説明

吸引カテーテル及び吸引カテーテルセット

【課題】高粘性物質の吸引によっても閉塞しにくい吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットを提供する。
【解決手段】本発明に係る吸引カテーテル100は、一端側から陰圧がかけられる外管11と、外管11内に設けられ、一端側から液体が供給される内管12と、内腔が形成され、外管11の一端が接続されるとともに内管12が挿通される開口部21、内腔を介して外管11に陰圧をかける陰圧発生器30が接続される吸引ポート22、及び、内腔を介して内管12の一端から液体を供給する液体貯留部40が接続される液体供給ポート23が形成されたアダプター部20と、を有し、外管11の内壁と内管12の外壁との間に吸引通路15を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い粘性を持った物質又は流体(以下、高粘性物質)を生体内から吸引するために用いられる吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自力で呼吸ができない患者に対しては、まず第1に呼吸を確保する必要がある。患者の呼吸を確保する方法の一例として、気管挿管や気管切開によって気道を確保する方法が従来から知られている。気管挿管は、口または鼻を介して気管に気管内チューブを挿入して気道を確保する方法である。気管切開は、気管挿管が長期に及んでいる場合や、気管挿管できない場合に実行される気道確保方法である。この気管切開による気道確保方法は、気管及びその上部の皮膚を切開し、切開した部分を介して気管にカニューレを挿入することで実行される。
【0003】
気管挿管では気管内チューブに、気管切開ではカニューレに、人工呼吸器に接続している呼吸管を連通させて、患者の呼吸を確保するようになっている。気管内チューブとは、気道確保のために口から気管内まで挿入されているチューブである。カニューレは、患者の呼吸を助けたり、体内に薬を注入したりするために生体内に挿入するチューブである。このとき、高粘性物質である、たとえば痰や血糊等の分泌物が気管に溜まることによって、気道が閉塞されないようにしなければならない。この高粘性物質を除去する方法の一つとして、気管に挿入した気管内チューブやカニューレを介して吸引カテーテルを気道に挿入し、この吸引カテーテルによって高粘性物質を吸引除去するような方法が従来から存在している。また、吸引カテーテルを鼻から気道に挿入し、この吸引カテーテルによって高粘性物質を吸引除去する方法も従来から知られている。
【0004】
ここで、吸引時間が長くなると低酸素血症に陥りやすくなるため、成人は10秒〜15秒以内、小児は5〜10秒以内で行なうのが望ましい。吸引時間を短縮するための援助としては、吸引圧を高くする、吸引カテーテルを太くする、等の方法がある。しかしながら、吸引圧を高くしすぎると低酸素症などの合併症を招きかねず、また、吸引カテーテルを太くすると患者に苦痛を与えかねない。更に、吸引中には吸引カテーテル内が高粘性物質で閉塞されるおそれもある。
【0005】
近年、水分と同時に高粘性物質を吸引することによって、気道の閉塞を防止するようにした吸引カテーテルが開発されている(たとえば、特許文献1及び特許文献2参照)。特許文献1に記載の技術は、内部に径の異なる酸素供給管と洗浄管が設けられ、これらと最外周側との間に形成される管腔を吸引用の流路としたものである。特許文献2に記載の技術は、非同軸形上の断面形状を持ち、隔壁により形成される側管腔を空気や洗浄液の供給路としたものである。その他、二重管構造の吸引カテーテルも提案されている(たとえば、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5167622号公報
【特許文献2】特開平08−103492号公報
【特許文献3】国際公開第2009/014026号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術は、高粘性物質によるカテーテルの閉塞を抑制することを目的としているものではなかった。また、特許文献1の技術では、患者への施術中おいて、生理食塩水を貯留してある容器(40)とカテーテル(7)とを接続する管(44)が手技の邪魔になってしまうという課題があった。さらに、特許文献1の技術では、高粘性物質が正常に吸引できているかどうかの判別がしづらいという課題もあった。特許文献2の技術でも、特許文献1の技術と同様に、高粘性物質が正常に吸引できているかどうかの判別がしづらいという課題もある。
