説明

含気形態のレトルトパウチ食品

【課題】
レトルトパウチ食品について、具材が中心でありながら、具材がその自重や輸送中の振動などによって破損や潰れを起こしておらず、且つパウチ内での具材の片寄りも起こりにくく、食品具材本来の味や食感を楽しむことができる製品を供することにある。
【解決手段】
充填物を気体とともに充填する含気形態のレトルトパウチ食品において、パウチ内の全内容体積における含気率を5〜30%とすることで具の破損や潰れを起こしにくく、且つ包材内での片寄りが最小限にとどめられ、さらには食品素材本来の味や食感が残りやすい、レトルトパウチ食品を提供できる。また、本発明によれば必要以上に内容物の気体体積が増えないため、強すぎる加熱加圧殺菌が必要とならない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含気形態のレトルトパウチ食品に関するものであり、食品具材本来の風味や食感が残りやすく、充填後も具材がその自重や輸送中の振動などによって破損や潰れを起こしておらず、且つパウチ内での具材の片寄りも起こりにくいことを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
レトルトパウチ食品をはじめとする加圧加熱殺菌された加工食品は、常温で長期間の保存が可能であり、簡単な調理によって喫食可能であるため、女性の社会進出や少子高齢化などの社会現象を背景に発達してきた。しかしながらその製品の中心はカレー、シチューなどのソースを主としたものであり、一般的な家庭料理と比較すると、食品具材そのものの比率が極度に少ないことが多く、特に野菜等は不足しがちであり、健康面に関してはマイナスのイメージを持たれがちであった。
【0003】
また、レトルトパウチ食品をはじめとする加圧加熱殺菌された加工食品中の食品具材はソースが主体であるために保存中に食品具材本来の風味は流出し、ソースの味と同化し、食感もふやけて本来の食感とはかけ離れていることが多い。
【0004】
このような問題を解決するために、以下のような方法が各種提案されている。例えば食品具材そのものもしくはこれに味やソースを添付したものを真空充填する方法が一般的に良く知られている。しかしながら繊細な形態をもつ具材や食感が柔らかい具材では真空充填時に包材によってつぶれてしまう場合が多い。また、保存中における食品具材本来の風味流出もそれほど防止することができなかった。この問題点に関しては特開平6−225738(特許文献1)、特開平5−236917(特許文献2)のように不活性ガスを充填する技術が開示されている。これにより、食品具材からソースへの風味の流出が少なくなり、食品具材本来の風味や食感を生かすことができる。これがいわゆる含気形態のレトルトパウチ食品である。例えば含気形態のレトルトパウチ食品の例として特開平8−242825(特許文献3)が挙げられる。
【0005】
しかしながら、含気形態のレトルトパウチ食品では気体を充填することで空間ができ、固形食品はパウチ内で移動しやすくなる上、食品具材自身の自重によって輸送中や経時的にも崩れて、製品価値が損なわれることも多かった。しかも充填後の内容物が包材中で安定せず、体積が必要以上に増したり、気体自体が熱の不良伝導体であるために加熱むらを起こしやすくなり、結果的に通常に比べて非常に過酷な加熱殺菌が必要になり、それによりさらに製品価値が損なわれる可能性が高かった。例えば含気率の例として特開2007−097524(特許文献4)には「含気率30〜70%」という記載が見られるがこの条件では以上のような問題が起こりやすかった。特にこの欠点は充填量が増えるほど顕著となるため、一般的な含気形態レトルトパウチ食品は通常のレトルトパウチ食品に比べて充填量が少なく小型な形態が主流であった。
【特許文献1】特開平6−225738号公報
【特許文献2】特開平5−236917号公報
【特許文献3】特開平8−242825号公報
【特許文献4】特開2007−097524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レトルトパウチ食品について、具材が中心でありながら、具材がその自重や輸送中の振動などによって破損や潰れを起こしておらず、且つパウチ内での具材の片寄りも起こりにくく、食品具材本来の味や食感を楽しむことができる製品を供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、含気形態のレトルトパウチ食品において、充填物と気体の充填方法に関して鋭意検討した結果、パウチ内の全内容体積における含気率が5〜30%の条件においては具材の崩れや包材内での偏りが最小限にとどめられ、且つ食品素材本来の味や食感が残りやすい、レトルトパウチ食品を提供できることを見出した。また、本発明によれば必要以上に内容物の気体体積が増えないため、強すぎる加熱加圧殺菌が必要とならない。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食品具材本来の風味と食感を生かしやすい含気形態のレトルトパウチ食品において、具材の破損やパウチ内での具材の片寄りが少なくなることで商品価値が保たれ、良好な食品具材本来の味や食感を楽しむことができる製品を得ることができる。
