説明

吹出口の風向制御機構およびダクトレス換気システム

【課題】給気すべき室内の天井に設けた吹出口から壁や窓ガラス等に沿った下方へのドラフトが生じることを防止することができる吹出口の風向制御機構およびこれを用いたダクトレス換気システムを提供する。
【解決手段】部屋11の天井に多角形状の吹出用の開口27が形成され、この開口の中央部を塞ぐ固定板28が設けられて、開口の各辺部27aと固定板との間に吹出口34a〜34dが形成されるとともに、固定板上に、各々開口の辺部に向けて進退自在に設けられ、吹出口の辺部と固定板との間の部分を独立的に開閉する複数の移動部材35〜38が水平方向に移動自在に設けられ、かつ固定板に、各々の移動部材を辺部に向けて進退させる駆動機構39が設けられるとともに、駆動機構の駆動杆40が固定板を貫通して固定板の下面側から操作可能に設けられてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅の換気システムにおいて、室内の天井に設けられた空気の吹出口に用いて好適な吹出口の風向制御機構およびこれを用いたダクトレス換気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建材やその接着剤あるいはシロアリ防止剤等から発生するホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、トルエン、キシレン等の揮発性有機化合物に起因する、いわゆるシックハウス症候群の発生を防止するために、法規上、新築の戸建て住宅や共同住宅に対しても、0.5回/hrの換気を24時間連続して行うことが要求されている。
【0003】
ところで、従来の住宅における換気システムとしては、例えば図15に示すように、居室1、2の外壁に給気口1a、2aを設け、浴室や洗面室あるいはトイレ等のサニタリースペース3の天井に排気ファン4を設けて、当該排気ファン4の吐出側を天井内5に設けた排気ダクト4aを介して排気口4bに接続するとともに、居室1とサニタリースペース3との間、サニタリースペース3と廊下6との間、廊下6と居室2との間に、それぞれ通気部7を設けたものが知られている。ちなみに、この通気部7は、両室間に設けられたドア下部の隙間やドアガラリ等である。
【0004】
これは、第3種換気システムと呼ばれるものであって、排気ファン4によってサニタリースペース3内の空気を、天井内5に設けられた排気ダクト4aを介して排気口4bから外部に強制排気することにより、屋外の空気が給気口1a、2aから居室1、2内に自然流入し、さらに通気部7から廊下6およびサニタリースペース3へと流れることにより、住戸内の全体の空気を換気するようにしたものである。
【0005】
上記従来の換気システムにあっては、サニタリースペース3の天井および天井内5に排気ファン4および排気ダクト4a等を設置すればよいために、構造か簡易で経済的であるという利点はあるものの、上述したように24時間連続して、0.5回/hrの換気を行うと、居室1、2等における快適な空調環境を保持することができず、特に冬季においては寒冷な外気が直接かつ連続的に住戸内に導入されてしまうために、到底居住に耐え得ないという問題点があった。
【0006】
このような問題点を解決する従来の換気システムとしては、図16に示す第1種換気システムが知られている。
この換気システムは、天井内5に排気ファンを内蔵した熱交換ユニット8を設け、サニタリースペース3内の空気を、天井内5に設けた排気ダクト3aを通じて熱交換ユニット8に送ったうえで排気ダクト4aおよび排気口4bから排気するとともに、これに伴って給気口9から流入する外気を、上記熱交換ユニット8において、排気される室内の空気と熱交換した後に、天井内5に設置された給気ダクト9aを通じて居室1、2の天井に設けた吹出口9bから室内に供給するようにしたものである。
【0007】
上記従来の換気システムによれば、熱交換ユニット8において、給気口9から住戸内に採り入れられる外気を、室内から排気される空気と熱交換させた後に、居室1、2内に給気しているために、図15に示したものと比較して、外気をより室内の温度に近付けたうえで、居室1、2等に供給することができる。
【0008】
しかしながら、上記換気システムにあっても、熱交換ユニット8における空気流路が狭く、よって空気流速が大きくなるのに対して、大きな熱交換面積を確保することが難しいために、十分な熱交換を行って外気と排気との温度差を小さくすることが困難であり、依然として所望の空調環境を保持するためには、空調に要するエネルギーコストが高くなるという問題点があった。
【0009】
加えて、天井内5に、給気ダクト9a、排気ダクト3a、4a等を設ける必要があるために、天井内5が狭隘となって保守点検の障害になるとともに、施工コストが高くなるという問題点もあった。