【0008】
したがって、特許文献1及び特許文献2の技術では、高粘性物質が正常に吸引できているかどうかの判別がしづらいために、充分な治療効果を得ることができないといったことにもなりかねない。加えて、治療時間が長引いてしまい、患者の苦痛が強まってしまうという課題も生じる。すなわち、特許文献1及び特許文献2に記載されているような従来の吸引カテーテルは、術者の経験に依存することが大きく、必ずしも使い勝手のよいものになってはいなかった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、高粘性物質の吸引によっても閉塞しにくい吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットを提供することを第1の目的としている。第1の目的に加え、本発明は、使い勝手を向上させた吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットを提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る吸引カテーテルは、二重管構造であって、一端側から陰圧がかけられる外管と、外管内に設けられ、一端側から液体が供給される内管と、内腔が形成され、外管の一端が接続されるとともに内管が挿通される開口部、内腔を介して外管に陰圧をかける陰圧発生器が接続される吸引ポート、及び、内腔を介して内管の一端から液体を供給する液体貯留部が接続される液体供給ポートが形成されたアダプター部と、を備え、外管の内壁と内管の外壁との間に吸引通路を形成したものである。
【0011】
本発明に係る吸引カテーテルセットは、二重管構造の吸引カテーテルを用い、一端側から陰圧がかけられる外管と、外管内に設けられ、一端側から液体が供給される内管と、内管に液体を供給するための液体が貯留されている液体貯留部と、内腔が形成され、外管の一端が接続されるとともに内管が挿通される開口部、内腔を介して外管に陰圧をかける陰圧発生器が接続される吸引ポート、及び、内腔を介して内管の一端から液体を供給する液体貯留部が接続される液体供給ポートが形成されたアダプター部と、を有し、外管の内壁と内管の外壁との間に吸引通路を形成したものである。
【0012】
本発明に係る吸引カテーテルセットは、液体貯留部を液体供給ポートに直接的に接続しているものである。
【0013】
本発明に係る吸引カテーテルセットは、開口部と液体供給ポートとの間のいずれかの位置に液体の流れを確認する流れ確認装置を取り付けたものである。
【0014】
本発明に係る吸引カテーテルセットは、液体貯留部をゴム又は樹脂で形成しているものである。
【0015】
本発明に係る吸引カテーテルセットは、液体貯留部を形成している材料よりも硬度のある材料で形成された容器で覆うようにしているものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る吸引カテーテルによれば、外管の先端部に高粘性物質が張り付くと、外管に作用していた陰圧が内管にも作用し、液体と一緒に高粘性物質を吸引することができるので、高粘性物質の吸引によっても閉塞しにくいものになる。また、本発明に係る吸引カテーテルによれば、アダプター部を介して外管及び内管が接続されるので、簡易に構成でき、使い勝手が向上したものになる。
【0017】
本発明に係る吸引カテーテルセットによれば、外管の先端部に高粘性物質が張り付くと、外管に作用していた陰圧が内管にも作用し、液体と一緒に高粘性物質を吸引することができるので、高粘性物質の吸引によっても閉塞しにくいものになる。また、本発明に係る吸引カテーテルセットによれば、アダプター部を介して外管及び内管が接続されるので、簡易に構成でき、使い勝手が向上したものになる。
【0018】
本発明に係る吸引カテーテルセットによれば、液体貯留部を液体供給ポートに直接的に接続しているので、コンパクトな設計を実現できる。
【0019】
本発明に係る吸引カテーテルセットによれば、流れ確認装置を取り付けたので、液体の流れを視覚的に確認することができ、使い勝手が向上したものになる。
