説明

吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体

【課題】吸水性と難黄変性の両特性を満足することができる吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体は、下記に示す式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であるとともに、下記に示す式(2)で表される色差ΔYIが7以下である。
吸水倍率=(吸水後の質量−吸水前の質量)/吸水前の質量 ・・・(1)
但し、吸水後の質量は、ポリウレタン発泡体を常温の水に3分間浸漬後、金網上に1分間放置したときの質量である。
ΔYI=YI−YI ・・・(2)
但し、YI値は、ポリウレタン発泡体を、二酸化窒素が50ppm充填されたデシケータ中に24時間放置した後取り出し、色差計で測定した黄変度を示す値である。YIは、ポリウレタン発泡体をデシケータに入れる前のYI値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガーゼ等として使用されるポリウレタン発泡体であり、特には吸水性が良く、光等に暴露されても黄変することが少ない吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガーゼは優れた吸水性及び保湿性を有するため、外科医療処置用などとして用いられ、またその種の材料は肌着、ハンカチ、手拭い、マスク、濾過材料、シーツなど多様な用途に用いられている。しかし、ガーゼは繊維質であるため、繊維がほぐれやすい。特に、外科医療処置用として使用した場合、傷口に繊維が付着して剥がれにくくなる。そこで、通気性があり、吸水性及び保湿性を発揮することができるポリウレタン発泡体が考えられる。
【0003】
一方、吸水性や保湿性を有するポリウレタン発泡体は既に知られている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、吸水性ポリウレタン発泡体はポリオール類とポリイソシアネート化合物とを触媒、発泡剤及び整泡剤の存在下に反応させて製造されるもので、ポリオール類はポリエステルポリオールであり、さらに水酸基を含有する化合物が添加される。得られるポリウレタン発泡体は、良好な吸水性を有するが、特にトリレンジイソシアネート(TDI)などのポリイソシアネート化合物に起因して黄色に変色(黄変)するという問題があった。
【0004】
そのような変色を抑えたポリウレタン発泡体が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。係るポリウレタン発泡体は、脂肪族系ポリイソシアネートとポリオール成分とを、触媒の存在下に反応、硬化させて製造されるものである。このポリウレタン発泡体は、ポリイソシアネート化合物として脂肪族系ポリイソシアネートを用いたことから、変色し難いものであった。
【特許文献1】特開2005−187788号公報(第2頁、第6頁及び第7頁)
【特許文献2】特開2001−72738号公報(第2頁及び第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記ガーゼなどの用途においては、吸水性が要求されることはもとより、黄色に変色すると不衛生な感じを与えたり、劣化した印象を与えたりするため黄変性を抑える必要がある。ところが、特許文献2に記載のポリウレタン発泡体では、前述のようにポリイソシアネートとして脂肪族系ポリイソシアネートが用いられていることから黄変性を抑えることができるが、ポリオール成分としてポリオキシプロピレントリオールなどのポリオキシアルキレンポリオールが用いられている。そのため、ポリウレタン発泡体は、水に対する膨潤率を小さくでき、耐水性、さらには耐久性を向上させることができるが、吸水性に欠けるという問題があった。従って、吸水性と難黄変性を兼ね備えたポリウレタン発泡体は得られておらず、そのような両特性を満たすポリウレタン発泡体が要望されている。
【0006】
そこで本発明の目的とするところは、吸水性と難黄変性の両特性を満足することができる吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体は、下記に示す式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であるとともに、下記に示す式(2)で表される色差ΔYIが7以下であることを特徴とするものである。
【0008】
吸水倍率=(吸水後の質量−吸水前の質量)/吸水前の質量 ・・・(1)
但し、吸水後の質量は、ポリウレタン発泡体を常温の水に3分間浸漬後、金網上に1分間放置したときの質量である。
【0009】
ΔYI=YI−YI ・・・(2)
但し、YI値は、ポリウレタン発泡体を、二酸化窒素が50ppm充填されたデシケータ中に24時間放置した後取り出し、色差計で測定した黄変度を示す値である。YIは、ポリウレタン発泡体をデシケータに入れる前のYI値である。
【0010】
