説明

呼吸用気体供給装置

【課題】酸素濃縮装置や酸素ボンベなどから供給される乾燥状態の酸素富化空気に対して、加湿器によって加湿する際に、使用者に加湿後の酸素富化空気を供給するチューブなどの配管系の経路上に結露が発生して、酸素富化空気が流れる流路を閉塞されたり、結露した水滴などが使用者の鼻腔に直接供給されたりしない呼吸用気体供給装置を提供する。
【解決手段】周囲の雰囲気温度を検出する温度検出手段32と、外部空気中に含まれる水分を乾燥状態の酸素富化空気中へ取り込む水分透過膜を備えた無給水式加湿器2と、該無給水式加湿器2へ外部空気を供給する外部空気取込手段23と、前記無給水式加湿器2から出た加湿後の酸素富化空気の露点温度を検知する露点温度検知手段31と、温度検出手段32によって検出された前記周囲温度と検知された露点温度に基づいて前記無給水式加湿器2へ取り込む外部空気量を制御する制御装置30とを具備する呼吸用気体供給装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥した酸素富化空気を加湿して使用者に供給する呼吸用気体供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、喘息、肺気腫症、慢性気管支炎等の呼吸器系疾患に苦しむ患者が増加する傾向にあるが、その最も効果的な治療法の一つとして酸素吸入療法があり、酸素ボンベあるいは空気中から酸素濃縮気体を直接分離する酸素濃縮装置が開発され、酸素吸入療法のための治療装置として使用されている。
【0003】
このような酸素濃縮装置として、窒素を選択的に吸着し得る吸着剤を充填した吸着筒にコンプレッサで圧縮空気を導入して加圧状態で窒素を吸着させることにより酸素濃縮気体を得る吸着工程と、吸着筒の内圧を減少させて窒素を脱着させ吸着剤の再生を行う脱着工程とを交互に行うことにより濃縮酸素を得る圧力変動吸着(Pressure Swing Adsorption)型の酸素濃縮装置がある。なお、以下、この“圧力変動吸着型の酸素濃縮装置”を“PSA方式酸素濃縮装置”とも称することにする。
【0004】
前記のPSA方式酸素濃縮装置により生成された酸素富化空気(酸素濃縮ガス)は、ほぼ絶乾に近い乾燥状態、例えば、水分を極限まで除去された絶乾状態(通常、大気圧下の露点:−60℃、水分量(体積比):約10.7ppm)にある。なお、高圧ガス容器に充填された濃縮酸素ガスを酸素吸入療法のために使用する場合にも同様の問題がある。何故ならば、高圧ガス容器に充填する濃縮酸素ガスは、製造時に湿度が除去されているからである。
【0005】
しかしながら、このような絶乾状態にある酸素富化空気を使用者に吸入させると、使用者側から見ると、例えば、上気道粘膜の繊毛運動低下、体内水分,熱量の損失及び喀痰の乾燥による喀出困難といった問題が生じる。他方、装置側から見ると、吸着筒に充填された吸着剤が水分を吸着すると、空気中の酸素ガスよりも窒素ガスを選択的に吸着するという吸着能も低下することが指摘されている。このため、通常、吸着筒へは乾燥させたり加熱させたりした原料空気が供給される。
【0006】
そこで、このような問題を回避するために、使用者に供給する酸素富化空気は、吸入する前に適度に加湿しておくことが好ましい。例えば、25℃,1気圧での相対湿度60%における大気中の水分量(体積比)は18760ppmであるので、この程度近くまで加湿される。なお、このような絶乾状態に近い酸素富化空気を加湿するために、PSA方式酸素濃縮装置では加湿器が設けられ、この加湿器によって酸素富化空気を適度に加湿するようにされている。
【0007】
ところで、このような酸素富化空気を適度に加湿するための加湿器に要求される特性としては、飽和水蒸気圧近くまで加湿した状態にした状態で気体を供給する必要があるため、通常、水を用いた加湿器が広く用いられている。しかしながら、水を用いる加湿器では、加湿に使用する水を溜めておく容器が必要となり、しかも、この容器内の水が減少するため定期的な水の補充が必要となる。更に、長期間使用した場合には加湿用の水に細菌や黴が繁殖したりして、水が腐敗する問題がある。
【0008】
特に、医療用ガスを加湿するための加湿器では、もし、このような事態が生じると、本来的に抵抗力の弱い患者の健康を損なう恐れがある。したがって、細菌や黴の繁殖による水の腐敗は絶対に避けなければならず、このためには、患者に対して加湿器の定期的な洗浄や頻繁な水の補充などの手入れを強いることとなる。言うまでもなく、このような水の補充や手入れは面倒であることは勿論、その期間中はガスの吸引を一時的に停止する必要がある。しかも、この方式は、前述のように本質的に人的手段に頼らなければならないため、操作ミスを誘発する原因ともなり、医療装置の安全性、あるいは信頼性を損なう恐れが充分にある。
