説明

哺乳動物の大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状を回避又は低減するための、鉱物質及び場合によっては酢酸生成菌及び/又は酪酸生成菌からなる組成物の使用

本発明は、セレン、モリブデン又はタングステンからなるグループから選出される1種類以上の鉱物質を含み、これらの鉱物質が大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式又は化学的に調製された組成物に関し、更に当該組成物を大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状、特に放屁、鼓張又は腹部痙攣を回避又は低減するために哺乳動物に投与する薬剤の製造に使用することに関する。更に本発明は、上記の治療目的に適した酢酸生成菌株及び酪酸生成菌株を分離するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレン、モリブデン又はタングステンからなるグループから選出される1種類以上の鉱物質を含み、これらの鉱物質が大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式又は化学的に調製された組成物に関し、更に当該組成物を、大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状、特に放屁、鼓張又は腹部痙攣を回避又は低減するために哺乳動物に投与する薬剤の製造に使用することに関する。
【0002】
更に、本発明はセレン、モリブデン及びタングステン又はこれらの組み合わせからなるグループから選出される1種類以上の鉱物質、及び場合によっては薬剤学的に適合する賦形剤を含む組成物からなる、大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状を回避又は低減するための薬剤に関する。
【0003】
更に本発明は、前記の治療目的に適した酢酸生成菌株及び酪酸生成菌株を分離する方法に関する。
【0004】
本発明の分野は医学及び薬剤学である。
【背景技術】
【0005】
多くヒトが腹部症状に苦しんでいるが、これらの症状の大部分はヒトの腸内に住む微生物の好ましくない代謝生成物によって誘発される。このような代謝生成物には、特に腸内に生成されるガス(主として水素、二酸化炭素、メタン、硫化水素及び窒素等のガス)、並びに乳酸、短鎖脂肪酸及び種々の腸毒素が含まれる。代謝生成物の種類と量によって、患者には種々異なる特徴を持った症状が発生する。生成されたガスが誘発する腹部症状として、例えば放屁、鼓張、腹部痙攣、及びこれらに起因する随伴疾患がある。このような随伴疾患には、例えば大腸側の過大なガス圧によって回盲弁の機能が障害された結果生じる小腸細菌過増殖(SIBO)がある。細菌によって生成される乳酸は、その浸透作用に基づいて下痢を誘発し、大腸粘膜を通して吸収されると病原性となることがある。腸菌によって分解効率の低いD-(-)-乳酸 (即ち左旋性乳酸)が過剰な濃度で生成されると、乳酸アシドーシスの病像を呈することがある。
【0006】
腸毒素は血液循環に吸収されると、神経系に影響を与え、それによって例えば頭痛、疲労、興奮、更には失神が誘発されることがある。更に腸毒素は腸筋肉を麻痺させて便秘を生じさせることがある。細菌の代謝生成物が腸粘膜を刺激して液体を遊離させると、下痢を引き起こすことがある。細菌によって生成されるアルコールは大腸粘膜を通して吸収されて肝臓に負荷をかけ、アルコール負荷が持続すると肝臓に障害をきたすことがある。
【0007】
このような症状は代謝生成物の量が増えると発生頻度が上昇し、重度も増す。これは特にこれらの代謝生成物を産生する細菌に、正常な範囲を超えて栄養素が供給される場合に見られる。これが生じるのは何よりも炭水化物吸収不良の場合、例えばラクターゼ欠乏によって誘発されたラクトース吸収不良、フルクトース吸収不良、糖アルコール(例えばソルビット、キシリット、マンニット、ラクタイト、マルチット)の吸収不良、ジサッカラーゼ欠乏及びトレハラーゼ欠乏、膵外分泌機能不全、胃酸欠乏、胆汁酸欠乏又はキームスの流涎不足による消化不良、セリアック病、スプルー、グルテン不適合、咀嚼機能の障害の場合、抵抗性澱粉等の難消化性栄養物又はキャベツ類や莢果の難消化性成分を多量に摂取した場合である。小腸を切断した後は吸収面積が減少したことにより、しばしば部分的な吸収不良/消化不良をきたす(短腸症候群)。
【0008】
たとえガスの発生量が正常であっても、腸域の神経が過敏に反応すると腹部症状を招くことがある。例えば過敏性腸症候群においては、普通の健康人では腸活動が活発になるに過ぎない腸の伸縮でも痛みを感じることがある。乳児にあっては消化器官がまだ十分に発達していないために、しばしば吸収不良や消化不良を起こすが、これらはいわゆる3ヶ月仙痛として認識される。
【0009】
更に抗生物質治療の後でしばしば腸症状が発生するが、これは腸内細菌叢の組成の変化に起因すると推定される(例えば抗生物質誘発性バランス失調)。栄養素の競争がないために特定の抗生物質耐性菌、例えばクロストリジウム・パーフリンジェンス、クロストリジウム・ディフィシル、及びカンジダ・アルビカンス等の酵母が過剰となり、代謝生成物の生成が増えることによって症状に寄与する。
【0010】
膵外分泌機能不全、胃酸欠乏又は胆汁酸欠乏に基づく消化不良においては、通常良く効く薬剤が出ている。それにもかかわらず症状を完全に除去できない若干のケースがあるが、それは用量もキームス内の分布(例えば膵液酵素の代用物の場合)も、器官が正常に機能している場合に相応するように実施できないためである。
【0011】
吸収不良の治療は通常の治療食からなり、吸収不良を起こす栄養素はほぼないし全く摂取しない。しかしこれは事情によっては食物の選択が著しく制限され、しかも症候が完全に消失しないケースが多い。なぜならば、特定の栄養素、例えばフルクトースはほとんどすべての食物に少なくとも微量含まれているからである。
【0012】
更にラクトース吸収不良の場合は、不足する酵素ラクターゼを粉末、錠剤又はカプセルで体内に供給することが可能である。しかしこの場合、用量とキームス内の分布の点で膵液酵素の代用物の場合と類似の不都合が生じる。更に酵素は一部真菌類の培養から抽出されるので、それによって製造された製品は相当数のアレルギー者には適応しない。
【0013】
ラクトース吸収不良を治療する別の可能性は、ラクトースを代謝する乳酸菌 (乳酸桿菌属及びビフィドバクテリウム属)を経口投与するものである。この場合、乳酸菌は吸収されないラクトースをある程度は乳酸に代謝するが、それでも低濃度のラクトースが大腸内に達するので、そこで比較的問題の少ない代謝生成物が発生する。この代謝が小腸内で行われる限り、発生した乳酸の大部分は吸収される。しかし吸収されない部分や、大腸で産生された乳酸は更に浸透性に作用し下痢を誘発する。
【0014】
キームスが小腸を通過する時間は比較的短く、この時間内では限られた量のラクトースしか代謝されないので、この方法で症状の完全な消失を達成できるのは、ラクトースの量がかなり少ない場合に限られる。大腸では供給された菌が問題物質を生成する菌と栄養の競争に入るとは言え、それと並行して代謝も行われるので、問題となる代謝生成物はなおも顕著な量で発生する。
【0015】
乳酸生成菌 (乳酸桿菌属及びビフィドバクテリウム属)の投与は、ラクトース吸収不良以外の障害でも問題となる代謝生成物を産生する菌を除去して緩解を生じさせる目的に用いられる。この場合必須の栄養素が十分得られないか、又は固有の代謝生成物によって抑制されるので、特定の菌は腸容積当たり限られた最大数までしか増殖できない。それゆえ、このような排除の試みによっては問題となる菌は完全に除去できない。更に乳酸菌で代謝可能な物質の範囲はしばしば限られているので、症候が種々の難消化性炭水化物によって誘発される場合は、症候を引き起こすすべての食物を緩和することはできない。例えばいわゆる3ヶ月仙痛の治療では、何よりも消泡剤 (例えばシメチコン)を投与して腹部マッサージを施し、腸の膨満を速やかに放屁として解消する。乳酸菌の投与も推奨されるが、効果に関しては前述の腹部障害の治療と同じ制約がある。
【0016】
一部で抗生物質を投与して症状を誘発する代謝生成物を産生する菌を殺し、症状を緩和することも試みられている。しかしこの処理方法の問題点は、難消化性栄養素が大腸に到達して、そこでこれらの栄養素を利用できる菌の成長を刺激することである。たいていの場合、このような抗生物質治療の後、自然に好ましい菌状況が生まれることを期待して腸内細菌叢は放置されるが、持続的な成果が得られることは残念ながら非常に稀である。
【0017】