【0010】
そこで、本発明者等は、先に下記特許文献1に見られるような、戸建住宅用ダクトレス換気システムを提案した。
このダクトレス換気システムは、天井内を給気ダクトとして利用したものであり、当該天井内に循環型給気ファンを設けるとともに、この循環型給気ファンの吸入側に、外気取入ダクトおよび廊下の空気を排気する環流ダクトが接続され、かつ上記循環型給気ファンの吐出側が天井内に開口されるとともに、居室に天井内の空気を室内に導入するための吹出口を設け、さらにサニタリースペースの天井に内部の空気を直接屋外に排気する排気ファンを設けたものである。
【0011】
上記ダクトレス換気システムにおいては、循環型給気ファンによって、外気取入ダクトからの0.5回/hrの量の外気と、環流ダクトを介して排気された0.5回/hrの量の廊下の空気とを混合して、給気ダクトとなる天井内に送気する。すると、この天井内の空気は、吹出口から居室に給気されるとともに、通気部を通じてサニタリースペースおよび廊下へと流れる。また、これと並行して、外気取り入れ分に相当する0.5回/hrの量のサニタリースペース内の空気を排気ファンから屋外に排気する。
【0012】
この結果、上記ダクトレス換気システムによれば、住戸内において1.0回/hrの量の換気を行うことができるために、例えば環流ダクトに清浄用フィルターを設置することにより、従来よりも大きな換気量を確保することができるとともに、環流ダクトからの室内の空気と外気とが天井内の広いスペースにおいて混合されるために、内外温度差によるヒートショックを大幅に緩和することができるという利点がある。しかも、天井内に設置すべきダクトを大幅に減少させることができるために経済性にも優れる。
【0013】
ところで、上記ダクトレス換気システムにあっては、給気ダクトとなる天井内の空気が、居室の天井の設けた吹出口から給気されるために、室内に下方に向けたドラフト(空気流)が発生してしまうという欠点があった。特に、通常上記居室においては、照明を部屋の中央に設ける関係上、上記吹出口が居室のコーナー部に設けられているために、上記ドラフトにより壁や窓ガラス等を伝って冷えた空気が24時間、連続的に給気されてしまい、居住者に不快感を与えるという問題点があった。
【0014】
また、循環型給気ファンから送気された空気によって給気ダクトとなる天井内が正圧になるために、一部の空気が天井内から壁内を伝わってコンセントやターミナルコネクタ等の器具から噴き出すこともあり、流量自体は微量であるものの、椅子やベッド等の配置によっては、居住者に不快感を与えるおそれがあった。
【特許文献1】特開2003−50034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、給気すべき室内において、天井に設けた吹出口から壁や窓ガラス等に沿った下方へのドラフトが生じることを防止することができ、かつ室内においても給気を円滑に拡散させることが可能となる吹出口の風向制御機構およびこれを用いたダクトレス換気システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、給気すべき部屋の天井に多角形状の吹出用の開口が形成され、この開口の中央部を塞ぐ固定板が設けられることにより、上記開口の各辺部と上記固定板との間に吹出口が形成されるとともに、上記固定板上に、各々上記開口の辺部に向けて進退自在に設けられ、上記吹出口の上記辺部と上記固定板との間の部分を独立的に開閉する複数の移動部材が水平方向に移動自在に設けられ、かつ上記固定板に、各々の上記移動部材を辺部に向けて進退させる駆動機構が設けられるとともに、上記駆動機構の駆動杆が上記固定板を貫通して当該固定板の下面側から操作可能に設けられてなることを特徴とするものである。
【0017】
ここで、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の駆動機構が、上記固定板の中心部に立設されて上記駆動杆となる回動軸と、この回動軸の軸線方向に沿って設けられ、各々上記移動部材に当接する複数のカム板と、このカム板と上記移動部材との間に設けられて上記移動部材を上記カム板に当接する方向に付勢する付勢部材とを備えてなり、上記回動軸を回動させることにより、上記カム板および付勢部材によって上記移動部材を上記開口の辺部側に向けて進退させるようにしたことを特徴とするものである。
【0018】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、上記移動部材は、底縁が上記多角形状に形成されるとともに側面に頂部へ向けて傾斜する多角錐状の壁面が設けられた中空の外観多角錐体または多角柱体が、上記傾斜壁面の稜線において軸線方向に分割されてなることを特徴とするものである。
