説明

周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法

【課題】簡便な手法で正確な校正を行うことが可能な周波数シンセサイザの内部基準信号を校正する方法を提供する。
【解決手段】基準クロック信号と周波数設定信号とに基づいて、設定された周波数信号を出力する周波数シンセサイザ1の、前記基準クロック信号を出力する内部基準信号源16を校正する手法において、前記周波数シンセサイザ1を周波数設定信号に基づいて動作させ、その出力周波数を周波数測定装置3により測定する工程と、測定された出力周波数と前記周波数設定信号により決定される周波数設定値との周波数差に基づいて、外部制御機器2により、周波数シンセサイザ1の不揮発性メモリ17に記憶されている指令値を増減して最適な指令値とする工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設定された周波数信号を出力する例えば周波数シンセサイザなどの周波数出力装置内に設けられた内部規準信号源を校正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数出力装置であり、例えば通信の基地局で使用される周波数シンセサイザは、出力周波数について高い精度と安定度とが要求される。例えば地上ディジタル放送を行う基地局では、要求されている周波数から出力周波数がずれると配信画像が乱れるため、周波数シンセサイザの基準信号としてはルビジウム基準信号発振器などから得られる極めて高精度で安定度の高い外部基準信号を取り込んで同期させる場合が多い。
【0003】
しかしながらこの種の基準信号源は高価であることから、周波数シンセサイザの内部に設けた内部基準信号源からの基準信号を用いることがコストのうえからは得策である。また、外部基準信号により周波数シンセサイザを運転する場合であっても、ケーブルの劣化やメンテナンスなどにより外部基準信号が遮断される場合には、内部基準信号により周波数シンセサイザを自走させなければならない。
【0004】
このため内部基準信号に対しても当然に高い周波数精度が要求され、内部基準信号源としてはOCXO(恒温槽付水晶発振器:Oven Controlled Crystal Oscillator)、TCXO(温度補償水晶発振器:Temperature Compensated Crystal Oscillator)あるいはVCXO(電圧制御水晶発振器:Voltage Controlled Crystal Oscillator、以下VCOという)などで構成されることが多い。しかしこの種の信号源は水晶振動子や周波数調整回路の経年変化により長期的には周波数変動が避けられない。
【0005】
周波数が変動してしまった内部基準信号源は、例えば定期的に校正する必要があるが、こうした校正は例えばトリマポテンションメータなどを用いて手作業により行われることが多い。このような校正作業は、周波数シンセサイザの筐体を開いて作業を行ったり、筐体に設けた校正用の穴にドライバを挿入してトリマポテンションメータの操作をするなど、大掛りな準備や手間のかかる手作業が必要であった。
【0006】
特許文献1には、周波数信号出力用の第1の水晶発振器と、基準信号出力用の第2の水晶発振器とを備えた水晶発振装置が記載されている。この装置によれば、第2の水晶発振器を間欠的に起動することにより当該第2の水晶発振器の経年劣化を抑制すると共に、第2の水晶発振器を起動させていない期間中においては、第2の水晶発振器を起動した際に2つの水晶発振器から出力される信号を比較して取得した第1の水晶発振器の周波数変化に関するデータを記憶しておき、このデータに基づいて周波数信号の校正を行うようになっている。
【0007】
しかしながら、一般に周波数シンセサイザは基準信号と出力信号との位相差を水晶発振器にフィードバックして出力周波数を制御するPLL(Phase Locked Loop)を利用した機構を採用しており、内部基準信号源の周波数変動を抑制するために当該内部基準信号源を間欠的に動作させるといった技術の適用は現実的でない。
【特許文献1】特開2006−50025号公報:第0012段落〜第0014段落
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情に基づいて行われたものであり、その目的は、簡便な手法で正確な校正を行うことが可能な周波数出力装置の内部基準信号を校正する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係わる周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法は、内部基準信号源と、この内部基準信号源から出力される基準クロック信号の周波数を制御するための制御電圧を出力する制御電圧出力部と、を備え、前記基準クロック信号と周波数設定信号とに基づいて、設定された周波数信号を出力する周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法において、
