説明

哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法、非ヒト哺乳動物核移植胚、クローン非ヒト哺乳動物、及びスクリーニングキット

【課題】移植後に妊娠、出産する可能性の高い核移植胚、すなわち個体発生能力の高い核移植胚を選別するスクリーニング方法などを提供する。
【解決手段】哺乳動物の核移植胚から栄養膜細胞を採取する採取工程と、採取した栄養膜細胞における、(a)特定のアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されたアミノ酸配列を有する蛋白質の発現量、又は、(b)前記蛋白質をコードする遺伝子の転写量、を測定する測定工程と、を含む哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、個体発生能力が高い哺乳動物核移植胚をスクリーニングする哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法、前記スクリーニング方法によって選抜される非ヒト哺乳動物核移植胚、この非ヒト哺乳動物核移植胚から作出されるクローン非ヒト哺乳動物、及び前記スクリーニング方法に使用するスクリーニングキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、哺乳動物のクローン化についての研究が進んでいる。例えば、肉質や枝肉重量などの経済形質の優れた牛を量産するため、優れた牛から採取した体細胞(ドナー細胞)を除核未受精卵子に核移植して核移植胚を作製し、核移植胚を仮親の子宮に移植して妊娠、出産させてなる体細胞クローン牛の研究が進められている。
【0003】
牛の核移植胚の作製には、血清飢餓培養によって細胞周期をG0期に同調した体細胞をドナー細胞に使用することが一般的である。しかし、G0期に同調した体細胞をドナー細胞に使用した核移植胚(以下、G0-NT胚と省略する。)は、妊娠後期の流産の多さや胎盤形成の異常などの理由から、個体発生能力が低いことが知られている(非特許文献1及び非特許文献2を参照。)。
【0004】
最近、個体発生能力を高めるため、細胞周期を分裂直後の初期G1期(eG1期)に同調した体細胞をドナー細胞に使用した核移植胚(以下、eG1-NT胚と省略する。)について研究がなされている。ただ、eG1-NT胚の個体発生能力は、G0-NT胚に比べれば高いものの、体外受精胚(以下、IVF胚と省略する。)に比べれば依然として低いことが分かっている(非特許文献3及び非特許文献4を参照。)。
【0005】
一方、生体から回収した胚やIVF胚の個体発生効率は、胚の形態を観察することにより評価できることが知られている。具体的には、胚の細胞数(多い方が高品質)、変性した細胞数(少ない方が高品質)等を顕微鏡で観察することによって評価している(非特許文献5を参照。)。
【0006】
しかし、この評価方法は、生体から回収した胚やIVF胚にはある程度有効ではあるものの、核移植胚ではその形態と個体発生能力とが必ずしも一致していないことがある(例えば、形態的に良好であっても個体発生能力が高くないことがある)ため、核移植胚の評価には利用できなかった。
【非特許文献1】Gibbons, J., Arat, S., Rzucidlo, J., Miyoshi, K., Waltenburg, R., Respess, D.,Venable, A. and Stice, S. 2002. Enhanced Survivability of Cloned Calves Derived from Roscovitine-Treated Adult Somatic Cells. Biol. Reprod. 66, 895-900.
【非特許文献2】Heyman, Y., Chavatte-Palmer, P., LeBourhis, D., Camous, S., Vignon, X., and Renard, J.P. 2002. Frequency and occurrence of late-gestation losses from cattle cloned embryos. Biol. Reprod. 66, 6-13.
【非特許文献3】Kasinathan, P., Knott, J.G., Wang. Z., Jerry, D.J., and Robl, J. M.2001.Production of calves from G1 fibroblasts. Nat. Biotechnol. 19, 1176-1178.
【非特許文献4】Urakawa, M., Ideta, A., Sawada, T., and Aoyagi, Y. 2004. Examination of a modified cell cycle synchronization method and bovine nuclear transfer using synchronized early G1 phase fibroblast cells.Theriogenology.62,714-728.
