説明

嚥下障害を治療するためのシステム及び方法

被験者12の嚥下障害が治療される。この嚥下障害の治療は、被験者に嚥下を促す合図を被験者12に供給し、その合図に対する被験者12の反応を監視することを含む。この被験者12の嚥下機能は、単一の治療セッションにわたり及び/又はある期間にわたり分析され、被験者12の一般的な経過を評価する。治療中、被験者12の気道に呼吸可能な加圧した流れが供給される。この呼吸可能ガスの加圧した流れが、例えば呼吸の短さのような、被験者12の嚥下障害と関連付けられる何らかの不快感を取り除き、被験者12における呼吸及び嚥下の協調を向上させるための治療を供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸サイクルと連係している時点において被験者に嚥下(swallow)を促し、次いで嚥下に対する被験者の反応を監視することによる嚥下障害(dysphagia)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
嚥下障害は、嚥下の機能不全である。嚥下障害は、神経学的、構造的及び/又は認識の障害を持つ被験者に共通して存在している。嚥下障害の患者の生活の質に対する影響はかなりのものである。例えば、嚥下障害で苦しむ患者は、慢性的な栄養失調、脱水症、発育障害、嚥下性肺炎及び慢性肺疾患の悪化の影響を受ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的に、嚥下障害に対する従来の治療は、食習慣の改善、姿勢の変更のような代償法、嚥下筋のストレッチ運動のような間接療法、及び嚥下中の運動のような直接療法を含む。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のある態様は、被験者の嚥下障害を治療するために構成されるシステムに関する。ある実施例において、前記システムは、ユーザインタフェース、センサ及び処理器を有する。このユーザインタフェースは、被験者に情報を搬送するために構成される。前記センサは、嚥下している状態を示す出力信号を発生させるために構成される。前記処理器はコンピュータプログラムモジュールを実施するために構成される。このコンピュータプログラムモジュールは、嚥下合図モジュール及び嚥下モジュールを有する。前記嚥下合図モジュールは、前記ユーザインタフェースを制御して、被験者が嚥下を試みるべきことを示す嚥下の合図を被験者に供給するために構成される。前記嚥下モジュールは、ユーザインタフェースにより前記被験者に供給される嚥下の合図に対する前記被験者の反応を決めるために構成され、前記嚥下モジュールは、センサの出力信号に基づいて前記被験者の反応を決める。
【0005】
本発明の他の態様は、被験者の嚥下障害を治療する方法に関する。ある実施例において、前記方法は、被験者が嚥下をしているかを示す出力信号を発生させるステップ、被験者が嚥下を試みるべきことを示す嚥下の合図を前記被験者に供給するステップ、及びセンサの出力信号に基づいて前記被験者に供給される前記嚥下の合図に対する前記被験者の反応を決めるステップ、を有する。
【0006】
本発明のさらに他の態様は、被験者の嚥下障害を治療するために構成されるシステムに関する。ある実施例において、前記システムは、被験者が嚥下をしているかを示す出力信号を発生させる手段、被験者が嚥下を試みるべきことを示す嚥下の合図を前記被験者に供給する手段、及びセンサの出力信号に基づいて前記被験者に供給される前記嚥下の合図に対する前記被験者の反応を決める手段を有する。
【0007】
本発明のこれら及び他の目的、特性及び特徴、並びに動作の方法、構成の関連する要素の機能、部分の組み合わせ及び製造の経済性は、添付する図面を参照して、以下の開示及び付随する請求項を考慮すると、より明らかとなり、これらの全てが本明細書の一部を形成し、同様の参照番号は様々な図面において対応する部分を示している。本発明のある実施例において、ここに説明される構造成分は一定の縮尺で描いている。しかしながら、これら図面は単に説明及び描写を目的とするものであり、本発明を制限するのではないことを特に理解すべきである。加えて、ここにある何れか1つの実施例に示される又は開示される構造上の特徴は、同様に他の実施例において用いられることを分かるべきである。しかしながら、前記図面は単に説明及び描写を目的とするものであり、本発明の限定を定義するとは意図されないことを特に理解すべきである。明細書及び請求項において使用されるように、複数あることを述べないことは、その文脈が他にはっきり述べない限り、複数あることも含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の1つ以上の実施例に従って、被験者の嚥下障害を治療するために構成されるシステムを説明している。