【0019】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記移動部材の上方に、吸引した空気を上記吹出口に向けて送気するファンが設けられていることを特徴とするものであり、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のファンの上方に、上記空気の吸い込み口が形成されるとともに、風量調整板を上記吸込み口に対して接離自在に設けたことを特徴とするものである。
【0020】
次いで、請求項6に記載の発明は、給気すべき部屋に請求項1〜5のいずれかに記載の吹出口の風向制御機構を備えた建物におけるダクトレス換気システムであって、上記開口が形成された部屋の天井内が給気用のボイドスペースとされ、当該ボイドスペース内に循環型給気ファンが設けられるとともに、上記循環型給気ファンの吸入側に、外気取入ダクトおよび他の第1の部屋に開口する環流ダクトが接続され、かつ上記循環型給気ファンの吐出側が上記ボイドスペースに開口されるとともに、他の第2の部屋に内部の空気を屋外に排気する排気ファンを設け、上記部屋と上記第1および第2の部屋との間に、空気の流通路を設けたことを特徴とするものである。
【0021】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、上記部屋が居室であり、上記第1の部屋が廊下であるとともに、上記第2の部屋がサニタリースペースであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1〜5のいずれかに記載の発明によれば、固定板に対して複数の移動部材を開口の各々の辺部に向けて独立的に移動自在に設けているために、固定板に設けた駆動機構によって、複数の移動部材の全てを、給気すべき部屋の天井に形成された開口の辺部から退く方向に移動させておけば、上記開口と固定板の間に、全周にわたって吹出口を形成することができる。
【0023】
そして、上記吹出用の開口が、上記部屋の壁や窓ガラスに近接して設けられている場合や、上記部屋のコーナー部に設けられている場合には、上記駆動機構によって、複数の移動部材のうちの上記壁や窓ガラス側に位置する開口の辺部と対向する移動部材を、上記辺部側に向けて移動させることにより、上記吹出口の上記辺部と固定板との間の部分を独立的に塞ぐことができる。
【0024】
この結果、上記吹出口から壁や窓ガラス等に沿った下方へのドラフトが生じることを防止することができる。
また、上記吹出口の風向制御機構によれば、上記固定板および移動部材を取り付けた後に、適宜取付箇所に応じて、1〜複数の移動部材を移動させることにより、上記吹出口の壁や窓ガラス側に位置する部分を選択的に塞ぐことができるために、建物全体として共通の部材を使用することができ、施工が容易である。
【0025】
この際に、請求項2に記載の発明によれば、室内側から回動軸を操作するのみで、各々の移動部材に対応したカム板を同時に回動させて、各移動部材を進退駆動することができる。また、カム板の外周に形成されて移動部材を進退させるためのカム曲線を移動部材ごとに変えたり、あるいは当該カム曲線の上記回動軸の回動角度に対する位相をずらしたりすることにより、上記回動軸の回動に伴って、順次移動部材によって塞ぐ吹出口の数を増加させたり、または円周方向に順次異なる移動部材を進退させて塞ぐべき吹出口の位置を変えたりといった様々な吹出口の調整を行うことが可能になる。
【0026】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、複数の移動部材を、全体として外観多角錐体または多角柱体に形成するとともに、側面に頂部へ向けて傾斜する多角錐状の壁面を設けているために、上方からの空気の流れが当該移動部材の頂部から壁面に沿って外周側の吹出口へと案内されることになる。このため、吹出口から室内へ供給される空気が、当該吹出口から直下に流れることなく、上記壁面の傾斜角度に応じて斜め下方に流れるために、より一層上記給気を室内の広い範囲へと拡散させることが可能になる。
【0027】
また、請求項4に記載の発明によれば、上記移動部材の上方に、吸引した空気を下方の吹出口に向けて送気するファンが設けられているために、各々の部屋において、独立的な給気を行うことができる。
加えて、請求項5に記載の発明によれば、当該ファンの上方に設けた風量調整板を、吸込み口に対して接離させることにより、部屋毎に吹出口から室内に供給される空気量を容易に調整することも可能になる。
【0028】