【非特許文献5】日本家畜人工授精師協会(1999)、家畜人工授精講習会テキスト(家畜受精卵移植編)2版、p.182-183
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は移植後に妊娠、出産する可能性の高い核移植胚、すなわち個体発生能力の高い核移植胚を選別するスクリーニング方法などを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、核移植胚と体外受精胚の個体発生能力が異なる理由について、鋭意研究したところ、胚の栄養膜細胞における特定蛋白質の発現量と胚の個体発能力との間に一定の関係があることを突き止め、この発明を完成させた。
【0009】
すなわち、この発明の請求項1に記載の哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法は、哺乳動物の核移植胚から栄養膜細胞を採取する採取工程と、採取した栄養膜細胞における、(a)配列番号1から配列番号6の何れかに記載のアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されたアミノ酸配列を有する蛋白質の発現量、又は、(b)前記蛋白質をコードする遺伝子の転写量、を測定する測定工程と、を含む方法である。
【0010】
請求項2に記載の非ヒト哺乳動物核移植胚は、請求項1に記載の哺乳動物の核移植胚のスクリーニング方法により選抜されることが特徴である。
【0011】
請求項3に記載のクローン非ヒト哺乳動物は、請求項2に記載の非ヒト哺乳動物核移植胚から作出されることが特徴である。
【0012】
請求項4に記載のスクリーニングキットは、請求項1に記載の哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法に使用することが特徴である。
【発明の効果】
【0013】
この発明のスクリーニング方法によって、個体発生能力の高い核移植胚が選別できるようになる。そのため、例えば、この発明のスクリーニング方法を牛に適用した場合、クローン牛の産子作出効率が高くなることが期待できる。これによって、優れた経済形質を備えた牛を効率よく生産することができるようになり、畜産業における生産性が向上し、畜産業従事農家の生活がより向上・安定化することが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
1.哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法
この発明の哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法は、(1)哺乳動物の核移植胚から栄養膜細胞を採取する採取工程と、(2)採取した栄養膜細胞に含まれる特定蛋白質の発現量、又は前記特定蛋白質をコードする遺伝子の転写量を測定する測定工程と、を含む方法である。そこで、各工程の詳細について以下に説明する。
【0015】
(1)採取工程
採取工程は、哺乳動物の核移植胚から栄養膜細胞を採取する工程である。ここで、前記哺乳動物としては、牛、豚、羊、山羊などの家畜、犬、猫等のペット、ラット、マウス、モルモットなどの実験動物、ヒト等を挙げられる。これらの中でも、経済的な観点から牛が好ましい。
【0016】
また、栄養膜細胞の採取は、従来からある技術、例えば、メスにより透明帯を含む胚の一部を切開して栄養膜細胞を採取する方法、透明帯に微小針を刺して穴を開け、細いピペットを胚内部に刺して、栄養膜細胞を吸引して採取する方法、顕微鏡下でメスにより哺乳動物の核移植胚の透明帯に切込みを入れて培養してヘルニアを形成させ、ヘルニア部分の栄養膜細胞を採取する方法(いわゆるヘルニア法)等によって行うことができる。
【0017】
なお、栄養膜細胞は、例えば哺乳動物が牛であり、(2)の測定工程で特定蛋白質の発現量を測定する場合には、核移植後9日から35日齢の着床前の子宮内発育胚から採取すればよく、(2)の測定工程で特定蛋白質をコードするmRNAの転写量を測定する場合には、核移植後9日齢以内の移植前の胚から採取すればよい。ここで、蛋白質の発現量を測定する場合に比べて、mRNAの転写量を測定する場合のほうが採取する時期が早いのは、採取時期が早ければ測定に必要な量の蛋白質が得られないからである。
【0018】
(2)測定工程
