説明

呼気中のガス検知計測器

【課題】 従来の半導体式ガス検知素子を使用した呼気ガス検知計測器では呼気中のガスに含まれる検知目的のガス以外にも反応してしまうため、検知目的のガスを検知する正確性に欠けており、検知目的のガス以外のガスとの区別がつきにくいものであった。
【解決手段】 本発明は呼気中の支配的なガスを検知目的のガスと、検知目的のガス以外のガスとに判別することにより、支配的なガスが検知目的のガスであればそのガスの濃度を表示し、検知目的のガス以外のガスが支配的であれば検知目的のガスを計測することが不可能な環境である旨の表示や警告をすることで、誤った結果を表示することなく、呼気中のガスを的確に判定し計測することが可能になるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検知素子を用いた呼気中のガス検知計測器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の呼気中のガス検知測定装置には多種多様な検知素子を使用して検知ガスの選択性を高めたり、また違う方式の検知素子を組合せてガスの選択性や精度を高めたりしているものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
検知に用いる素子には主に半導体式ガス検知素子と電気化学(燃料電池)式ガス検知素子が利用されており、前者は安価で長寿命ではあるがガスの選択性に劣り、後者は高価で短寿命ではあるがガスの選択性に優れているものである。そのためおおまかな検知には半導体式ガス検知素子を使用し、検知を高精度におこなう場合には電気化学式ガス検知素子が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2007−121048
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体式ガス検知素子は電気化学(燃料電池)式ガス検知素子に比べてガスの選択性が劣るものであり大抵の安価なガス検知素子は検知目的のガス以外のガスにも反応しやすく、検知目的のガスの精度のよい計測が困難である。
【0006】
また、呼気中には検知目的のガス以外に特異体質や内臓疾患用の薬等を服用することによって体内で特殊なガスが発生し、検知目的のガスと混ざるために検知目的のガスの選択性が劣る検知素子では検知目的のガスを計測することが困難となり、正しい計測ができない。
【0007】
さらに、検知目的のガス検知素子が単体ではそのものに異常が発生したとしてもわからないため、ガス検知計測器としての信頼性が著しく低くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1の呼気中のガス検知計測器は、計測をおこなう呼気中に存在する検知目的のガスを検知する半導体式ガス検知素子と、検知目的のガス以外のガスを検知目的とする半導体式ガス検知素子とを備えてなる検知素子部と、検知目的のガスと、検知目的のガス以外のガスとを互いに比較できるようにするためにガス検知素子から出力される計測値を正規化し、どのガスが呼気中で支配的かを解析して判定する判定部と、この判定部からその結果を出力して表示する出力表示部とを備えてなることを特徴とし、半導体式ガス検知素子でも検知目的のガスの選択性が向上し、正しく検知計測をすることができる。
【0009】
また、本発明の請求項2の呼気中のガス検知計測器は、計測をおこなう呼気中のガスの雰囲気が、検知目的のガス以外のガスで充満され支配的であることを前記判定部が判定した場合には、検知目的のガスを計測可能な状況ではない旨を出力表示部にて表示し、また判定部が検知目的のガスを計測可能と判定した場合には、検知目的のガスの濃度を出力表示部にて表示することを特徴とし、誤った計測結果を表示することなく検知計測ができる。
【0010】
さらに、本発明の請求項3の呼気中のガス検知計測器は、前記検知素子部には検知目的のガスを検知する同一種類のガス検知素子を3個以上持ち、所定の閾値から離れた値を示す同一種類のガス検知素子の数が、その同一種類のガス検知素子全体の数の半分以上の場合には、当該ガス検知素子に異常が発生したと判定して検知計測結果を無効とすることを特徴とし、この自己診断機能を有することで計測器としての信頼性を向上できる。
【0011】