したがって、請求項6または7に記載の発明にように、ダクトレス換気システムにおける吹出口に、上記請求項1〜5のいずれかに記載の吹出口の風向制御機構を設ければ、上述した吹出口の風向制御機構自体が奏する作用効果を得ることができる。特に、請求項4に記載の吹出口の風向制御機構を設けた場合には、各吹出口にファンが設けられているために、天井内に形成された給気用のボイドスペース内の空気を、強制的に各室に送気することができるために、当該ボイドスペース内が過度に正圧となって、壁のコンセント等から給気の一部が噴出することを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1〜図12は、本発明に係る吹出口の風向制御機構およびこれを用いたダクトレス換気システムの一実施形態を示すものある。
図1および図2において、図中符号10が住宅である。この住宅10は、3つの居室11、浴室、洗面室およびトイレを備えたサニタリースペース(第2の部屋)12、これら間の廊下(第1の部屋)13を有しており、天井内に給気用のボイドスペース14が形成されている。
また、これら居室11、サニタリースペース12および廊下13の間に、ドア下部の隙間やドアガラリ等による通気部15が形成されている。
【0030】
そして、天井内のボイドスペース14には、循環型給気ファン16が設けられ、この循環型給気ファン16の吸入側に、給気口17から延びる外気取入ダクト18と、廊下13の空気を排気する環流ダクト19とが接続されている。ここで、外気取入ダクト18に、フィルター20が介装されるとともに、廊下13の天井には、環流ダクト19の吸入口となる環流フィルター21が取り付けられている。他方、この循環型給気ファン16の吐出側16aは、ボイドスペース14に開口されている。
【0031】
また、サニタリースペース12の天井には、内部の空気を直接屋外に排気するための排気ファン22が設けられており、この排気ファン22の吐出側に、ボイドスペース14に配管された排気ダクト23の一端部が接続されるとともに、この排気ダクト23の他端部が排気口24に接続されている。なお、図1においては、外気取入ダクト18との重なりを避けて目視し易くするために、排気ダクト23および排気口24を、図2とは逆の方向に図示してある。そして、各居室11のコーナー部に、室端末ファン25を備えた吹出口の風向制御機構26が設けられている。
【0032】
各々の吹出口の風向制御機構26においては、図3〜図5に示すように、居室11の天井11aに正方形の開口27が形成されるとともに、この開口27の中央部を塞ぐ正方形の固定板28が配設されている。ここで固定板28は、その4角隅部において取付板を介して開口27に取り付けられた枠材29に固定されている。また、枠材29の四隅上面には、ボイドスペース14側に突出する仕切部材30が立設されており、この仕切部材30の上端部に平板状のファン取付板31が取り付けられている。これにより、開口27の外縁辺(辺部)27aと固定板28との間には、合計4つの吹出口34a〜34dが形成されている。
【0033】
他方、ファン取付板31は、中央部に開口が形成されており、この開口を跨ぐようにして上記室端末ファン25が取り付けられている。この室端末ファン25は、モータ25aが開口27の中心部に配設されるとともに、その下方に向けた出力軸に羽根25bが取り付けられている。また、取付板31には、室端末ファン25を取り囲むようにして、筒状のガイド部材32が立設されており、このガイド部材32の縮径された頂部に吸込み口33が形成されている。これにより、室端末ファン25は、上記吸込み口33から吸引した空気を下方に向けて送気するようになっている。
【0034】
そして、この室端末ファン25の下方に、4つの移動部材35〜38が固定板28の上面に移動自在に配設されている。これら移動部材35〜38は、各々の底板35a〜38aが全体として固定板28と同寸法をなる四角錐状に形成されており、個々の移動部材35〜38は、当該四角錐が稜線において軸線方向に分割された形状に形成されている。そして、各々の移動部材35〜38は、それぞれの頂部を室端末ファン25の中心部の下方に位置させ、かつ底板35a〜38aの外周縁を開口27の各外縁辺27aと平行に位置させて、当該外縁辺27aに向けて進退自在に設けられている。これにより、各移動部材35〜38の側面には、頂部から外周側の各吹出口34a〜34dへと傾斜する壁面が形成されている。
【0035】
また、各移動部材35〜38は、図7に示すように中空に形成されるとともに、内部には移動方向の中間部に内壁35b〜38bが垂直に設けられている。そして、これら内壁35b〜38bで囲まれた内部空間に、カム機構(駆動機構)39が設けられている。
【0036】