前記内部基準信号源の制御電圧の指令値を記憶するための不揮発性メモリと、この不揮発性メモリから指令値を読み出して前記制御電圧出力部に供給するためのプロセッサと、を備えた周波数出力装置を用い、
前記内部基準信号源を校正するために前記周波数出力装置を周波数設定信号に基づいて動作させ、前記周波数出力装置の出力周波数を周波数測定装置により測定する工程と、
この工程にて測定した出力周波数と前記周波数設定信号により決定される周波数設定値との周波数差に基づいて、前記周波数出力装置に接続された外部制御機器により、前記不揮発性メモリに記憶されている指令値を増減して最適な指令値とする工程と、を含むことを特徴とする。
ここで前記周波数出力装置は例えば周波数シンセサイザである場合が好適である。
【0010】
また前記最適な指令値とする工程は、オペレータが前記周波数差に基づいて外部制御機器を介して指令値の増減値を入力して行ってもよいし、外部制御機器がプログラムにより自動で行ってもよい。さらにまた前記の制御電圧出力部としては、ディジタル/アナログ変換器またはPWM制御器などが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば周波数出力装置の出力周波数を測定して、その測定結果に基づき当該測定結果と周波数設定値との差に基づいて内部基準信号源の制御電圧の指令値を増減し、最適な指令値とすることにより当該内部基準信号源の校正を行う。この結果、例えば外部基準信号源を用意することのできない条件下であっても内部基準信号源の校正を行うことが可能となり、校正を行うことが可能な条件のフレキシビリティを向上させることができる。また例えばルビジウム等を用いた高価な外部基準信号源を利用する必要がないので校正を行う際のコストを低減できる。
【0012】
さらに外部制御装置よりソフトウェアを利用して内部基準信号源の校正を行うため、従来行われていた例えばトリマポテンションメータを用いたハードウェア的な調整を行わずに済む。この結果、周波数出力装置の筐体を開いたり、この筐体に設けた校正用の穴にドライバを挿入して調整作業をしたりするなど、大掛かりな準備や手間のかかる作業が省略され、簡便な操作で校正作業を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本実施の形態に係わる周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法を周波数シンセサイザに適用した場合におけるシステムの構成について図1〜図3を参照しながら説明する。図1に示すように当該システムは、当該システムにて校正を行う対象の内部基準信号源16を備え、所望の出力周波数を有する周波数信号を信号線4に対して出力する周波数シンセサイザ1と、この周波数シンセサイザ1から出力される信号の出力周波数を測定する周波数測定装置3と、周波数測定装置3による出力周波数の測定結果に基づいて当該出力周波数を調整する外部制御装置2と、を例えば共通のデータバス5に接続した構成となっている。ここで周波数シンセサイザ1や周波数測定装置3、外部制御装置2の接続はデータバス5を用いて接続する手法に限定されず、周波数シンセサイザ1と周波数測定装置3と外部制御装置2とが互いに情報を伝達できればどのような通信手段や接続手法を用いてもよい。
【0014】
周波数シンセサイザ1は、電圧制御発振器13(以下、VCOという)との間でPLL(Phase Locked Loop)を構成し、このVCO13に供給する制御電圧を調節して当該VCO13から所望の出力周波数を有する周波数信号を出力する制御を行うPLL制御部12と、このPLL制御部12に対して基準クロック信号(内部基準信号)を供給する内部基準信号源16と、当該内部基準信号源16の周波数調整を行う周波数調整部15と、周波数シンセサイザ1内の各機器を統括制御するプロセッサ(Central Processing Unit:CPU)11と、を備えている。
【0015】
本実施の形態に係わるPLL制御部12は、例えば従来のPLL制御とは原理が異なり、本件出願人が開発している新規なPLL制御を実行するように構成されている。図2を参照しながら当該PLL制御部12の構成及びその動作を簡単に説明すると、PLL制御部12と協働してPLLを構成するVCO13は、電圧出力部を成す後述の結合器127からの供給電圧に応じた周波数の正弦波であるアナログの周波数信号を出力し、分周手段121は当該周波数信号を1/N(Nは整数)に分周する。
【0016】
