説明

吸光度法を用いた溶液成分の測定方法、およびその測定方法を用いた測定装置

【課題】より簡易な方法で、精度良く溶液の炭酸系の測定項目(全炭酸濃度、全アルカリ度、水素イオン濃度指数、二酸化炭素分圧の少なくとも1つ以上)の値を測定することのできる、測定方法および、その測定方法を用いた測定装置を提供する。
【解決手段】試料溶液に少なくとも1種のpH指示薬を含ませた被検水に酸を滴下し、予め定められた波長における当該被検水の吸光度を測定する第1の工程と、当該試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、上記吸光度を用い上記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第2の工程と、当該パラメーターの値の最適解を予め定められた数式に代入することにより、上記測定項目の値を算出する第3の工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液成分、特に海水の炭酸系の測定項目の値を測定することのできる測定方法、およびその測定方法を用いた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ度とは、強電解質の陽イオンの当量数から強電解質の陰イオンの当量数を差し引いたものであり、陸水も含め詳細な定義は複数存在し、それぞれの水域調査に適したものが利用される。海水の場合、強電解質の陽イオンと陰イオンとがそれぞれ約600mmol/kg存在しており、ほぼ均衡がとれているが、約2mmol/kgだけ陽イオンが多い。この差分がアルカリ度であり、重炭酸イオン、炭酸イオン、ホウ酸イオンなどの弱酸イオンで占められ、アルカリ度によって海洋の二酸化炭素貯蔵能が決まる。
【0003】
従来、溶液の全アルカリ度ATを測定する手法の1つとして、アルカリ度滴定法が用いられている。具体的には、全アルカリ度ATとは、酸を消費する成分が溶液中にどれだけ含まれているかを示すものである。例えば、ある溶液の全アルカリ度ATをアルカリ度滴定法によって測定する場合、溶液が所定の水素イオン濃度になるように酸を当該溶液に滴下する。そして、溶液の全アルカリ度ATは、滴定に要した酸の当量数として測定される。
【0004】
なお、上述したように、溶液の全アルカリ度ATは、酸を消費する成分が溶液中にどれだけ含まれているかを示すものであるため、例えば溶液の水素イオン濃度が同じであっても溶存塩の量と種類とによって溶液の全アルカリ度ATは異なることになる。具体的には、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)のような中性の化合物が溶解した溶液(例えば食塩水)であれば、全アルカリ度ATはゼロである。一方、例えば、海水のように、塩化ナトリウム(NaCl)だけではなく、炭酸(H2CO3)やリン酸(H3PO4)などの塩が溶解した溶液であれば、全アルカリ度ATは、その分だけ存在する。また、炭酸アルカリ度ACはAC=[HCO3-]+2[CO32-]と定義され、全アルカリ度ATと海水の塩分濃度から炭酸アルカリ度ACを計算することができる。
【0005】
例えば、溶液の全アルカリ度ATを測定する方法として、非特許文献1に開示されている方法がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】DOE(1994)Handbook of methods for the analysis of the various parameter of the carbon dioxide system in sea water. Version 2, A.G.Dickson & C.Goyet, eds.ORNL/CDIAC-74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1に開示されている方法は、例えば、海水に代表されるように、炭酸イオン(CO32-)や炭酸水素イオン(HCO3-)を含み、全アルカリ度ATを有する溶液(以下、単に溶液と称すことがある)に酸を滴下することによって行われる方法である。具体的には、溶液に酸を滴下しながらpH電極で当該溶液のpHを測定する。そして、当該pH電極により測定されたpHから溶液の全アルカリ度AT等が算出される。
【0008】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されている方法は、pH電極を用いるため、維持管理が煩わしいといった問題点があった。例えば、pH電極を使用するためには、まずpH標準溶液に浸すなどしてpH電極のコンディショニングを行わなければならない。また、pH電極のドリフトや感度の低下が、溶液の全アルカリ度ATに影響を与えることがある。そのため、より簡易な方法で、精度良く溶液(例えば海水)の炭酸系の測定項目(例えば、全炭酸濃度、全アルカリ度、水素イオン濃度指数、二酸化炭素分圧等)の値を測定することのできる方法および装置が望まれていた。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より簡易な方法で、精度良く溶液の炭酸系の測定項目(全炭酸濃度、全アルカリ度、水素イオン濃度指数、二酸化炭素分圧の少なくとも1つ以上)の値を測定することのできる、測定方法および、その測定方法を用いた測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の構成を採用した。すなわち第1の発明は、吸光度法を用いた溶液成分の測定方法である。上記吸光度法を用いた溶液成分の測定方法は、試料溶液に少なくとも1種の比色指示薬を含ませた被検水に酸を滴下し、予め定められた波長における当該被検水の吸光度を測定する第1の工程と、当該試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、上記吸光度を用い上記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第2の工程と、当該パラメーターの値の最適解を予め定められた数式に代入することにより、上記測定項目の値を算出する第3の工程とを備える。
【0011】
第2の発明は、上記第1の発明において、オープンセル方式(開放型滴定)により炭酸系の測定項目の値の測定する。
【0012】
第3の発明は、上記第1の発明において、クローズドセル方式(密閉型滴定)により炭酸系の測定項目の値の測定する。
【0013】
第4の発明は、上記第1の発明において、上記第1の工程は、上記被検水の吸光度をそれぞれ異なる少なくとも3波長において測定し上記試料溶液に加えたpH指示薬固有の吸収スペクトルの波形に近似し、当該波形に基づいて上記予め定められた波長における当該被検水の吸光度の値を測定する。
【0014】
第5の発明は、上記第1の発明において、上記試料溶液に加えたpH指示薬それぞれの解離定数のうち少なくとも1つの解離定数をパラメーターとして設定する。
【0015】
第6の発明は、上記第1の発明において、それぞれ異なる波長における上記試料溶液のモル吸光係数の比の値を、上記試料溶液に加えたpH指示薬の種類の数の3倍以下の種類数で上記パラメーターを設定する。
【0016】
第7の発明は、上記第1の発明において、上記被検水に滴下した上記酸の濃度を上記パラメーターとして設定する。
【0017】
第8の発明は、上記第1の発明において、上記試料溶液の重量または体積を上記パラメーターとして設定する。
【0018】
第9の発明は、上記第1の発明において、上記試料溶液の温度をパラメーターとして設定する。
【0019】
第10の発明は、上記第1の発明において、上記試料溶液の塩分濃度を上記パラメーターとして設定する。
【0020】
第11の発明は、上記第1の発明において、上記試料溶液の重量と上記被検水に滴下した上記酸の重量との比、または上記試料溶液の体積と上記被検水に滴下した上記酸の体積との比を上記パラメーターとして設定する。
【0021】
第12の発明は、吸光度法を用いた溶液成分の測定装置である。つまり、第1の発明に係る吸光度法を用いた溶液成分の測定方法を用いた測定装置である。当該装置は、試料溶液に少なくとも1種のpH指示薬を含ませた被検水を入れた第1の容器と、当該被検水に滴下する酸を入れた第2の容器と、当該第1の容器に入れられた被検水に上記第2の容器に入れられた酸を滴下する滴下手段と、当該滴下手段によって上記酸が滴下される毎に上記被検水の吸光度を測定する測定手段と、上記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、上記吸光度を用い上記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第1の算出手段と、上記パラメーターの値の最適解を予め定めたれた数式に代入することにより、炭酸系の測定項目の値を算出する演算手段の第2の算出手段とを備える。
【0022】
第13の発明は、吸光度法を用いた溶液成分の測定装置である。つまり、第1の発明に係る吸光度法を用いた溶液成分の測定方法を用いた測定装置である。当該装置は、少なくとも1種のpH指示薬を含ませた酸を入れた容器と、試料溶液を予め定められた流量で送液する第1の送液手段と、上記pH指示薬を含ませた酸を予め定めされた流量で送液する第2の送液手段と、上記試料溶液と前記容器に入れられたpH指示薬を含ませた酸とを混合する混合手段と、上記混合手段によって混合された混合溶液の吸光度を連続流れ分析法により測定する測定手段と、上記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、上記吸光度を用い上記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第1の算出手段と、上記パラメーターの値の最適解を予め定めたれた数式に代入することにより、炭酸系の測定項目の値を算出する演算手段の第2の算出手段とを備える。
【0023】
第14の発明は、上記第13の発明において、上記第1の算出手段は、上記試料溶液の流量と上記pH指示薬を含ませた酸の流量との比をパラメーターとして設定する。
【0024】
第15の発明は、吸光度法を用いた溶液成分の測定装置である。つまり、第1の発明に係る吸光度法を用いた溶液成分の測定方法を用いた測定装置である。当該装置は、酸を入れた第1の容器と、pH指示薬を入れた第2の容器と、上記試料溶液を予め定めされた流量で送液する第1の送液手段と、上記第1の容器に入れられた酸を予め定めされた流量で送液する第2の送液手段と、上記第2の容器に入れられた少なくとも1種のpH指示薬を予め定めされた流量で送液する第3の送液手段と、上記試料溶液と上記酸と上記pH指示薬とを混合する混合手段と、上記混合手段によって混合された混合溶液の吸光度を連続流れ分析法により測定する測定手段と、上記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、上記吸光度を用い上記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第1の算出手段と、上記パラメーターの値の最適解を予め定めたれた数式に代入することにより、炭酸系の測定項目の値を算出する演算手段の第2の算出手段とを備える。
【0025】
第16の発明は、試料溶液の吸光度の測定方法である。当該測定方法は、試料溶液が入れられた容器に少なくとも2つ以上の発光体をそれぞれ異なる波長の光を異なるタイミングで上記容器に照射する照射工程と、上記光源から照射された光のうち上記容器を透過した光を受光する受光工程と、上記受光工程で受光した光の強さに基づいて吸光度を算出する算出工程とを備える。
【発明の効果】
【0026】
本実施形態に測定方法およびその装置によれば、pH電極の維持管理の煩わしさを解消することができ、炭酸系の測定項目の測定値の主要な誤差要因であったpH電極のドリフトや感度の低下も起こることがなく、より簡易な方法で、精度良く溶液の炭酸系の測定項目(全炭酸濃度、全アルカリ度、水素イオン濃度指数、二酸化炭素分圧の少なくとも1つ以上)の値を測定することのできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る測定方法を用いた装置の概略図
【図2】オープンセル方式による測定の流れを示したフローチャート
【図3】ブロモフェノールブルーを含有させた試料溶液11に酸溶液10を滴下した場合の吸光度の変化を示す図
【図4】オープンセル方式による測定の測定結果(時系列)の一例を示す図
【図5】オープンセル方式による、酸の滴定量、各滴定ポイントでの試料溶液11のRの値およびpHの関係を示す図
【図6】標準偏差と全アルカリ度ATの平均値を示した図
【図7】pK(BPB)を変化させたときの酸の滴定量と全アルカリ度ATの関係を示す図
【図8】クローズドセル方式による測定の流れを示したフローチャート
【図9】クローズドセル方式による測定の測定結果(時系列)の一例を示す図
【図10】クローズドセル方式による、酸の滴定量、各滴定ポイントでの試料溶液11のRの値およびpHの関係を示す図
【図11】全アルカリ度ATおよび全炭酸濃度CT算出用プロットの例を示す図
【図12】K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターをそれぞれ設定して、可変させた時のr2の値を示す図(ψ=0.11のとき)
【図13】K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターをそれぞれ設定して、可変させた時のr2の値を示す図(ψ=0.13のとき)
【図14】K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターをそれぞれ設定して、可変させた時のr2の値を示す図(ψ=0.15のとき)
【図15】第3の実施形態に係る装置の構成の一例を示す図
【図16】第1の変形例に係る吸光度測定手段を含む装置構成の一例を示す図
【図17】図16の破線aで囲んだ部分を拡大し、光ファイバーセル37の内部を示す図
【図18】第2の変形例に係る吸光度測定手段を含む装置構成の一例を示す図
【図19】第4の実施形態に係る装置の構成の一例を示す図
【図20】第5の実施形態に係る装置の構成の一例を示す図
【図21】光源25の内部構造の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、比色分析法により溶液の水素イオン濃度を測定し、得られた結果に基づいて、炭酸系の測定項目(全炭酸濃度、全アルカリ度、水素イオン濃度指数、二酸化炭素分圧の少なくとも1つ以上)の値を測定するものである。つまり、本発明は、溶液に光を照射し、当該溶液の光の吸収の強さを測定する、すなわち吸光度法を用いた溶液成分の測定方法である。
【0029】
まず、本発明に係る吸光度法を用いた溶液成分の測定方法(以下、単に測定方法と称すことがある)の概要について説明する。なお、本発明に係る測定方法は、例えば、図1に示すような装置構成により実現される。
【0030】
図1は、本発明に係る測定方法を用いた測定装置(以下、単に装置と称すことがある)の概略図である。図1に示すように、装置は、一例として、まず、処理手段13は、滴下手段に指示し(図1の矢印19)、酸溶液10を酸塩基指示薬を含有させた試料溶液11を滴下する(図1の矢印15、16)。一方、吸光度測定手段12は、当該吸光度測定手段12に備わった光源から光を出射し(図1の矢印17)、試料溶液11の吸光度を測定する。そして、吸光度測定手段12から出力された信号(図1の矢印18)に基づいて処理手段13は、試料溶液11の水素イオン濃度を測定する。すなわち、吸光度測定手段12および処理手段13は、試料溶液11について指示薬滴定、つまり比色分析法により当該試料溶液11の水素イオン濃度を算出するものである。なお、以下の説明において、酸塩基指示薬を単に指示薬と称すことがある。
【0031】
その後、吸光度測定手段12から出力された信号(図1の矢印18)に基づいて処理手段13は、試料溶液11における炭酸系の測定項目(全炭酸濃度、全アルカリ度、水素イオン濃度指数、二酸化炭素分圧の少なくとも1つ以上)の値を測定するものである。
【0032】
まず、本発明に係る測定方法において用いられる比色分析法について、図1に示した装置構成の概略図を参照しつつ、説明する。
【0033】
例えば、試料溶液11中に1種の酸塩基指示薬(仮に指示薬Aと称す)が含有されていた場合、当該酸塩基指示薬Aは、試料溶液11中で以下の式(1)で示される解離平衡が成り立つ。
【0034】
なお、酸塩基指示薬としては、例えば、ブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、メタクレゾールパープル、メチルレッド、フェノールレッド、チモールブルー等を挙げることができる。
【0035】
【数1】