このカム機構39は、図7〜図12に示すように、固定板28の中心部に挿通されるとともに下端部に回動操作用のノブ40aが設けられた回動軸(駆動杆)40と、この回動軸40の軸線方向に等間隔をおいて固定された4枚のカム板41a〜41dと、各移動部材35〜38の内壁35b〜38bに固定されるとともに水平方向に延出して各カム板41a〜41dの外周面に当接する係合板42a〜42dと、一端部が回動軸40の外周に相対的に回動自在に取り付けられるとともに、他端部が各内壁35c〜38cに固定されることにより、各係合板42a〜42dをカム板41a〜41dに当接する方向に付勢するスプリング(付勢部材)43a〜43dとから構成されている。
【0037】
なお、各係合板42a〜42dの先端部には、各カム板41a〜41dの外周面に当接するコロが回転自在に組み込まれている。
さらに、各移動部材35〜38の底板35a〜38aには、その移動方向に延在する2条のガイド溝45a〜45dが平行に形成され、他方固定板28には、これらガイド溝45a〜45d内に突出するピン46a〜46dが突設されている。ちなみに、ガイド溝45a〜45dは、底板35a〜38aの外周縁と開口27の外縁辺27aとの間隔とほぼ等しい長さ寸法に形成されている。
【0038】
ここで、図8〜図12に基づいて、4つの移動部材35〜38に対応する各カム板41a〜41dのカム曲線の形状について詳述する。なお、図8〜図12は、それぞれ回動軸40の回動角度が、0°、90°、180°、270°および360°直前における各カム板41a〜41dの回動位置と、移動部材35(各図a)、36(各図b)、37(各図c)、38(各図d)の位置との関係を示すものである。
【0039】
先ず図8に示すように、上記回動角度が0°においては、カム板41a〜41dともに、その外周面が、移動部材35〜38が開口27の外縁辺27aから後退した位置、すなわち4つの吹出口34a〜34dが開いた状態となる半径r´に形成されている。
【0040】
次いで、図9に示すように回動軸40を90°回動させた位置においては、カム板41aの外周面が、移動部材35を開口27の外縁辺27aまで移動させる半径rに形成されるとともに、他のカム板41b〜41dは、依然として移動部材36〜38が開口27の外縁辺27aから後退した位置となる半径r´に形成されている。これにより、上記回動角度90°においては、1箇所の吹出口34aが閉じるとともに、他の吹出口34b〜34dが開いた状態を保持するようになっている。
【0041】
そして、図10に示すように、回動軸40を180°回動させた位置においては、カム板41a、41bの外周面が、移動部材35、36を開口27の外縁辺27aまで移動させる半径rに形成されるとともに、他のカム板41c、41dは、依然として移動部材37、38が開口27の外縁辺27aから後退した位置となる半径r´に形成されている。これにより、上記回動角度180°においては、隣接する2箇所の吹出口34a、34bが閉じるとともに、他の吹出口34c、34dが開いた状態を保持するようになっている。
【0042】
次いで、この状態から、回動軸40を回動させて、図11に示すように270°まで回動させた位置においては、3つのカム板41a〜41cの外周面が、移動部材35〜37を開口27の外縁辺27aまで移動させる半径rに形成されるとともに、他のカム板41dは、そのまま移動部材38が開口27の外縁辺27aから後退した位置となる半径r´に形成されている。これにより、上記回動角度270°においては、隣接する3箇所の吹出口34a〜34cが閉じるとともに、他の吹出口34dが開いた状態を保持するようになっている。
【0043】
そしてさらに回動軸40を回動させて、図12に示すように360°直前まで回動させた位置においては、全てのカム板41a〜41dの外周面が、移動部材35〜38を開口27の外縁辺27aまで移動させる半径rに形成されている。これにより、上記回動角度においては、4箇所全ての吹出口34a〜34dが閉じるようになっている。
【0044】
他方、図3および図4に示すように、枠材29の四隅のうちの3箇所には、天井11aを貫通してガイド部材32の吸込み口33よりも上方まで延びる支持軸50が立設されており、他の1箇所には、支持軸50と等しい高さ寸法を有するとともに上部にネジ部51aが形成された高さ調整軸51が回転自在に立設されている。そして、吸込み口33の上方には、板状の風量調整板52が配設されている。
【0045】
この風量調整板52は、四隅のうちの3箇所に穿設された孔部に支持軸50が緩く挿入され、他の1箇所にはナット53が固定されている。そして、このナット53に高さ調整軸51が螺合されることにより、風量調整板52は、高さ調整軸51のノブ51bの回動により支持軸50に沿って上下方向に移動自在に設けられている。
