説明

味覚調節剤として使用するための環状リポペプチド

本発明は、少なくとも1種の天然または人工甘味料を含む食用組成物のための味覚調節剤および/または甘味増強剤としての、1種またはそれより多くの環状リポペプチド(例えばサーファクチンA、B1およびC)の使用、ならびにそれらの誘導体および混合物に関する。このような食用組成物としては食物、飲料、医薬品および化粧品が挙げられ、好ましくは、甘味料として単糖、二糖またはオリゴ糖を含むものである。本発明はさらに、味覚調節剤として環状リポペプチドを含む前記食用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくは少なくとも1種の甘味料を含む食用組成物のための、味覚調節剤(taste modulator)としての環状リポペプチドの群に属する分子の使用に関する。その他の好ましい実施態様において、本発明の目的のためにサーファクチンが用いられる。さらに本発明は、前記食用組成物の味および/または後味の調節方法に関し、加えて、味覚調節剤として少なくとも1種の環状リポペプチドを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
サーファクチンは、その両親媒性のためにバイオサーファクタントとして作用する微生物由来の環状リポペプチドである。化学分類によれば、これらはデプシペプチドの特殊な形態である環状リポデプシペプチドと称することができる。デプシペプチドは、例えばメタリジウム属またはクラドボトリウム属のような菌類、加えて例えばシュードモナス・シリンゲ(Pseudomonas syringae)(米国特許第5,830,855号)、または、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)(欧州特許第0761682号B1)のような細菌によって環状の形態(シクロデプシペプチド)で合成されることが多く、これらは抗生物質および植物病原性を示す。デプシペプチドにおいて、アミノ酸およびヒドロキシ酸はペプチド結合で連結されており、加えてエステル結合でも連結されている。それゆえにデプシペプチドは、ヘテロデト(heterodet)ペプチドに属しており、これらは、ペプチド結合、加えて非ペプチド結合が、分子間の結合力に関与することを特徴とする。欧州特許第0761682号B1は、バチルス・ズブチリスからの環状デプシペプチドの製造を説明しており、さらに高脂質血症の治療用途を提案している。サーファクチンおよびその他の環状リポペプチドは市販されている。
【0003】
サーファクチンは、7個のアミノ酸のペプチドループと、細胞膜に分子を浸透させる疎水性脂肪酸の鎖とからなる。これは、特徴的な「ホースサドル(horse saddle)」コンフォメーションを有しており、その脂質尾部によって膜貫通が可能になる。これまでに多数の変異体分子、それぞれサーファクチンA、A、A、B、B、C、CおよびDが見出されている。これらの変異体の形態は、脂質尾部の長さと分枝因子の点で異なっているが、それに対して環状ペプチドは、L−グルタミン酸、L−ロイシン、D−ロイシン、L−バリン、L−アスパラギン、D−ロイシンおよびL−ロイシン(サーファクチンA)を含み、実質的に不変のままである。後者のアミノ酸位置(L−leu)に関してのみ、以下のようないくつかのバリエーションが説明されている:L−val(サーファクチンB)、または、L−Ile(サーファクチンC)(Stein,T.,Bacillus subtilis antibiotics:structures,syntheses and specific functions,Mol.Microbiol.(2005)56(4):845−857)。バチルス・ズブチリスはサーファクチンA、BおよびCを生産するが、なかでも最も熱心に研究されている変異体は、サーファクチンCである。サーファクチンは、細菌、菌類およびウイルスに対して抗菌活性を有することがわかっており、さらに抗腫瘍および抗血栓(線維素溶解性および凝固防止)活性を示すことも知られている。可能性のあるサーファクチンの治療用途の総論については、以下を参照:Seydlova,G.and Svobodova,J.,Review of surfactin chemical properties and the potential biomedical applications,Cent Eur.J.Med.(2008)3(2):123−133。その抗炎症性は、LPSによって誘導されたシグナル伝達への阻害作用によるものである(Takahashi et al,Inhibition of lipopolysaccharide activity by a bacterial cyclic lipopeptide surfactin,J.Antibiot.(2006)59(1):35−43)。サーファクチンナトリウムは、その安定性のために化粧品産業で用いられている(Yoneda et al.Surfactin sodium salt:an excellent bio−surfactant for cosmetics,Cosmet.Sci.(2001)52(2):153−4)。
【0004】
サーファクチンは、例えば米国特許第7,011,969号または米国特許第5,227,294号で説明されている方法に従ってバチルス・ズブチリスから得ることができる。
【0005】
サーファクチンの溶血作用による毒性は、サーファクチンCに関して最もよく研究されている。40〜60μMの高濃度においてのみ、溶血活性がみられた(Dehghan−Noudeh,G.et al.,Isolation,characterisation and investigation of surface and haemolytic activities of a lipopeptide biosurfactant produced by Bacillus subtilis ATCC 6633,J.Microbiol.(2005)43:272−276)。毒性(LD50)は、マウス静脈内に1日あたり100mg/kgを超える高濃度で与えた場合にのみ観察された。サーファクチン10mg以下の経口摂取では、明らかな毒性は示されなかった(Hwang et al.,Lipopolysaccharide−binding and neutralizing activities of surfactin C in experimental models of septic shock,Eur.J.Pharmacol.(2007)556:166−171)。
