説明

含浸用加工原紙及び加工用含浸紙

【課題】 高い三次元加工適性をもつ加工用含浸紙を製造するのに適した含浸用加工原紙及びこの含浸用加工原紙から得られる加工用含浸紙を提供する。
【解決手段】 JIS P 8122で規定されたステキヒトサイズ度が10秒以下で、湿潤時の引張破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であり、湿潤時の裂断長が縦方向で0.20km以上とした含浸用加工原紙を得て、この含浸用加工原紙に樹脂を含浸量で50重量%未満含浸させて加工用含浸紙を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い三次元加工適性をもつ加工用含浸紙を製造するのに適した含浸用加工原紙及びこの含浸用加工原紙から製造される加工用含浸紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、パルプ100%からなる紙や不織布等からなる基材に、樹脂やワックスを含浸させた含浸紙が知られている(例えば、特許文献1参照。)。これら樹脂やワックスを含浸させた含浸紙は、含浸させる含浸薬品により、紙に耐水性、耐油性、強度や柔軟性を付与することができ、様々な用途に用いられている。例えば、基材にラテックス系の樹脂を含浸させて耐折強度、耐水性等を紙に付与することで、ポスター、地図等の印刷物、油脂物質の包装材、粘着テープ類の基紙や無塵紙に使用されたり、基材にワックスを含浸させて冷凍食品や果実など水分を多く含むものへの適性を高めた段ボールに使用されている。また、基材にフェノール樹脂を含浸させた含浸紙を積層して熱圧加工して製造される積層板、電気絶縁紙などにも使用されている。
【特許文献1】特開2004−250615号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記の含浸紙の用途として、紙容器や化粧板として使用される場合がある。このような成形もしくは曲面を有するような複雑な表面形状に沿う変形を伴う用途では、含浸紙に高い三次元加工適性が求められ、高い伸び特性が必要とされることがあったが、天然パルプからなる紙は伸びが小さいため、天然パルプからなる紙を基材とした含浸紙は使用することができなかったのが実状である。
【0004】
一方、高い伸び特性を有し、三次元加工適性が高い紙としては、例えば特許第3407114号公報に開示された製造方法で製造される伸張紙がある。伸張紙による紙容器は、耐油性や耐水性を必要とされる場合が多いため、多くの場合は伸張紙をラミネート加工したものが使用される。しかしながら、ラミネートは紙表面への耐油、耐水性はあるものの、断面からの浸透には効果がないことから、含浸紙の代わりにはならない。
【0005】
本発明者等は、上記点に鑑み、高い三次元加工適性をもつ加工用含浸紙について鋭意研究した結果、従来の含浸紙が有する利点を損なわず、伸張紙が有する高い伸び特性を有する加工用含浸紙を製造することができる含浸用加工原紙及びこの含浸用加工原紙から製造される加工用含浸紙を見出し、本発明をするに至った。
【0006】
本発明の目的は、高い三次元加工適性をもつ加工用含浸紙を製造するのに適した含浸用加工原紙及びこの含浸用加工原紙から得られる加工用含浸紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の加工用含浸紙は、JIS P 8122で規定されたステキヒトサイズ度が10秒以下で、湿潤時の引張破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であり、湿潤時の裂断長が縦方向で0.20km以上であることを特徴とする。
【0008】
このように構成された請求項1に記載の含浸用加工原紙によれば、JIS P 8122で規定されたステキヒトサイズ度が10秒以下であるので、樹脂が紙層内に均一に含浸される。また、湿潤時の引張破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であるので、実用に耐えうるだけの三次元加工適性を保持することができる。また、湿潤時の裂断長が縦方向で0.20km以上であるので、樹脂含浸を行う過程での乾燥前の状態の含浸用加工原紙の破れ等を有効に防止できる。
【0009】
請求項2に記載の含浸用加工原紙は、請求項1に記載の含浸用加工原紙が、湿潤紙力剤を固形分で0.01重量%以上1.0重量%以下配合した紙料から製造されることを特徴とする。
【0010】
このように構成された請求項2に記載の含浸用加工原紙によれば、湿潤紙力剤の配合量を固形分で0.01重量%以上1.0重量%以下配合した紙料から製造するので、湿潤時の裂断長を、目標とする十分な強さにすることができる。
【0011】
請求項3に記載の加工用含浸紙は、請求項1又は2に記載の含浸用加工原紙に、含浸用加工原紙に対して樹脂を含浸量で50重量%未満含浸させたことを特徴とする。
【0012】
