説明

吸着盤

【課題】吸引口に空気を吸引するための管を接続して、吸着盤に内在する空気を直接吸引することができる吸着盤を提供する。
【解決手段】本発明の吸着盤は、複数の金属板を接合して構成される吸着盤であって、金属板同士が、拡散接合法により、互いの原子の相互拡散により固相のまま接合され、金属板には、吸着面aを有するとともに、該吸着面aに開口する、厚さ方向に貫通する孔部bを有する第1金属板1と、渦巻き状に連続し、厚さ方向に貫通する穴からなり、吸引源に接続された吸引管が接続される吸引口fと連通する第1空洞部cを有する第2金属板2と、厚さ方向に貫通する穴からなり、孔部bと第1空洞部cとを連通させる第2空洞部dを有する第3金属板3とが含まれることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、ガラス、シリコンウエハ、樹脂、セラミック又は紙などからなるシート状のもの(以下「ワーク」という。)を吸着保持し得る吸着盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、表裏に貫通する多数の吸引穴が所定ピッチ間隔で分散形成された第1プレートと、表面の周囲に枠部を有し、枠部の内側に上記吸引穴と通じる格子状の通気溝が形成され、通気溝によって残された島状の凸部が上記枠部と同じ高さに形成され、上記枠部と凸部が第1プレートの裏面に接合され、かつ通気溝の底部に裏面に通じる数個の通気穴が形成された第2プレートとを備え、上記通気穴は真空源と接続されている吸着盤が開示されている。
【0003】
しかしながら、かかる吸着盤では、吸着盤に内在する空気を吸引するための吸引口が第2プレートに形成される通気穴から構成されるため、多数の吸引口を有し、しかもすべての吸引口が第2プレートの裏面に開口した構造である。したがって、各吸引口に吸引源に接続された吸引管を接続し、吸着盤に内在する空気を直接吸引する構成は非現実的で採用できないため、すべての吸引口を覆うカバーを設けて、該カバー内の空気を吸引することで、間接的に吸着盤に内在する空気を吸引しなければならない。また、第2プレートにより最上層が構成される吸着盤では、吸引手段を吸着盤の上部に必ず設けなければならない。また、吸着盤の両面を吸着面として機能させることが不可能である。
【特許文献1】特開平10−95456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、吸引口に吸引管を接続して、吸着盤に内在する空気を直接吸引することができる吸着盤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の吸着盤を提供する。
1.複数の金属板を接合して構成される吸着盤であって、
前記金属板同士が、拡散接合法により、互いの原子の相互拡散により固相のまま接合され、
前記金属板には、吸着面を有するとともに、該吸着面に開口する、厚さ方向に貫通する孔部を有する第1金属板と、渦巻き状に連続し、厚さ方向に貫通する穴からなり、吸引源に接続された吸引管が接続される吸引口と連通する第1空洞部を有する第2金属板と、厚さ方向に貫通する穴からなり、前記孔部と前記第1空洞部とを連通させる第2空洞部を有する第3金属板とが含まれることを特徴とする吸着盤。
2.前記第1金属板の周面に突出部が設けられ、該突出部に前記吸引口が設けられていることを特徴とする前記1記載の吸着盤。
3.前記第2金属板に、前記吸引口が設けられていることを特徴とする前記1記載の吸着盤。
4.前記第1金属板により最上層及び最下層が構成されることを特徴とする前記1記載の吸着盤。
5.前記孔部、第1空洞部、第2空洞部及び吸引口から構成される一連の吸引構造を複数有するとともに、各吸引構造が独立していることを特徴とする前記1記載の吸着盤。
【発明の効果】
【0006】
前記1に記載の本発明によれば、金属板同士が、拡散接合法により、互いの原子の相互拡散により固相のまま接合され、しかも各金属板における孔部、第1空洞部及び第2空洞部以外の部分が面接触で接合される構造であるため、変形や歪みが生じ難く、ワークに接触する吸着面の平面度を良好なものにすることが可能となる。また、金属板には、吸着面を有するとともに、該吸着面に開口する、厚さ方向に貫通する孔部を有する第1金属板と、渦巻き状に連続し、厚さ方向に貫通する穴からなり、吸引源に接続された吸引管が接続される吸引口と連通する第1空洞部を有する第2金属板と、厚さ方向に貫通する穴からなり、前記孔部と前記第1空洞部とを連通させる第2空洞部を有する第3金属板とが含まれるため、吸引口に吸引管を接続して、吸着盤に内在する空気を直接吸引することが可能になる。