若干の治療家は腸内細菌叢を回復するために、主に乳酸菌又は非病原性腸内細菌 (大腸菌)を含んだ薬剤を処方する。これらの薬剤は腸管腔を酸性化し、腸粘膜を塞ぐことによって腸内細菌叢の回復に極めて好影響を与えることができるが、細菌によって生成されたガスを問題なく確実に除去する的確な方法とは言えない。それどころか前記の細菌を適用することにより、場合によっては栄養の競争によって、好ましい酢酸生成菌の偶然の定着が妨げられる恐れもある。
【0018】
一次的に腸内細菌叢の特定の菌の除去を目的としていない抗生物質療法においても、乳酸菌又は薬用酵母を適用して腸内細菌叢の回復が積極的に試みられているが、これも上述した不都合を示す。
【0019】
Nollet L. 他「Appl Microbiol Biotechnol,1997,48:99」は、ヒトの腸を刺激する人工反応システムにペプトストレプトコッカス・プロダクタスを添加して腸内細菌叢とその活性に及ぼす影響について調べた結果を報告している。著者は、この菌株を添加することによって菌によるメタン生成が酢酸生成(即ち二酸化炭素 (CO2)と水素 (H2)の酢酸への転化)に有利に変化することを示した。しかしながらこの効果は、システムに菌を投与するのをやめるとかなり急速に弱まる。確かに酢酸生成菌はなおも酢酸を産生するが、これは一次的に従属栄養的なホモ酢酸生成によるものであり、望ましい水素栄養的な還元的酢酸生成によるものではない。それゆえこの方策は薬剤組成にとって満足のいくものではない。
【0020】
類似の生化学的性質を持った菌株ルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカスがBernalier A.他「Arch Microbiol, 1996,166:176」に記載されている。この株はヒトの糞便から抽出されたもので、in vitroで水素/二酸化炭素に転化できる。
【0021】
特許出願 US 2004/002 86 89 及びWO 02/07741では、生存不能又は弱毒化した病原性クロストリジウム属と他の1種類以上の非病原性微生物又は弱毒化した病原性微生物が腸内の微生物叢に影響を与えるために投与される。しかし酢酸生成菌を鉱物質/ビタミン類と一緒に、又は鉱物質/ビタミン類なしに投与することは言及されていない。
【0022】
DE 102 06 995では別の方策が試みられている。この刊行物には、治療食において医用食品として使用できるプレバイオティクスを含んだ微量栄養素複合生成物が記載されている。この複合生成物は、ビフィドバクテリウム属、ラクトバシラス属、腸球菌又はその他のプロバイオティック培養等の細菌とビタミン類及び鉱物質を含む。この複合製剤は、例えばアレルギー、化学療法及び放射線療法、胃腸炎、慢性炎症性腸疾患又はラクトース不耐症に使用できる。
【0023】
吸収不良をきたす胃腸障害を持ったほとんどのヒトは症状がないか、又はわずかしかなく、これらのヒトは症候性吸収不良者に比べて便に含まれる酢酸の量が多いという事実(Born他)から、腸内細菌叢が十分な還元的酢酸生成能を備えた哺乳動物は、症状がないか又は軽微であること、及び吸収不能な栄養物を含む食物を摂取した後で腹部症状が発生する哺乳動物では、腸内細菌叢の還元的酢酸生成能が減弱していると言うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許公開第2004/0028689号公報
【特許文献2】国際特許公開第02/07741号パンフレット
【特許文献3】独国特許第DE10206995号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】NolletL. 他著「Appl Microbiol Biotechnol」1997年,48-99頁
【非特許文献1】Bernalier A.他著「Arch Microbiol」1996年,166-176頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
それゆえ本発明の課題は、大腸内で増大したガス発生とそれに起因する腹部症状又は胃腸障害の予防又は治療に適した組成物と方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記の課題を解決するために、セレン、モリブデン及びタングステン又はこれらの組み合わせからなるグループから選出される1種類以上の鉱物質、及び場合によっては薬剤学的に適合する賦形剤を含む組成物が提供される。この組成物は、大腸内で増大したガス発生とこれに起因する腹部症状、例えば放屁、鼓張、腹部痙攣、3ヶ月仙痛、過敏性腸症候群、過敏腸の予防又は治療、又は大腸内のガス発生を招く恐れのある胃腸障害の治療に使用できる。更に本発明は、上記の鉱物質を含み、大腸内のガス発生を減少又は回避するために使用される薬剤又は栄養補完剤を含む。
【0028】
本発明の有利な実施形態が従属請求項に記載されている。
【発明の効果】
【0029】
発明の記述
本発明は、セレン、モリブデン、特にタングステンが単独で、又は任意の組み合わせにおいて哺乳動物の大腸内のガス発生を著しく低減し、又は回避できるという驚くべき発見に基づいている。上記の鉱物質が、増大したガス発生に起因する腹部症状をin vivoで治療及び予防するために大腸に限定された効果を有することは新規であり、驚くべきことである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで用いる「1種類以上の鉱物質」という概念、特に本発明で請求されている鉱物質セレン、モリブデン及びタングステンは、天然物、純物質、これらを化学的に修飾したバリエーション、それぞれの鉱物質の化合物、誘導体及び相当物を含む。その一例を挙げれば、タングステン酸ナトリウム、亜セレン酸ナトリウム、セレン酸ナトリウム、セレノメチオニン、モリブデン酸ナトリウム、セレン酵母、フィチン酸タングステン、フィチン酸セレン、シュウ酸タングステン、タンニン酸タングステンである。
【0031】
本発明による鉱物質組成物によって、腸内のガス量を著しく減らすことができ、その結果前記の胃腸障害において症状の顕著な改善が得られる。
【0032】
特定の場合において、請求された鉱物質と並んで、1種類以上の酢酸生成菌株又は酪酸生成菌株を同時又は順次に、又は組成物の成分として哺乳動物に投与することが必要であり得る。請求された鉱物質の作用によって、細菌の個体群及び/又は代謝活性が促進されて、投与する菌の数及び/又は量をできるだけ少なく抑え、及び/又は投与頻度を下げることができる。この変化例は好適な実施形態の構成内容である。
【0033】
本発明の利点は、主として腸内ガスの発生が増加したことに起因する症状を治療できるだけでなく、吸収不良の栄養物によって浸透性に誘発された腸内の液体量の増加も治療できることである。そのため上記の胃腸障害の幾つかの主要な症候はしばしば並行して発現するが、それらを唯一の複合組成物によって同時に治療できる。
【0034】
発明者は、哺乳動物の腸(例えばヒトの結腸)でガス減少の鍵を握る酢酸生成菌が増殖する能力は大部分が、微生物にエネルギー源(例えば利用可能な炭水化物)、細胞成分(例えば窒素)、及びその他のコファクター(例えばビタミン類及び鉱物質)がどれだけ十分に供給されるかに依存していることを確認した。特に本発明の発明者はこれに対して所望された個々の菌の代謝活性は、これらの菌に特定の鉱物質がどれだけの濃度で供給されるか、そしてそれぞれの代謝過程に必要な酵素がどれだけの活性をもって生成され得るかに依存していることを確認した、
【0035】
たとえ酢酸生成菌を絶えず新たに供給しても、菌が腸を通過する過程で場合によって数は増えても、酢酸生成菌全体の還元的酢酸生成能はほとんど上昇しないという問題が生じる。なぜなら、必要とされる鉱物質が不足しているために酵素の全量は有意に増えることができないからである。
【0036】
更に、大腸内の酢酸生成菌に必要とされる鉱物質を通常の治療食で十分供給することは不可能である。なぜなら必要とされる重金属は恐らく既に小腸で大部分が腸粘膜によって吸収されてしまい、大腸内では酢酸生成菌に十分量提供されないからである。
【0037】
治療食で相応の鉱物質を意図的に増やすことも問題の解決にはならない。なぜなら高濃度の鉱物質は宿主生体にとって有害だからである。ここにおいて、従来公知の方法と菌株の欠点を効果的に克服する本発明が有効である。本発明は一方では酢酸生成菌の数、及び腸内細菌叢に既に存在している酢酸生成菌集団のバランスに影響を与える。他方、本発明はガス発生を防ぐために必要な酢酸生成菌の代謝過程を促す。
【0038】
本発明において腹部症状を回避するために提案される薬剤学的効果のある組成物は、還元的酢酸生成に必要とされる重金属、即ちセレン、モリブデン及び/又はタングステンを単独で又は任意に組み合わせて含み、好ましくは有効成分が大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式に調製される。これにより腸の酢酸生成菌にとって重金属イオンの可用性が著しく高まると同時に、宿主生体によって吸収される重金属の割合が大幅に減少するので、宿主生体を過度な重金属量に曝露することなく酢酸生成菌の供給が確保される。
