説明

吸収性の改善されたコエンザイムQ10経口製剤

【課題】 コエンザイムQ10の経口吸収性が悪い人にも効率良く経口吸収されるとともに、老人や病人でも容易に摂取することができる、経口吸収性の改善されたコエンザイムQ10製剤を提供する。
【解決手段】 常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステルにコエンザイムQ10を分散させて吸収性の改善されたコエンザイムQ10経口製剤を調製する。好ましい配合割合は、飽和脂肪酸多価アルコールエステル100重量部当りコエンザイムQ100.1〜100重量部であり、飽和脂肪酸多価アルコールエステルとしては、炭素数8〜22の飽和脂肪酸のグリセリンエステルを使用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収性の改善されたコエンザイムQ10経口製剤、特にコエンザイムQ10の吸収性が悪い人に対しても良好な吸収性を示すコエンザイムQ10経口製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コエンザイムQ10は、生体内の細胞中におけるミトコンドリアの電子伝達系構成成分として存在する生理学的成分であり、生体内において酸化と還元を繰り返すことで電子伝達系における伝達成分としての機能を担っている。コエンザイムQ10は生体において、エネルギー生産、膜安定化および抗酸化活性を示すことから、その有用性は広く知られている。コエンザイムQ10は、ヒトの体内で生合成される分子であるが、加齢と共に生合成量が低下することや、様々な疾患において生体中のコエンザイムQ10が減少することが報告されている。そして、このような疾患では、外部からのコエンザイムQ10の供給が良好な結果をもたらすことも知られている。更に、罹患時だけではなく老人や肉体的に疲労したときなど、平常時でもコエンザイムQ10の補給が必要であると考えられている。
【0003】
コエンザイムQ10のうち、酸化型コエンザイムQ10は、鬱血性心不全薬として医療用途に用いられている。医薬用途以外では、ビタミン類同様、栄養剤、栄養補助剤として用いられる他、痴呆症などの老人性の疾患、アレルギー疾患に対する有効性、あるいは運動能力の増加なども報告されている。また、安全性が高いことから有用な栄養補給の手段として、各種の健康食品、サプリメント等としても使用されている。しかしながら、コエンザイムQ10は疎水性の分子であるため経口吸収性が悪く、充分な効果が得られにくいため期待されたほどの効果が得られていないのが現状である。
【0004】
コエンザイムQ10の経口吸収性を改善するために種々の提案がなされており、例えばコエンザイムQ10を落花生油、大豆油、オリーブ油等の食用油に溶解させてカプセル化したものや(例えば特許文献1、2参照)、コエンザイムQ10を多価不飽和脂肪酸に配合してマヨネーズとしたものがある(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2003−88330号公報
【特許文献2】特開2003−125734号公報
【特許文献3】特開2003−153666号公報
【0005】
これらの提案は、いずれも常温で液状の不飽和脂肪酸或いはそのエステル(グリセリンエステル)を主成分とする油脂類にコエンザイムQ10を溶解ないし分散させたものであり、コエンザイムQ10を錠剤としたものよりは一般に吸収性が良いと言われている。しかしながら、コエンザイムQ10の経口吸収性には人により大きな差異があり、これら従来の技術で得られたコエンザイムQ10では、経口吸収性の良い人と悪い人の間では5〜6倍の差異が生じると言われている。 また、コエンザイムQ10をソフトカプセル等の形態としたものは、老人や病人にとっては飲みにくく、より容易に経口摂取することのできるコエンザイムQ10製剤が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は上記従来技術の問題点を解消して、コエンザイムQ10の経口吸収性が悪い人にも効率良く経口吸収されるとともに、老人や病人でも容易に摂取することができる、経口吸収性の改善されたコエンザイムQ10製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討した結果、常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステルにコエンザイムQ10を分散させて製剤化することによって、上記課題が解決されることを見出し本発明を完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明はつぎの1〜6の構成をとるものである。
1.常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステルにコエンザイムQ10を分散させて含有することを特徴とする吸収性の改善されたコエンザイムQ10経口製剤。
2.常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステル100重量部当り、0.1〜100重量部のコエンザイムQ10を含有することを特徴とする1に記載の経口製剤。
3.飽和脂肪酸多価アルコールエステル100重量部当り、1〜15重量部のコエンザイムQ10を含有することを特徴とする1又は2に記載の経口製剤。
4.飽和脂肪酸多価アルコールエステルが炭素数8〜22の飽和脂肪酸のグリセリンエステルであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載の経口製剤。
5.経口製剤が固形状の加工食品であることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の経口製剤。