前記2に記載の本発明によれば、第1金属板の周面に突出部が設けられ、該突出部に吸引口が設けられているため、吸着盤の上部に吸引手段を設けなくてよい。
前記3に記載の本発明によれば、第2金属板に、吸引口が設けられているため、吸着盤の上部に吸引手段を設けなくてよい。
前記4に記載の本発明によれば、第1金属板により最上層及び最下層が構成されるため、吸着盤の両面を吸着面として機能させることが可能となる。
前記5に記載の本発明によれば、孔部、第1空洞部、第2空洞部及び吸引口から構成される一連の吸引構造を複数有するため、各吸引構造により、一度に複数のワークを吸着することが可能になる。また、各吸引構造が独立しているため、一の吸引構造によりワークを吸着しているときに、他の吸引構造ではワークを吸着しないという使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は、本発明の実施例1に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。この図に示したように、本実施例に係る吸着盤は、複数の金属板が接合されて構成される。ここで、複数の金属板には、第1金属板1、第2金属板2及び第3金属板3が含まれる。また、これらの金属板同士は、拡散接合法により、互いの原子の相互拡散により固相のまま接合される。
【0009】
第1金属板1は、吸着面aを有するとともに、該吸着面aに開口する、厚さ方向に貫通する孔部bを有して構成される。ここで、吸着面aとは、ワーク7が接触し吸着される面をいい、本実施例では、第1金属板1の下面が吸着面aとなる。ワーク7としては、シート状のものが典型例として挙げられるが、これに限定されるものではなく、例えば、ブロック状のものであってもよい。孔部bの数量、大きさ及び配置は、任意に設定し得る。本実施例における孔部bは、図1に示したように、一定の直径を有し、放射状に多数点在するように設けられている。孔部bは、機械加工により形成されたものであってもよいが、孔部bの加工方法としては、エッチングを採用することが好ましい。エッチングによれば、孔部bの形状、配置及び大きさを自由に設定でき、しかも加工が容易である。
【0010】
第2金属板2は、渦巻き状に連続し、厚さ方向に貫通する穴からなる第1空洞部cを有して構成される。第1空洞部cは、ポンプなどから構成される吸引源に接続された吸引管9が接続される吸引口fと連通する。第1空洞部cは、孔部bと同様に、エッチングにより形成されることが好ましい。
【0011】
第3金属板3は、厚さ方向に貫通する穴からなる第2空洞部dを有して構成される。第2空洞部dは、第1金属板1に形成される孔部bと第2金属板2に形成される第1空洞部cとを連通させるように形成される。第2空洞部dは、孔部bと同様に、エッチングにより形成されることが好ましい。
【0012】
本実施例に係る吸着盤は、さらに第4金属板4を有して構成される。第4金属板4は、第2金属板2に形成された第1空洞部cの開口部を閉塞する働きをするものである。本実施例では、第4金属板4の周面に突出部eが設けられ、該突出部eに、厚さ方向に貫通する穴からなる吸引口fが設けられている。吸引口fは、第2金属板2の周面に設けられた突出部eに存する第1空洞部cの一端に連通する。そして、第2金属板2の下面側に開口する第1空洞部cの一端の開口部は、第3金属板3の周面に設けられた突出部eによって閉塞される。
【0013】
図2は、第1乃至第4金属板1〜4を重ね合わせた状態を示す部分断面図である。この図に示したように、本実施例では、第4金属板4が最上層を構成し、第2金属板2及び第3金属板3が中間層を構成し、第1金属板1が最下層を構成するように、第1乃至第4金属板1〜4が上記の拡散接合法により接合される。そして、第2金属板2に形成された第1空洞部cが吸引口fと連通し、さらに第1金属板1に形成されたすべての孔部bが、第3金属板3に形成された第2空洞部dを介して第1空洞部cに連通している。したがって、図3に示したように、吸引口fに吸引管9を接続して、吸着盤に内在する空気を直接吸引することができる。また、1つの吸引口fから空気を吸引することによって、第1金属板1の吸着面aに均一な吸着力を作用させることができる。
【0014】
また、本実施例によれば、第1乃至第4金属板1〜4が、拡散接合法により、互いの原子の相互拡散により固相のまま接合され、しかも第1乃至第3金属板1〜3における孔部b、第1空洞部c及び第2空洞部d以外の部分が互いに面接触で接合される構造であるため、変形や歪みが生じ難く、ワーク7に接触する第1金属板1の吸着面aの平面度を良好なものにすることができる。なお、孔部b、第1空洞部c及び第2空洞部dがエッチングにより形成されることにより、第1金属板1の吸着面aの平面度をより良好なものにすることができる。