測定工程は、採取した栄養膜細胞に含まれる特定蛋白質の発現量又は前記特定蛋白質をコードする遺伝子の転写量を測定する工程である。ここで特定蛋白質とは、(ア)eG1-NT胚とIVF胚との間で発現の傾向が類似している蛋白質、又は(イ)G0-NT胚とIVF胚との間で発現の傾向が類似していない蛋白質のことである。別の言い方をすれば、(ア)eG1-NT胚とIVF胚では高発現し、G0-NT胚では低発現の蛋白質、(イ)eG1-NT胚とIVF胚では低発現であるにもかかわらず、G0-NT胚では高発現の蛋白質のことである。
【0019】
このような蛋白質とは、具体的には、配列表の配列番号1から配列番号6の何れかに記載のアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されたアミノ酸配列を有する蛋白質のことである。
【0020】
特定蛋白質の発現量の測定は、例えば、採取した栄養膜細胞から全蛋白質を調製し、この全蛋白質に含まれる特定蛋白質の量を測定することによって行う。全蛋白質に含まれる特定蛋白質の量の測定方法としては、公知の方法であれば特に限定することなく使用することができるが、例えば、二次元電気泳動法、SDSポリアクリルアミド電気泳動法などの電気泳動法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法などの免疫学的測定法などを挙げることができる。
【0021】
特定蛋白質をコードする遺伝子の転写量の測定は、例えば、採取した栄養膜細胞から全RNAを調製し、この全RNA試料に含まれる特定蛋白質をコードするmRNAの量を測定により行ってもよく、採取した栄養膜細胞からcDNA試料を調製し、このcDNA試料に含まれる特定蛋白質をコードするcDNAの量を測定により行ってもよい。このような測定方法としては、公知の方法であれば特に限定することなく使用することができるが、例えば、ノーザンブロッティング法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、DNAアレイ法等を挙げることができる。
【0022】
2.クローン非ヒト哺乳動物の作出
クローン非ヒト哺乳動物の作出は、従来からある核移植胚を使用する方法と基本的に同じ方法で行えばよい。具体的には、この発明のスクリーニング方法により選抜した非ヒト哺乳動物核移植胚を、仮親の子宮に移植して、クローン非ヒト哺乳動物を出産・誕生させればよい。
【0023】
3.スクリーニングキット
特定蛋白質に対する抗体、RT-PCR法に使用するプライマー、逆転写酵素、緩衝液等は、市販のものを別々に購入又は合成して使用してもよい。しかし、これらを組み合わせて予めキットとしておけば、各構成要素を別々に購入する手間を省き、スクリーニングをより容易に行うことができる。
【0024】
以下、この発明について実施例に基づいてより詳細に説明するが、以下の実施例によって、この発明の特許請求の範囲は如何なる意味においても制限されるものではない。
【実施例1】
【0025】
1.核移植胚等の作製
(1)ドナー細胞の調製
10%(V/V)牛胎子血清(以下、FBSと省略する。Hyclone)、2mM L-グルタミン、1mMピルビン酸ナトリウムをダルベッコ変法イーグル培地(以下、DMEMと省略する。Invitrogen)に添加した培地(以下、FBS-DMEMと省略する。)中で、49日令の黒毛和牛から採取した線維芽細胞を初代培養した(5% CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)。培養した細胞をセルバンカー(登録商標)細胞凍結保存液(日本全薬)に懸濁させてクライオチューブに分注し、‐80℃で凍結保存した。なお、凍結した細胞の培養は、37℃の微温湯中で溶解した後、FBS-DMEM中に懸濁し培養皿(φ100mm、ベクトンデッキンソン)に播種することで行った。
【0026】
(2)細胞周期の同調
1)eG1期への同調
まず、細胞を薬剤で分裂期(M期)に同調させた。具体的には、10%(V/V)FBS、2mM L-グルタミン、1μM 2-メトキシストラジオール(以下、2MEと省略する。)を、カルシウムイオンを含まない最小必須培地(以下、S-MEMと省略する。Invitrogen)に添加した培地(以下、2ME-SMEMと省略する。)中で、活発に分裂している細胞を30分間培養した。つぎに、培養皿をボルテックスにより振盪し、剥がれ落ちた細胞を含む培地(細胞懸濁液)を廃棄した。
【0027】