【0036】
また、このときの指示薬Aの解離定数をK(A)とすると当該K(A)は以下の式(2)で表すことができる。また、以下の式(2)より試料溶液11のpH(水素イオン濃度指数)は以下の式(3)で表すことができる。なお、[HA]は指示薬Aにおける非解離形(酸フォーム)の濃度であり、[A-]は、指示薬Aにおける解離形(アルカリフォーム)の濃度であり、[H+]は水素イオン濃度である。
【0037】
K(A)=([H+]・[A-])/[HA] …(2)
pH=pK(A)+log([A-]/[HA]) …(3)
【0038】
ただし、pH=-log([H+])、pK(A)=-log(K(A))とする。
【0039】
ここで、ある波長λ1および波長λ2における非解離形(HA)および解離形(A-)のモル吸光係数をそれぞれ1εHA1εA-2εHA2εA-とする。そして、光路長(具体的には、試料溶液11を含む容器の長さ)をLとすれば、ある波長λ1および波長λ2における試料溶液11の吸光度Abs1およびAbs2は、それぞれ以下の式(4)および式(5)で表すことができる。
【0040】
Abs11εA-・L・[A-]+1εHA・L・[HA] …(4)
Abs22εA-・L・[A-]+2εHA・L・[HA] …(5)
【0041】
ここで、上記式(4)および上記式(5)において、ある波長λ1および波長λ2における吸光度Abs1およびAbs2の比をR=Abs1/Abs2とし、モル吸光係数の比をそれぞれ、e1(A)=1εHA/2εHA、e2(A)=1εA-/2εHA、e3(A)=2εA-/2εHAとすると、上記式(4)および式(5)は以下の式(6)で示すことができる。つまり、[HA]と[A-]との比は、2波長(ここではある波長λ1および波長λ2)の吸光度およびモル吸光係数から算出することができる。
【0042】
([A-]/[HA])=(R-e1(A))/(e2(A)-R・e3(A)) …(6)
【0043】
よって、上記式(3)と上記式(6)より以下の式(7)を導くことができる。
【0044】
pH=pK(A)+log[(R-e1(A))/(e2(A)-R・e3(A))] …(7)
【0045】
また、上述したように、Rの値は、吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求める。詳細は後述するが、試料溶液11の水素イオン濃度、つまり[H+]は、e1(A)、e2(A)、e3(A)、K(A)をそれぞれパラメーターとする以下の式(8)で示すことができる。
【0046】
[H+]=F[R、K(A)、e1(A)、e2(A)、e3(A)] …(8)
【0047】
なお、λεA-、λεHAはそれぞれ、pK(A)に対して、十分高いアルカリ性、もしくは十分低い酸性にすれば実験的に求めることができる。
【0048】
λεA-=λAbs1(A-)/[A-]・L …(9)
λεHA=λAbs1(HA)/[HA]・L …(10)
【0049】
次に、例えば、試料溶液11中に2種の酸塩基指示薬(例えば指示薬Aと指示薬Bとする)が含有されていた場合は、以下の式(11)および式(12)で示される解離平衡が成り立つ。
【0050】
【数2】

【0051】
【数3】

【0052】
また、上述したように、試料溶液11中に1種の酸塩基指示薬、つまり指示薬Aが含有されていた場合と同様の考え方で、指示薬Aの解離定数をK(A)とすると当該解離定数K(A)は以下の式(13)で、指示薬Bの解離定数をK(B)とすると当該解離定数K(B)は以下の式(14)で表すことができる。そして、以下の式(13)および式(14)より試料溶液11のpH(水素イオン濃度指数)は以下の式(15)および式(16)で表すことができる。
【0053】
なお、[HA]および[HB]はそれぞれの指示薬Aおよび指示薬Bの非解離形(酸フォーム)の濃度であり、[A-]および[B-]は、それぞれの指示薬Aおよび指示薬Bの解離形(アルカリフォーム)の濃度であり、[H+]は水素イオン濃度である。
【0054】
K(A)=([H+]・[A-])/[HA] …(13)
K(B)=([H+]・[B-])/[HB] …(14)
pH=pK(A)+log([A-]/[HA]) …(15)
pH=pK(B)+log([A-]/[HB]) …(16)
【0055】
ここで、ある波長λ1および波長λ2における非解離形(HA)および解離形(A-)のモル吸光係数をそれぞれ1εHA1εA-2εHA2εA-とする。同様に、ある波長λ1および波長λ2における非解離形(HB)および解離形(B-)のモル吸光係数をそれぞれ1εHB1εB-2εHB2εB-とする。そして、光路長(具体的には、試料溶液11を含む容器の長さ)をLとすれば、ある波長λ1および波長λ2における試料溶液11の吸光度Abs1およびAbs2は、それぞれ以下の式(17)および式(18)で表すことができる。
【0056】
Abs11εA-・L・[A-]+1εHA・L・[HA]+1εB-・L・[B-]+1εHB・L・[HB] …(17)
Abs22εA-・L・[A-]+2εHA・L・[HA]+2εB-・L・[B-]+2εHB・L・[HB] …(18)
【0057】
ここで、上記式(17)および上記式(18)において、ある波長λ1および波長λ2における吸光度Abs1およびAbs2の比をR=Abs1/Abs2とし、モル吸光係数の比をそれぞれ、e1(A)=1εHA/2εHA、e2(A)=1εA-/2εHA、e3(A)=2εA-/2εHA、e1(B)=1εHB/2εHB、e2(B)=1εB-/2εHB、e3(B)=2εB-/2εHBとすると、上記式(17)および上記式(18)は以下の式(19)で示すことができる。
【0058】
β(A)=[e3(A)・(R-e2(A))]+α(A)(R-e1(A))
=-ψ[β(B)・[e3(B)・(R-e2(B))]+[α(B)(R-e1(B))]] …(19)
【0059】
なお、上記式(19)において、α(A)、α(B)、β(A)、β(B)はそれぞれ以下の式(20)〜式(23)で示される。
【0060】
【数4】