このように構成された請求項3に記載の加工用含浸紙によれば、高い伸び特性を有する加工用含浸紙を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含浸用加工原紙に樹脂を含浸させることによって得られた本発明の加工用含浸紙によれば、高い伸び特性を有し、高い三次元加工適性を有する。そのため、例えば、化粧板やプリント配線基板などに使用すれば、これまで平面でしか使用できなかったものが曲面や凹凸をもつものなど複雑な形状にも使用できるようになる。また、紙容器等に使用する場合には、これまでのラミネート紙以上に優れた耐油性や耐水性をもつものが得られるほか、伸張紙の欠点であるコシの弱さを改質することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明の含浸用加工原紙は、JIS P 8122で規定されたステキヒトサイズ度が10秒以下で、湿潤時の引張破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であり、湿潤時の裂断長が縦方向で0.20km以上である。
【0015】
前記のように、本発明の含浸用加工原紙はステキヒトサイズ度が10秒以下であることが必須である。ステキヒトサイズ度を10秒以下とすることにより、樹脂を紙層内に均一に含浸させることができる。ステキヒトサイズ度が10秒より大きいと、樹脂が紙層内に均一に含浸され難くなる。
【0016】
また、本発明の含浸用加工原紙は、湿潤時の破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であることも必須条件である。ここでいう湿潤時とは、含浸用加工原紙を水に10分間浸けた後の状態を示す。本発明では樹脂を含浸するための含浸用加工原紙として伸張紙を使用するが、伸張紙は樹脂の含浸時の含浸液により伸びてしまうことにより、もとの伸張紙がもつ伸び特性を失う。本発明者等が鋭意検討した結果、湿潤時の破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であれば含浸後の加工用含浸紙は十分実用に耐えうるだけの三次元加工適性が保持されることが分かった。
【0017】
さらに、本発明の含浸用加工原紙は、本発明では湿潤時の裂断長が少なくとも縦方向で0.20km以上であることも必須条件である。本発明では、含浸するために用いられる含浸用加工原紙として伸張紙を使用するが、その伸張紙は特許第3407114号で開示された製造方法による伸張紙であることが好ましい。特許第3407114号の製造方法による伸張紙はこれまでの伸張紙の伸び以上に高い伸び特性を付与することが出来るため、三次元加工適性に優れるといった特徴を持つ。
【0018】
しかしながら、製造方法の欠点として高い伸び特性を付与するほど裂断長が低下する性質がみられる。裂断長が小さい場合の欠点として樹脂含浸を行う過程での乾燥前の状態の含浸用加工原紙の破れ等の原因になる。本発明の含浸用加工原紙の湿潤時の裂断長は、前記のように、少なくとも縦方向で0.20km以上である。この裂断長は通常の含浸紙の基材よりも低くなっているが、これは本発明の含浸用加工原紙が伸張紙であるため、伸び特性により樹脂含浸を行う過程での破れの原因となるような外部からの力を吸収するからである。しかしながら、湿潤時の裂断長が0.20kmより小さい場合には含浸時の破れ等が多くなる。これは伸び特性による吸収以上の力を加工用原紙の強度が補いきれなくなる為と考えられる。
【0019】
本発明の含浸用加工原紙では、湿潤時の裂断長が縦横ともに0.20km以上であることが好ましい。
【0020】
また、本発明の含浸用加工原紙の湿潤時の裂断長を目標の強さにするために、含浸用加工原紙を、湿潤紙力剤を固形分で0.01重量%以上1.0重量%以下配合した紙料から製造することが好ましい。湿潤紙力剤の配合量が、0.01重量%未満では目標とする十分な湿潤時の裂断長が得られないおそれがあり、一方で1.0重量%を超えると定着不良、ピッチ等の障害の原因となる。
【0021】
本発明で使用できる湿潤紙力剤は、一般的に使用されているものでよく、例えばポリアミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、グリオキザール変性ポリアクリルアミド、ポリアミン樹脂、ポリエチレンイミンなどが例として挙げられる。なかでもポリアミド樹脂が本発明では良好な結果が得られた。
【0022】
本発明の加工用含浸紙は、前記本発明の含浸用加工原紙に、含浸用加工原紙に対して樹脂を含浸量で50重量%未満含浸させて得られたものである。含浸量とは、含浸後の加工用含浸紙の総乾燥重量のうちに占める含浸した樹脂の乾燥重量をいう。
【0023】
含浸用加工原紙に樹脂の含浸量を50重量%未満としたのは、含浸量が50重量%を超えると加工用含浸紙を使用後、廃棄する際、あるいは焼却する際に環境へ与える負荷が高くなることから好ましくない。また、樹脂の含浸量は、3重量%以上であることが望ましい。含浸量が3重量%以上であれば、十分なコシを有する加工用含浸紙となる。
【0024】
前記含浸用加工原紙へ含浸させる樹脂の種類、含浸の手段および装置に特に制限はない。例えば、樹脂の種類としては、メラミン系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエステル系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ゴム系ラテックスおよび樹脂系ラテックス等、一般に含浸紙に使用されるものは勿論、含浸することができる物性をもつものであれば最終的な用途に合わせ適宜選択できる。
【0025】