培養皿に再度2ME-SMEMを添加して、培養皿に付着している細胞を30分間培養した。再度ボルテックスして、細胞懸濁から室温で細胞を5分間遠心分離(180×g)し、細胞を集めた。25mM N-2-ヒドロキシエトルポペラジン-N’-2-エタンスルホン酸、5%(V/V)のFBSを組織培養培地199(以下、M199と省略する。Invitrogen)に添加した培地(以下、FBS-199と省略する。)に集めた細胞を懸濁させ、培養皿に細胞懸濁液でドロップを作製し、流動パラフィンオイル(ナカライテスク)を上から重層した。そして、内径が20μmのガラスピペット(Cook Veterinary products)を使用して、大きさに基づいてM期に同調した細胞のみを選別した。
【0028】
つぎに、選別したM期の細胞を、FBS-199中で20分間培養(5% CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)したのち、均一に分裂している細胞のみを選択し、分裂後1時間以内の細胞をeG1期のドナー細胞として使用した。
【0029】
2)G0期への同調
細胞のG0期への同調は、(1)で初代培養した線維芽細胞を0.05%(V/V)のFBSをDMEMに添加した血清飢餓培地中で、核移植するまで6日間培養(5% CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)することにより行った。
【0030】
(3)除核未受精卵子の調製
食肉処理場で採取した牛卵巣を25℃の生理食塩水で保温のうえ実験室に持ち帰った。21G注射針(テルモ)を装着した10mlシリンジ(テルモ)を使用して、持ち帰った牛卵巣の2〜7mmの卵胞から卵丘卵子複合体を吸引採取した。採取した卵丘卵子複合体のうち、卵丘細胞が密に付着しており、卵細胞質が均質な卵丘卵子複合体を選抜した。
【0031】
選抜した卵丘卵子複合体30から40個を、4ウェルプレート(Nunc、Nalge Nunc International)中で流動パラフィンオイルを上から重層した700μlのFBS-199内に導入し、20時間体外成熟培養した(5% CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)。成熟培養した卵丘卵子複合体を、0.1%ヒアルロニダーゼ(SIGMA)をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(以下、DPBSと省略する。Invitrogen)に移したのち、内径を卵子直径サイズに加工したパスツールピペットによりピペッティングして、卵丘細胞を卵子透明帯から剥離除去した。除去後、卵丘細胞をFBS-199により3回洗浄した。
【0032】
卵丘細胞を除去した卵子(裸化卵子)を、2.5μg/mlサイトカラシンD(SIGMA)を含むFBS-199培地(以下、CD-199と省略する。)に移し、倒立顕微鏡で見ながら、ガラスニードルを装着したマイクロマニピュレータ(ナリシゲ)を使用して、裸化卵子の極体付近の透明帯を切開した。第一極体及び中期板を含む細胞質をガラス棒で透明帯外に押し出して、パスツールピペットによりピペッティングし、除核未受精卵子と細胞質とを分離することによって、除核未受精卵子を調製した。
【0033】
なお、20μg/mlヘキスト33342(SIGMA)を添加したFBS-199に、押し出された細胞質を移して30分間の染色したのち、蛍光顕微鏡下で細胞質内にヘキスト染色された核を示す青色蛍光を観測することによって、除核を確認した。
【0034】
(4)核移植胚の作製及び活性化
内径15μmのマイクロインジェクション用ガラスピペットを使用して、CD-199中の除核未受精卵子の囲卵腔に、ドナー細胞を注入した。続いて、体外成熟24時間目にドナー細胞を注入した除核未成熟卵子を、Willadsen細胞融合培地(0.3Mマンニトール,0.1mM MgSO4,0.05mM CaCl2)に移し、細胞融合装置(LF101、株式会社ベックス)を使用して200V/mm、10μ秒間の直流電気刺激を加え、ドナー細胞と卵子を融合することで核移植胚を作製した。
【0035】
細胞融合してから10分以内に、直流電気刺激装置(ECF2001、理工化学研究所)を使用して、作製した核移植胚に100V/mm、60μ秒間の直流電気刺激を加えた。10μg/mlシクロヘキシミド(以下、CHXと省略する。)を添加したM199培地(以下、CHX-199と省略する。CDは含んでいない。)に核移植胚を移したのち、1時間培養した。5μMのイオノフォア(A23187、SIGMA)を添加したDPBSに核移植胚を移して5分間暴露した。核移植胚をCHX-199に移したのち、5時間培養して、eG01期に同調したドナー細胞に由来する核移植胚(eG1-NT胚)及びG0期に同調したドナー細胞に由来する核移植胚(G0-NT胚)を得た。
【0036】
(5)体外受精胚の作製
