説明

吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法

【課題】 ジェット水流等の高圧駆動流体を利用した吸水機構を備える吸水型締固め工法において、吸水管の閉塞やジェット水の地盤内噴出を生じることなく吸水効率を向上させる。
【解決手段】 貫入ロッド10に取り付けられて、噴流ポンプから送出される駆動流体を循環させる循環パイプ20と、循環パイプ20の下端部付近に設けられて、循環パイプ20内を循環する駆動流体を高圧で噴出させるジェットノズル50と、ジェットノズル50の配設部近傍の循環パイプ20から分岐し、複数の吸水開口部40を設けた枝管30と、を備える。枝管30は、ジェットノズル50の下流側の循環パイプ20から下方に向かって分岐しており、複数の吸水開口部40が貫入ロッドの下端部付近に位置するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貫入ロッドを振動させながら地盤中に貫入すると共に、当該貫入ロッドの先端部付近において地盤中から吸水を行うことにより、過剰間隙水圧を除去しながら地盤を締固めるための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤の締固め工法とは、円筒形のケーシングパイプを用いて地中に砂杭を造成したり、貫入ロッド(例えば、H型ロッド)を振動させながら地中に貫入して地盤の密度を増大させたりする地盤改良工法である。前者は、地中に密な砂杭を造成して、地盤全体の密度を増大させる方法である。また、後者は、貫入ロッドを上下振動させながら地中に貫入して地盤を直接的に締固めて密度を増大させる方法である。
【0003】
地盤の密度を高めることは、地盤の支持力やせん断強度を増加させて、地震時に発生する液状化現象を防止する効果をもたらすため、数多くの地盤改良工法の中でも、締固め工法が豊富な施工実績を有している。このような地震発生時の液状化対策として実施される地盤締固め工法において、改良深度は最大で20m程度となる。ところで、真空ポンプなどによる負圧を利用した吸水機構には揚水高さに限界があり、20m程度の改良深度の地盤締固めにおいて負圧を利用した吸水機構を併用した場合には、吸引水を地上まで導出することができないため、適用が困難である。そこで、貫入ロッド近傍に配置した吸水管に水等を高圧で送水し、送水経路の途中に設けたジェットノズルによりジェット水流を発生させて、ジェット水流が通過する付近の吸水管に吸水開口部を設けることで、貫入ロッド周辺の土砂と共に地下水を吸水管中へ流入させ、高圧循環水と共に地上まで導出させるようにした吸水機構を用いることが多い。
【0004】
このような締固め工法として、ロッドコンパクション工法において、10m以上の深層部の地盤締固めにおいても、振動により発生する過剰間隙水圧を解消することができる吸水型地盤締固め装置が開示されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載された吸水型地盤締固め装置は、起振機によって貫入ロッドの貫入と引き抜きとを繰り返すことで地盤の締固めを行う装置であり、この際に発生する過剰間隙水圧に基づく地下水を水噴流ポンプによって吸水するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3486075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の吸水機構を備えた吸水型地盤締固め装置では、図6に示すように、地盤から吸水を行うための吸水開口部の周辺に地盤内の土砂が付着し、吸水能力が低下することがある。また、吸水開口部に付着した土砂は、ジェット水流が生み出す強力な負圧によって水分が失われて不飽和状態となり、土粒子間にサクション力が作用することになる。その結果、土粒子相互の付着力が増大して強固なものとなり、吸水開口部付近に付着した土砂は容易に剥がれ落ちにくい状態となるため、杭打設中に吸水能力を回復させることは難しい。
【0007】
