説明

呈味性の改善された中華麺用スープの製造方法

【課題】
麺に「こし」をもたせるために添加されている「かんすい」を含む中華麺は、緩衝能の弱いスープに投入した場合に麺からスープにかんすいが出ることによってスープのpHが上昇し、スープ本来の味が低下することを防止する。また、調理直後から食べ終わるまでの麺のびを防止して麺の食感低下を改善する。
【解決手段】
中華麺用スープの製造工程の何れかの段階において、酸及び酸の塩を添加する。上記スープはゆで麺、蒸し麺、又は冷製中華麺用のスープとして用いることができる。
なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸、及び酸の塩を添加することにより呈味性の改善された中華麺用スープの製造方法及びその方法により得られる食品に関し、より詳しくは、酸、及び酸の塩を中華麺用スープに添加することによって、スープに麺を投入してから食べ終わるまでの間の当該スープのpH上昇を抑制し、スープの味の好ましさを改善すると共に、麺のびを防止して麺の食感の好ましさも改善された中華麺用スープの製造方法、及びその方法により製造される中華麺用スープ並びに中華麺セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、麺類、漬物、米飯、嗜好食品などの食品の品質を劣化させずに長期保存性を付与するために、食品の製造工程でpH調整する方法が知られている。例えば、ゆで麺の製造時には、ゆで液の中に麺の成分が溶け出してpHが上昇する。タンパク質の等電点(最も溶解度の低いpH)はpH5付近なので、ゆで液のpHが上昇すると更にタンパク質の溶出率は上昇し、ゆで麺の歩留まりが低下する。従来、ゆで麺の製造においてはゆで液を弱酸性に調整すると、うどんなどの麺類をゆであげたときの歩留まりが高くなり、ゆで麺の品質の向上、保存性の向上になるという効果が知られており、このような目的のために用いる種々の品質改良剤が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、これらの品質改良剤は食品の製造工程で使用されるものであって、ゆで麺をスープに投入した際のスープの味や、麺をゆでた後の食感の経時的な変化については何ら記載されていない。
【0003】
また、加工食品の原料をpH緩衝溶液により処理することによって、当該食品の調製乃至保存の過程を通じて品質を改善する方法が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法についても、湯戻しした麺とスープを合わせて調理される中華麺の調理方法において、麺とスープとの相互作用から生ずる問題点については何ら言及されていない。
【0004】
一方、スープに酸を添加することによって、低温域で喫食される冷製中華麺等の味覚感受性を向上させる方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。スープに酸を添加する目的は、低温域の食品を食べる人間の味に対する感受性が低下してしまうという問題を解決するためであるが、麺に起因するスープの味の低下については記載されておらず、また、酸を利用してpHを調整しているものの、酸の塩を加えてpH緩衝作用を利用するものではない。
【0005】
上記何れの従来技術によっても、中華麺を調理した際の経時的なスープの味の変化を抑制して調理された中華麺の味(うま味)や食感等の呈味性をよりいっそう改善したいという要望については十分に達成されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−49424
【特許文献2】特開2002−315550
【特許文献3】特開平9−234040
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記背景技術における問題点に鑑みなされたものであって、特に、麺に「こし」をもたせるために添加されている「かんすい」を含む中華麺は、緩衝能の弱いスープに投入した場合に麺からスープにかんすいが出ることによってスープのpHが上昇し、スープ本来の味が低下するという課題を解決し、呈味性の改善された中華麺用スープを提供することを目的とする。また、同時に、調理直後から食べ終わるまでの麺のびを防止して麺の食感低下を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、かん水を使用した中華麺のスープに、酸及び酸の塩(アルカリ)を添加したところ、麺の投入直後から経時的なスープの味と麺の食感の低下が大きく改善されることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明に係る呈味性の改善された中華麺用スープの製造方法は、中華麺用スープの製造工程の何れかの段階において、酸及び酸の塩を添加することを特徴とする。また、好ましい実施形態において、上記中華麺はゆで麺、蒸し麺、又は冷製中華麺用であることを特徴とする。さらに好ましい実施形態において、上記スープに添加される酸がクエン酸、リンゴ酸、リン酸、乳酸、酒石酸、酢酸、及びグルコン酸からなる群より選択される1つ以上であり、前記酸の塩が、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、重曹、グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される1つ以上であることを特徴とする。上記中華麺用スープに添加される酸及び酸の塩は、喫食時においてスープ中にそれぞれ0.01〜0.1質量%、及び0.02〜0.2質量%となるように含まれることが好ましい。