請求項2に記載の発明の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体は、請求項1に係る発明において、ポリイソシアネート類、ポリオール類、吸水性付与剤、触媒及び発泡剤よりなる原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるポリウレタン発泡体であって、前記ポリオール類はポリエステルポリオール類であり、吸水性付与剤は分子量が100〜1000の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又は炭素数1〜8のアルコール類であり、かつその配合量がポリエステルポリオール類100質量部当たり0.5〜8質量部であり、さらにポリイソシアネート類は脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体は、請求項2に係る発明において、前記触媒は、ジアザビシクロアルケン又はその塩であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体では、前記式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であるとともに、前記式(2)で表される色差ΔYIが7以下に設定されている。このため、ポリウレタン発泡体は、高い吸水倍率を示すと同時に、黄変の小さい色差を示す。従って、ポリウレタン発泡体は、吸水性と難黄変性という両特性を十分に満足することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体においては、ポリイソシアネート類、ポリオール類、吸水性付与剤、触媒及び発泡剤よりなる原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるものである。この場合、ポリオール類はポリエステルポリオール類であるため、吸水性付与剤である分子量が100〜1000の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又は炭素数1〜8のアルコール類との相溶性が低く、気泡(セル)が潰れて連通されるとともに、吸水性付与剤が発泡体の表面に移行される。また、吸水性付与剤は分子量が100〜1000の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又は炭素数1〜8のアルコール類であり、かつその配合量がポリエステルポリオール類100質量部当たり0.5〜8質量部であることから、適正な分子量及び配合量の吸水性付与剤により、ポリウレタン発泡体には吸水性が付与されるとともに、良好な発泡性が発揮される。
【0014】
加えて、ポリイソシアネート類は脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類であることから、芳香環にイソシアネート基が直接結合されている芳香族のポリイソシアネート類に比べ、ポリウレタン発泡体の黄変性を抑えることができる。従って、請求項1に係る発明の効果を十分に発揮させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体では、触媒がジアザビシクロアルケン又はその塩であって触媒活性が高いことから、請求項2に係る発明の効果に加えて、ウレタン化反応、架橋反応などの反応を促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体(以下、単にポリウレタン発泡体又は発泡体ともいう)は、下記に示す式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であるとともに、下記に示す式(2)で表される色差ΔYIが7以下のものである。従って、吸水性は吸水倍率で表され、難黄変性は色差ΔYIで表されている。
【0017】
吸水倍率=(吸水後の質量−吸水前の質量)/吸水前の質量 ・・・(1)
但し、吸水後の質量は、ポリウレタン発泡体を常温の水に3分間浸漬後、金網上に1分間放置したときの質量である。なお、金網はポリウレタン発泡体に付着した水を切るためのもので、粗い網目(例えば5mm角)を有しておればよい。
【0018】
ΔYI=YI−YI ・・・(2)
但し、YI値は、ポリウレタン発泡体を、二酸化窒素が50ppm充填されたデシケータ中に24時間放置した後取り出し、色差計で測定した黄変度を示す値である。YIは、ポリウレタン発泡体をデシケータに入れる前のYI値である。
【0019】
一般的にポリウレタン発泡体の吸水倍率は10倍未満であるのに対し、本実施形態のポリウレタン発泡体は吸水倍率が10〜30倍という高い吸水性を示すものである。ポリウレタン発泡体の吸水倍率が10倍未満の場合には、吸水性が低く、ポリウレタン発泡体をガーゼなどの吸水性を要求される用途に使用できなくなる。その一方、吸水倍率が30倍を越える場合には、発泡時における原料のバランスが悪くなって発泡不良を引き起こしたりして発泡体の製造が困難になる。
【0020】
また、ポリウレタン発泡体の黄変性に関しては、前記色差ΔYIが7以下であれば全く問題がなく、難黄変性のポリウレタン発泡体として用いることができる。この色差ΔYIが7を越える場合には、黄変の程度が著しく高くなり、ポリウレタン発泡体をガーゼなどの用途で使用すると不衛生な感じを与えたり、劣化した印象を与えたりするため妥当ではない。
【0021】
