説明

吸水剤の製造方法

【課題】 加圧下の吸収倍率が高く、かつ戻り量が少ない吸水剤を得る。
【解決手段】 吸水性樹脂を親水化処理した後、前記吸水性樹脂の表面近傍を架橋処理する吸水剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水剤の製造方法に関する。さらに詳しくは、加圧下の吸収倍率が高く、かつ戻り量が少ない吸水剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体液を吸収させることを目的とし、紙オムツや生理用ナプキン、いわゆる失禁パット等の衛生材料の構成材料の一つとして吸水性樹脂を用いた吸水剤が幅広く利用されている。また衛生材料以外にも、土壌保水剤並びに食品などのドリップシート等、吸水、保水を目的として吸水性樹脂が、広範囲に利用されている。
上記の吸水性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸部分中和物架橋体、澱粉−アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、澱粉−アクリル酸グラフト重合体の中和物、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物、アクリロニトリル共重合体もしくはアクリルアミド共重合体の加水分解物またはこれらの架橋体、カチオン性モノマーの架橋体などが知られている。
【0003】
上記の吸水性樹脂に備えるべき特性としては従来より、体液等の水性液体に接した際の高い吸収倍率や優れた吸収速度、通液性、膨潤ゲルのゲル強度、水性液体を含んだ基材から水を吸い上げる吸引量等が求められている。しかしながら、これらの特性間の関係は必ずしも正の相関関係を示さず、たとえば吸収倍率の高いものほど通液性、ゲル強度、吸収速度等の物性は低下してしまう。そこで、このような吸水性樹脂の吸水諸特性をバランス良く改良する方法として吸水性樹脂の表面近傍を架橋する技術が知られており、これまでに様々な方法が提案されている。例えば、架橋剤として、多価アルコールを用いる方法、多価グリシジル化合物、多価アジリジン化合物、多価アミン化合物、多価イソシアネート化合物を用いる方法、グリオキサールを用いる方法、多価金属を用いる方法、シランカップリング剤を用いる方法、エポキシ化合物とヒドロキシ化合物を用いる方法、アルキレンカーボネートを用いる方法等が知られている。
【0004】
これらの方法によって、吸水性樹脂の諸物性のバランスの改良はなされるもののいまだに十分とはいい難い。特に近年のトレンドである、吸水性樹脂を高濃度、高散布密度で使用する薄型の吸収体では、高荷重下(例えば50g/cm)での吸収倍率(加圧下の吸収倍率)が高いことと戻り量が少ないことが求められており、上記の表面架橋方法によりかなり改善されるが、まだまだ十分な物性レベルにまで到達していないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、加圧下の吸収倍率が高く、かつ戻り量が少ない吸水剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、以下の構成をとる。
(1)吸水性樹脂を親水化処理した後、前記吸水性樹脂の表面近傍を架橋処理する吸水剤の製造方法。
(2)前記吸水性樹脂が逆相懸濁重合により得られたものである前記(1)記載の吸水剤の製造方法。
(3)前記親水化処理が、有機溶剤による処理である前記(1)または(2)記載の吸水剤の製造方法。
(4)前記有機溶剤を加熱した状態で吸水性樹脂と接触させて親水化処理を行う前記(3)記載の吸水剤の製造方法。
【0007】
(5)前記架橋処理は、吸水性樹脂の有する官能基と反応しうる架橋剤が吸水性樹脂粉体に直接添加混合されるものである前記(1)〜(4)のいずれかに記載の吸水剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明では表面架橋処理の前に親水化処理を行うので、表面架橋処理の効果(吸水剤の加圧下の吸収倍率を高め、戻り量を低減する)を高めることができる。また、吸水性樹脂の表面の親水性が高くなるため吸水速度も上昇する。したがって、本発明によると、加圧下の吸収倍率が高く、かつ戻り量が少なく、さらには吸水速度の速い吸水剤を得ることができる。
本発明によって得られた吸水剤は、吸水性樹脂を例えば繊維質材料とともに複合化して得られる紙おむつや生理用ナプキンのごとき吸水性物品において、50重量%(吸水性樹脂とパルプのような繊維質材料の総和に対する比率)以上といった高濃度条件下で使用された場合に、より高荷重がかかっても十分吸収能力を発揮できるので、吸収性物品の更なる薄型化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