【0009】
そこで、この問題を解決するために、特開平10−248935号公報に記載されているような無給水式の加湿器を採用することが検討されている。この無給水式加湿器とは、他の気体よりも水蒸気を選択的に透過させる水分透過膜、例えば、官能基としてスルフォン酸基を配位させた水分透過膜などを用いて、水分透過膜内外の水蒸気の分圧差を利用し、空気中の水分を絶乾状態の酸素富化空気へ移行させて加湿するものである。
【0010】
しかしながら、このような無給水式の加湿器方式を使用したとしても、冷暖房の使用などによって酸素濃縮装置を使用する周囲の環境温度が急激に高温から低温に変化したり、酸素富化空気に加湿する水分量が増えたりするなどの要因が重なり合うと、患者などの使用者へ加湿された酸素富化空気を供給するチューブなどの配管系に結露が発生する場合がある。もし、このような結露が生じるような事態が生じると、酸素富化空気を使用者へ供給する配管経路を塞いでしまうような事態を惹起する。そうすると、使用者に酸素富化空気が正常に供給されなくなったり、結露した水滴そのものが使用者の鼻腔などに供給されてしまったりといった好ましくない事態が発生する。
【特許文献1】特開平10−248935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、酸素濃縮装置や酸素ボンベなどから供給される乾燥状態の酸素富化空気に対して、水分透過膜を備えた無給水式加湿器によって加湿する際に、使用する環境温度の急激な変化などの影響によって、使用者に加湿後の酸素富化空気を供給するチューブなどの配管系の気体が流通する経路上に結露が発生して、酸素富化空気が流れる流路を閉塞してしまったり、結露した水滴などが使用者の鼻腔に直接供給されたりすることがない呼吸用気体供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、酸素富化空気や濃縮酸素ガスなどの呼吸用気体を使用者へ供給するための呼吸用気体供給装置において、加湿後の呼吸用気体に結露が生じないようにするために鋭意検討した結果、本発明を想到するに至ったものである。
【0013】
ここに、前記課題を達成するための本発明として、請求項1の「装置を使用する周囲温度を検出する第1の温度検出手段と、外部空気中に含まれる水分を乾燥状態の酸素富化空気中へ取り込む水分透過膜を備えた無給水式加湿器と、該無給水式加湿器へ外部空気を供給する外部空気取込手段と、前記無給水式加湿器から出た加湿後の酸素富化空気の露点温度を検知する露点温度検知手段と、前記第1の温度検出手段によって検出された前記周囲温度と検知された露点温度に基づいて前記無給水式加湿器へ取り込む外部空気量を制御する制御装置とを具備することを特徴とする呼吸用気体供給装置」が提供される。
【0014】
このとき、本発明の呼吸用気体供給装置として、請求項2に記載のように、「前記無給水式加湿器が中空糸に水分透過膜が形成された中空糸膜モジュールを備えた加湿器である、請求項1に記載の呼吸用気体供給装置」とすることが好ましい。
【0015】
また、本発明の呼吸用気体供給装置として、請求項3に記載のように、「外部空気を原料として前記酸素富化空気を製造する圧力変動吸着型酸素濃縮器を備えた、請求項1又は2に記載の呼吸用気体供給装置」とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明の呼吸用気体供給装置として、請求項4に記載のように、「前記露点温度検知手段が、加湿後の酸素富化空気の温度と相対湿度をそれぞれ検出する第2の温度検出手段と湿度検出手段を備え、該第2の温度検出手段と湿度検出手段によって測定した温度と相対湿度に基づいて加湿後の酸素富化空気の露点温度を演算して求める手段である、請求項1〜3の何れかに記載の呼吸用気体供給装置」とすることが好ましい。
【0017】
更に、本発明の呼吸用気体供給装置として、請求項5に記載のように、「前記湿度検出手段がセラミック湿度センサーである、請求項4に記載の呼吸用気体供給装置」とすることが好ましい。
【0018】
そして、本発明の呼吸用気体供給装置として、請求項6に記載のように、「前記無給式加湿器へ外部空気を取り込む前記外部空気取込手段を軸流ファンで構成し、該軸流ファンの回転数を制御することによって前期取込空気量を制御する、請求項1〜5の何れかに記載の呼吸用気体供給装置」とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
