説明

吸水防止材、繊維セメント板原料スラリー組成物、繊維セメント板の製造方法及び繊維セメント板

【課題】繊維セメント板を製造する際に、少量の添加で済み、水和反応を阻害することなく、また得られる繊維セメント板の吸水性を低く抑えることができ、さらには、強度、耐凍害性を付与することのできる吸水防止材を提供することを目的とする。また、生産性が良好で、吸水性が低く、強度、耐凍害性に優れた繊維セメント板を得ることのできる繊維セメント板原料スラリー組成物、繊維セメント板の製造方法及び繊維セメント板を提供することを目的とする。
【解決手段】重量平均分子量が300以下のアルキルアルコキシシラン、乳化剤及び緩衝剤を含有するエマルジョンであることを特徴とする吸水防止材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水防止材、繊維セメント板原料スラリー組成物、繊維セメント板の製造方法及び繊維セメント板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、繊維セメント板は、セメント、シリカ質微粉末、繊維材、増量材等の原材料を所定の割合で配合し、これらに水を加えた後、混合、成型、脱水、養生、乾燥、裁断といった工程を経て製造されることが知られている。繊維セメント板の成型法としては、押出成型、抄造プレス成型、脱水プレス成型等が挙げられる。
【0003】
繊維セメント板には、強度、寸法安定性、耐炭酸化性、耐凍害性などの特性が要求される。このうち、耐凍害性は、繊維セメント板の吸水性に大きく依存することが知られている。
【0004】
繊維セメント板の吸水性が高い場合、繊維セメント板中へ侵入する水の量が大きく、その副作用として、低温環境下では細孔水の氷結と融解とを繰り返す凍結融解作用が起こり、この凍結融解作用により、繊維セメント板の耐久性は大きく低下することが知られている。
【0005】
繊維セメント板の耐凍害性を向上させる方法として、例えば、中空材料や発泡剤を繊維セメント板中に含有させることにより空隙を発生させ、凍結時の氷の膨張圧を緩和する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、この方法では、得られる繊維セメント板の強度が低下したり、繊維セメント板上への塗膜の密着強度が低下する等の問題がある。
【0006】
近年では、高級脂肪酸エステル系、ワックス系、シリコーンオイル系、シラン・シロキサン系等の撥水剤を繊維セメント板の原材料に添加、混合、脱水成型、養生硬化して、得られる繊維セメント板の耐水性、耐凍害性を向上させる方法が提案されている(例えば、特許文献2、3、4)。
【0007】
しかし、高級脂肪酸エステル系、ワックス系、シリコーンオイル系の撥水剤を添加する方法では、撥水剤を多く添加する必要があり、このため、水硬性原料の濾水性が低下し、脱水プレスの際には、脱水時の抵抗が大きくなり生産性が低下し、さらには、水和反応の阻害を引き起こし、得られる繊維セメント板の強度を低下させるという問題があった。また、シラン・シロキサン系の撥水剤を添加する方法では、撥水剤の繊維セメント板の原材料への吸着性及び付着性が低く、脱水プレス時に外部へ流失してしまい、充分な効果を得られないおそれがあり、さらには、セメント水和反応を阻害し、得られる繊維セメント板の強度の低下を引き起こすおそれがあるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−217561号公報
【特許文献2】特開2002−1715号公報
【特許文献3】特開2004−196601号公報
【特許文献4】特開2004−284878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、繊維セメント板を製造する際に、少量の添加で済み、水和反応を阻害することなく、また得られる繊維セメント板の吸水性を低く抑えることができ、さらには、強度、耐凍害性を付与することのできる吸水防止材を提供することを目的とする。また、本発明は、生産性が良好で、吸水性が低く、強度、耐凍害性に優れた繊維セメント板を得ることのできる繊維セメント板原料スラリー組成物、繊維セメント板の製造方法及び繊維セメント板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、重量平均分子量が300以下のアルキルアルコキシシラン、乳化剤及び緩衝剤を含有するエマルジョンであることを特徴とする吸水防止材である。
【0011】
本発明のアルキルアルコキシシランは一般式(I)
Si(OR (I)
(ただし、Rは炭素数4〜10のアルキル基であって直鎖状でも分枝状であっても良く、Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、aはアルキル基Rの数、bはアルキル基Rの数を表し、a,bともに1以上3以下であり、かつa+b=4である。)で示される。
【0012】
本発明は、下記成分を含有する繊維セメント板原料スラリー組成物である、