【0006】
これまでに、食用組成物の構成要素としての、特に風味または味覚調節剤としてのサーファクチンの使用が説明されているか、または、提唱されている。
近年、有用な天然風味添加剤の誘導体の同定において著しい進歩がみられ、例えばエリトリトール、イソマルトース(isomalt)、ラクチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトールのような天然糖類甘味料の誘導体などの甘味料が見出されている。さらに近年、将来性のある甘味料として、天然テルペノイド、フラボノイドまたはタンパク質の同定においても進歩がみられる。例えば、最近発見された、スクロース、フルクトース、グルコースなどの一般的な天然甘味料よりも甘味が強い天然物質について考察したKinghorn等の“Noncarcinogenic Intense Natural Sweeteners”(Med.Res Rev(1998)18(5):347−360)というタイトルの記事を参照すること。同様に近年、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファム−K、シクラマート、スクラロースおよびアリターム(alitame)などのような新しい人工甘味料の同定と商品化も進んでいる;総論については、Ager等によるCommercial,Synthetic Nonnutritive Sweeteners(Angew.Chem.Int.Ed.(1998)37(12):1802−1817)という記事を参照。
【0007】
近年、生物工学において、味覚認識の根本的な生物学的および生化学な現象を概略的に理解し、さらにより深く理解することについて実質的に進歩してきた。例えば、近年哺乳動物で、味覚認識に関与する味覚受容体タンパク質が同定されている。具体的に言えば、Gタンパク質共役受容体の2種の異なるファミリーが味覚認識に関与すると考えられており、T2RおよびT1Rが同定されている。(例えば、Nelson et al.,Cell(2001)106(3):381−390;Adler et al,Cell(2000)100(6):693−702;Chandrashekar et al,Cell(2000)100:703−711;Matsunami et al.,Nature(2000)404:552−553;Li et al.,Proc Natl Acad Sci USA(2002)99:4962−4966;Montmayeur et al.,Nature Neuroscience(2001)4(S):492−498;米国特許6,462,148号;および、PCT公報WO02/06254、WO00/63166、WO02/064631、および、WO03/001876、ならびに米国特許公報第2003−0232407号A1を参照)。
【0008】
T2Rファミリーは、25個より多くの苦味認識に関与する遺伝子を含むが、甘味の認識に関与するT1Rファミリーは、T1R1、T1R2およびT1R3のわずか3種類しか含んでいない(Li et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2002)99,4962−4966を参照)。近年、WO02/064631およびWO03/001876において、所定のT1R種は、適切な哺乳動物細胞系で共発現されると、組み立てられて機能的な味覚受容体を形成することが開示された。適切な宿主細胞でT1R2とT1R3とが共発現されると、天然甘味料および人工甘味料を含む様々な味の刺激に応答する機能的なT1R2/T1R3「甘」味受容体が生じることが見出された(上記で引用されたLi et al.を参照)。味覚認識の調節因子を同定するためのモデルの試験系として、ヒト腸内分泌細胞における甘味受容体T1R2およびT1R3のホモまたはヘテロオリゴマーとしての発現が提唱されている(WO08/014450A2)。
【0009】
食物、飲料、美味しい製品(pleasing product)、甘いもの、ペットフード、医薬品または化粧品は甘味料含量が高いことが多く、これは一般的に、甘味料に関連する病気の進行に望ましくないとみなされている。ここで特に肥満症、糖尿病、心臓血管疾患などの病気は、主として高カロリー甘味料に起因する。高カロリー甘味料、例えば単糖、二糖およびオリゴ糖、特にスクロースの摂取量の増加が、一般的に認められた心臓血管疾患の危険因子である血漿トリアシルグリセリド量の上昇に関係していることを示す十分な証拠がある。同様に糖摂取の増加も、糖尿病、肥満症またはその他の病気の進行が活発化している体の状態に関係している可能性がある。食物および飲料産業における最新技術としては、グルコース、サッカロース、トレハロースなどの問題の多い糖類をフルクトースで置き換えることがある。
【0010】
世界的な甘味料市場は、現在のところ、2005年では1億7000万トン/年の糖当量(sugar−equivalent:様々な甘味料の量を、それらの異なる甘味の力価を考慮して比較するための測定単位)の規模である。この市場は、高カロリー甘味料、高甘味度甘味料、および、ポリオールを含む。最も重要な高カロリー甘味料は、精糖またはスクロースであり、その他の高カロリー甘味料は、高フルクトースコーンシロップ、グルコースおよびデキストロースである。高甘味度甘味料は、より少ない量で糖と同じ甘味を付与する製品であり、従って糖より低カロリーである。これらは、糖の35〜10,000倍の甘味を提供する。またこれらは、低カロリー甘味料または食餌療法用の甘味料としても知られており、または、これらが全くカロリーを含まない場合は、ノンカロリー甘味料としても知られている。アセスルファム−K以外のその他の重要な高甘味度甘味料は、サッカリン、アスパルテーム、シクラマート、ステビオシド、および、スクラロースである。最後に説明すると、ポリオールは糖アルコールであり、これは糖のかさときめを付与するが、糖よりも低いカロリーを有するといえる。
