吸収型半導体光変調器
【課題】
小型で高速、かつ信頼性について改善された吸収型半導体光変調器を提供する。
【解決手段】
半導体基板上に、少なくとも光を吸収する機能を有するコア層を含む光導波路を形成し、該光導波路は光入射端面を有しており、前記光入射端面から入射した光が前記光導波路を伝搬する過程で前記コア層に吸収されることにより光電流が生成される吸収型半導体光変調器において、前記コア層は、前記生成された光電流に起因するジュール熱による熱破壊を避けるために、前記ジュール熱を前記半導体基板に逃がすように、前記光入射端面側の幅が広く形成されているとともに前記光の伝搬方向に向かって狭くなって形成され、また、前記光入射端面側の前記光導波路がマルチモード光導波路を構成していることを特徴とする吸収型半導体光変調器。
小型で高速、かつ信頼性について改善された吸収型半導体光変調器を提供する。
【解決手段】
半導体基板上に、少なくとも光を吸収する機能を有するコア層を含む光導波路を形成し、該光導波路は光入射端面を有しており、前記光入射端面から入射した光が前記光導波路を伝搬する過程で前記コア層に吸収されることにより光電流が生成される吸収型半導体光変調器において、前記コア層は、前記生成された光電流に起因するジュール熱による熱破壊を避けるために、前記ジュール熱を前記半導体基板に逃がすように、前記光入射端面側の幅が広く形成されているとともに前記光の伝搬方向に向かって狭くなって形成され、また、前記光入射端面側の前記光導波路がマルチモード光導波路を構成していることを特徴とする吸収型半導体光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型で高速、かつ信頼性の高い吸収型半導体光変調器の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
(第1の従来技術)
光を吸収する機能を有する、いわゆる吸収型半導体光変調器の第1の従来技術として、非特許文献1に示すハイメサ型光変調器の概略斜視図を図9に示す。
【0003】
1はn+−InP基板、2はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、3はi−InGaAsPウェルと、ウェルとはバンドギャップエネルギ−が異なるi−InGaAsPバリアを複数組み合わせて構成した多重量子井戸(InGaAsP−InGaAsP Multiple Quantum Well: InGaAsP−InGaAsP MQW)コア層(この多重量子井戸層4はノンド−プ層なので、以下i−MQWコア層と略す)、4はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、5はp+−InGaAsコンタクト層、6は電気信号を印加するためのp電極、7はn電極、8はポリイミド、9はボンディングワイヤである。
【0004】
なお、p電極6のうち、ボンディングワイヤが接続されている箇所10はボンディングパッド部と呼ばれている。このハイメサ型半導体光変調器ではボンディングパッド部の電気的キャパシタンスを減らすために、比誘電率が小さなポリイミド8をその下に使用している。
【0005】
また、p−InPクラッド層4、i−MQWコア層3およびn−InPクラッド層2は光を導波する光導波路を構成している。ここでi−MQWコア層3はその屈折率がp−InPクラッド層4とn−InPクラッド層2よりも高く、光を導波する中心的な役割を有している。なお、ハイメサ光導波路を構成しているリッジ部の幅と長さは各々2μmおよび200μm程度である。
【0006】
この第1の従来技術の動作について説明する。電界が印加されていない時と逆バイアスを印加した時の光の吸収係数について波長を変数として図10に示す。図中、光変調器を動作させる波長を動作波長として示した。
【0007】
図10からわかるように、電界が印加されていない場合には、半導体光変調器を動作する波長においては光の吸収係数は充分小さく、半導体光変調器において光が入射する端面(以下、光入射端面と略す)に入射した光は反対側の光が出射する端面(以下、光出射端面と略す)から出射される。一方、p電極6とn電極7の間に逆バイアスを印加すると、光の吸収スペクトラムは長波長側に移動するため、光変調器の動作波長では光の吸収係数が大きくなり、光は吸収される。こうして、p電極6とn電極7間の逆バイアス電圧をONあるいはOFFにすることにより、光もOFFあるいはONされ、電気信号を光信号へと変換することができる。
【0008】
このハイメサ型光変調器において、光を吸収する機能を有するi−MQWコア層3は比誘電率εrが小さな空気(εr=1)で囲まれており、かつボンディングパッド部10の下にはやはり比誘電率εrが小さなポリイミド8(εr=3〜4)を使用しているので、その電気的キャパシタンスCは小さい。従って、電気的キャパシタンスCと負荷抵抗Rから制限される、いわゆるCR定数リミットによる3dB光変調帯域(=1/πRC、あるいは簡単に光変調帯域と言う)は、i−MQWコア層3の左右を全て半導体で埋め込んだ埋め込み構造のものより高く、ハイメサ型光変調器は高速光変調に適していると言える。
【0009】
図11(a)、(b)には逆バイアス印加時における光吸収に伴い発生する熱について、各々光変調器の長手方向とメサ中心からの幅方向における分布を示している。
【0010】
まず長手方向について考察する。長手方向、つまり光の伝搬方向において、光はi−MQWコア層3、p−InPクラッド層4およびn−InPクラッド層2からなる光導波路を伝播する間にその強度Pが
P=P0exp(−αz) (1)
のように、指数関数の式に従ってi−MQWコア層3により吸収される。ここで、P0は光入射端面における入射光のパワー、αは吸収係数、zは光入射端面からの距離である。指数関数は変数に対して急速に減衰する関数であるから、光は光入射端面から短い距離の間に急速に吸収され、電流Ip(これを光電流と呼ぶ)に変換される。
【0011】
一方、横方向(基板表面に水平方向)については、断面構造がハイメサ構造、つまりリッジ部の左右は空気である。空気の熱伝導率は半導体に比べて数桁小さいため、発生した熱はリッジ部の外部へはほとんど伝わらない。
【0012】
従って、長手方向には光入射端面からの短い距離内に、横方向にはハイメサのリッジ部に熱が溜まることになる。特に、高いパワーの光が入射すると印加電圧Vと光電流IPの積で表されるジュール熱(PJ=V・IP)はn−InPクラッド層2を通して基板1に逃がされるが、基板1に充分には伝えることができず、ハイメサのリッジ部に溜まる。そのため、リッジ部がこの高いジュール熱のために壊れてしまう。実験的にはハイメサ型光変調器への最大光入力パワーは10mW程度が限界であった。
【0013】
(第2の従来技術)
この光電流による熱破壊は図12にその概略斜視図を示す第2の従来技術の構造を採用することにより回避できる。ここで、1はn+−InP基板、11はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、12はi−MQWコア層、13はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、14はp+−InGaAsコンタクト層、15はi−InP埋め込み層、16は電気信号を印加するためのp電極、7はn電極である。
【0014】
図9に示した従来における第1の従来技術では光がi−MQWコア層3により吸収され、光電流Ipが生成された結果発生した熱は、リッジの左右が熱伝導率が極めて低い空気であるため逃げることができずにリッジに溜まり、結果的に素子破壊に至った。一方、この第2の従来技術では、i−MQWコア層12で光が吸収された結果発生したジュール熱を、n−InPクラッド層11を経由して基板1に逃がすとともに、左右のi−InP埋め込み層15を通じてn+−InP基板1に逃がしている。
【0015】
図13(a)には、図12に示した第2の従来技術において光の伝搬とともに光の伝搬軸に沿って発生する熱を、また図13(b)には半導体光変調器の光入射端面近傍での水平方向における熱の分布を示している。
【0016】
一般に半導体は熱伝導率が高いので、n−InPクラッド層11やi−MQWコア層12の上下左右を囲んでいるi−InP埋め込み層15などの半導体を通して、発生した熱は急速にn+−InP基板1に伝えられ、その結果、第1の従来技術に比較してi−MQWコア層12を中心とした熱分布のピーク値が低くなっていることがわかる。このため、この第2の従来技術は耐光入力特性が優れた構造と言える。
【0017】