【図2】被験者が嚥下するとき、時間に対する被験者の気道における気流のプロットを説明している。
【図3】被験者が嚥下するとき、時間に対する被験者の気道における気流のプロットを説明している。
【図4】被験者が嚥下するとき、時間に対する被験者の気道における気流のプロットを説明している。
【図5】本発明の1つ以上の実施例に従って、治療中の、時間に対する被験者の気道に送達される呼吸可能ガスの加圧した流れの圧力のプロットを説明している。
【図6】本発明の1つ以上の実施例に従って、治療中の、時間に対する被験者の気道に送達される呼吸可能ガスの加圧した流れの圧力のプロットを説明している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、被験者12の嚥下障害を治療するために構成されるシステム10を説明している。この嚥下障害の治療は、被験者12に嚥下を促す合図を被験者12に供給し、その合図に対する被験者12の反応を監視することを含む。この被験者12の嚥下機能は、単一の治療セッションにわたり及び/又はある期間にわたり分析され、被験者12の全般的な経過を評価する。前記システム10は、前記治療中、被験者12の気道に呼吸可能ガスの加圧した流れを供給する。この呼吸可能ガスの加圧した流れが、例えば嚥下により生じる呼吸の短さ(shortness)のような、被験者12の嚥下障害と関連付けられる何らかの不快感を取り除くことがある。ある実施例において、システム10は、圧力発生器14、電子記憶装置16、ユーザインタフェース18、1つ以上のガスパラメタセンサ20、1つ以上の嚥下センサ22、処理器24及び/又は他の構成要素の1つ以上を含む。
【0010】
ある実施例において、圧力発生器14は、被験者12の気道に送出するための呼吸可能ガスの加圧した流れを発生させるために構成される。この圧力発生器14は、治療を目的に又は他の目的のために、この呼吸可能ガスの加圧した流れの1つ以上のパラメタ(例えば流速、圧力、体積、湿度、温度、ガスの組成等)を制御してもよい。限定されない例として、圧力発生器14は、前記呼吸可能ガスの加圧した流れの圧力を制御して、被験者12の気道に圧力の支援を提供する。圧力発生器14は、例えば参照することによりそのまま組み込まれる米国特許番号6,105,575号に開示される装置のような陽圧発生器を含んでもよい。
【0011】
呼吸可能ガスの加圧した流れは、被験者インタフェース26を介して被験者12の気道に送出される。被験者インタフェース26は、圧力発生器14により発生した呼吸可能ガスの加圧した流れを被験者12の気道に伝えるために構成される。そのようなものとして、被験者インタフェース26は、導管28及びインタフェース器具30を含む。導管は、前記呼吸可能ガスの加圧した流れをインタフェース器具30に搬送し、インタフェース器具30は、この呼吸可能ガスの加圧した流れを被験者12の気道に送出する。インタフェース機器30の幾つかの例は、例えば、鼻カニューレ(nasal cannula)、鼻マスク、鼻/口マスク、フルフェイスマスク、トータルフェイスマスク又はガスの流れを被験者の気道に伝える他のインタフェース機器を含んでもよい。本発明は、これらの例に限定されず、何らかの被験者インタフェースを用いて、被験者12への呼吸可能ガスの加圧した流れの送出を考慮している。
【0012】
ある実施例において、電子記憶装置16は、情報を電子で記憶する電子記憶媒体を有する。電子記憶装置16の電子記憶媒体は、システム10を一体化して備える(すなわち実質的に取り外しできない)システム記憶媒体、及び/又は例えばポート(USBポート、ファイヤワイヤポート等)又はドライブ(ディスクドライブ等)を介してシステム10に取り外し可能に接続可能である取り外し可能媒体の一方又はそれら両方を含んでもよい。電子記憶装置16は、光学的に読み取り可能な記憶媒体(例えば光ディスク等)、磁気的に読み取り可能な記憶媒体(例えば磁気テープ、磁気ハードドライブ、フロッピー(登録商標)ドライブ等)、電荷ベースの記憶媒体(例えばEEPROM、RAM等)、ソリッドステート記憶媒体(例えばフラッシュドライブ等)及び/又は他の電子的に読み取り可能な記憶媒体の1つ以上を含んでもよい。電子記憶媒体16は、ソフトウェアアルゴリズム、処理器24により決められる情報、ユーザインタフェース18を介し受信される情報及び/又はシステム10が適切に機能することを可能にする他の情報を記憶してもよい。電子記憶装置16は、システム10内にある別個の構成要素(全部又は一部として)でもよいし、又は電子記憶装置16は、システム10の他の1つ以上の構成要素(例えば発生器14、ユーザインタフェース18、処理器24等)を(全部又は一部として)一体化して備えてもよい。