【0020】
本発明に係る吸引カテーテルセットによれば、液体貯留部をゴム又は樹脂で形成しているので、内管に陰圧が作用した際に素早く応答することができることになる。
【0021】
本発明に係る吸引カテーテルセットによれば、液体貯留部を形成している材料よりも硬度のある材料で形成された容器で液体貯留部を覆うようにしているので、液体貯留部から不用意に液体が供給されることがない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る吸引カテーテルを説明するための説明図である。
【図2】吸引カテーテルの吸引動作を説明するための模式図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る吸引カテーテルセットを説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る吸引カテーテル100を説明するための説明図である。図1に基づいて、吸引カテーテル100の構成について説明する。図1(a)が吸引カテーテル100の外観構成を一部透視して示す構成図を、図1(b)がカテーテル本体部10とアダプター部20との接続部分を拡大して示す断面図を、それぞれ示している。この吸引カテーテル100は、高粘性物質を生体内から吸引するために用いられるものである。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。
【0024】
図1(a)に示すように、吸引カテーテル100は、カテーテル本体部10と、アダプター部20と、を有している。また、カテーテル本体部10は、外管11と、内管12と、で構成されている。外管11は、その内腔が吸引通路となっており、高粘性物質を導通するものである。内管12は、外管11の内腔に配設されており、水等の液体を導通するものである。つまり、カテーテル本体部10は、外管11及び内管12によって二重管構造となっている。これにより、外管11の内壁と内管12の外壁との間に吸引通路15が形成されることになる。
【0025】
カテーテル本体部10は、内管12を外管11と同心状に配設して構成されている。ただし、外管11と内管12が必ずしも同心状である必要はない。また、外管11及び内管12の構成材料が同じである必要もない。また、内管12は、その先端(アダプター部20側の端部とは反対側端部(以下、内管先端部12aと称する))が、外管11の先端(アダプター部20側の端部とは反対側端部(以下、外管先端部11aと称する))とほぼ位置が揃うようにして設けられている。これは、外管11の先端に高粘性物質1が張り付いた際、外管11にかけられた陰圧が内管12に作用すればよいからである。
【0026】
たとえば、内管先端部12aの位置を、外管先端部11aの位置と揃えたり、外管先端部11aの位置よりも外側にしたりしても、内管12が可撓性を有していれば、外管11の先端に高粘性物質1が張り付いた際、その高粘性物質1によって内管12が撓むことになり、外管にかけられた陰圧が内管12に作用することになる。また、内管先端部12aの位置を、外管先端部11aの位置よりも若干アダプター部20側にしても、外管11の先端に高粘性物質1が張り付いた際、外管にかけられた陰圧が内管12に作用することになる。このようにすることで、外管11の先端に高粘性物質1が張り付いた際、陰圧が内管12に作用し、内管12から液体が吸引されることになる。なお、外管先端部11a及び内管先端部12aは、開口されている。
【0027】
図1(b)に示すように、アダプター部20は、内腔を有し、一方が二股に分岐して構成されている。つまり、アダプター部20には、それぞれ内腔に連通する開口部21、吸引ポート22、及び、液体供給ポート23が形成されている。開口部21は、カテーテル本体部10(詳細には外管11)と接続するようになっている。吸引ポート22は、開口部21を介して外管11(詳細には吸引通路15)と接続するようになっている。液体供給ポート23は、開口部21を挿通している内管12と接続するようになっている。つまり、外管11が開口部21を介して吸引ポート22と連通し、内管12が液体供給ポート23と連通するようになっている。
【0028】