しかしながら、この第2の従来技術では広い面積のp−InPクラッド層13、i−InP埋め込み層15、n+−InP基板1により形成される電気的キャパシタンスCと負荷抵抗Rから制限される、いわゆるCR定数リミットによる3dB光変調帯域(=1/πRC、あるいは変調帯域)が、ハイメサ型光変調器よりも著しく低く、高速光変調には適用できないという問題があった。
【0018】
そして、さらにこの第2の従来技術では比較的簡単な結晶再成長とはいえ、やはり結晶再成長は含む製造工程が長いという問題がある。次に、これについて説明する。
【0019】
図14に第2の従来技術の製造工程を抜粋して示す。
【0020】
工程(a)では、n+−InP基板1の上にn−InPクラッド層17、i−MQWコア層18を結晶成長する。次に、SiO2マスク19を堆積した後に、フォトレジスト20をスピンコートする。
【0021】
工程(b)では、工程(a)のフォトレジスト20を22のようにパターニングし、このフォトレジスト22を用いて、工程(a)のSiO2マスク19を21のようにエッチングする。
【0022】
工程(c)では、工程(b)において規定したフォトレジスト22とSiO2マスク21を用いて、工程(b)のi−MQWコア層18とn−InPクラッド層17を各々12、11のようにエッチングする。
【0023】
工程(d)では、工程(c)のフォトレジスト22を除去した後、SiO2マスク21を結晶再成長におけるマスクとして用い、i−InP埋め込み層15を再成長する。
【0024】
工程(e)では、工程(d)で使用したSiO2マスク21を除去した後、p−InPクラッド層13、p+−InGaAsコンタクト層14を成長する。
【0025】
図12に示した実際の半導体光変調器とするには、工程(e)の後、n+−InP基板1を100μm程度に薄く研磨する。次に、p+−InGaAsコンタクト層14の上にp電極16を、またn+−InP基板1の裏にn電極7を形成する。
【0026】
このように、この第2の従来技術はCR定数リミットによる光「変調帯域が狭いことと、次に述べる第3の従来技術よりは簡単な結晶再成長とはいうものの、やはり結再晶成長が必要であるためその製造工程が長いという問題がある。
【0027】
(第3の従来技術)
図12に示した広い面積のp−InPクラッド層13、i−InP埋め込み層15、n+−InP基板1により形成されるp−i−n接合の電気的キャパシタンスCを低減するために、非特許文献2に報告されている図15に示すような第3の従来技術が広く用いられている。
【0028】
この第3の従来技術では図12に示したプロセス工程とほぼ同様の手順でn−InPクラッド層11の上に、i−MQWコア層12を成長した後、さらにp−InPクラッド層24を成長する。これらをハイメサ構造にエッチングした後、それらの横をFeドープInP埋め込み層24により埋め込んでいる。
【0029】
この24はInPにFe原子をドーピングすることにより、絶縁抵抗を高めたFeドープInP埋め込み層(半絶縁性InP埋め込み層、あるいはFe−InP埋め込み層と呼ぶ)である。
【0030】
Fe−InP埋め込み層24も熱伝導率が高いので、この第3の従来技術も耐光入力特性が優れた構造と言える。そして、第3の従来技術ではFe―InP埋め込み層24を用いているので、p−i−n接合により電気的キャパシタンスが大きい図12の第2の従来技術と比較して電気的キャパシタンスが小さいという大きな利点がある。
【0031】
しかしながら、この第3の従来技術はFe−InP埋め込み層24を結晶再成長する際にn−InPクラッド層11、i−MQWコア層12、及びp−InPクラッド層23により形成されるメサの高さが高いので結晶再成長が難しいばかりでなく、大きな問題がある。つまり、Fe−InP埋め込み層24を形成するためには、ドーパントをFeとする結晶成長炉を専用に持つ必要がある。一般に結晶成長装置を持つには安全装置も含めると数億円という高額な設備投資が必要である。
【0032】
さらに、このFe原子とp−InPクラッド層12のドーパントであるZnは互いに相互拡散し易く、その結果著しく電気的キャパシタンスが大きくなり、電気的な高速動作が困難となってしまう。そのため、その結晶再成長の条件出しに長い時間が必要であるという問題があった。一般にFe−InP埋め込み層24の結晶再成長条件を見出すことは、図12に示したi−InP埋め込み層15の結晶再成長条件を見出すことよりはるかに難しい。つまり、図15に示した第3の従来技術を実現するには多額の設備投資のみならず長い開発期間を要するという問題があった。
【0033】
(第4の従来技術)
第3の従来技術のような高額な設備投資を必要とするとともに結晶の再成長条件を見出すことが難しいFe−InP埋め込み層を用いず、第2の従来技術のように結晶再成長が比較的簡単なi−InP埋め込み層を用い、かつ第2の従来技術で問題であったp−i−n接合による電気的キャパシタンスを低減するために特許文献3に開示された構造の概略斜視図を図16に示す。なお、その上面図を図17に示す。
【0034】
ここで、11はn−InPクラッド層、12はi−MQWコア層、25はp−InPクラッド層、26はp+−InGaAsコンタクト層、27はi−InP埋め込み層、28は電気信号を印加するためのp電極、7はn電極である。
【0035】
図16と図17からわかるように、この第4の従来技術は、光の吸収に伴う発熱量が大きな光入射の端面近傍に図12に示した第2の従来技術と同様の構造を有している。これにより、発生した熱を効果的にn+−InP基板1に逃がすことができる、そのためこの発生した熱により素子が破壊されることはない。一方、光電流が小さな領域ではメサの幅を狭くしてp−i−n接合による電気的キャパシタンスを小さくしている。その結果、第4の従来技術を採用することにより、素子破壊を避けるととともに高周波での動作が可能となった。
【0036】
しかしながら、図15の説明で述べたように、Fe−InP埋め込み層24よりは容易とはいえ、やはり結晶再成長が必要であるので、コストを下げるにはさらに簡単な製造工程の吸収型半導体光変調器を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】IEEE、Journal of Quantum Electronics、vol.28、pp.224−230、1992
【非特許文献2】1993年電子情報通信学会春季大会C−153
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特許第3913161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
以上のように、第1の従来技術のようなハイメサ型半導体光変調器においては、高いパワーの光が入射すると、印加電圧と光吸収部において生じた電流に起因する大きなジュール熱がハイメサのリッジ部に溜まり、リッジ部が熱破壊される。ところが、これを避けるためにi−InPにより埋め込むと電気的キャパシタンスが大きくなり、高速動作が困難になる。この電気的キャパシタンスを小さくするためには、Fe−InPにより埋め込むことが有効ではあるが、多額の設備投資と結晶再成長の条件出しに長い開発期間が必要である。さらにi−InPで埋め込むとともに、光が入射する端面近傍ではその埋め込み層の幅を広くし、光が伝搬する方向に沿ってメサの幅を狭くする第4の従来技術では熱破壊を避けることができ、かつ高速動作が可能となったが、SiO2やSiNxをマスクとした結晶再成長がやはり必要である。そして結晶再成長では歩留まりが100%とはならず、また製造工程が長いので吸収型半導体光変調器としてのコストが高くなる。従って、コストを下げるためにはさらに簡単な製造工程により製作できる吸収型半導体光変調器の開発が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0040】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の吸収型半導体光変調器では、半導体基板上に、少なくとも光を吸収する機能を有するコア層を含む光導波路を形成し、該光導波路は光入射端面を有しており、前記光入射端面から入射した光が前記光導波路を伝搬する過程で前記コア層に吸収されることにより光電流が生成される吸収型半導体光変調器において、前記コア層は、前記生成された光電流に起因するジュール熱による熱破壊を避けるために、前記ジュール熱を前記半導体基板に逃がすように、前記光入射端面側の幅が広く形成されているとともに前記光の伝搬方向に向かって狭くなって形成され、また、前記光入射端面側の前記光導波路がマルチモード光導波路を構成していることを特徴としている。