【0013】
ユーザインタフェース18は、システム10と被験者12との間にインタフェースを設けるために構成され、このインタフェースを介して、被験者12は、情報をシステム10に供給し、情報をこのシステム10から受信する。これは、集約的に"情報"と呼ばれる、データ、合図、結果及び/又は指示、並びに他の如何なる伝達可能な項目が被験者12と、発生器14、電子記憶装置16及び/又は処理器24の1つ以上との間において伝えられることを可能にする。ユーザインタフェース18に含むのに適したインタフェース装置の例は、キーパッド、ボタン、スイッチ、キーボード、ノブ、レバー、表示スクリーン、タッチ式スクリーン、スピーカ、マイク、インジケーターライト、音声アラーム、プリンター、触覚フィードバック装置及び/又は他のインタフェース装置を含む。ある実施例において、ユーザインタフェース18は、複数の個別のインタフェースを含んでいる。ある実施例において、ユーザインタフェース18は、発生器14を一体化して備える少なくとも1つのインタフェースを含む。
【0014】
有線又はワイヤレスの何れか一方の他の伝達技術もユーザインタフェース18として、本発明により考察されてもよいことを理解すべきである。例えば、本発明は電子記憶装置16により設けられる取り外し可能な記憶媒体のインタフェースと一体化されてもよい。本実施例において、ユーザがシステム10の実施をカスタマイズすることを可能にする情報が取り外し可能な記憶媒体(例えばスマートカード、フラッシュドライブ、取り外し可能なディスク等)からシステム10にロードされてもよい。ユーザインタフェース18としてシステム10と共に使用するのに適した他の例示的な出力装置及び技術は、RS−232ポート、RFリンク、IRリンク、モデム(電話、ケーブル又はその他)を含むが、それらに限定されない。要するに、システム10と情報を伝達するための如何なる技術もユーザインタフェース18として本発明により考慮される。
【0015】
ガスパラメタセンサ20は、呼吸可能ガスの加圧した流れの1つ以上のパラメタに関する情報を搬送する1つ以上の出力信号を発生させるために構成される。これら1つ以上のパラメタは例えば、流速、体積、圧力、組成(例えば1つ以上の成分の濃度)、湿度、温度、加速度、速度、音質、呼吸を示すパラメタの変化及び/又は他のガスパラメタの1つ以上を含んでもよい。これらガスパラメタセンサ20は、(例えば、圧力発生器14又は被験者インタフェース26における呼吸可能ガスの加圧した流れとの流体連結によって)上記パラメタを直接測定する1つ以上のセンサを含んでもよい。ガスパラメタセンサ20は、呼吸可能ガスの加圧した流れの1つ以上のパラメタに関する出力信号を間接的に発生させる1つ以上のセンサを含んでもよい。例えば、ガスパラメタセンサ20の1つ以上は、圧力発生器14の動作パラメタ(例えばバルブドライバ又はモーター電流、電圧、回転速度及び/又は他の動作パラメタ)及び/又は他のセンサに基づいて出力を発生させてもよい。ガスパラメタセンサ20が圧力発生器14にある又はそれに隣接する単一場所に描かれていたとしても、これは限定していると意図されない。ガスパラメタセンサ20は、例えば圧力発生器14内に、導管28内に(又はそれと連通して)、インタフェース器具30内に(又はそれと連通して)及び/又は他の場所のような複数の場所に置かれるセンサを含んでもよい。
【0016】
嚥下センサ22は、被験者12が嚥下している状態を示す1つ以上の出力信号を発生させるために構成される。この嚥下している状態は、被験者が嚥下をしているかどうか、及び/又は他の状態を含む。限定されない例として、嚥下センサ22は、被験者12の頸部に若しくはその近くに取り付けられる1つ以上の筋電図センサ、被験者12の頸部に若しくはその近くに取り付けられる1つ以上のマイク、被験者12の頸部に若しくはその近くに取り付けられる1つ以上の振動検知器及び/又は他のセンサを含んでもよい。ある実施例において、嚥下センサ22がガスパラメタセンサ20から離れているように図1において描かれていたとしても、嚥下センサ22の幾つか又は全てはガスパラメタセンサ20に含まれている。嚥下は被験者12に呼吸を一瞬止めさせるので、ガスパラメタセンサ20により生成された出力信号は、被験者12が嚥下している(例えば一瞬呼吸を止めた)かどうかについて表示する。
【0017】