全固形分100質量%において、
セメント:25〜45質量%、
シリカ質微粉末:25〜40質量%、
繊維材:5〜10質量%、
中空軽量骨材:3〜15質量%、
増量材:0〜40質量%、および、
前記吸水防止材:全固形分(セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材の合計)100質量%に対して、外割りで0.03〜0.10質量%、
および水。
【0013】
本発明は、繊維セメント板原料スラリー組成物を脱水成型して中間成型体を成型する工程、該中間成型体を養生硬化する工程を経る、繊維セメント板の製造方法である。
【0014】
本発明は、前記繊維セメント板の製造方法により得られる、繊維セメント板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の吸水防止材を繊維セメント板の製造に使用することにより、少量の添加ですみ、水和反応を阻害することなく、吸水性が低く、強度、耐凍害性に優れた繊維セメント板を得ることができる。また、本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物を使用することにより、生産性が良好で、吸水性が低く、強度、耐凍害性に優れた繊維セメント板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による繊維セメント板の製造工程を示す工程図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の吸水防止材は、重量平均分子量が300以下のアルキルアルコキシシラン、乳化剤及び緩衝剤を含有するエマルジョンである。これにより、本発明のエマルジョン中において、アルキルアルコキシシランは、安定に存在し、繊維セメント板原料スラリー組成物を得る際の混練時においても加水分解を起こしにくく、また、脱水工程において、濾水性を阻害することがないため好ましい。
【0018】
本発明の吸水防止材は、重量平均分子量が300以下のアルキルアルコキシシランを含有し、乳化剤を含有することによりエマルジョンを形成でき、さらに、緩衝剤を含有することにより、得られるエマルジョンのpHを中性領域に保持することができ、アルキルアルコキシシランの加水分解を起こしにくく、重合を緩和させることができるので好ましい。
【0019】
本発明の吸水防止材については、詳細なメカニズムについては明らかではないが、アルキルアルコキシシランの加水分解を抑制することにより、繊維セメント板原料スラリー組成物を得る際の練混ぜ時において、部分的な疎水ブロックを形成することなく、アルキルアルコキシシランを、安定で、均質に分散することができるものと考えられる。このため、脱水工程における濾水性や得られる繊維セメント板の強度を低下させることなく、少量で充分な耐水性や耐凍害性に優れた繊維セメント板を得ることができるため好ましい。また、繊維セメント板の表面に水性塗装を施す際にも良好な塗装性が可能となるので好ましい。
【0020】
本発明において、アルキルアルコキシシランの重量平均分子量は300以下である。重量平均分子量が300以下であることにより、繊維セメント板に吸水防止性を付与しつつ、極めて小粒径で安定なエマルジョンを調製することができるので好ましい。重量平均分子量は180〜300が特に好ましい。
【0021】
本発明のアルキルアルコキシシランは、一般式(I)
Si(OR (I)
で示されるものが好ましい。
【0022】
一般式(I)において、Rは炭素数4〜10のアルキル基であって直鎖状でも分枝状であっても良く、Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、aはアルキル基Rの数、bはアルキル基Rの数を表し、a,bともに1以上3以下であり、かつa+b=4であることが好ましい。
【0023】
アルキル基Rの炭素数が4未満であると、吸水防止材の十分な防水性が得られないおそれがあるため好ましくなく、また、炭素数が10超であると、吸水防止材の疎水性が強くなり、繊維セメント板を製造する際、均一な分散が困難となるおそれがあるため好ましくない。
【0024】
本発明の吸水防止材は、乳化剤を含有する。これにより、アルキルアルコキシシランの安定なエマルジョンを得ることができるため好ましい。
【0025】
本発明では、乳化剤として、非イオン性、アニオン性、カチオン性及び両性のもののいずれでも使用可能であり、非イオン性の乳化剤が特に好ましい。
【0026】
本発明では、乳化剤のHLB値は、1.5〜20が好ましく、4〜17が特に好ましい。乳化剤のHLB値が1.5未満であると、充分な効果が得られず、安定な水中油型エマルジョンを得ることができないおそれがあり、好ましくない。乳化剤のHLB値が20超であると、得られるエマルジョンの安定性が乏しくなるおそれがあるため好ましくない。
【0027】