このような状況に陥ることを回避するためには、吸水開口部の開口面積を広くしたり、吸水開口部の数を増やしたりして、土砂が付着する確率を低くするための対策を講じる必要がある。しかし、高圧循環水を用いた吸水機構では、吸水開口部の面積を広げた場合に、吸引した土砂によって吸水管内の閉塞が生じやすくなる。また、吸水開口部の数を増やした場合には、ジェットノズルから離れた位置にまで吸水開口部を設けることとなるため、ジェット水流が吸水開口部より噴出しやすくなるという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、ジェット水流等の高圧駆動流体を利用した吸水機構を備える吸水型締固め工法において、吸水管の閉塞やジェット水の地盤内噴出を生じることなく吸水効率を向上させることが可能な、吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を備えている。すなわち、本発明の吸水型地盤締固め装置は、貫入ロッドを振動させながら地盤中に貫入すると共に、当該貫入ロッドの先端部付近において地盤中から吸水を行うことにより、過剰間隙水圧を除去しながら地盤を締固めるための装置であって、水や空気等の駆動流体を循環させる循環パイプと、循環パイプに接続した枝管内に負圧を生じさせるためのジェットノズルと、枝管に設けられた吸水開口部とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
循環パイプは、貫入ロッドに取り付けられており、噴流ポンプから送出される水や空気等の駆動流体を循環させるための部材である。ジェットノズルは、循環パイプの下端部付近に設けられており、循環パイプ内を循環する駆動流体を高圧で噴出させることにより、枝管内に負圧を生じさせるための部材である。枝管は、ジェットノズルの配設部近傍の循環パイプから分岐しており、複数の吸水開口部から地盤中の水を吸水するための部材である。
【0011】
ここで、枝管は、ジェットノズルの下流側の循環パイプから下方に向かって分岐しており、複数の吸水開口部が貫入ロッドの下端部付近に位置する構成とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明の吸水型地盤締固め方法は、上述した構成からなる吸水型地盤締固め装置を用いて地盤を締固めることを特徴とするものである。この吸水型地盤締固め方法では、貫入ロッドに取り付けられた循環パイプに、噴流ポンプから送出される水や空気等の駆動流体を循環させ、循環パイプの下端部付近に配設したジェットノズルにより、循環パイプ内を循環する駆動流体を高圧で噴出させて、ジェットノズルの配設部近傍の循環パイプから分岐した枝管内に負圧を発生させ、枝管に設けられた複数の吸水開口部により、地盤から吸水を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法は、図5に示すように、噴流ポンプから送出される水や空気等の駆動流体を循環させる循環パイプに吸水開口部を設けるのではなく、循環パイプから分岐した枝管に吸水開口部を設けている。従来のように、循環パイプに設けた吸水開口部の数を増やした場合には、ジェットノズルから離れた位置にある吸水開口部から高圧の駆動流体(ジェット水流)が噴出するおそれがあったが、循環パイプから分岐した枝管に吸水開口部を設けた場合には、吸水開口部の数を多くしたとしても、循環パイプに対する枝管の取付部とジェットノズルとの位置関係は変化することがない。したがって、ジェットノズルから離れた位置に吸水開口部が存在したとしても、高圧の駆動流体が吸水開口部から噴出することがないので、高い吸引効果を得ることができる。
【0014】
また、枝管内が、地盤中から流入してきた地下水で満たされた状態となるため、吸水開口部に土砂が付着した場合であっても、付着した土砂は飽和状態となる。このため、付着土砂がはがれやすい状態を維持することになるので、吸水能力の低下が生じ難くなる。
【0015】
さらに、枝管内に満たされた地下水は、高圧の駆動流体(ジェット水流)の作用で負圧状態となるため、地盤内の地下水とは大きな水頭差を持つことになる。このため、従来の技術と比較して、吸水能力を大きく向上させることが可能となる。
【0016】
このように、本発明の吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法は、ジェット水流等の高圧駆動流体を利用した吸水機構を備える吸水型締固め工法において、吸水管の閉塞やジェット水の地盤内噴出を生じることなく吸水効率を向上させることが可能となる。これにより、従来の技術と比較して地盤改良効果がより一層向上するので、施工対象となる地盤の支持力やせん断強度が高まると共に、地震時に発生する液状化現象を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置の枝管付近を示す構成図。
【図2】本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置の全体構成図。
【図3】本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置に関する吸水実験装置の概略図。