【0039】
本発明は更に、酢酸生成菌が比較的低い鉱物質濃度で済み、しかもこの濃度が宿主を急性中毒の危険に曝すことなく、大腸以外でも遊離するように設計された投与形態で達成されるように、小腸耐性のない被覆を施した組成物を提案する。
【0040】
本発明に従い鉱物質のセレン、タングステン及びモリブデンは大腸内における酢酸生成菌及びその還元的酢酸生成能の増加及び促進、又はガス発生の減少若しくは回避のために有利であることが分かった。
【0041】
鉱物質は個々に、又は任意に組み合わせて組成物中に純物質、天然物、化学的化合物、誘導体又は相当物として含まれてよい。例えば鉱物質は、大腸内での遊離及び効果が促進されるように修飾され得る。これは鉱物質を化学的化合物に結合することによって達成される。
【0042】
好適な実施形態において本発明は、追加的にバナジウム、ニッケル、鉄、ナトリウム又はカリウムを、個々に又は任意に組み合わせて、更に前記の鉱物質とも組み合わせて含む。
【0043】
これらの他に次のビタミン類が酢酸生成菌の増殖能力と代謝活性にとって有利であることが分かった。即ち、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK。
【0044】
鉱物質とビタミン類が1つの投与形態で組成物中に含まれていることが好ましい。腸内細菌叢の状態と病像に応じて、組成物は更に酢酸生成菌、又は場合によって酪酸生成菌及び/又は腸内細菌の株を1種類以上含むべきである。
【0045】
本発明による組成物の好適な投与形態及びこれから製造される薬剤又は栄養補完剤は、経口又は経直腸で投与される。
【0046】
ガレノス式調製は、例えば胃液耐性及び小腸耐性のカプセル又は錠剤からなることができ、その外被は酸性の胃環境を出て一定時間経過すると大腸内で溶解する。
【0047】
好ましくは組成物とその活性成分は大腸内で3時間、好ましくは6 時間、最も好ましくは12時間に亙って連続的に遊離する。この時間は2回の食事の間の時間を橋渡しするものである。数日間に亙り毎日増やすと所望された効果が生じる(例1 及び例4参照)。
【0048】
ガレノス式調製は、外被が大腸内の細菌の酵素によって溶解するカプセルからなることが好ましい。当業者は本発明によるガレノス式調製に対して、本発明で使用できるこの他の公知技術を利用できる。ガレノス式調製を使用して遊離が大腸内に限定されることにより、酢酸生成菌の腸内細菌叢は的確に回復又は再生できる。更に鉱物質及び/又はビタミン類を添加することにより、これらの株の集団及び代謝活性が長期間維持され、それによって治療成果が確保されるので、生存可能な酢酸生成菌を持続的に投与する必要はない。若干のケースにおいて、例えば体が特定の(非自家)株に対して敏感に反応し、又はアレルギーを起こす場合は、酢酸生成菌の摂取は不利と判断される。これに対して鉱物質又はビタミン類を摂取すると、既に腸内細菌叢に存在している自家細菌が的確に刺激される。腸内の個体密度を高めるために酢酸生成菌の自家株を使用する場合も、このような自家株の持続的な摂取は避けることが望ましい。なぜなら、自家株を用いた製剤はそれぞれの個体のために別個に製造しなければならず、(鉱物質製剤とは異なり)工業的に生産できないために、製造に手間がかかり高価だからである。
【0049】
好ましくは組成物中に鉱物質は1元素当たり1μg〜3mgの濃度、及び/又はビタミン類は1IE〜1000 IE (IE = 国際単位)の濃度、及び/又は酢酸生成菌は1x105〜1x1013 CFU (CFU=コロニー形成単位)の濃度、及び/又は酪酸生成菌は1x105〜1x1013 CFUの濃度で含まれている。
【0050】
更に本発明の構成は、酢酸生成菌に必要とされる鉱物質を、宿主の腸内又は腸により吸収されないか、わずかしか吸収されない化学的化合物として提供することを提案する。それによって酢酸生成菌に鉱物質が提供され、酢酸生成菌はこれらの化合物を固有の代謝に利用できる。更に化合物は大腸内で(例えば大腸内細菌の酵素によって)分解でき、その結果遊離した鉱物質は酢酸生成菌によって利用され得る。適当な化合物として判明したのは、フィチン酸、タンニン、 タンニン酸又はシュウ酸との鉱物質化合物である。フィチン酸は、例えば細菌性フィターゼによって分解でき、それによって結合された鉱物質(例えばセレン又はタングステン)が大腸内で得られる。
【0051】
本発明の別の構成において、鉱物質のセレン、タングステン及び/又はモリブデン、場合によって鉄を個々に又は互いに任意に組み合わせてガレノス式に調製して供給することが提案される。このガレノス式調製は、鉱物質が時間的に遅れて遊離し、好ましくは作用物質が48時間に亙って均一に遊離するように実施されているが、これに限るものではない。当業者は、従来の公知技術において、この明細書でも若干例を挙げるガレノス式調製の多数の実施形態を利用できる。
【0052】
小腸内の平均滞留時間は約3時間なので、48時間の遊離時間だと小腸において遊離し、小腸粘膜を通して哺乳動物の血液中に吸収される鉱物質の割合は6.25%である。従って哺乳動物において少量では健康を促進するが、多量だと毒性に作用する鉱物質を使用する場合は、治療する哺乳動物に生理学的に有効な少量の鉱物質を与えるが、それでも大腸内ではより多くの鉱物質が酢酸生成菌に提供される。鉱物質の少なくとも一部が大腸に達するように、好ましくは3時間の遊離時間が選択される。
【0053】
発明の別の構成は、成長を速めるために、酢酸生成菌に的確に窒素源及び/又はエネルギー源を供給することを提案する。ここで好ましいのは、腸にほとんど吸収されないか、わずかしか吸収されない窒素含有化合物又は炭水化物である。選好されるのは腸の吸収率が最大 75%、 好ましくは最大50%、最も好ましくは最大25 %又はそれ以下の化合物である。このような化合物の例に尿素、ジフルクトースアンヒドリド、ラムノースがあるが、本発明はこれらの例に限られるものではない。尿素はヒトの腸で吸収されずに大腸に供給され、必要なアミノ酸の回復及び増加のために酢酸生成菌によって利用される。
【0054】
治療される個体の大腸内に既に十分な代謝能を持った酢酸生成菌が存在している場合は、その集団と代謝活性を増して、好ましくはin vitroで培養された酢酸生成菌を供給することなく十分な治療成果を達成できる。これは大きな利点がある。なぜなら自家株が必要とする特定の周囲因子を治療される個体内に見いだせないため、自家株の腸内定着は困難なケースが多いからである。更に、非自家株が潜在的に非病原性であることが知られている場合でも、特定の個体で病原性反応を誘発する可能性は排除できない。それゆえこのような欠点を持たない自家株を適用することが、本発明の別の側面である。これらの株は本発明による方法によって、治療対象の各個体について分離し、次いで培養することができる。
【0055】
若干のケースにおいて、既述の鉱物質及び/又はビタミン類と並んで、酢酸生成菌を場合によっては他の菌株と組み合わせて投与することが必要となる。例えば酢酸生成菌の代謝活性が大腸内で所用の効果を発揮しないか、又は他の腸内菌の代謝プロセスが所望された酢酸生成を抑制する場合である。
【0056】
それゆえ好ましくは鉱物質又はビタミン類が、水素栄養の酢酸生成菌株と一緒に複合製剤として宿主に経口又は経直腸投与される。これに適した菌株は、好ましくはフルクトース及び/又はラクトースを代謝できる菌株か、又は治療対象の個体によって良好に吸収されない炭水化物である。特にルミノコッカス属、ユーバクテリウム属又はクロストリジウム属の細菌が適していることが分かった。本発明にとって特に好適な菌株は、ルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカス、ルミノコッカス・プロダクタス及びクロストリジウム・コッコイデス、クロストリジウム・フォルミコアセチカム、及びユーバクテリウム・リモサスである。
【0057】
各々の菌株は周囲に対して特有の要求を持ち、そしてこの周囲とは宿主の大腸であって、これは個々に異なる周囲パラメータ、例えばPH、酸化還元電位、細菌毒素、競合菌を有するので、発明は有利な実施態様として、宿主の腸内で少なくとも1種類の株が十分生存及び増殖の能力を有する蓋然性を高めるために、数種類の酢酸生成菌株を適用することを提案する。
【0058】
酢酸生成菌と、還元的酢酸生成に必要な酵素を生成するために必要とされる鉱物質を一緒に投与することの特別の利点は、宿主の腸内で酢酸生成菌の数が増加したときに十分な鉱物質が提供されることである。これにより分裂によって増えた菌はそれぞれ分裂時に半分にされた量の酵素のみ保有するのではなく、必要とされる酵素の合成によって完全な還元的酢酸生成能を実現でき、酢酸生成菌集団が腸を通過する過程で還元的酢酸生成能が著しく上昇する。そのため必要な酢酸生成菌を供給する場合に、供給される細菌の所要量が有意に減少し、治療に伴うコストを大幅に下げることができる。