【0010】
本発明の他の視点において、上記の製造方法によって得られる呈味性の改善された中華麺用スープ及び該スープと生麺又は乾燥即席麺等の中華麺とを含む中華麺(食品)セットが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により得られた中華麺用スープを用いることにより、調理直後から食べ終わるまでの麺のびを防止すると共に、麺からスープにかんすいが出ることによるスープの味の変化を小さくして好ましい味を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る中華麺は、かん水を使用した中華麺であれば特に制限は無く、温かいスープで食べる中華麺だけでなく、冷たいラーメン、冷やし中華麺にも好ましく使用することができる。かん水は、中華麺(「中華そば」ともいう。)を製造する際に添加する炭酸ナトリウムと炭酸カリウムの混合溶液で、そのアルカリ性により、小麦粉のタンパク質に変性を起こさせ、粘性を増加させて麺のこしを強くするために用いられる。一般的に中華麺(ラー麺)は、このような中華麺を湯戻しし、スープと合わせる(混合する)ことによって調理される。本発明の方法により製造されるスープは上記中華麺と組合わせて調理、喫食されるスープであれば特に制限はなく、例えば、そのままで食べられるストレートタイプのスープでも、又はお湯や水での希釈を必要とする濃縮タイプのスープの何れでもよい。スープの形態としては、液状のみならず、粉末、顆粒、キューブ等、使用時にお湯や水を添加して使用する形態であってもよい。
【0013】
スープに添加される酸及び酸の塩は、食品に使用できるもの、例えば食品添加物及び原材料として認められているものであれば何でもよく、酸としては、クエン酸、乳酸、酒石酸、リン酸、リンゴ酸、酢酸、グルコン酸が、酸の塩(アルカリ)としては、クエン酸ナトリウム、重曹(炭酸水素ナトリウム)、リン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム及び酒石酸ナトリウムがスープの味及び中華麺ののびを防止する上で好ましい。クエン酸ナトリウムは、クエン酸二ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムの両方を含み、通常クエン酸三ナトリウムが用いられる。上記の酸及び酸の塩は、1種又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができ、成分そのものとして、又は食酢や果汁等の天然物として使用できる。このような酸、及び酸の塩は、中華麺用スープの製造工程の何れかの段階において添加すればよく、例えば、原材料を混合する際、濃縮スープの製造時、又はこれを希釈して通常の使用濃度に調整する際に混合してもよい。また、乾燥スープを製造する場合は、液状の中間製品をスプレードライ、真空乾燥、凍結乾燥、凍結真空乾燥、造粒法等の任意の製造方法を採用することができる。さらに上記酸及び酸の塩の添加は、一度に行っても、複数回に分けて行ってもよく、スープ中の他の原料と均一に混合されていることが好ましい。
【0014】
本発明の方法における上記酸及び酸の塩の添加量は、中華麺の調理後約10分間におけるスープのpH変化を抑制することができる量であれば特に制限はないが、例えば、喫食時においてスープ中に、酸を0.001〜1質量%、好ましくは0.01〜0.1質量%、及び酸の塩を0.002〜2質量%、好ましくは0.02〜0.2質量%となるように添加することができる。
【0015】
更に本発明の方法は、一般的な中華麺用のスープの製造方法と同様に、油、食塩、糖質、調味料、香辛料、各種エキス、色素等の原料を適宜配合して調製することができる。本発明における「呈味性の改善」とは、上記のような原材料によってもたらされるスープ本来の味の好ましさを、スープに麺を投入した後においても変化することなく維持することであって、例えば、スープの味の好ましさや、麺の食感の好ましさなどを調理直後の状態に維持することをいう。このような「呈味性の改善」はスープのpH変化が抑制されることによってもたらされると考えられる。
【0016】
以上のようにして製造される中華麺用スープは、生麺又は乾燥即席麺と組み合わせて中華麺セットとして販売される。この場合は、例えば、生めんとスープとを適宜包装容器に入れたものとを合わせて包装して製品とすればよい。或いは、中華麺用スープのみを提供することもできる。包装単位は、喫食時に一食ずつ調理する量となるように構成することが好ましい。
【0017】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