処理器24は、システム10に情報処理機能を提供するために構成される。そのようなものとして、処理器24は、デジタル処理器、アナログ処理器、情報を処理するために設計されたデジタル回路、情報を処理するために設計されたアナログ回路、ステートマシン(state machine)及び/又は情報を電子的に処理するための他の機構の1つ以上を含んでもよい。処理器24が単一のエンティティとして図1に示されていたとしても、これは単に説明を目的とするためだけである。幾つかの実施において、処理器24は複数の処理ユニットを含んでもよい。これら処理ユニットは、同じ装置(例えば圧力発生器14)内に物理的に置かれてもよいし、又は処理器24は、協働して動作する複数の装置からなる処理機能を示してもよい。
【0018】
図1に示されるように、処理器24は、1つ以上のコンピュータプログラムモジュールを実施するために構成されてよい。これら1つ以上のコンピュータプログラムモジュールは、呼吸パラメタモジュール32、発生器制御モジュール34、嚥下合図モジュール36、嚥下反応モジュール38、パフォーマンス評価モジュール40、治療モジュール42及び/又は他のモジュールの1つ以上を含んでよい。処理器24は、ソフトウェア;ハードウェア;ファームウェア;ソフトウェア、ハードウェア及び/又はファームウェアの何らかの組み合わせ、及び/又は処理器24上に処理能力を構成するための他の機構により、これらモジュール32、34、36、38、40及び/又は42を実施するように構成されてよい。
【0019】
モジュール32、34、36、38、40及び42は、単一の処理ユニット内に共同設置されているように図1に描かれていたとしても、処理器24が複数の処理ユニットを含んでいる実施において、モジュール32、34、36、38、40及び/又は42の1つ以上が他のモジュールから離れて置かれてもよい。以下に説明される別々のモジュール32、34、36、38、40及び/又は42により供給される機能の説明は、説明を目的とするものであり、モジュール32、34、36、38、40及び/又は42の何れかが説明したよりも多くの又は少ない機能を提供してもよいので、限定を意図しているのではない。例えば、モジュール32、34、36、38、40及び/又は42の1つ以上が消去されてもよいし、モジュールの機能の幾つか若しくは全てがモジュール32、34、36、38、40及び/又は42の他のモジュールにより供給されてもよい。他の例として、処理器24は、モジュール32、34、36、38、40及び/又は42の1つにある機能の幾つか若しくは全てを行ってもよい1つ以上の追加のモジュールを実施するために構成されてもよい。
【0020】
呼吸パラメタモジュール32は、被験者12の呼吸の1つ以上の呼吸パラメタを決めるために構成される。この呼吸パラメタモジュール32は、ガスパラメタセンサ20により生成される出力信号に基づいて被験者12の呼吸の1つ以上の呼吸パラメタを決める。呼吸パラメタモジュール32により決められた前記1つ以上の呼吸パラメタは、1回の換気量(tidal volume)、最大流量、呼吸数、呼吸が遷移するタイミング(例えば吸気(inspiratory)から呼気(expiratory)まで、呼気から吸気まで及び/又は他の遷移)、流れの輪郭、流れの制限及び/又は他の呼吸パラメタの1つ以上を含んでよい。
【0021】
発生器制御モジュール34は、治療モードに従って呼吸可能ガスの加圧した流れの前記パラメタを調整するように圧力発生器14を制御するために構成される。1つの上記モードの限定されない例は、持続性気道陽圧(CPAP)である。CPAPは、何年間も使用されていて、規則的な呼吸を促すのに役立つことが証明されている。前記呼吸可能ガスの加圧した流れを発生させるための他のモードは、二相性気道陽圧(BiPAP)である。二相性気道陽圧モードにおいて、陽圧の2つのレベル(ハイ及びロー)が患者に与えられる。呼吸可能ガスの加圧した流れを発生させる他のモードが考慮される。一般的に、圧力のハイ及びローのレベルのタイミングは、(吸気気道陽圧又はIPAPとして知られる)ハイのレベルの陽圧が吸気中に被験者12に送出されるように、及び(呼気気道陽圧又はEPAPとして知られる)ローのレベルの圧力が呼気中に被験者12に送出されるように制御される。治療モードに従って呼吸可能ガスの加圧した流れのパラメタに対する調整のタイミングは、呼吸パラメタモジュール32により決められる1つ以上の呼吸パラメタに基づいて発生器制御モジュール34により決められてもよい。
【0022】