【0059】
更に本発明の利点は、哺乳動物の大腸内でセレン、タングステン及び/又はモリブデンの可用性が確保されることである。最初に本発明に従う鉱物質が小腸における吸収をほぼ妨げる形態で供給された後は、鉱物質含有培地で培養された新鮮な酢酸生成菌の供給を中断して十分な還元的酢酸生成活動を維持することができ(例1、フェーズH、I、K参照)、しかも宿主を慢性重金属中毒の危険に曝露することはなかった。
【0060】
更に、吸収不良又は消化不良の栄養素が比較的多量に入ると、還元的及び/又は従属栄養的な酢酸生成により、酢酸生成菌によって生成される酢酸の濃度が著しく上昇し、これが酢酸生成菌の代謝能を阻害し得ることが確認された。酢酸生成菌はそれぞれの種によって水素及び二酸化炭素を特定の酢酸濃度まで非常に効率的に処理するが、酢酸濃度がそれ以上高くなると、生成物抑制によって効率は顕著に低下する。
【0061】
それゆえ酢酸濃度を下げる可能性が探求されたが、これは本発明に従い酪酸生成菌を同時に供給するか、又は既に腸内に存在している酪酸生成菌を的確に刺激することによって達成することができた。これらの菌は発生する酢酸の相当部分を酪酸に代謝し、それによって酢酸濃度は下がり、その結果酢酸生成菌の成長も代謝能も著しく高まる。
【0062】
それゆえ本発明の更に別の構成では、発明の基礎にある組成物が追加的に酪酸生成菌(例えばフソバクテリウム属、フェカリバクテリウム属、ユーバクテリウム属、これに鉱物質若しくはビタミン類を添加又は無添加) を含むことが提案される。特に有利なのは、主に酢酸を酪酸に代謝する株である。その特に有利な例は、フェカリバクテリウム・プラウスニッツィイである。
【0063】
酢酸生成菌を促進するために鉱物質及びビタミン類、並びにエネルギー源及び窒素源の投与を不要にできる場合に対して、酪酸生成菌を含む組成物が提案される。
【0064】
本発明の別の構成において、組成物は鉱物質、ビタミン類及び/又は窒素供与体、及び場合によって酪酸生成菌により利用可能な追加的なエネルギー源及び炭素源(例えば炭水化物)を含む。この組み合わせにおいて、酪酸生成菌の成長及び代謝活性を促進し、及びそれに伴う酢酸の転換により大腸内の酢酸生成菌集団の最適な活性を達成することが可能である。好ましくは窒素化合物及び炭水化物が腸に吸収されないか、又はわずかしか吸収されないが、これはこれらの添加物が宿主生体にとってほとんど消化されないという性質か、又は相応のガレノス式調製を用いることによって達成できる。
【0065】
大腸における酢酸生成菌の定着若しくは維持及び再生、若しくは酢酸生成菌の代謝活性化を助長することは、冒頭に記載したように、特に腹部症状の治療及び療法のために有効であることが明らかとなった。
【0066】
しかしながら本発明に従う組成物の積極的な作用は腹部症状の治療に限られず、予防用としても認められる。ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、その他の用蓄、及びヒトを本発明に従う組成物で治療できる。
【0067】
組成物の投与は、好ましくは経口により既述の胃耐性及び小腸耐性のカプセルで行われる。代替として組成物は坐薬として経直腸か、又はハイドロコロン療法で投与できる。
【0068】
腸内容物中の鉱物質濃度が高いと鉱物質が一部大腸粘膜によって吸収されて、毒性危険が高まり、腸菌にとっての可用性が減少することが示された。それゆえ本発明は好適な実施形態において、鉱物質の遊離を遅らせることを提案する。例えば鉱物質を小腸耐性被覆した錠剤のマトリックスコア、拡散膜付きカプセル、所定の微細孔を備えて遊離を浸透制御したカプセル、又はその他の適当なガレノス式調製に用いる。そのために大腸始端部における鉱物質濃度が過度に高くなく、大腸の腸内容物を通過する過程で過度に低下せず、それによって常にできるだけ最適な鉱物質濃度が存在しているように配慮される。こうすることにより大腸の始端部では好ましくない吸収はより少なく、また腸通過の終端部では十分高い鉱物質濃度が生じて、酢酸生成菌の効果的な還元的酢酸生成能が確保される。
【0069】
次の胃腸障害によって誘発される、若しくは誘発され得る腹部症状を治療又は予防できる点が好ましい。即ち、フルクトース吸収不良、フルクトース不耐症、ラクトース不耐症、過敏性腸症候群(過敏腸)、ジサッカラーゼ欠乏、トレハラーゼ欠乏、 短腸症候群、クローン病、3ヶ月仙痛、膵外分泌機能不全、胆汁酸欠乏、胃酸欠乏、腸内細菌叢の抗生物質誘発性バランス失調、セリアック病、スプルー、グルテン不適合、ヒスタミン不耐症。
【0070】
抗生物質療法、ハイドロコロン療法及び洗腸、又は腸内ウイルスや病原性腸内細菌等による胃腸感染の間若しくは後でも、上述した本発明による組成物を投与することが推奨される。特に抗生物質療法においては、抗生物質によって障害された腸内細菌叢の回復が確保されて、十分な数の酢酸生成菌及び/又は酪酸生成菌が定着し、難消化性栄養物(例えば繊維質)を食した後、又は吸収不良及び消化不良による腹部症状を阻止するか、少なくとも緩和する。それゆえ発明の基礎にある組成物は、抗生物質療法の間及び/又は後で腸内細菌叢の回復を助長するために使用できる。
【0071】
普通の乳酸菌、例えばラクトバチルス、ビフィドバクテリウム属、腸球菌及び非病原性腸内細菌、例えば選定された大腸菌株と組み合わせることも同様に可能であり、個々のケースで腸内細菌叢の状態及び発現した症候に応じて用いる。
【0072】
本発明による組成物は、女性患者に投与する場合はセレン及び/又はタングステンを含んでいることが好ましい。タングステンは特にヒトの腹部症状及び障害の治療と予防に有利であることが判明した。セレンはヒトにおいては性質上既に小腸上部で吸収されるため、(外から補給しなければ) 大腸内の酢酸生成菌にガス発生の回避又は予防のために提供され得ない。更に、タングステンは女性患者によって多量に吸収されることが確認された。このことは、女性患者は非常に頻繁に男性患者よりも強いガス発生を訴える理由である。
【0073】
本発明は更に哺乳動物において、還元的酢酸生成能の減退を随伴する腹部症状の治療及び/又は予防のために酪酸生成菌株を使用することに関する。これらの組成物に対しては、酢酸生成菌について上述した態様及び実施形態が相応に該当する。
【0074】
ヒトの腸内での供給された酪酸生成菌の定着に対しては、酢酸及び炭水化物の代謝における生成時間が重要な役割を果たす。治療成果については、それぞれ支配的な条件下における代謝能が注目されるが、これは公知の方法で酢酸分解能により生化学的に測定できる。酪酸生成菌株の例は、フソバクテリウム属、フェカリバクテリウム属、ユーバクテリウム属、クロストリジウム属である。
【0075】
それゆえこのような有利な酪酸生成菌種又は菌株を見いだすために、本発明の別の実施形態では、ヒトの糞便を分離することが提案される。なぜなら糞便中にはヒトの腸内で必要な生存能力を持った自家酪酸生成菌が存在しているからである。一般に腸の微生物叢では相応の代謝活性を持ち、他の菌に打ち勝った酪酸生成菌しか生存できない。このようにして所望された代謝能を有する菌株の自然淘汰が成り立つ。
【0076】
好適な実施形態において本発明に従う方法で分離した酪酸生成菌を適当な溶媒に入れて順次希釈し、唯一のエネルギー源である酢酸と酢酸指示剤を含んだ嫌気性成長培地に載せた。これらの分離した酪酸生成菌の培養は、嫌気性条件下、場合によっては窒素雰囲気において行われるのが好ましい。
【0077】
便試料は、症状の基礎となる原因を持ちながら全く症候を発現しないか、少なくともほとんど発現しないヒトから採取するのが好ましいと思われる。Born他によると、フルクトース吸収不良者で胃腸症候を発現するのは約40%に過ぎない。発明者は、無症候吸収不良者は十分効率的に活動する酢酸生成菌及び/又は酪酸生成菌を有すると推定するため、そのような無症候吸収不良者は好適な菌供給者と考えられる。これにより、これらのヒトにおいて酢酸生成菌によって産生される酢酸を利用するために吸収され、酢酸を効果的に酪酸に分解できる酪酸生成菌を見いだす蓋然性が高くなる。
【0078】
短い生成時間 (大きい細胞コロニーが出現)及び強い酢酸消費(指示剤の反応) を特徴とする培養を、好ましくは生成時間後に酢酸の代謝において分離して特性を調べる。好適な酪酸生成菌株の分離と同様に、相応の方法で好適な酢酸生成菌株を分離することが提案される。酪酸生成菌株の分離と異なり、培地には唯一のエネルギー源及び炭素源として水素と二酸化炭素が気相で供給される。指示剤には、それぞれの菌が提供されたガスをどれ程効率的に酢酸に代謝できるかを示す酸指示剤を用いる。指示剤として特にチモールブルー、メチルオレンジ、メチルレッド又はフェノルフタレインを用いることができる。
【0079】