【0041】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の吸収型半導体光変調器では、請求項1に記載の吸収型半導体光変調器において、前記コア層の幅を曲線形状、直線形状、および階段形状の少なくとも一つの形状に従って狭くしていくことを特徴としている。
【0042】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の吸収型半導体光変調器では、請求項1または2に記載の吸収型半導体光変調器において、前記光導波路がハイメサ型光導波路であることを特徴としている。
【0043】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の吸収型半導体光変調器では、請求項1または2に記載の吸収型半導体光変調器において、前記光導波路が埋め込み型光導波路であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0044】
本発明では、光が吸収されることにより大きな熱が発生する領域に幅の広いコアを設けることにより、生じたジュール熱を基板に逃がす。光電流が少なくなる領域では発生するジュール熱が小さいので、幅の狭いコアを設けて基板に逃がす。よって、本発明を用いることにより、光が伝搬する方向に沿って上面から見たコアの面積を必要最小限とすることができるので、電気的キャパシタンスを無為に大きくすることがなく、ジュール熱による素子破壊を避けるとともに高速光変調が可能となる。
【0045】
また光が入射する側の光導波路がマルチモードを伝搬するようにコアの幅が広く構成されているので、光の結合損失が小さく、その結果吸収型半導体光変調器として挿入損失が小さいという大きな利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図2】本発明の第1の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の上面図
【図3】本発明の第1の実施形態を製作するために結晶成長したウェーハ断面図
【図4】(a)は図2のB−B´側の端面近傍を伝搬する光のモード、(b)は図2のA−A´側の端面近傍を伝搬する光のモードを示す
【図5】本発明の第2の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図6】本発明の第2の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の上面図
【図7】本発明の第3の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す上面図
【図8】本発明の第4の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図9】第1の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図10】第1の従来技術の動作原理を説明する図
【図11】第1の従来技術の問題点を説明する図
【図12】第2の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図13】第2の従来技術の利点を説明する図
【図14】第2の従来技術の製造工程を説明する図
【図15】第3の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図16】第4の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図17】第4の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の上面図
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図9から図17に示した従来技術と同一番号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一番号を持つ機能部の説明を省略する。
【0048】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態における吸収型半導体光変調器についてその概略斜視図を図1に示す。ここで、30はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、31はi−MQWコア層、32はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、33はp+−InGaAsコンタクト層、34は電気信号を印加するためのp電極である。35はボンディングパッド部である。
【0049】
また、第1の実施形態の上面図を図2に示す。本発明の効果を最も大きく発揮するために、この第1の実施形態では光導波路をハイメサ構造としている。光が入射する端面近傍の幅Winは22μm程度、光が出射する端面近傍の幅Woutは2μm程度、そしてテーパ領域の長さLinは30μm程度である。このように、この第1の実施形態では光が入射する端面近傍の半導体材料の幅を広くしている(発生した大きな熱をn+−InP基板1に伝えるために幅を広くした領域を熱伝導用半導体部という)。そして、この幅を広くした光入射端面側の光導波路をマルチモード光導波路としている。
【0050】
従って、第4の従来技術と同様に本実施形態は光を光電流に変換する際に大きな熱が発生しても素子の破壊を避けることができる。なお、これらの寸法はあくまで一つの例であり、吸収されて大きな熱を発生する光入射側のi−MQWコア31の幅Winが、大きな光が入射する領域以外のコアを含む半導体の幅(ここでは、光出射側のi−MQWコア31の幅Wout)よりも広い限り、これら以外の値であってもよいことは言うまでもない。
【0051】
この第1の実施形態の製作に当たっては、まず図3に示すように、n+−InP基板1の上に、n−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)36、i−MQWコア層37、p−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)38、p+−InGaAsコンタクト層39を結晶成長した後、図1のように例えば指数関数やべき乗型などの曲線のテーパ形状にエッチングをし、その後p電極34とn電極7を形成する。このように、本発明における第1の実施形態の製作においては結晶再成長をしなくてよいので、その製作工程は極めて簡単である。
【0052】
さらに、図2からわかるように本発明では第4の従来技術と同じく、光が伝搬するに従ってメサの幅を狭くしている。従って、第4の従来技術と同様に、電気的キャパシタンスCを第2の従来技術よりも極めて低減することが可能となる。つまり、第4の従来技術と同じく電気的キャパシタンスCと負荷抵抗RによりCR定数から規定される光変調帯域を、第2の従来技術と比較して大幅に改善できる。
【0053】
このように、本発明では、1回の結晶成長で形成することができるので製作工程が極めて簡単となり、第4の従来技術と比較して吸収型半導体光変調器としてのコストを著しく低減できる。さらにi−MQWコア31が広いために大きなパワーの光を吸収しても発熱により壊れることがなく、また高周波光変調が可能になるという大きな利点がある。
【0054】
さて、次に本発明の大きな特徴であるモード伝搬とその結果である光の結合損失(あるいは挿入損失)の観点から議論する。実際には図2に示されているように、本発明において光は入射側のA−A´側から入射し、出射側のB−B´側から出射する構成であるが、逆に本来は出射側であるB−B´側から光を入射し、本来は入射側のA−A´側から光を出射することを想定する。
【0055】
図4(a)の40は光が入射したB−B´近傍のハイメサ型の光導波路を伝搬する光のモード(あるいは、光の界分布)である。この様子から単一モードが伝搬していることがわかる。図4(b)の41はB−B´側から入射した光がA−A´側から出射される際のモード(あるいは、光の界分布)であり、B−B´側の光のモード40とよく似た形となっている。以下、その理由について説明する。
【0056】
図2において、A−A´側のメサの幅は広く、水平方向にマルチモード光導波路としている。そのため、A−A´側の固有モードをφ0、φ1、、、、φnー1、φnとすると、B−B´側を伝搬する光ψはA−A´側の固有モードφ0、φ1、、、、φnー1、φnを用いて