【0011】
例えば、焼いた製品(HFCS90)、清涼飲料(HFCS55)、スポーツドリンク(HFCS42)、または、パン、シリアル、調味料などへの甘味料として高フルクトースコーンシロップ(HFCS)を使用することは、一般的に認められている。HFCSは、フルクトース含量を高めるために酵素処理し、続いて純粋なコーンシロップ(100%グルコース)と混合してその最終形態にしたコーンシロップ群を意味する。最も一般的なタイプのHFCSは、HFCS90(およそ90%フルクトース、および、10%グルコース);HFCS55(およそ55%フルクトース、および、45%グルコース);および、HFCS42(およそ42%フルクトース、および、58%グルコース)である。
【0012】
しかしながら、近年の研究から、血糖、インスリン、レプチンおよびグレリンレベルに対するフルクトースの作用は、スクロースと比較して有意差はないという結論を導き出すことができる。総合すると、HFCSは食欲または脂肪の貯蔵に関与する代謝プロセスに対する作用がスクロースとは異なっているという仮説を裏付ける証拠は、ほとんどあるいは全くない。
【0013】
例えばパッケージ化された食品中の高カロリー甘味料を低減させるその他の方策は、アセスルファム−K、サッカリン、シクラマート、アスパルテーム、タウマチン、または、ネオヘスペリジンDC、スクラロース、ネオテーム、または、ステリオール(steriol)配糖体のようなノンカロリーまたは低カロリーの人工甘味料の使用である。ここで2つの側面が主要な影響を与える。まず第一に、これらの化合物は、糖類と比べて独特な後味があり、第二に、これらの甘味料が発癌性を有するかどうかの永続的な論議がある。
【0014】
従って、それ自身が甘いことによって、または、当業界でよく知られている1種またはそれより多くの甘味料を増強する特性を有し、それ自身が中程度から弱い甘味料であることによって、または、最も好ましくは、それ自身は甘味剤の特性を有さないが、食用組成物で用いられる当業界でよく知られている1種またはそれより多くの甘味料を増強する能力を有する増強剤であることのいずれかによって、当業界でよく知られている甘味料によって生じた甘い味を調節する、または、甘い味を増強する特性を有する化合物を発見することが望ましく、且つ本発明の目的である。
【0015】
当業界において、味覚調節活性を示す化合物に関するいくつかの提案がなされている。WO2006/138512は、ビス芳香族アミド、ならびにそれらの甘味風味調節剤、味物質(tastant)および味増強剤としての使用を開示している。米国特許第7,175,872号は、味覚調節剤として使用するためのピリジニウム−ベタイン化合物に関する。WO2007/014879は、甘い味を増強するためのヘスペレチンを提唱している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5,830,855号
【特許文献2】欧州特許第0761682号B1
【特許文献3】米国特許第7,011,969号
【特許文献4】米国特許第5,227,294号
【特許文献5】米国特許6,462,148号
【特許文献6】WO02/06254
【特許文献7】WO00/63166
【特許文献8】WO02/064631
【特許文献9】WO03/001876
【特許文献10】米国特許公報第2003−0232407号A1
【特許文献11】WO08/014450A2
【特許文献12】WO2006/138512
【特許文献13】WO2007/014879
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Stein,T.,Bacillus subtilis antibiotics:structures,syntheses and specific functions,Mol.Microbiol.(2005)56(4):845−857
【非特許文献2】Seydlova,G.and Svobodov3,J.,Review of surfactin chemical properties and the potential biomedical applications,Cent Eur.J.Med.(2008)3(2):123−133
【非特許文献3】Takahashi et al,Inhibition of lipopolysaccharide activity by a bacterial cyclic lipopeptide surfactin,J.Antibiot.(2006)59(1):35−43
【非特許文献4】Yoneda et al.Surfactin sodium salt:an excellent bio−surfactant for cosmetics,Cosmet.Sci.(2001)52(2):1 53−4
【非特許文献5】Dehghan−Noudeh,G.et al.,Isolation,characterisation and investigation of surface and haemolytic activities of a lipopeptide biosurfactant produced by Bacillus subtilis ATCC 6633,J.Microbiol.(2005)43:272−276
【非特許文献6】Hwang et al.,Lipopolysaccharide−binding and neutralizing activities of surfactin C in experimental models of septic shock,Eur.J.Pharmacol.(2007)556:166−171
【非特許文献7】Kinghorn et al.,“Noncarcinogenic Intense Natural Sweeteners”(Med.Res Rev(1998)18(5):347−360
【非特許文献8】Ager et al.,Commercial,Synthetic Nonnutritive Sweeteners(Angew.Chem.Int.Ed.(1998)37(12):1802−1817)