係る吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体は、ポリイソシアネート類、ポリオール類、吸水性付与剤、触媒及び発泡剤よりなる原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるものである。その場合、吸水性を発現させるために、ポリオール類はポリエステルポリオール類であり、吸水性付与剤は分子量が100〜1000の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又は炭素数1〜8のアルコール類であり、かつその配合量がポリエステルポリオール類100質量部当たり0.5〜8質量部に設定される。さらに、難黄変性を発現させるために、ポリイソシアネート類として脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類が使用される。
【0022】
次に、このようなポリウレタン発泡体の原料について順に説明する。
前記ポリオール類としては、吸水性付与剤との相溶性が低く、気泡(セル)が破壊されて連通するとともに、吸水性付与剤が発泡体の表面に移行して発泡体の親水性を高めるように機能させるために、ポリエステルポリオール類が用いられる。ポリエステルポリオール類として具体的には、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオール及びそれらの変性体等が挙げられる。
【0023】
これらのポリエステルポリオール類としては、ポリウレタン発泡体の吸水時における膨潤を抑制し、その強度を高めるために、水酸基の官能基数が2〜3のジエチレングリコールアジピン酸エステルポリオールが好ましい。このジエチレングリコールアジピン酸エステルポリオールの数平均分子量(以下、単に分子量ともいう)は1000〜4000程度であることが好ましい。係る分子量が1000未満のときには得られるポリウレタン発泡体が硬くなる傾向を有し、柔軟性が損なわれやすく、4000を越えるときにはポリウレタン発泡体の硬度や強度が不足する傾向を示す。また、平均官能基数が2未満の場合にはポリウレタン発泡体に架橋構造が十分に形成されず、形状保持性が低下する一方、平均官能基数が3を越える場合にはポリウレタン発泡体の架橋構造が密になり過ぎて硬くなり過ぎる傾向を示す。
【0024】
また、ポリエステルポリオール類の水酸基価は20〜200mgKOH/gであることが好ましく、40〜80mgKOH/gであることがより好ましい。ポリエステルポリオール類の水酸基価が20mgKOH/g未満の場合、水酸基価が小さくなり過ぎ、ポリウレタン発泡体の架橋密度が小さくなって形状保持性が低下する。水酸基価が200mgKOH/gを越える場合、水酸基価が大きくなり過ぎ、ポリウレタン発泡体の架橋密度が大きくなって硬くなるとともに、セルが独立する独立気泡型となる傾向にある。このポリエステルポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の官能基数や水酸基価を変えることができる。
【0025】
次に、吸水性付与剤としての分子量が100〜1000の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又は炭素数1〜8のアルコール類について説明すると、これらの化合物はポリウレタン発泡体のセルを連通させるとともに、発泡体の表面側に親水性を付与するための化合物である。係る化合物は、前記ポリエステルポリオール類との相溶性が低く、セル膜を破って発泡体に連続気泡構造を形成するとともに、表面に移行(ブリード)し、発泡体に親水性を付与するものと考えられる。ポリオキシアルキレン化合物として具体的には、ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキサイド)又はその変性化合物(水酸基として1官能、2官能又は3官能)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(水酸基として1官能)等が用いられる。吸水性付与剤としては、これらのポリオキシアルキレン化合物を主成分として含むものであることが好ましい。ポリオキシプロピレン化合物等は親水性が不足するため、単独で用いることは不適当である。ポリオキシアルキレン化合物の分子量(数平均分子量)は、100〜1000であり、200〜1000であることが好ましい。この分子量が100未満では発泡時における安定性が低下し、気泡が潰れやすくなり、1000を越えると原料バランスが損なわれて発泡不良に到る場合がある。
【0026】
一方、炭素数1〜8のアルコール類として具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノールなどの一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールなどが用いられる。これらのアルコール類のうち、親水性、反応性などのバランスの点から、炭素数2〜5のアルコール類が好ましい。
【0027】
吸水性付与剤としてのこれら化合物の配合量は、その機能を十分に果たすためポリエステルポリオール類100質量部当たり0.5〜8質量部であり、1〜6質量部であることが好ましい。この配合量が0.5質量部未満の場合には、吸水性付与剤によるセルの連通性及び親水性を付与する機能の発現が不十分で、発泡体の吸水性が不足する。一方、8質量部を越える場合には、過剰な吸水性付与剤によって原料組成のバランスが悪くなり、発泡不良を招く場合がある。
【0028】