ψ=c0φ0+c1φ1+・・・+cn−1φn−1+cnφn (2)
のように、展開できる。ここで、c0、c1、・・・cn−1、cnは展開係数である。
【0057】
つまり、(2)式はA−A´側のメサの幅がB−B´側のメサの幅よりも広く、より多くのモードを伝搬できるので、B−B´側を伝搬する光ψの形を再現できるように、展開係数c0、c1、・・・cn−1、cnが自動的に調整されていることを意味している。従って、図2のLinで示した領域はあたかも自由空間のようにみなすことができる。
【0058】
以上のことは本実施形態の本来の使用方法であるA−A´側から光を入射した場合にも同じである。つまり、A−A´側から光を入射してもその入射光はA−A´側のマルチモードを用いて(2)式のように展開され、入射光のモードの形をほぼ保ったまま、図2のLinで示した領域を自由空間のように伝搬する。
【0059】
これらを電磁界解析的に厳密に表現すると、入射光は自由空間を伝搬しているのではなく、マルチモードを構成する各モードが入射光のエネルギーを分担して運び、それらのマルチモードを合成した結果、あたかも自由空間を伝搬しているように見えると言うことができる。
【0060】
また、n+−InP基板1へのジュール熱の伝導効率を高めるためにp−InPクラッド32の幅を広くする際に、その際に界分布が奇関数である1次の高次モードまで励振される程度に広くすると、より高次モードまで励振されるようにp−InPクラッド32の幅を広くした場合と比較して光の結合損失という観点からは不利となるものの、熱破壊に対して強くなるという本発明の効果を発揮することができる。
【0061】
なお、光導波路の単一モード性やマルチモード性は単にハイメサ光導波路のメサの幅や埋め込み光導波路の埋め込まれたコアの幅により決定されるわけではない。つまり、ハイメサの場合にはコアの厚み、及びコアと上下のクラッドとの屈折率の差が、また埋め込み光導波路の場合には埋め込まれたコアの厚み、及び埋め込まれたコアと上下あるいは左右のクラッドとの屈折率の差が重要な影響を与える。従って、メサの幅や埋め込まれたコアの幅を広くしても単一モードとできるが、本発明では光導波路をあえてマルチモードとすることにより、入射光の結合損失、ひいては吸収型半導体光変調器としての挿入損失を低減している。
【0062】
また、図2のLinの長さは10μm〜30μm、あるいはせいぜい50μm程度と短いので、A−A´に入射した光はほとんどモード形状を保ったまま(厳密には少し広がりつつ)伝搬するので、吸収型半導体光変調器としての光の挿入損失が大幅に増加することはない。
【0063】
一方、本発明と異なり、(i−MQWコア層31の厚みを薄くするなどして)A−A´側を単一モード条件を保ちつつメサの幅を広げると、その単一モードは極めて扁平な形状となり、A−A´での光の結合効率、及び図2において光の入射側の端面からLinの距離の点でB−B´側に向かう領域への光の結合効率が著しく劣化し、結果的に挿入損失が大きくなってしまう。つまり、本発明ではA−A´側をマルチモードとすることにより、そうした問題を解決している。さらに図2のLinの領域をテーパ形状としているので、挿入損失の増加を効果的に抑えている。
【0064】
(第2の実施形態)
本発明における熱伝導用半導体部の幅について、指数関数やべき乗関数の場合ほど効果的ではないが、熱伝導用半導体部の幅を指数関数やべき乗関数以外の曲線やあるいは直線の形状で光の伝搬方向に沿って幅を狭くしても良い。例として、図1に示した本発明における第1の実施形態について熱伝導用半導体部のテーパ部の曲線形状を直線形状とした場合を本発明における第2の実施形態の吸収型半導体光変調器としてその概略斜視図を図5に、上面図を図6に示す。図中、図1に示す第1の実施形態の吸収型半導体光変調器と同一部分には同一符号を付して、重複する部分の詳細説明を省略した。
【0065】
なお、以上の説明においては、メサの幅を狭くする際の形状として、指数関数やべき乗曲線と直線について説明したが、その他に三角関数などあらゆる曲線でもよいし、直線と曲線の組み合わせでも良いことは言うまでもない。さらに、メサの幅を直線では無く階段状に不連続に狭くしても良い。
【0066】
(第3の実施形態)
図7は本発明における第3の実施形態における吸収型半導体光変調器の上面図である。図7からわかるように本実施形態では光が入射側するマルチモード領域の形状を矩形としている。テーパ形状の場合と比較して矩形とすると挿入損失がやや増えるものの本発明としての効果に問題はない。
【0067】
(第4の実施形態)
図8は本発明における第4の実施形態における吸収型半導体光変調器の概略斜視図である。ここで、42はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、43はi−MQWコア層、44はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、45はp+−InGaAsコンタクト層、46はi−InP埋め込み層、47電気信号を印加するためのp電極である。48はボンディングパッド部である。
【0068】
第4の実施形態と図1に示したハイメサ光導波路の構造である本発明の第1の実施形態と異なり、第4の実施形態では図8に示されているようにi−MQWコア層43の左右にi−InP埋め込み層46があり、いわば本実施形態は埋め込み光導波路の構造となっている。なお、本実施形態においても光入射端面側のi−MQWコア層43の幅を光出射端面側のi−MQWコア層43の幅よりも広く構成し、この光入射端面側の光導波路をマルチモード光導波路としている。
【0069】
本実施形態では図8からわかるように本実施形態は結晶再成長を行う必要がある。従って、本実施形態により製作した半導体光変調器は本発明の他の実施形態と比較してコストの観点から不利ではあるが、光の入射側の光導波路がマルチモードであるため光の挿入損失が小さいという利点は有している。
【0070】
(各種実施形態)
基板についてはn+−InP材料を想定したが、p+−InP基板や半絶縁性InP基板など、基板の種類によらないことはもちろんであるし、光吸収部の材料としてi−InGaAsP−InGaAsP MQWを想定したが、i−InGaAs/InGaAsP MQW、i−InGaAs/InP MQW層、i−InGaAlAs/InAlAs MQWなど、その他の多重量子井戸でもよいし、i−InGaAsPやi−InGaAlAsなどバルク材料でも良い。
【0071】
また、FeドープInPのような半絶縁性InPを用いた埋め込み装置と埋め込み技術は必要ないとしたが、もちろん用いても良いし、発生したジュール熱を基板に逃がすことができれば、これら以外の材料を用いてもよいことは言うまでもない。
【0072】
さらに、本発明は発熱した熱を分散させるためのものであるから、光を吸収し電流に変換した結果、熱を発生する半導体受光器のようなその他の半導体デバイスにも適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1:n+−InP基板
2、11、17、30、36、42:n−InP下部クラッド層
3、12、18、31、37、43:i−MQWコア層
4、13、23、25、32、38、44:p−InP上部クラッド層
5、14、26、33、39、45:p+−InGaAsコンタクト層
6、16、28、34、47:p電極
7:n電極
8:ポリイミド
9:ボンディングワイヤ
10、29、35、48:ボンディングパッド
15、27、46:i−InP埋め込み層
19、21:マスク
20、22:フォトレジスト
24:Fe−InP埋め込み層
40、41:光のモード(あるいは光の界分布)
【技術分野】
【0001】
本発明は小型で高速、かつ信頼性の高い吸収型半導体光変調器の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
(第1の従来技術)
光を吸収する機能を有する、いわゆる吸収型半導体光変調器の第1の従来技術として、非特許文献1に示すハイメサ型光変調器の概略斜視図を図9に示す。
【0003】