6.1〜5のいずれかに記載の経口製剤を添加した食品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のコエンザイムQ10製剤では経口吸収性の悪い人に対しても、著しく経口吸収性が改善されたコエンザイムQ10製剤を得ることができる。本発明のコエンザイムQ10製剤は、従来のコエンザイムQ10製剤で経口吸収性の良い人に対しても、同等以上の経口吸収性を示すとともに、食後に限らず空腹時に摂取した場合にも経口吸収性が低下しない。また、チョコレートやクッキー等の固形状の加工食品の形態とすることにより、老人や病人でもおやつを食べるような感覚で容易に摂取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステルにコエンザイムQ10を分散させることにより、吸収性の改善されたコエンザイムQ10経口製剤を調製する。
コエンザイムQ10としては酸化型、還元型或いはこれらの混合物のいずれでもよいが、通常は酸化型コエンザイムQ10を使用する。
【0011】
飽和脂肪酸多価アルコールエステルを構成する飽和脂肪酸としては、炭素数が8〜22の脂肪酸が好ましく、具体的には例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸等が挙げられる。
また、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール等の2価アルコール、グリセン等の3価アルコール等が挙げられる。
【0012】
飽和脂肪酸多価アルコールエステルは合成品、天然品のいずれでもよく、モノエステル、ジエステル、トリエステル等を使用することができ、これらの混合物を用いてもよい。また、種類の異なる脂肪酸或いは多価アルコールのエステル類を組み合わせて使用してもよい。
好ましい飽和脂肪酸多価アルコールエステルとしては、炭素数12〜20のグリセリンエステルが挙げられ、モノエステル、ジエステル、トリエステル、或いはこれらの混合物を使用することができる。また、カカオバターのように飽和脂肪酸グリセリンエステルを主成分とし、少量の不飽和脂肪酸グリセリンエステルを含有する天然の油脂を使用してもよい。
【0013】
飽和脂肪酸多価アルコールエステルとコエンザイムQ10の配合割合は、飽和脂肪酸多価アルコールエステル100重量部に対してコエンザイムQ10を0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜30重量部、特に好ましくは1〜15重量部とすることができる。
コエンザイムQ10の配合割合が少ない場合には、必要とされるコエンザイムQ10を摂取するために、多量の経口製剤をとることが必要となる。一方、コエンザイムQ10の配合割合が多い場合には、エステル中に均一に分散させることが困難になる。
【0014】
本発明のコエンザイムQ10経口製剤は、飽和脂肪酸多価アルコールエステルとコエンザイムQ10の配合物のみにより構成することができる。また、この配合物に、必要に応じてビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類やその誘導体;ミネラル類;生薬;ハーブ類や;乳糖、ショ糖、デキストリン、澱粉、結晶セルロース等の賦形剤;甘味料;香料等を添加することもできる。
【0015】
本発明のコエンザイムQ10経口製剤の形態には特に制限はないが、例えばチョコレートのような固形状の加工食品、或いはこのような加工食品を塗布又は含有するビスケット、クッキー等の加工食品とした場合には、おやつを食する感覚で容易に摂取することができるので好ましい。また、上記固形状の加工食品を、調味料のように各種の食品類に添加してもよい。
【0016】
本発明のコエンザイムQ10経口製剤の製造方法には特に制限はなく、例えば、(1)常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステルを加熱溶解し、粉末或いは粒状のコエンザイムQ10を加えて加熱しながら充分に撹拌混合した後に冷却する、(2)微粉砕した飽和脂肪酸多価アルコールエステル及びコエンザイムQ10を乳鉢等で混合し、加熱溶解後冷却する、等の方法によって製造することができる。
【0017】
つぎに、実施例により本発明の経口製剤についてさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
コエンザイムQ10粉末10g、カカオマス(ステアリン酸、パルミチン酸のトリグリセリドを主成分とし少量成分としてオレイン酸トリグリセリドを含有するカカオバターを、約50重量%含有する)250g、ショ糖240gを粉砕混合し、加熱溶解した後にアルミ箔からなる型枠に流し込み、冷却後冷蔵庫中で固化させて1個の重量が15gのチョコレート様の経口製剤を調製した。この経口製剤1個には、300mgのコエンザイムQ10が含有されている。
【0018】
(経口吸収性試験)
4名の被験者を対象として、実施例1で得られた経口製剤を7日間投与し、8日目の午後3時頃に採血し、血漿中のコエンザイムQ10の濃度を、「Yamashita and Y. Yamamoto, Simultaneous detection of ubiquinol and ubiquinone in human plasma as a marker of oxidative stress, Anal. Biochem., 250, 66-73(1997)」に記載の方法に準じて測定した。
被験者1〜3には、毎夕食後に300mgのコエンザイムQ10を含む経口製剤1個を投与し、被験者4には朝食前の空腹時に同じく経口製剤1個を投与した。