A/D変換部122は、内部基準信号源16から供給される基準クロック信号により決定されるサンプリング周期(例えば40MHz)に基づいて、正弦波に変換された既述の周波数信号をサンプリングし、当該サンプリングされた信号をディジタル信号に変換する。ベクトル取り出し手段123は、A/D変換部122からのディジタル信号により特定される正弦波信号に対して周波数がω0t/2π(角速度がω0t)の正弦波信号により直交検波を行うことにより、A/D変換器122のディジタル信号により特定される周波数信号の周波数と検波に用いる正弦波信号の周波数との差の周波数で回転するベクトルを取り出す。
【0017】
周波数差取り出し手段124は、前記ベクトルの周波数と、VCO13の出力周波数が設定周波数になったときのベクトルの周波数と、の差を取り出す。出力周波数が設定周波数になったときのベクトルの周波数は、例えば外部から入力された周波数設定信号に基づいて例えば周波数シンセサイザ1内で計算される。積分手段125は、PLLの帰還手段の一部を構成しており、周波数差取り出し手段124により取り出された周波数差を積分し、不図示のD/A変換部を介して当該周波数差に対応する電圧をVCO13の入力側へと供給する。これらの構成を備えることによりPLL制御部12とVCO13とからなるループはPLLを形成し、周波数差取り出し手段124にて取り出された周波数差がゼロになったときにPLLがロックされ、VCO13の出力周波数が設定周波数にロックされることになる。
【0018】
周波数引き込み手段126は、スタート用の制御電圧をVCO13に供給する役割を果たし、外部制御装置2のスタート時にはCPU11からの指示に基づき当該周波数引き込み手段126から制御電圧が例えば結合器127を介してVCO13に供給され、その制御電圧を徐々に大きくしていく。それに伴ってVCO13の出力周波数が上昇し、当該出力周波数が既述のベクトル取り出し手段123や周波数差取り出し手段124の制御範囲に入る予め定めた周波数となり、これらの手段123、124が機能し始めると、周波数引き込み手段126からの制御電圧の上昇を止めて固定値とする。そして当該固定値に、PLL側からの積分手段125の出力を結合器127にて加算し、VCO13に制御電圧として加える。なお、以上に説明した新規なPLLの詳細な構成及びその動作原理については、例えば特開2007−295537に開示されている。
【0019】
図1に示した周波数シンセサイザ1全体の説明に戻ると、増幅器14はVCO13より出力される設定周波数にロックされた周波数信号を増幅して信号線4へと出力する役割を果たすと共に、出力端子19を介して周波数シンセサイザ1に接続された周波数測定装置3にも当該周波数信号を出力することができる。
【0020】
内部基準信号源16は、PLL制御部12のA/D変換部122へと基準クロック信号を供給する役割を果たし、例えば水晶振動子を備えた電圧制御発振器によって構成されている。当該内部基準信号源16に供給される制御電圧は制御電圧出力部をなす周波数調整部15にて調整されるようになっている。周波数調整部15は、その構成例を図3に示すように例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御器151の後段にアナログローパスフィルタ152を接続した構成となっている。PWM制御器151は、CPU11から取得した指令値に基づいて予め定められたデューティ比に制御されたパルス列をアナログローパスフィルタ152へ出力する役割を果たし、アナログローパスフィルタ152はPWM制御器151からのパルス列を積分して直流電圧に平滑化し、これを制御電圧として内部基準信号源16へと出力する役割を果たす。
【0021】
PWM制御器151より出力されるパルス列のデューティ比は、内部基準信号源16の発振周波数が既述の基準クロック信号の周波数(例えば40MHz)となるように制御され、このデューティ比を決定する指令値(以下、デューティ比情報という)は、例えば図1に示す不揮発メモリ17に格納されている。デューティ比情報は、例えば周波数シンセサイザ1の運転開始時に不揮発メモリ17から読み出されてPWM制御器151へと出力されるが、この不揮発メモリ17は書き換え可能となっている。そして例えば内部基準信号源16内の水晶の物性が経年変化することなどにより基準クロック信号の周波数が40MHzからずれてしまった場合などには、周波数シンセサイザ1の出力周波数も設定周波数からずれてしまうことから、当該デューティ比情報を新たな値に書き替えて基準クロック信号の周波数を再び40MHzとすることにより、周波数シンセサイザ1からの出力周波数を設定周波数に一致させる周波数調整が行われる。ワークメモリ18は、周波数シンセサイザ1の周波数調整を行う際にデューティ比情報を一時的に記憶する役割を果たすもので、CPU11に内蔵されたメモリとすることもできる。
【0022】