【非特許文献9】Nelson et al.,Cell(2001)106(3):381−390
【非特許文献10】Adler et al.,Cell(2000)100(6):693−702
【非特許文献11】Chandrashekar et al.,Cell(2000)100:703−711
【非特許文献12】Matsunami et al.,Nature(2000)404:552−553
【非特許文献13】Li et al.,Proc Natl Acad Sci USA(2002)99:4962−4966
【非特許文献14】Montmayeur et al.,Nature Neuroscience(2001)4(S):492−498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
それにもかかわらず、当業界において、風味添加剤としての新規の改善された味覚調節剤、特に、上記で概説した理由のために甘味料の能力を有さないか、または極めてわずかしかない化合物への必要性は未だにある。本発明は、味覚調節特性を有する化合物を提供することによってこれらの問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、サーファクチンおよび関連する環状リポペプチド(好ましくは微生物由来)に関しており、これらは驚くべきことに、味覚調節特性を有することが見出された。本発明の一形態は、1種またはそれより多くの上記リポペプチドの使用であり、好ましくは、1種またはそれより多くの天然または人工甘味料(これらの例は上記で説明されている)を含む食用組成物中の味覚調節剤としての、サーファクチンCまたは異なるサーファクチンの混合物の使用である。本発明のその他の形態は、上述の食用組成物の味(後味を含む)の調節方法であって、本方法は、このような組成物と、味を調節する量の1種またはそれより多くの上記リポペプチド、好ましくはサーファクチンCまたはサーファクチンの混合物とを組み合わせることを含む。加えて本発明のさらにその他の形態は、1種またはそれより多くの天然および/または人工甘味料、および、1種またはそれより多くの前記リポペプチド、好ましくはサーファクチンCまたはサーファクチンの混合物を含む食用組成物に関する。
【0020】
本明細書において多数の文献が引用されているが、これらの参考文献(特に科学論文、特許および特許出願を含む)の全開示は、当業者の知見を少なくとも部分的に説明するために、加えて、例えば、化合物、構造(例えば、哺乳動物のT2RおよびT1R味覚受容体タンパク質)、および、例えば、細胞系中でこれらの受容体を発現させ、化合物をそれらの味覚調節活性に関してスクリーニングするのに得られた細胞系を使用する方法を開示するために参照により本発明に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、マルチシストロン性真核性の発現ベクターpTrix−Eb−R2R3を示す。
【図2】図2は、説明された細胞ベースの分析における、30mMフルクトースの非存在または存在下での甘味受容体(甘味料としての活性、加えて甘味増強剤としての活性)に対するサーファクチン活性を示す。
【図3】図3は、説明された細胞ベースの分析における、30mMフルクトースの非存在または存在下での甘味増強剤としての甘味受容体に対するサーファクチン活性を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の用語は、本発明の目的において以下で説明される意味を有するものとする:
「食用組成物」は、その最も広い意味で理解されるものとし、このような組成物としては、これらに限定されないが、食物、飲料、清涼飲料、美味しい製品、菓子、甘味剤、化粧品、例えば口内洗浄剤、動物用食品、例えばペットフード、および、調合薬または医薬品が挙げられる。
【0023】
「味覚調節剤」または「味の調節」は、1種またはそれより多くの天然および/または人工甘味料を含む食用組成物の味(後味を含む)を調節する化合物/活性を意味する。味覚調節剤は、動物またはヒトにおける味の印象を、好ましくは甘い味の増強という意味で、調節する、強化する、その効能を高める、作り出す、または、誘導するものであり得る。
【0024】
「天然」および「人工甘味料」は、食用組成物に関して、当業界において既知のおよび/または既に使用されている甘味剤であり、その例は前の段落で示した通りである。
「味を調節する量」は、甘味料を含む食用組成物の味を調節することができる単一の化合物または複数の化合物の量を意味する。食用組成物の味を調節または改善するのに必要な味覚調節剤の濃度は、当然ながら、例えば特定のタイプの食用組成物やその様々なその他の成分、特に他の天然および/または人工甘味料の存在およびそれらの濃度、天然の遺伝学的変異性、および、様々な組成物を食べるヒトの個々の好みおよび健康状態、ならびにこのような甘味系化合物の味に対する特定の化合物の主観的な効果などの多くの可変値に依存すると予想される。
【0025】
従って、正確な「有効量」を特定することは不可能である。しかしながら、適切な有効量は、当業者によって単に慣例的な実験を用いて決定することができる(例えば、米国特許第7,175,872号の実施例9、および、WO2006/138512A2の実施例53を参照)。
【0026】
本発明で用いることができる環状リポペプチドは、以下の一般式(I)で示されるものである:
【0027】
【化1】

【0028】
式中、第7位におけるLeuは、Valまたはlieで置換されていてもよく、
Rは、直鎖状または分岐状アルキル基を意味し、
1〜7は、環状分子内のアミノ酸の位置を意味する。
【0029】
Rは、好ましくは10、11、12または13個の炭素原子を含む直鎖状または分岐状アルキル基であり、以降、C10アルキル、C11アルキル、C12アルキルまたはC13アルキルとも称される。特に好ましいR基としては、(CH−CH(CH、(CH−CH(CH)−CH−CH、(CH−CH、(CH−CH(CH、(CH10−CH、(CH−CH(CH、(CH−CH(CH)−CH−CH、および、(CH10−CH(CHが挙げられる。