【0061】
【数5】

【0062】
【数6】

【0063】
【数7】

【0064】
また、ψは指示薬Aおよび指示薬Bがそれぞれ非解離形であるときの、ある波長λ2における非解離形の吸光度の比である。つまり、ψは以下の式(24)で示すことができる。
【0065】
ψ=ABS2(HA)/ABS2(HB)={[([HA]+[A-])・2εHA]/[([HB]+[B-])・2εHB]} …(24)
【0066】
ここで[H+]についてa、b、cで解の式を用い[H+]を計算することができる。なお、a、b、cは以下の式(25)〜式(28)で示すことができる。
【0067】
a・[H+]2+b[H+]+c=0 …(25)
a=(R-e1(A))+ψ・(R-e1(B)) …(26)
b=K(A)・e3(A)・[(R-e2(A))/e3(A)]+K(B)・(R-e1(A))+ψ・K(B)・e3(B)[(R-e2(B))/e3(B)]
+ψ・K(A)(R-e1(A)) …(27)
c=K(A)・K(B)・e3(A)[(R-e2(A))/e3(A)]+ψ・K(A)・K(B)・e3(B)[(R-e2(B))/e3(B)] …(28)
【0068】
また、上述したように、Rの値は、吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求める。詳細は後述するが、試料溶液11の水素イオン濃度、つまり[H+]は、例えば、Rの値を測定値とし、ψ、K(A)、K(B)、e1(A)、e2(A)、e3(A)、e1(B)、e2(B)、e3(B)をそれぞれパラメーターとする以下の式(29)で示すことができる。
【0069】
[H+]=G[R、ψ、K(A)、K(B)、e1(A)、e2(A)、e3(A)、e1(B)、e2(B)、e3(B)] …(29)
【0070】
次に、試料溶液11における炭酸系の測定項目、具体的には、溶液の全炭酸濃度CT、全アルカリ度ATの測定方法について説明する。例えば、図1に示した装置の概略図において、吸光度測定手段12から処理手段13に出力された信号、つまり吸光度を示す信号(図1の矢印18)に基づいて当該処理手段13は、試料溶液11の全炭酸濃度CT、全アルカリ度ATを算出する。
【0071】
なお、図1に示す、試料溶液11は、アルカリ度を有する溶液であれば特に限定されるものではないが、一例として、試料溶液11は海水と仮に想定して、以下説明する。
【0072】
まず、ここで、一般的に存在する海水について説明する。
【0073】
一般的に存在する海水は、全アルカリ度の95%以上が炭酸塩、炭酸水素塩などの炭酸由来の塩によっている。
【0074】
なお、海水の全アルカリ度AT、全炭酸濃度CT、および炭酸系の平衡については、DOE(1994)Handbook of methods for the analysis of the various parameter of the carbon dioxide system in sea water. Version 2, A.G.Dickson & C.Goyet, eds.ORNL/CDIAC-74より、以下に示すことができる。
【0075】
二酸化炭素が水に溶けると、炭酸水素イオンHCO3-(aq)、炭酸イオンCO32-(aq)が生成し、以下の式(30)〜式(33)に示すような平衡反応が成立する。
【0076】
【数8】

【0077】
【数9】

【0078】
【数10】

【0079】
【数11】

【0080】
なお、上記式(30)〜(33)において、H2CO3(aq)とCO2(aq)とを区別して議論するのは難しいので、H2CO3(aq)とCO2(aq)との合計をCO2*(aq)として表現すると、以下の式(34)〜(35)になる。
【0081】
【数12】

【0082】
【数13】

【0083】
なお、上記式(34)および(35)の平衡は、平衡定数を使うことにより以下の式(36)〜(38)で示すことができる。
【0084】
【数14】

【0085】
K1=[H+][HCO-]/[CO2*] …(37)
K2= [H+][CO2-]/[HCO-] …(38)
【0086】
ここで、
【0087】
【数15】

【0088】
は、二酸化炭素のフガシティであり、二酸化炭素分圧との関係は、以下の式(39)で示すことができる。
【0089】
【数16】

【0090】
上記式(39)で示すように、二酸化炭素分圧(x(CO2)・p)を測定すれば、気体の全圧と水(例えば海水)の塩分濃度とから二酸化炭素のフガシティが計算できる。
【0091】
なお、上述したように、pH=-log([H+])であるが、pHについては複数の定義がある。例えば、淡水等でよく使用されている、NBS(National Bureau Standard)スケールにおいては、以下の式(40)で示すことができる。
【0092】
【数17】