次に、ポリイソシアネート類としては、脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類が用いられる。芳香環にイソシアネート基が直接結合している芳香族のポリイソシアネート類は、太陽光などの光によって芳香環がキノイド化して着色成分(キノン化合物)を生成するため、そのような着色成分を生成しないポリイソシアネート類が用いられる。なお、芳香環は、ベンゼン環のほかナフタレンなどの縮合ベンゼン環をも表す。
【0029】
脂肪族ポリイソシアネート類としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、ブテンジイソシアネート(BDI)、1,3−ブタジエン−1,4−ジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、又はそれらの変性体等が用いられる。
【0030】
脂環族ポリイソシアネート類としては、例えばイソホロンジイソシアネート(IPDI)、水添キシレンジイソシアネート(水添XDI)、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、シクロヘキシルジイソシアネート(CHDI)、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、又はそれらの変性体等が用いられる。
【0031】
芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類としては、例えばキシレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、又はそれらの変性体などが用いられる。
【0032】
上記の各変性体としては、ウレタン変性体、2量体、3量体、カルボジイミド変性体、アロファネート変性体、ビューレット変性体、ウレア変性体、プレポリマーなどが挙げられる。これらのポリイソシアネート類のうち、脂肪族又は脂環族のポリイソシアネート類がポリウレタン発泡体の難黄変性に優れているため好ましい。
【0033】
ポリイソシアネート類のイソシアネート指数(イソシアネートインデックス)は、80〜120であることが好ましく、100〜120であることがより好ましい。ここで、イソシアネート指数は、ポリエステルポリオール類の水酸基、吸水性付与剤の水酸基及び発泡剤(水)等の活性水素基に対するポリイソシアネート類のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものである。従って、その値が100未満の場合には活性水素基がイソシアネート基より過剰であることを意味し、100を越える場合にはイソシアネート基が活性水素基より過剰であることを意味する。前記イソシアネート指数が80未満の場合には、ポリエステルポリオール類がポリイソシアネート類と十分に反応することができず、樹脂化の進行が抑えられ、発泡体にべたつきが生じ、また発泡体の強度等の物性が低下する原因となる。一方、イソシアネート指数が120を越える場合には、イソシアネート基が過剰となり、発泡体が硬くなり過ぎて柔軟な発泡体が得られにくくなって好ましくない。
【0034】
触媒はポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応、発泡剤としての水とポリイソシアネート類との泡化反応などの反応を促進させるためのものである。係る触媒としては、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5等のアミジノ基〔HNC(=NH)−〕を有するジアザビシクロアルケン又はその塩のほか、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミン、グアニジン誘導体、弱酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。これらのうち、触媒活性の高いジアザビシクロアルケン又はその塩が好ましい。なお、金属塩は金属によって発泡体に黄変が生じやすいことから好ましくない。
【0035】
発泡剤はポリウレタン発泡体の原料を発泡させてポリウレタン発泡体を形成するためのものである。この発泡剤としては、水のほかペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、塩化メチレン、炭酸ガス等が用いられる。発泡剤としては、泡化反応の反応性が良好で、取扱性の良い水が好ましい。
【0036】
また、ポリウレタン発泡体の原料には整泡剤を含有することが好ましい。係る整泡剤は、発泡剤による発泡体のセルの大きさと均一性を調整するためのもので、破泡作用を抑制するために水溶性の化合物が使用される。そのような水溶性の整泡剤としては、シリコーン系化合物が好ましい。シリコーン系化合物は優れた界面活性作用を有し、ポリウレタン発泡体の原料各成分の相溶性を高め、気泡を安定化させて細かい均一な気泡を生成することができる。シリコーン系化合物(非イオン系界面活性剤)としては、例えばオルガノシロキサン−ポリオキシアルキレン共重合体、シリコーン−グリース共重合体又はそれらの混合物等が挙げられる。整泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.5〜6質量部程度であることが好ましい。
【0037】
ポリウレタン発泡体の原料には上記各成分のほか、セルオープナー、縮合リン酸エステル等の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を配合することができる。
