説明

回折光学素子およびその製造方法

【課題】加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子、および製造コストを抑制しつつ、加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子を製造可能な回折光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】回折光学素子1は、赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部11と溝部12とが繰り返し形成された回折光学素子であって、表面のうち光学有効領域10内の面粗さRaの平均値が0.05μm以下であり、表面のうち光学有効領域内10における面粗さRaの差が0.02μm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回折光学素子およびその製造方法に関し、より特定的には、光学特性に優れた回折光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光の回折現象を利用して光の進行方向を変化させることにより集光等を行なう回折光学素子(Diffractive Optical Element;DOE)が注目されている。この回折光学素子は、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成されており、その加工精度が光学特性に大きな影響を及ぼす。そのため、回折光学素子の加工方法に関しては多くの検討がなされ、種々の加工方法が提案されている(たとえば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開平11−197902号公報
【特許文献2】特開平10−138004号公報
【特許文献3】国際公開第2003/055826号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1および2に開示された切削工具を用いた加工方法では、回折光学素子が硬質の素材、たとえばセラミックスからなっている場合、切削工具の摩耗が進行して加工精度が低下するため、回折光学素子の光学特性が低下する。また、切削工具が短期間で摩耗すると、切削工具を頻繁に交換する必要が生じ、生産効率が低下して製造コストが上昇するという問題も生じる。これに対し、特許文献1および2においては、切削工具にダイヤモンド工具を採用する対策等が開示されている。しかし、この対策により、切削工具の摩耗の進行がある程度抑制されるものの、加工精度の上昇は必ずしも十分とはいえない。また、ダイヤモンド工具が採用されることにより、製造コストが上昇するという問題も生じる。
【0004】
一方、上記特許文献3に開示されたセラミックスからなる光学部品の製造方法によれば、セラミックスからなる光学部品が焼結および加圧成形されるため、上記切削工具の摩耗の問題を大幅に抑制することができる。しかしながら、セラミックスからなる回折光学素子の製造プロセスに焼結および加圧成形を採用するのみでは、必ずしも十分な加工精度が得られず、光学特性が十分に向上しない。
【0005】
そこで、本発明の目的は、加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子、および製造コストを抑制しつつ、加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子を製造可能な回折光学素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従った回折光学素子は、赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子である。そして、当該表面のうち光学有効領域内の面粗さRaの平均値が0.05μm以下であり、当該表面のうち光学有効領域内における面粗さRaの差が0.02μm以下である。
【0007】
本発明者は、赤外線を透過可能なセラミックスからなる回折光学素子の加工精度と光学特性との関係を詳細に調査した。その結果、回折光学素子の表面粗さおよび当該表面粗さの部位によるばらつきが、回折光学素子の光学特性に大きな影響を及ぼすことを見出した。そして、回折光学素子の表面のうち光学有効領域内の面粗さRaの平均値を0.05μm以下、当該表面のうち光学有効領域内における面粗さRaの差を0.02μm以下とすることにより、回折光学素子の光学特性を大幅に向上させることが可能となることが分かった。したがって、本発明の回折光学素子によれば、光学特性が大幅に向上した回折光学素子を提供することができる。
【0008】
ここで、光学有効領域とは、光学素子の表面のうち、光学素子の使用状態において光が入射または/および出射可能な領域をいう。また、上記面粗さRaの平均値は、たとえば光学有効領域内の任意の5箇所の面粗さを測定し、その平均を算出することにより調査することができる。さらに、上記面粗さRaの差は、たとえば光学有効領域内の任意の5箇所の面粗さを測定し、その最大値と最小値の差を算出することにより調査することができる。
【0009】
上記回折光学素子において好ましくは、回折光学素子は、セラミックスからなる粉末の焼結体である。そして、回折光学素子の光軸を含む断面における突出部の先端は、当該粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。