本実施の形態に係わる周波数シンセサイザ1においては、ルビジウムなどの高価な外部基準信号源を利用する手法に替えて、外部制御装置2と周波数測定装置3とを利用することにより、周波数シンセサイザ1内の内部基準信号源16の校正を行うことができるようになっている。
【0023】
周波数測定装置3は例えば出力端子19を介して周波数シンセサイザ1に対して着脱自在に構成された携帯型の装置であり、外部制御装置2からの指示を受けて、あるいは現場でのオペレータからの指示により周波数シンセサイザ1の出力周波数を計測してその計測結果を外部制御装置2へと出力する役割を果たす。
【0024】
外部制御装置2はプロセッサ(CPU)21を備えた計算機、例えばパーソナルコンピュータに内部基準信号源16の校正用のプログラム22をインストールした構成となっており、校正作業時の周波数シンセサイザ1の動作制御や周波数測定装置3における周波数シンセサイザ1の出力周波数の測定結果を出力する機能などを備えている。
【0025】
図1中23は、モニタやキーボード、マウスなどからなるインターフェース部であり、例えばGUI(Graphical User Interface)を介して周波数調整に関する諸指示をオペレータから受け付けることができる。例えば図1のインターフェース部23中に例示した校正作業開始スイッチ231は周波数シンセサイザ1に対して内部基準信号源16の校正作業の開始を指示する役割を果たし、周波数確認スイッチ232は校正用に設定する周波数シンセサイザ1の周波数設定値を周波数シンセサイザ1の最大出力(例えば900MHz)、最小出力(同700MHz)、これらの中心出力(同800MHz)に切り替える役割を果たす。
【0026】
また粗調/微調切替スイッチ233は、校正作業時の周波数の調整単位を微調整用と粗調整用とに切り替える役割を果たし、周波数調整スイッチ234は周波数調整量、即ちワークメモリ18に読み出されたデューティ比情報の調整量を指示する役割を果たす。周波数調整スイッチ234は出力周波数の調整方向及び調整量に対応させて、例えば「−2、−1、+1、+2」の4つのスイッチを備えている。一方、外部制御装置2の例えば不揮発メモリ20内には内部基準信号源16の出力を例えば1Hz高くするために必要なデューティ比の調整量を示す情報(以下、調整情報24という)が格納されていて、インターフェース部23の設定と周波数調整スイッチ234の選択結果とに応じたデューティ比の調整量が周波数シンセサイザ1へと出力されるようになっている。
【0027】
例えば粗調/微調切替スイッチ233の粗調スイッチが周波数調整スイッチ234の選択結果を10倍にして出力するように設定されている場合には、この粗調スイッチが選択されている状態で周波数調整スイッチ234の「+2」のスイッチを押すと、調整情報24を+20倍(×(+2)×10)にした量の調整を指示する情報が周波数シンセサイザ1に出力されて、周波数シンセサイザ1内ではワークメモリ18に読み出されたデューティ比情報に当該調整量が加算されることになる。
【0028】
また粗調/微調切替スイッチ233の微調スイッチが周波数調整スイッチ234の選択結果を等倍で出力するように設定されている場合には、微調スイッチが選択されている状態で例えば周波数調整スイッチ234の「−1」のスイッチを押すと、調整情報24を−1倍にした量の調整を指示する情報が周波数シンセサイザ1に出力されて、例えば既述の粗調によって調整されたワークメモリ18内のデューティ比情報に当該調整量がさらに加算されることになる。
【0029】
書き込みスイッチ235は、外部制御装置2よる校正作業を終了する際に、不揮発メモリ17内に既に記憶されているデューティ比情報(制御電圧の指令値)を校正後の値に書き替えるようにする命令を周波数シンセサイザ1に対して出力する役割を果たす。
【0030】
周波数表示部236は周波数測定装置3にて測定された周波数シンセサイザ1の出力周波数が表示される領域であり、オペレータは当該周波数表示部236に表示された出力周波数を確認しながら各スイッチ232〜235を操作して校正作業を行うことができる。 以上に説明したシステムを用いて周波数シンセサイザ1の内部基準信号源16を校正する作業の内容について説明する。
【0031】
図4は周波数シンセサイザ1、外部制御装置2、周波数測定装置3のシステム全体及びオペレータの動作や作業の流れを示したものであり、内部基準信号源16の校正は例えば数ヶ月毎に定期的に、また例えば周波数シンセサイザ1のメンテナンスのタイミングなどに合わせて行われる。校正を開始するにあたっては(スタート)、まずオペレータが外部制御装置2及び周波数測定装置3を周波数シンセサイザ1に接続した後(ステップS1)、校正作業開始スイッチ231を押下すると(ステップS2)周波数確認スイッチ232にて予め選択された最大出力、中心出力、最小出力のうちのいずれかの周波数設定値、例えば中心出力である800MHzに対応する周波数設定信号が不揮発メモリ20から読み出されて周波数シンセサイザ1へと出力され、この周波数設定信号に基づいて周波数シンセサイザ1を動作させる(ステップS3)。