1つ以上の実施例において、嚥下障害に対する患者12の治療は、被験者12の気道に前記呼吸可能ガスの加圧した流れを送出することなく(例えば圧力発生器14及び/又は発生器制御モジュール34を用いずに)実施されてもよいことが分かる。しかしながら、前記呼吸可能ガスの加圧した流れの送出は、治療中の被験者12による呼吸を容易にする。嚥下により生じる呼吸の短さは、嚥下障害で苦しんでいる被験者によく見られるので、前記呼吸可能ガスの加圧した流れの送出は、嚥下を被験者12にとってもっと楽にさせ、被験者12が呼吸以外の嚥下の様相(例えば筋肉の制御、連係等)に集中することを可能にする。呼吸可能ガスの加圧した流れの送出が呼気を長くして、これは(例えば以下に論じられるように)被験者12による適切な嚥下をさらに容易にする。
【0023】
嚥下合図モジュール36は、被験者12が嚥下を試みるべきであることを示す、被験者12に供給されるべき嚥下の合図の発生を制御するために構成される。呼吸の合図は、嚥下合図モジュール36の制御下において、ユーザインタフェース18により発生してもよい。嚥下の発生を制御するとき、嚥下合図モジュール36は、嚥下の合図が発生すべき時点を決定し、その決定した時点において嚥下の合図の発生を開始する。この嚥下合図モジュール36は、呼吸パラメタモジュール32により決められた1つ以上の呼吸パラメタ及び/又は嚥下応答モジュール38により決められた嚥下パラメタに基づいて、嚥下の合図が発生すべき時点を決定する。
【0024】
嚥下障害を持つ被験者はしばしば、嚥下のタイミングを呼吸にちゃんと合わせることができず、これは呼吸の短さ、吸気、咳、息苦しさ及び/又は他の影響をもたらす。説明として、図2から図4は、健康な被験者(例えば嚥下障害に苦しんでいない被験者)の呼吸に与える嚥下の影響を示す時間に対する気流のプロットを描いている。特に、図2は、呼気の間に嚥下する通常の被験者が嚥下をするために呼気を止め、次いで吸気を始める前に、呼気を再開する方法を示す。図3は、健康な被験者において、呼気の終わりに起こる嚥下は、(例えば図2に示されるような)呼気の早めに起こる嚥下よりも短く、吸気が始まる前に、呼気の短い再開がまだ続く方法を示す。図4は、健康な被験者に対する、吸気中の嚥下が呼吸サイクルをリセットする方法を示す。
【0025】
図1に戻って、ある実施例において、嚥下合図モジュール36は、被験者12による呼気の真ん中で又は真ん中近くで嚥下の合図を開始するために構成される。説明として、図5は、時間に対する呼吸可能ガスの加圧した流れの圧力のプロットである。この呼吸可能ガスの加圧した流れの圧力は、治療を受けている被験者の呼吸サイクルの指標として設けられる。そのようなものとして、図5に関して以下に述べられる原理は、前記呼吸可能ガスの加圧した流れが発生しない及び/又は被験者に送出されない実施例にも引き続き適用される。図5のプロットは、嚥下の合図が発生する3つの呼吸サイクル44、46及び48を示す。連続している3つの呼吸サイクルの描写が描かれていることが分かる。図5に描かれるこれら3つの呼吸サイクルは、実際に連続して起こり、示される通り、1回の治療セッション及び/又は別々の治療セッションずつ離されている。
【0026】
第1の呼吸サイクル44において、嚥下の合図は第1の時点50で発生する。第2の呼吸サイクル46において、嚥下の合図は第2の時点52で発生する。第3の呼吸サイクル48において、嚥下の合図は第3の時点54で発生する。これらの時点50、52及び54が決められてもよいし、及び/又は嚥下の合図の発生が嚥下合図モジュール36と同じ又はそれに類似する嚥下合図モジュールによって制御されてもよい。図5に見られるように、これらの時点50、52及び54は、呼気又は呼吸サイクル44、46及び48における決められた時点(例えば患者の圧力が決められたレベルまでの落ち込んだ時点)に合わせられる。
【0027】
第1の時点50で発生した嚥下の合図に対する被験者の反応は、潜伏期間(time of latency)を持っている。被験者が経験する嚥下障害は、嚥下の合図に対する被験者の反応の前記潜伏期間を増大させる傾向がある。図5に見られるように、この潜伏期間は、前記嚥下の合図に対する嚥下の反応を、さもないと吸気によるものにまで引き継がせる。
【0028】
第2の呼吸サイクル46において、呼吸可能ガスの加圧した流れは、呼気の時間を増大させるよう調整される。このような調整は、例えば発生器制御モジュール34(図1参照)と同じ又はそれに類似する発生器制御モジュールにより行われてよい。この呼気の時間の増大は、第2の呼吸サイクル46の吸気期間の前に、被験者が第2の時点52に対する嚥下の反応を終えることを可能にする。
【0029】