1はn+−InP基板、2はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、3はi−InGaAsPウェルと、ウェルとはバンドギャップエネルギ−が異なるi−InGaAsPバリアを複数組み合わせて構成した多重量子井戸(InGaAsP−InGaAsP Multiple Quantum Well: InGaAsP−InGaAsP MQW)コア層(この多重量子井戸層4はノンド−プ層なので、以下i−MQWコア層と略す)、4はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、5はp+−InGaAsコンタクト層、6は電気信号を印加するためのp電極、7はn電極、8はポリイミド、9はボンディングワイヤである。
【0004】
なお、p電極6のうち、ボンディングワイヤが接続されている箇所10はボンディングパッド部と呼ばれている。このハイメサ型半導体光変調器ではボンディングパッド部の電気的キャパシタンスを減らすために、比誘電率が小さなポリイミド8をその下に使用している。
【0005】
また、p−InPクラッド層4、i−MQWコア層3およびn−InPクラッド層2は光を導波する光導波路を構成している。ここでi−MQWコア層3はその屈折率がp−InPクラッド層4とn−InPクラッド層2よりも高く、光を導波する中心的な役割を有している。なお、ハイメサ光導波路を構成しているリッジ部の幅と長さは各々2μmおよび200μm程度である。
【0006】
この第1の従来技術の動作について説明する。電界が印加されていない時と逆バイアスを印加した時の光の吸収係数について波長を変数として図10に示す。図中、光変調器を動作させる波長を動作波長として示した。
【0007】
図10からわかるように、電界が印加されていない場合には、半導体光変調器を動作する波長においては光の吸収係数は充分小さく、半導体光変調器において光が入射する端面(以下、光入射端面と略す)に入射した光は反対側の光が出射する端面(以下、光出射端面と略す)から出射される。一方、p電極6とn電極7の間に逆バイアスを印加すると、光の吸収スペクトラムは長波長側に移動するため、光変調器の動作波長では光の吸収係数が大きくなり、光は吸収される。こうして、p電極6とn電極7間の逆バイアス電圧をONあるいはOFFにすることにより、光もOFFあるいはONされ、電気信号を光信号へと変換することができる。
【0008】
このハイメサ型光変調器において、光を吸収する機能を有するi−MQWコア層3は比誘電率εrが小さな空気(εr=1)で囲まれており、かつボンディングパッド部10の下にはやはり比誘電率εrが小さなポリイミド8(εr=3〜4)を使用しているので、その電気的キャパシタンスCは小さい。従って、電気的キャパシタンスCと負荷抵抗Rから制限される、いわゆるCR定数リミットによる3dB光変調帯域(=1/πRC、あるいは簡単に光変調帯域と言う)は、i−MQWコア層3の左右を全て半導体で埋め込んだ埋め込み構造のものより高く、ハイメサ型光変調器は高速光変調に適していると言える。
【0009】
図11(a)、(b)には逆バイアス印加時における光吸収に伴い発生する熱について、各々光変調器の長手方向とメサ中心からの幅方向における分布を示している。
【0010】
まず長手方向について考察する。長手方向、つまり光の伝搬方向において、光はi−MQWコア層3、p−InPクラッド層4およびn−InPクラッド層2からなる光導波路を伝播する間にその強度Pが
P=P0exp(−αz) (1)
のように、指数関数の式に従ってi−MQWコア層3により吸収される。ここで、P0は光入射端面における入射光のパワー、αは吸収係数、zは光入射端面からの距離である。指数関数は変数に対して急速に減衰する関数であるから、光は光入射端面から短い距離の間に急速に吸収され、電流Ip(これを光電流と呼ぶ)に変換される。
【0011】
一方、横方向(基板表面に水平方向)については、断面構造がハイメサ構造、つまりリッジ部の左右は空気である。空気の熱伝導率は半導体に比べて数桁小さいため、発生した熱はリッジ部の外部へはほとんど伝わらない。
【0012】
従って、長手方向には光入射端面からの短い距離内に、横方向にはハイメサのリッジ部に熱が溜まることになる。特に、高いパワーの光が入射すると印加電圧Vと光電流IPの積で表されるジュール熱(PJ=V・IP)はn−InPクラッド層2を通して基板1に逃がされるが、基板1に充分には伝えることができず、ハイメサのリッジ部に溜まる。そのため、リッジ部がこの高いジュール熱のために壊れてしまう。実験的にはハイメサ型光変調器への最大光入力パワーは10mW程度が限界であった。
【0013】
(第2の従来技術)
この光電流による熱破壊は図12にその概略斜視図を示す第2の従来技術の構造を採用することにより回避できる。ここで、1はn+−InP基板、11はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、12はi−MQWコア層、13はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、14はp+−InGaAsコンタクト層、15はi−InP埋め込み層、16は電気信号を印加するためのp電極、7はn電極である。
【0014】
図9に示した従来における第1の従来技術では光がi−MQWコア層3により吸収され、光電流Ipが生成された結果発生した熱は、リッジの左右が熱伝導率が極めて低い空気であるため逃げることができずにリッジに溜まり、結果的に素子破壊に至った。一方、この第2の従来技術では、i−MQWコア層12で光が吸収された結果発生したジュール熱を、n−InPクラッド層11を経由して基板1に逃がすとともに、左右のi−InP埋め込み層15を通じてn+−InP基板1に逃がしている。
【0015】
図13(a)には、図12に示した第2の従来技術において光の伝搬とともに光の伝搬軸に沿って発生する熱を、また図13(b)には半導体光変調器の光入射端面近傍での水平方向における熱の分布を示している。
【0016】
一般に半導体は熱伝導率が高いので、n−InPクラッド層11やi−MQWコア層12の上下左右を囲んでいるi−InP埋め込み層15などの半導体を通して、発生した熱は急速にn+−InP基板1に伝えられ、その結果、第1の従来技術に比較してi−MQWコア層12を中心とした熱分布のピーク値が低くなっていることがわかる。このため、この第2の従来技術は耐光入力特性が優れた構造と言える。
【0017】
しかしながら、この第2の従来技術では広い面積のp−InPクラッド層13、i−InP埋め込み層15、n+−InP基板1により形成される電気的キャパシタンスCと負荷抵抗Rから制限される、いわゆるCR定数リミットによる3dB光変調帯域(=1/πRC、あるいは変調帯域)が、ハイメサ型光変調器よりも著しく低く、高速光変調には適用できないという問題があった。
【0018】
そして、さらにこの第2の従来技術では比較的簡単な結晶再成長とはいえ、やはり結晶再成長は含む製造工程が長いという問題がある。次に、これについて説明する。
【0019】
図14に第2の従来技術の製造工程を抜粋して示す。
【0020】
工程(a)では、n+−InP基板1の上にn−InPクラッド層17、i−MQWコア層18を結晶成長する。次に、SiO2マスク19を堆積した後に、フォトレジスト20をスピンコートする。
【0021】
工程(b)では、工程(a)のフォトレジスト20を22のようにパターニングし、このフォトレジスト22を用いて、工程(a)のSiO2マスク19を21のようにエッチングする。
【0022】
工程(c)では、工程(b)において規定したフォトレジスト22とSiO2マスク21を用いて、工程(b)のi−MQWコア層18とn−InPクラッド層17を各々12、11のようにエッチングする。
【0023】
工程(d)では、工程(c)のフォトレジスト22を除去した後、SiO2マスク21を結晶再成長におけるマスクとして用い、i−InP埋め込み層15を再成長する。
【0024】
工程(e)では、工程(d)で使用したSiO2マスク21を除去した後、p−InPクラッド層13、p+−InGaAsコンタクト層14を成長する。
【0025】
図12に示した実際の半導体光変調器とするには、工程(e)の後、n+−InP基板1を100μm程度に薄く研磨する。次に、p+−InGaAsコンタクト層14の上にp電極16を、またn+−InP基板1の裏にn電極7を形成する。
【0026】
このように、この第2の従来技術はCR定数リミットによる光「変調帯域が狭いことと、次に述べる第3の従来技術よりは簡単な結晶再成長とはいうものの、やはり結再晶成長が必要であるためその製造工程が長いという問題がある。
【0027】
(第3の従来技術)
図12に示した広い面積のp−InPクラッド層13、i−InP埋め込み層15、n+−InP基板1により形成されるp−i−n接合の電気的キャパシタンスCを低減するために、非特許文献2に報告されている図15に示すような第3の従来技術が広く用いられている。