吸引ポート22は、たとえば柔軟なポリ塩化ビニル(以下、単にPVCと称する)製のチューブ等(図1に示す接続チューブ31)を介して陰圧発生器30に接続されている。陰圧発生器30は、吸引通路15に陰圧を発生させるものである。この陰圧発生器30は、コンプレッサー等の陰圧発生源及び容器等の吸引物貯留部を有しているのが一般的である。液体供給ポート23には、後述する液体貯留部40が直接的に接続されている。すなわち、アダプター部20は、開口部21を介してカテーテル本体部10と、吸引ポート22を介して陰圧発生器30と、液体供給ポート23を介して液体貯留部40と、にそれぞれ接続されている。
【0029】
なお、アダプター部20の構成材料を特に限定するものではないが、たとえば樹脂やゴム等の材料で構成するとよい。このような材料を用いれば、アダプター部20を一体的に成形できることになる。また、実施の形態1において、アダプター部20、陰圧発生器30及び液体貯留部40を便宜的に説明しているが、吸引カテーテル100として必須な構成ではない。
【0030】
図2は、吸引カテーテル100の吸引動作を説明するための模式図である。図2に基づいて、吸引カテーテル100の吸引動作の基本原理について説明する。図2(a)が高粘性物質1を吸引していない状態を、図2(b)が高粘性物質1を吸引している状態を、それぞれ示している。図2(a)に示すように、内管12には液体供給ポート23を介して液体貯留部40から水等の液体が供給されている。また、吸引通路15には陰圧発生器30によって吸引ポート22を介して陰圧が作用している。この図2は、図1で示したカテーテル本体部10の先端を拡大し、高粘性物質1とともに示している。
【0031】
外管先端部11aが開放されている状態(高粘性物質1が外管先端部11aに張り付いていない状態)においては、吸引通路15には空気が吸引されるだけで、内管12の液体は、内管12内に留まったままである(図2(a))。つまり、吸引通路15内に作用している陰圧が内管12には作用していないのである。したがって、内管12に供給されている液体は、ほとんど吸引されることがなく、無駄に消費されることがない。
【0032】
ところが、高粘性物質1が外管先端部11aに張り付いた状態においては、内管12の液体は、高粘性物質1と一緒に吸引通路15に吸引されることになる(図2(b))。つまり、外管先端部11aに高粘性物質1が張り付くと、吸引通路15内の陰圧が内管12にも作用し、内管12内の液体が吸引されることになるのである。このとき、内管12から吸引された液体は、内管12の外壁に沿って高粘性物質1と一緒に吸引される。そうすると、内管12の外壁に対する高粘性物質1の接触抵抗は、液体がない場合に比べて著しく減少する。
【0033】
したがって、吸引カテーテル100は、水等の液体と一緒に高粘性物質1を吸引するようになっているので、高粘性物質1によって吸引通路15が閉塞されることなく、高粘性物質1を容易に吸引除去することが可能になる。また、吸引カテーテル100は、外管先端部11aに高粘性物質1が張り付いた際に液体が吸引されるようになっているので、液体の量が少なくてよい。さらに、吸引カテーテル100によれば、高粘性物質1の吸引に使用される液体は少量でよいので、内管12の径を可能な限り小さくすることが可能になる。内管12の径を小さくすればするほど、吸引通路15の断面積が増加することになるので、高粘性物質1の吸引効率が向上することになる。
【0034】
なお、内管12に供給される液体は、たとえば水等の低粘性の液体であればよい。そのようなものとしては、たとえば超純水や純水(蒸留水、イオン交換水)、生理食塩水等の他の低粘性の液体等を利用することができる。また、吸引カテーテル100では、高粘性物質を吸引する際に要する陰圧力を従来に比べて低下させることができるので、市販されているような安価な装置を陰圧発生器30として使用することができる。
【0035】
吸引カテーテル100では、たとえば各種ゴムや軟質のポリウレタン樹脂、柔軟なPVC、エチレン酢酸ビニル共重合体で形成されたチューブ等の広く市販されているようなチューブをカテーテル本体部10として使用することができるので、製造に要する費用を低減することができる。吸引カテーテル100では、安価なカテーテル本体部10を使用できるので、使い捨てとして有効に利用することができる。また、吸引カテーテル100によれば、高粘性物質1の吸引に使用される液体は少量で済むので、経済的であり、環境に配慮したものとなる。
【0036】
実施の形態2.