前記ポリオール類とポリイソシアネート類との反応は、1段で直接反応させるワンショット法が採用される。その場合の反応は複雑であるが、基本的には次のような反応が主体となっている。すなわち、ポリオール類とポリイソシアネート類との付加重合反応(ウレタン化反応、樹脂化反応)、ポリイソシアネート類と発泡剤との泡化反応及びこれらの反応生成物とポリイソシアネート類との架橋反応(硬化反応)である。
【0038】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は連続気泡型の構造を有する軟質の発泡体であり、セルが連通されて吸水性が発現される。独立気泡型のポリウレタン発泡体ではセルが連通されていないことから水がセル内へ浸入されず、吸水性を発現することができない。連続気泡型の構造を得るためには、前記発泡の段階で、原料がクリーム状で存在する時間(クリームタイム)を10〜60秒程度、その後セルが生成され原料の注入時から発泡が最も進行して発泡高さが最も高くなるまでの時間(ライズタイム)を1〜5分程度に設定することが好ましい。
【0039】
本実施形態の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体は公知の製造装置により製造される。例えば、ポリウレタン発泡体は、公知のスラブポリウレタン発泡体を切り出すことにより得られる。スラブポリウレタン発泡体は、ポリオール類及びポリイソシアネート類を主成分とする2液原料を注入機(高圧注入機)のチャンバー内に供給し、チャンバー内で混合、撹拌した後、ベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間に原料が常温、大気圧下で自然発泡し、その後乾燥炉内で硬化(キュア)することにより得られる。得られたスラブポリウレタン発泡体を所定長さに裁断した後、スライスし、所定形状への打抜き或いは切断により所望とする形状の製品が得られる。なお、ポリウレタン発泡体は、モールド成形法、現場施工スプレー成形法等によって製造することもできる。得られるポリウレタン発泡体の吸水性は、その連続気泡構造及び表面特性により十分に発揮される。
【0040】
このようにして得られるポリウレタン発泡体は、前記式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であるとともに、水が完全に吸水されるまでの吸水時間が20秒以下であり、吸水性に優れている。従って、吸水性は吸水倍率と吸水時間(吸水速度)で表されている。しかも、ポリウレタン発泡体は、前記式(2)で表される色差ΔYIが7以下であり、難黄変性に優れている。加えて、ポリウレタン発泡体は、例えばJIS K 7222に基づく見掛け密度が30〜40kg/m、JIS K 6400−2に基づく硬さが70〜90N、JIS K 6400−5に基づく引張強さが90〜130kPa、及びJIS K 6400−5に基づく伸びが220〜260%である。
【0041】
さて、本実施形態の作用について説明すると、ポリウレタン発泡体は、前記式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍を示し、高い吸水性が発現される。これは、吸水性付与剤としての末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又はアルコール類がポリエステルポリオール類に対して相溶性が低く、泡化反応によって形成されるセルのセル膜が破られることで連通され、連続気泡構造が形成されるとともに、吸水性付与剤の発泡体表面への移行による親水化のためと考えられる。しかも、吸水性付与剤の分子量及び配合量が適正であるため、ポリウレタン発泡体に十分な吸水性が付与されるためと推測される。そのため、ポリウレタン発泡体内へ入った水は連通されたセル内を速やかに通り、吸水される。
【0042】
同時に、ポリウレタン発泡体は、前記式(2)で表される色差ΔYIが7以下であり、十分な難黄変性が発現される。これは、芳香環にイソシアネート基が直接結合したポリイソシアネート類では、光によって芳香環がキノイド化してキノン化合物などの着色成分を生成するのに対し、脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類ではそのような着色成分の生成を回避できるためと考えられる。
【0043】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態のポリウレタン発泡体では、前記式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であると同時に、前記式(2)で表される色差ΔYIが7以下に設定されている。従って、ポリウレタン発泡体は、高い吸水倍率を示すとともに、黄変の小さい色差を示し、吸水性(保水性)と難黄変性という両特性を十分に発揮することができる。
【0044】
・ 係るポリウレタン発泡体は、ポリイソシアネート類、ポリオール類、吸水性付与剤、触媒及び発泡剤よりなる原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるものである。この場合、ポリオール類はポリエステルポリオール類であるため、セルが連通されるとともに、吸水性付与剤が発泡体の表面に移行されて親水化される。また、吸水性付与剤は前記特定の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又はアルコール類であり、かつその配合量がポリオール類100質量部当たり0.5〜8質量部であることから、適正な分子量及び配合量により、ポリウレタン発泡体には親水性が付与されるとともに、良好な発泡性が発揮される。加えて、ポリイソシアネート類は脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類であることから、ポリウレタン発泡体の黄変性を抑えることができる。