【0093】
なお、上記式(40)において、a[H+]は、水素イオン活量である。
【0094】
また、海水においては、以下のように示すことができる。
【0095】
pHF=[H+]F
pHF:フリースケール
[H+]F:遊離水素イオン濃度
[H+]T=[H+]F+[HSO4-]
pHT=-log[H+]T
pHT:トータルスケール
[H+]sws=[H+]F+[HSO4-]+[HF]
pHsws=-log[H+]sws
pHsws:SWSスケール
【0096】
次に、海水の全炭酸濃度CTは、以下の式(41)で定義される。
【0097】
CT=[CO2*]+[HCO3-]+[CO32-] …(41)
【0098】
また、海水の全アルカリ度ATは、以下の式(42)に示すように、プロトン供与体とプロトン受容体との差で定義される。なお、以下の式(42)で省略されているものについては無視できるほど小さい存在である。
【0099】
AT= [HCO3-]+2[CO32-]+[B(OH)4-]+[OH-]+[HPO42-]+2[PO43-]+[SiO(OH)3-]
+[NH3]+[HS-]+・・・-[H+]F-[HSO4-]-[HF]-[H3PO4]- …(42)
【0100】
さらに、に炭酸アルカリ度ACは以下の式(43)で示すことができる。
【0101】
AC=[HCO3-]+2[CO32-] …(43)
【0102】
ここで、上記全アルカリ度ATと上記炭酸アルカリ度ACとの関係は、以下の式(44)で示すことができる。なお、以下の式(44)で省略されているものについては無視できるほど小さい存在である。
【0103】
Ac=AT-([B(OH)4-]+[OH-]+[HPO42-]+2[PO43-]+[SiO(OH)3-]
+[NH3]+[HS-]+・・・-[H+]F-[HSO4-]-[HF]-[H3PO4]-) …(44)
【0104】
なお、通常、外洋の表層海水では、塩分と温度とpHとから、ホウ酸、リン酸、フッ酸、硫酸等を計算し、全アルカリ度ATから炭酸アルカリ度ACを計算する。
【0105】
また、上記式(42)で示される全アルカリ度ATは、当量点に相当するプロトン状態を定義するために、以下の式(45)に展開される。なお、以下の式(45)において、上記式(42)で省略されているものについては考慮していない。
【0106】
[H+]F+[HSO4-]+[HF]+[H3PO4]=[HCO3-]+2[CO32-]+[B(OH)4-]+[OH-]
+[HPO42-]+2[PO43-]+[SiO(OH)3-]
+[NH3]+[HS-] …(45)
【0107】
ここで、淡水や海水では、二酸化炭素関連物質で測定可能な項目は、pH、二酸化炭素分圧、全炭酸、全アルカリ度である。このうち、2つ以上の項目を測定すれば、平衡式の式(36)、(37)、(38)から全ての項目が計算することができ、また、HCO3-(aq)とCO32-(aq)についても、計算することができる。
【0108】
以上が海水の全アルカリ度ATおよび全炭酸濃度CTについての説明である。
【0109】
次に、全アルカリ度ATの測定について、酸によるアルカリ度滴定について説明する。
【0110】
本発明に係る測定方法を用いた装置は、上述したように、滴下手段14が、酸溶液10を試料溶液11に滴下する。この場合、各滴定ポイントでの、試料溶液11(つまり海水)の滴定中の酸度CHは、以下の式(46)で示すことができる。
【0111】
CH=[H+]F+[HSO4-]+[HF]+[H3PO4]-[HCO3-]-2[CO32-]-[B(OH)4-]-[OH-]
-[HPO42-]-2[PO43-]-[SiO(OH)3-]-[NH3]-[HS-] …(46)
なお、全アルカリ度ATの当量点においては、酸度CH=0となり、滴定の開始時はCH=-ATとなる。
【0112】
なお、滴定に用いる酸、つまり、図1における滴下手段14が試料溶液11に滴下する酸溶液10は、予め定められた濃度(以下、滴定に用いる酸の濃度をCと称すことがある)の酸を用いているので、滴定中の酸度CHは、以下の式(47)で示すことができる。つまり、試料溶液11の酸度CHは、測定開始前の試料溶液11の重量m0と、酸のこれまでの滴定量mで示すことができる。
【0113】
CH=(mC-m0AT)/(m0+m)…(47)
【0114】
従って、上記式(46)と式(47)とで、以下の式(48)を導くことができる。
【0115】
(mC-m0AT)/(m0+m)= [H+]F+[HSO4-]+[HF]+[H3PO4]-[HCO3-]
-2[CO32-]-[B(OH)4-]-[OH-]-[HPO42-]-2[PO43-]
-[SiO(OH)3-]-[NH3]-[HS-] …(48)
【0116】
また、各パラメーターは、以下のように示される。
【0117】
BT=[B(OH)3]+[B(OH)4-]
ST=[HSO4-]+[SO42-]
FT=[HF]+[F-]
PT=[H3PO4]+[H2PO4-]+[HPO42-]+[PO43-]
SiT=[Si(OH)4]+[SiO(OH)3-]
NH3T=[NH4+]+[NH3]
H2ST=[H2S]+[HS-]
K1=[H+][HCO3-]/[CO2*]
K2=[H+][CO32-]/[HCO3-]
KB=[H+][B(OH)4-]/[B(OH)3]
KSi=[H+][SiO(OH)3-]/[Si(OH)4]
KNH3=[H+][NH3]/[NH4+]
KH2S=[H+][HS-]/[H2S]
KS=[H+]F[SO42-]/[HSO4-]
KF=[H+][F-]/[HF]
K1P=[H+][H2PO4-]/[H3PO4]
K2P=[H+][HPO42-]/[H2PO4-]
K3P=[H+][PO43-]/[HPO42-]
[H+]F=[H+]/Z
Z=1+ST/KS
【0118】
ここで、[H+]を決める方法として、pH電極ならば、あらかじめpH校正液によって電極を校正した後、測定電位から[H+]を求める方法や、比色法ならば、K(A)、e1(A)、e2(A)、e3(A)をあらかじめ求めておいて、決めてしまう方法もある。pH電極を使う場合ならば、維持管理が煩わしいといった問題点があり、比色法ならば、K(A)、e1(A)、e2(A)、e3(A)を高精度に決める必要がある。
【0119】
いま、上記式(8)において、例えば、K(A)、e1(A)、e2(A)、e3(A)にそれぞれ仮の値を設定する。一方、上記式(8)において、各滴定ポイントにおけるRの値は、吸光度測定、具体的には吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求めている。そして、K(A)、e1(A)、e2(A)、e3(A)それぞれの仮の値と各滴定ポイントにおけるRの値とを上述の式(8)に代入して求めた各滴定ポイントにおける試料溶液11の水素イオン濃度を仮の水素イオン濃度を[H']とする。
【0120】
同様に、上記式(29)において、例えば、ψ、K(A)、K(B)、e1(A)、e2(A)、e3(A)、e1(B)、e2(B)、e3(B)にそれぞれ仮の値を設定する。一方、上記式(29)において、各滴定ポイントにおけるRの値は、吸光度測定、具体的には吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求めている。そして、ψ、K(A)、K(B)、e1(A)、e2(A)、e3(A)、e1(B)、e2(B)、e3(B)それぞれの仮の値と各滴定ポイントにおけるRの値とを上述の式(29)に代入して求めた各滴定ポイントにおける試料溶液11の水素イオン濃度を仮の水素イオン濃度を[H']とする。
【0121】
なお、[H+]は[H']に置き換えられ、上記式(8)より以下の式(49)が算出される。また、式(28)についても同様。さらに、詳細は後述するが、[H+]は非線形最小二乗法等により、各式の最適解として求められる。
【0122】
f=[H+]/[H'] …(49)
【0123】
試料溶液11(つまり海水)の塩分Sと液温Tとにより、K1、K2、KB、KSi、KNH3、KH2S、KS、KF、K1P、K2P、K3Pの項が求められ、分子量と塩分Sとにより、BT、ST、FT、PT、SiT、NH3T、H2STが求まる。従って、上記式(48)は、以下の式(50)に変形することができる。このようにして、各滴定ポイントでの全アルカリ度ATと全炭酸濃度CTとの関係を示すことができる。
【0124】
AT-CT・[(K1f[H']+2K1K2)/((f[H'])2+K1f[H']+K1K2)]
-BT[1/(1+(f[H'])/KB)]
-PT[(K1PK2P(f[H'])+2K1PK2PK3P-(f[H']3)
/((f[H'])3+K1P(f[H'])2+K1PK2P(f[H'])+K1PK2PK3P)]
-SiT[1/(1+(f[H'])/KSi)]
-NH3T[1/(1+(f[H'])/KNH3)]
-H2ST[1/(1+(f[H'])/KH2S)]
+ST[1/(1+KSZ/(f[H']))]
+FT[1/(1+KF/(f[H']))]
+[(m0+m)/m0][f[H']/Z-KW/f[H']]-m/m0*C=0 …(50)
【0125】
なお、上記式(50)において、試料溶液11(つまり海水)の塩分Sと液温Tとにより、K1、K2、KB、KSi、KNH3、KH2S、KS、KF、K1P、K2P、K3Pの項が求められ、分子量と塩分Sとにより、BT、ST、FT、PT、SiT、NH3T、H2STが求まる。
【0126】
さらに、上記式(50)において、以下の式(51)および式(52)とおけば、上記式(50)は、以下の式(53)で示すことができる。
【0127】
X([H'])=[(K1f[H']+2K1K2)/((f[H'])2-K1f[H']+K1K2)] …(51)
【0128】
Y([H'])=BT[1/(1+(f[H'])/KB)]
+PT[(K1PK2P(f[H'])+2K1PK2PK3P+(f[H'])3)
/((f[H'])3+K1P(f[H'])2+K1PK2P(f[H'])+K1PK2PK3P)]
+SiT[1/(1+(f[H'])/KSi)]
+NH3T[1/(1+(f[H'])/KNH3)]
+H2ST[1/(1+(f[H'])/KH2S)]
-ST[1/(1+KSZ/(f[H']))]
-FT[1/(1+KF/(f[H']))]
-[(m0+m)/m0][f[H']/Z-KW/f[H']]+m/m0*C …(52)
【0129】
Y([H'])=-CT・X([H'])+AT …(53)
【0130】
次に、本発明に係る炭酸系の測定項目の値の測定方法の各実施形態について説明する。
【0131】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る測定方法として、オープンセル方式(開放型滴定)による炭酸系の測定項目の値の測定方法を説明する。なお、本実施形態の説明においても、図1に示した装置の概略図を参照しつつ、試料溶液11における炭酸系の測定項目の値の測定方法について、以下説明する。さらに、本実施形態においても、試料溶液11は、アルカリ度を有する溶液であれば特に限定されるものではないが、一例として、試料溶液11は海水と仮に想定して、以下説明する。
【0132】
図2は、オープンセル方式による測定の流れを示したフローチャートである。なお、一般的にオープンセル方式による測定は、比較的狭い範囲のpHにおいて炭酸系の測定項目の値を測定するため、通常、試料溶液11中に1種の酸塩基指示薬(仮に指示薬Aと称す)を含有させる場合が多いが、2種類を用いることも可能である。ここでは、1種の酸塩基指示薬を用いた場合を説明する。
【0133】
図2のステップS11に示すように、オープンセル方式による試料溶液11の炭酸系の測定項目の値の測定では、まず、測定の開始前に、つまり滴定の開始前に、試料溶液11に酸(例えば塩酸)を滴下する。そして、処理手段13は、次のステップS12に処理を進める。
【0134】
ステップS12において、処理手段13は、例えば、仮の[H']を用いて、試料溶液11のpHの値は、3.5〜4の範囲内であるか否かを判断する。そして、処理手段13は、当該ステップS12の判断を肯定した場合(YES)、次のステップS13に処理を進める。一方、処理手段13は、当該ステップS12の判断を否定した場合(NO)、ステップS11に処理を戻し、試料溶液11に酸を滴下する。
【0135】
ステップS13において、処理手段13は、脱気を行う。図1に示した装置構成の概略図で具体的に説明すると、処理手段13は、試料溶液11中の図示しないスターラをゆっくり回転させ、試料溶液11中の炭酸を気相に追い出す、つまり試料溶液11の全炭酸濃度CTが十分小さくなるようにする。これによって、上記式(53)において、全炭酸濃度CTはほぼ0となる。なお、二酸化炭素を含まないガスを試料溶液11に吹き込んで当該試料溶液11中の炭酸を気相に追い出してもよい。
【0136】
次に、ステップS14に進んで、処理手段13は滴定を開始、試料溶液11に酸を滴下しつつ、Rの値の測定を行う。具体的には、例えば、図1に示した滴下手段14は、処理手段13からの指示に従い予め定められた量および予め定められた間隔で酸溶液10を試料溶液11に滴下する。なお、同時に、Rの値は、吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求める。
【0137】
ここで、一例として、例えば、試料溶液11に指示薬Aとしてブロモフェノールブルー(以下、BPBと称すことがある)を含有させ、酸溶液10を試料溶液11に滴下した場合の吸光度の変化を図3に示す。図3に示すように、酸溶液10が試料溶液11に滴下されるごとに、ブロモフェノールブルーの水素イオンに依存した当該ブロモフェノールブルーの吸収スペクトルを得ることができる。
【0138】
なお、図3において、波長450nm付近に見られるピークはブロモフェノールブルーの非解離形(酸フォーム)由来であり、波長600nm付近に見られるピークはブロモフェノールブルーの解離形(アルカリフォーム)由来である。
【0139】
また、上述したように、R=Abs1/Abs2であるので、例えば、図3において、波長450nmにおける吸光度をAbs1とし、波長592nmにおける吸光度をAbs2とする。つまり、吸光度をAbs1および吸光度をAbs2は、吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、波長450nmおよび波長592nmにおける当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求める。そして、試料溶液11に酸溶液10が滴下されるごとに処理手段13は、吸光度Abs1および吸光度Abs2に基づいて、Rの値を算出し、例えば、処理手段13に一時的に記憶しておく。
【0140】
なお、処理手段13は、試料溶液11に酸溶液10が滴下されるごとに吸光度Abs1および吸光度Abs2に基づいてRの値を算出したが、別の方法でRの値を算出することができる。
【0141】
一般的に、指示薬の吸収スペクトルの波形は指示薬ごとに異なるが、同じ指示薬でも、pHは勿論のこと、共存する物質、塩分、温度によっても影響を受ける。ブロモフェノールブルーの吸収スペクトルは図3に示したような波形である。任意の3波長を仮に波長λ3、λ4、λ5とした場合、吸光度測定手段12は、試料溶液11に光を照射し波長λ3、波長λ4、波長λ5における当該試料溶液11の光吸収の強さを酸溶液10が試料溶液11に滴下されるごとに測定する。そして、処理手段13は、波長λ3における吸光度Abs3、波長λ4における吸光度Abs4、波長λ5における吸光度Abs5をそれぞれ求める。
【0142】
さらに、処理手段13は、波長λ3における吸光度Abs3、波長λ4における吸光度Abs4、波長λ5における吸光度Abs5に基づき、つまり得られた3点について、指示薬固有の吸収スペクトルの波形に近似する。より具体的には、処理手段13は、波長λ3における吸光度Abs3、波長λ4における吸光度Abs4、波長λ5における吸光度Abs5に基づき、本実施形態であればブロモフェノールブルーの吸収スペクトルの波形に近似する。なお、近似する方法として、ガウス法による近似法がある。このようにしても、処理手段13は、Rの値を算出することができる。これにより、吸光度測定手段12が、試料溶液11に光を照射し当該試料溶液11の光吸収の強さを測定するときの誤差を少なくすることができる。
【0143】
図2の説明に戻って、ステップS15において、処理手段13は、パラメーターの初期値を用いて、仮の[H']を求め、仮のpHを計算し、試料溶液11のpHは、3を下回ったか否かを判断する。そして、処理手段13は、当該ステップS15の判断を肯定した場合(YES)、次のステップS16に処理を進める。一方、処理手段13は、当該ステップS15の判断を否定した場合(NO)、ステップS14に処理を戻し、引き続き滴定を行う。
【0144】
ステップS16において、処理手段13は、追加の滴定を行う。つまり、処理手段13は、上記仮の[H']を用いて終了判定を行うが、当該仮の[H']は最適化した[H+]とは多少違うので、追加の滴定を行うことで、少し、余分に測定を行い、最適化したときにも十分に必要な測定を行う。
【0145】
ここで、一例として、図4にオープンセル方式による測定の測定結果(時系列)の一例を示す。なお、測定条件は以下の表1の通りである。
【0146】
【表1】