【0032】
周波数シンセサイザ1においては外部制御装置2からの周波数設定信号及びワークメモリ18に読み出されたデューティ比情報に基づいて周波数シンセサイザ1を動作させ、出力端子19に接続された周波数測定装置3にてその出力周波数を測定する(ステップS4)。周波数測定装置3の測定結果は、外部制御装置2の周波数表示部236に表示され、オペレータはこの表示結果に基づいて測定された出力周波数と、校正用の周波数設定値(例えば既述の800MHz)との差を確認する(ステップS5)。
【0033】
図1の周波数表示部236に示すように、例えば測定結果が800.000003MHz(800000003Hz)である場合には、周波数シンセサイザ1の出力周波数がメンテナンス周波数を3Hz上回っているので、これらの周波数差が最適な値、例えばゼロでないと判断する(ステップS6;N)。オペレータは、当該周波数差がゼロに近づくように粗調/微調切替スイッチ233及び周波数調整スイッチ234の選択を行い、当該選択結果に応じた調整を指示する情報を周波数シンセサイザ1に出力する(ステップS7)。本例では例えば出力周波数を3Hz低下させる調整を行いたいので、例えば粗調/微調切替スイッチ233の「微調」及び周波数調整スイッチ234の「−2」を選択して前記周波数差をゼロに近づける指示を行う。
【0034】
周波数シンセサイザ1においては、外部制御装置2からの指示に基づいてワークメモリ18内のデューティ比情報を増減し、こうして調整されたデューティ比情報に基づいて周波数シンセサイザ1を動作させ、その出力周波数を変化させる。そして前記の周波数差がゼロとなるまでステップS4〜ステップS7までの動作を繰り返し、周波数差がゼロとなったら(ステップS6;Y)、書き込みスイッチ235を押下して、そのときワークメモリ18内にある校正後のデューティ比情報を不揮発メモリ17内のデューティ比情報に書き替え(ステップS8)、一連の校正作業を終了する(エンド)。
【0035】
以上に説明した動作、作業により内部基準信号源16の校正が行われた周波数シンセサイザ1は、通常の運転の際には外部制御装置2及び周波数測定装置3から切り離され単独で動作する。即ち周波数シンセサイザ1は、校正されたデューティ比情報(制御電圧の指令値)を不揮発メモリ17から読み出し、この情報に基づいて内部基準信号源16を動作させて基準クロック信号を発生させ周波数シンセサイザを稼動させることになる。
【0036】
本実施の形態によれば以下の効果がある。周波数シンセサイザ1の出力周波数を測定して、その測定結果に基づき当該測定結果と周波数設定値との差がゼロとなるように内部基準信号源16の制御電圧の指令値であるデューティ比情報を調整するので外部基準信号を必要とせずに校正作業を行うことができる。この結果、例えば外部基準信号源を用意することのできない条件下であっても内部基準信号源16の校正を行うことが可能となり、校正を行うことが可能な条件のフレキシビリティを向上させることができる。また例えばルビジウム等を用いた高価な外部基準信号源を利用する必要がないので校正を行う際のコストを低減できる。
【0037】
さらに外部制御装置2よりソフトウェアを利用して内部基準信号源16の校正を行うため、従来行われていた例えばトリマポテンションメータを用いたハードウェア的な調整を行わずに済む。この結果、周波数シンセサイザ1の筐体を開いたり、この筐体に設けた校正用の穴にドライバを挿入して調整作業をしたりするなど、大掛かりな準備や手間のかかる作業が省略され、簡便な操作で校正作業を行うことができる。
【0038】
内部基準信号源16の校正を行う手法は、図1、図4を用いて説明したように周波数シンセサイザ1の出力周波数の測定結果をオペレータが外部制御装置2にて確認し、インターフェース部23からの操作によって調整する場合に限定されない。例えば当該校正動作を外部制御装置2にて自動的に実行するように構成してもよく、この場合には例えば図4においてオペレータが行っていたステップS5〜ステップS7までの作業を例えば外部制御装置2のCPU21にて実行するようにプログラム22の命令を組むとよい。
【0039】
また、内部基準信号源16の制御電圧を調整する周波数調整部15(制御電圧出力部)は、図3に例示したPWM制御器により構成する場合に限定されるものではなく、例えば指令値に基づく制御電圧を出力するディジタル/アナログ変換器を用いてもよい。
【0040】
このほか、本実施の形態に係わる校正方法を適用可能な周波数シンセサイザは、図2を用いて説明した新規なPLL制御を採用した周波数シンセサイザ1に限定されない。例えば通常のタイプの周波数シンセサイザ、即ちVCOの出力を分周した周波数と内部基準信号源(例えばもう一つのVCO)の出力を分周した周波数との位相を比較して、その比較結果を示す信号がループフィルタを介して出力用のVCOにフィードバックされるタイプの周波数シンセサイザに適用してもよい。この場合には、出力用のVCOの発振周波数の測定結果に基づいて、内部基準信号の発振周波数を調整するように内部基準信号源の校正を行うとよい。