胃腸障害を患っているヒトの一部では、症状はガス発生に起因する放屁として現れないか、又はわずかしか現れずに、主として下痢又は腸痙攣を発現する。これらは例えば消化されない栄養物の浸透作用によって引き起こされる。酢酸生成菌は従属栄養代謝も促進するので、この場合も症状を緩和できる。しかし、浸透作用によって腸内に達する液体の量が増えることによって腸を通過する時間はしばしば著しく短くなり、酢酸生成菌の従属栄養的代謝能は、浸透性に作用する未消化栄養物を十分迅速に代謝することができなくなる。
【0080】
腸内細菌、特に大腸菌は腸内細菌叢に発生する他の細菌よりはるかに迅速に炭水化物を代謝でき、そのため浸透性の下痢を緩和し、更には阻止できることが知られている。しかしこれらの細菌は、それらが栄養基質として使用する炭水化物を主としてガス(水素と二酸化炭素)に代謝し、それが再び放屁という症状を招きかねない。
【0081】
本発明が提案する別の実施形態では、追加的に腸内細菌、好ましくは大腸菌属を投与して、消化されない栄養物を腸内細菌によってガスに代謝させ、これらのガスは次に酢酸生成菌によって酢酸に代謝されて、腸粘膜から吸収されるか、又は酪酸生成菌に基質として提供される。この実施形態は、上述した本発明に従う組成物のガス分解作用を利用して慣用的な下痢治療において腸内細菌によって生じるガス発生、ひいては放屁及び鼓張の副作用を治療又は予防するものである。
【0082】
投与は複合的ガレノス式調製で行われることが好ましい。
【0083】
以下に本発明を例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限られるものではない。
【実施例】
【0084】
発明の実施の方法と産業上の利用可能性
例1
被験者:西ヨーロッパ人、男性、35歳、正常体重、放屁を主要症候とするフルクトース吸収不良
準備:菌ペレットの作成
培地:準備培養のために修飾された煮沸肉培地 (Nollet他によるRACh)を使用した。追加的に亜セレン酸ナトリウム0.1mmolとタングステン酸ナトリウム0.1 mmolを添加した。更に1%フルクトースを加えた。
【0085】
予備還元した培地を15ml フンゲイト試験管に入れ、気相の80%水素及び20%二酸化炭素で覆った。ルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカス株DSM 10507 (ドイツ微生物・培養生物保存機関)の凍結乾燥ペレット。準備培養は37°Cで48時間恒温した。
【0086】
遠心分離するフンゲイト試験管には肉粒子ではなく肉汁のみ添加した。
【0087】
培地を嫌気性雰囲気 (N2)で10mlフンゲイト試験管に入れ、80%水素及び20%二酸化炭素を注入して、0.5ml準備培養でインキュベートした。恒温は37°Cで36時間行った。その後菌を遠心分離で分離し、凍結乾燥した。続いて同様に嫌気性雰囲気においてオイドラギットFS 30 Dで被覆した。
【0088】
フェーズA
基礎治療食
フルクトースを厳しく制限(<
1 g/日)
使用した食物:米、米ワッフル、米フレーク、七面鳥肉、卵、牛乳、ヨーグルト、無糖小麦パン(小麦粉パン、燻製鮭、ヤマイモ、あく抜きしたジャガイモ、菜種油、塩、胡椒。
栄養補完剤:マルチビタミン剤 (マルチビオンタ液剤)、葉酸(ラチオファルム)、亜鉛 (ツィンコロート)。エダウチオオバコ殻7 gとポリエチレングリコール4000 5 gを1日2回援用して、便の硬さをシャリエール40の腸管を通して排便が可能となるようにした。基礎治療食は4週間続けた。この間に被験者の症状は消失した。
【0089】
フェーズB
フルクトースを加えた治療食
上述した基礎治療食に1日当たり10gのフルクトースを、1日5回の食事でそれぞれ2 gの粉末を直接食物に攪拌添加した。フェーズB で被験者は激しい症状(放屁及び腹部痙攣)を訴えた。フルクトースを加えた治療食は実験終了まで続けられた。フェーズBの実施日数は10日であった。
【0090】
フェーズC
酢酸生成菌の適用
使用した株はルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカスDSM 10507(ドイツ微生物・培養生物保存機関)である。オイドラギットFS 30 Dで被覆したペレットを食事中に噛まずに飲み込んだ(1日3回被覆ペレッ1錠)。フェーズC2日目に被験者は症状の著しい軽減を自覚し、その状態はフェーズCの終了日まで続いた。フェーズCは10日間実施した。
【0091】
フェーズD
酢酸生成菌の中断
酢酸生成菌の供給を中断し、フルクトースを加えた治療食のみ継続した。フェーズD3日目に被験者は再び症状の増大を訴えたので、7日日に直接フェーズEに移行することに決めた(フェーズDも10日間実施する計画であった)。
【0092】
フェーズE
酢酸生成菌及び鉱物質の適用
酢酸生成菌をフェーズCと同様の方法で供給した。更に毎食10 μgのセレンを亜セレン酸ナトリウムとして、及び20 μgのタングステンをタングステン酸ナトリウムの粉末で直接食事に攪拌しながら入れた。フェーズE2日目以降、被験者は症状が著しい軽減を自覚し、その状態は再びフェーズ終了まで続いた。フェーズEは10日間実施した。
【0093】
フェーズF
酢酸生成菌を中断し、鉱物質は引き続き適用した。毎食10μgのセレンを亜セレン酸ナトリウムとして、及び20 μgのタングステンをタングステン酸ナトリウムの粉末で直接食事に攪拌しながら入れた。フェーズF3日目以降、被験者は再び症状の増大を訴えた。それゆえ7日目に再び酢酸生成菌を供給することに決めた(フェーズF も10日間実施する計画であった)。
【0094】
フェーズG
酢酸生成菌を再び適用
フェーズGはフェーズCと同様の方法で実施した。症状の経過もフェーズCとほぼ一致した。フェーズGは14日間実施して、フェーズHに移行した。
【0095】
フェーズH
酢酸生成菌と小腸耐性被覆を施した鉱物質を適用。
酢酸生成菌をフェーズCと同様の方法で供給した。更に毎食セレン10 μgを亜セレン酸ナトリウムとして、及びタングステン20 μg をタングステン酸ナトリウムとして供給した。鉱物塩をメチルセルロースと一緒に錠剤に圧縮し、同様にオイドラギットFS 30 Dで被覆した。このとき膜厚を増して、胃液耐性を達成することに加え、厚い被覆の溶解時間を長くして鉱物塩が大腸内で初めて遊離するようにした。フェーズH 2日目に被験者は、酢酸生成菌の適用によって既に顕著に軽減していた症状が、完全に消失したことを自覚した。フェーズHは10日間実施した。
【0096】
フェーズI
酢酸生成菌を中断し、小腸耐性被覆を施した鉱物質を引き続き適用。フェーズHと同様に毎食セレン10 μgを亜セレン酸ナトリウムとして、及びタングステン20 μgをタングステン酸ナトリウムとしてオイドラギットFS
30 Dで被覆して供給した。症状の再発は確認されなかった。フェーズHは10日間実施した。
【0097】
フェーズJ
鉱物質を中断
フェーズBと同様の方法でフルクトースを加えた食事のみ供給した。4日目以降再び発症し、8日目以降はフェーズB及びFと同様に最大の強さに達した。
【0098】
フェーズ K
小腸耐性被覆を施した鉱物質適用
フェーズIと同様に毎食10 μgのセレンを亜セレン酸ナトリウムとして、及びタングステン20 μgをタングステン酸ナトリウムとしてオイドラギットFS
30 Dで被覆して供給した。2日目以降症状は緩和し、5日目以降はほぼ消失した。フェーズKは10日間実施した。
【0099】
フェーズL
酪酸生成菌を供給
フェーズIにおけるガス量はフェーズAにおけるガス量よりも依然として有意に高かったため、酢酸生成菌の作用を再度高める別の方法を探究した。異種栄養素を供給すると代謝を刺激する可能性があるので、酢酸生成菌の場合と同様に小腸耐性被覆を施した鉱物質に加えて更に酪酸生成菌、即ちフェカリバクテリウム・プラウスニッツィイを投与した。
【0100】
症候の主観的改善は確認されなかったが、腸内ガス量を更に下げることができた。このことから、酪酸生成菌の適用が吸収不良の炭水化物の許容量を高めることができると推定できる。
【0101】
フェーズM
カプセル包囲しない鉱物質を多量に供給
カプセル包囲しない鉱物質を(小腸での吸収を補償するために)多量に投与することが有効であるか調べるために、再度鉱物質をカプセル包囲しない粉末として投与した。食事毎の鉱物質量は成果を達成できなかったフェーズE及びFの10倍とし、セレン100 μgを亜セレン酸ナトリウム及びタングステン200 μgをタングステン酸ナトリウムとして投与した。鉱物質を供給しない場合よりも良好な効果が得られたが、小腸耐性カプセルを使用した場合に比べると量を増やしたにもかかわらず効果は少なかった。過剰量の鉱物質が体内に蓄積される危険がない短期適用であれば、カプセルを使用せず多量に投与することは有効と考えられる。
【0102】
フェーズN
タングステンをモリブデン、マンガン及びバナジウムと入れ替え