【0028】
この第3の従来技術では図12に示したプロセス工程とほぼ同様の手順でn−InPクラッド層11の上に、i−MQWコア層12を成長した後、さらにp−InPクラッド層24を成長する。これらをハイメサ構造にエッチングした後、それらの横をFeドープInP埋め込み層24により埋め込んでいる。
【0029】
この24はInPにFe原子をドーピングすることにより、絶縁抵抗を高めたFeドープInP埋め込み層(半絶縁性InP埋め込み層、あるいはFe−InP埋め込み層と呼ぶ)である。
【0030】
Fe−InP埋め込み層24も熱伝導率が高いので、この第3の従来技術も耐光入力特性が優れた構造と言える。そして、第3の従来技術ではFe―InP埋め込み層24を用いているので、p−i−n接合により電気的キャパシタンスが大きい図12の第2の従来技術と比較して電気的キャパシタンスが小さいという大きな利点がある。
【0031】
しかしながら、この第3の従来技術はFe−InP埋め込み層24を結晶再成長する際にn−InPクラッド層11、i−MQWコア層12、及びp−InPクラッド層23により形成されるメサの高さが高いので結晶再成長が難しいばかりでなく、大きな問題がある。つまり、Fe−InP埋め込み層24を形成するためには、ドーパントをFeとする結晶成長炉を専用に持つ必要がある。一般に結晶成長装置を持つには安全装置も含めると数億円という高額な設備投資が必要である。
【0032】
さらに、このFe原子とp−InPクラッド層12のドーパントであるZnは互いに相互拡散し易く、その結果著しく電気的キャパシタンスが大きくなり、電気的な高速動作が困難となってしまう。そのため、その結晶再成長の条件出しに長い時間が必要であるという問題があった。一般にFe−InP埋め込み層24の結晶再成長条件を見出すことは、図12に示したi−InP埋め込み層15の結晶再成長条件を見出すことよりはるかに難しい。つまり、図15に示した第3の従来技術を実現するには多額の設備投資のみならず長い開発期間を要するという問題があった。
【0033】
(第4の従来技術)
第3の従来技術のような高額な設備投資を必要とするとともに結晶の再成長条件を見出すことが難しいFe−InP埋め込み層を用いず、第2の従来技術のように結晶再成長が比較的簡単なi−InP埋め込み層を用い、かつ第2の従来技術で問題であったp−i−n接合による電気的キャパシタンスを低減するために特許文献3に開示された構造の概略斜視図を図16に示す。なお、その上面図を図17に示す。
【0034】
ここで、11はn−InPクラッド層、12はi−MQWコア層、25はp−InPクラッド層、26はp+−InGaAsコンタクト層、27はi−InP埋め込み層、28は電気信号を印加するためのp電極、7はn電極である。
【0035】
図16と図17からわかるように、この第4の従来技術は、光の吸収に伴う発熱量が大きな光入射の端面近傍に図12に示した第2の従来技術と同様の構造を有している。これにより、発生した熱を効果的にn+−InP基板1に逃がすことができる、そのためこの発生した熱により素子が破壊されることはない。一方、光電流が小さな領域ではメサの幅を狭くしてp−i−n接合による電気的キャパシタンスを小さくしている。その結果、第4の従来技術を採用することにより、素子破壊を避けるととともに高周波での動作が可能となった。
【0036】
しかしながら、図15の説明で述べたように、Fe−InP埋め込み層24よりは容易とはいえ、やはり結晶再成長が必要であるので、コストを下げるにはさらに簡単な製造工程の吸収型半導体光変調器を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】IEEE、Journal of Quantum Electronics、vol.28、pp.224−230、1992
【非特許文献2】1993年電子情報通信学会春季大会C−153
【特許文献】
【0038】
【特許文献1】特許第3913161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0039】
以上のように、第1の従来技術のようなハイメサ型半導体光変調器においては、高いパワーの光が入射すると、印加電圧と光吸収部において生じた電流に起因する大きなジュール熱がハイメサのリッジ部に溜まり、リッジ部が熱破壊される。ところが、これを避けるためにi−InPにより埋め込むと電気的キャパシタンスが大きくなり、高速動作が困難になる。この電気的キャパシタンスを小さくするためには、Fe−InPにより埋め込むことが有効ではあるが、多額の設備投資と結晶再成長の条件出しに長い開発期間が必要である。さらにi−InPで埋め込むとともに、光が入射する端面近傍ではその埋め込み層の幅を広くし、光が伝搬する方向に沿ってメサの幅を狭くする第4の従来技術では熱破壊を避けることができ、かつ高速動作が可能となったが、SiO2やSiNxをマスクとした結晶再成長がやはり必要である。そして結晶再成長では歩留まりが100%とはならず、また製造工程が長いので吸収型半導体光変調器としてのコストが高くなる。従って、コストを下げるためにはさらに簡単な製造工程により製作できる吸収型半導体光変調器の開発が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0040】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項1に記載の吸収型半導体光変調器では、半導体基板上に、少なくとも光を吸収する機能を有するコア層を含む光導波路を形成し、該光導波路は光入射端面を有しており、前記光入射端面から入射した光が前記光導波路を伝搬する過程で前記コア層に吸収されることにより光電流が生成される吸収型半導体光変調器において、前記コア層は、前記生成された光電流に起因するジュール熱による熱破壊を避けるために、前記ジュール熱を前記半導体基板に逃がすように、前記光入射端面側の幅が広く形成されているとともに前記光の伝搬方向に向かって狭くなって形成され、また、前記光入射端面側の前記光導波路がマルチモード光導波路を構成していることを特徴としている。
【0041】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項2に記載の吸収型半導体光変調器では、請求項1に記載の吸収型半導体光変調器において、前記コア層の幅を曲線形状、直線形状、および階段形状の少なくとも一つの形状に従って狭くしていくことを特徴としている。
【0042】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項3に記載の吸収型半導体光変調器では、請求項1または2に記載の吸収型半導体光変調器において、前記光導波路がハイメサ型光導波路であることを特徴としている。
【0043】
上記の課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の吸収型半導体光変調器では、請求項1または2に記載の吸収型半導体光変調器において、前記光導波路が埋め込み型光導波路であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0044】
本発明では、光が吸収されることにより大きな熱が発生する領域に幅の広いコアを設けることにより、生じたジュール熱を基板に逃がす。光電流が少なくなる領域では発生するジュール熱が小さいので、幅の狭いコアを設けて基板に逃がす。よって、本発明を用いることにより、光が伝搬する方向に沿って上面から見たコアの面積を必要最小限とすることができるので、電気的キャパシタンスを無為に大きくすることがなく、ジュール熱による素子破壊を避けるとともに高速光変調が可能となる。
【0045】
また光が入射する側の光導波路がマルチモードを伝搬するようにコアの幅が広く構成されているので、光の結合損失が小さく、その結果吸収型半導体光変調器として挿入損失が小さいという大きな利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図2】本発明の第1の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の上面図
【図3】本発明の第1の実施形態を製作するために結晶成長したウェーハ断面図
【図4】(a)は図2のB−B´側の端面近傍を伝搬する光のモード、(b)は図2のA−A´側の端面近傍を伝搬する光のモードを示す