一般に、呼吸用気体供給装置に使用される給水式加湿器では、水を蓄えた容器中へ酸素富化空気を通し、飽和水蒸気圧近くまで加湿するようにされているが、このような給水式加湿器では、酸素富化空気の相対湿度をきめ細かく制御することができない。これに対して、以上に述べた本発明では、水分透過膜を備えた無給水式加湿器を使用しているために、その内部に取り込む外部空気量によって酸素富化空気に取り込む水分量を微妙に調整することができる。
【0020】
しかも、本発明の呼吸用気体供給装置では、無給水式加湿器から出た加湿後の酸素富化空気の露点温度を露点温度検知手段によって検知することができる。このために、加湿後の酸素富化空気が冷房装置の使用などによる周囲温度の急激な低下が生じても、この周囲温度を第1の温度検出手段によって検出することで監視しておけば、外部空気によって加湿後の酸素富化空気が冷やされて結露が発生しないように制御装置によって常に制御することができる。
【0021】
したがって、水を用いた給水式加湿器では問題となる水容器内での細菌や黴の繁殖によって加湿用の水が腐敗することなく、しかも、使用者に対して加湿器の定期的な洗浄や頻繁な水の補充などの手入れを強いることもなくなる。更には、水を頻繁に交換する必要もないため、人為的な操作ミスを誘発することもなくなり、医療装置の安全性と信頼性を確保することができる。
【0022】
しかも、加湿された酸素富化空気は、使用者に供給するフレキシブルチューブなどの配管経路上で供給する酸素富化空気が冷却されて結露が発生しないように、その相対湿度を適度にコントロールすることができる。このために、本発明の呼吸用気体供給装置は、結露によって酸素富化空気が流れる流路を閉塞してしまったり、結露した水滴などが使用者の鼻腔に直接供給されたりすることがなくなるという、極めて顕著な効果を奏する。
【0023】
このとき、本発明で使用する無給水式加湿器として、請求項2に記載のように、中空糸に水分透過膜が形成された中空糸膜モジュールによって構成すると、加湿性能に優れた小型かつ取扱い性に優れた加湿器を提供することができる。
【0024】
また、請求項3に記載の発明のように、圧力変動吸着型酸素濃縮器から供給される酸素富化空気は絶乾状態に近いため、この装置によって製造される酸素富化空気には加湿が必要となる。そこで、このような装置を使用した呼吸用気体供給装置に本発明を適用することが、結露に係わる問題を解消できるため好ましい。
【0025】
また、請求項4に記載の発明のように、加湿後の酸素富化空気の温度と相対湿度をそれぞれ検出する第2の温度検出手段と湿度検出手段を備えて測定した温度と相対湿度に基づいて加湿後の酸素富化空気の露点温度を演算して求める露点温度検知手段とすることにより、簡単かつ信頼性よく露点温度を検知することができるからである。このとき更に、請求項4に記載の発明のように、セラミック湿度センサーを用いるようにすれば、セラミック湿度センサーは、小型・高感度・広い動作範囲・非常に早い応答速度などの特徴があり、しかも、加熱クリーニングができるという優れた効果を有する。
【0026】
また。請求項6に記載の発明のように、本発明の無給式加湿器へ外部空気を取り込む外部空気取込手段を軸流ファンで構成し、該軸流ファンの回転数を制御することによって取り込む空気量を制御するようにすれば、無給水式加湿器へ取り込む空気量を容易に制御でき、外部空気取込手段も小型かつ軽量化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係わる呼吸用気体供給装置の一実施形態を例示した概略装置構成図である。この図1において、1は酸素濃縮装置、2は無給水式加湿器、3は結露防止手段、そして、4は使用者をそれぞれ示す。このとき、本発明の呼吸用気体供給装置は酸素濃縮装置1、無給水式加湿器2、そして結露防止手段3を含んで構成されている。
【0028】
したがって、図1の実施形態例では、酸素濃縮装置1によって製造された酸素富化空気は、無給水式加湿器2によって加湿された後、使用者4へ供給される。ただし、その際、無給水式加湿器2によって加湿された酸素富化空気に結露が生じないように、本発明の呼吸用気体供給装置は結露防止手段3を備えることを一大特徴とする。ただし、図1の実施形態例では、酸素濃縮装置1としてPSA方式の酸素濃縮装置を使用しているが、これに代えて、高圧の濃縮酸素ガスが充填された酸素ボンベを使用した呼吸用気体の供給手段を使用することもできる。
【0029】