本発明の請求項4の呼気中のガス検知計測器は、計測をおこなう呼気中に存在する検知目的のガスの選択性が劣るガス検知素子と、検知目的のガス以外のガスを検知目的とするガス検知素子とを備えてなる検知素子部と、検知目的のガスと検知目的のガス以外のガスとを互いに比較できるようにするために各々のガス検知素子から出力される計測値を正規化し、検知されたどのガスが呼気中で支配的かを解析して判定する判定部と、この判定部からの結果を出力して表示する出力表示部とを備えてなることを特徴とし、前記検知素子部のガス検知素子に半導体式ガス検知素子と同様の検知目的のガスの選択性が劣る検知素子である例えば接触燃焼式ガス検知素子といったものを使用しても同じ効果を得ることができ、ガス検知素子のガス選択性にこだわる必要が無いにもかかわらず検知目的のガスの選択性が高くなり正しく検知計測することができる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の本発明は安価ではあるがガスの選択性が劣る半導体式ガス検知素子を用いても呼気中のガスの雰囲気状態を判定することにより、検知目的のガスを的確に計測することが可能となる。
【0013】
請求項2の本発明は請求項1によって呼気中のガスの雰囲気を判定することにより、誤った計測ではなく計測することが困難であるとの判断ができることにより誤計測ではなく誤った結果を出力しないことが可能となる。
【0014】
また請求項3の本発明は同一の複数個の検知目的のガス検知素子を搭載することにより、検知目的のガスのガス検知素子に異常な素子が混在しても自己診断をおこなうことで誤検知や誤計測を未然に防ぐことができ、計測器として高い信頼性を得ることができる。
【0015】
さらに請求項4の本発明は前記検知素子部のガス検知素子である半導体式ガス検知素子と同じ様に検知目的のガスの選択性が劣る検知素子である接触燃焼式ガス検知素子といったものを使用しても同じ効果を得ることが可能であり検知素子のガス選択性に制限されることが無くなるものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】 本発明の呼気中のガス検知計測器の一実施例の斜視図である。
【図2】 本発明を構成するブロック図である。
【図3】 本発明の一実施例のブロック図である。
【図4】 飲酒した人の呼気中におけるガス検知素子の計測値を正規化したガス検出値の一例を示した模式図である。
【図5】 清浄な空気におけるガス検知素子の計測値を正規化したガス検出値の一例を示した模式図である。
【図6】 飲酒せずににおいの強い食材を使った食事をした直後の人の呼気中におけるガス検知素子の計測値を正規化したガス検出値の一例を示した模式図である。
【図7】 同一種類である検知目的のガス検知素子の異常の一例を示した模式図である。
【図8】 検知目的のガスを検知する動作フローを図示したものである。
【図9】 検知目的のガスを検知するガス検知素子の自己診断動作フローを図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施例を示す第1図及び第2図のように、呼気中のガス検知計測器Aは、複数のガス検知素子によって構成される検知素子部1と、検知目的とするガス検知素子のガス検知値を他のガス検知素子のガス検知値との関係とを容易に比較できるように、それぞれ正規化した正規化ガス検出値を解析する判定部2と、前記判定部2の判定結果を表示する出力表示部3と、電源部4を備えている。この判定部2はマイクロコンピュータユニットやマイクロプロセッサーユニットを用いてそれに内蔵するソフトウエアにて実現している。正規化の一例としては人間が実際に発生しうるガス濃度を基準にし、各ガス検知素子の検知値を同じスケールに合わせるための係数をかけることによって正規化している。
【0018】
飲酒した人の呼気中におけるアルコールを計測するために、一般的にはエタノールガスを検知するものである。検知目的であるエタノールガスを半導体式ガス検知素子で的確に選択し検知するために、検知目的のガス以外のガスを検知する半導体式ガス検知素子と組合せることによって、検知目的のエタノールガスを誤認識することなく検知し、計測することが可能となる。本発明の一実施例では検知目的のガスをエタノールガスとし、検知目的のガス以外のガスを検知目的とするエタノールガスに影響を与えやすいガスを検知するガス検知素子のガスとして硫化水素、メチルメルカプタンとしている。ここでエタノールガス以外の他のガスを検知目的のガスとする場合には、その検知目的とするガスのガス検知素子をそのガスに応じた半導体式ガス検知素子に置き換えて、検知目的とするガスの検知計測器として使用することができるものである。