モリブデン、マンガン及びバナジウムの効果を調べるために、最初にフェーズDを繰り返し、次にフェーズFに準じる投与を実施したが、タングステン20μgをモリブデン20μg、バナジウム20μg及びマンガン20μgに置き換えた。鉱物質を供給した場合に比べてやや良好な効果が得られたが、タングステンを供給した場合よりはるかに劣った。

【0103】
フェーズ O
酢酸生成菌の集団を維持するための難消化性炭水化物の効果の調査
フェーズOの最初の10日間は、フェーズHと同様に酢酸生成菌とセレン及びタングステンを適用した。その後の20日間はフルクトース及び繊維質をほとんど含まない基礎治療食に切り替え、酢酸生成菌は適用せず、セレン及びタングステンは引き続き投与した。それから再びフルクトースを加えた治療食に切り替え、引き続き鉱物質を適用した。フェーズI及びKに比べてガス量は顕著に増えた。
【0104】
その後で再度フェーズHを10日間繰り返し、再び20日間基礎治療食に切り替えた。ただしこの場合は、セレンとタングステンに追加してダイフラクトースアンハイドライド(DFA-III)5gを1日に配分して投与した。続くフルクトースを加えた治療食では、再びフェーズIと類似の少ないガス量を達成できた。DFA-IIIはフルクトースと繊維質を節制している間、酢酸生成菌の集団をほぼ維持することができた。これは治療食が一様でない場合も酢酸生成菌を持続的に供給することが必ずしも適切でないことを示唆する。
【0105】
各フェーズの最終日に腸内ガス量を測定した。そのために閉鎖可能な二連球腸管を使用した。これをそれぞれ24時間装着して、夜間も昼間も必要があれば腸内ガスと便の受容バッグに接続した。
【0106】
測定では次のガス量を測定した。
【表1】

【0107】
測定された量は発現した症候と顕著な相関性を示した。酢酸生成菌の3添加 (フェーズC、E、G、H)によりガス発生の顕著な減少を達成できたが、これは酢酸生成菌の供給を中断した後は続かなかった(フェーズD及びF)。還元的酢酸生成に必要な鉱物質を小腸耐性調製で添加することにより、ガス発生を更に減少させることができ(フェーズH)、これは酢酸生成菌の供給を終了した後も維持できた(フェーズI及びK)。酪酸生成菌を添加することにより、ガス発生を再度減少させることができた(フェーズL)。以上により、次の場合にガス発生の減少を確認できる。
【0108】
小腸耐性調製の鉱物質及び/又はビタミン類を投与する場合。
酢酸生成菌を投与する場合。
酪酸生成菌を投与する場合。
小腸耐性調製の鉱物質及び/又はビタミン類と酢酸生成菌又は酪酸生成菌を複合投与する場合。
鉱物質及び/又は小腸耐性調製のビタミン類と酪酸生成菌を投与する場合。
鉱物質を多量に投与する場合。ただし、この場合は中毒の危険を考慮しなければならない。
【0109】
例2
次の物質を粉末状に混合する。
タングステン酸ナトリウム40μg、亜セレン酸ナトリウム30 μg、硫酸マンガン50μg、モリブデン酸ナトリウム50μg、硫酸鉄5 mg、硫酸ニッケル50 μg、酵母抽出物50 mg、ヒドロキシメチルセルロース150 mg。
【0110】
その後で混合物を錠剤に圧縮し、オイドラギットL100とオイドラギットS100を80:20の割合で被覆する。pH> 6.5に達してから3時間後に成分が遊離するように被覆の厚さを調整する。代替として被覆はオイドラギットFS 30 Dで行ってもよい。
【0111】
少なくとも3時間(脂肪とタンパク質の豊富な食事を取った場合は4時間)の空腹後、及び次の栄養の摂取30分前(通常は朝起きた直後)に摂取すると、作用物質が小腸を通過した後で初めて遊離することが確保される。
【0112】
大腸内のガス発生の著しい減少が観察された。ガス量の測定には、例1と同様に閉鎖可能な二連球腸管を使用し、それぞれ24時間装着して、夜間も昼間も必要があれば腸内ガスと便の受容バッグに接続した。
【0113】
更に錠剤を投与する前と後に治療した患者の便試料を採取した。治療開始後に酢酸生成菌の量が増加し、フルクトース(便100g当たり1g)を添加して便試料をインキュベートするとガス発生が著しく減少することが確認された。更に、栄養素を添加せずに80%水素及び20%二酸化炭素でガス処理して便をインキュベートすると、治療後にガス圧が低下するのが確認されたが、治療前に採取した便試料ではガス圧が上昇した。
【0114】
例3
ガスを生じやすい食物 (タマネギ、キャベツ類、莢果)を摂取しても放屁問題はないと自己申告した20人の便試料をホモゲナイズして、6台のインキュベータに分割した。すべてのインキュベータに1 g/100g便のフルクトースを加え、更に個々のインキュベータに1:セレン20μg、2:タングステン40μg、3:セレン20μg+タングステン40μg、4:セレン 20μg+バナジウム40μg、5:セレン20μg+モリブデン40μg、6:セレン20μg+タングステン40μg+マルチビタミン溶液「マルチビオンタ」1滴、7:セレン20μg+タングステン40μg+マルチビタミン溶液「マルチビオンタ」1滴+鉄1mg +ニッケル20μgを加えた。対照容器にはフルクトースのみ加えた。
【0115】
インキュベータニガス量測定装置を取り付け、気密に閉じて37℃でインキュベートした。
その結果、次のガス量が測定された。
【0116】
対照 150ml
Se 110ml
W 100ml
Se+W 20ml
Se+V 100ml
Se+Mo 85ml
Se+W+ビタミン 15ml
Se+W+ビタミン+Fe+Ni 11ml
【0117】
セレンとタングステンを加えるとガス量が顕著に減少することが確認されたが、更にビタミン類と鉄とニッケルを追加することで一層の改善が達成された。セレン又はタングステン単独でも有意なガスの減少が見られた。
【0118】
バナジウムとモリブデンによる減少はこれより顕著に少なかった。これらの鉱物質による影響は20件の便試料のうち2件で良好な減少を示したものの、それ以外の便試料ではほとんど効果がなかった。これらの便試料において酢酸生成菌株の酵素がタングステンの代わりにこれらの金属を利用したことは明らかである。このことは、これらの試料においてタングステンが必ずしも優勢な効果を示さなかったことからも推定される。成果率を高めるには、タングステンに加えてバナジウム及び/又はモリブデンを追加することが有利であると思われる。更に、ビタミン類、ニッケル及び鉄はガス発生を更に減少させることができたので、これらを追加すると有利であろう。
【0119】
例4
連続的遊離
次の物質を粉末状に混合する。
タングステン酸ナトリウム90mg、亜セレン酸ナトリウム50mg、硫酸マンガン50mg、モリブデン酸ナトリウム50mg、硫酸鉄5 g、硫酸ニッケル50mg、酵母抽出物50g、尿素50 g。
【0120】
この混合物の90%を再び二塩基性リン酸カルシウム(エンコムプレス (R))150g、ポリビニルピロリドン20g、ヒドロキシプロピルセルロース120 gと混ぜてメッシュ40のスクリーンを通過させ、共に十分な量のアセトンに溶かしたヒドロキシプロピルチルセルロースフタレート90g 及びβ-シクロデキストリン10gと顆粒状にする。湿った試料を乾燥させてメッシュ30のスクリーンを通して顆粒を得る。
【0121】
上述した例1の準備と同様に、酢酸生成菌を培養する。株はルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカスDSM10507、ルミノコッカス・プロダクタスDSM 2950、ルミノコッカス・プロダクタスDSM 3507、及びクロストリジウム・コッコイデス DSM 935 (ドイツ微生物・培養生物保存機関)である。
【0122】
全3株(それぞれ10*1012コロニー形成単位)の凍結乾燥させた菌を、嫌気性条件下で粉末混合物の残余の10%と混合して、顆粒と一緒に1000
HPMCカプセルに充填し、カプセルを閉じてオイドラギット FS 30Dにより膜厚8mg/cm2で小腸耐性被覆する。これを例1、2、5〜7又は9〜12と同様の方法で使用した。
【0123】
例5
次の物質を粉末状に混合した。タングステン酸ナトリウム40 μg、亜セレン酸ナトリウム30μg、高分散性二酸化ケイ素200
mg。この混合物をヒドロキシプロピルメチルセルロースカプセルに充填し、カプセルが大腸に到達してから溶解するように8mg/cm2オイドラギットFS-30 Dで被覆した。
【0124】
ラクトース不耐性の女性(28歳、体重普通、無症状の最大ラクトース適応性1日ラクトース1.5g (60gカッテージチーズ相当))を、被覆カプセルで治療し、1日3回の食事にそれぞれカプセル1個を投与した。治療3日目から通常の治療食で摂取するラクトース1日1.5gに加えて、食事毎にラクトースを追加し、0.5gから初めて1日毎食0.5gずつ増やした。4日目(治療開始から6日目)に症状が消失した後も、到達したラクトースの日量(1.5g+3*2g) を維持し、空カプセル(プラシーボ製剤)で治療を継続した。プラシーボ投与2日目から治療する前にラクトースを過剰に摂取したときに見られたのと同様の放屁の腹部症状が発現した。プラシーボに切り替えて3日目の夜、患者は実験の中断を依頼した。