【0046】
以上の構成からなる吹出口の風向制御機構およびこれを用いたダクトレス換気システムにおいては、先ず居室11内における給気用の開口27の配置に応じて、風向制御機構26における移動部材34のそれぞれの位置を調整する。
例えば、図5に示すように、開口27が窓ガラス47の近傍に形成されることにより、4つの吹出口34a〜34dのうちの1つの吹出口34aが窓ガラス47側に位置する場合には、当該吹出口34aを閉じておく。
【0047】
この場合には、室内側からノブ40aを操作して回動軸40を図9に示すように回動角度90°まで廻す。これにより、カム板41aにより対応する1つの移動部材35が吹出口34a側に押し出されることによって、窓ガラス47側に位置する吹出口34aを塞ぐことができる。
【0048】
また、図2および図6に示す本実施形態のように、各居室11のコーナー部に、室端末ファン25を備えた吹出口の風向制御機構26が設けられている場合には、回動軸40をさらに90°廻して、図10に示すように回動角度180°に位置させる、これにより、カム板41bに対応する移動部材36も押し出されることにより、既に移動部材35によって塞がれている吹出口34aに隣接する吹出口34bも塞がれる。この結果、隣接する壁部48a、48b側に位置する2箇所の吹出口35、36を閉じることができる。
【0049】
このようにして、壁部48a、48b側に位置する吹出口35、36を塞ぐことにより、吹出口の風向制御機構26の設定が完了する。
次いで、本ダクトレス換気システムにおいては、循環型給気ファン16によって、外気取入ダクト18を介して給気口17から吸引した0.5回/hrの量の外気と、フィルター21によって清浄化された後に環流ダクト19を介して排気された0.5回/hrの量の廊下13の空気とを混合して、給気ダクトとなる天井内のボイドスペース14に送気する。そして、このボイドスペース14内の空気を、室端末ファン25によって吹出口35から各居室11内へと給気する。
【0050】
すると、居室11内の空気は、通気部15を通じてサニタリースペース12および廊下13へと流れ、これと並行して、外気取り入れ分に相当する0.5回/hrの量のサニタリースペース12内の空気が排気ファン22によってボイドスペース14に配管された排気ダクト23へと流れ、排気口24から屋外へと排気されて行く。
【0051】
この結果、上記ダクトレス換気システムによれば、住戸内において1.0回/hrの量の換気を行うことができるために、従来よりも大きな換気量を確保することができるとともに、環流ダクト19から吸引された廊下13の空気と外気とが天井内の広いボイドスペース14において混合されるために、内外温度差によるヒートショックを確実に緩和することができる。加えて、天井内に設置すべきダクトを大幅に減少させることができるために経済性にも優れる。
【0052】
しかも、各居室11に設置した吹出口の風向制御機構26ごとに、室端末ファン25が設けられているために、給気用のボイドスペース14の空気を、強制的に各居室11に送気することができ、よって当該ボイドスペース14が過度に正圧となって、壁のコンセント等から給気の一部が噴出することを確実に防止することができる。
【0053】
以上のダクトレス換気システムが奏する作用効果に加えて、居室11に設けられた吹出口の風向制御機構26によれば、カム機構39によって移動部材35、36を移動させることにより、壁部48a、48b側に位置する2箇所の吹出口34a、34bを閉じておくことができるために、壁部48a、48bに沿った下方へのドラフトが生じることを防止することができる。
【0054】
しかも、カム機構39の回動軸40をさらに回動させれば、他の2箇所の吹出口34c、34dについても順次塞ぐことができる。
加えて、室端末ファン25を取り囲むようにして筒状のガイド部材32を立設し、このガイド部材32の縮径された頂部に吸込み口33を形成するとともに、この吸込み口33の上方に近接して風量調整板52を設けているために、ノブ51bによって風量調整板52を支持する高さ調整軸51を回転させて風量調整板52を吸込み口33に対して接離させることにより、例えば居室11の中央部に開口27が配置されているような場合においても、吹出口34a〜34dを閉じることなく、室内に供給される空気量を容易に調整することもできる。
【0055】
なお、本発明に係る吹出口の風向制御機構の構成については、上述した風向制御機構26の他、様々な構造を採用することが可能である。
例えば、図13および図14は、上記風向制御機構の他の実施形態を示すものであり、カム機構39を含めて上記風向制御機構26と共通する構成部分については、同一符号を付してある。
【0056】