【0030】
本発明に係る使用において好ましい式(I)で示される環状リポペプチドは、アミノ酸がD型およびL型アミノ酸で構成される環状リポペプチドである。特に好ましくは、D−およびL−アミノ酸を配列LLDLLDL(この配列は、第1位から第7位の方向で示される)で含む環状リポペプチド(I)である。また本発明に係る環状リポペプチドは、天然の誘導体、および、改変された誘導体も含む。従って、第7位に異なるアミノ酸(例えばVal、Ile)を有する天然に存在する変異体分子は、本発明の範囲内である。さらなる誘導体は、式Iにおいて第1位〜第6位のアミノ酸のうち1個またはそれより多くが、類似の特性(疎水性、電荷)を有するアミノ酸で置換されている誘導体である。
【0031】
本発明に係る好ましい環状リポペプチド(I)におけるその他の好ましい実施態様において、疎水性アミノ酸残基は、第2位、第3位、第4位、第6位および第7位のうち1個またはそれより多くに位置し、負電荷を有するアミノ酸残基は、第1位および第5位のうち一方または両方に位置する。好ましい疎水性アミノ酸の例は、Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Met,、Phe、Trp、Proであり、負電荷を有するアミノ酸の例は、Asp、Gluである。
【0032】
本発明に従って特に好ましくは、サーファクチンA(アミノ酸配列1から7へ:L−Glu、L−Leu、D−Leu、L−Val、L−Asp、D−Leu、L−Leu;R=C10アルキル)、B(第7位において、L−Leuの代わりにL−Val;R=C11アルキル)、C(第7位においてL−Ile;R=C12アルキル)、および、D(R=C13アルキル)、および、それらのそれぞれ混合物である。最も好ましくは、サーファクチンC、および/または、サーファクチンCと環状リポペプチド(I)との混合物である。
【0033】
本発明に係る味を調節する環状リポペプチドが添加される食用組成物は、好ましくは、甘味料として1種またはそれより多くの単糖、二糖またはオリゴ糖を含む組成物であり、最も好ましくは、甘味料として、高フルクトースコーンシロップ、または、高フルクトースシロップのブレンドを含む組成物である。本発明の目的で特に興味深い食用組成物としては、菓子のなかでも、シリアル、アイスクリーム、飲料、ヨーグルト、デザート、スプレッドおよびベーカリー製品、栄養化粧品(nutricosmetic)、ならびに、医薬組成物、好ましくは、炭水化物を含むアルコール飲料およびノンアルコール飲料、例えば、炭水化物を含む、および、含まないa)清涼飲料、b)フルカロリーの清涼飲料、c)スポーツおよびエネルギードリンク、d)ジュース飲料、e)そのまま飲める(ready−to−drink)お茶およびその他のインスタントの清涼飲料が挙げられる。最も好ましくは、例えば清涼飲料およびその他多くの加糖飲料において、加えて炭酸飲料、焼いてあるもの、缶詰の果物、ジャムおよびゼリー、ならびに乳製品において、液体甘味料HFCS(これも食品中のフルクトースの主要な源を構成する)がスクロースの好ましい代替物になりつつある多数の食物である。
【0034】
甘味料として単糖、二糖またはオリゴ糖と、本発明に係る環状リポペプチドをと含む食用組成物は、前記糖類それ自身の味、特に著しく増強された甘味と同等の味の品質、または、少なくともそれに近い味の品質を示す。
【0035】
食用組成物中に必要とされる既知の高カロリー甘味料の量をより少なくし、同時に天然甘味料の一般的に認められた味が維持または増幅されるように、本発明に係る環状リポペプチド、特にサーファクチン型の環状リポペプチドは、低濃度で用いられる場合であっても既知の天然および/または人工甘味料の甘味を著しく増す、または増強することができる。これは、急速に増加する望ましくないヒトの体重増加および/またはそれに伴う病気(例えば糖尿病、アテローム性動脈硬化症等)の発生の観点から、極めて高い実用性と価値がある。
【0036】
本発明の食用組成物中の味覚調節剤の量は、そこに含まれる天然または人工甘味料の濃度に依存し、加えて、二酸化炭素、風味添加材(flavours 例えば香辛料、天然抽出物または油)、着色料、酸味料(例えばリン酸、および、クエン酸)、保存剤、カリウム、ナトリウム(例えば助剤として)のような追加の補助剤の存在にも依存する。望ましい量は、一般的には、完成した食用組成物(kg)に対して0.01mg〜1gの環状リポペプチドであり得る。この量は、具体的には、完成した食用組成物1kgあたり(=質量ppm)、リポペプチド0.01mg〜500mg/kg、好ましくはリポペプチド0.1mg〜100mg/kg、特に環状リポペプチド0.1mg〜50mgである。
【0037】
本発明の環状リポペプチドは、単にそれらを適切な液体中に溶解させることによって望ましい濃度範囲に配合するために、水および/または極性有機物質およびそれらの混合物に対して十分な溶解性を有することが好ましい。糖類または多糖類のような固体だが水溶性の物質と、本明細書において説明される環状リポペプチドとを含む濃縮組成物は、環状リポペプチドと可溶性キャリアーとを水または極性溶媒中に溶解または分散させ、続いて噴霧乾燥のようなよく知られている方法で得られた液体を乾燥させることによって製造することができる。
【0038】
しかしながら、本発明の環状リポペプチドの、例えば油または脂肪のような比較的極性が低い、または無極性の液体キャリアーへの溶解性は、限定される可能性がある。このような実施態様において、環状リポペプチドと液体キャリアーとの物質の混合物を磨砕、粉砕または均質化することによって、キャリアー中の固体環状リポペプチドの極めて微細な分散液またはエマルジョンを製造することが望ましい場合がある。このようにして、環状リポペプチドは、前駆物質中に環状リポペプチドの固形微粒子の分散液を含む甘味料濃縮組成物として配合される場合がある。例えば、いくつかの本発明の環状リポペプチドは、食用脂または油のような非極性物質への溶解性が限定されている可能性があり、それゆえに、固形の環状リポペプチドを微粒子サイズに粉砕または磨砕し、食用脂または油と混合することによって配合してもよいし、または、固形の環状リポペプチドと、食用脂もしくは油、または食用として許容できるそれらの類似体、例えばステファン社(Stephan Corporation,米国イリノイ州ノースフィールド)が販売するネオビー(NeobeeTM)というトリグリセリドエステルベースの油との分散液を均質化することによって、甘味料濃縮組成物として配合してもよい。