【0015】
上記のように構成される吸着盤は、例えば、図3に示したように、ワーク7を積層する際の移送手段として用いられる。この場合に、本実施例によれば、1つの吸引口fから空気を吸引できるため、吸着盤の上部全体が吸引手段によって覆われることがない。
【実施例2】
【0016】
図4は、本発明の実施例2に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。この図に示したように、本実施例に係る吸着盤は、最上層が第4金属板4に代えて第1金属板1から構成される点、最上層及び最下層を構成する第1金属板1,1の周面に設けられた突出部e,eに、厚さ方向に貫通する穴からなる吸引口f,fが設けられる点、及び第3金属板3の周面に設けられた突出部eに貫通孔gが設けられる点で、実施例1に係る吸着盤と異なる。
【0017】
最上層を構成する第1金属板1の上面は、吸着面aとして機能するものであり、該第1金属板1は、その上面に開口する、厚さ方向に貫通する孔部bを有して構成される。貫通孔gは、第2金属板2に形成された第1空洞部cと最下層を構成する第1金属板1に形成された吸引口fとを連通させるものである。
【0018】
図5は、第1乃至第3金属板1〜3を重ね合わせた状態を示す部分断面図である。この図に示したように、本実施例では、第1金属板1,1により最上層及び最下層が構成され、第2金属板2及び第3金属板3により中間層が構成されるように、第1乃至第3金属板1〜3が上記の拡散接合法により接合される。そして、第2金属板2に形成された第1空洞部cが最上層を構成する第1金属板1の吸引口fと連通するとともに、該第1空洞部cが第3金属板3の貫通孔gを介して最下層を構成する第1金属板1の吸引口fと連通し、さらに最上層を構成する第1金属板1に形成されたすべての孔部bが第1空洞部cに直接連通するとともに、最下層を構成する第1金属板1に形成されたすべての孔部bが第3金属板3に形成された第2空洞部dを介して第1空洞部cに連通している。したがって、図6に示したように、上下に配置された吸引口f,fに吸引管9をそれぞれ接続して、吸着盤に内在する空気を直接吸引することができる。この場合、2つの吸引管9のうち、いずれの吸引管9を用いても吸着盤に内在する空気を吸引可能である。また、1つ又は2つの吸引口fから空気を吸引することによって、最上層及び最下層を構成する第1金属板1,1の吸着面aに均一な吸着力を作用させることができる。
【0019】
上記のように構成される吸着盤は、第1金属板1,1により最上層及び最下層が構成されるため、吸着盤の両面を吸着面aとして機能させることができる。したがって、例えば、図7に示したように、ワークステージ8に最上層を構成する第1金属板1の吸着面aを吸着固定し、最下層を構成する第1金属板1の吸着面aによって、ワーク7を吸着させることができる。この場合に、本実施例によれば、最上層及び最下層を構成する第1金属板1,1の周面に突出部eが設けられ、該突出部eに吸引口fが設けられているため、吸引手段を吸着盤の上部に設けなくてよい。また、ワークステージ8に吸着盤を固定するに際して、ねじ等の固定具を必要としないという利点がある。
【実施例3】
【0020】
図8は、本発明の実施例3に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。この図に示したように、本実施例に係る吸着盤は、第2金属板2に、吸引口fが設けられる点、及び最上層を構成する第1金属板1と第2金属板2との間に第3金属板3が設けられる点で、実施例2に係る吸着盤と異なる。
【0021】
すなわち、第1空洞部cを有する第2金属板2には、第1空洞部cに連通し、厚さ方向に貫通しない溝からなり、第2金属板2の周面に開口する吸引口fが設けられている。最上層を構成する第1金属板1と第2金属板2との間に設けられる第3金属板3は、厚さ方向に貫通する穴からなり、第1金属板1に形成された孔部bと第2金属板2に形成された第1空洞部cとを連通させる第2空洞部dを有して構成される。
【0022】