【図4】本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置に関する吸水実験結果を示す説明図。
【図5】本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置の作用説明図。
【図6】従来の吸水型地盤締固め装置の作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法は、例えば、地震発生時の液状化対策として実施される地盤改良に好適に用いられるものである。また、以下の説明では、H型ロッドからなる貫入ロッドを用いた場合を例にとっているが、本発明は、H型ロッドだけではなく、円筒形のケーシングロッド等、他の形状の貫入ロッドを用いた吸水型地盤締固め装置及び吸水型地盤締固め方法に対しても適用することができる。また、高圧駆動流体としてジェット水を例にとって説明しているが、循環パイプ内を循環させる高圧駆動流体として、ジェット水と共に空気を使用してもよい。
【0019】
<吸水型地盤締固め装置の概要>
図1及び図2は、本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置を示すもので、図1は、吸水型地盤締固め装置の枝管付近を示す構成図、図2は、吸水型地盤締固め装置の全体構成図である。
【0020】
本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め方法で使用する吸水型地盤締固め装置は、図2に示すように、ベース車両となるクローラ式杭打ち機70と、クローラ式杭打ち機70のクレーンワイヤー80に吊り下げられた貫入ロッド10と、貫入ロッド10に振動を付与するバイブロハンマー90と、貫入ロッド10の長手方向に沿って配設された循環パイプ20と、循環パイプ20の先端部(下端部)付近から分岐した枝管30と、枝管30に設けられた複数の吸水開口部40(図1参照)と、循環パイプ20内に高圧の循環ジェット水を循環させる噴流ポンプ(図示せず)等から構成されている。
【0021】
<貫入ロッド>
本実施形態の貫入ロッド10はH型となっており、図1に示すように、下端部(先端部)に、一対の開閉パネル(フレスパネル)100が回動可能に取り付けられている。各開閉パネル100は、貫入ロッド10の貫入及び引抜きを容易にするための部材で、貫入時には、外方へ向かって回動することにより貫入抵抗を減少させ、引抜き時には、内側に向かって閉じ、さらに突き固め時には周辺の土の流入に従って内側に閉じることで、締固め時の先端面積を確保している。
【0022】
<循環パイプ及び枝管>
本実施形態の吸水型地盤締固め装置は、図1に示すように、貫入ロッド10の側面に、循環パイプ20が一体的に取り付けてある。また、循環パイプ20の下端部付近に、循環パイプ20内を循環するジェット水の流速を増大させるためのジェットノズル50を取り付けてあり、ジェットノズル50の下流側には、循環パイプ20から下方へ向かって分岐する枝管30が取り付けてある。また、循環パイプ20の枝管30が分岐している付近及び枝管30の先端部付近は、貫入ロッド10の貫入及び引き抜き時の衝撃から循環パイプ20及び枝管30を保護するために、カバー部材60a、60bにより覆われている。
【0023】
このような構成からなる吸水型地盤締固め装置は、循環パイプ20から分岐する枝管30の直前で、ジェットノズル50により水流の流速を増大させ、ベルヌーイの原理により枝管30内に負圧を発生させる。そして、枝管30に設けた吸水開口部40から地盤中の地下水を吸引して、過剰間隙水圧を除去するようになっている。
【0024】
枝管30は、循環パイプ20とほぼ同径のパイプであり、その先端部付近に複数の吸水開口部40が設けられている。枝管30の長さは特に限定されないが、吸水開口部40が貫入ロッド10の下端部付近に位置するように枝管30の長さを設定することが好ましい。また、吸水開口部40の径及び数は、施工対象となる地盤の土質等に応じて適宜変更して設定することができる。
【0025】
<吸水型地盤締固め方法>
本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め方法では、まず、貫入ロッド10を改良層の下端まで初期貫入する。この際、貫入抵抗を減少させるために貫入ロッド10の先端から高圧ジェット水を噴出させることが好ましい。次に、貫入ロッド10の引抜きと貫入とを繰返しながら徐々に貫入ロッド10を引き上げる。締固めは、バイブロ荷重が地盤に伝達される貫入(突固め)工程で行われる。
【0026】