ここで、図1に例示した実施形態例のPSA方式の酸素濃縮装置1について説明すると、この酸素濃縮装置1は、外部空気取り込みフィルター11、空気圧縮装置12、切り替え弁13、吸着筒14、逆止弁15、アキュムレータ・タンク16、調圧弁17、流量設定手段18、フィルター19などから構成されている。したがって、この実施形態例では、外部から取り込んだ原料空気から酸素ガスを濃縮した酸素富化空気を製造することができる。
【0030】
以上に述べたPSA方式の酸素濃縮装置1では、先ず、外部から取り込まれる原料空気は、塵埃などの異物を取り除くためのフィルター11などを備えた空気取り込み口から取り込まれる。このとき、通常の空気中には、約21%の酸素ガス、約77%の窒素ガス、0.8%のアルゴンガス、水蒸気ほかのガスが1.2%含まれているので、呼吸用ガスとして必要な酸素ガスのみを取り出すことが好ましい。
【0031】
この酸素ガスの取り出しは、原料空気を酸素ガス分子よりも窒素ガス分子を選択的に吸着するゼオライトなどからなる吸着剤が充填された吸着筒14に対して、切り替え弁13によって対象とする吸着筒14を順次切り替えながら、原料空気を空気圧縮装置12により加圧して供給し、吸着筒14内で原料空気中に含まれる約77%の窒素ガスを選択的に吸着除去する。なお、このとき、窒素ガスとともに水蒸気も吸着除去されるために、製造される酸素富化空気は乾燥状態となることは既に述べたとおりである。
【0032】
このとき、前記の吸着筒14としては、好ましくは前記吸着剤を充填した円筒状容器で形成することが好ましく、通常、1筒式、2筒式の他に3筒以上の多筒式が用いられるが、連続的かつ効率的に原料空気から酸素富化空気を製造するためには、多筒式の吸着筒14を使用することが好ましい。また、前記の空気圧縮装置12としては、揺動型空気圧縮機が用いられるほか、スクリュー式、ロータリー式、スクロール式などの回転型空気圧縮機が用いられる場合もある。また、この空気圧縮装置12を駆動する電動機の電源は、交流であっても直流であってもよい。
【0033】
以上に述べたようにして、前記吸着筒14で吸着されなかった酸素ガスを主成分とする酸素富化空気は、吸着筒14へ逆流しないように設けられた逆止弁15を介して、アキュムレータ・タンク16に流入する。なお、吸着筒14内に充填された吸着剤に吸着された窒素ガスは、新たに導入される原料空気から再度窒素ガスを吸着するために吸着剤から脱着させる必要がある。このために、空気圧縮装置12によって実現される加圧状態から、切り替え弁13によって減圧状態(例えば大気圧状態又は負圧状態)に切り替え、吸着されていた窒素ガスを脱着させて吸着剤をリフレッシュさせる。そうすると、このリフレッシュによって、吸着剤は再び原料空気中の窒素ガス分子を吸着できる能力を回復する。ただし、この吸着剤の窒素ガスの脱着工程において、その脱着効率を高めるため、アキュムレータ・タンク16から酸素富化空気をパージガスとして逆流させるようにしてもよい。
【0034】
以上に述べたようにして、原料空気から酸素富化空気が製造され、アキュムレータ・タンク16へ蓄えられる。そして、このアキュムレータ・タンク16に蓄えられた酸素富化空気は、例えば95%といった高濃度の酸素ガスを含んでおり、調圧弁17や流量設定手段18などによってその供給流量と圧力とが制御されながら、無給水式加湿器2へ供給される。そして、この無給水式加湿器2において、水分透過膜を有する水分透過膜モジュール20によって、外部空気から水分を取り込んで乾燥状態の酸素富化空気へ供給する。
【0035】
ここで、本発明に使用する前記無給水式加湿器2の実施形態例について説明すると、この無給水式加湿器2は、前述のように水分透過膜モジュール20を備えており、この水分透過膜モジュール20は、水分透過膜を形成した中空糸22、水分透過膜モジュール本体21、外部空気取込手段23、加湿前酸素富化空気の流入口24、加湿後酸素富化空気の流出口25、加湿用外部空気の取入口26、加湿済み外部空気の排出口27を含んで構成される。
【0036】
以上のように構成される水分透過膜モジュール20では、例えば水分透過膜を形成した中空糸22の内側に酸素濃縮器1で製造した加湿前の酸素富化空気を流入口24から流出口25へと通して加湿すると共に、中空糸22の外側には外部空気取込手段23によって水分を含む外部空気を取入口26から排出口27へと通すようにされている。なお、この水分透過膜モジュール20の実施形態としては、例えば、水分透過膜が形成された中空糸22を適当な長さに切断し、これを多数本束ねた中空糸22の束を作成して、この中空糸束の両端部の中空が塞がらないように両端をエポキシ樹脂のような樹脂で水分透過膜モジュール本体21の内壁部に一体に固めて納め、図1に例示したようにモジュ−ル化したものを好適に使用することができる。