重合により得られた吸水性樹脂の表面には疎水性の部分が存在すると考えられる。その原因としては、重合に用いた添加剤(逆相懸濁重合であれば分散剤等)等が残存している、あるいは樹脂自身の性質に由来する等が考えられる。本発明者らは、この疎水性部分が表面架橋処理の効果を妨げていると考え、表面架橋処理を行う前に吸水性樹脂の親水化処理を行って該疎水性部分を親水化することとした。これによって、表面架橋処理の効果(吸水剤の加圧下の吸収倍率を高め、戻り量を低減する)を高めることができる。また、吸水性樹脂の表面の親水性が高くなるため吸水速度も上昇する。
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明に用いることのできる吸水性樹脂は、多量の水、生理食塩水、尿等を吸収膨潤して実質水不溶性のヒドロゲルを形成するものである。その典型的な例としては、アクリル酸またはその塩を主成分とする親水性単量体を重合して得られる架橋構造を有する親水性重合体である。このようなものは例えば、部分中和架橋ポリアクリル酸重合体、架橋され部分的に中和された澱粉−アクリル酸グラフトポリマー、イソブチレン−マレイン酸共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体のケン化物、アクリルアミド(共)重合体の加水分解物、アクリロニトリル重合体の加水分解物等に開示されている。中でも好ましいものはポリアクリル酸塩架橋重合体である。ポリアクリル酸塩架橋重合体としては、重合体中の酸基の50〜95モル%が中和されていることが好ましく、60〜90モル%が中和されていることがより好ましい。塩としてはアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩などを例示する事ができる。この中和は重合前の単量体で行っても良いし、重合中や重合後の含水ゲル状重合体で行っても良い。
【0011】
本発明に用いられる吸水性樹脂は、単量体主成分として好ましく用いられる上記アクリル酸またはその塩以外の他の単量体を(共)重合させたものであってもよい。他の単量体の具体例としては、メタクリル酸、マレイン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルエタンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルプロパンスルホン酸などのアニオン性不飽和単量体およびその塩;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン、N−アクリロイルピペリジン、N−アクリロイルピロリジンなどのノニオン性の親水基含有不飽和単量体;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドおよびそれらの四級塩などのカチオン性不飽和単量体などを挙げることができる。これらのアクリル酸以外の他の単量体の使用量は通常全単量体中0〜50モル%未満、好ましくは0〜30モル%であるがこれに限定されるものではない。
【0012】
本発明に用いられる吸水性樹脂の架橋構造として、架橋剤を使用しない自己架橋型のものや、2個以上の重合性不飽和基或は2個以上の反応性基を有する内部架橋剤を共重合または反応させた型のものが例示でき、内部架橋剤を共重合または反応させた架橋構造を有するものがより好ましい。
これらの内部架橋剤の具体例としては、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンアクリレートメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルホスフェート、トリアリルアミン、ポリ(メタ)アリロキシアルカン、(ポリ)エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、グリシジル(メタ)アクリレートなどを挙げることが出来る。またこれらの内部架橋剤は2種以上使用してもよい。中でも得られる吸水性樹脂の吸水特性などから、2個以上の重合性不飽和基を有する化合物を内部架橋剤として必須に用いることが好ましく、その使用量としては前記単量体成分に対して0.005〜3モル%、より好ましくは0.01〜1.5モル%である。
【0013】
なお重合に際しては、澱粉・セルロース、澱粉・セルロースの誘導体、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリル酸(塩)架橋体等の親水性高分子や、次亜リン酸(塩)等の連鎖移動剤を添加してもよい。
本発明に用いられる吸水性樹脂を得る為に上記したアクリル酸またはその塩等を主成分とする単量体を重合するに際しては、バルク重合や沈澱重合を行うことも可能であるが、性能面や重合の制御の容易さから、単量体を水溶液として、水溶液重合、または逆相懸濁重合を行うことが好ましい。