【0039】
十分に分散された本発明の化合物でコーティングした、糖衣をかけたようにした、または、グレーズをかけたようにした固体を製造することも可能であり、これは、環状リポペプチドを水または極性溶媒に溶解させ、続いて固形キャリアーまたは組成物を固形の食べられるキャリアーまたは基質上に噴霧することによってなされる。
【0040】
上述の方法を用いれば、糖および/または同等の糖類甘味料の濃度を著しく(例えば約10%から最大30〜50%まで、またはそれよりも大きく)減少させることができ、それに対応して食用組成物のカロリー量を低下させることができる相伴う能力を有する、1種またはそれより多くの本明細書において説明される環状リポペプチドが、一般的に糖および/または同等の糖類甘味料を含む、多くのよく知られており有用な食用組成物に含まれるように再配合することができる。
【0041】
続いて上記で説明した濃縮組成物は、本発明の望ましい食用組成物を製造するよく知られている方法で用いられる。
従って、本発明は、同じ発明概念に属する様々な形態全てを包含する:
a)少なくとも1種の(既知の)天然または人工甘味料を含む食用組成物のための、味覚調節剤としての本発明の環状リポペプチドの使用、
b)このような組成物に1種またはそれより多くの本発明の環状リポペプチドを添加することによる、前記食用組成物の味(後味を含む)の調節方法、
c)前記組成物に1種またはそれより多くの本発明の環状リポペプチドを添加することによる、前記食用組成物中の高カロリー甘味料の濃度を減少させる方法、および、
d)少なくとも1種の既知の天然または人工甘味料、および、少なくとも1種の本発明に係る環状リポペプチドを含む食用組成物。
【実施例】
【0042】
本発明のさらなる特徴は、以下の実施例から得られたものである。この章において、本発明の一つの特徴を単独で、または、組み合わせた場合で理解することができる。以下の実施例は好ましい実施態様を説明するために示したが、これらは本発明の範囲を説明することを目的とし、本発明の範囲を限定することはない。
【0043】
実験材料および方法
細胞培養
安定なHEK293細胞の一過性トランスフェクション/選択
− 一過性および安定なトランスフェクションは、脂質複合体様のリン酸カルシウム沈殿、リポフェクトアミン/プラス試薬(インビトロジェン(Invitrogen))、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン)、または、ミルス・トランスIT293(MIRUS TransIT293)(ミルス・バイオ社(Mirus Bio Corporation))をマニュアルに従って用いて行うことができる。またエレクトロポレーションも、真核細胞の安定なトランスフェクションのための選択方法が可能である。
【0044】
6ウェルプレート中に上記細胞を4×10細胞/ウェルの密度で植え付けた。対象遺伝子の安定な発現のために、HEK293細胞を直線化したプラスミドでトランスフェクションした。24時間後、ゼオシン、ハイグロマイシン、ネオマイシン、または、ブラスチシジンのような選択試薬を用いた選択を開始した。6ウェルからのトランスフェクションされた細胞をトリプシン処理したもの(約50μl〜300μl)を100mmの培養皿に植え付け、必要な抗生物質を適切な濃度で添加した。100mmの細胞培養プレート上に「クローンが目に見える状態になるまで細胞を培養した。さらなる培養およびカルシウムイメージングのために、これらのクローンを選択した。対象遺伝子を安定して発現する細胞クローンを選択するのに約4〜8週間かかった。
【0045】
カルシウムイメージング
安定なHEK293細胞を用いたFluo−4AM分析
− 安定な細胞を、10%ウシ胎児血清(バイオクロム(Biochrom))、および、4mMのL−グルタミン(インビトロジェン)が補足されたDMEM高グルコース培地(インビトロジェン)中で維持した。植え付けの48時間前に、カルシウムイメージングのための細胞を、10%FBS、および、1×グルタマックス(Glutamax)−1(インビトロジェン)が補足されたDMEM低グルコース培地中で維持した。48時間後にこれらの安定な細胞をトリプシン処理し(トリプシン−EDTA、アキュターゼ(Accutase)、または、TrypLEのいずれかを用いて)、10%FBS、および、1×グルタマックス−1が補足されたDMEM低グルコース培地中で、ポリ−D−リシンでコーティングされた96ウェル分析プレート(コーニング(Corning))上に45,000細胞/ウェルの密度で植え付けた。
【0046】
24時間後、細胞を、クレブス−HEPES(KH)緩衝液中の追加の100μlの4μMのFluo−4(カルシウムを感知する色素、最終濃度2μM;モレキュラープローブス(Molecular Probes))と共に100μlの培地に1時間ローディングした。続いてローディング試薬を、ウェルあたり200μlのKH緩衝液で交換した。クレブス−HEPES緩衝液(KH緩衝液)は、1.2mMのCaCl、4.2mMのNaHCOおよび10mMのHEPESを含む生理食塩水である。
【0047】
プレート中の色素をローディングした安定な細胞を蛍光マイクロタイタープレートリーダーに置き、5倍の味物質が補足された50μlのKH緩衝液を添加した後の蛍光(励起488nm、発光520nm)の変化をモニターした。各トレースごとに、スキャン開始後に味物質を16秒間添加し、緩衝液と2回混合し、さらに90秒間スキャンを続け、データを1秒毎に回収した。
【0048】
データ解析/データの記録
カルシウム動員を、基準レベル(F)を超えるピーク蛍光(ΔF)の変化として定量した。データは、複製された独立したサンプルの(ΔF/F)値の平均標準誤差として示した。マイクロタイタープレートリーダーのソフトウェアを用いて解析を行った。
【0049】