【0037】
ただし、図1に例示した実施形態例では水分透過膜を形成した中空糸モジュールを使用しているが、本発明は、このような中空糸膜モジュールに限定されることはなく、例えば、平膜モジュールや平膜をスパイラル状に形成したモジュールを用いることもできる。このとき、前述の平膜モジュールでは、例えば、良好な通気性を有する平板状支持体の両面に水分透過膜を形成し、水分透過膜支持体の表裏両面に圧力差を付けることによって、外部空気側(大気側)の水蒸気を水分透過膜の表面に溶解させて水分透過膜内を拡散移動させた後、負圧側の水分透過膜の表面から離脱させるという原理を使用したものがある。このような平膜モジュールでは、水分透過膜膜を形成した前記平板状支持体は隔壁を挟んだサンドイッチ構造を繰り返し単位として、これを複数個積層したものが通常使用される。
【0038】
また、本発明では前記水分分離膜として周知のものを使用することができ、これらを例示するならば、特開昭54−152679号公報、特開昭60−183025号公報、特開昭61−195117号公報、特開昭62−42723号公報等に記載された吸水性高分子膜、特開昭53−86684号公報、特開昭60−257819号公報、特開昭60−261503号公報、特開昭62−42772号後方等に記載されたポリスルホン多孔膜、ポリプロピレン多孔膜、ポリテトラフルオロエチレン多孔膜およびこれらと他の膜との複合膜、特開昭62−42723号公報等に記載された芳香族ポリイミド膜を挙げることができ、更に、パーフルオロスルホン酸系イオン交換膜、炭化水素スルフォン酸系イオン交換膜、またイオン交換膜と吸水性高分子膜との複合膜などを例示することができる。また、市場に供されている水分透過膜を挙げるならば、その商品名/商標名が、NAFION膜(DuPont社製)、ダウ膜(ダウケミカル製)、フレミオン(旭硝子製)、アシプレックス(旭化成製)などと称されているものを例示することができる。
【0039】
本発明では、酸素富化空気を適度に加湿しながらも周囲温度が急に低下した場合などにおける結露の発生を防止しなければならない。このために、本発明の呼吸用気体供給装置では、使用する加湿器を前述の無給水式の加湿器とすることを一大特徴とするものであって、このとき結露の発生を防止するための手段として、図1に例示したような結露防止手段3を備えている。ここで、この結露防止手段3について説明すると、該結露防止手段3は、制御装置30、露点検知手段31、そして、第1の温度検出手段32及び第2の温度検出手段33を少なくとも備えている。
【0040】
以上のように構成される本発明の結露防止手段3において、加湿された酸素富化空気の露点を測定する露点検知手段31としては、電子演算回路(例:マイクロコンピュータ)を用いて、温度センサー及び湿度センサーにより、温度と湿度(相対湿度)を測定し、測定した温度と湿度(相対湿度)から演算により「露点」を求める方式のものを好適に使用することができる。なお、このような測定した温度と相対湿度から演算によって露点温度を求める演算方式のほかに、光学式による露点検出(JIS Z 8806に基づく測定原理)方式を使用して直接的に露点温度を検出することもできる。
【0041】
このとき、演算方式の露点検知手段31においてその一部を構成する「相対湿度を直接測るための湿度検出手段(湿度センサー)」としては、電気的性質の変化を直接計測するセラミック湿度センサー(MgCr−TiO系セラミックス、TiO−V系セラミックス、ZnCr−LiZnVO系セラミックス)を使用することが好ましい。何故ならば、このようなセラミック湿度センサーは、小型・高感度・広い動作範囲・非常に早い応答速度などの特徴があり、しかも、加熱クリーニングができるため特に好ましいからである。
【0042】
このようなセラミック湿度センサーは、乾湿材がセラミック焼結体で構成されていて、水蒸気の吸着しやすい多孔質セラミックが用いられているものであって、雰囲気の湿分の吸脱着による電気的性質の変化を主として利用している。なお、セラミック湿度センサーの測定原理としては、水分子がセラミックの成分と結びついてイオンが作られ、これによって電気伝導が変化すると考えられ、このとき発生する電気伝導の変化を検出して、これを湿度(相対湿度)に換算するものである。
【0043】