逆相懸濁重合を行う場合に用いられる分散剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアシルエステル等の非イオン性界面活性剤;高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルフォン酸塩、アルキルポリオキシエチレンサルフェート塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性界面活性剤;アルキル第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩等のカチオン性界面活性剤;アルキルベタイン、レシチン等の両性界面活性剤;親油性のカルボキシル基またはエチレンオキサイド鎖を有するポリマー等の高分子界面活性剤;セルロースエーテル、セルロースエステル等のセルロース誘導体等を例示することができる。これらの中でもHLB値が3以上の非イオン性界面活性剤またはセルロース誘導体等の分散剤を用いた場合に本発明の効果は一層顕著に現れ好ましい。これらの分散剤の使用量は単量体に対して0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量%である。
【0014】
逆相懸濁重合に用いられる疎水性有機溶剤としては、重合その他の反応に不活性なものであれば特に限定されない。例えば、n−ペンタン、n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−オクタン等の如き脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等の如き脂環式炭化水素;クロルベンゼン、ブロムベンゼン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等の如きハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の如き芳香族炭化水素、等を挙げることができる。特に好ましくはn−ヘキサン、シクロヘキサン、クロルベンゼン、トルエン、キシレンである。これらの疎水性有機溶剤の使用量は単量体水溶液1重量部に対して0.4〜20重量部が好ましく、より好ましくは0.7〜10重量部である。
【0015】
また重合を行うにあたり、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、t−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等のラジカル重合開始剤、紫外線や電子線などの活性エネルギー線等を用いることができる。また、酸化性ラジカル重合開始剤を用いる場合、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、硫酸第一鉄、L−アスコルビン酸等の還元剤を併用してレドックス重合としても良い。これらの重合開始剤の使用量は通常0.001〜2モル%、好ましくは0.01〜0.5モル%である。
上記の重合により得られた吸水性樹脂の形状は不定形破砕状、球状、繊維状、棒状、略球状、偏平状等種々のものが本発明には使用できる。
【0016】
本発明ではこのようにして得られた吸水性樹脂に親水化処理を行う。
親水化処理とは、吸水性樹脂の表面を親水化する処理であり、その前後で表面の濡れ性が向上することを意味する。濡れ性が向上されたか否かはたとえば吸水性樹脂0.3gを内径15mmの円形容器に均一に層状に散布し、その上から青色に着色した脱イオン水約0.015gの液滴1滴をマイクロシリンジで添加したときの、脱イオン水の樹脂表面層から浸透の程度、あるいは吸収した樹脂面積の最大径(吸収最大径)(mm)を測定することで判定可能である。脱イオン水の樹脂表面層からの浸透が処理後はより速やかに行われたり、吸収した樹脂面積の最大径が処理後の方が広がっているものは濡れ性が向上した、すなわち親水化処理がなされたと判定できる。
【0017】
具体的な親水化処理の方法は、吸水性樹脂の表面に疎水性の部分を形成している原因によって異なる。例えば、逆相懸濁重合によって吸水性樹脂を製造した場合には、重合時に分散剤として用いられる界面活性剤が疎水性の原因であるため、これを洗浄することが好ましく、有機溶剤を用いて洗浄することがより好ましい。
有機溶剤としては、分散剤を洗浄できるものであれば特に限定されないが、洗浄効果を高めるためには、吸水性樹脂が膨潤しないようなものを用いることが好ましい。処理中における吸水性樹脂の好ましい膨潤倍率は2倍未満である。有機溶剤としては、親水性の有機溶剤だけでなく疎水性の有機溶剤も使用可能である。親水性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール類;アセトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;等が、疎水性有機溶剤としては、n−ペンタン、n−ヘプタン、n−ヘキサン、n−オクタン等の如き脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等の如き脂環式炭化水素;クロルベンゼン、ブロムベンゼン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等の如きハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の如き芳香族炭化水素、等を挙げることができる。これらの中でもメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ヘキサン、シクロヘキサンが好ましく用いられる。