HLB分類は分子の構造に基づいているので、これにより単一分子の挙動を予測することができる。HLBは当業者に知られた技法により実験的に決定される。例えば、それらは米国デラウエア州、ウィルミントンのICIアメリカス・インコーポレーテッド(ICI Americas,Inc.)によって出版されたパンフレット「HLB系(The HLB System)」に記載されている。また、「除草剤用アジュバンド(Adjuvants for Herbicides)」、ウィード・ソサィエティ・オブ・アメリカ、米国イリノイ州、シャンペーンにも記載されている。
【0028】
本発明において、乳化剤は、特に限定されないが、例えば、ソルビタントリオレエート(1.8)、ソルビタントリステアレート(2.1)、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート(2.6)、グリセロールモノステアレート(3.8)、ソルビタンモノオレエート(4.3)、ソルビタンモノステアレート(4.7)、ポリオキシエチレン(2モル)ステアリルエーテル(4.9)、ソルビタンモノパルミテート(6.7)、ポリオキシプロピレンマンニトールジオレエート(8)、ポリオキシエチレンソルビトールオレエート(9.2)、ポリオキシエチレンステアレート(9.6)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(10.0)、ポリオキシエチレンモノオレエート(11.4)、ポリオキシエチレン(6モル)トリデシルエーテル(11.4)、ポリオキシエチレン(10モル)セチルエーテル(12.9)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(15)、ポリオキシエチレン(20モル)ステアリルエーテル(15.3)、ポリオキシエチレン(15モル)トリデシルエーテル(15.4)、ポリオキシエチレンアルキルアミン(カチオン、15.5)、HLB9.7、約10及び11.6を有するポリオキシエチレンアルコール、HLB値10,11及び12を有するエトキシル化ノニルフェノール、HLB値10.6を有するジアルキルフェノールエトキシレート、5.5〜15の範囲内のHLB値を有するエチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロックコポリマー、HLB約13.5、17.3及び17.9を有するエトキシル化オクチルフェノール、HLB値約4を有する脂肪酸グルセリド、ラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、前述のいずれかの混合物等が挙げられる。なお、上記括弧内において、各乳化剤のHLB値を示す。
【0029】
本発明では、乳化剤の含有量は、アルキルアルコキシシラン100質量部に対して、乳化剤0.5〜50質量部が好ましく、1〜8質量部が特に好ましい。乳化剤が0.5質量部未満であると、良好なエマルジョンの調製が困難となるおそれがあるので好ましくなく、乳化剤が50質量部超であると、アルキルアルコキシシランの吸水防止性が充分に発揮されないおそれがあり、また、経済的でないので好ましくない。
【0030】
本発明の吸水防止材は、緩衝剤を含有する。これにより、吸水防止材をpH6〜8に維持でき、アルキルアルコキシシランが加水分解することなく、安定に存在することができる。
【0031】
緩衝剤は適宜必要に応じて、選択することができ、公知の方法により使用することができる。具体的には、アルキルアルコキシシラン、乳化剤及び水を含有する組成物を米国特許第4,648,904号の教示に従って調製し、pH及びアルキルアルコキシシランの濃度を測定した後、次いで緩衝剤を添加する方法が好ましい。緩衝剤としては、アルキルアルコキシシランの加水分解が生ずるおそれのある相当な量の酸又は塩基を添加したとしても、pHが6〜8に維持できるものが好ましい。
【0032】
本発明において、緩衝剤は、有機酸、無機酸及びそれらの塩、有機及び無機の塩基が挙げられ、炭酸、りん酸、硫酸、ヒドロ硫酸、C〜Cオルガノ−、モノ−又はポリカルボン酸、又はC〜C30アルキレンイミノポリカルボン酸、アンモニア、C〜C30有機塩基のモノ−又はポリアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアミン塩類、あるいは前述のいずれかから成る混合物又は塩が挙げられる。緩衝剤は、特定に限定されないが、具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、ほう酸ナトリウム、りん酸一、二又は三ナトリウム、りん酸一、二又は三カリウム、りん酸アンモニウムナトリウム、硫酸一又は二ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウム、酢酸カルシウム、蟻酸ナトリウム、硫化一又は二ナトリウム、アンモニア、モノ−、ジ−又はトリエチラミン、モノ−、ジ−又はトリエタノールアミン、(エチレンジニトリロ)四酢酸ナトリウム塩(E.D.T.A.ナトリウム)、ピリジン、アニリン及び珪酸ナトリウムが好ましい。緩衝剤は、その他の緩衝剤、酸類又は塩基類と組合せることもでき、例えば、水酸化アンモニウムと酢酸との併用は、さらに、効果的である。