【0019】
図3のように、ガス検知計測器Aの検知素子部1には検知目的のガスであるエタノールガスを検知する半導体式ガス検知素子1a、1b、1cを複数個有し、また検知目的のガス以外のガスである硫化水素、メチルメルカプタンを検知する半導体式ガス検知素子1d、1eが配置され、それぞれの検知目的のガスを検知計測して判定部2に各値が送られる。硫化水素ガスやメチルメルカプタンガスは口臭の原因となりうる代表的なガスであり、これらの口臭と検知目的のガスであるエタノールガスを選択できるようにするために検知する。
【0020】
一実施例として飲酒した人の呼気を本発明のガス検知計測器Aで計測した場合の判定部2内部で処理される正規化された正規化ガス検出値を模式化して示したものが図4である。エタノールガス検知素子ではアルコールを高い値で検知しており、エタノールガス検知素子の正規化ガス検出値が他の硫化水素ガス検知素子やメチルメルカプタンガス検知素子の正規化ガス検出値よりも大きいため、この呼気中の雰囲気は明らかにエタノールガスが支配的に含まれていると判定部2が判定し、呼気中に含まれるエタノールガスの濃度を出力表示部3で表示する。図3における3つのエタノールガス検知素子の検知値に異常が発生していないことを確認後にそれらの値を平均化して正規化したものをエタノールガス検知素子の正規化ガス検出値としている。
【0021】
しかし、飲酒していない場合でも、においの強い食材を使った食事などの後にはエタノールガスではないにもかかわらずエタノールガスとしてエタノールガス検知素子にある値が検知され検出された場合の例を示したものが図6である。本来ならば図5に示すとおり清浄な空気であれば各検知素子の正規化ガス検出値はほとんど値として検出されない。図6に示すように、この例の食後の場合には半導体式ガス検知素子のガスの選択性が悪いためにエタノールガス以外のガスをエタノールとしてある値が出てしまう。これを区別するために硫化水素ガス検知素子1dとメチルメルカプタンガス検知素子1eの検出値を含めてそれらを比較することにより、従来であればエタノールガスの検出として誤計測されていたものが、本発明の場合ではメチルメルカプタンガスが支配的なガスの雰囲気中であると判定部2にて判定できるため、検知目的のガスであるエタノールガスの計測ができない環境であると判定して表示し、誤った結果を表示することを防ぐことができる。
【0022】
また、ある一定の値に規定された閾値の範囲より各ガス検知素子の計測値が離れている場合には、同一種類のガス検知素子を複数個用いることにより異常が発生したかどうかを特定することができる。図7にその例を示す。検知目的のガスを検知する同一種類のガス検知素子のガス検知素子1aのみが他のガス検知素子1b、1cに比べてある値に設定された閾値外の値を検出した場合、ガス検知素子1aを異常と判定し、その検知値を無効とする判定を判定部2でおこない、異常計測値を検知値として使用することを防ぐことができる。ガス検知素子が3個以上あればその中の異常なものの個数によって多数決による判定が可能であり、正常な動作が保障される。例えば実施例のように、ガス検知素子が3個の場合において、正常なガス検知素子が2個以下の場合においては異常そのものを推測することができないため、どちらの値が正しいのか判定ができない。この場合の計測値は無効となり異常事態が発生したことを表示し点検を促す。
【0023】
エタノールガスを検知目的のガスとして検知する場合の動作フローの一例を図8に示す。計測を開始すると呼気中のガスを検知素子部1のエタノールガス検知素子にてエタノールガスの計測をおこない、続けて硫化水素ガスの計測を、次にメチルメルカプタンガスの計測をおこなってそれぞれの検知値をお互いに比較できるように正規化し、その呼気中の雰囲気においてエタノールガスが支配的に存在しているか否かを判定部2で判定する。判定部2での判定がエタノールガスが支配的な場合にはそのエタノールガスの濃度を出力表示部3で表示し、またエタノールガス以外のガスが支配的であるとの判定の場合は検知目的のガスであるエタノールガスの計測が不可能である旨を出力表示部3に表示し、一連の計測を終了する。すなわち、本発明は呼気中の支配的なガスが検知目的のガスか、検知目的のガス以外のガスかを判別することにより、支配的なガスが検知目的のガスであればガスの濃度を表示し、検知目的のガス以外のガスが支配的であれば検知目的のガスを計測することが不可能な環境である旨の表示や警告をすることで、誤った結果を表示することなく、呼気中のガスを的確に判定し計測することが可能になるものである。