【0018】
吸水性樹脂を有機溶剤により親水化処理する場合、有機溶剤を加熱した状態で吸水性樹脂と接触させることにより、加圧下の吸収倍率や戻り量が一層向上する場合があり好ましい。加熱の温度は溶剤の沸点以下であることが好ましく、用いる有機溶剤の種類にもよるが一般に40〜120℃程度である。
親水化処理は、吸水性樹脂が乾燥した状態で行うことが好ましい。有機溶媒や水で湿潤した状態で親水化処理を行うと、表面近傍の架橋処理を行った場合に、逆に吸水速度が低下したり、吸水倍率が急激に低下する場合があるので注意を要する。したがって、逆相懸濁重合や水溶液重合により得られた吸水性樹脂をろ過・乾燥して、重合の溶媒や水分をなくした状態で親水化処理を行うことが好ましい。
【0019】
本発明ではこのような親水化処理を行った後、吸水性樹脂の表面近傍を架橋処理する。表面架橋処理には、吸水性樹脂の有する官能基たとえば酸性基と反応し得る架橋剤を用いればよく、通常、該用途に用いられている公知の架橋剤が例示される。吸水性樹脂の官能基がカルボキシル基である場合には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、2−ブテン−1,4−ジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサノール、トリメチロールプロパン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピレン、オキシエチレンオキシプロピレンブロック共重合体、ペンタエリスリトール、ソルビトールなどの多価アルコール化合物;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレンジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリシドール等の多価エポキシ化合物;エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等の多価アミン化合物;2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の多価イソシアネート化合物;1,2−エチレンビスオキサゾリン等の多価オキサゾリン化合物;1,3−ジオキソラン−2−オン、4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−エチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,3−ジオキサン−2−オン、4−メチル−1,3−ジオキサン−2−オン、4,6−ジメチル−1,3−ジオキサン−2−オン、1,3−ジオキソパン−2−オン等のアルキレンカーボネート化合物;エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、α−メチルエピクロロヒドリン等のハロエポキシ化合物;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤;亜鉛、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、ジルコニウム等の水酸化物及び塩化物等の多価金属化合物;等より選ばれる1種または2種以上のものが例示できる。好ましくは多価アルコール化合物、多価アミン化合物、多価エポキシ化合物、及びアルキレンカーボネート化合物から選ばれる少なくとも1種を含むものである。これらの表面架橋剤は、単独で用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
【0020】
本発明に於いて使用される表面架橋剤の使用量は、用いる架橋剤の種類や、その目的によっても異なるが、通常本発明の吸水性樹脂の固形分100重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.01〜5重量部の範囲であり、この範囲内の量であれば加圧下の吸収倍率に優れた吸水剤が得られる。架橋剤の使用量が10重量部を越える場合、不経済となるばかりか、適正な表面架橋効果を達成する上で過剰量となりやすく、過度に吸収倍率が低下しすぎる場合がある。逆に0.001重量部未満の少ない量では、これら加圧下の吸収特性の改良効果が得られにくい場合がある。
本発明において、吸水性樹脂粉体に架橋剤を直接添加混合することが好ましい。溶剤中で混合を行うと、吸水性樹脂に架橋剤が均一に添加されない場合があるからである。したがって、表面架橋処理を行う前に吸水性樹脂を乾燥して粉体としておくことが好ましい。
【0021】
本発明において吸水性樹脂と表面架橋剤とを混合する際に使用する装置としては、通常の装置でよく、例えば、円筒型混合機、スクリュー型混合機、スクリュー型押出機、タービュライザー、ナウター型混合機、V型混合機、リボン型混合機、双腕型ニーダー、流動式混合機、気流型混合機、回転円盤型混合機、ロールミキサー、転動式混合機などを挙げることができ、混合の際の速度は高速、低速を問わない。