【0033】
緩衝剤は、りん酸三ナトリウム(NaPO)、水酸化アンモニウム(NHOH)が特に好ましく、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)が最も好ましい。これらが特に好ましい理由としては、取り扱いが容易であり、安定してpH7.5を有するエマルジョンを得ることができ、環境的に安全であり、そして安価であることによる。
【0034】
本発明では、緩衝剤の含有量は吸水防止材において、0.01〜5質量%が好ましい。緩衝剤の含有量が0.01質量%未満であると、充分な効果が得られないおそれがあり好ましくなく、緩衝剤の含有量が5質量%超であると、それ以上に効果が向上するわけでもなく、経済的でないことから好ましくない。
【0035】
本発明では、アルキルアルコキシシラン、乳化剤、水を含んでなる混合物をミキサーで撹拌し、緩衝剤を徐々に添加して中性領域に調整して、該吸収防止材を得ることができる。ミキサーは、大きなせん断力を与える通常のエマルジョン製造工程において使用されるミキサーが使用可能である。ミキサーは、コロイドミルやホモジナイザーやワーリングブレンダーといった高性能のエマルジョンミキサーが特に好ましい。
【0036】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物は、成分として、
全固形分100質量%において、
セメント:25〜45質量%、
シリカ質微粉末:25〜40質量%、
繊維材:5〜10質量%、
中空軽量骨材:3〜15質量%、
増量材:0〜40質量%、
吸水防止材:全固形分(セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材の合計)100質量%に対して、外割りで0.03〜0.10質量%、および水を含有する。
【0037】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物では、全固形分100質量%において、セメントの含有量が25〜45質量%であることが好ましい。セメントの含有量が25質量%未満であると、得られる繊維セメント板の曲げ強度が低下するおそれがあるので好ましくなく、含有量が45質量%超であると、得られる繊維セメント板のかさ比重が大きくなり、切断性等の低下につながるおそれがあるので好ましくない。セメントの含有量は、30〜40質量%が特に好ましい。
【0038】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物では、全固形分100質量%において、シリカ質微粉末の含有量が25〜40質量%であることが好ましい。シリカ質微粉末の含有量が25質量%未満又は40質量%超であると、得られる繊維セメント板において、Ca/Siモル比のバランスが崩れ、良質で、かつ、充分な量のトバモライトが生成されず、マトリクスの緻密化が進まず、得られる繊維セメント板の曲げ強度が低下したり、吸水性が低下するおそれがあるので好ましくない。シリカ質微粉末の含有量は、30〜35質量%がより好ましい。
【0039】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物では、全固形分100質量%において、繊維材の含有量は5〜10質量%であることが好ましい。繊維材の含有量が5質量%未満であると、繊維セメント板の強度が低下するおそれがあるため好ましくなく、10質量%超であると、原料中に均一に分散しにくくなるおそれがあるため好ましくない。
【0040】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物では、全固形分100質量%において、中空軽量骨材の含有量が3〜15質量%であることが好ましい。中空軽量骨材の含有量が3質量%未満であると、氷結膨張応力を低減できず、耐凍害性が低下するおそれがあるので好ましくなく、中空軽量骨材の含有量が15質量%超であると、中空軽量骨材が繊維セメント組成物中に均一に分散せず、凝集により表面平滑度が低下し、得られる繊維セメント板の強度も低下するおそれがあるため好ましくない。
【0041】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物では、全固形分100質量%において、増量材の含有量が0〜40質量%であることが好ましい。増量材が40質量%超であると、セメント及び珪酸質原料割合が減ずる結果、強度等の品質が低下するおそれがあるので好ましくない。増量材の含有量は0〜25質量%であることが特に好ましい。
【0042】