締固め工程では、貫入ロッド10に取り付けられた循環パイプ20に、噴流ポンプから送出されるジェット水を循環させ、循環パイプ20の下端部付近に配設したジェットノズル50により、循環パイプ20内を循環する駆動流体を高圧で噴出させて、ジェットノズル50の配設部近傍の循環パイプ20から分岐した枝管30内に負圧を発生させ、枝管30に設けられた複数の吸水開口部40により、地盤から吸水を行う。これにより、過剰間隙水圧を除去しながら地盤を締固めることができる。
【0027】
<吸水実験>
次に、本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置に関する吸水実験について説明する。図3は、本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置に関する吸水実験装置の概略図、図4は吸水実験結果を示す説明図である。
【0028】
<実験装置>
本発明の実施形態に係る吸水型地盤締固め装置に用いる枝管を備えた循環パイプ模型110と、従来の循環パイプ模型とを作成し、その吸水効果について実験を行った。枝管を備えた循環パイプ模型110は、図示しないが、内部にジェットノズルを備えた循環パイプと、循環パイプのジェットノズル下流部付近から分岐した枝管とからなり、枝管には複数の吸水開口部が形成されている。一方、従来の循環パイプ模型は、図示しないが、内部にジェットノズルを備えた循環パイプであって、循環パイプのジェットノズル下流部付近に吸水開口部が形成されている。
【0029】
吸水実験装置は、図3に示すように、貯水槽120、ポンプ130、実験水槽140、排水槽150を備えており、実験水槽140内に循環パイプ模型110を設置し、貯水槽120に貯留された水をポンプ130による吸い上げて循環パイプ模型110に供給し、循環パイプ模型110により実験水槽140内から吸水を行って、排水槽150へ排水する構成となっている。ここで、送水量をQ1とし、排水量をQ2=送水量Q1+吸水量Q3とすると、循環パイプ模型110における吸水量Q3は、排水量Q2から送水量Q1を減算することにより求めることができる。
【0030】
<実験結果>
図4から明らかなように、従来の循環パイプ模型では、吸水量が250リットル/min程度であったが、枝管を備えた循環パイプ模型では、吸水量が380リットル/min程度となり、従来のように循環パイプに吸水開口部を設けた機構と比較して、本発明のように枝管に吸水開口部を設けた機構のほうが吸水効果が極めて高いことがわかる。
【符号の説明】
【0031】
10 貫入ロッド
20 循環パイプ
30 枝管
40 吸水開口部
50 ジェットノズル
60a、60b カバー部材
70 クローラ式杭打ち機
80 クレーンワイヤー
90 バイブロハンマー
100 開閉パネル
110 循環パイプ模型
120 貯水槽
130 ポンプ
140 実験水槽
150 排水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫入ロッドを振動させながら地盤中に貫入すると共に、当該貫入ロッドの先端部付近において地盤中から吸水を行うことにより、過剰間隙水圧を除去しながら地盤を締固めるための装置であって、
前記貫入ロッドに取り付けられて、噴流ポンプから送出される駆動流体を循環させる循環パイプと、
前記循環パイプの下端部付近に設けられて、前記循環パイプ内を循環する駆動流体を高圧で噴出させるジェットノズルと、
前記ジェットノズルの配設部近傍の循環パイプから分岐し、複数の吸水開口部を設けた枝管と、
を備えたことを特徴とする吸水型地盤締固め装置。
【請求項2】
前記枝管は、前記ジェットノズルの下流側の循環パイプから下方に向かって分岐すると共に、前記複数の吸水開口部が前記貫入ロッドの下端部付近に位置することを特徴とする請求項1に記載の吸水型地盤締固め装置。
【請求項3】
貫入ロッドを振動させながら地盤中に貫入すると共に、当該貫入ロッドの先端部付近において地盤中から吸水を行うことにより、過剰間隙水圧を除去しながら地盤を締固めるための方法であって、
前記貫入ロッドに取り付けられた循環パイプに、噴流ポンプから送出される駆動流体を循環させ、
前記循環パイプの下端部付近に配設したジェットノズルにより、前記循環パイプ内を循環する駆動流体を高圧で噴出させて、前記ジェットノズルの配設部近傍の循環パイプから分岐した枝管内に負圧を発生させ、
前記枝管に設けられた複数の吸水開口部により、地盤から吸水を行う、
ことを特徴とする吸水型地盤締固め方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate