説明

吸水性ポリウレタン発泡体、及びその製造方法

【課題】ポリウレタン発泡体の特性を大きく損なうことなく、吸水性を付与した吸水性ポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを架橋反応させてなる吸水性ポリマー層が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性ポリマー層を備えた吸水性ポリウレタン発泡体、及びその製造方法に関し、詳しくはポリウレタン発泡体の特性を損なうことなく、吸水性を付与した吸水性ポリウレタン発泡体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた吸水性を有する吸水性ポリマー(SAP)とポリウレタン発泡体とを複合化することによりポリウレタン発泡体に吸水性を付与する試みがなされている。こうしたポリウレタン発泡体としては、ポリウレタン発泡体の骨格表面に粒状の吸水性ポリマーを担持させた吸水性ポリウレタン発泡体(特許文献1参照)や、ポリウレタン発泡体の骨格内部に吸水性ポリマーを含有させた吸水性ポリウレタン発泡体(特許文献1及び特許文献2参照)が知られている。
【0003】
ポリウレタン発泡体の骨格表面に粒状の吸水性ポリマーを担持させた吸水性ポリウレタン発泡体は、アクリル系やウレタン系のバインダーに吸水性ポリマーを混合した混合液をポリウレタン発泡体に塗布することによって製造される。しかしながら、この吸水性ポリウレタン発泡体は、吸水性ポリマーの表面がバインダーによって覆われた状態となることから、吸水性ポリマーと水とを十分に直接接触させることができず、吸水性の向上作用は非常に限定的なものである。また、ポリウレタン発泡体の骨格表面から粒状の吸水性ポリマーが脱離することで、吸水性が低下するというおそれもある。
【0004】
一方、骨格内部に吸水性ポリマーを含有させた吸水性ウレタン発泡体は、ポリウレタン発泡体を製造するための発泡体原料中に、吸水性ポリマー又は吸水性ポリマー含有ポリオールを配合し、その発泡体原料を反応及び発泡させることによって製造される。しかしながら、この吸水性ポリウレタン発泡体も、骨格を構成する樹脂によって吸水性ポリマーの表面が覆われた状態となることから、水と吸水性ポリマーとを十分に直接接触させることができない。さらに、この吸水性ポリウレタン発泡体の場合、吸水性ポリマーの吸水に伴う膨潤が、ポリウレタン発泡体の骨格を構成する樹脂によって規制されてしまい、吸水性ポリマーの吸水作用が制限されるという問題もある。
【0005】
このように、従来の吸水性ポリマーを有する吸水性ポリウレタン発泡体は、上述した構造的な要因から吸水性ポリマーの吸水能力を十分に発揮させることができず、吸水能力の向上作用は非常に限定的なものであった。
【0006】
ところで、特許文献3〜5には、不織布等の繊維質基体と吸水性ポリマーとを複合化して、繊維質基体に吸水性ポリマーに基づく吸水性を付与する技術が開示されている。特許文献3〜5の技術は、繊維質基体の繊維表面に吸水性ポリマー層を形成し、この吸水性ポリマー層に基づく吸水性を繊維質基体に付与するというものである。具体的には、重合により吸水性ポリマーを形成するモノマー成分、架橋剤、及び重合開始剤を含む処理液を繊維質基体に含浸させた後、繊維質基体に付着した処理液中の各成分を重合させることにより繊維表面に吸水性ポリマー層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−008126号公報
【特許文献2】特開2002−105164号公報
【特許文献3】特開平01−121306号公報
【特許文献4】特開平01−121307号公報
【特許文献5】特開平03−027181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献3〜5に開示される技術をポリウレタン発泡体に応用し、ポリウレタン発泡体の骨格表面に、モノマー成分を含む吸水性ポリマー原料を重合させてなる吸水性ポリマー層を形成して、ポリウレタン発泡体と吸水性ポリマーとの複合化を試みた。しかしながら、得られた複合化ポリウレタン発泡体には、複合化前のポリウレタン発泡体が有する特性・物性(柔軟性、弾力性、低歪み性、引っ張り強度)が大きく損なわれるという問題があった。この原因としては、特に重合により吸水性ポリマーを形成するモノマー成分が、ポリウレタン発泡体に含まれるエラストマー相内に浸入した状態で重合されることで、エラストマー相を巻き込んで吸水性ポリマー層が形成されてしまい、エラストマー相を硬化及び脆弱化させていると考えられる。なお、エラストマー相とは、ガラス転移温度が低く、常温以上の温度では高分子鎖の運動性が高くなる性質を有する成分からなる相であり、ポリウレタン発泡体に柔軟性及び弾力性を付与している。
【0009】
この発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ポリウレタン発泡体の特性を大きく損なうことなく、吸水性を付与した吸水性ポリウレタン発泡体、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の吸水性ポリウレタン発泡体は、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を設けた吸水性ポリウレタン発泡体であって、前記吸水性ポリマー層は、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを架橋反応させてなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の吸水性ポリウレタン発泡体は、請求項1に記載の発明において、前記ポリマーは、数平均分子量が1000〜1000000であることを特徴とする。
請求項3に記載の吸水性ポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記ポリマーは、ポリアクリル酸類の部分中和物、又はカルボキシアルキルエーテルセルロース類であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の吸水性ポリウレタン発泡体は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記吸水性ポリマー層の上に、第2の吸水性ポリマー層を設けたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法は、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を備える吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法であって、前記ポリウレタン発泡体の骨格表面において、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを付着させた状態で前記ポリマーと前記架橋剤とを架橋反応させることにより、前記ポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の吸水性ポリウレタン発泡体、及びその製造方法によれば、ポリウレタン発泡体の特性を大きく損なうことなく、吸水性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の吸水性ポリウレタン発泡体は、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを架橋反応させてなる吸水性ポリマー層を設けたものである。
【0016】
[ポリウレタン発泡体]
本実施形態の吸水性ポリウレタン発泡体に用いられるポリウレタン発泡体は、発泡体中に存在する気泡(セル)が連通した連続気泡構造を有するものであればよく、例えば、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料から得られる公知のポリウレタン発泡体のいずれも用いることができる。なお、加水分解に対して耐性を有するという点から、上記ポリオール類として、ポリアルキレンエーテルポリオール等のポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールを用いることが好ましい。また、ポリウレタン発泡体は、その密度が10〜90kg/mの範囲であり、硬度(アスカーF硬度)が10〜95の範囲である軟質ポリウレタン発泡体であることが好ましい。
【0017】
[吸水性ポリマー層]
吸水性ポリマー層は、ポリウレタン発泡体の骨格表面に形成される層であり、ポリウレタン発泡体に吸水性を付与する層である。この吸水性ポリマー層は、重合により吸水性ポリマーを形成するモノマー成分を用いることなく、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを架橋反応させることによって形成されている。
【0018】
上記複数のカルボキシル基を有するポリマーとしては、架橋構造を形成することにより吸水性を発現する水溶性のポリマーであれば特に限定されないが、生体への安全性、価格、吸水性、及び劣化耐性(加水分解、酸化、生物による分解等)等の観点から、例えば、ポリアクリル酸類の部分中和物、及びカルボキシアルキルエーテルセルロース類を好適に用いることができる。ポリアクリル酸類としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、及びアクリル酸とスルホン酸系モノマーとの共重合体が挙げられる。なお、部分中和物とはポリアクリル酸類のカルボキシル基の20%以上、好ましくは50%以上がアルカリ金属塩又はアンモニウム塩に中和されたものを意味する。カルボキシアルキルエーテルセルロース類としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、及びカルボキシエチルセルロースが挙げられる。なお、上記ポリマーは架橋構造をもたないものが好ましい。
【0019】
また、上記ポリマーは、数平均分子量(以下、単に分子量と記載する。)が1000〜1000000の範囲であることが好ましく、2000〜500000の範囲であることがより好ましい。上記ポリマーの分子量が1000未満である場合、上記ポリマーがポリウレタン発泡体の骨格内に浸入する場合があり、1000000を超える場合には、粘性が増大することから取り扱いが難しくなる。
【0020】
上記架橋剤は、上記ポリマー間に架橋構造を形成する。上記架橋剤としては、カルボキシルアニオン基、カルボキシル基、及び水酸基等の上記ポリマーと反応する多価官能基を有した化合物を使用することができる。具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のポリグリシジル化合物、ポリイソシアネート水分散体、ポリカルボジイミド化合物、ポリアジリジン化合物、ポリオキサゾリン化合物、水溶性メラミン樹脂、多価金属塩、並びにポリアミン化合物が挙げられる。これらの架橋剤のうち、一種のみを用いてもよいし、二種以上を用いてもよい。なお、反応速度、反応性、及び洗浄等の後処理の容易性の観点から、ポリグリシジル化合物、ポリイソシアネート水分散体、ポリカルボジイミド化合物、及びポリアジリジン化合物を用いることが特に好ましい。
【0021】
また、強酸は水溶液中において上記ポリマーのカルボキシルアニオン基をカルボキシル基にすることで、カルボキシル基同士又はカルボキシル基と水酸基との間に水素結合を形成させて上記ポリマー間に架橋構造を形成可能であることから、架橋剤として強酸を用いることもできる。強酸としては、例えば、塩酸、硫酸、リン酸、及びクエン酸が挙げられる。
【0022】
上記架橋剤の添加量は、上記ポリマー100質量部に対して1〜50質量部であり、好ましくは2〜10質量部である。この添加量が1質量部未満である場合、架橋構造が十分に形成できないおそれがあり、50質量部を超える場合、後処理として洗浄を行っても過剰の酸等が残留して接触物を冒すおそれがある。
【0023】
また、吸水性ポリマー層には、必要に応じて上記ポリマー及び架橋剤以外のその他の成分、例えば難燃剤、及び着色剤が含有されていてもよい。
なお、吸水性ポリマー層の形成量は、好ましくはポリウレタン発泡体100質量部に対して0.1〜1000質量部であり、より好ましくは1〜500質量部である。吸水性ポリマー層の形成量がポリウレタン発泡体100質量部に対して0.1質量部未満である場合には、十分な吸水性が得られなくなるおそれがある。また、吸水性ポリマー層の形成量がポリウレタン発泡体100質量部に対して1000質量部を超える場合には、吸水に伴って吸水性ポリマーが膨潤する際に、隣接する吸水性ポリマー同士が接触してしまい、それ以上の膨潤及び吸水が抑制される(ブロッキング現象)おそれがある。
【0024】
上記吸水性ポリマー層は以下のようにして、ポリウレタン発泡体の骨格表面に形成することができる。
まず、上記ポリマー及び架橋剤を水等の溶媒に溶解させた溶液を調製する(その他の成分がある場合には同成分を含む)。次いで、調製した溶液を浸漬方式、スプレー方式等により上記ポリウレタン発泡体に含浸させて骨格表面に付着させる。ここで、上記ポリマーを含む溶液と、架橋剤を含む溶液とを異なる溶液として調製し、それぞれ別々にポリウレタン発泡体の骨格表面に付着させるようにしてもよい。このとき、上記ポリマー及び架橋剤を含む溶液の濃度調整や、同溶液を付着させた後に付着溶液の一部を除去する処理(たとえば、ロールによる圧搾処理)を行うことによって、ポリウレタン発泡体の骨格表面に形成される吸水性ポリマー層の形成量を調整することができる。
【0025】
次に、ポリウレタン発泡体の骨格表面に付着した上記ポリマー及び架橋剤を含む溶液を、架橋反応の反応開始温度以上に加熱する。これにより、上記ポリマー間に架橋構造が形成されてポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層が形成される。このとき、上記ポリマー及び架橋剤を含む溶液が不可逆的にゲル化することにより、吸水性ポリマー層がポリウレタン発泡体の骨格表面に固定される。加熱方法としては、例えば、ポリウレタン発泡体が載置される反応槽の温度を上げる方法、赤外線やマイクロ波等の電磁波を利用する方法が挙げられる。なお、架橋剤として強酸を用いた場合には、架橋剤と吸水性ポリマーとの接触によって架橋構造の形成が開始されるため、加熱処理を省略することもできる。
【0026】
吸水性ポリマー層の形成後、吸水性ポリマー層を乾燥させて水分量を調整する。ここで、吸水性ポリマー層を過度に乾燥させると、吸水性ポリマー層が硬化して吸水性ポリウレタン発泡体全体が硬くなるおそれがある。そのため、吸水性ポリマー層中の上記ポリマー100質量部に対して好ましくは10〜50質量部、より好ましくは2〜10質量部の水分を、吸水性ポリマー層に残存させることが望ましい。
【0027】
[吸水性ポリウレタン発泡体]
このように構成された本実施形態の吸水性ポリウレタン発泡体には、ポリウレタン発泡体の骨格表面上に形成される吸水性ポリマー層に基づく高い吸水性が付与される。具体的には、ポリウレタン発泡体内に形成される連続気泡構造に基づく毛管引力によって、濡れ性をもつ液体を連続気泡構造内に素早く吸収するとともに、吸水性ポリマー層がその体積の数十倍〜百倍程度の液体を吸収及び保持する。また、ポリウレタン発泡体の骨格自体は吸水にともなう膨潤性が低いため、吸水性ポリマー層に多量の液体を吸収した状態であっても、吸水性ポリウレタン発泡体全体の見かけの体積変化や強度低下が起こり難い。
【0028】
さらに、吸水性ポリマー層の形成に用いられる上記ポリマーは、そのサイズが大きいことからポリウレタン発泡体の骨格内に浸入し難い。そのため、吸水性ポリマー層の形成後もポリウレタン発泡体が有する弾力性や柔軟性等の特性が大きく損なわれることなく維持される。
【0029】
また、本実施形態の吸水性ポリウレタン発泡体は、好ましくは、JIS K6400−4(2002)に規定される圧縮永久歪が3〜30%の範囲であり、JIS K6400−5(2002)に規定される引張強度が50〜125kPaの範囲であり、JIS K6400−5(2002)に規定される破断伸びが80〜300%の範囲である。
【0030】
なお、本実施形態の吸水性ポリウレタン発泡体は、吸水性が要求される物品に好適に適用することができ、特に吸水性とともにポリウレタン発泡体が有する弾力性や柔軟性等の特性が要求される物品に好適に適用することができる。こうした物品としては、例えば、おむつやナプキン等の衛生生理用品用、創傷被覆材や創傷保護材等の医療用品、汗取りパッド等のパッド類、掃除用クリーナやメイク落とし用シート等のシート類が挙げられる。また、インクジェット方式のプリンタのプリンタヘッドに対応して取り付けられるインク吸収体に適用することもできる。
【0031】
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の吸水性ポリウレタン発泡体では、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを架橋反応させてなる吸水性ポリマー層が設けられている。上記構成によれば、ポリウレタン発泡体の骨格表面上に吸水性ポリマー層が露出した状態で形成されているため、吸水性ポリマー層と水とを直接接触させることができる。したがって、吸水性ポリマー層の吸水能力を十分に発揮させることが可能となり、吸水性ポリマー層に基づく高い吸水性が付与される。
【0032】
また、吸水性ポリマー層の原料として、上記ポリマーと架橋剤とを用い、上記ポリマー間に架橋構造を形成することによって吸水性ポリマー層が形成されている。重合により吸水性ポリマーを形成するモノマー成分と比較して、上記ポリマーはそのサイズが大きいことからポリウレタン発泡体の骨格内に浸入し難い。そのため、吸水性ポリマー層の形成後もポリウレタン発泡体が有する弾力性や柔軟性等の特性が大きく損なわれることなく維持される。
【0033】
(2)吸水性ポリマー層の形成に用いる上記ポリマーの分子量は、好ましくは1000〜1000000である。この場合、吸水性ポリマー層の形成時において、上記ポリマーのポリウレタン発泡体の骨格内への浸入をより確実に抑制することができる。
【0034】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 吸水性ポリマー層を多層構造としてもよい。つまり、吸水性ポリマー層の上に、第2、第3の吸水性ポリマー層を設けた構成としてもよい。この場合、内側の層から数えて2層目以降の吸水性ポリマー層については、特許文献3〜5に記載されるような吸水性ポリマーを形成するモノマー成分からなる吸水性ポリマー層を適用することもできる。つまり、1層目の吸水性ポリマー層がバリア層となって、2層目以降の吸水性ポリマー層に用いられる上記モノマー成分のポリウレタン骨格内への浸入を抑制する。これにより、2層目以降であれば、上記モノマー成分から吸水性ポリマー層を形成しても、ポリウレタン発泡体が有する弾力性や柔軟性等の特性が大きく損なわれることはない。このように構成した場合には、吸水性ポリウレタン発泡体の吸水性がさらに向上する。
【実施例】
【0035】
次に、実施例及び比較例を挙げて上記実施形態を更に具体的に説明する。
<実施例及び比較例の吸水性ポリウレタン発泡体の形成>
[実施例1]
分子量6000のポリアクリル酸(アロンA−10SL、東亞合成社製)と、分子量6000のポリアクリル酸ナトリウム(アロンT−50、東亞合成社製)とを質量比1:4で混合したポリマー成分を水に溶解させて30質量%水溶液とし、さらに多官能グリシジルエーテル(デナコールEX−313、ナガセケミテックス社製)を、ポリマー成分の固形分100質量部に対して5質量部となるように添加し、十分に混合して混合液を調製した。次に、密度が45kg/mであるポリエーテル系ポリウレタン発泡体(200mm×200mm×2mm)のシートに対して、上記混合液をスプレー方式にて均一に含浸した。なお、上記混合液の含浸量は、水溶液中のポリマー成分の固形分量がポリウレタン発泡体の質量とほぼ同じになる量とした。
【0036】
その後、ポリウレタン発泡体を熱風循環オーブン(80℃)にて30分間、加熱処理して、ポリマー成分を架橋してゲル化させた。これにより、ポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層が形成された実施例1の吸水性ポリウレタン発泡体を得た。なお、このときの吸水性ポリウレタン発泡体の密度を測定するとともに、下記式に従って吸水性ポリマー層の形成量(ポリウレタン発泡体100質量部に対する形成量)を算出した。その結果を表2に示す。
【0037】
吸水性ポリマー層の形成量(質量部)=(Y−X)/X×100
X:ポリウレタン発泡体の密度
Y:吸水性ポリウレタン発泡体の密度
[実施例2]
下記の点を除いて実施例1と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
【0038】
多官能グリシジルエーテルに代えて、多官能カルボジイミド化合物(カルボジライトV−02−L2、日清紡社製)を用いた点。
[実施例3]
下記の点を除いて実施例1と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
【0039】
多官能グリシジルエーテルに代えて、多官能アジリジン化合物(ケミタイトPZ−33、日本触媒社製)を用いた点。
[実施例4]
分子量130000のカルボキシメチルセルロース(セロゲンWS−C、第一工業製薬社製)の2質量%水溶液に、カルボキシメチルセルロース100質量部に対して5質量部の多官能カルボジイミド化合物を添加し、十分に混合して混合液を調製した。次に、密度が45kg/mであるポリエーテル系ポリウレタン発泡体(200mm×200mm×2mm)のシートに対して、上記混合液をスプレー方式にて均一に含浸した。なお、上記混合液の含浸量は、水溶液中のポリマー成分の固形分量がポリウレタン発泡体の質量とほぼ同じになる量とした。
【0040】
その後、ポリウレタン発泡体を熱風循環オーブン(80℃)にて30分間加熱処理して、ポリマー成分を架橋してゲル化させた。これにより、ポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層が形成された実施例4の吸水性ポリウレタン発泡体を得た。なお、このときの吸水性ポリウレタン発泡体の密度を測定するとともに、実施例1と同様に吸水性ポリマー層の形成量を算出した。その結果を表2に示す。
【0041】
[実施例5]
下記の点を除いて実施例4と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
カルボキシメチルセルロースの2質量%水溶液に代えて、カルボキシメチルセルロースの3質量%水溶液(粘稠)を用いた点。
【0042】
多官能カルボジイミド化合物に代えて、5質量%硫酸アルミニウム水溶液を用いた点。5質量%硫酸アルミニウム水溶液の添加量は、カルボキシメチルセルロース100質量部に対して2000質量部とした。
【0043】
[実施例6]
下記の点を除いて実施例3と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
密度が35kg/mであるポリウレタン発泡体を用いた点。
【0044】
多官能アジリジン化合物の添加量を、ポリマー成分の固形分100質量部に対して10質量部とした点。
[実施例7]
下記の点を除いて実施例4と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
【0045】
密度が35kg/mであるポリウレタン発泡体を用いた点。
多官能カルボジイミド化合物の添加量を、カルボキシメチルセルロース100質量部に対して10質量部とした点。
【0046】
[実施例8]
下記の点を除いて実施例6と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
密度が26kg/mであるポリウレタン発泡体を用いた点。
【0047】
[実施例9]
下記の点を除いて実施例4と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
密度が26kg/mであるポリウレタン発泡体を用いた点。
【0048】
[実施例10]
下記の点を除いて実施例7と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
密度が26kg/mであるポリウレタン発泡体を用いた点。
【0049】
[実施例11]
下記の点を除いて実施例1と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
ポリウレタン発泡体のシートに対する上記混合液の含浸量(付着量)を少なくし、吸水性ポリマー層の形成量が少なくなるように調整した点。
【0050】
[実施例12]
下記の点を除いて実施例1と同様に吸水性ポリウレタン発泡体を形成した。
ポリウレタン発泡体のシートに対する上記混合液の含浸量(付着量)を多くし、吸水性ポリマー層の形成量が多くなるように調整した点。
【0051】
[実施例13]
分子量500000のポリアクリル酸ナトリウム(アロンA−20L、東亞合成社製)と分子量6000のポリアクリル酸(アロンA−10SL、東亞合成社製)とを質量比1:4で混合したポリマー成分を水に溶解させて10質量%質量%水溶液とし、さらに多官能アジリジン化合物(ケミタイトPZ−33、日本触媒社製)を上記固形分に対して質量比で10:1となるように添加して第1の吸水性ポリマー原料溶液を調製した。密度が45kg/mであるポリウレタン発泡体(200mm×200mm×2mm)のシートに対して、上記第1の吸水性ポリマー原料溶液をスプレー方式にて含浸した後、ポリウレタン発泡体を熱風循環オーブン(40℃)にて1時間、加熱処理して上記分散液をゲル化させることにより、ポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を形成した。
【0052】
次に、イオン交換水39mlに水酸化ナトリウム13gを溶解させた溶液に、氷冷下にてアクリル酸(東亞合成社製)30gを加えて、中和度約75%のアクリル酸部分中和物を調製した。窒素フロー下にて、上記アクリル酸部分中和物にポリエチレングリコールジアクリレート0.3gを滴下混合した後、さらに31%過酸化水素水0.8gを滴下混合した。そして、30分間攪拌して残存空気を十分に置換することにより第2の吸水性ポリマー原料溶液を調製した。
【0053】
吸水性ポリマー層を形成したポリウレタン発泡体に対して、上記第2の吸水性ポリマー原料溶液をスプレー方式にて含浸させるとともに、ローラにて十分にポリウレタン発泡体に馴染ませた後、5%エリソルビン酸ナトリウム水溶液をスプレー方式にてさらに含浸させた。その後、ポリウレタン発泡体を熱風循環オーブン(40℃)にて5分間加熱処理した。これにより、重合反応を開始させて第2の吸水性ポリマー層を形成するとともに、余分な水分を蒸発除去することにより、実施例13の吸水性ポリウレタン発泡体を得た。なお、このときの吸水性ポリウレタン発泡体の密度を測定するとともに、実施例1と同様に吸水性ポリマー層の形成量を算出した。その結果を表3に示す。
【0054】
下記表1は、上記実施例で用いた「複数のカルボキシル基を有するポリマー」及び「架橋剤」に相当する成分をまとめたものである。
【0055】
【表1】

[比較例1]
ポリウレタン発泡体の骨格表面に、重合して吸水性ポリマーを形成するモノマー及び架橋剤を重合させて吸水性ポリマー層を形成したものを比較例1とした。
【0056】
イオン交換水39mlに水酸化ナトリウム13gを溶解させた溶液に、氷冷下にてアクリル酸(東亞合成社製)30gを加えて、中和度約75%のアクリル酸部分中和物を調製した。窒素フロー下にて、上記アクリル酸部分中和物にポリエチレングリコールジアクリレート(PE−400、第一工業製薬社製)0.3gを滴下混合した後、さらに31%過酸化水素水0.8gを滴下混合した。そして、30分間攪拌して残存空気を十分に置換することにより吸水性ポリマー原料溶液を調製した。
【0057】
次に、密度が45kg/mであるポリウレタン発泡体(200mm×200mm×2mm)のシートに対して、上記吸水性ポリマー原料溶液をスプレー方式にて含浸させるとともに、ローラにて十分にポリウレタン発泡体に馴染ませた後、5%エリソルビン酸ナトリウム水溶液をスプレー方式にてさらに含浸させた。その後、ポリウレタン発泡体を熱風循環オーブン(40℃)にて5分間、加熱処理した。これにより、重合反応を開始させて吸水性ポリマー層を形成するとともに、余分な水分を蒸発除去することにより、比較例1の吸水性ポリウレタン発泡体を得た。なお、このときの吸水性ポリウレタン発泡体の密度を測定するとともに、実施例1と同様に吸水性ポリマー層の形成量を算出した。その結果を表3に示す。
【0058】
[比較例2]
ポリウレタン発泡体の骨格表面にバインダーを用いて吸水性樹脂微粒子を担持させたものを比較例2とした。吸水性樹脂微粒子(サンフレッシュST−500D、三洋化成工業社製)100質量部、酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体(I−335、ISPジャパン社製)20質量部、及びイソプロピルアルコール200質量部を混合して、吸水性樹脂−バインダー混合液を調製した。
【0059】
次に、密度が45kg/mであるポリウレタン発泡体(200mm×200mm×2mm)のシートに対して、上記混合液をスプレー方式にて含浸させた後、熱風循環オーブン(80℃)にて1時間、加熱処理することによって乾燥させた。なお、乾燥後における付着成分の成分比は質量比(酢酸ビニル・ビニルピロリドン共重合体:イソプロピルアルコール)で10:1であった。また、このときの吸水性ポリウレタン発泡体の密度を測定した結果を表3に示している。
【0060】
<実施例及び比較例の吸水性ポリウレタン発泡体の評価>
得られた実施例及び比較例の吸水性ポリウレタン発泡体について、下記に示す方法に従い「吸水速度」、「吸水量」、「膨潤率」、「圧縮永久歪」、「引張強度」、及び「破断伸び」の評価を行った。
【0061】
[吸水速度の評価]
各例の吸水性ポリウレタン発泡体の表面に1mlの蒸留水をスポイトにて滴下して、吸水性ポリウレタン発泡体中に完全に吸収されて見えなくなるまでの時間を測定した。上記測定を、滴下位置を変化させて3回繰り返して行い、その平均値を吸水時間として求めた。その結果を表2及び表3に示す。
【0062】
[吸水量及び膨潤率の評価]
各例の吸水性ポリウレタン発泡体をイオン交換水に浸漬させ、1分後及び60分後に吸水性ポリウレタン発泡体を引き上げて、その重さを測定した。そして、下記式に従って吸水倍率(%)を求めた。
【0063】
吸水倍率=(B−A)/A×100
A:浸漬前の吸水性ポリウレタン発泡体の重さ
B:浸漬後の吸水性ポリウレタン発泡体の重さ
また、浸漬前の吸水性ポリウレタン発泡体に対する浸漬後(60分後)の吸水性ポリウレタン発泡体の縦・横・厚さの各寸法を測定し、各寸法の変化率(%)を下記式に従ってそれぞれ求めた。そして、各寸法の変化率の平均値を求め、これを膨潤率(%)とした。
【0064】
変化率=(D−C)/C×100