【0009】
また、本発明のレトルトパウチ食品は必要以上に内容物の気体体積が増えないため、強すぎる加熱加圧殺菌も必要とならない。
【0010】
さらに、本発明を用いることによって、従来のレトルトパウチ食品では少なくなりがちであった食品具材を中心としたより広いメニュー展開が可能になり、とりわけ野菜を中心とした健康的な製品を供することができるようになる。また、本発明によるレトルトパウチ食品に調味料やソースを添付すると、メニュー展開をより広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を具体的に説明する。本発明の対象となる含気形態のレトルトパウチ食品はパウチに気体と共に密封充填されており、100℃以上で加熱加圧殺菌されているものを対象とする。パウチの素材や形状、気体の組成成分については特に限定されない。
【0012】
なお、充填物については必ずしも全てが固形の食品具材でなくてもよく、調味料やソースが共に充填されていても、加熱加圧殺菌によって生じたドリップが含まれていてもよい。ここでいう食品具材とは一般的な野菜、果物、肉類、魚介類を指し、これらが単一もしくは複合して存在しても良いし、焼成、煮熟などの調理やカルシウム硬化処理などの下処理などの加工工程を経ているものであっても良い。
【0013】
本発明ではパウチ内の全内容体積における含気率が5〜30%である。さらに望ましくは10〜25%である。これより気体の比率が高い場合には充填具材がパウチ内で保持されず、崩れやすく、包材内で偏りやすくなる上、体積が必要以上に増すために通常に比べて非常に強い加熱殺菌が必要になる。また、含気率が低い場合には繊細な形態をもつ具材や食感が柔らかい具材であると、具材の本来の形が保たれにくく、平らにつぶされてしまう。
【0014】
このレトルトパウチ食品の充填物と気体を規定の含気率で充填するにあたっては、加熱加圧殺菌時の酸素による充填具材の品質劣化を防止する観点から窒素や炭酸ガスをはじめとする不活性ガスをともに充填することが望ましいが、必ずしも完全に不活性ガスに置き換えられている必要は無い。また、気体量を調整するためには具材をパウチ内に投入した後、充填密封時に軽くパウチ外側面を抑えることで余分な気体を排出したり、一旦完全に真空状態にした後に所定量の気体を注入するなどの方法が有効であるが、特に充填方法によっても限定されない。
【0015】
充填されている具材のうち7割以上がクリープメーターで測定したときの硬さが5.0×10〜5.0×10N/mの固体であることが望ましい。7割以上が固体であることで実際の喫食時に固形具材の風味や食感を感じやすくなるほか、このかたさは家庭で加熱調理された料理の自然な食感にあたり、これより低い場合には具材が溶けかかっている状態に近く、高い場合には十分に硬いため本発明の効果を生かさずとも具材が崩れる可能性が低いため、硬さが5.0×10〜5.0×10N/mのときに本発明の効果を生かしやすい。
【0016】
充填具材の総重量は50g〜500gであることが望ましい。50gを下回る場合であれば具材の重量が少ないために具材が自重で崩れる可能性が低いので本発明の効果を得にくく、内容量が500gを超える場合は固形の充填物の自重が大きくなりすぎるため崩れやすくなり発明の効果を十分に得られない場合がある。
【0017】
また、本発明における加圧加熱殺菌は、必要十分な殺菌価を得られるよう行う。一般的には100℃〜140℃、3〜120分である。加圧に関してはパウチが破損しない範囲で任意に制御を行うことができる。
【0018】
以下に本発明で用いたクリープメーターによるかたさ測定についての詳細な分析法を記す。
山電社製のクリープメーターRE−3305Sを用い、品温を20±2℃に保ちながら、20Nのロードセルにて直径3mmの円柱型アダプターを用い、測定速度1mm/sec、クリアランス20%の条件で測定を行い、最大荷重値(N/m)をかたさとして、各サンプルごとにn=8にて測定した。
【0019】
以下より、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるべきものではない。
【実施例1】
【0020】
かぼちゃの煮物
かぼちゃ(2〜3cm角)1kgに対し、砂糖45g、清酒25g、水500gを添加して鍋で落し蓋をして10分煮込んだ後、醤油45g、塩3gを加え、煮詰めて得たかぼちゃの煮物をレトルト用パウチに100gずつ充填し、さらにヘッドスペースガスを窒素へ置き換えた後それぞれの含気量で充填密封し、125℃20分で加圧加熱殺菌を施した。これらをパウチごと10回縦に振り、1時間以上立てて保管したのち、以下の基準にてパウチ内の具材の様子を観察した。
◎ 具の破損やパウチ内での具材の片寄りがほとんどなく、商品価値が保たれている
○ 具の破損やパウチ内での具材の片寄りは少なく、商品価値が保たれている
△ 具の破損やパウチ内での具材の片寄りが見られ、商品価値をやや損なっている。
× 具の破損やパウチ内での具材の片寄りが激しく、商品価値を損なっている
結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