ただし、本発明に用いる湿度検出手段としては、前述のセラミック湿度センサーの他に、乾湿球式・毛髪式・水晶振動式・高分子系センサーや金属酸化物センサーなどを使用することもでき、中でも、高分子系及び金属酸化物は電子回路との相性が良い小型センサーであるため好適に使用することができる。
【0044】
本発明においては、以上に述べた湿度検出手段を無給水式加湿器2を出た後の加湿された酸素富化空気が流れる流路に設けて相対湿度を測定すると共に、更に、この酸素富化空気の温度も第2の温度検出手段33によって測定する。このようにして、加湿後の酸素富化空気の相対湿度と温度を測定することができれば、例えば周知の熱伝導率式露点測定器のように露点温度を演算によって算出することができる。
【0045】
ところで、「相対湿度」とは、その温度の気体中に限界まで水を含ませたときの水蒸気の圧力(飽和水蒸気圧)に対して、現在何パーセントの圧力の水蒸気(水蒸気分圧)があるかを%で示したものであり、また、「露点」とは飽和水蒸気圧に達しない気体が冷却されたときに結露が生じ始める時点の温度である。なお、気体の「相対湿度」、その時の「温度」及び「露点温度」とは、ある定量的な関係を有しており、前記3つの条件中、何れか2つの条件が求まれば、他の条件を求めることができる。例えば、周知の空気を例にとって説明すると、T:気体温度(°K)、Td:気体の露点(°K)、そして、RH:相対湿度(%)として、TとRHを測定することができれば、このときの露点温度(Td)は下記式から容易に算出することができる。
Td=(240.9*log(A))/(17.5-log(A))
A=RH*0.01*exp((17.502*T)/(240.9+T))
【0046】
このように、使用者4へ供給する呼吸用気体(加湿後の酸素富化空気)の温度とその時の相対湿度が分かれば、露点温度を演算によって算出することができる。したがって、第1の温度検出手段32によって周囲温度を監視しておけば、呼吸用気体(加湿後の酸素富化空気)の流量によっても左右されるが、使用者4へフレキシブルチューブなどの配管系を介して供給されるまでの間に、周囲温度によって呼吸用気体がどの程度まで冷却されるかを知ることができる。そうすると、呼吸用気体の露点温度は、既に述べたように、露点温度検知手段31によって検知することができるので、周囲温度によって冷やされて温度低下した呼吸用気体に結露が発生するか否かを検知することができる。
【0047】
したがって、使用者4に供給されるまでの間に呼吸用気体(加湿後の酸素富化空気)が結露を起こす露点温度以下にまで冷却されてしまうか否かを予測することができる。そこで、結露が発生するような事態が予想される場合には、乾燥状態の酸素富化空気を加湿するために無給水式加湿器2に取り込む空気量を少なくして、呼吸用気体中に取り込む水分量を調整する。このようにすることによって、呼吸用気体の相対湿度を低下させ、結露が発生しない露点温度に呼吸用気体の相対湿度を制御する。そうすると、呼吸用気体の温度が周囲温度の低下などに起因して低下したとしても、露点温度以下の温度にまで低下することが無いために、使用者4に呼吸用気体を供給する配管系中に結露が発生することがなくなる。
【0048】
以上に述べた結露の発生を防止するための具体手段としては、加湿する酸素富化空気の温度と周囲温度を実測すると共に、露点温度検知手段31によって露点温度を検知することによって、使用者4へ供給する呼吸用気体の相対湿度を結露が発生しないように制御装置30によって制御することによって具現化することができる。そこで、以下に、このような制御を行う制御装置30について説明する。
【0049】
ここで、前記制御装置30は、中央運算装置(CPU)を有するマイクロコンピュータなどによって構成され、ハードディスク、あるいはRAMやROMなどからなる半導体メモリーなどの記憶装置を備えている。また、この制御装置30には、周知のインターフェース回路やA/D変換器(アナログ信号/ディジタル信号変換器)を介して前述の第1の温度検出手段32、第2の温度検出手段33及び露点温度検知手段31が接続されている。更に、この制御装置30は、外部空気取込手段23と接続されており、外部空気の取込量を制御するようにされている。
【0050】
したがって、制御装置30へは、第1の温度検出手段32、第2の温度検出手段33及び露点温度検知手段31によって検出された周囲温度、加湿後の酸素富化空気の温度及び露点温度がその有意の情報が失われないサンプリング間隔で時系列的に取り込まれ、前述の記憶装置に順次記憶される。そして、無給水式加湿器2によって加湿された後の酸素富化空気の相対湿度を制御するための必要なデータを中央演算装置によって前記記憶装置に予め組み込まれたプログラムに従って演算し、演算したデータに基づいて無給水式加湿器2に取り込む水分量を制御する。