【図5】本発明の第2の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図6】本発明の第2の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の上面図
【図7】本発明の第3の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す上面図
【図8】本発明の第4の実施形態に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図9】第1の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図10】第1の従来技術の動作原理を説明する図
【図11】第1の従来技術の問題点を説明する図
【図12】第2の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図13】第2の従来技術の利点を説明する図
【図14】第2の従来技術の製造工程を説明する図
【図15】第3の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図16】第4の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の概略構成を示す斜視図
【図17】第4の従来技術に係わる吸収型半導体光変調器の上面図
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図9から図17に示した従来技術と同一番号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一番号を持つ機能部の説明を省略する。
【0048】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態における吸収型半導体光変調器についてその概略斜視図を図1に示す。ここで、30はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、31はi−MQWコア層、32はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、33はp+−InGaAsコンタクト層、34は電気信号を印加するためのp電極である。35はボンディングパッド部である。
【0049】
また、第1の実施形態の上面図を図2に示す。本発明の効果を最も大きく発揮するために、この第1の実施形態では光導波路をハイメサ構造としている。光が入射する端面近傍の幅Winは22μm程度、光が出射する端面近傍の幅Woutは2μm程度、そしてテーパ領域の長さLinは30μm程度である。このように、この第1の実施形態では光が入射する端面近傍の半導体材料の幅を広くしている(発生した大きな熱をn+−InP基板1に伝えるために幅を広くした領域を熱伝導用半導体部という)。そして、この幅を広くした光入射端面側の光導波路をマルチモード光導波路としている。
【0050】
従って、第4の従来技術と同様に本実施形態は光を光電流に変換する際に大きな熱が発生しても素子の破壊を避けることができる。なお、これらの寸法はあくまで一つの例であり、吸収されて大きな熱を発生する光入射側のi−MQWコア31の幅Winが、大きな光が入射する領域以外のコアを含む半導体の幅(ここでは、光出射側のi−MQWコア31の幅Wout)よりも広い限り、これら以外の値であってもよいことは言うまでもない。
【0051】
この第1の実施形態の製作に当たっては、まず図3に示すように、n+−InP基板1の上に、n−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)36、i−MQWコア層37、p−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)38、p+−InGaAsコンタクト層39を結晶成長した後、図1のように例えば指数関数やべき乗型などの曲線のテーパ形状にエッチングをし、その後p電極34とn電極7を形成する。このように、本発明における第1の実施形態の製作においては結晶再成長をしなくてよいので、その製作工程は極めて簡単である。
【0052】
さらに、図2からわかるように本発明では第4の従来技術と同じく、光が伝搬するに従ってメサの幅を狭くしている。従って、第4の従来技術と同様に、電気的キャパシタンスCを第2の従来技術よりも極めて低減することが可能となる。つまり、第4の従来技術と同じく電気的キャパシタンスCと負荷抵抗RによりCR定数から規定される光変調帯域を、第2の従来技術と比較して大幅に改善できる。
【0053】
このように、本発明では、1回の結晶成長で形成することができるので製作工程が極めて簡単となり、第4の従来技術と比較して吸収型半導体光変調器としてのコストを著しく低減できる。さらにi−MQWコア31が広いために大きなパワーの光を吸収しても発熱により壊れることがなく、また高周波光変調が可能になるという大きな利点がある。
【0054】
さて、次に本発明の大きな特徴であるモード伝搬とその結果である光の結合損失(あるいは挿入損失)の観点から議論する。実際には図2に示されているように、本発明において光は入射側のA−A´側から入射し、出射側のB−B´側から出射する構成であるが、逆に本来は出射側であるB−B´側から光を入射し、本来は入射側のA−A´側から光を出射することを想定する。
【0055】
図4(a)の40は光が入射したB−B´近傍のハイメサ型の光導波路を伝搬する光のモード(あるいは、光の界分布)である。この様子から単一モードが伝搬していることがわかる。図4(b)の41はB−B´側から入射した光がA−A´側から出射される際のモード(あるいは、光の界分布)であり、B−B´側の光のモード40とよく似た形となっている。以下、その理由について説明する。
【0056】
図2において、A−A´側のメサの幅は広く、水平方向にマルチモード光導波路としている。そのため、A−A´側の固有モードをφ0、φ1、、、、φnー1、φnとすると、B−B´側を伝搬する光ψはA−A´側の固有モードφ0、φ1、、、、φnー1、φnを用いて
ψ=c0φ0+c1φ1+・・・+cn−1φn−1+cnφn (2)
のように、展開できる。ここで、c0、c1、・・・cn−1、cnは展開係数である。
【0057】
つまり、(2)式はA−A´側のメサの幅がB−B´側のメサの幅よりも広く、より多くのモードを伝搬できるので、B−B´側を伝搬する光ψの形を再現できるように、展開係数c0、c1、・・・cn−1、cnが自動的に調整されていることを意味している。従って、図2のLinで示した領域はあたかも自由空間のようにみなすことができる。
【0058】
以上のことは本実施形態の本来の使用方法であるA−A´側から光を入射した場合にも同じである。つまり、A−A´側から光を入射してもその入射光はA−A´側のマルチモードを用いて(2)式のように展開され、入射光のモードの形をほぼ保ったまま、図2のLinで示した領域を自由空間のように伝搬する。
【0059】
これらを電磁界解析的に厳密に表現すると、入射光は自由空間を伝搬しているのではなく、マルチモードを構成する各モードが入射光のエネルギーを分担して運び、それらのマルチモードを合成した結果、あたかも自由空間を伝搬しているように見えると言うことができる。
【0060】
また、n+−InP基板1へのジュール熱の伝導効率を高めるためにp−InPクラッド32の幅を広くする際に、その際に界分布が奇関数である1次の高次モードまで励振される程度に広くすると、より高次モードまで励振されるようにp−InPクラッド32の幅を広くした場合と比較して光の結合損失という観点からは不利となるものの、熱破壊に対して強くなるという本発明の効果を発揮することができる。
【0061】
なお、光導波路の単一モード性やマルチモード性は単にハイメサ光導波路のメサの幅や埋め込み光導波路の埋め込まれたコアの幅により決定されるわけではない。つまり、ハイメサの場合にはコアの厚み、及びコアと上下のクラッドとの屈折率の差が、また埋め込み光導波路の場合には埋め込まれたコアの厚み、及び埋め込まれたコアと上下あるいは左右のクラッドとの屈折率の差が重要な影響を与える。従って、メサの幅や埋め込まれたコアの幅を広くしても単一モードとできるが、本発明では光導波路をあえてマルチモードとすることにより、入射光の結合損失、ひいては吸収型半導体光変調器としての挿入損失を低減している。
【0062】