密度勾配遠心分離(90%:45%(V/V)パーコール)して、雄牛の凍結精子から運動精子を分離した。この運動精子(1×106/ml)と(3)と同様にして得られた成熟卵丘卵子複合体とを6時間共培養して、体外受精胚(IVF胚)を作製した。
【0037】
(6)胚の培養、移植、及び回収
食肉処理場で採取した牛卵巣を氷上で保温のうえ実験室に持ち帰り、卵管上皮組織片を摘出した。卵管の周りにある結合組織を鋏で除去した。5%(V/V)FBSを添加したDPBS(以下、FBS-DPBSと省略する。)とともに、上皮細胞を15mlの遠心管に移した。FBS-DPBS中で遠心分離(180×g、5分)により上皮細胞を3回洗浄したのち、FBS-199中で同様にして3回洗浄した。
【0038】
洗浄後、1mlのFBS-199に上皮細胞を再度懸濁した。懸濁液の一部(0.3ml)を3mlのFBS-199で希釈して、一晩培養した(5% CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)。遠心分離により繊毛上皮細胞を回収したのち、5%(V/V)子牛血清(以下、CSと省略する。)をCR1aa培地に添加した培地(以下、CS-CR1aaと省略する。)中で遠心分離により3回洗浄して、700μlのCS-CR1aaに懸濁した。
【0039】
上皮細胞を含む懸濁液と核移植胚、上皮細胞を含む懸濁液と体外受精胚を、それぞれ4ウェルプレートに移して6-7日間共培養した(5% CO2、95%空気、39℃、飽和湿度)。発生した胚を、排卵後6±1日のホルスタイン種雌牛(仮親)に非外科的な方法で移植した。
【0040】
移植して7日後、1mg/ml ポリビニルアルコールを含む乳酸リンゲル液(テルモ)を胚収集カテーテルにより、仮親の子宮角を灌流し、移植した14日目胚を回収した。回収した移植胚は同じ培地で洗浄した。なお、胚の回収には、先端を切断して大きく(約4×10mm)した16ゲージの胚収集カテーテル(ニプロ)を使用した。
【実施例2】
【0041】
2.プロテオーム解析
(1)栄養膜細胞の採取と蛋白質の抽出
微小メスを使用して胚の一部を切開し、栄養膜細胞を採取した。採取した栄養膜細胞は、抽出液(420mg/ml尿素, 140.3mg/mlチオ尿素, 40mg/ml CHAPS,0.5%,IPG緩衝液(IPG Buffer pH 4-7 NL,GEヘルスケア株式会社製),0.05% Tributylphosphin(ナカライテスク社製、以下、TBPと省略する。)、1%蛋白質分解酵素阻害剤(Calbiochem),0.001%ブロモフェノールブルー(ナカライテスク社製、以下、BPBと省略する。),0.37mg/ml EDTA(ナカライテスク社製)を含む。)に懸濁し、超音波処理して細胞膜を破壊した。
【0042】
細胞破砕液を遠心分離(4℃、18,120×g、5分間)して沈殿を除去し、その上清を回収してサンプルとした。最後に、プロテインアッセイ(バイオラド社製)と吸光光度計(DU640,Beckman社製)を使用して、Bradford変法により蛋白質濃度を測定した。測定の結果、一サンプルあたり0.2mg以上の蛋白質を抽出したことを確認した。なお、測定の標準蛋白質としてγ-グロブリン(ナカライテスク社製)を使用し、595nmの吸光度を測定した。
【0043】
(2)二次元電気泳動
1)一次元目(等電点電気泳動)
(1)で得たサンプルを膨潤液(420mg/ml尿素,140.3mg/mlチオ尿素, 40mg/ml CHAPS,0.5% IPG緩衝液,0.05% TBP,0.001% BPB,0.37mg/ml EDTAを含む。)に蛋白質濃度が166.7mg/mlとなるように混和・希釈した。サンプルを含む膨潤液300μl(蛋白質50μg)を膨潤トレイ(アナテック社製)に注入し、その上側からドライストリップゲル(Immobiline DryStrip pH4-7 NL 13cm,GEヘルスケア株式会社製)で覆った。
【0044】
ドライストリップの乾燥を防ぐため、ドライストリップの上にシリコンオイル(信越化学工業株式会社製)を重層するとともに、膨潤トレイにカバーをして10時間以上静置し、ドライストリップを膨潤させた。ドライストリップをMultiphor II(GEヘルスケア株式会社製)にセットして、15℃、18kVhで等電点電気泳動した。
【0045】
2)二次元目(SDS-PAGE)