【0147】
なお、上記表1において、酸(塩酸)の濃度は、0.1Mである。また、上記表1において、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)は、それぞれモル吸光係数の比であり、e1(BPB)=592εHA/450εHA、e2(BPB)=592εA-/450εHA、e3(BPB)=450εA-/450εHAのようにそれぞれ表される。
【0148】
図4は、測定時間、酸の滴定量および吸光度の関係を示した図である。具体的には、図4は、横軸を時間、縦軸を酸(塩酸)の滴定量(図4上)および吸光度(図4下)で示してある。図4に示すように、まず、試料溶液11に酸(塩酸)を一定量添加して試料溶液11中の炭酸を気相に追い出す、つまり脱気を行う(図2のステップS13に示した脱気に相当)。
【0149】
その後(脱気終了後)、予め定められた間隔で試料溶液11に酸(塩酸)が滴下されることによって、波長450nmの吸光度が上昇し、波長592nmの吸光度が減少する(図2のステップS14に示した滴定に相当)。
【0150】
そして、一定量の酸(塩酸)を滴下した後、滴定を終了する。
【0151】
図2の説明に戻って、ステップS17において、処理手段13は、演算を行い、図2のフローチャートの処理を終了する。
【0152】
ここで上述したように、各滴定ポイントにおけるRの値は上記ステップS14で算出されている。そこで、処理手段13は、各滴定ポイントにおける試料溶液11のpHの演算を行う。具体的には、処理手段13は、各滴定ポイントで得られたRの値を用い、各滴定ポイントにおける試料溶液11の水素イオン濃度を式(8)に基づいて求める。なお、式(8)において、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)は、例えば、上記表1の実験条件より予め求められており、また、Rの値は各滴定ポイントで得られている。そして、K(BPB)について、仮の値のパラメーターを設定して、当該式(8)を用いて、各滴定ポイントにおける試料溶液11の仮の水素イオン濃度を[H']を算出する。
【0153】
また、上述したように、オープンセル方式による炭酸系の測定項目の値の測定では、まず、滴定の開始前に、試料溶液11に酸を滴下して試料溶液11中の炭酸を気相に追い出す。これによって、上記式(52)より、各滴定ポイントにおける全アルカリ度ATを求めることができる。つまり、上記式(51)において、K1、K2、KB、KSi、KNH3、KH2S、KS、KF、K1P、K2P、K3P、BT、ST、FT、PT、SiT、NH3T、H2STは予め求められる定数であり、また滴定に用いている酸(塩酸)の濃度C、測定開始前の試料溶液の重量m0および酸の滴定量mは既知である。従って、上記式(53)は、以下の式(54)で示すことができ、各滴定ポイントにおける試料溶液11の全アルカリ度ATを求めることができる。
Y([H'])=AT …(54)
【0154】
具体的には、例えば、処理手段13は、各滴定ポイントで得られたRの値を用い、各滴定ポイントにおける試料溶液11の水素イオン濃度を上記式(8)に基づいて求める。例えば、上記式(8)において、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)は、上記表1の実験条件より予め求められており、また、Rの値は各滴定ポイントで得られている。そして、上記式(8)において、例えば、K(BPB)について、仮の値のパラメーターを設定して、当該式(8)を用いて、各滴定ポイントにおける試料溶液11の仮の水素イオン濃度を[H']を求める。さらに、処理手段13は、仮の水素イオン濃度を[H']に基づいて、上記式(52)を用いて各滴定ポイントにおける試料溶液11の仮の全アルカリ度ATを求める。
【0155】
なお、図5に示したRの値は、波長850nmの吸光度の値をベースラインとして、つまりR=(Abs450(BPB)-Abs850(BPB))/(Abs592(BPB)-Abs850(BPB))で示してある。また、図5は、横軸に酸(塩酸)の滴定量、縦軸に各滴定ポイントのRの値(図5の「×」)およびpH(図5の「○」および「●」)を示してある。
【0156】
図5において、上記表1の実験条件より予め求められているe1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、K(BPB)の後述する最適解をそれぞれ用い、式(8)に基づいて求めた各滴定ポイントにおけるpHである。なお、図5において、「○」はpH>3.5またはpH<3の時のRの値で、全アルカリ度ATの算出に使わなかったポイントである。一方、「●」は3<pH<3.5の時のRの値で、全アルカリ度ATの算出に使ったポイントである。
【0157】
また、pH=3.0〜3.5における試料溶液11(海水)の全アルカリ度ATは一定になることが知られている。ここで、処理手段14は、上述した方法で、例えば、滴定ポイントのうち数点(例えば10点〜20点)の仮の全アルカリ度ATをそれぞれ求める。そして、処理手段14は、当該滴定ポイントの仮の全アルカリ度ATの標準偏差(Standard Deviation:以下、標準偏差をSDと称すことがある)、つまり当該滴定ポイントの全アルカリ度ATのばらつきが最も小さくなるように、例えば、非線形最小二乗法によりK(BPB)を求める。
【0158】
なお、パラメータの最適解を求める方法としての非線形最小二乗法のアルゴリズムとして、ニュートン法、ガウス・ニュートン法、パウエルの最小二乗法などがある。パラメータの最適解を求めるときに、表計算ソフトにその機能があるものもあり、たとえば、マイクロソフト社製の表計算ソフト「Excel」ではソルバー機能を使うことで、複数の変数を含む数式において、目標とする値を得るための、最適な変数の値を求めることができる。
【0159】
ソルバーでは、複数の変数の値を変化させながら変数の相互関係を判断し、最適な値を算出することができる。ある変数に特定の制約条件をつけたり、あるいは特定の変数が最大値・最小値を得るために他の変数の値を変化させたりすることもできる。ソルバーを用いれば、連立方程式の解や、上述したような比色法を用いた炭酸系の複雑な演算ができる。
【0160】
より具体的に、図6を用いて説明する。図6は、オープンセル方式の滴定結果から全アルカリ度ATの標準偏差を求め、当該標準偏差と全アルカリ度ATの平均値を示した図である。なお、図6において、K(BPB)は、対数表示(pK(BPB))で表してある。具体的には、pK(BPB)は-log(K(BPB))を表している。例えば、図6に示すように、pK(BPB)を変化させて、仮の全アルカリ度ATの標準偏差を求める。なお、図6の例では、pK(BPB)が3.5付近で標準偏差が最小になっていることが分かる。
【0161】
さらに、図7に示すように、pK(BPB)を変化させて、仮の全アルカリ度ATの標準偏差が最小になったときのpK(BPB)を用いれば、各滴定ポイントにおける試料溶液11の全アルカリ度ATは一定になる。言い換えると、全アルカリ度ATが一定になるpK(BPB)が最適解となり、このときの全アルカリ度ATが試料溶液11の真の全アルカリ度ATとなる。
【0162】
また、上述したように、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)は、上記表1の実験条件より予め求められており、また、Rの値は各滴定ポイントで得られているので、pK(BPB)の最適解が求まれば、上記式(8)より最適解の水素イオン濃度を求めることができる。そして、結果として、各滴定ポイントにおける試料溶液11の最適解の水素イオン濃度をも求めることができる。
【0163】
なお、ステップS17での処理を3回程度行うことにより、pK(BPB)の最適解は、ある値に収束し、例えば、図6の「●」は、最適解でpK(BPB)=3.545、AT=2391.2であると求めることができる。
【0164】
以下、ステップS17での演算結果を示す。具体的には、以下の表2に演算結果を示す。なお、表2において、pK(BPB)の初期値は、pK(BPB)についての仮の値である。
【0165】
【表2】

【0166】
なお、上記ステップS17で、全アルカリ度ATをpH3.0〜pH3.5の範囲において最も標準偏差が小さくなるようにして求めたのは、海水の場合、pH3.5を超えると試料溶液11(具体的には海水)に残留している炭酸(H2CO3)のH+の解離が存在し、またpH3.0を下回ると試料溶液11(具体的には海水)中のH+とSO42-が会合し、求める全アルカリ度ATに影響を与えるためである。
【0167】
また、以下、本実施形態に係る測定方法であるオープンセル方式により試料溶液11の全アルカリ度AT測定を行い、その再現性を検証した。結果を以下の表3に示す。
【0168】
【表3】

【0169】
表3に示すように、大変良好な結果であり、本発明に係る測定方法は、再現性に優れた測定方法であることがわかる。
【0170】
このように、本実施形態に係る測定方法によれば、pH電極を用いなくとも全アルカリ度ATを測定することができる。つまり、pH電極の維持管理の煩わしさを解消することができる。さらに、炭酸系の測定項目の測定値の主要な誤差要因であったpH電極のドリフトや感度の低下も起こることがない。従って、より簡易な方法で、精度良く試料溶液の全アルカリ度ATを測定することができる。
【0171】
また、一方で、本実施形態に係る測定方法によれば、K(BPB)が未知であっても、当該K(BPB)の最適解を求めることもできる。さらに、K(BPB)の最適解を求めることができれば、酸を添加する前の試料溶液11のpHを計算することも可能となる。これにより、炭酸系の計算により、全炭酸濃度、二酸化炭素分圧も計算することができる。
【0172】
一般的に、指示薬の解離定数は、当該指示薬が含有されている試料溶液の温度や塩分濃度によって大きく変化することが知られている。言い換えると、指示薬の解離定数は、当該指示薬が含有されている試料溶液の温度や塩分濃度が変化することによって、指示薬の解離定数も変化することになる。つまり、精度良く試料溶液の炭酸系の測定項目の測定値を得るためには、正確な指示薬の解離定数を予め求めておく必要がある。しかしながら、本発明に係る測定方法を用いれば、指示薬の解離定数を予め求めておく必要がなく、精度良く試料溶液の全アルカリ度ATを測定することができる。
【0173】
なお、上述した例では、K(BPB)について、仮の値のパラメーターを設定した。しかしながら、これに限られず、例えば、K(BPB)が既知であれば、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)について仮の値をパラメーターとして設定して、より具体的には、加えた指示薬の数の3倍以下のモル吸光係数の比(本実施形態では加えた指示薬は1つであるので、モル吸光係数を3つ、つまり、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB))をパラメーターとして設定して、上述した数値演算により最適解を求めることもできる。言い換えると、比色法の演算に関わるパラメーター、つまり試料溶液11の水素イオン濃度演算に関わるパラメーターの最適解を上述した数値演算により求めることもできる。
【0174】
上記の説明では、例えば、K(BPB)、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)をそれぞれ固定値とし、[H']を求め、上記式(54)において、採水温度、滴定温度、酸の温度、サンプルの重さ、酸の重さ(滴定量)、酸濃度、サンプルの塩分濃度のうち、1つ以上を未知の値とし、パラメータとして動かし、そのときの全アルカリ度ATの標準偏差が最小となるように最適値を求めることが出来る。
【0175】
上述したように、炭酸の平衡定数、他の物質の平衡定数(K1、K2、KB、KSi、KNH3、KH2S、KS、KF、K1P、K2P、K3P、、BT、ST、FT、PT、SiT、NH3T、H2ST)は塩分濃度や温度によって、それぞれ、関係式が求められており、決められるものである。例えば、サンプルの重さ(測定開始前の試料溶液の重量m0)を未知数として、パラメータとして動かすことが出来、その時の全アルカリ度ATの標準偏差が最小となるように最適値を求めることが出来る。このようにすれば、予めサンプルの重さを秤量もしくはメスアップする必要がないので、大変、手間が省け、測定の簡便化ができる。
【0176】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る測定方法として、クローズドセル方式(密閉型滴定)による炭酸系の測定項目の値の測定方法を説明する。なお、本実施形態の説明においても、図1に示した装置構成の概略図を参照しつつ、試料溶液11における炭酸系の測定項目の値の測定方法について、以下説明する。また、本実施形態においても、試料溶液11は、アルカリ度を有する溶液であれば特に限定されるものではないが、一例として、試料溶液11は海水と仮に想定して、以下説明する。
【0177】
なお、クローズドセル方式による測定では、上述したオープンセル方式による測定とは異なり、滴定により試料溶液11の全アルカリ度ATおよび全炭酸濃度CTをそれぞれ算出することができる。
【0178】
図8は、クローズドセル方式による測定の流れを示したフローチャートである。なお、一般的にクローズドセル方式による測定は、比較的広い範囲のpHにおいて炭酸系の測定項目の値を測定するため、試料溶液11中に2種の酸塩基指示薬(仮に指示薬Aおよび指示薬Bと称す)を含有させる場合もあるが、1種の指示薬を含有させる場合もある。
【0179】
なお、試料溶液11に含有させる2種の指示薬は、特に限定されるものではないが、一例として、指示薬Aとしてブロモフェノールブルー(以下、BPBと称すことがある)および指示薬Bとしてブロモチモールブルー(以下、BTBと称すことがある)を含有させる場合について説明する。なお、ブロモクレゾールとフェノールレッドなど、いくつかの指示薬を組み合わせも考え得る。
【0180】
図8のステップS21に示すように、処理手段13は滴定を開始、試料溶液11に酸を滴下しつつ、Rの値の測定を行う。具体的には、例えば、図1に示した滴下手段14は、処理手段13からの指示に従い予め定められた量および予め定められた間隔で酸溶液10を試料溶液11に滴下する。なお、同時に、Rの値は、吸光度測定手段12が試料溶液11に光を照射し、当該試料溶液11の光の吸収の強さを測定することにより、処理手段13が求める。
【0181】
なお、上述したように、R=Abs1/Abs2であるので、例えば、波長450nmにおける吸光度をAbs1とし、波長592nmにおける吸光度をAbs2とする(図3参照)。そして、試料溶液11に酸溶液10が滴下されるごとに処理手段14はRの値を測定し、酸溶液10が滴下されるごとに得られたRの値を、例えば、処理手段14に一時的に記憶しておく。
【0182】
図2のステップS22において、処理手段13は、パラメーターの初期値を用いて、仮の[H']を求め、仮のpHを計算し、試料溶液11のpHは、3を下回ったか否かを判断する。そして、処理手段13は、当該ステップS22の判断を肯定した場合(YES)、次のステップS23に処理を進める。一方、処理手段13は、当該ステップS22の判断を否定した場合(NO)、ステップS21に処理を戻し、引き続き滴定を行う。
【0183】
ステップS23において、処理手段13は、追加の滴定を行う。なお、当該ステップS23にて行われる処理は、図2のステップS17で説明したので省略する。
【0184】
ここで、一例として、図9にクローズドセル方式による測定による測定結果の一例を示す。なお、測定条件は以下の表4の通りである。
【0185】
【表4】