以上の各実施例から、含気率が5〜30%のとき、レトルトパウチ製品の具材の破損やパウチ内での具材の片寄りが少なく、商品価値が保たれやすいことが明らかである。
なお、このときのクリープメーターによって測定された具材のかたさは、5.1×10〜1.9×10N/mであった。
【実施例2】
【0022】
きんぴらごぼう
5×0.3×0.3cmにカットしたごぼう800g、にんじん200gに対してごま油40g添加し、強火で5分炒める。砂糖80g、清酒80g、水200gと細い輪切りにした赤唐辛子少量を加えて落し蓋をして5分煮込む。さらに醤油80gとみりん90gを加え、煮汁がなくなるまで煮て得たきんぴらごぼうをレトルト用パウチにそれぞれの充填量で充填し、さらにヘッドスペースガスを窒素へ置き換えた後それぞれの含気量で充填密封し、125℃20分で加圧加熱殺菌を施した。評価は実施例1と同様に行った。
結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

以上の各実施例から、含気率が5〜30%のとき、レトルトパウチ食品の具材の破損やパウチ内での具の片寄りが少なく、商品価値が保たれやすくなるとともに充填量が50〜500gであれば本発明の効果を生かせることが明らかである。
なお、このときクリープメーターによって測定された具材のかたさは、ごぼうについては7.5×10〜3.0×10N/m、にんじんについては7.9×10〜1.0×10N/mであった。
【実施例3】
【0024】
食品素材(大根)
2cm角にカットした大根についてそれぞれ下処理を行い硬さを調整したのち、レトルト用パウチに100gずつ充填し、さらにヘッドスペースガスを窒素へ置き換えた後それぞれの含気率18〜22%になるよう充填密封し、125℃20分で加圧加熱殺菌を施した。具材の評価を実施例1および実施例2と同様に行うとともに、各区分についてクリープメーターによりかたさを求めた。
結果を表3に示す
【0025】
【表3】

以上の各実施例から、具材の下処理方法によってかたさが変わった場合においても、かたさが5.0×10〜5.0×10N/mの範囲内であれば、十分に本発明の効果を生かせることが明らかである。
【実施例4】
【0026】
洋風野菜煮込み
2〜3cm角程度にカットしたナス、ズッキーニ、パプリカ、玉ねぎからなる野菜具材にトマトソースを絡めたもの200gを、レトルトパウチに空気を窒素に置換しながら含気率が10〜15%となるよう充填密封した後、加圧加熱殺菌されてなる野菜たっぷりレトルト洋風煮込みを作製した。家庭で柔らかく煮込まれたかのような自然な食感の具が比率も高く崩れも少ない状態で、なおかつ具材本来の風味も生かしたまま供された。単独でも喫食が可能なほか、ごはんやパスタ、魚のムニエルなどにも合わせることができた。
【実施例5】
【0027】
野菜たっぷりカレー
2〜3cm角程度にカットされ、薄く調味料で味付けされたじゃがいも、にんじん、玉ねぎからなる野菜具材170gをレトルトパウチに空気を窒素に置換しながら含気率が10〜15%となるよう充填密封した後、加圧加熱殺菌されてなる含気形態のレトルト具材と挽肉を含んだカレーソースが充填されたレトルトパウチ食品の2ポーションからなるレトルトカレーセットを作製した。喫食時にソースをかけて喫食するため、家庭で調理されたかのように具材本来の風味や食感が残り、具材のサイズや量も多いカレーを供することができた。
【実施例6】
【0028】
ソースが選べる中華丼
長辺の長さが1〜3cm程度にカットされ、薄く調味料で味付けされた白菜、にんじん、たけのこ、ヤングコーン、鶏肉からなる具材165gをレトルトパウチに空気を窒素に置換しながら含気率が10〜15%となるよう充填密封した後加圧加熱殺菌されてなる含気形態のレトルト具材と、オイスターソースをメインとしたコクのあるあんかけソース小袋、並びに鶏がらをメインとした塩味あんかけソース小袋からなる3ポーションからなる中華丼セットを作製した。具材は本来の風味や食感が残っており、喫食者は好みのソースを選択あるいはブレンドして具材とあわせ、ご飯にかけて食べることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固液具材と共に気体が充填された状態で加熱加圧殺菌されている含気率が5〜30%のレトルトパウチ食品
【請求項2】
固液具材と共に気体が充填された状態で加熱加圧殺菌されている含気率が10〜25%のレトルトパウチ食品
【請求項3】
充填されている具材のうち7割以上がクリープメーターで測定したときの硬さが5.0×10〜5.0×10N/mの固体であることを特徴とする請求項1または2の加熱加圧殺菌されているレトルトパウチ食品
【請求項4】
充填具材の総重量が50〜500gである、請求項1〜3のレトルトパウチ食品

【公開番号】特開2010−130944(P2010−130944A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309609(P2008−309609)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(591119370)ヤマモリ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】