等電点電気泳動が完了したドライストリップをSDS平衡化緩衝液(a)(6.057mg/ml Tris-HCl(pH8.0), 360.4mg/ml Urea, 30%グリセロール, 20mg/ml SDS, 10mg/ml DTTを含む。)に15分間浸透し、SDS平衡化緩衝液(a)を捨て、SDS平衡化緩衝液(b)(6.057mg/ml Tris-HCl(pH8.0),360.4mg/ml Urea,30% グリセロール,20mg/ml SDS,25mg/ml ヨードアセトアミドを含む。)に15分間浸透して平衡化した。平衡化したドライストリップをSDS-PAGEゲル(ゲル濃度10%)の上部に置いた。
【0046】
スラブ電気泳動叢装置(Dual 160、アナテック)にゲルをセットして、泳動バッファー(3mg/mlトリス,14.4mg/mlグリシン,1mg/ml SDS)を満たし、ゲル一枚につき30mAで約150分間、BPBバンドがゲル下端に見えるまで泳動した。
【0047】
3)染色
電気泳動が完了したゲルをプラスチック容器に移し、ゲルが充分に浸る量(約200ml)の固定液(10%メタノール、7%酢酸水溶液)を加え、室温で30分間静かに振盪した。固定液を新しいものに交換し、さらに、室温で30分間静かに振盪した。
【0048】
プラスチック容器から固定液を捨て、20分間超純水中で振盪後、充分に水分を取り除き、SYPRO Ruby染色液(登録商標、Molecular Probes)を加え、プラスチック容器全体を遮光するため、アルミホイルで覆った。プラスチック容器を、室温で12時間静かに振盪した。
【0049】
プラスチック容器から染色液を除き、ゲルが充分浸る量の脱色液(10%エタノール)を加え、プラスチック容器全体を遮光するため、アルミホイルで覆った。プラスチック容器を、室温で30分間静かに振盪し、超純水中で1時間振盪した。なお、染色したゲルは後述の画像解析に使用するまで、超純水中で保存した。
【0050】
(3)画像解析
染色したゲルからゲル画像撮影装置(アルファイメージャー,アルファイノテック社製)を使用して泳動画像を取り込んだ。取り込んだ画像は、画像解析ソフト(Progenesis TT900およびPG220, PerkinElmer社製)を使用して蛋白質スポットの検出、ゲル間での蛋白質スポットのマッチング、各スポットの定量をおこなった。
(4)統計解析
各実験区で得られたスポットの定量値について、分散分析の後、FisherのPLSDにより比較をおこなった(Stat View、SAS Institute製)。
【0051】
その結果、図1に示すように、IVF胚およびeG1-NT胚で高発現し、G0-NT胚で低発現している4種類の蛋白質が見つかった。また、図2に示すように、IVF胚およびeG1-NT胚で低発現し、G0-NT胚で高発現している2種類の蛋白質も見つかった。なお、図1および図2で示した各蛋白質の発現量を表1及び表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【実施例3】
【0054】
3.蛋白質の同定
実施例2で発現量に差のあった18の蛋白質スポットについて、二次元電気泳動して染色したゲルから抽出し、質量分析法を利用して同定した。具体的には、以下の手順で行った。
【0055】
(1)ゲルからの抽出
ゲルから特定の蛋白質スポットを含む部分をピンセットで切り出し、切り出したゲルを96穴MTPプレートのウェルに入れ、脱色液A(50%メタノール、23.7mg/ml重炭酸水素アンモニウムを含む溶液)0.1ml中に20分間3回浸した。脱色液Aを除去し、100%アセトニトリル0.1ml中に5分間浸した。アセトニトリルを蒸発させ、ゲルを完全に乾燥させた。乾燥させたゲルに、トリプシン溶液(0.83μg/mlトリプシン(Sequencing grade Trypsin,Promega社製),5.9mg/ml炭酸水素アンモニウム)30μlを加え、30℃で一晩反応させ、抽出液を得た。
【0056】
(2)脱塩及び濃縮
マイクロピペットの先端にZipTipμC18ピペットチップ(登録商標,日本ミリポア)を取り付け、90%アセトニトリル水溶液を3回ピペッティングしてピペットチップを洗浄したのち、0.1%トリフルオロ酢酸(以下、TFAと省略する。)水溶液を3回ピペッティングしてピペットチップを平衡化した。洗浄・平衡化したピペットチップで抽出液を数回ピペッティングして、抽出液に含まれる蛋白質分解物をピペットチップ中の樹脂に結合させた。このピペットチップで洗浄液(0.1%TFA水溶液)を数回ピペッティングして、ピペットチップに残っている塩分を洗い流した。最後に、このピペットチップからマトリックス溶液(2mg/ml CHCA,0.1%TFA,70%アセトニトリルを含む溶液)1μlで蛋白質分解物を溶出した。
【0057】
(3)質量分析