【0186】
なお、上記表4において、酸(塩酸)の濃度は、0.1Mである。また、上記表4において、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)は、それぞれモル吸光係数の比であり、e1(BPB)=592εHA/450εHA、e2(BPB)=592εA-/450εHA、e3(BPB)=450εA-/450εHA、e1(BTB)=592εHB/450εHB、e2(BTB)=592εB-/450εHB、e3(BTB)=450εB-/450εHBのようにそれぞれ表される。
【0187】
図9は、測定時間、酸の滴定量および吸光度の関係を示した図である。具体的には、図9は、横軸を測定時間、縦軸を酸(塩酸)の滴定量(図9上)および吸光度(図9下)で示してある。図9に示すように、予め定められた間隔で試料溶液11に酸(塩酸)が滴下されることによって、波長450nmの吸光度が上昇し、波長592nmの吸光度が減少する。
【0188】
図8の説明に戻って、ステップS24において、図1の処理手段13は、演算を行い、図8のフローチャートの処理を終了する。
【0189】
ここで上述したように、各滴定ポイントにおけるRの値は上記ステップS21で算出されている。そこで、処理手段13は、各滴定ポイントにおける試料溶液11のpHの演算を行う。具体的には、処理手段13は、各滴定ポイントで得られたRの値を用い、各滴定ポイントにおける試料溶液11の水素イオン濃度を式(29)に基づいて求める。なお、式(29)において、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)は、例えば、上記表4の実験条件より予め求められており、また、Rの値は各滴定ポイントで得られている。そして、K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターを設定して、当該式(29)を用いて、各滴定ポイントにおける試料溶液11の仮の水素イオン濃度を[H']を算出する。
【0190】
なお、指示薬が1種の場合は、上述の第1の実施形態での説明(オープンセル方式での説明)と同様にして、上記式(8)を用いればよい。
【0191】
具体的には、例えば、処理手段13は、各滴定ポイントで得られたRの値を用い、各滴定ポイントにおける試料溶液11のpHを上記式(29)に基づいて求める。例えば、上記式(29)において、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)は、上記表4の実験条件より予め求められており、また、Rの値は各滴定ポイントで得られている。そして、上記式(29)において、例えば、K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターをそれぞれ設定して、当該式(29)を用いて、各滴定ポイントにおける試料溶液11の仮の水素イオン濃度を[H']を求める。
【0192】
なお、図10に酸(塩酸)の滴定量、各滴定ポイントでの試料溶液11のRの値およびpHの関係を示した。
【0193】
図10において、「●」はpH>3における各滴定ポイントで得られたRの値、「○」はpH<3における最適化の計算に用いなかったRの値である。なお、「×」は式(28)に基づいて求めた各滴定ポイントにおけるpHであるが、上記表4の実験条件より予め求められているe1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)、後述するK(BPB)、K(BTB)、ψの最適解をそれぞれ用いている。
【0194】
そして、求めた仮の水素イオン濃度[H']を用いて、x軸に上記式(51)での算出値を、y軸に上記式(52)での算出値を各滴定ポイントごとにプロットすると、図11に示すようなグラフが得られる。なお、図11において、初期値とは、K(BPB)、K(BTB)、ψに仮の値を設定して、各滴定ポイントごとにx[H']とy[H']との関係をプロットしたものである。
【0195】
このプロットを用いて、直性性が最も高くなるように、例えば、非線形最小二乗法(ニートン法、ガウス・ニュートン法、パウエルの最小二乗法など)により仮の値のパラメーターの最適解をそれぞれ求める。具体的には、直線性を評価するには相関係数rを求めればよく、以下の式(55)において、r2が最大になる各パラメーターの最適解をそれぞれ求めればよい。
【0196】
【数18】

【0197】
なお、一例として、K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターをそれぞれ設定して、可変させた時のr2の値を図12〜図14に示す。なお、以下の説明において、pK(BPB)=-log(K(BPB))、pK(BTB)=-log(K(BTB))である。
【0198】
図12〜図14は、一例として、pK(BPB)、pK(BTB)、ψをパラメーターとして設定し、当該各パラメーターを変化させたときのr2の値を示したものである。なお、パラメータの最適解を求める方法としての非線形最小二乗法のアルゴリズムとして、ニュートン法、ガウス・ニュートン法、パウエルの最小二乗法などがあるが、マイクロソフト社製の表計算ソフト「Excel」ではソルバー機能により、最適解を求めると、最適解は、それぞれ、pK(BPB)=3.553、pK(BTB)=6.5504、φ=0.1303、r2=1.000であった。
【0199】
ここで、上記式(53)より、図11において、全炭酸濃度CTは、一定量の酸滴下量に対する変化量(つまり、直線近似式の傾き)から得られる。一方、全アルカリ度ATは、直線近似式の切片から得られる。
【0200】
以下、ステップS24での演算結果を表5に示す。なお、表5において、pK(BPB)、pK(BTB)、ψの初期値は、仮の値である。
【0201】
【表5】

【0202】
表5に示すように、pK(BPB)、pK(BTB)、ψの最適解が求まれば、試料溶液11の全アルカリ度ATおよび全炭酸濃度CTが求まる。そして、上述したように、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)は、上記表4の実験条件より予め求められており、また、Rの値は各滴定ポイントで得られているので、pK(BPB)、pK(BTB)、ψの最適解が求まれば、上記式(28)より最適解の水素イオン濃度を求めることができる。そして、結果として、各滴定ポイントにおける試料溶液11のpHをも求めることができるとともに、試料溶液11のpHを求めることもできる。
【0203】
また、以下、本実施形態に係る測定方法であるクローズドセル方式により試料溶液11の全アルカリ度ATおよび全炭酸濃度CTの測定を行い、その再現性を検証した。結果を以下の表6に示す。
【0204】
【表6】