また、樹脂の含浸の手段としては、例えばプレウェット法、フロート法およびドクターバー法等の含浸装置により連続的に含浸紙を製造する方法を用いてもよく、また樹脂を含浸するための含浸用加工原紙に予め成形等の加工を施し、その加工を施したものへ樹脂を含浸する方法を用いてもよい。あるいは、樹脂含浸したものを乾燥前に成形し、成形した状態のものを乾燥するといった方法を用いてもよい。
【0026】
さらに、樹脂の含浸量については、前記範囲内において、最終的な用途で求められる機能とコスト等から最適な量を決めることができる。
【0027】
前記加工用含浸紙は、高い伸び特性を有し、例えば紙容器、化粧板、壁紙など、高い三次元加工適性が求められる用途に用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものでない。
【0029】
〔実施例1〕
広葉樹クラフトパルプと針葉樹クラフトパルプを7:3の割合に配合したものを使用した。このパルプに湿潤紙力増強剤(ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、対パルプ0.4重量%)を配合して長網抄紙機で湿紙を製造し、この湿紙を、硬い物質から成りその表面にリブを有し速い速度で回転する硬質ロールと、柔らかい物質から成り平滑な表面を有し遅い速度で回転する硬質ロールからなる収縮付与装置で、周速度の差を22%として処理することで、坪量80g/mの伸張紙を得た。得られた伸張紙について水に10分間浸漬後、破断伸びと裂断長(JIS P 8113に規定された方法で測定)を測定したところ、湿潤時の引張破断伸びは縦方向20%、横方向10%で、裂断長は縦方向0.26km、横方向0.20kmであった。
【0030】
〔比較例1〕
前記収縮付与装置での周速度の差を35%で処理した以外は実施例1と同様にして得られた伸張紙を比較例1とした。得られた伸張紙の湿潤時の引張破断伸びは縦方向28%、横方向12%で、裂断長は縦方向0.19km、横方向0.17kmであった。
【0031】
〔比較例2〕
前記収縮付与装置での周速度の差を18%で処理した以外は実施例1と同様にして得られた伸張紙を比較例2とした。得られた伸張紙の湿潤時の引張破断伸びは縦方向17%、横方向7%で、裂断長は縦方向0.31km、横方向0.24kmであった。
【0032】
〔比較例3〕
広葉樹クラフトパルプと針葉樹クラフトパルプを7:3の割合に配合したものを使用した。このパルプに湿潤紙力増強剤(ポリアミド・エピクロルヒドリン樹脂、対パルプ0.4重量%)を配合し長網抄紙機で80g/mの原紙を得た。得られた原紙の湿潤時の破断伸びは縦方向4%、横方向6%で、裂断長は縦方向1.0km、横方向0.7kmであった。
【0033】
〔含浸紙の作成、含浸加工適性の評価〕
前記実施例1及び比較例1〜3で得られた伸張紙に、水分散型スチレンアクリル樹脂共重合体(商品名:EK61、サイデン化学(株)製)90重量部と水分散型ワックスエマルジョン(商品名:EW1000、双葉化学(株)製)10重量部の固形分重量比で混合し樹脂液としたものをタブタイプのテーブル含浸機にて含浸量20重量%になるように含浸を行い加工用含浸紙を作製した。そして、含浸時の加工適性(湿紙での破れ等の発生など)を評価した。評価は、湿紙での破れ等が発生せず、含浸時の加工適性が良好であったものを「○」とし、湿紙での破れ等が発生し、含浸時の加工適性が悪かったものを「×」とした。
【0034】
〔成型性評価〕
得られた実施例1、比較例1〜3の含浸紙を直径180mm、深さ20mmの丸皿に成型し、成型性(ひびや破れ等の発生の有無)を評価した。評価は、成型された丸皿にひびや破れ等が発生せず、成型性が良好であったものを「○」とし、成型された丸皿にひびや破れ等が発生し、成型性が悪かったものを「×」とした。
【表1】

【0035】
表1に示したように、湿潤時の引張破断伸びが高い実施例1及び比較例1では、樹脂含浸後も高い三次元加工適性をもっており、これまでの含浸紙では不可能であった立体的な加工が可能である。しかしながら比較例1では高い破断伸びを与えた結果、裂断長が小さくなったため樹脂含浸を行っている間に破れが発生するなど取り扱いが難しくなった。また、比較例2,3については、引張破断伸びが小さかったため、成型性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS P 8122で規定されたステキヒトサイズ度が10秒以下で、湿潤時の引張破断伸びが縦方向で18%以上、横方向で8%以上であり、湿潤時の裂断長が縦方向で0.20km以上であることを特徴とする含浸用加工原紙。
【請求項2】
湿潤紙力剤を固形分で0.01重量%以上1.0重量%以下配合した紙料から製造されることを特徴とする請求項1に記載の含浸用加工原紙。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の含浸用加工原紙に、含浸用加工原紙に対して樹脂を含浸量で50重量%未満含浸させたことを特徴とする加工用含浸紙。

【公開番号】特開2007−2347(P2007−2347A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181453(P2005−181453)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】