本発明において、吸水防止材は、全固形分(セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材の合計)100質量%に対して、外割で0.03〜0.10重量%含有されることが好ましい。吸水防止材の含有量が0.03質量%未満であると、得られる繊維セメント板の充分な耐凍害性の向上効果が得られないおそれがあり好ましくなく、吸水防止材の含有量が0.10質量%超であると、それ以上の品質の改善が見込めず、経済的にも好ましくない。吸水防止材の含有量は、全固形分(セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材の合計)100質量%に対して、外割で0.04〜0.07質量%であることが特に好ましい。
【0043】
本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物は、水を含有する。本発明の繊維セメント板原料スラリー組成物は、水を適宜必要に応じて含有することができ、全固形分(セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材の合計)100質量%に対して、外割で200〜400質量%含有することが好ましい。水の含有量が200質量%未満であると、原料の分散性が低下するおそれがあるため好ましくなく、水の含有量が400質量%超であると、脱水に時間を要し、生産性が低下するおそれがあるため好ましくない。
【0044】
本発明では、セメントとして、ポルトランドセメント、混合セメント、エコセメント、低発熱セメント、アルミナセメント等のセメントが挙げられ、なかでも、ポルトランドセメントが特に好ましい。
【0045】
本発明において、シリカ質微粉末は、セメントと共に珪酸カルシウム反応に供されるもので、シリカ質微粉末100質量部中、シリカ質がSiO換算で50質量%以上のものが好ましい。本願明細書において、シリカ質微粉末とは、ブレーン比表面積が7000〜14000cm/gのものを指す。ブレーン比表面積が7000cm/g以上であることにより、セメントとの珪酸カルシウム反応が促進するため、得られる繊維セメント板中のマトリックスが緻密化し、強度特性や吸水特性を改善するので好ましい。ブレーン比表面積が14000cm/g超であると、粒子の凝集や分散の問題から、それ以上の品質の改善が見込めず、経済的にも粉砕処理費がかさむため好ましくない。ブレーン比表面積は、7000〜8000cm/gであることが特に好ましい。
【0046】
セメントとシリカ質微粉末の混合物に含まれる石灰質とシリカ質の比は、モル比換算にてCaO/SiOとして、0.3〜0.95が好ましく、0.5〜0.8が特に好ましい。
【0047】
本発明では、繊維材は、古紙、木質パルプ、木質繊維束、木質繊維、木片、木毛、木粉、ガラス繊維、炭素繊維等の無機質繊維や、ポリアミド繊維、ワラストナイト、ポリプロピレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維等の有機繊維が1種又は2種以上等が挙げられる。なかでも、繊維材は、繊維セメント板の製造工程において、高温高圧下に耐えられることから、木質パルプが好ましく、針葉樹未晒しクラフトパルプ(NUKP)や針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒しクラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒しクラフトパルプ(LBKP)等が特に好ましく、NUKP、NBKPの針葉樹のパルプが最も好ましい。叩解については、特に制限はないが、ディスクリファイナー等の叩解機で表面を叩解することが好ましく、フリーネス650ml以下にすることが特に好ましい。コストと生産性を考慮して、叩解した繊維材と叩解していない繊維材とを組み合わせて使用しても良い。なお、本願明細書において、フリーネスとはカナダ標準測定法による値(カナディアンスタンダードフリーネス)である。
【0048】
本発明では、中空軽量骨材として、無機質中空粒子が好ましく、例えば、フライアッシュバルーン、ガラスバルーン、シラスバルーン等が挙げられる。本発明において、無機質中空粒子は、水分の凍結に伴い発生する応力を緩和する空間を材料内に分散させ、耐凍害性を向上させる利点があることから好ましい。したがって、無機質中空粒子自身が吸水して粒子内の空間が水分で満たされないことが必要であり、完全に密閉された中空粒子であり、且つ製造工程中に破壊されない粒子強度を有していることが好ましく、中でも粒子強度の高いフライアッシュバルーンが特に好ましい。
【0049】
本発明では、増量材は、適宜必要に応じて、任意のものを使用することができ、例えば、パーライト、タンカル、石膏、マイカ、セメント系・石膏系・珪酸カルシウム系等のボード廃材、汚泥・製紙汚泥等の焼却灰、石灰石粉末等が挙げられる。なお、増量材は、繊維セメント板の製造工程において、高温高圧下でも耐性があり、得られる繊維セメント板の機械的特性等に良好であることから、パーライト、タンカル、マイカ、珪酸カルシウム系等のボード廃材が特に好ましい。
【0050】
本発明では、繊維セメント板原料スラリー組成物を製造する際、セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材、水等の原材料を適宜必要に応じて混合、撹拌することができ、混合する順序は問わない。また、本発明では、繊維セメント板原料スラリー組成物を適宜必要に応じて、公知の方法、装置を使用して混合、撹拌することが好ましい。
【0051】
得られる繊維セメント板原料スラリー組成物の固形分濃度は20〜33質量%が好ましい。固形分濃度20質量%未満であると、脱水に時間を要し、生産性が低下するおそれがあるため好ましくなく、固形分濃度33質量%超であると、原料の分散性が低下するおそれがあるため好ましくない。固形分濃度は21〜25質量%が特に好ましい。
【0052】
本発明では、得られた繊維セメント板原料スラリー組成物を脱水成型して中間成型体を成型する工程、該中間成型体を養生硬化する工程を経ることにより繊維セメント板を製造する方法が好ましい。
【0053】
本発明の製造方法により、セメントのカルシウム源とシリカ質微粉末のシリカ源とを、高温高圧のオートクレーブ下において水熱反応させ、トバモライト(5CaO・6SiO・5HO)のように結晶性の高い珪酸カルシウム組成物を得ることができ、軽量且つ高強度の繊維セメント板を得ることができる。
【0054】
以下、本発明による繊維セメント板の製造方法の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態による繊維セメント板の製造工程の流れを示す工程図である。
【0055】
原料混合工程10では、ポルトランドセメントが25〜45質量%、シリカ質微粉末が25〜40質量%、繊維材が5〜10質量%、中空軽量骨材が3〜15質量%、増量材が0〜40質量%である原材料混合物、さらには原材料混合物の総量100質量%に対して、外割で0.03〜0.10質量%の吸水防止材、200〜400質量%の水を添加、混合し、次いで、ミキサーにより10〜20分間混練し、固形分濃度が21〜25質量%の原料スラリー組成物を調整する。
【0056】
次に、成型(脱水プレス)工程12において、調整された原料スラリー組成物をFRP製の型枠に流し込み、脱水プレス機により成型して、中間成型体を得る。得られた中間成型体を、蒸気養生工程14において、湿空槽中で40〜80℃、6〜10時間養生硬化を行う。蒸気養生硬化した後、さらに、オートクレーブ養生工程16において、オートクレーブ中で160〜180℃、5.0〜8.0気圧で、6〜10時間養生硬化を行う。
【0057】
その後、養生硬化された成型品は、乾燥工程18、所定の寸法の板に加工する切削加工工程20、塗装工程22、塗料を乾燥させる乾燥工程24を経て繊維セメント板の製品が得られる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例1、2及び比較例1〜5(実験1、2)を示す。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実験1、2において、繊維セメント板を製造した際の原材料の組成は表1に示すとおりである。また、実験1、2において、使用した原材料は下記の使用材料に示すとおりである。
【0059】
【表1】

(使用材料)
・セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)
・シリカ質微粉末:微珪石粉末(秩父鉱業社製)
・パルプ:新聞残紙(常裕パルプ工業)
・中空軽量骨材:フライアッシュバルーン(東海工業社製)
・増量材:セメント製品粉砕粉(旭トステム外装社製)
・吸水防止材A:エンバイロシール20 シラン系エマルジョン
(BASFコンストラクションケミカルズ社製)
・撥水材B:エンバイロシールPBT シラン/シロキサン系エマルジョン
(BASFコンストラクションケミカルズ社製)
・撥水材C:エンバイロシールW7 シラン/シロキサン系エマルジョン
(BASFコンストラクションケミカルズ社製)
・撥水材D:ハイドロゾ100 シラン系非水性溶液
(BASFコンストラクションケミカルズ社製)
・撥水材E:セロゾールN378 脂肪酸系(中京油脂社製)
・撥水材F:ペルトールCS−104 脂肪酸系(東邦化学工業社製)
なお、エンバイロシール20は、重量平均分子量300以下のアルキルアルコキシシランに、乳化剤及び緩衝剤が添加されたエマルジョンであり、加水分解に対する抵抗性を高めた吸水防止材である。また、エンバイロシールPBT、エンバイロシールW7及びハイドロゾ100は重量平均分子量300超のアルコキシシラン又はシロキサンであり、加水分解が容易である。
[実験1]
実施例1及び比較例1〜3について、表2に示す吸水防止材又は撥水材を使用して、以下の製造方法(1)〜(5)により、かさ比重1.0〜1.1となるように繊維セメント板を作製した。
(製造方法)
(1)表1に示した配合割合の原材料の混合物100質量%に水を添加することにより、濃度23.7質量%のスラリーとし、さらに、表2に示す吸水防止材又は撥水材を、原材料の混合物100質量%に対して、外割で0.05質量%となるように添加した後、ヘンシェルミキサ−で3分間混練し、原料スラリーを作製した。