【0205】
表6に示すように、大変良好な結果であり、本発明に係る測定方法は、再現性に優れた測定方法であることがわかる。このようにして、クローズド法により、全アルカリ度と全炭酸が求まるとともに、パラメーターの最適解よりサンプル(試料溶液11)のpHが求められ、炭酸系の平衡計算式である、式(36)〜(39)を用いれば、二酸化炭素分圧も計算できる。(例えば、「DOE(1994)Handbook of methods for the analysis of the various parameter of the carbon dioxide system in sea water. Version 2, A.G.Dickson & C.Goyet, eds.ORNL/CDIAC-74」参照)
【0206】
このように、本実施形態に係る測定方法によれば、上述した第1の実施形態に係る測定方法と同様の効果を得ることができる。
【0207】
また、一方で、本実施形態に係る測定方法によれば、K(BPB)、K(BTB)、ψが未知であっても、当該K(BPB)、K(BTB)、ψのそれぞれの最適解を求めることもできる。
【0208】
なお、上述した例では、K(BPB)、K(BTB)、ψについて、仮の値のパラメーターをそれぞれ設定した。しかしながら、これに限られず、例えば、K(BPB)、K(BTB)、ψ、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)それぞれのうち、何れか3つについて仮の値のパラメーターを設定して、最適解を求めることもできる。
【0209】
例えば、K(BPB)、K(BTB)、e1(BPB)、e2(BPB)、e3(BPB)、e1(BTB)、e2(BTB)、e3(BTB)を固定値として、サンプルの重さ、塩酸の重さ(滴定量)、酸濃度、塩分濃度、温度、をパラメータとすることも出来る。クローズド法の場合は、同様の測定を行い、K(BPB)をある固定値として、決めてしまい、例えば、サンプルの重さ(測定開始前の試料溶液の重量m0)を未知数として、パラメータとして式(53)を満たすように、同様に、非線形最小二乗法で、当該滴定ポイントの仮の全アルカリ度ATの標準偏差を最小にするように、上記サンプルの重さを求めればよい。以下、その他のパラメータについても、未知にするパラメータ以外のものを、固定にして、式(54)を満たすように全アルカリ度ATの標準偏差を最小にするようにパラメータを動かして非線形最小二乗法により求めればよい。
【0210】
つまり、クローズドセル法についても、測定は同様に行い、K(BPB)、K(BTB)、ψについて固定値に決めてしまい、サンプルの重さをパラメータとして式(29)と式(53)各滴定ポイントごとにプロットし、非線形最小二乗法で、r2が最大になるように、サンプルの重さを求めればよい。その他のパラメータについても、未知にするパラメータ以外のものを、固定にして、r2が最大になるようにパラメータを動かして非線形最小二乗法で、求めればよい。
【0211】
さらに、上述した例では、試料溶液11中に2種の酸塩基指示薬(具体的には、指示薬Aとしてブロモフェノールブルー、および指示薬Bとしてブロモチモールフェノール)を含有させたが、酸塩基指示薬は2種に限られない。つまり、3種以上の酸塩基指示薬を試料溶液11中に含有させてもよい。例えば、指示薬Aと指示薬Bとの加えて指示薬Cを試料溶液11中に含有させた場合、ある波長λ1および波長λ2における非解離形(HC)および解離形(A-)のモル吸光係数をそれぞれ1εHC1εC-2εHC2εC-として、モル吸光係数の比をそれぞれ、e1(C)=1εHC/2εHC、e2(C)=1εC-/2εHC、e3(C)=2εA-/2εHAとすることもできる。
【0212】
次に、図面を参照しつつ、本発明に係る測定方法を用いた装置(以下、単に装置と称すことがある)の各実施形態について説明する。
【0213】
(第3の実施形態)
図15は、本実施形態に係る装置の構成の一例を示す図である。本実施形態に係る装置は、試料溶液に直接、酸を滴下しながら、当該試料溶液の吸光度を測定するものである。図15に示すように、本実施形態に係る装置は、試料瓶22、シリンジポンプ24、酸貯留タンク23、スターラー33、処理部29、温度計34等を含む。
【0214】
具体的には、図15に示すように、まず、酸貯留タンク23からの酸(例えば、塩酸)は、シリンジポンプ24によって酸ノズル35を通り、試料瓶22に入れられている測定されるべき試料溶液21(例えば、海水)に滴下される(図15の矢印26)。次いで、光源25から出射された光は、試料瓶22を透過し、検出器28によって検出される。そして、検出器28は、当該検出器28に入射した光を電気信号に変換し、処理部29(具体的にはプリアンプ30)に出力する。その後、電気信号は、インターフェイス31を介してCPU(中央処理装置)32に出力され、当該CPU32によって数値演算(pHやパラメーターの最適解の演算、炭酸炭酸系の測定項目の測定等)が行われる。
【0215】
シリンジポンプ24は、酸貯留タンク23に貯留される酸を吸引し、試料瓶22内の試料溶液21に酸を滴下する滴下手段である。なお、炭酸系の測定項目の値の測定においては、高精度の滴定が必要とされるので、微小量の吸引、吐出に優れ高精度で送液制御が可能なマイクロシリンジポンプやオートビュレットを用いることが好ましい。
【0216】
酸貯留タンク23には、滴定用の酸が貯留される。タンクとしては、貯留する酸濃度が変化しないように密閉性を備えるとともに酸による腐食に耐性を有するものであればよい。
【0217】
スターラ33は、マグネティックスターラなどであり、試料瓶22内に試料溶液21とともに投入された回転子36を所定の回転速度で回転させる。そして、スターラ33によって、回転子36が回転することで、当該試料溶液21は撹拌され、滴下された酸と試料溶液21中の中和反応を促進することができる。
【0218】
処理部29は、プリアンプ30、インターフェイス31、およびCPU32等を含み、シリンジポンプ24の滴定制御、スターラ33の回転制御、光源25の出力制御等を行う。具体的には、温度計34および検出器28からの電気信号(出力信号)は、プリアンプ30で増幅、調整され、インターフェイス31を介してCPU32に入力される。そして、CPU32は、これらの電気信号に基づいて、シリンジポンプ24の滴下量やスターラ4の回転速度を調整する。
【0219】
光源25は、発光ダイオード(Light Emitting Diode:以下単にLEDと称すことがある)、タングステンランプ、キセノンランプなどである光の出射源である。なお、LED、タングステンランプ、キセノンランプなどから出射された光は、光源25内に備わっている、図示しないスペクトロメータ(分光器)で、分光され、所望の波長の光が出射されるようになっている。検出器28は、例えば、フォトダイオードなどによって構成され、試料瓶22を透過した光を電気信号に変換する。また、試料瓶22は、光源25からの光が透過できるように透明ガラス、石英等により作製されたものを用いればよい。
【0220】
なお、光源25および検出器28は、上述したように、本発明に係る測定方法を用いた装置の概略図(図1参照)において、吸光度測定手段12の一例に相当する。ここで、吸光度測定手段12の第1および第2の変形例を説明する。
【0221】
まず、吸光度測定手段12の第1の変形例を説明する。図16は、第1の変形例に係る吸光度測定手段12を含む装置構成の一例を示す図である。以下、図16を参照しつつ、第1の変形例に係る吸光度測定手段12を含む装置構成の一例について説明する。なお、図16の説明において、図15で示した構成と同様の構成については同一の参照符号を付して、説明は省略する。
【0222】
図16に示すように、吸光度測定手段12の第1の変形例は、光源25、検出器28、光ファイバーセル37を含む。つまり、試料溶液21の吸光度は、光源25と、検出器28と、光ファイバーセル37とを用いることによって測定される。なお、後述より明らかとなるが、光源25には、当該光源25から出射された光を光ファイバーセル37内に投光できるように、投光用光ファイバー38が接続されている。一方、検出器28にも、光源25から出射された光を光ファイバーセル37内で受光できるように受光用ファイバー39が接続されている。ここで、光ファイバーセルの拡大図を示す。
【0223】
図17は、図16の破線aで囲んだ部分を拡大し、光ファイバーセル37の内部を示した図である。図17に示すように、光ファイバーセル37内部には、光源25に接続されている投光用光ファイバー38、および検出器28に接続されている受光用光ファイバー39が備わっている。なお、光ファイバーセル37内において、投光用光ファイバー38および受光用光ファイバー39の先端にはミラー40が備わっているため、投光用光ファイバー38から出射された光をミラー40で反射させ、受光用光ファイバー39で受光する。このようにしても、試料溶液21の吸光度を測定することもできる。
【0224】
次に、吸光度測定手段12の第2の変形例を説明する。図18は、第2の変形例に係る吸光度測定手段12を含む装置構成の一例を示す図である。以下、図18を参照しつつ、第2の変形例に係る吸光度測定手段12を含む装置構成の一例について説明する。なお、図18の説明において、図15で示した構成と同様の構成については同一の参照符号を付して、説明は省略する。
【0225】
図18に示すように、吸光度測定手段12の第2の変形例は、光源25と、検出器28と、吸光度測定セル41と、Aポンプ42とを含む。つまり、試料溶液21の吸光度は、光源25と、検出器28と、吸光度測定セル41と、Aポンプ42とを用いることによって測定される。
【0226】
なお、図18に示すように、吸光度測定セル41は、例えば、透明ガラスや石英等から作製される管路43を備えている。この管路43に試料溶液21を流過させ、流過している試料溶液21に光源25から出射された光を透過させる。そして、管路43を透過した光を検出器28によって検出することによって吸光度を測定する。このようにしても、試料溶液21の吸光度を測定することもできる。
【0227】
なお、試料溶液21は、一端が当該試料溶液21中に浸され、他端が管路43接続されているA1ノズル44を用いて、例えば、Aポンプ42によって管路43に送液される。そして、測定後の試料溶液21は、一端が当該試料溶液21中に浸され、他端が管路43接続されているA2ノズル45によって、試料瓶22に排水されるようになっている。
【0228】
(第4の実施形態)
次に、図面を参照しつつ、本発明に係る測定方法を用いた装置(以下、単に装置と称すことがある)の他の実施形態について説明する。図19は、本実施形態に係る装置の構成の一例を示す図である。なお、以下の説明において、図15で示した構成と同様の構成については同一の参照符号を付して、説明は省略する。
【0229】
本実施形態に係る装置は、試料溶液と酸/指示薬混合溶液とを混合し、流れ分析法によって、混合溶液の吸光度を測定するものである。図19に示すように、本実施形態に係る装置は、試料溶液46、Bポンプ47、酸/指示薬混合溶液供給源48、Cポンプ49、ミキシングコイル50、吸光度測定セル41、光源25、および検出器28を含む。また、図示は省略したが、光源25および検出器28は、処理部29に接続されている。
【0230】
具体的には、図19に示すように、試料溶液46は、Bポンプ47によって、予め定められた流量(RaB)で送液される。なお、試料溶液46は、容器に収納されている場合もあるし、容器を用いずに、フィールドで海水をBポンプ47で採水するとともに送液される場合もある。
【0231】
一方、酸/指示薬混合溶液供給源48中の酸/指示薬混合溶液は、Cポンプ49によって、当該酸/指示薬混合溶液供給源48から予め定められた流量(RaC)で送液される。
【0232】
そして、試料溶液46は、Bポンプ47とミキシングコイル50との間のB管路51によって、当該ミキシングコイル50に送液される。同様に、酸/指示薬混合溶液供給源48中の酸/指示薬混合溶液は、Cポンプ49とミキシングコイル50との間のC管路52によって、当該ミキシングコイル50に送液される。その後、試料溶液および酸/指示薬混合溶液は、ミキシングコイル50を流過することによって充分に混合される。さらに、ミキシングコイル50を流過した試料溶液および酸/指示薬混合溶液の吸光度は、光源25と、検出器28と、吸光度測定セル41とによって測定される。
【0233】
なお、例えば、Bポンプ47およびCポンプ49は、図示しない処理部29によって制御され、試料溶液供給源46と、酸/指示薬混合溶液供給源48中の酸/指示薬混合溶液との混合比率を変化させてもよい。すなわち、図示しない処理部29は、試料溶液の送液量と酸/指示薬混合溶液の送液量との比率Ra{=(RaB)/(RaC)}を変化させてもよい。
【0234】
例えば、上記比率Ra、つまり、サンプルの重さm0と塩酸の滴定量mとの比をパラメータとすることも出来る。例えば、比率Raを未知数として、パラメータとして、式(54)において、非線形最小二乗法で当該滴定ポイントの仮の全アルカリ度ATの標準偏差を最小にするように、上記比率Raを求めればよい。また、上記比率Raをパラメータとして式(29)と式(53)とを用い、式(55)において非線形最小二乗法でr2が最大になるように、上記比率Raを求めればよい。