市販の生麺、濃縮スープのセット(シマダヤ株式会社製、3食しょうゆラーメン、3食みそラーメン、3食タンメン)を使用して、中華麺のスープに何も添加しない場合と、酸や酸の塩を添加した場合とのスープのpHを測定し、同時に麺の食感、スープの味の好ましさについて官能評価を行った。調理法は、当該生麺、濃縮スープセットに記載されたとおりの方法、即ち、約30gの濃縮スープを300mlのお湯で希釈し、試験に用いたスープの対照群(Cont)には何も添加せず、添加群(添加)にはリンゴ酸0.08g、クエン酸三ナトリウム0.16gを希釈時に添加した。スープに麺を入れる直前、直後、及び投入後1〜10分経過後まで1分毎にpHを測定し、また麺の投入直後と10分後に官能評価を行った。官能評価は専門パネラー5名で行い、麺の食感の好ましさとスープの味の好ましさを評価した。その結果を表1及び表2に示した。なお、麺投入10分後までの変化を調べた理由としては、中華麺(ラーメンとして)を完食するのに必要とする時間が男性で約5分、女性で約10分かかるためである。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
表1に示したとおり、対照群(Cont)と酸及び酸の塩を添加した添加群(添加)との間では、スープのpH上昇傾向に有意な差があり、酸及び酸の塩を添加したことによりスープのpH上昇が抑制されていることが分かる。また、麺の食感及びスープの味の好ましさを5段階表示で評価した結果、表2に示したとおり、麺投入10分後には明らかに酸及び酸の塩を添加した方が、麺の食感及びスープの味の好ましさの両方共に優れていることが分かる。
【実施例2】
【0022】
市販の生麺、濃縮スープのセット(シマダヤ株式会社、3食しょうゆラーメン)を使用して、酸及び酸の塩の組み合わせの違いによるスープのpH変化、及び麺の食感、スープの味の好ましさについて官能評価を行った。麺は1400mlのお湯で2分間ゆで、スープは300mlのお湯で希釈した。スープ希釈時には下記表3に示した酸及び酸の塩の組み合わせ、又は酸と酸の組み合わせ若しくは塩単品を添加した。スープに麺を入れる直前、直後、及び投入後1〜10分経過後まで1分毎にpHを測定し、また麺の投入直後と10分後に官能評価を行った。官能評価は専門パネラー5名で行い、麺の食感の好ましさとスープの味の好ましさを評価した。その結果を表3及び表4に示した。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【0025】
表3に示したとおり、酸の組み合わせや、塩のみの添加によってもpH上昇の抑制効果はあるが、表4に示したようにスープの味の好ましさを評価した場合は、スープの味がすっぱくなるなど味の面で好ましくない場合が見られ、本発明の方法に係る酸と酸の塩とを組合わせた場合には及ばないという結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明の中華麺用スープはスープに麺を投入してから食べ終わるまでのスープの味と麺の食感の変化を抑制して従来品よりも呈味性を改善することができるため、中華麺用スープを製造する食品産業や、このようなスープを使用してこれらの食品を提供するサービス業において極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中華麺用スープの製造工程の何れかの段階において、酸及び酸の塩を添加することを特徴とする、呈味性の改善された中華麺用スープの製造方法。
【請求項2】
前記中華麺が、ゆで麺、蒸し麺、又は冷製中華麺である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸がクエン酸、リンゴ酸、リン酸、乳酸、酒石酸、酢酸、及びグルコン酸からなる群より選択される1つ以上である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸の塩が、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、重曹、グルタミン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム及び酒石酸ナトリウムからなる群より選択される1つ以上である請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記添加される酸及び酸の塩が、喫食時においてスープ中にそれぞれ0.01〜0.1質量%、及び0.02〜0.2質量%となるように含まれる請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の方法で製造されることを特徴とする呈味性の改善された中華麺用スープ。
【請求項7】
請求項6に記載の中華麺用スープと、生麺又は乾燥即席麺とを含むことを特徴とする中華麺セット。

【公開番号】特開2006−20518(P2006−20518A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198923(P2004−198923)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(592132497)大東食研株式会社 (1)
【Fターム(参考)】