【0125】
例6
膵外分泌機能不全の男性(40歳、毎食パンクレアチン40000単位(Solvay社のパンクレアチン製剤クレオン40000 1カプセル)以上投与すると症状消失)を治療し、例5に準じた被覆カプセルを1日3食それぞれ1カプセル投与した。3日目からパンクレアチン量を減らすと(毎食クレオン10000 2カプセル)、便は少し軟らかくなったが、患者に症状は出なかった。5日目以降パンクレアチン量を再度減らした(毎食クレオン10000 1カプセル)。便 は更に軟らかくなり、やや脂肪光沢を呈したが、不快感は認められなかった。パンクレアチンを供給しないか、わずかしか供給しない場合に患者を非常に悩ませる放屁症状は依然発現しなかった。これによりコストのかかる酵素代用物は大幅に削減することができる。
【0126】
例7
小腸を切除(小腸60%除去)し、1日の栄養量を6回の食事に分割して以来症状が消失した男性被験者を、例5に準じた被覆カプセルで治療し、1日毎食1カプセル投与した。3日目以降同じ栄養量を1日5回の食事に切り替えた。5日目以降は、同じ栄養量を3回の食事と2回の間食に切り替えた。便は軟らかくなり、脂肪光沢を呈したが、不快感は認められなかった。相応量の食事を摂取したときに患者を悩ませていた放屁症状は発現しなかった。
【0127】
例8
乳児の大腸粘膜による重金属の吸収に関する研究が行なわれていないため、3ヶ月仙痛 を緩和するための治療実験は実施しなかった。しかしながら3ヶ月仙痛は、まだ完全に成長していない乳児の小腸は栄養素を完全に吸収できず、これらの栄養素が大腸菌 によってガスに代謝されて発生する放屁によって誘発されるので、乳児の3ヶ月仙痛も本発明に従う組成物による治療に反応すると考えられた。鉱物質を危険のない量から始めて大腸に投与したあと相応の物質の血中濃度を測定する等のリスクを明確にした上で、3ヶ月仙痛のある乳児を次の方法で治療することが提案された。乳児の治療には被覆錠剤は不適なので、亜セレン酸ナトリウムとタングステン酸ナトリウムの作用物質混合物を、当業者に公知の 方法で相応の助剤を用いてマイクロ顆粒に加工し、これをポリマーで被覆して、乳児の大腸内で支配的なPHに達したら溶解するようにする。この目的のために、例えば種々のオイドラギット製剤を利用できる。小腸耐性層の塗着は渦流法で行なうことができる。
【0128】
相応の被覆を施したマイクロ顆粒を水で、 場合によっては相応の乳児の栄養粉末又は母乳を添加して振り混ぜて懸濁液を作成し、授乳又は哺乳時に投与する。
【0129】
例9
抗生物質治療後に過敏性腸症候群に罹患し2日ないし3日毎に強い放屁症状を訴える男性(25歳)を、例5に準じる被覆カプセルで治療し、1日3回の食事毎に1カプセル投与した。8日間の実験期間を通して症状は出なかった。
【0130】
例10
クローン病で腸を障害された女性(35歳)は、最後の病状憎悪以来顕著な放屁(1日40-50 回の自覚された放屁)を訴えている。例5に準じる被覆カプセルで治療し、1日3回の食事毎に1カプセル投与した。治療5日後に放屁回数は著しく減少した (7日目に自覚された放屁は15回)。
【0131】
例11
グルテン不適合を患い、そのために小腸粘膜が障害され、痛みを伴う放比を訴える男性(42歳)を、例5に準じる被覆カプセルで治療し、1日3回の食事毎に1カプセル投与した。治療5日後に放屁の顕著な減少が確認された。
【0132】
例12
ヒスタミンを豊富に含んだ食物を摂取した後に放屁に悩まされるヒスタミン不耐性の女性(26歳)を、例5に準じる被覆カプセルで治療し、1日3回の食事毎に1カプセル投与した。治療4日後に放屁の減少が確認され、治療10日後に放屁の顕著な減少を確認できた。
【0133】
例13
例5に準じるカプセルを製造し、相違点として作用物質混合物をカプセルに充填する際に、追加的に凍結乾燥した生存可能な菌種E.coliニッスル1917を8*109コロニー形成単位 (CFU)注入する。
【0134】
乳製品を摂取した後に下痢症状を起こすラクトース不耐症女性(21歳)に毎食(1日3回)上述したカプセルを投与する。1週間治療した後でラクトース耐性は食事当たり2gから4gに上昇した。次いで投与量を2倍に増やし(1日3回2カプセル)、耐性限界は食事当たりラクトース8gに上昇した。
【0135】
例14
例4に準じるカプセルを製造し、例4と相違する点としてオイドラギットFS 30Dによる小腸耐性被覆を施さず、 オイドラギット L 30 D-55による胃液耐性被覆を施す。使用は例1、2、5〜7又は9〜12に準じて行なう。
【0136】
例15
繊維質の豊富な食事を摂取すると強い鼓張に悩まされる男性(36歳)を、1日3回タングステン酸ナトリウム1.5mgで治療した。タングステン酸ナトリウムを水に溶かして飲料と共に食事時に投与する。1週間の治療後、鼓張は著しく軽減した。
【0137】
例16
繊維質の豊富な食事を摂取すると強度の鼓張 に苦しむ男性(36歳)を、1日3回タングステン酸ナトリウム1.5mgで治療した。タングステン酸ナトリウムを100ml水に溶かしてフィチン酸100mgを添加して30分放置し、食事時に飲料と共に投与する。治療4日後に鼓張は著しく軽減した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状、特に放屁、鼓張又は腹部痙攣を回避又は低減するために哺乳動物に投与する薬剤の製造のための、セレン、モリブデン又はタングステンからなるグループから選出される1種類以上の鉱物質を含み、これらの鉱物質が大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式又は化学的に調製された組成物の使用。
【請求項2】
大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状、特に放屁、鼓張又は腹部痙攣を回避又は低減するために哺乳動物に投与する薬剤の製造のための、タングステン及び/又はタングステン化合物を含む組成物の使用。
【請求項3】
前記組成物は、タングステン及び/又はタングステン化合物が哺乳動物の大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式又は化学的に調製されていることを特徴とする請求項2記載の使用。
【請求項4】
化学的調製は、哺乳動物の小腸内で分解不能又は吸収不能な化学的化合物、好ましくはフィチン酸、シュウ酸又はタンニン若しくはタンニン酸に1種類以上の鉱物質を結合することによって実現されていることを特徴とする請求項1又は3記載の使用。
【請求項5】
ガレノス式調製は、加工、特に組成物を哺乳動物の胃及び/又は小腸で不溶な少なくとも1種類の製薬助剤で被覆及び/又は圧縮することによって実現されていることを特徴とする請求項1又は3記載の使用。
【請求項6】
ガレノス式調製は、1種類以上の鉱物質が胃を通過した後、連続的に3 時間、好ましくは最長48時間に亙って遊離するように構成されていることを特徴とする請求項1又は3 又は5記載の使用。
【請求項7】
組成物は更に1種類以上の酢酸生成菌株を含むことを特徴とする前記請求項いずれか1項記載の使用。
【請求項8】
少なくとも1種類の酢酸生成菌株は、ルミノコッカス属、ユーバクテリウム属、クロストリジウム属、又は請求項45から48記載の方法で分離された株からなるグループより選出されていることを特徴とする請求項7記載の使用。
【請求項9】
少なくとも1種類の酢酸生成菌株は、ルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカス、 ルミノコッカス・プロダクタス、ユーバクテリウム・リモサス、クロストリジウム・コッコイデス、クロストリジウム・フォルミコアセチカムであることを特徴とする請求項7記載の使用。
【請求項10】
組成物は更に1種類以上の酪酸生成菌株を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項11】
少なくとも1種類の酪酸生成菌株は、フソバクテリウム属、フェカリバクテリウム属、ユーバクテリウム属、クロストリジウム属、又は請求項41から44記載の方法で分離された株からなるグループより選出されていることを特徴とする請求項10記載の使用。
【請求項12】
組成物は更にバナジウム、ニッケル、鉄、ナトリウム、カリウムを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項13】
組成物は更にビタミン類、特にビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKを含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項14】
組成物は追加的に好ましくは哺乳動物の小腸で難吸収性の1種類以上の窒素化合物及び/又は炭水化物化合物を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項15】