本発明において吸水性樹脂と表面架橋剤との混合時または混合後、架橋反応を行わせる前にさらに水、水蒸気、または水と親水性有機溶媒からなる水性液等を添加してもよい。架橋剤が多価アルコールや多価エポキシ化合物、アルキレンカーボネート化合物など、吸水性樹脂と共有結合で反応するものの場合には水、水蒸気や水性液を後添加することにより加圧下の吸収特性が大きく向上する場合があり好ましい。この場合に用いられる親水性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、iso−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール等の低級アルコール類;アセトン等のケトン類;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類を挙げることができる。この場合に使用される水の量は、吸水性樹脂の種類や粒度によってその最適量は異なるが、通常、吸水性樹脂の固形分100重量部に対して、10重量部以下、好ましくは1〜5重量部の範囲である。また使用される親水性有機溶媒の量は、同様に通常、吸水性樹脂の固形分100重量部に対して、10重量部以下、好ましくは0.1〜5重量部の範囲である。
【0022】
本発明では、吸水性樹脂と表面架橋剤とを混合した後、架橋剤の種類により必要により更に加熱処理を行い表面近傍を架橋させる。
本発明で加熱処理を行う場合、処理温度は60℃以上230℃以下程度が好ましい。加熱処理温度が60℃未満では、加熱処理に時間がかかり生産性の低下をひき起こすのみならず、均一な架橋が達成されず、本発明の目的とする加圧下の吸水特性の高い樹脂が得られない場合がある。また230℃を越えた場合には吸水性樹脂が一部劣化し、吸水倍率が低下する場合がある。使用する架橋剤の種類にもよるが、加熱処理温度はより好ましくは80〜200℃、さらに好ましくは120〜180℃の範囲である。
【0023】
加熱処理は通常の乾燥機または加熱炉を用いて行うことができ、例えば溝型混合乾燥機、ロータリー乾燥機、デスク乾燥機、流動層乾燥機、気流型乾燥機、および赤外線乾燥機等が例示できる。
本発明によって得られる吸水剤は、吸水性樹脂を例えば繊維質材料とともに複合化して得られる紙おむつや生理用ナプキンのごとき吸水性物品において、50重量%(吸水性樹脂とパルプのような繊維質材料の総和に対する比率)以上といった高濃度条件下で使用された場合に、より高荷重がかかっても十分吸収能力を発揮できるので、吸収性物品の更なる薄型化が可能である。さらに本発明の吸水剤は創傷保護材、創傷治癒材のような体液のための吸収性物品、食品のためのドリップ吸収材、鮮度保持材、止水材、土壌保水材など種々の用途にまで好ましく使用される。
【実施例】
【0024】
以下に実施例によりさらに詳細に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、本発明において、吸水剤の諸性能は、以下の方法で測定した。
(a)吸収倍率
吸水剤0.2gを不織布製の袋(60mm×60mm)に均一に入れ、0.9重量%塩化ナトリウム水溶液(生理食塩水)中に浸漬した。60分後に袋を引き上げ、遠心分離機を用いて250Gで3分間水切りを行った後、袋の重量W1(g)を測定した。また、同様の操作を吸水剤を用いないで行い、そのときの重量W0(g)を測定した。そして、これら重量W1、W0から、次式、
吸収倍率(g/g)=(重量W1(g)−重量W0(g))/吸水剤の重量(g/g)
に従って吸収倍率(g/g)を算出した。
(b)加圧下の吸収倍率
先ず、加圧下の吸収倍率の測定に用いる測定装置について、図1を参照しながら、以下に簡単に説明する。
【0025】
図1に示すように、測定装置は、天秤1と、この天秤1上に載置された所定容量の容器2と、外気吸入パイプ3と、導管4と、ガラスフィルタ6と、このガラスフィルタ6上に載置された測定部5とからなっている。上記の容器2は、その頂部に開口部2aを、その側面部に開口部2bをそれぞれ有しており、開口部2aに外気吸入パイプ3が嵌入される一方、開口部2bに導管4が取り付けられている。また、容器2には、所定量の人工尿11(組成;硫酸ナトリウム0.2重量%、塩化カリウム0.2重量%、塩化マグネシウム六水和物0.05重量%、塩化カルシウム二水和物0.025重量%、リン酸二水素アンモニウム0.085重量%、リン酸水素二アンモニウム0.015重量%の水溶液)が入っている。外気吸入パイプ3の下端部は、人工尿11中に没している。上記のガラスフィルタ6は直径70mmに形成されている。そして、容器2およびガラスフィルタ6は、導管4によって互いに連通している。また、ガラスフィルタ6の上部は、外気吸入パイプ3の下端に対してごく僅かに高い位置になるようにして固定されている。
【0026】
上記の測定部5は、濾紙7と、支持円筒8と、この支持円筒8の底部に貼着された金網9と、重り10とを有している。そして、測定部5は、ガラスフィルタ6上に、濾紙7、支持円筒8(つまり、金網9)がこの順に載置されると共に、支持円筒8内部、即ち、金網9上に重り10が載置されてなっている。支持円筒8は、内径60mmに形成されている。金網9は、ステンレスからなり、400メッシュ(目の大きさ38μm)に形成されている。そして、金網9上に所定量の吸水剤が均一に撒布されるようになっている。重り10は、金網9、即ち、吸水剤に対して、50g/cmの荷重を均一に加えることができるように、その重量が調整されている。