C:浸漬前の吸水性ポリウレタン発泡体の各寸法(縦・横・厚さ)
D:浸漬後の吸水性ポリウレタン発泡体の各寸法(縦・横・厚さ)
さらに、イオン交換水に代えて電解質溶液(生理食塩水(0.9質量%NaCl水溶液))を用いて同様の測定を行った。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0065】
[圧縮永久歪の評価]
各例の吸水性ポリウレタン発泡体の圧縮永久歪を、JIS K6400−4(2002)に準拠して測定した。測定サンプルは吸水性ポリウレタン発泡体(2mm厚)を10枚重ねたものとし、測定条件は22℃にて一週間、55%放置平衡とした。その結果を表2及び表3に示す。
【0066】
[引張強度及び破断伸びの評価]
各例の吸水性ポリウレタン発泡体の引張強度及び破断伸びを、JIS K6400−5(2002)に準拠して測定した。測定サンプルは吸水性ポリウレタン発泡体(2mm厚)を用い、測定条件は22℃にて一週間、55%放置平衡とした。その結果を表2及び表3に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

表2及び表3に示すように、重合して吸水性ポリマーを形成し得るモノマー及び架橋剤を重合させて吸水性ポリマー層を形成した比較例1と比較して、上記ポリマーを架橋させて吸水性ポリマー層を形成した各実施例は、吸水速度の評価、吸水量及び膨潤率の評価が同等又はそれ以上であることが分かる。一方、各実施例は比較例1と比較して、圧縮永久歪の値が小さくなっているとともに、引張強度及び破断伸びの値が大きくなっている。この結果から、各実施例の吸水性ポリウレタン発泡体は比較例1と異なり、ポリウレタン発泡体が有する弾力性や柔軟性等の特性が保持されていることが分かる。
【0069】
また、バインダーを用いて吸水性樹脂粒子を担持させた比較例2と比較して、各実施例は吸水速度の評価に優れるとともに、吸水量及び膨潤率の評価が同等又はそれ以上となっている。この結果から、各実施例の吸水性ポリウレタン発泡体は比較例2に対して、総合的な吸水能力が優れていることが分かる。
【0070】
さらに、実施例13は、吸水性ポリマー層上に第2の吸水性ポリマー層として、吸水性ポリマーを形成し得るモノマー及び架橋剤を重合させてなる吸水性ポリマー層を形成したが、他の実施例と同様にポリウレタン発泡体が有する弾力性や柔軟性等の特性が保持されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を設けた吸水性ポリウレタン発泡体であって、
前記吸水性ポリマー層は、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを架橋反応させてなることを特徴とする吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記ポリマーは、数平均分子量が1000〜1000000であることを特徴とする請求項1に記載の吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記ポリマーは、ポリアクリル酸類の部分中和物、又はカルボキシアルキルエーテルセルロース類であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記吸水性ポリマー層の上に、第2の吸水性ポリマー層を設けたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の吸水性ポリウレタン発泡体。
【請求項5】
連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を備える吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法であって、
前記ポリウレタン発泡体の骨格表面において、複数のカルボキシル基を有するポリマーと架橋剤とを付着させた状態で前記ポリマーと前記架橋剤とを架橋反応させることにより、前記ポリウレタン発泡体の骨格表面に吸水性ポリマー層を形成することを特徴とする吸水性ポリウレタン発泡体の製造方法。

【公開番号】特開2011−255613(P2011−255613A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132918(P2010−132918)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】