図9は、第1乃至第3金属板1〜3を重ね合わせた状態を示す部分断面図である。この図に示したように、本実施例では、第1金属板1,1により最上層及び最下層が構成され、最上層を構成する第1金属板1の直下に配置される第3金属板3、第2金属板2及び第2金属板2の直下に配置される第3金属板3により中間層が構成されるように、第1乃至第3金属板1〜3が上記の拡散接合法により接合される。そして、第2金属板2に形成された第1空洞部cと吸引口fとが連通し、さらに最上層を構成する第1金属板1に形成されたすべての孔部bが第3金属板3に形成された第2空洞部dを介して第1空洞部cに連通するとともに、最下層を構成する第1金属板1に形成されたすべての孔部bが第3金属板3に形成された第2空洞部dを介して第1空洞部cに連通しているため、図10に示したように、吸引口fに吸引管9を接続して、吸着盤に内在する空気を直接吸引することができる。また、1つの吸引口fから空気を吸引することによって、最上層及び最下層を構成する第1金属板1,1の吸着面aに均一な吸着力を作用させることができる。
【0023】
上記のように構成される吸着盤は、図10に示したように、第2金属板2に吸引口fが設けられているため、吸着盤の側部から吸引管9を接続することができ、吸引手段を吸着盤の上部に設けなくてよい。
【実施例4】
【0024】
図11は、本発明の実施例4に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。この図に示したように、本実施例に係る吸着盤は、孔部b、第1空洞部c、第2空洞部d及び吸引口fから構成される一連の吸引構造を複数有する点で、一連の吸引構造を1つしか有しない実施例1乃至実施例4に係る吸着盤と異なる。
【0025】
本実施例では、一連の吸引構造が1つの吸着盤に6つ設けられており、各吸引構造は独立して設けられている。したがって、本実施例に係る吸着盤によれば、各吸引構造により、一度に複数のワーク7を吸着することができる。また、各吸引構造が独立しているため、一の吸引構造によりワーク7を吸着しているときに、他の吸引構造ではワーク7を吸着しないという使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例1に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。
【図2】実施例1における第1乃至第4金属板を重ね合わせた状態を示す部分断面図である。
【図3】実施例1に係る吸着盤の使用状態を示す図である。
【図4】本発明の実施例2に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。
【図5】実施例2における第1乃至第3金属板を重ね合わせた状態を示す部分断面図である。
【図6】実施例2に係る吸着盤に吸引管を接続した状態を示す図である。
【図7】実施例2に係る吸着盤の使用状態を示す図である。
【図8】本発明の実施例3に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。
【図9】実施例3における第1乃至第3金属板を重ね合わせた状態を示す部分断面図である。
【図10】実施例3に係る吸着盤に吸引管を接続した状態を示す図である。
【図11】本発明の実施例4に係る吸着盤の構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
【0027】
1 第1金属板
2 第2金属板
3 第3金属板
4 第4金属板
7 ワーク
8 ワークステージ
9 吸引管
a 吸着面
b 孔部
c 第1空洞部
d 第2空洞部
e 突出部
f 吸引口
g 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板を接合して構成される吸着盤であって、
前記金属板同士が、拡散接合法により、互いの原子の相互拡散により固相のまま接合され、
前記金属板には、吸着面を有するとともに、該吸着面に開口する、厚さ方向に貫通する孔部を有する第1金属板と、渦巻き状に連続し、厚さ方向に貫通する穴からなり、吸引源に接続された吸引管が接続される吸引口と連通する第1空洞部を有する第2金属板と、厚さ方向に貫通する穴からなり、前記孔部と前記第1空洞部とを連通させる第2空洞部を有する第3金属板とが含まれることを特徴とする吸着盤。
【請求項2】
前記第1金属板の周面に突出部が設けられ、該突出部に前記吸引口が設けられていることを特徴とする請求項1記載の吸着盤。
【請求項3】
前記第2金属板に、前記吸引口が設けられていることを特徴とする請求項1記載の吸着盤。
【請求項4】
前記第1金属板により最上層及び最下層が構成されることを特徴とする請求項1記載の吸着盤。
【請求項5】
前記孔部、第1空洞部、第2空洞部及び吸引口から構成される一連の吸引構造を複数有するとともに、各吸引構造が独立していることを特徴とする請求項1記載の吸着盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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