サーファクチン
本発明の分析に用いられるバチルス・ズブチリス由来のサーファクチンを、シグマ(Sigma)(カタログ番号S3523)から購入した。これは異なる天然に存在するサーファクチンの混合物であり、主要な構成要素はサーファクチンCである。その分子式は、C539313のように示され、その分子量は、1036.34のように示される(CAS番号:24730−31−2)。これは、指示67/548/EECによれば有害ではない。ストック溶液は、エタノール(10mg/ml)に溶解させており、水性緩衝液でより低い濃度に希釈することができる。
【0050】
コントロール物質
コントロール物質として、既知の甘味料アセスルファムカリウム(フルカ(Fluka)から購入)、および、シクラミン酸ナトリウム(アプリケム(Applichem)から購入)を、それぞれ40mMの濃度で用いた。
【0051】
実施例1
組換えヒト味覚受容体依存性T1R2/T1R3依存性細胞ベースの分析における甘味増強剤のサーファクチン活性の検出
野生型の味覚細胞(例えばヒト味蕾)において、シグナル伝達は恐らく、Gタンパク質ガストデューシン(gustducin)によって、および/または、Gアルファ−i型のGタンパク質によって変換されると推測される。ヘテロ二量体のヒト味覚受容体T1R2/T1R3は、甘味リガンド(sweet ligand)と出会うと第2メッセンジャー分子の誘導、すなわちほとんどの糖類に応答するCAMPレベルの誘導、または、ほとんどの人工甘味料に応答するカルシウムレベルの誘導のいずれかに伴い反応を起こす。(Margolskee J.Biol Chem.(2002)277,1−4)。
【0052】
サーファクチンの機能および活性を解析するために、ヘテロ二量体T1R2/T1R3甘味受容体をカルシウム依存性細胞ベースの分析に利用した。T1Rタイプの味覚受容体を、プロミスカスなマウスG−アルファ−15Gタンパク質を安定して発現するHEK293細胞系中でマルチシストロン性プラスミドベクターpTrix−Eb−R2R3でトランスフェクションした。
【0053】
安定な細胞系の生成のために、ヒト味覚受容体配列を用いたマルチシストロン性発現単位を用いた。図1で示されるように、発現ベクターpTrix−Eb−R2R3のトリシストロン性発現単位は、ヒト延長因子1アルファプロモーターの制御下である。標準的なクローニング技術を用いて、受容体ht1R2およびht1R3のcDNA、および、ブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子のcDNAをクローニングした。このトリシストロン性単位の各遺伝子の翻訳を開始させるために、2つのEMC−ウイルス誘発性の内部リボゾーム侵入部位(IRES−また、キャップ非依存性翻訳エンハンサー(CITE)とも称される)を挿入した。(Jackson et al.,Trends Biochem Sci(1990)15,477−83;Jang et al.,J Virol(1988)62,2636−43)。
【0054】
トリシストロン性発現単位は、シミアンウイルス40ポリアデニル化シグナル配列で終わっている。この組成物は、たった1つのプロモーターの制御下で3種全ての遺伝子の同時発現を許容する。モノシストロン性転写単位(これは、安定な細胞系が発生するプロセス中に互いに独立して異なる染色体位置に統合される)に対して、トリシストロン性転写単位は、含まれる全ての遺伝子を1つの同じ染色体座に統合する。遺伝子の配置のために、全長の転写が起こるような場合には、ブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子のみが転写される。さらに、恐らくマルチシストロン性転写単位の極性(Moser,S.et al.,Biotechnol Prog(2000)16,724−35)のために、最初の2つの位置に関してバランスのとれた受容体遺伝子の化学量論とそれらの1:0.7から1:1までの範囲の発現速度がもたらされ、それに対して、ブラスチシジンSデアミナーゼ遺伝子は、第三の位置における受容体遺伝子と比較して、より少ない程度に発現される。機能的なヘテロ二量体受容体ht1R2/ht1R3に関して、1:1の化学量論が必要とされると仮定すると、受容体遺伝子に関してより低い極性作用で望ましい化学量論が促進され、それに対して、デアミナーゼ発現の減少によって、増強された転写活性で遺伝子座の統合が促進される。安定してT1R2/T1R3を発現する細胞の生成は、ブラスチシジンの存在下でトランスフェクションされた細胞を培養することによって行われた。
【0055】
ヒトT1R2/T1R3味覚受容体依存性活性の測定のために、HEK293細胞を安定して発現するG−アルファ−15、ヒトT1R2およびヒトT1R3を、96ウェルプレートに4×10個植え付け、DMEM培地中で、37℃で1時間、カルシウム感受性蛍光色素Fluo4−AM(2μM)で標識した。蛍光プレートリーダーでの測定のために、培地をKH緩衝液で交換し、37℃でさらに20分間インキュベートした。標識された細胞の蛍光測定を、フレックス・ステーションII(Flex Station II)蛍光プレートリーダー(モレキュラー・デバイス(Molecular Devices),カリフォルニア州サニーベール)で行った。第2メッセンジャーのカルシウムのT1R2/T1R3依存性の増加によってFluo4−AM蛍光の増加が起こった際に、30mMフルクトース存在下での異なる濃度のサーファクチンに対する応答を記録した。30mMフルクトース(5.4g/l)は、この細胞ベースの分析で甘味受容体を活性化することがほとんどない濃度であることを示す予備試験の結果から、適用されるフルクトース濃度を選択した(図2を参照)。従って、試験化合物の甘味増強特性は、甘味料のフルクトースの存在下で検出可能である。各サンプルにおいてカルシウムシグナルを得た後、味物質に応答したカルシウム動員を、それ自身の基準の蛍光レベル(Fと示される)からの相対的な変化(ピークの蛍光F1−基準の蛍光Fレベル、ここではΔFと示される)として定量した。しかしながら相対RFU(rel.RFU)は、ΔF/Fである。ピークの蛍光強度は、味物質添加の約20〜30秒後に起こった。示されたデータは少なくとも2つの独立した実験から得られ、3連で行われた。図2に、サーファクチンのフルクトースを増強する能力を一次蛍光増加曲線として示し、フルクトース強化を、適用されたサーファクチン濃度によって促進されたフルクトースの増加(g/l)で示す。