図3は、本発明の実施の形態2に係る吸引カテーテルセット200を説明するための説明図である。図3に基づいて、吸引カテーテルセット200の構成について説明する。この吸引カテーテルセット200も、実施の形態1に係る吸引カテーテル100と同様に、高粘性物質を生体内から吸引するために用いられるものである。なお、実施の形態2では実施の形態1との相違点を中心に説明し、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略するものとする。また、図3には、実施の形態1で簡単に説明した液体貯留部40を併せて図示している。
【0037】
この吸引カテーテルセット200は、カテーテル本体部10と、アダプター部20と、液体貯留部40と、を少なくとも有している。また、図3に示すように、吸引カテーテルセット200は、実施の形態1に係る吸引カテーテル100を基本構成としつつ、吸引ポート22に陰圧発生器30を、液体供給ポート23に流れ確認装置25を取り付けるようにしたものである。なお、図3において、流れ確認装置25を図示しているが、吸引カテーテルセット200として必須な構成ではない。また、実施の形態1に係る吸引カテーテル100と同様に、陰圧発生器30も吸引カテーテルセット200として必須な構成ではない。
【0038】
流れ確認装置25は、液体貯留部40から供給される液体の流れる位置(たとえば、開口部21と液体貯留部40との間のいずれかの位置、好ましくは液体供給ポート23)に取り付けられるものであり、液体貯留部40から供給される液体の流れを視覚的に確認できるものである。流れ確認装置25の種類を特に限定するものではないが、たとえば内部に羽根車やボールが組み込まれているフローサイト(サイトグラス)等を使用するとよい。また、流れ確認装置25のサイズを特に限定するものではないが、手技の邪魔にならないよう可能な限り小さい方が好ましい。それは、流れ確認装置25のサイズを小さいものとしても、吸引される液体は少量であるため充分に確認することができるからである。
【0039】
上述したように、高粘性物質1の吸引に使用される液体は少量でよいので、液体貯留部40の容量も少なくすることができる。これによって、吸引カテーテルセット200全体をコンパクトに設計することが可能になる。また、液体貯留部40をアダプター部20に直接的に接続しているので、接続チューブ等を設ける必要がなく、更にコンパクトに設計することができる。ただし、液体貯留部40は、吸引カテーテル100の使用の仕方に応じて容量を変更可能にしておくとよい。
【0040】
また、液体貯留部40は、たとえば各種ゴムやポリエチレン、ポリプロピレン、ABS等の樹脂材料等(以下、軟質材料と称する)で形成されている。そうすれば、内管12に陰圧が作用した際に、素早く応答することが可能になる。したがって、内管12に予め液体を貯留しておかなくても、内管12に陰圧が作用した際に液体貯留部40から内管12を介して液体が吸引されることになる。また、軟質材料で液体貯留部40を形成すれば、安価に液体貯留部40を形成することが可能になる。
【0041】
このように、吸引カテーテルセット200は、流れ確認装置25を取り付けることによって、液体貯留部40とアダプター部20との間に液体が流れていることが視覚的に確認できることになる。したがって、吸引カテーテルセット200によれば、実施の形態1に係る吸引カテーテル100の有する効果に加え、液体の吸引状態を術者が目視で確認することができるので、液体を吸引していない場合に迅速に対応することができる。よって、使い勝手が更に向上することになり、治療時間を短くすることが可能になる。つまり、吸引カテーテルセット200によれば、術者の経験に依存することなく、患者に対しての治療を施すことができる。
【0042】
なお、液体貯留部40は、軟質材料で形成されているため、液体貯留部40に何らかの力が作用すると、貯留されている液体が内管12から飛び出ることになる。このような事態を未然に防止するために、液体貯留部40の少なくとも一部を軟質材料よりも硬度のある材料、たとえばポリプロピレン、ポリエチレン等の樹脂やガラス、木材、金属等(以下、硬質材料と称する)の容器で覆うとよい。そうすれば、液体貯留部40から不用意に液体が供給されることがない。また、外管先端部11aの近傍に、切れ目又は孔を形成してもよい。こうすることにより、高粘性物質1の吸引時に外管11の外部の空気も一緒に巻き込んで吸引することが可能になり、吸引効率が更に向上する。
【実施例】
【0043】
以下、表1に示す実施例及び比較例により本発明の効果を更に詳細に説明するものとする。ただし、本発明は、その要旨を超えない限り、この実施例によって何ら限定されるものではない。実施例及び比較例で用いたサンプルは以下の通りである。