【0027】
上記構成の測定装置を用いて加圧下の吸収倍率を測定した。測定方法について以下に説明する。
先ず、容器2に所定量の人工尿11を入れる、容器2に外気吸入パイプ3を嵌入する、等の所定の準備動作を行った。次に、ガラスフィルタ6上に濾紙7を載置した。一方、これらの載置動作に並行して、支持円筒内部、即ち、金網9上に吸水剤0.9gを均一に撒布、この吸水剤上に重り10を載置した。
次いで、濾紙7上に、金網9、つまり、吸水剤および重り10を載置した上記支持円筒8を載置した。
【0028】
そして、濾紙7上に支持円筒8を載置した時点から、60分間にわたって吸水剤が吸収した人工尿11の重量W2(g)を、天秤1を用いて測定した。
そして、上記の重量W2から、次式、
加圧下の吸収倍率(g/g)=重量W2(g)/吸水剤の重量(g)
に従って、吸収開始から60分後の加圧下の吸収倍率(g/g)を算出した。
(c)吸水速度
シャーレの中に吸水剤1.0gを散布し、そこに上記人工尿20gを加えた。樹脂が液を吸いきって、ゲル表面の液が無くなるまでの時間T1を測定し、次式に従って吸水速度を算出した。
【0029】
吸水速度(g/g/sec)=20÷1.0÷T1
(d)戻り量
吸水剤50重量部と、木材パルプ50重量部とを、ミキサーを用いて乾式混合した。次いで、得られた混合物を、400メッシュ(目の大きさ38μm)に形成されたワイヤースクリーン上にバッチ型空気抄造装置を用いて空気抄造することにより、100mm×100mmの大きさのウェブに成形した。さらに、このウェブを圧力2kg/cmで5秒間プレスすることにより、坪量が約360g/mの吸収体を得た。この吸収体の重量は3.6gであった。
【0030】
上記の吸収体に生理食塩水40gを加え1分後に、キッチンタオル10枚を4つ折りにしたものを上面トップシートの上に置き10kgの荷重を1分間かけることによりトップシートを通過しキッチンタオルへ移行する戻り量を調べた。
[参考例1]
撹拌機、還流冷却器、温度計、窒素ガス導入管および滴下ろうとを付した2000mlの四つ口セパラブルフラスコにシクロヘキサン800gを取り、分散剤としてソルビタンモノステアレート3.0gを加え溶解させ、窒素ガスを吹き込んで溶存酸素を追い出した。
【0031】
別に、フラスコ中で、アクリル酸ナトリウム141g、アクリル酸36g、およびポリエチレングリコールジアクリレート(n=8)0.478g、イオン交換水413gよりなる単量体水溶液を調製し、窒素ガスを吹き込んで水溶液内に溶存する溶存酸素を追い出した。
次いで、このフラスコ内の単量体水溶液に過硫酸ナトリウムの10%水溶液1.0gを加えた後全量を上記セパラブルフラスコに加えて、230rpmで撹拌することにより分散させた。その後、浴温を60℃に昇温して重合反応を開始させ、2時間この温度に保持して重合を完了した。重合終了後共沸脱水により大部分の水を留去して、重合体のシクロヘキサン懸濁液を得、ろ過により含水率20%の樹脂を得た。さらに80℃で減圧乾燥を行うことにより含水率5%の吸水性樹脂(1)を得た。吸水性樹脂(1)の平均粒径は110μmであった。
[実施例1]
上記吸水性樹脂(1)10gを60℃に加熱したメタノール500mlに加え、1時間撹拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行った。
【0032】
上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、プロピレングリコール1.0重量部と、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.05重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を185℃で50分間加熱処理することにより本発明の吸水剤(1)を得た。この吸水剤(1)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[実施例2]
上記吸水性樹脂(1)10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500mlに加え、1時間撹拌し親水化処理を行った後ろ過、乾燥した。
【0033】
上記親水化処理を行った吸水性樹脂を用いて実施例1と同様の表面架橋処理を行い本発明の吸水剤(2)を得た。この吸水剤(2)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[実施例3]
上記吸水性樹脂(1)10gを20℃のメタノール500mlに加え、1時間撹拌し親水化処理を行った後ろ過した。
上記親水化処理を行った吸水性樹脂を用いて実施例1と同様の表面架橋処理を行い本発明の吸水剤(3)を得た。この吸水剤(3)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[比較例1]