蛋白質分解物を含む溶出液1μlをMALDI-TOF/TOF型質量分析計(Applied Biosystems 4700 Proteomics Analyzer,アプライドバイオシステムズ社製)のターゲットプレートに添加し、常温で静置して結晶化させ、MSスペクトルとMS/MSスペクトルを測定した。
【0058】
(4)蛋白質の同定
質量分析によって得られたMSスペクトルとMS/MSスペクトルのデータをMASCOT(Matrix Science社)に入力して、Swiss Prot (http://au.expasy.org/sprot/)やNCBInr (http://au.expasy.org/sprot/)などの公共の蛋白質配列データベースを使用して、ペプチドマスフィンガープリント(PMF)分析、MS/MSイオンサーチ分析などのデータベース検索を行って、蛋白質を同定した。
【0059】
その結果、図1(a)の蛋白質スポットは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するHeat shock 70kD protein 5、図1(b)の蛋白質スポットは配列番号2に示すアミノ酸配列を有するKeratin,type II cytoskeletal 8、図1(c)の蛋白質スポットは配列番号
3に示すアミノ酸配列を有するATP synthase subunit beta, mitochondrial precursor、図1(d)の蛋白質スポットは配列番号4に示すアミノ酸配列を有するEndoplasmin precursorであることが分かった。
【0060】
また、図2(a)の蛋白質スポットは、配列番号5に示すアミノ酸配列を有するKeratin,type I cytoskeletal 19、図2(b)の蛋白質スポットは配列番号6に示すアミノ酸配
列を有するPREDICTED:similar to Tubulin alpha-2 chain isoform 8であることが分かった。
【0061】
このように配列番号1から配列番号6に記載の蛋白質の発現量を比較すると、eG1-NT胚とIVF胚との間では同じような傾向があるのに対して、GO-NT胚とIVF胚との間ではその傾向が異なっていることが分かった。
【0062】
一方、前記のように、胚の個体発生能力はIVF胚、eG1-NT胚、GO-NT胚の順で低くなることがすでに分かっている。そのため、配列番号1から配列番号6に記載の蛋白質の発現量を測定することにより、核移植胚の個体発生能力を予測することができることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】IVF胚、eG1-NT胚で高発現し、G0-NT胚で低発現しているスポットの二次元電気泳動像である。
【図2】IVF胚、eG1-NT胚で低発現し、G0-NT胚で高発現している蛋白質スポットの二次元電気泳動像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の核移植胚から栄養膜細胞を採取する採取工程と、
採取した栄養膜細胞における、
(a)配列番号1から配列番号6の何れかに記載のアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、若しくは置換されたアミノ酸配列を有する蛋白質の発現量、又は、
(b)前記蛋白質をコードする遺伝子の転写量、
を測定する測定工程と、
を含む哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法。
【請求項2】
請求項1に記載の哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法により選抜される非ヒト哺乳動物核移植胚。
【請求項3】
請求項2に記載の非ヒト哺乳動物核移植胚から作出されるクローン非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
請求項1に記載の哺乳動物核移植胚のスクリーニング方法に使用するスクリーニングキット。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−75099(P2010−75099A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247956(P2008−247956)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(000201641)全国農業協同組合連合会 (69)
【Fターム(参考)】