【0056】
凡例
図1は、マルチシストロン性真核性の発現ベクターpTrix−Eb−R2R3を示す。ヒト味覚受容体遺伝子T1R2、T1R3およびブラスチシジンSデアミナーゼ(bsd)遺伝子の発現は、ヒト延長因子1アルファプロモーター(P−ef1α)の制御下である。翻訳レベルでマルチシストロン性発現を付与するために、2つの内部リボゾーム侵入部位(cite−I、および、cite−II)を挿入した。マルチシストロン性単位はシミアンウイルス40ポリアデニル化部位(ポリA)で終結しており、塗りつぶしの黒色の矢印と共に「シストロン」と示される。原核性複製起点(ori)およびカナマイシン耐性遺伝子(kan)は、E.コリ(E.coli)におけるプラスミドベクターの伝播、増幅および選択に役立つ。
【0057】
図2は、説明された細胞ベースの分析における、30mMフルクトースの非存在または存在下での甘味受容体(甘味料としての活性、加えて甘味増強剤としての活性)に対するサーファクチン活性を示す。この受容体応答は、時間に対する(秒/x軸)一次蛍光の増加(y軸)として示される。サーファクチンに対する受容体応答は濃度依存性であり、フルクトースの存在下で増強される。
【0058】
図3は、説明された細胞ベースの分析における、30mMフルクトースの非存在または存在下での甘味増強剤としての甘味受容体に対するサーファクチン活性を説明する。この結果から、2μMサーファクチンまでの適切な濃度範囲で、および、フルクトースの非存在下では増強の可能性は観察されず、それに対してフルクトースの存在下では、受容体陽性細胞でシグナルが得られたことがわかる。前記濃度範囲において、受容体陰性細胞でシグナルは観察されなかった。すなわちこの結果によれば、サーファクチンは、そのままで甘味剤作用は有さず、甘味料の存在下で作用を調節するだけであることが示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
Rは、10〜13個の炭素原子を含む直鎖状または分岐状アルキル基を意味し、
1〜7は、環状分子内のアミノ酸の位置を意味する]
で示される、甘味増強剤としての1種またはそれより多くの環状リポペプチドの使用。
【請求項2】
式(I)において、アミノ酸が、特に(第1位から第7位へ)配列LLDLLDLのD型およびL型アミノ酸である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
式(I)で示されるリポペプチドとは異なるさらなる環状リポペプチドが少なくとも1種用いられる、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
式(I)において、第7位のアミノ酸が、ValまたはIleで置換されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
式(I)において、第2位、第3位、第4位、第6位および第7位のアミノ酸のうち1個またはそれより多くが、Gly、Ala、Val、Leu、Ile、Met、Phe、TrpおよびProからなる群より選択される疎水性アミノ酸で置換されており、および/または、第1位および第5位のアミノ酸のうち1個またはそれより多くが、AspおよびGluからなる群より選択される負電荷を有するアミノ酸で置換されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
食用組成物に用いられる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記食用組成物が、少なくとも1種の天然または人工甘味料を含む、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記環状リポペプチドまたは環状リポペプチドが、食用組成物1kgあたり0.01mg〜10gの環状リポペプチドの量で用いられる、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
前記食用組成物が、甘味料として単糖、二糖またはオリゴ糖をさらに含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記食用組成物が、甘味料として高フルクトースコーンシロップ(HFCS)を含む、請求項6〜9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記食用組成物が、アイスクリーム、飲料、ヨーグルト、デザート、スプレッド、および、医薬組成物からなる群より選択され、好ましくは、炭水化物を含むアルコール飲料およびノンアルコール飲料である、請求項6〜10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
食用組成物に請求項1に記載の環状リポペプチドを添加する工程を含む、味の調節方法。
【請求項13】
食用組成物に請求項1に記載の環状リポペプチドを添加する工程を含む、高カロリー甘味料の濃度を減少させる方法。
【請求項14】
請求項1に記載の環状リポペプチドを含む食用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−525362(P2011−525362A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515184(P2011−515184)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004497
【国際公開番号】WO2009/156112
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(503053837)ニュートリノヴァ・ニュートリッション・スペシャルティーズ・アンド・フード・イングリーディエンツ・ゲーエムベーハー (4)
【Fターム(参考)】