【0051】
ただし、前述のセラミック湿度センサーのような湿度検出手段によって呼吸用気体の相対湿度を実測して、この実測した相対湿度を制御装置30へフィードバックしながら制御目標値(所定の相対湿度値)に制御することもできる。この場合、制御目標値である所定の相対湿度値は、第1の温度検出手段32によって検出された周囲温度によって、フレキシブルチューブなどの配管系が冷却されても、呼吸用気体中の水分が結露しないようにすることが肝要である。したがって、前記湿度検出手段によって検出された呼吸用気体の相対湿度を実測すると共に、このときの温度を第2の温度検出手段33によって検出して、呼吸用気体の露点温度を演算して求めると共に、呼吸用気体の温度が制御装置30で演算された露点温度よりも高くするように呼吸用気体の相対湿度が制御されることはいうまでもない。
【0052】
このとき、前記呼吸用気体の相対湿度は、無給水式加湿器2によって付与される水分量で制御することができる。また、前記呼吸用気体の相対湿度は、外部空気取込手段23から水分透過膜モジュール20へ取り込まれる外部空気量によって制御することができる。つまり、湿度検出手段で検出した相対湿度値から露点温度を演算し、露点温度が低くなり過ぎて相対湿度が不足している場合には、無給水式加湿器2の外部空気の取入口26に設けた外部空気取込手段31の空気取込能力を上げて水分透過膜モジュール20へ供給する外部空気量を増加させる。逆に、検出した湿度が過度となっていると判断された場合には外部空気取込手段31の空気取り込み能力を下げて水分透過膜モジュール20へ供給する外部空気量を減少させる。ただし、上記の実施形態例では、呼吸用気体を適度に加湿するために無給水式加湿器2へ取り込む外部空気量を適度に調整して呼吸用気体の相対湿度を制御するようにしているが、結露の発生が起こると判断されるような場合には、外部空気取込手段23による外部空気の取り込みを完全に停止し、逆に、結露の発生が起こらないと判断されるときには外部空気取込手段23の運転を再開するといった実施態様を採ることもできる。
【0053】
次に、外部空気の取込量を好適に制御できる外部空気取込手段23の具体的な装置構成を例示するならば、インダクションモータ(誘導電動機)や直流ブラシレスモーターによって駆動される軸流ファンやブロアを挙げることができる。このように、外部空気取込手段23を構成すると、インダクションモータ(誘導電動機)や直流ブラシレスモーターにインバータなどを付設することによってモーター回転数を可変とし、これによってモーターを可変速駆動し、外部空気の取込量を制御することができる。
【0054】
とくに、ファンやブロワなどのモーターとして直流ブラシレスモーターを使用すると、このモーターの特性は、そのトルクが速度の2乗にほぼ比例するので、運転速度の減少に伴ってトルクが減少し、このために、モーターを駆動する動力(電力)が少なくなって、省エネルギー運転が可能となる。しかも、このような制御によってモーターをより低い回転数で運転することができれば、発生する騒音や振動を低減することも可能となって、安静な使用環境が要求される場合にはより有利となる。また、直流ブラシレスモーターは、オーディオ機器やOA機器などの民生用機器からロボットや工作機などの産業用機器に至るまで幅広く用いられており、また、ファン用モーターやコンプレッサ用モーターなどにおいても多方面に用いられていることからも明らかなように、その信頼性の高さや高寿命などといった利点を有している。
【0055】
このような直流ブラシレスモーターは、例えば3相2極式の場合には、星形結線された3つのコイルにより形成されたコイル組立体が固定されたステータと、2つの磁極を有する永久磁石が取り付けられたロータとを有している。また、このロータの回転軌道近傍には、回転方向に向けて等間隔で配置されたホール素子などの位置検出手段が設けられており、これらの位置検出手段によりロータの回転位置が検出されるようになっている。そして、この検出信号のオンオフタイミングに基づいて、3つのコイルのうち2つのコイルに対する通電状態を順次切り替える、すなわち転流を繰り返すことにより、コイルと永久磁石とを回転方向に向けて吸引、反発させてロータに回転力を生じさせるようになっている。
【0056】