【0041】
これらに加え上述の実施の形態においては、PWM制御器151より出力されるパルス列のデューティ比を決定する指令値(デューティ比情報)の最適な値として、測定された出力周波数と校正用の周波数設定値とが一致してこれらの周波数差がゼロとなるようにした場合を例示したが、最適な指令値はこれに限定される物ではない。例えば要求される精度が低く校正用の周波数設定値を例えば5Hz単位で調整する場合などには、これらの周波数差がゼロとなる場合に限られず、測定された出力周波数が設定周波数を中心として5Hzの誤差幅の範囲内にある場合に当該出力周波数に相当するデューティ比情報を最適な指令値とするようにしてもよい。
【0042】
また周波数出力装置は以上に説明した周波数シンセサイザの例に限られず、予め設定された周波数を出力するものであればよく、例えば計測器内に設けられたリファレンス周波数の出力装置を校正する場合についても本発明は適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の内部基準信号源を校正する方法を実施するシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】前記内部基準信号源を備えた周波数シンセサイザの基本構成を示すブロック図である。
【図3】前記内部基準信号源の制御電圧を出力する周波数調整部の基本構成を示すブロック図である。
【図4】前記システムを利用した内部基準信号源の周波数調整の動作及び作業の流れを示した流れ図である。
【符号の説明】
【0044】
1 周波数シンセサイザ
2 外部制御装置
3 周波数測定装置
4 信号線
5 データバス
11 プロセッサ(CPU)
12 PLL制御部
13 VCO
14 増幅器
15 周波数調整部
16 内部基準信号源
17 不揮発メモリ
18 ワークメモリ
19 出力端子
20 不揮発メモリ
21 中央演算処理装置(CPU)
22 プログラム
23 インターフェース部
24 調整情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部基準信号源と、この内部基準信号源から出力される基準クロック信号の周波数を制御するための制御電圧を出力する制御電圧出力部と、を備え、前記基準クロック信号と周波数設定信号とに基づいて、設定された周波数信号を出力する周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法において、
前記内部基準信号源の制御電圧の指令値を記憶するための不揮発性メモリと、この不揮発性メモリから指令値を読み出して前記制御電圧出力部に供給するためのプロセッサと、を備えた周波数出力装置を用い、
前記内部基準信号源を校正するために前記周波数出力装置を周波数設定信号に基づいて動作させ、前記周波数出力装置の出力周波数を周波数測定装置により測定する工程と、
この工程にて測定した出力周波数と前記周波数設定信号により決定される周波数設定値との周波数差に基づいて、前記周波数出力装置に接続された外部制御機器により、前記不揮発性メモリに記憶されている指令値を増減して最適な指令値とする工程と、を含むことを特徴とする周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法。
【請求項2】
前記周波数出力装置は周波数シンセサイザであることを特徴とする請求項1に記載の周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法。
【請求項3】
前記最適な指令値とする工程は、オペレータが前記周波数差に基づいて外部制御機器を介して指令値の増減値を入力することにより行われることを特徴とする請求項1または2に記載の周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法。
【請求項4】
前記最適な指令値とする工程は、外部制御機器がプログラムにより自動で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法。
【請求項5】
前記制御電圧出力部は、ディジタル/アナログ変換器またはPWM制御器であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の周波数出力装置の内部基準信号源を校正する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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