【0024】
また、エタノールガスを検知目的のガスとした場合の検知素子部1にあるエタノールガス検知素子の自己診断動作フローの一例を図9に示す。この例では図3に示すとおりエタノールガス検知素子が3個(1a,1b,1c)存在し、マイコンのソフトウエア内で個数をカウントするカウンターがnとngの2つが用意され、nはエタノール検知素子の搭載個数を、ngはそのうちの異常と判定された個数をカウントする。それぞれ初期値としてn=3、ng=0があたえられ計測を開始する。まず検知素子1aが他の素子と比べて検知値がある定められた閾値内に入っているかを判定し、もし入っていない場合にはngを1つカウントアップする。以下同様にこの例の場合は合計で3回(n=3)の判定をおこなって最後に異常をおこしたガス検知素子の数が元の数の半分以上を占めている場合にはガス検知素子群が異常な状態であると判定し、不具合発生の旨を出力表示部3で表示する。また正常と判定された場合はガス検知素子の検知値を有効とし、その値を平均化したものを判定部2に送り検知計測を終了する。もしnの個数が4の場合においてng=2の状況にあった場合は異常をおこしたガス検知素子の数が元の数の半分以上を占めるためガス検知素子群が異常な状態であると判断し、不具合発生の旨を出力表示部3にて表示する。
【0025】
これらの計測は複数回おこない、判定が確定できない場合はあらかじめ規定した回数を計測して誤計測を予防し、異常と判定した場合には点検や修理を促す旨を出力表示部3にて表示する。実例として検知素子の反応に異常が発生するものとしては取り扱い時の落下などによる検知素子内部の物理的断線や検知素子自体の劣化によるものがある。
【0026】
ガスの選択性の劣る素子の一例として半導体式ガス検知素子にて説明したが、ガスの選択性の劣る他のガス検知素子として接触燃焼式ガス検知素子などがあり、これらのガス検知素子も同様に本発明の呼気中のガス検知計測器に用いることが可能である。これらの説明は、前述した半導体式ガス検知素子の実施例と同様であるので省略する。
【符号の説明】
【0027】
A 呼気中のガス検知計測器
1 検知素子部
2 判定部
3 出力表示部
4 電源
1a エタノールガス検知素子
1b エタノールガス検知素子
1c エタノールガス検知素子
1d 硫化水素ガス検知素子
1e メチルメルカプタンガス検知素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測をおこなう呼気中に存在する検知目的のガスを検知する半導体式ガス検知素子と、検知目的のガス以外のガスを検知目的とする半導体式ガス検知素子とを備えてなる検知素子部と、検知目的のガスと検知目的のガス以外のガスとを互いに比較できるようにするために各々のガス検知素子から出力される計測値を正規化し、検知されたどのガスが呼気中で支配的かを解析して判定する判定部と、この判定部からの結果を出力して表示する出力表示部とを備えてなることを特徴とする呼気中のガス検知計測器。
【請求項2】
計測をおこなう呼気中のガスの雰囲気が検知目的のガス以外のガスで充満され支配的であることを前記判定部が判定した場合には、検知目的のガスを計測可能な状況ではない旨を出力表示し、また判定部が検知目的のガスを計測可能と判定した場合には、検知目的のガスの濃度を表示することを特徴とする請求項1の呼気中のガス検知計測器。
【請求項3】
前記検知素子部には検知目的のガスを検知する同一種類のガス検知素子を3個以上持ち、所定の閾値から離れた値を示す同一種類のガス検知素子の数がその同一種類のガス検知素子全体の半分以上の場合には、当該ガス検知素子に異常が発生したと判定して検知計測結果を無効とすることを特徴とする請求項1乃至2記載の呼気中のガス検知計測器。
【請求項4】
計測をおこなう呼気中に存在する検知目的のガスの選択性が劣るガス検知素子と、検知目的のガス以外のガスを検知目的とするガス検知素子とを備えてなる検知素子部と、検知目的のガスと検知目的のガス以外のガスとを互いに比較できるようにするために各々のガス検知素子から出力される計測値を正規化し、検知されたどのガスが呼気中で支配的かを解析して判定する判定部と、この判定部からの結果を出力して表示する出力表示部とを備えてなることを特徴とする呼気中のガス検知計測器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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