また、図2のLinの長さは10μm〜30μm、あるいはせいぜい50μm程度と短いので、A−A´に入射した光はほとんどモード形状を保ったまま(厳密には少し広がりつつ)伝搬するので、吸収型半導体光変調器としての光の挿入損失が大幅に増加することはない。
【0063】
一方、本発明と異なり、(i−MQWコア層31の厚みを薄くするなどして)A−A´側を単一モード条件を保ちつつメサの幅を広げると、その単一モードは極めて扁平な形状となり、A−A´での光の結合効率、及び図2において光の入射側の端面からLinの距離の点でB−B´側に向かう領域への光の結合効率が著しく劣化し、結果的に挿入損失が大きくなってしまう。つまり、本発明ではA−A´側をマルチモードとすることにより、そうした問題を解決している。さらに図2のLinの領域をテーパ形状としているので、挿入損失の増加を効果的に抑えている。
【0064】
(第2の実施形態)
本発明における熱伝導用半導体部の幅について、指数関数やべき乗関数の場合ほど効果的ではないが、熱伝導用半導体部の幅を指数関数やべき乗関数以外の曲線やあるいは直線の形状で光の伝搬方向に沿って幅を狭くしても良い。例として、図1に示した本発明における第1の実施形態について熱伝導用半導体部のテーパ部の曲線形状を直線形状とした場合を本発明における第2の実施形態の吸収型半導体光変調器としてその概略斜視図を図5に、上面図を図6に示す。図中、図1に示す第1の実施形態の吸収型半導体光変調器と同一部分には同一符号を付して、重複する部分の詳細説明を省略した。
【0065】
なお、以上の説明においては、メサの幅を狭くする際の形状として、指数関数やべき乗曲線と直線について説明したが、その他に三角関数などあらゆる曲線でもよいし、直線と曲線の組み合わせでも良いことは言うまでもない。さらに、メサの幅を直線では無く階段状に不連続に狭くしても良い。
【0066】
(第3の実施形態)
図7は本発明における第3の実施形態における吸収型半導体光変調器の上面図である。図7からわかるように本実施形態では光が入射側するマルチモード領域の形状を矩形としている。テーパ形状の場合と比較して矩形とすると挿入損失がやや増えるものの本発明としての効果に問題はない。
【0067】
(第4の実施形態)
図8は本発明における第4の実施形態における吸収型半導体光変調器の概略斜視図である。ここで、42はn−InP下部クラッド層(あるいは簡単に、n−InPクラッド層)、43はi−MQWコア層、44はp−InP上部クラッド層(あるいは簡単に、p−InPクラッド層)、45はp+−InGaAsコンタクト層、46はi−InP埋め込み層、47電気信号を印加するためのp電極である。48はボンディングパッド部である。
【0068】
第4の実施形態と図1に示したハイメサ光導波路の構造である本発明の第1の実施形態と異なり、第4の実施形態では図8に示されているようにi−MQWコア層43の左右にi−InP埋め込み層46があり、いわば本実施形態は埋め込み光導波路の構造となっている。なお、本実施形態においても光入射端面側のi−MQWコア層43の幅を光出射端面側のi−MQWコア層43の幅よりも広く構成し、この光入射端面側の光導波路をマルチモード光導波路としている。
【0069】
本実施形態では図8からわかるように本実施形態は結晶再成長を行う必要がある。従って、本実施形態により製作した半導体光変調器は本発明の他の実施形態と比較してコストの観点から不利ではあるが、光の入射側の光導波路がマルチモードであるため光の挿入損失が小さいという利点は有している。
【0070】
(各種実施形態)
基板についてはn+−InP材料を想定したが、p+−InP基板や半絶縁性InP基板など、基板の種類によらないことはもちろんであるし、光吸収部の材料としてi−InGaAsP−InGaAsP MQWを想定したが、i−InGaAs/InGaAsP MQW、i−InGaAs/InP MQW層、i−InGaAlAs/InAlAs MQWなど、その他の多重量子井戸でもよいし、i−InGaAsPやi−InGaAlAsなどバルク材料でも良い。
【0071】
また、FeドープInPのような半絶縁性InPを用いた埋め込み装置と埋め込み技術は必要ないとしたが、もちろん用いても良いし、発生したジュール熱を基板に逃がすことができれば、これら以外の材料を用いてもよいことは言うまでもない。
【0072】
さらに、本発明は発熱した熱を分散させるためのものであるから、光を吸収し電流に変換した結果、熱を発生する半導体受光器のようなその他の半導体デバイスにも適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
1:n+−InP基板
2、11、17、30、36、42:n−InP下部クラッド層
3、12、18、31、37、43:i−MQWコア層
4、13、23、25、32、38、44:p−InP上部クラッド層
5、14、26、33、39、45:p+−InGaAsコンタクト層
6、16、28、34、47:p電極
7:n電極
8:ポリイミド
9:ボンディングワイヤ
10、29、35、48:ボンディングパッド
15、27、46:i−InP埋め込み層
19、21:マスク
20、22:フォトレジスト
24:Fe−InP埋め込み層
40、41:光のモード(あるいは光の界分布)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に、少なくとも光を吸収する機能を有するコア層を含む光導波路を形成し、該光導波路は光入射端面を有しており、前記光入射端面から入射した光が前記光導波路を伝搬する過程で前記コア層に吸収されることにより光電流が生成される吸収型半導体光変調器において、
前記コア層は、前記生成された光電流に起因するジュール熱による熱破壊を避けるために、前記ジュール熱を前記半導体基板に逃がすように、前記光入射端面側の幅が広く形成されているとともに前記光の伝搬方向に向かって狭くなって形成され、
また、前記光入射端面側の前記光導波路がマルチモード光導波路を構成していることを特徴とする吸収型半導体光変調器。
【請求項2】
前記コア層の幅を曲線形状、直線形状、および階段形状の少なくとも一つの形状に従って狭くしていくことを特徴とする請求項1に記載の吸収型半導体光変調器。
【請求項3】
前記光導波路がハイメサ型光導波路であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸収型半導体光変調器。
【請求項4】
前記光導波路が埋め込み型光導波路であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸収型半導体光変調器。
【請求項1】
半導体基板上に、少なくとも光を吸収する機能を有するコア層を含む光導波路を形成し、該光導波路は光入射端面を有しており、前記光入射端面から入射した光が前記光導波路を伝搬する過程で前記コア層に吸収されることにより光電流が生成される吸収型半導体光変調器において、
前記コア層は、前記生成された光電流に起因するジュール熱による熱破壊を避けるために、前記ジュール熱を前記半導体基板に逃がすように、前記光入射端面側の幅が広く形成されているとともに前記光の伝搬方向に向かって狭くなって形成され、
また、前記光入射端面側の前記光導波路がマルチモード光導波路を構成していることを特徴とする吸収型半導体光変調器。
【請求項2】
前記コア層の幅を曲線形状、直線形状、および階段形状の少なくとも一つの形状に従って狭くしていくことを特徴とする請求項1に記載の吸収型半導体光変調器。
【請求項3】
前記光導波路がハイメサ型光導波路であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸収型半導体光変調器。
【請求項4】
前記光導波路が埋め込み型光導波路であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸収型半導体光変調器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図10】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−217373(P2010−217373A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62623(P2009−62623)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】
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