(2)原料スラリーを型枠の中に注型し、山本鉄工社製脱水プレス機で原料スラリーの上面を脱水するとともに加圧脱水し、中間成型体1を作製した。
(3)中間成型体1を60℃飽和水蒸気圧で8.5時間養生し、中間成型体2を作製した。
(4)中間成型体2を170℃、6.9気圧で8時間養生し、中間成型体3を作製した。
(5)中間成型体3を含水率が10質量%となるようにタバイ社製乾燥機で調整し、繊維セメント板を作製した。得られた繊維セメント板を、500mm×500mm×15mmのサイズに調整した。
【0060】
得られた繊維セメント板を使用して、下記の評価方法に則り、かさ比重、吸水率、曲げ強度について、それぞれ、3回測定し、平均データをとり、また、体積膨張率については、2回測定し、平均データをとった。これら得られたデータにより、かさ比重、耐水性、曲げ強度及び耐凍害性を評価した。実験1の評価結果を表2に示す。
[実験2]
実施例2及び比較例4、5について、表3に示す吸水防止材又は撥水材を使用して、実験1と同様に、製造方法(1)により、原料スラリーを作製した。
【0061】
得られた原料スラリーについて、下記の評価方法に則り、5回の脱水量の平均データをとり、濾水性を評価した。実験2の結果を表3に示す。
(評価方法)
かさ比重:JIS A 5413の「かさ比重の試験方法」に準じて測定した。
耐水性:JIS A 5422の「耐透水性の試験方法」に準じて測定した。
曲げ強度:JIS A 5422の「曲げ破壊荷重の試験方法」に準じて測定した。
耐凍害性:24時間吸水させた試料について、ASTMC666−A法に準ずる凍結融解サイクル試験を行い、100サイクルの時点での体積膨張率を測定し、耐凍害性を評価した。
濾水性:ヌッチェ漏斗(内径110mm)を吸引フラスコ(2000ml)に差し込んだ状態でADVANTEC社製 定量濾紙5Aをセットし、そこへ前記原料スラリーを2kg秤量して投入した。吸引フラスコにつないだヤマト科学社製アスピレータWP−15で10mmHg:30秒間の減圧濾過を行い、吸引フラスコ内に溜まったロ液量(脱水量)を測定した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2より、比較例1〜3に比べて、本発明の吸水防止材を使用した実施例1は、曲げ強度に悪影響を与えることなく、耐水性、耐凍害性において優れた性能を有していることが分かった。
【0064】
【表3】

【0065】
表3より、脂肪酸エステル系撥水材を使用した比較例4、5に比べて、本発明の吸水防止材を使用した実施例2は、一定圧力、一定脱水時間における脱水量が多かったことから、製造工程において高い濾水性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の吸水防止材は、建築物の内装壁材や外装壁材等に使用する繊維セメント板の製造用吸水防止材として最適である。また、本発明により得られる繊維セメント板は、建築物の内装壁材や外装壁材等に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が300以下のアルキルアルコキシシラン、乳化剤及び緩衝剤を含有するエマルジョンであることを特徴とする吸水防止材。
【請求項2】
前記アルキルアルコキシシランが一般式(I)
Si(OR (I)
(ただし、Rは炭素数4〜10のアルキル基であって直鎖状でも分枝状であっても良く、Rは炭素数1〜3のアルキル基であり、aはアルキル基Rの数、bはアルキル基Rの数を表し、a,bともに1以上3以下であり、かつa+b=4である。)で示される、請求項1に記載の吸水防止材。
【請求項3】
下記成分を含有する繊維セメント板原料スラリー組成物、
全固形分100質量%において、
セメント:25〜45質量%、
シリカ質微粉末:25〜40質量%、
繊維材:5〜10質量%、
中空軽量骨材:3〜15質量%、
増量材:0〜40質量%、および、
請求項1又は2に記載の吸水防止材:全固形分(セメント、シリカ質微粉末、繊維材、中空軽量骨材および増量材の合計)100質量%に対して、外割りで0.03〜0.10質量%、および水。
【請求項4】
請求項3に記載の繊維セメント板原料スラリー組成物を脱水成型して中間成型体を成型する工程、該中間成型体を養生硬化する工程を経る、繊維セメント板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の繊維セメント板の製造方法により得られる、繊維セメント板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213536(P2011−213536A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82856(P2010−82856)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(398012786)BASFポゾリス株式会社 (8)
【Fターム(参考)】