第3の呼吸サイクル48は、システム10(図1参照)と同じ又はそれに類似するシステムにより被験者に送出される治療に反応して、時間と共に被験者により行われる嚥下の能力の改善を説明している。これらの改善は、第3の時点54において嚥下の合図を受信したとき、前記嚥下の応答の潜伏期間の減少を含んでいる。
【0030】
図1に戻って、嚥下反応モジュール38は、システム10により発生する嚥下の合図に対する被験者12の反応を決めるために構成される。これは、嚥下の始まり、嚥下の終わり、嚥下を行うのに必要とされる時間量、対応する嚥下の合図に対する嚥下の反応の潜伏期間及び/又は嚥下の合図に反応して嚥下に関する他の情報を決めることを含んでいる。この嚥下反応モジュール38は、嚥下センサ22により発生した出力信号に基づいて嚥下の合図に対する被験者12の反応を決める。
【0031】
パフォーマンス評価モジュール40は、システム10により施される治療中、被験者12のパフォーマンスを評価するために構成される。これは、単一の嚥下の合図、嚥下の合図の組、単一の治療セッション及び/又は治療セッションの組に関して、被験者12のパフォーマンスを含んでもよい。パフォーマンス評価モジュール40により行われる評価は、嚥下反応モジュール38により行われる嚥下の反応の決定に基づいて、嚥下する被験者12の能力を査定すること、ある期間にわたりシステム10により供給される治療の有効性を査定すること、並びに他の評価を含んでもよい。パフォーマンス評価モジュール40の評価の1つ以上が例えばインタフェース18を介して被験者12、介護従事者、治療決定者及び/又は他のユーザに示されてもよい。
【0032】
治療モジュール42は、システム10により被験者12に施される治療レジメン(therapy regime)の1つ以上のパラメタを設定するために構成される。これら1つ以上のパラメタは、例えば、被験者12に送出される呼吸可能ガスの加圧した流れ、呼吸サイクルに対して嚥下の合図が施される時点のタイミング、嚥下の合図の頻度、治療セッションの長さ及び/又は他のパラメタの1つ以上のパラメタを含んでもよい。前記1つ以上のパラメタの少なくとも1つは、例えば被験者12から、介護従事者から、治療決定者から及び/又は他のユーザから受信した制御入力に基づいて決められてもよい。前記1つ以上のパラメタの少なくとも1つは、パフォーマンス評価モジュール40による被験者12のパフォーマンスの評価に基づいて、治療モジュール42により自動的に決められてもよい。
【0033】
説明として、図6は、ある期間にわたり行われる1つのパラメタ調整を描いている。特に、図6は、呼吸可能ガスの加圧した流れの圧力に対する時間のプロットであり、このプロットは、被験者の嚥下の機能が強くなるにつれて、ある期間にわたり(例えば治療セッション毎に、すなわち単一の治療セッション内において)この圧力がどのように減少するかを描いている。
【0034】
本発明が最も実質的であると共に、好ましい実施例であると現在考えているものに基づいて、説明を目的に詳細に開示したとしても、このような開示は、単に説明を目的としていること、及び本発明は開示した実施例に限定されないが、一方添付した請求項の意図及び範囲内にある修正及び等価の配列にも及んでいると意図されることを理解すべきである。例えば、本発明は、可能な程度で、何れかの実施例の1つ以上の特徴が他の何れかの実施例の1つ以上の特徴と組み合わされることができることを考慮していると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の嚥下障害を治療するために構成されるシステムであり、
被験者に情報を搬送するために構成されるユーザインタフェース、
前記被験者が嚥下をしているかを示す出力信号を発生させるために構成されるセンサ、
コンピュータプログラムモジュールを実施するために構成される処理器を有するシステムにおいて、前記コンピュータプログラムモジュールは、
前記ユーザインタフェースを制御して、前記被験者が嚥下を試みるべきことを示す嚥下の合図を前記被験者に供給するために構成される嚥下合図モジュール、
前記ユーザインタフェースにより前記被験者に供給される嚥下の合図に対する前記被験者の反応を決めるために構成され、前記センサの出力信号に基づいて前記被験者の反応を決める、嚥下モジュール、
を有する、システム。
【請求項2】