【0044】
【表1】

この実験は、容器に入れられた疑似痰に吸引カテーテルの先端部分を浸し、陰圧発生器を駆動させて吸引カテーテル内腔に陰圧を発生させて疑似痰を吸引することにより行なった。
【0045】
なお、陰圧発生器としては、新鋭工業株式会社製のミニックを使用した。そして、陰圧150mmHg、陰圧時間60秒として比較実験を行なった。また、高粘性物質の一例としての疑似痰としては、アルギン酸ナトリウム水溶液(アルギン酸ナトリウム3重量%配合)、天ぷら粉+水の2種類を使用した(今回使用した濃度ではアルギン酸ナトリウム水溶液の方が粘度が高い)。さらに、条件を揃えるため、吸引前は滅菌水でフラッシュ洗浄し、アダプター部に接続されたカテーテルの露出長さを350mmとしている。
【0046】
(1)比較例1(サンプルNo.1)
単管構造の吸引カテーテル(材質がPVC、外径4.00mm、内径2.70mmのチューブ)を比較例1として使用した。この吸引カテーテルの吸引部断面積は、5.72mm2 である。
【0047】
(1−1)疑似痰がアルギン酸ナトリウム水溶液である場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞した(×)。
(1−2)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞した(×)。
(1−3)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞した(×)。
(1−4)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞した(×)。
【0048】
(2)比較例2(サンプルNo.2)
二重管構造の吸引カテーテル(材質がいずれもPVC、外管が外径4.00mm、内径2.70mmのチューブ、内管が外径2.10mm、内径1.30mmのチューブ)を比較例2として使用した。この吸引カテーテルの吸引部断面積は、1.33mm2 である。ただし、比較例2の吸引カテーテルは、本発明に係る吸引カテーテルとは異なり、内管が吸引通路となっている。
【0049】
(2−1)疑似痰がアルギン酸ナトリウム水溶液である場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞した(×)。
(2−2)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞しないが疑似痰はほとんど吸引されなかった(△)。
(2−3)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞しないが疑似痰はほとんど吸引されなかった(△)。
(2−4)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは閉塞しなかった(○)。
【0050】
(3)実施例(サンプルNo.3)
本発明に係る二重管構造の吸引カテーテル(材質がいずれもPVC、外管が外径4.00mm、内径2.70mmのチューブ、内管が外径1.30mm、内径0.80mmのチューブ)を実施例として使用した。この吸引カテーテルの吸引部断面積は、4.39mm2 である。
【0051】
(3−1)疑似痰がアルギン酸ナトリウム水溶液である場合
この場合、吸引カテーテルは全く閉塞しなかった(◎)。
(3−2)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは全く閉塞しなかった(◎)。
(3−3)疑似痰が天ぷら粉+水(天ぷら粉25:水22)の場合
この場合、吸引カテーテルは全く閉塞しなかった(◎)。
【0052】
表1に示した実験結果から以下のことが明らかになった。
(1)比較例1の単管構造の吸引カテーテルでは、疑似痰により閉塞してしまう。
(2)比較例2の二重管構造の吸引カテーテルでは、吸引中に疑似痰に水が混入(つまり水だれ発生)してしまう。また、閉塞しないものにおいても、疑似痰をほとんど吸引しない。なお、水だれによって水が混入してしまい、疑似痰の重量が増加するために、同条件で測定することは不能であった。
(3)実施例の本発明に係る二重管構造の吸引カテーテルでは、アルギン酸ナトリウム水溶液でも閉塞せずに吸引することができる。
【0053】