【0019】
比較のために、同様の投与方法で下記の市販のコエンザイムQ10ソフトカプセル3種類を、1日当りのコエンザイムQ10の投与量が300mgとなるように各被験者に投与し、同様にして血漿中のコエンザイムQ10の濃度を測定した。
(A社市販品):コエンザイムQ10をサフラワー油(リノール酸及びオレイン酸のトリグリセリドを主成分とする)に溶解して調製したソフトカプセル。
(B社市販品):コエンザイムQ10を大豆油(オレイン酸、リノール酸、リノレン酸のトリグリセリドを主成分とし、少量の炭素数14〜16の飽和脂肪酸トリグリセリドを含有する)に溶解して調製したソフトカプセル。
(C社市販品):コエンザイムQ10をオリーブ油(オレイン酸トリグリセリドを主成分とする)に溶解して調製したソフトカプセル。
【0020】
上記試験で得られた、各被験者の血漿中のコエンザイムQ10の濃度(10コエンザイムQ10/全コレステロール)を図1に示す。なお、コエンザイムQ10は元々生体中に存在する物質であるため、図1には各被験者の血漿中に元々存在した値(コエンザイムQ10製剤の摂取前に採血した血漿中の濃度)を差引いた、コエンザイムQ10の増加量を表記した。
【0021】
図1によれば、被験者1及び2は、被験者3に比較して、従来のコエンザイムQ10製剤を投与した場合には経口吸収性が不良であるが、本発明の経口製剤を投与した場合には経口吸収性が著しく改善されることが判明した。
被験者3では、従来のコエンザイムQ10製剤を投与した場合でも経口吸収性が良好であるが、本発明の経口製剤を投与した場合にも従来の経口製剤と同等以上の経口吸収性があることが判る。
【0022】
また、空腹時にコエンザイムQ10製剤を投与した被験者4の場合には、従来の経口製剤を投与した場合に比較して、本発明の経口製剤を投与した場合には経口吸収性が大幅に改善されることが判明した。
したがって、本発明のコエンザイムQ10経口製剤は、食後に限らず空腹時に摂取した場合にも良好な経口吸収性を有することから、投与時間の制約がなくなり極めて実用性に富むものである。
【0023】
(実施例2)
コエンザイムQ10粉末3g、カカオバター100g、ショ糖97gを粉砕混合し、加熱溶解した後にアルミ箔からなる型枠に流し込み、冷却後冷蔵庫中で固化させて1個の重量が20gのチョコレート様の経口製剤を調製した。この経口製剤1個には、300mgのコエンザイムQ10が含有されている。この経口製剤は、実施例1の経口製剤と同様に、良好な経口吸収性を有する。
【0024】
(実施例3)
カカオバターに代えて、パルミチン酸トリグリセリド50gとステアリン酸トリグリセリド50gを使用した以外は、実施例2と同様にして、同様の経口製剤を調製した。この経口製剤は、実施例1の経口製剤と同様に、良好な経口吸収性を有する。
【0025】
(実施例4)
カカオバターに代えて、ラウリン酸トリグリセリド50gとミリスチン酸トリグリセリド50gを使用した以外は、実施例2と同様にして、同様の経口製剤を調製した。この経口製剤は、実施例1の経口製剤と同様に、良好な経口吸収性を有する。
【0026】
上記のとおり、本発明によれば、従来のコエンザイムQ10製剤では経口吸収性の悪い人に対しても、著しく経口吸収性が改善されたコエンザイムQ10製剤を得ることができる。本発明のコエンザイムQ10製剤は、従来のコエンザイムQ10製剤で経口吸収性の良い人に対しても、同等以上の経口吸収性を示すとともに、食後に限らず空腹時に摂取した場合にも経口吸収性が低下しない。
また、そのままで、或いはチョコレートやクッキー等の固形状の加工食品の形態とすることにより、老人や病人でもおやつを食べるような感覚で容易に摂取することができるので、実用的価値が高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】コエンザイムQ10製剤を摂取した際の、血漿中のコエンザイムQ10濃度の増加量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステルにコエンザイムQ10を分散させて含有することを特徴とする吸収性の改善されたコエンザイムQ10経口製剤。
【請求項2】
常温で固体の飽和脂肪酸多価アルコールエステル100重量部当り、0.1〜100重量部のコエンザイムQ10を含有することを特徴とする請求項1に記載の経口製剤。
【請求項3】
飽和脂肪酸多価アルコールエステル100重量部当り、1〜15重量部のコエンザイムQ10を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の経口製剤。
【請求項4】
飽和脂肪酸多価アルコールエステルが炭素数8〜22の飽和脂肪酸のグリセリンエステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の経口製剤。
【請求項5】
経口製剤が固形状の加工食品であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の経口製剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の経口製剤を添加した食品。









【図1】
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【公開番号】特開2006−176415(P2006−176415A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368737(P2004−368737)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(502437827)株式会社分子生理化学研究所 (2)
【Fターム(参考)】