親水化処理を行わない吸水性樹脂(1)を用いて実施例1と同様の表面架橋処理を行い比較用吸水剤(1)を得た。この比較用吸水剤(1)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[参考例2]
参考例1においてソルビタンモノステアレートに代えてショ糖脂肪酸エステル(HLB=6)を用いた他は同様の操作を行い含水率6%の吸水性樹脂(2)を得た。吸水性樹脂(2)の平均粒径は160μmであった。
[実施例4]
上記吸水性樹脂(2)10gを60℃に加熱したメタノール500mlに加え、1時間撹拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行った。
【0034】
上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより本発明の吸水剤(4)を得た。この吸水剤(4)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[比較例2]
親水化処理を行わない吸水性樹脂(2)を用いて実施例4と同様の表面架橋処理を行い比較用吸水剤(2)を得た。この比較用吸水剤(2)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[参考例3]
参考例1においてソルビタンモノステアレートに代えてエチルセルロースを用いた他は同様の操作を行い含水率4%の吸水性樹脂(3)を得た。吸水性樹脂(3)の平均粒径は250μmであった。
[実施例5]
上記吸水性樹脂(3)10gを70℃に加熱したシクロヘキサン500mlに加え、1時間撹拌した後ろ過、乾燥することにより親水化処理を行った。
【0035】
上記親水化処理を行った吸水性樹脂100重量部に、エチレングリコールジグリシジルエーテル0.1重量部と、水3重量部と、イソプロピルアルコール1重量部からなる表面架橋剤を混合した。上記の混合物を150℃で60分間加熱処理することにより本発明の吸水剤(5)を得た。この吸水剤(5)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[比較例3]
親水化処理を行わない吸水性樹脂(3)を用いて実施例4と同様の表面架橋処理を行い比較用吸水剤(3)を得た。この比較用吸水剤(3)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
[比較例4]
実施例1で親水化処理を行っただけの吸水性樹脂を比較用吸水剤(4)としてこの比較用吸水剤(4)の吸収倍率、加圧下の吸収倍率、吸水速度、戻り量の結果を表1に記載した。
【0036】
また、参考例1〜3の吸水性樹脂(1)〜(3)と、実施例1〜5の吸水剤(1)〜(5)について、前記した方法によって樹脂表面層から浸透の程度および吸収最大径を測定し、濡れ性の変化をみた。その結果を表2に記載した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によって得られる吸収剤は、紙オムツや生理用ナプキン、いわゆる失禁パット等の衛生材料の構成材料の一つとして広範囲に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明における吸水剤が示す性能の一つである加圧下の吸収倍率の測定に用いる測定装置の概略の断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 天秤
2 容器
3 外気吸入パイプ
4 導管
5 測定部
6 ガラスフィルタ
7 濾紙
8 支持円筒
9 金網
10 重り
11 人工尿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性樹脂を親水化処理した後、前記吸水性樹脂の表面近傍を架橋処理する吸水剤の製造方法。
【請求項2】
前記吸水性樹脂が逆相懸濁重合により得られたものである請求項1記載の吸水剤の製造方法。
【請求項3】
前記親水化処理が、有機溶剤による処理である請求項1または2記載の吸水剤の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶剤を加熱した状態で吸水性樹脂と接触させて親水化処理を行う請求項3記載の吸水剤の製造方法。
【請求項5】
前記架橋処理は、吸水性樹脂の有する官能基と反応しうる架橋剤が吸水性樹脂粉体に直接添加混合されるものである請求項1〜4のいずれかに記載の吸水剤の製造方法。


【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−39695(P2007−39695A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227116(P2006−227116)
【出願日】平成18年8月23日(2006.8.23)
【分割の表示】特願平9−232952の分割
【原出願日】平成9年8月28日(1997.8.28)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】