以上のように、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットは、水等の液体と一緒に高粘性物質を吸引するようになっているので、高粘性物質によって吸引通路が閉塞されることなく、粘性物質を容易に吸引除去することが可能になる。また、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットは、外管先端部に高粘性物質が張り付いた際に液体が吸引されるようになっているので、液体の量が少なくてよい。加えて、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットでは、水だれが発生しにくいということにもなる。さらに、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテル及び吸引カテーテルセットによれば、高粘性物質の吸引に使用される液体は少量でよいので、内管の径を可能な限り小さくすることが可能になる(表1参照)。内管の径を小さくすればするほど、吸引通路の断面積が増加することになるので、高粘性物質の吸引効率が向上することになる。
【0054】
加えて、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテルセットによれば、流れ確認装置を取り付けているので、液体の吸引状態を術者が目視で確認することができる。したがって、本発明に係る吸引カテーテルセットを使用すれば、液体を吸引していない場合に迅速に対応することができる。よって、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテルセットによれば、使い勝手が更に向上することになり、治療時間を短くすることが可能になる。つまり、本発明の実施の形態に係る吸引カテーテルセットによれば、術者の経験に依存することなく、患者に対しての治療を施すことができる。
【符号の説明】
【0055】
1 高粘性物質、10 カテーテル本体部、11 外管、11a 外管先端部、12 内管、12a 内管先端部、15 吸引通路、20 アダプター部、21 開口部、22 吸引ポート、23 液体供給ポート、25 流れ確認装置、30 陰圧発生器、31 接続チューブ、40 液体貯留部、100 吸引カテーテル、200 吸引カテーテルセット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重管構造の吸引カテーテルにおいて、
一端側から陰圧がかけられる外管と、
前記外管内に設けられ、一端側から液体が供給される内管と、
内腔が形成され、前記外管の一端が接続されるとともに前記内管が挿通される開口部、前記内腔を介して前記外管に陰圧をかける陰圧発生器が接続される吸引ポート、及び、前記内腔を介して前記内管の一端から液体を供給する液体貯留部が接続される液体供給ポートが形成されたアダプター部と、を有し、
前記外管の内壁と前記内管の外壁との間に吸引通路を形成した
ことを特徴とする吸引カテーテル。
【請求項2】
二重管構造の吸引カテーテルを用いた吸引カテーテルセットにおいて、
一端側から陰圧がかけられる外管と、
前記外管内に設けられ、一端側から液体が供給される内管と、
前記内管に液体を供給するための液体が貯留される液体貯留部と、
内腔が形成され、前記外管の一端が接続されるとともに前記内管が挿通される開口部、前記内腔を介して前記外管に陰圧をかける陰圧発生器が接続される吸引ポート、及び、前記内腔を介して前記内管の一端から液体を供給する前記液体貯留部が接続される液体供給ポートが形成されたアダプター部と、を有し、
前記外管の内壁と前記内管の外壁との間に吸引通路を形成した
ことを特徴とする吸引カテーテルセット。
【請求項3】
前記液体貯留部を前記液体供給ポートに直接的に接続している
ことを特徴とする請求項2に記載の吸引カテーテルセット。
【請求項4】
前記開口部と前記液体供給ポートとの間のいずれかの位置に液体の流れを確認する流れ確認装置を取り付けた
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の吸引カテーテルセット。
【請求項5】
前記液体貯留部をゴム又は樹脂で形成している
ことを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項に記載の吸引カテーテルセット。
【請求項6】
前記液体貯留部を形成している材料よりも硬度のある材料で形成された容器で前記液体貯留部を覆うようにしている
ことを特徴とする請求項5に記載の吸引カテーテルセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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