組成物は、3時間、好ましくは6時間、特に好ましくは12時間に亙って大腸内で徐々に遊離することを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項16】
腹部症状は次の胃腸障害、即ちフルクトース吸収不良、フルクトース不耐症、ラクトース不耐症、過敏性腸症候群、ジサッカラーゼ欠乏、トレハラーゼ欠乏、短腸症候群、過敏腸症候群、放屁、鼓張、下痢、クローン病、3ヶ月仙痛、膵外分泌機能不全、胆汁酸欠乏、胃酸欠乏、抗生物質誘発性の腸内細菌叢不全、酢酸生成菌の不足、腸内細菌叢の還元的酢酸生成代謝能の不足、セリアック病、スプルー、グルテン不適合、ヒスタミン不耐症の少なくとも1つによって引き起こされることを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項17】
組成物は更に腸内細菌、好ましくは大腸菌属の腸内細菌を、選択により別個の調製か、又は同じガレノス式調製において含み、薬剤は代替的及び/又は追加的に下痢の治療を目的とすることを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項18】
薬剤は代替的及び/又は追加的に抗生物質療法、ハイドロコロン療法及び洗腸又は胃腸感染の後で腸内細菌叢とその酢酸生成代謝能の回復又は再生を助長することを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項19】
投与は経口又は経直腸で行われることを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項20】
哺乳動物はヒトであることを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の使用。
【請求項21】
セレン、モリブデン又はタングステンからなるグループから選出される1種類以上の鉱物質を含み、1種類以上の鉱物質が大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式又は化学的に調製された、大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状、特に放屁、鼓張又は腹部痙攣を回避又は低減するために哺乳動物に投与する組成物。
【請求項22】
タングステン及び/又はタングステン化合物を含み、大腸内のガス発生及びこれに起因する腹部症状、特に放屁、鼓張又は腹部痙攣を回避又は低減するために哺乳動物に投与する組成物。
【請求項23】
タングステン及び/又はタングステン化合物が哺乳動物の大腸に到達する直前、到達時又は到達直後に初めて完全に又は部分的に遊離するようにガレノス式又は化学的に調製されていることを特徴とする請求項22記載の組成物。
【請求項24】
化学的調製は、哺乳動物の小腸内で分解不能又は吸収不能な化学的化合物、好ましくはフィチン酸、シュウ酸又はタンニン若しくはタンニン酸に1種類以上の鉱物質を結合することによって実現されていることを特徴とする請求項21又は23記載の組成物。
【請求項25】
ガレノス式調製は、加工、特に組成物を哺乳動物の胃及び/又は小腸で不溶な少なくとも1種類の製薬助剤で被覆及び/又は圧縮することによって実現されていることを特徴とする請求項21又は23記載の組成物。
【請求項26】
ガレノス式調製は、1種類以上の鉱物質が胃を通過した後、連続的に3 時間、好ましくは最長48時間に亙って遊離するように構成されていることを特徴とする請求項21又は23 又は25記載の組成物。
【請求項27】
更に1種類以上の酢酸生成菌株を含むことを特徴とする請求項21から26のいずれか1項記載の組成物。
【請求項28】
少なくとも1種類の酢酸生成菌株は、ルミノコッカス属、ユーバクテリウム属、クロストリジウム属、又は請求項45から48記載の方法で分離された株からなるグループより選出されていることを特徴とする請求項27記載の組成物。
【請求項29】
少なくとも1種類の酢酸生成菌株は、ルミノコッカス・ハイドロジェノトロフィカス、 ルミノコッカス・プロダクタス、ユーバクテリウム・リモサス、クロストリジウム・コッコイデス、クロストリジウム・フォルミコアセチカムであることを特徴とする請求項27記載の組成物。
【請求項30】
更に1種類以上の酪酸生成菌株を含むことを特徴とする請求項21から29のいずれか1項記載の組成物。
【請求項31】
少なくとも1種類の酪酸生成菌株は、フソバクテリウム属、フェカリバクテリウム属、ユーバクテリウム属、クロストリジウム属、又は請求項41から44記載の方法で分離された株からなるグループより選出されていることを特徴とする請求項30記載の組成物。
【請求項32】
更にバナジウム、ニッケル、鉄、ナトリウム、カリウムを含むことを特徴とする請求項21から31のいずれか1項記載の組成物。
【請求項33】
更にビタミン類、特にビタミンA、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKを含むことを特徴とする請求項21から32のいずれか1項記載の組成物。
【請求項34】
組成物は追加的に好ましくは哺乳動物の小腸で難吸収性の1種類以上の窒素化合物及び/又は炭水化物化合物を含むことを特徴とする請求項21から33のいずれか1項記載の組成物。
【請求項35】
3時間、好ましくは6時間、特に好ましくは12時間に亙って大腸内で徐々に遊離することを特徴とする請求項21から34のいずれか1項記載の組成物。
【請求項36】
腹部症状は次の胃腸障害、即ちフルクトース吸収不良、フルクトース不耐症、ラクトース不耐症、過敏性腸症候群、ジサッカラーゼ欠乏、トレハラーゼ欠乏、短腸症候群、過敏腸症候群、放屁、鼓張、下痢、クローン病、3ヶ月仙痛、膵外分泌機能不全、胆汁酸欠乏、胃酸欠乏、抗生物質誘発性の腸内細菌叢不全、酢酸生成菌の不足、腸内細菌叢の還元的酢酸生成代謝能の不足、セリアック病、スプルー、グルテン不適合、ヒスタミン不耐症の少なくとも1つによって引き起こされることを特徴とする請求項21から35のいずれか1項記載の組成物。
【請求項37】
更に腸内細菌、好ましくは大腸菌属の腸内細菌を、選択により別個の調製か、又は同じガレノス式調製において含み、薬剤は代替的及び/又は追加的に下痢の治療を目的とすることを特徴とする請求項21から36のいずれか1項記載の組成物。
【請求項38】
代替的及び/又は追加的に抗生物質療法、ハイドロコロン療法及び洗腸又は胃腸感染の後で腸内細菌叢の回復又は再生を酢酸生成菌によって助長することを特徴とする請求項21から37のいずれか1項記載の組成物。
【請求項39】
経口投与又は経直腸で投与されることを特徴とする請求項21から38のいずれか1項記載の組成物。
【請求項40】
哺乳動物はヒトであることを特徴とする請求項21から39のいずれか1項記載の組成物。
【請求項41】
ある個体の便試料に由来する菌培養を、唯一のエネルギー源及び炭素源として酢酸を含んでいる適当な培養基に入れるステップを含む、哺乳動物の便から酪酸生成菌を分離するための方法。
【請求項42】
培養基が嫌気性培養基であることを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項43】
培養基が追加的に酢酸指示剤を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項44】
分離のために無症候性個体の便を使用することを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項45】
ある個体の便試料に由来する菌培養を、唯一のエネルギー源及び炭素源として水素及び二酸化炭素を含んでいる適当な培養基に入れるステップを含む、哺乳動物の便から酢酸生成菌を分離するための方法。
【請求項46】
培養基は嫌気性培養基であることを特徴とする請求項38記載の方法。
【請求項47】
培養基が追加的に酢酸指示剤を含むことを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の方法。
【請求項48】
分離のために無症候性個体の便を使用することを特徴とする前記請求項のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2010−513359(P2010−513359A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541909(P2009−541909)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011352
【国際公開番号】WO2008/077614
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(509175920)
【Fターム(参考)】