【0045】
・ さらに、前記触媒がジアザビシクロアルケン又はその塩であることにより、触媒活性を高めることができ、ウレタン化反応、架橋反応などの反応を促進させることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜11及び比較例1〜6)
ポリウレタン発泡体の原料として、表1から表3に示す組成のものを用意し、前述した公知のスラブポリウレタン発泡体の製造装置及び製造方法によりポリウレタン発泡体を製造した。表1から表3における略号の意味を次に示す。得られたポリウレタン発泡体について、下記に示す方法に従って、見掛け密度(kg/m)、硬さ(N)、引張強さ(kPa)、伸び(%)、吸水時間(秒)、吸水倍率(倍)及び色差(ΔYI)を下記に示す方法で測定し、それらの結果を表1から表3に示した。
【0047】
N2200:ジエチレングリコールアジピン酸ポリエステルポリオール、平均官能基数2、分子量3000、水酸基価60.5mgKOH/g、日本ポリウレタン工業(株)製
GP3050F:ポリエーテルポリオール、グリセリンにプロピレンオキシドを付加重合させて得られたトリオール、三洋化成工業(株)製、分子量3000、水酸基価56mgKOH/g
PEG600:ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、2官能、分子量600、水酸基価187mgKOH/g、三洋化成工業(株)製
GE1000:グリセリンにエチレンオキシドを付加したポリエーテルポリオール、3官能、分子量1000、水酸基価168mgKOH/g、ライオン(株)製
PEG200:ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、2官能、分子量200、水酸基価561mgKOH/g、三洋化成工業(株)製
PEG1540:ポリエチレングリコール(ポリエチレンオキシド)、2官能、分子量1540、水酸基価73mgKOH/g、三洋化成工業(株)製
GP−600:ポリエチレンオキシド付加トリオール、3官能、分子量600、水酸基価187mgKOH/g、アデカ(株)製
IPDI:イソホロンジイソシアネート
T−65:トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート65質量%と2,6-トリレンジイソシアネート35質量%の混合物)、日本ポリウレタン工業(株)製
整泡剤:シリコーン、SZ1649、東レ・ダウコーニング社製
触媒1:DBU、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、サンアプロ(株)製
触媒2:DBN、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5、サンアプロ(株)製
触媒3:ジメチルエタノールアミン
触媒4:ジブチルスズジラウレート、KS1260、共同薬品(株)製
見掛け密度(kg/m):JIS K 7222;1999に規定されている方法に準拠して測定した。
【0048】
硬さ(N):JIS K 6400−2;2004に規定されている方法に準拠して測定した。
引張強さ(kPa):JIS K 6400−5;2004に規定されている方法に準拠して測定した。
【0049】
伸び(%):JIS K 6400−5;2004に規定されている方法に準拠して測定した。
吸水時間(秒):ポリウレタン発泡体(縦50mm、横50mm及び厚さ10mm)の表面にスポイトで水を0.5ml滴下した後、水がポリウレタン発泡体内へ完全に吸水されるまでの時間(秒)をストップウォッチで測定した。
【0050】
吸水倍率(倍):ポリウレタン発泡体を常温の水の中に3分間浸漬した後取り出し、金網(5mm角の格子状)の上に1分間放置し、ポリウレタン発泡体の質量を測定し、次式に従って算出した。
【0051】
吸水倍率=(吸水後の質量−吸水前の質量)/吸水前の質量
色差(ΔYI):ポリウレタン発泡体のサンプルをデシケータ内に入れ、二酸化窒素(NO)ガスを検知管で濃度測定しながら50ppm充填し、その状態で24時間放置した後、サンプルを取り出し、色差計〔スガ試験機(株)製、SMカラーコンピューター SM−4〕を用いて黄変度を測定し、色差(ΔYI)を次式で算出した。
【0052】
ΔYI=YI−YI
この色差(ΔYI)が7以下であれば、黄変性に問題がないレベルである。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

表1及び表2に示した結果より、実施例1〜11では、ポリウレタン発泡体について、吸水時間は20秒以下で、しかも吸水倍率は16〜20倍であり、吸水性に優れていた。これは、ポリオール類としてポリエステルポリオール(N2200)を用い、吸水性付与剤としてPEG600、GE1000、PEG200又はGP600を配合したためと考えられる。さらに、黄変性については、ΔYIがいずれも5以下で、難黄変性に優れていた。これは、ポリイソシアネート類として脂環族ポリイソシアネートであるIPDIを使用したためであると考えられる。
