレス製オートクレーブにテレフタル酸1242g(7.48モル)、難燃剤製造例で製造した含リン難燃剤(P−1)のエチレングリコール溶液200g(含リン難燃剤として0.30モル)とエチレングリコール850g(13.71モル)を仕込み、更に三酸化アンチモンを14g/Lのエチレングリコ−ル溶液として2.41g、二酸化ゲルマニウムを8g/Lのエチレングリコール溶液として15g及びトリエチルアミン5.2gを加えた後、230℃、ゲージ圧2.5kg/cm の条件にて水を逐次留去しながら2時間エステル化反応を行った。次いで1時間かけて反応系の温度を275℃まで昇温しつつ、系の圧力を徐々に減じて0.1mmHgとし、この条件下で1時間重縮合反応を行って難燃性ポリエステル(AP−1)を得た。得られた難燃性ポリエステル(AP−1)は、分析により含リン難燃剤から形成される構成単位をポリエステルに対してリン濃度として0.60重量%の割合で含有するものであった。また得られた難燃性ポリエステル(AP−1)のハンター型色差計によるL値及びb値は、L値が75、b値が10.3であった。ここで、L値が大きい程、ポリエステルの白度が向上していることを示し、b値が大きい程、ポリエステルの黄色味の強いことを示している。即ち、L値が大きく、b値が小さいほど色調が良好であることを示す。
【0039】
(実施例6〜8)難燃性ポリエステル(AP−2)〜(AP−4)の製造
使用する含リン難燃剤EG溶液を変更した以外は難燃性ポリエステル(AP−1)の製造例と同様にして、難燃性ポリエステル(AP−2)〜(AP−4)(実施例6〜8)の製造を行った。結果をまとめて表2に示した。
【0040】
(比較例2)難燃性ポリエステル(AR−1)の製造
撹拌機、蒸留塔、圧力調整器を備えた5Lステンレス製オートクレーブにテレフタル酸1242g(7.48モル)、含リン難燃剤製造例で製造した含リン難燃剤(R−1)のエチレングリコール溶液200g(0.30モル)とエチレングリコール850g(13.71モル)を仕込み、更に三酸化アンチモンを14g/Lのエチレングリコール溶液として24.1g、二酸化ゲルマニウムを8g/Lのエチレングリコール溶液として15g及びトリエチルアミン5.2gを加えた後、230℃、ゲージ圧2.5kg/cmの条件にて水を逐次留去しながら2時間エステル化反応を行った。次いで1時間かけて反応系の温度を275℃まで昇温しつつ、系の圧力を徐々に減じて0.1mmHgとし、この条件下で1時間重縮合反応を行って、難燃性ポリエステル(AR−1)を得た。得られた難燃性ポリエステル(AR−1)は、分析により含リン難燃剤から形成される構成単位をポリエステルに対してリン濃度として0.60重量%の割合で含有するものであった。また得られた難燃性ポリエステル(AR−2)のハンター型色差計によるL値及びb値は、L値が74、b値が19.7であった。
【0041】
(比較例4)難燃性ポリエステル(AR−2)の製造
撹拌機、蒸留塔、圧力調整器を備えた5Lステンレス製オートクレープにテレフタル酸1242g(7.48モル)、含リン難燃剤製造例で製造した含リン難燃剤(R−1)のエチレングリコール200g(0.30モル)とエチレングリコ−ル(EG)850g(13.71モル)と酸化防止剤として4−t−ブチルカテコール1.32g(含リン難燃剤に対し1%)を仕込み、更に三酸化アンチモンを14g/Lのエチレングリコール溶液として24.1g、二酸化ゲルマニウムを8g/Lのエチレングリコール溶液として15g及びトリエチルアミン5.2gを加えた後、230℃、ゲージ圧2.5kg/cm2 の条件にて水を逐次留去しながら2時間エステル化反応を行った。次いで1時間かけて反応系の温度を275℃まで昇温しつつ、系の圧力を徐々に減じて0.1mmHgとし、この条件下で1時間重縮合反応を行って、難燃性ポリエステル(AR−2)を得た。得られた難燃性ポリエステル(AR−2)は、分析により含リン難燃剤から形成される構成単位をポリエステルに対してリン濃度として0.60重量%の割合で含有するものであった。また得られた難燃性ポリエステル(AR−2)のハンター型色差計によるL値及びb値は、L値が74、b値が18.6であった。
【0042】
(比較例4)難燃性ポリエステル(AR−3)の製造
難燃性ポリエステル(AR−2)において4−t−ブチルカテコール1.5gに代えて、テトラキス〔メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン1.32gとした以外は比較例3と同様にして、難燃性ポリエステル(AR−3)の製造を行った。得られた難燃性ポリエステルの色調評価結果をまとめて表2に示した。
【0043】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の含リン難燃剤はポリエステルの製造に使用でき、該含リン難燃剤は、本発明の含リン難燃剤の製造方法により製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機リン化合物と不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物をアルキレングリコール中で反応させて含リン難燃剤を製造する方法において、
少なくとも1種の酸化防止剤を、前記有機リン化合物に対して合計0.001〜10重量%含有させることを特徴とする含リン難燃剤の製造方法。
【請求項2】
前記有機リン化合物が、ホスフィネート誘導体である請求項1記載の含リン難燃剤の製造方法。
【請求項3】
前記有機リン化合物が、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシドである請求項1又は2記載の含リン難燃剤の製造方法。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物が不飽和二塩基酸及び/又はその酸無水物である請求項1〜3のいずれかに記載の含リン難燃剤の製造方法。
【請求項5】
前記不飽和カルボン酸がイタコン酸であり、前記不飽和カルボン酸の酸無水物が無水イタコン酸である請求項1〜4のいずれかに記載の含リン難燃剤の製造方法。
【請求項6】
前記酸化防止剤がヒンダードフェノール系酸化防止剤である請求項1〜5のいずれかに記載の含リン難燃剤の製造方法。
【請求項7】
前記酸化防止剤がt−ブチルカテコールである請求項1〜6のいずれかに記載の含リン難燃剤の製造方法。
【請求項8】
含リン難燃剤、酸化防止剤及びアルキレングリコール中を含有し、色相(APHA)が120以下であることを特徴とする含リン難燃剤。
【請求項9】
請求項1〜7記載のいずれかに記載の含リン難燃剤の製造方法によって製造された請求項8に記載の含リン難燃剤。
【請求項10】
ポリエステルの構成単位として、請求項8又は9記載の含リン難燃剤から形成される構成単位を前記ポリエステル中のリン濃度として0.1〜5.0重量%含有することを特徴とする難燃性ポリエステル。

【国際公開番号】WO2005/063922
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516649(P2005−516649)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019363
【国際出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000210654)竹本油脂株式会社 (138)
【Fターム(参考)】