前記コンピュータプログラムモジュールはさらに、前記被験者の呼吸の1つ以上の呼吸パラメタを決めるために構成される呼吸パラメタモジュールを有し、及び前記嚥下合図モジュールはさらに、前記ユーザインタフェースを制御して、前記呼吸パラメタモジュールにより決められた前記1つ以上の呼吸パラメタに基づいて決められる時点において前記嚥下の合図を前記被験者に供給するために構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記センサの出力信号は、被験者の呼吸に関する情報を搬送し、前記呼吸パラメタモジュールは、前記センサの出力信号に基づいて前記1つ以上の呼吸パラメタを決めるために構成される、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記コンピュータプログラムモジュールはさらに、前記ユーザインタフェースにより前記被験者に供給される前記嚥下の合図に対する前記被験者の反応を評価するために構成されるパフォーマンス評価モジュールを有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記ユーザインタフェースによる前記被験者への嚥下の合図の供給と同時に、前記被験者の気道に送出するための呼吸可能ガスの加圧した流れを発生させるために構成される圧力発生器をさらに有する請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
被験者の嚥下障害を治療する方法において、
前記被験者が嚥下しているかを示す出力信号を発生させるステップ、
前記被験者が嚥下を試みるべきことを示す嚥下の合図を前記被験者に供給するステップ、及び
センサの出力信号に基づいて、前記被験者に供給される前記嚥下の合図に対する前記被験者の反応を決めるステップ
を有する方法。
【請求項7】
前記被験者の呼吸の1つ以上の呼吸パラメタを決めるステップをさらに有する請求項6に記載の方法において、前記嚥下の合図を供給するステップは、前記決められた1つ以上の呼吸パラメタに基づいて決められる時点において前記嚥下の合図を前記被験者に供給するステップを有する方法。
【請求項8】
前記出力信号は前記被験者の呼吸に関する情報を搬送し、前記1つ以上の呼吸パラメタを決めるステップは、前記出力信号に基づいて前記1つ以上の呼吸パラメタを決めるステップを有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
複数の嚥下の合図に対する前記被験者の反応を評価するステップをさらに有する請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記嚥下の合図を前記被験者に供給するのと同時に、前記被験者の気道に送出するための呼吸可能ガスの加圧した流れを発生させるステップをさらに有する請求項6に記載の方法。
【請求項11】
被験者の嚥下障害を治療するために構成されるシステムにおいて、
前記被験者が嚥下をしているかを示す出力信号を発生させる手段、
前記被験者が嚥下を試みるべきことを示す嚥下の合図を前記被験者に供給する手段、及び
センサの出力信号に基づいて、前記被験者に供給される前記嚥下の合図に対する前記被験者の反応を決める手段
を有するシステム。
【請求項12】
前記被験者の呼吸の1つ以上の呼吸パラメタを決める手段をさらに有する請求項11に記載のシステムにおいて、前記嚥下の合図を供給する手段は、前記決められた1つ以上の呼吸パラメタに基づいて決られる時点において前記嚥下の合図を前記被験者に供給する、システム。
【請求項13】
前記出力信号は前記被験者の呼吸に関する情報を搬送し、前記1つ以上の呼吸パラメタを決める手段は、前記出力信号に基づいて前記1つ以上の呼吸パラメタを決める、請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
複数の嚥下の合図に対する前記被験者の反応を評価する手段をさらに有する請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
前記嚥下の合図を前記被験者に供給するのと同時に、前記被験者の気道に送出するための呼吸可能ガスの加圧した流れを発生させる手段をさらに有する請求項11に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−508063(P2013−508063A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534802(P2012−534802)
【出願日】平成22年10月11日(2010.10.11)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054598
【国際公開番号】WO2011/048524
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】