【0055】
【表3】

一方、表3に示した結果より、吸水性付与剤として末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物を配合しなかった場合(比較例1)には、吸水時間が180秒以上、吸水倍率が2.4倍であり、吸水性が極めて低いものであった。ポリオキシアルキレン化合物の配合量がポリエステルポリオール100質量部当たり8質量部を越える場合(比較例2)及びポリオキシアルキレン化合物として分子量が1000より大きい場合(比較例3)には、ポリウレタン発泡体原料のバランスを欠き、発泡不良を招いた。ポリイソシアネート類として芳香族ポリイソシアネートであるトリレンジイソシアネートを用いた場合(比較例4)には、ΔYIが50に達し、黄変性の大きいものであった。ポリイソシアネート類としてトリレンジイソシアネートを用い、かつポリオキシアルキレン化合物を配合しない場合(比較例5)には、ΔYIが60で黄変性が非常に大きく、しかも吸水時間が180秒以上、吸水倍率が2.3倍で吸水性の悪いものであった。さらに、ポリオール類としてポリエーテルポリオール(GP3050F)を使用した場合(比較例6)には、ポリエチレングリコール(PEG600)を配合しても親水性は発現されず、吸水性が悪い結果であった。
【0056】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 吸水性付与剤として、アミド基等の親水基を有する化合物を用いることもできる。
・ ポリイソシアネート類として、複数の脂肪族ポリイソシアネート類を用いたり、複数の脂環族ポリイソシアネート類を用いたり、或いは脂肪族ポリイソシアネート類と脂環族ポリイソシアネート類とを併用したりすることもできる。
【0057】
・ 吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体の製造方法として、ポリウレタン発泡体の原料を離型用フィルム上に供給し、反応、発泡及び硬化させた後、離型用フィルムを剥離して製造する方法を採用することもできる。
【0058】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ ポリウレタン発泡体の表面に水を滴下し、水がポリウレタン発泡体内へ完全に吸水されるまでの吸水時間が20秒以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体。このように構成した場合には、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、ポリウレタン発泡体の吸水速度を向上させることができる。
【0059】
・ 前記ポリエステルポリオール類は、水酸基価が40〜80mgKOH/gであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体。このように構成した場合、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、ポリウレタン発泡体の架橋密度を適正にでき、機械的物性を良好にすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記に示す式(1)で表される吸水倍率が10〜30倍であるとともに、下記に示す式(2)で表される色差ΔYIが7以下であることを特徴とする吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体。
吸水倍率=(吸水後の質量−吸水前の質量)/吸水前の質量 ・・・(1)
但し、吸水後の質量は、ポリウレタン発泡体を常温の水に3分間浸漬後、金網上に1分間放置したときの質量である。
ΔYI=YI−YI ・・・(2)
但し、YI値は、ポリウレタン発泡体を、二酸化窒素が50ppm充填されたデシケータ中に24時間放置した後取り出し、色差計で測定した黄変度を示す値である。YIは、ポリウレタン発泡体をデシケータに入れる前のYI値である。
【請求項2】
ポリイソシアネート類、ポリオール類、吸水性付与剤、触媒及び発泡剤よりなる原料を反応させ、発泡及び硬化させて得られるポリウレタン発泡体であって、
前記ポリオール類はポリエステルポリオール類であり、吸水性付与剤は分子量が100〜1000の末端水酸基を有するポリオキシアルキレン化合物又は炭素数1〜8のアルコール類であり、かつその配合量がポリエステルポリオール類100質量部当たり0.5〜8質量部であり、さらにポリイソシアネート類は脂肪族、脂環族又は芳香環にイソシアネート基が直接結合していない芳香族のポリイソシアネート類であることを特徴とする請求項1に記載の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記触媒は、ジアザビシクロアルケン又はその塩であることを特徴とする請求項2に記載の吸水性及び難黄変性を有するポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2007−161750(P2007−161750A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355961(P2005−355961)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】