この風向制御機構60が上記風向制御機構26と異なる点は、開口27の中央部を塞ぐ固定板28の寸法、並びに仕切部材30の上部に封止壁部61が設けられている点、さらに移動部材62〜65の形状にある。
すなわち、この風向制御機構60においては、ボイドスペース14側に立設された仕切り部材30の上端部に、四角筒状の封止壁部61が設けられている。
【0057】
この封止壁部61は、その上端部に室端末ファン25を取り付けるための平板状のファン取付板31が固定されるとともに、その下端部が仕切部材30との接合位置よりも下方に位置するように形成されている。
また、固定板28は、図3および図4に示したものよりも、外形寸法が小さい正方形に形成されており、これにより当該固定板28の外周縁と開口27を画成する各外縁辺27aとの間には、幅広の4つの吹出口66a〜66dが形成されている。
【0058】
そして、この固定板28上に、移動部材62〜65が水平方向に移動自在に設けられている。
これら移動部材62〜65は、全体として正方形状をなす底板と、これら底板の外周縁上に一体化された四角筒状の側壁62a〜65aと、これら側壁62a〜65aの上端部から頂部へと傾斜する四角錐筒状の天板(傾斜壁面)とからなる形状に形成されている。
【0059】
そして、個々の移動部材62〜65は、当該四角錐の稜線および四角筒の角部において軸線方向に四分割された形状に形成されている。また、底板によって形成される正方形は、固定板28よりも小さく形成されている。また、側板62a〜65aは、その上部が封止壁部61の下部に臨む高さ寸法に形成されている。
【0060】
以上の構成からなる吹出口の風向制御機構60においては、同様に、例えば図5に示すように、開口27が窓ガラス47の近傍に形成され、4つの吹出口66a〜66dのうちの窓ガラス47側に位置する吹出口66aを閉じておく場合には、回動軸40を廻して図9に示すように回動角度90°に位置させる。すると、同様にカム板41aによって移動部材62が押し出されて、その側壁62bが封止壁部61に当接する。これにより、窓ガラス47側に位置する吹出口66aを塞ぐことができる。
【0061】
また、図2および図6に示すように、壁部48a、48bによって形成されたコーナー部の天井に風向制御機構60が設けられている場合には、さらに回動軸40を廻して図10に示すように回動角度180°に位置させる。これにより、移動部材62に加えて、さらにカム板41bによって移動部材63が押し出されてその側壁63bが封止壁部61に当接することにより、壁部48a、48b側に位置する2箇所の吹出口66a、66bを塞ぐことができる。
【0062】
したがって、上記吹出口の風向制御機構60およびこれを用いたダクトレス換気システムによっても、図1〜図12に示したものと同様の作用効果を得ることが可能である。
【0063】
なお、上記実施の形態においては、いずれも吸込み口33の上方に、板状の風量調整板52を配設した場合についてのみ説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、当該風量調整板52を省略することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るダクトレス換気システムの一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】本発明に係る吹出口の風向制御機構の一実施形態を示す縦断面図である。
【図4】図3の固定板を省略した底面図である。
【図5】図3の風向制御機構を窓ガラスに近接して配置した状態を示す平面図である。
【図6】図3の風向制御機構を居室のコーナー部に配置した状態を示す平面図である。
【図7】図3の移動部材およびカム機構の構造を模式的に示す縦断面図である。
【図8】カム板の形状と回動軸の回動角度が0°の時の移動部材の位置を示す図で、(a)はカム板41a、(b)はカム板41b、(c)はカム板41c、(d)はカム板41dの場合である。
【図9】カム板の形状と回動軸の回動角度が90°の時の移動部材の位置を示す図で、(a)はカム板41a、(b)はカム板41b、(c)はカム板41c、(d)はカム板41dの場合である。
【図10】カム板の形状と回動軸の回動角度が180°の時の移動部材の位置を示す図で、(a)はカム板41a、(b)はカム板41b、(c)はカム板41c、(d)はカム板41dの場合である。
【図11】カム板の形状と回動軸の回動角度が270°の時の移動部材の位置を示す図で、(a)はカム板41a、(b)はカム板41b、(c)はカム板41c、(d)はカム板41dの場合である。
【図12】カム板の形状と回動軸の回動角度が360°直前の時の移動部材の位置を示す図で、(a)はカム板41a、(b)はカム板41b、(c)はカム板41c、(d)はカム板41dの場合である。