【0235】
(第5の実施形態)
次に、図面を参照しつつ、本発明に係る測定方法を用いた装置(以下、単に装置と称すことがある)の他の実施形態について、さらに説明する。図20は、本実施形態に係る装置の構成の一例を示す図である。なお、以下の説明において、図15および図19で示した構成と同様の構成については同一の参照符号を付して、説明は省略する。
【0236】
本実施形態に係る装置は、試料溶液、酸溶液、および指示薬を混合し、流れ分析法によって、混合溶液の吸光度を測定するものである。図20に示すように、本実施形態に係る装置は、試料溶液46、Bポンプ47、酸供給源53、Dポンプ55、指示薬供給源54、Eポンプ56、ミキシングコイル50、吸光度測定セル41、光源25、および検出器28を含む。また、図示は省略したが、光源25および検出器28は、処理部29に接続されている。
【0237】
具体的には、図19に示すように、試料溶液46は、Bポンプ47によって、予め定められた流量(RaB)で送液される。また、酸供給源53中の酸は、Dポンプ55によって、当該酸供給源53から予め定められた流量(RaD)で送液される。さらに、指示薬供給源54中の指示薬は、Eポンプ56によって、当該指示薬供給源54から予め定められた流量(RaE)で送液される。
【0238】
そして、試料溶液46は、Bポンプ47とミキシングコイル50との間のB管路51によって、当該ミキシングコイル50に送液される。また、酸供給源53中の酸は、Dポンプ55とミキシングコイル50との間のD管路57によって、当該ミキシングコイル50に送液される。さらに、指示薬供給源54中の指示薬は、Eポンプ56とミキシングコイル50との間のE管路58によって、当該ミキシングコイル50に送液される。そして、試料溶液、酸、指示薬は、ミキシングコイル50を流過することによって充分に混合され、混合溶液となる。その後、ミキシングコイル50を流過した混合溶液の吸光度は、光源25と、検出器28と、吸光度測定セル41とによって測定される。
【0239】
なお、例えば、Bポンプ47、Dポンプ55、Eポンプ56は、図示しない処理部29によって制御され、ミキシングコイル50における試料溶液、酸、指示薬の混合比率を変化させてもよい。つまり、例えば、上記比率Raをパラメータとすることも出来る。例えば、比率Raを未知数として、パラメータとして、式(54)において、非線形最小二乗法で当該滴定ポイントの仮の全アルカリ度ATの標準偏差を最小にするように、上記比率Raを求めればよい。また、上記比率Raをパラメータとして式(29)と式(53)とを用い、式(55)において、各滴定ポイントごとにプロットし非線形最小二乗法で、r2が最大になるように、上記比率Raを求めればよい。
【0240】
以上説明したように、上述の第3〜第5の実施形態に係る装置によれば、本発明に係る測定方法を用いることができる。また、上述の第3〜第5の実施形態に係る装置は、試料溶液に直接、酸を滴下しながら、当該試料溶液の吸光度を測定するものである。つまり、上述の第3〜第5の実施形態に係る装置は、滴定から測定まで1つの容器で行うことができるので、例えば、試料溶液に酸を滴下する度に当該試料溶液を別の分光光度計で測定する場合と比べて測定に要する時間を短縮することができる。
【0241】
さらに、上述の第4および第5の実施形態に係る装置によれば、測定に要する各溶液(例えば、試料溶液、酸、指示薬)は少量で済ませることができる。
【0242】
なお、上述した光源25は、光の出射源として一般的なタングステンランプ、キセノンランプなどの他にLED等を用いることが可能である。
【0243】
図21は、上述した光源25の光の出射源としてLEDを用いた例を示した図である。例えば、図21に示すように、光源25の光の出射源として、第1の発光体59、第2の発光体60を備えている場合を仮に想定する。そして、例えば、第1の発光体59が出射する光の波長は、指示薬の非解離形(酸フォーム)由来のピークが得られる波長であるとし、第2の発光体60が出射する光の波長は、指示薬の解離形(アルカリフォーム)由来のピークが得られる波長であるとする。このようにすることで、光源25にスペクトロメータ(分光器)を備えなくともよいので、光源25は簡易な構成で済む。なお、外見上は1つのパッケージの中に2つ以上の発光体を収納したLEDも市販されている。
【0244】
つまり、それぞれ所望の波長の光を出射することのできる発光体を少なくとも2つ以上、光源25に備え、当該発光体をそれぞれ別々に点灯させ、検出器28で光の強さを測定することにより、試料溶液21の吸光度を測定することができる。
【0245】
なお、それぞれ所望の波長の光を出射することのできる発光体を少なくとも2つ以上備えた光源25は、本発明に係る測定方法を用いた装置の光源として用いる場合に限られない。つまり、それぞれ所望の波長の光を出射することのできる発光体を少なくとも2つ以上備えた光源25と、光の強さを測定することのできる検出器とによって、例えば、海水だけではなく種々溶液の吸光度を測定することができる。
【0246】
以上、本発明を詳細に説明してきたが、上述の説明はあらゆる点において本発明の一例にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0247】
本発明は、簡易な方法で、精度良く、海水の炭酸系の測定項目の値を測定することのできる測定方法、およびその測定方法を用いた測定装置等に有用である。
【符号の説明】
【0248】
10…酸溶液
11…試料溶液
12…吸光度測定手段
13…処理手段
14…滴下手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光度法を用いた溶液成分の測定方法であって
試料溶液に少なくとも1種の比色指示薬を含ませた被検水に酸を滴下し、予め定められた波長における当該被検水の吸光度を測定する第1の工程と、
前記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、前記吸光度を用い前記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第2の工程と、
前記パラメーターの値の最適解を予め定められた数式に代入することにより、前記測定項目の値を算出する第3の工程とを備える、吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項2】
オープンセル方式(開放型滴定)により炭酸系の測定項目の値の測定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項3】
クローズドセル方式(密閉型滴定)により炭酸系の測定項目の値の測定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項4】
前記第1の工程は、前記被検水の吸光度をそれぞれ異なる少なくとも3波長において測定し前記試料溶液に加えたpH指示薬固有の吸収スペクトルの波形に近似し、前記波形に基づいて前記予め定められた波長における当該被検水の吸光度の値を測定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項5】
前記試料溶液に加えたpH指示薬それぞれの解離定数のうち少なくとも1つの解離定数をパラメーターとして設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項6】
それぞれ異なる波長における前記試料溶液のモル吸光係数の比の値を、前記試料溶液に加えたpH指示薬の種類の数の3倍以下の種類数で前記パラメーターを設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項7】
前記被検水に滴下した前記酸の濃度を前記パラメーターとして設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項8】
前記試料溶液の重量または体積を前記パラメーターとして設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項9】
前記試料溶液の温度をパラメーターとして設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項10】
前記試料溶液の塩分濃度を前記パラメーターとして設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項11】
前記試料溶液の重量と前記被検水に滴下した前記酸の重量との比、または前記試料溶液の体積と前記被検水に滴下した前記酸の体積との比を前記パラメーターとして設定する、請求項1に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定方法。
【請求項12】
吸光度法を用いた溶液成分の測定装置であって、
試料溶液に少なくとも1種のpH指示薬を含ませた被検水を入れた第1の容器と、
前記被検水に滴下する酸を入れた第2の容器と、
前記第1の容器に入れられた被検水に前記第2の容器に入れられた酸を滴下する滴下手段と、
前記滴下手段によって前記酸が滴下される毎に前記被検水の吸光度を測定する測定手段と、
前記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、前記吸光度を用い前記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第1の算出手段と、
前記パラメーターの値の最適解を予め定めたれた数式に代入することにより、炭酸系の測定項目の値を算出する演算手段の第2の算出手段とを備える、吸光度法を用いた溶液成分の測定装置。
【請求項13】
吸光度法を用いた溶液成分の測定装置であって、
少なくとも1種のpH指示薬を含ませた酸を入れた容器と、
試料溶液を予め定められた流量で送液する第1の送液手段と、
前記pH指示薬を含ませた酸を予め定めされた流量で送液する第2の送液手段と、
前記試料溶液と前記容器に入れられたpH指示薬を含ませた酸とを混合する混合手段と、
前記混合手段によって混合された混合溶液の吸光度を連続流れ分析法により測定する測定手段と、
前記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、前記吸光度を用い前記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第1の算出手段と、
前記パラメーターの値の最適解を予め定めたれた数式に代入することにより、炭酸系の測定項目の値を算出する演算手段の第2の算出手段とを備える、吸光度法を用いた溶液成分の測定装置。
【請求項14】
前記第1の算出手段は、前記試料溶液の流量と前記pH指示薬を含ませた酸の流量との比をパラメーターとして設定する、請求項13に記載の吸光度法を用いた溶液成分の測定装置。
【請求項15】
吸光度法を用いた溶液成分の測定装置あって、
酸を入れた第1の容器と、
pH指示薬を入れた第2の容器と、
試料溶液を予め定めされた流量で送液する第1の送液手段と、
前記第1の容器に入れられた酸を予め定めされた流量で送液する第2の送液手段と、
前記第2の容器に入れられた少なくとも1種のpH指示薬を予め定めされた流量で送液する第3の送液手段と、
前記試料溶液と前記酸と前記pH指示薬とを混合する混合手段と、
前記混合手段によって混合された混合溶液の吸光度を連続流れ分析法により測定する測定手段と、
前記試料溶液の炭酸系の測定項目の値を比色法により算出する際に必要となる値の少なくとも1つをパラーメーターとして設定し、前記吸光度を用い前記パラメーターの値の最適解を予め定められた数値演算を行うことにより算出する第1の算出手段と、
前記パラメーターの値の最適解を予め定めたれた数式に代入することにより、炭酸系の測定項目の値を算出する演算手段の第2の算出手段とを備える、吸光度法を用いた溶液成分の測定装置。
【請求項16】
試料溶液の吸光度の測定方法であって、
試料溶液が入れられた容器に少なくとも2つ以上の発光体をそれぞれ異なる波長の光を異なるタイミングで前記容器に照射する照射工程と、
前記光源から照射された光のうち前記容器を透過した光を受光する受光工程と、
前記受光工程で受光した光の強さに基づいて吸光度を算出する算出工程とを備える、試料溶液の吸光度の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2011−180038(P2011−180038A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45892(P2010−45892)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(591081321)紀本電子工業株式会社 (19)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】