コイルへの通電状態の切り替えを行なう手段としては、例えば3相2極式の場合には、正極側のスイッチング素子と負極側のスイッチング素子とを有するスイッチング素子対を3相分設け、それぞれのスイッチング素子対が並列に配置されたスイッチング回路が用いられている。また、各相のスイッチング素子間はそれぞれ対応するコイルの非結線端と接続されており、全体としていわゆる3相インバータ回路となっている。これらのスイッチング素子としては、トランジスタやFETのように駆動信号によりオンオフ制御が可能な半導体素子が用いられている。
【0057】
これらのスイッチング素子には制御部が接続されており、この制御部は、それぞれのコイルに所定の順序で電流を転流させてロータを所定の方向に回転させるために、1つのスイッチング素子対の正極側トランジスタと他のスイッチング素子対の負極側トランジスタとを、それぞれ所定の順序で組み合わせてオン状態とするように、前述の位置検出手段からの検出信号に基づいて所定のスイッチング素子に向けて駆動信号を出力するようになっている。したがって、この直流ブラシレスモーターは、制御部が出力する駆動信号により制御されることになる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上に述べた本発明の呼吸用気体供給装置によれは、乾燥状態の呼吸用気体を適度に加湿できる上に、使用者に呼吸用気体を供給する配管系の途中に結露が発生することがないため、適度に加湿した呼吸用気体を供給する装置として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係わるPSA方式の呼吸用気体供給装置の一実施形態例を模式的に示した基本構成図である。
【符号の説明】
【0060】
1:酸素濃縮装置
2:無給水式加湿器
3:結露防止手段
4:使用者
11:フィルター
12:空気圧縮装置
13:切り替え弁
14:吸着筒
15:逆止弁
16:アキュムレータ・タンク
17:調圧弁
18:流量設定手段
19:フィルター
20:水分透過膜モジュール
21:水分透過膜モジュール本体
22:水分透過膜を形成した中空糸
23:外部空気取込手段
24:加湿前酸素富化空気の流入口
25:加湿後酸素富化空気の流出口
26:加湿用外部空気の取入口
27:加湿済み外部空気の排出口
30:制御装置
31:露点検知手段
32:第1の温度検出手段
33:第2の温度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置を使用する周囲温度を検出する第1の温度検出手段と、外部空気中に含まれる水分を乾燥状態の酸素富化空気中へ取り込む水分透過膜を備えた無給水式加湿器と、該無給水式加湿器へ外部空気を供給する外部空気取込手段と、前記無給水式加湿器から出た加湿後の酸素富化空気の露点温度を検知する露点温度検知手段と、前記第1の温度検出手段によって検出された前記周囲温度と検知された露点温度に基づいて前記無給水式加湿器へ取り込む外部空気量を制御する制御装置とを具備することを特徴とする呼吸用気体供給装置。
【請求項2】
前記無給水式加湿器が中空糸に水分透過膜が形成された中空糸膜モジュールを備えた加湿器である、請求項1に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項3】
外部空気を原料として前記酸素富化空気を製造する圧力変動吸着型酸素濃縮器を備えた、請求項1又は2に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項4】
前記露点温度検知手段が、加湿後の酸素富化空気の温度と相対湿度をそれぞれ検出する第2の温度検出手段と湿度検出手段を備え、該第2の温度検出手段と湿度検出手段によって測定した温度と相対湿度に基づいて加湿後の酸素富化空気の露点温度を演算して求める手段である、請求項1〜3の何れかに記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項5】
前記湿度検出手段がセラミック湿度センサーである、請求項4に記載の呼吸用気体供給装置。
【請求項6】
前記無給式加湿器へ外部空気を取り込む前記外部空気取込手段を軸流ファンで構成し、該軸流ファンの回転数を制御することによって前期取込空気量を制御する、請求項1〜5の何れかに記載の呼吸用気体供給装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−87684(P2006−87684A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−276983(P2004−276983)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】