【図13】本発明に係る吹出口の風向制御機構の他の実施形態を示す縦断面図である。
【図14】図13の固定板を省略した底面図である。
【図15】従来の換気システムを示す縦断面図である。
【図16】従来の他の換気システムを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0065】
10 住戸
11 居室(給気すべき部屋)
11a 天井
12 サニタリースペース(第2の部屋)
13 廊下(第1の部屋)
14 ボイドスペース
15 空気の流通路
16 循環型給気ファン
17 給気口
18 外気取入ダクト
19 環流ダクト
22 排気ファン
23 排気ダクト
25 室端末ファン
26 吹出口の風向制御機構
27 開口
27a 開口の外縁辺(辺部)
28 固定板
33 吸込み口
35〜38、62〜65 移動部材
34a〜34d、66a〜66d 吹出口
39 カム機構(駆動機構)
40 回動軸(駆動杆)
41a〜41d カム板
43a〜43d スプリング(付勢部材)
52 風量調整板
61 封止壁部
62a〜65a 側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給気すべき部屋の天井に多角形状の吹出用の開口が形成され、この開口の中央部を塞ぐ固定板が設けられることにより、上記開口の各辺部と上記固定板との間に吹出口が形成されるとともに、上記固定板上に、各々上記開口の辺部に向けて進退自在に設けられ、上記吹出口の上記辺部と上記固定板との間の部分を独立的に開閉する複数の移動部材が水平方向に移動自在に設けられ、かつ上記固定板に、各々の上記移動部材を辺部に向けて進退させる駆動機構が設けられるとともに、上記駆動機構の駆動杆が上記固定板を貫通して当該固定板の下面側から操作可能に設けられてなることを特徴とする吹出口の風向制御機構。
【請求項2】
上記駆動機構は、上記固定板の中心部に立設されて上記駆動杆となる回動軸と、この回動軸の軸線方向に沿って設けられ、各々上記移動部材に当接する複数のカム板と、このカム板と上記移動部材との間に設けられて上記移動部材を上記カム板に当接する方向に付勢する付勢部材とを備えてなり、
上記回動軸を回動させることにより、上記カム板および付勢部材によって上記移動部材を上記開口の辺部側に向けて進退させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の吹出口の風向制御機構。
【請求項3】
上記移動部材は、底縁が上記多角形状に形成されるとともに側面に頂部へ向けて傾斜する多角錐状の壁面が設けられた中空の外観多角錐体または多角柱体が、上記傾斜壁面の稜線において軸線方向に分割されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の吹出口の風向制御機構。
【請求項4】
上記移動部材の上方に、吸引した空気を上記吹出口に向けて送気するファンが設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の吹出口の風向制御機構。
【請求項5】
上記ファンの上方に、上記空気の吸込み口が形成されるとともに、風量調整板を上記吸込み口に対して接離自在に設けたことを特徴とする請求項4に記載の吹出口の風向制御機構。
【請求項6】
給気すべき部屋に請求項1ないし5のいずれかに記載の吹出口の風向制御機構を備えた建物におけるダクトレス換気システムであって、
上記開口が形成された部屋の天井内が給気用のボイドスペースとされ、当該ボイドスペース内に循環型給気ファンが設けられるとともに、上記循環型給気ファンの吸入側に、外気取入ダクトおよび他の第1の部屋に開口する環流ダクトが接続され、かつ上記循環型給気ファンの吐出側が上記ボイドスペースに開口されるとともに、他の第2の部屋に内部の空気を屋外に排気する排気ファンを設け、上記部屋と上記第1および第2の部屋との間に、空気の流通路を設けたことを特徴とするダクトレス換気システム。
【請求項7】
上記部屋は居室であり、上記第1の部屋は廊下であるとともに、上記第2の部屋はサニタリースペースであることを特徴とする請求項6に記載のダクトレス換気システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2008−32348(P2008−32348A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208167(P2006−208167)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】