【0010】
回折光学素子がセラミックスからなる粉末の焼結体である場合、突出部の先端の加工精度は当該粉末の粒径の影響を受ける。そして、上記突出部の先端が当該粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有していることにより、突出部の先端の加工精度が向上し、回折光学素子の光学特性が向上する。
【0011】
上記回折光学素子において好ましくは、回折光学素子の光軸を含む断面における溝部の底は、上記粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。
【0012】
上記回折光学素子において好ましくは、回折光学素子は、セラミックスからなる粉末の焼結体である。そして、回折光学素子の光軸を含む断面における溝部の底は、当該粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。
【0013】
回折光学素子がセラミックスからなる粉末の焼結体である場合、溝部の底の加工精度も、突出部の先端と同様に、当該粉末の粒径の影響を受ける。そして、上記溝部の底が当該粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有していることにより、溝部の底の加工精度が向上し、回折光学素子の光学特性が向上する。
【0014】
上記回折光学素子において好ましくは、回折光学素子の光軸を含む断面における溝部の底において、光軸から遠い側の面は、底から離れるにしたがって光軸から離れるように傾斜するとともに、光軸から遠い側の面と光軸に平行な直線とは、7°以上75°以下の角度をなしている。
【0015】
これにより、回折光学素子の製造工程において、上記突出部および溝部が型による拘束により成形される場合、当該型による拘束が解除される際の型からの離脱(離型)が容易となる。
【0016】
なお、セラミックスからなる上記回折光学素子は、セラミックスを主成分として含み、残部不純物からなるものであってもよいし、セラミックスを主成分とし、焼結助剤などの添加剤を含み、残部不純物からなるものであってもよい。
【0017】
本発明に従った回折光学素子の製造方法は、赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子の製造方法である。この回折光学素子の製造方法は、セラミックスからなる原料粉末が成形されることにより、成形体が作製される工程と、成形体が熱処理されて焼結前駆体が作製される工程と、焼結前駆体が型により拘束されつつ加圧され、かつ加熱されることにより変形されて、加圧焼結体が作製される工程とを備えている。当該型は、突出部を成形する突出部成形部と、溝部を成形する溝部成形部とを含んでいる。そして、加圧焼結体が作製される工程において型に拘束された焼結前駆体の光軸を含む断面における、型の突出部成形部の底は、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。
【0018】
本発明の回折光学素子の製造方法においては、回折光学素子の突出部および溝部が型により成形される。そして、当該型の突出部成形部の底が、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。そのため、上記焼結前駆体が型により拘束されて変形される際に、焼結前駆体の型への追従性が向上し、加工精度が向上する。さらに、作製された加圧焼結体が型から分離される際の、突出部の先端における欠けの発生が抑制されるため、回折光学素子の加工精度が向上するとともに、型の汚染や損傷が抑制され、型の耐久性が向上して製造コストが抑制される。以上のように、本発明の回折光学素子の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、加工精度を向上させることにより光学特性を向上させた、セラミックスからなる回折光学素子を製造することができる。
【0019】
なお、本発明の回折光学素子の製造方法においては、型の素材として、超硬合金あるいは超硬合金にダイヤモンド状カーボン(Diamond Like Carbon;DLC)や窒化クロム(CrN)などをコーティングしたもの、炭化珪素(SiC)あるいは炭化珪素にCVD(Chemical Vapor Deposition)−SiCなどをコーティングしたもの、黒鉛、炭化硼素(BC)、窒化珪素(Si)、立方晶窒化硼素(cBN)、ガラス状炭素などの高温強度に優れた素材を採用することができる。
【0020】
上記回折光学素子の製造方法において好ましくは、上記焼結前駆体の光軸を含む断面における型の溝部成形部の先端は、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。
【0021】
本発明に従った回折光学素子の製造方法は、赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子の製造方法である。この回折光学素子の製造方法は、セラミックスからなる原料粉末が成形されることにより、成形体が作製される工程と、成形体が熱処理されて焼結前駆体が作製される工程と、焼結前駆体が、型により拘束されつつ加圧され、かつ加熱されることにより変形されて、加圧焼結体が作製される工程とを備えている。当該型は、突出部を成形する突出部成形部と、溝部を成形する溝部成形部とを含んでいる。そして、加圧焼結体が作製される工程において型に拘束された焼結前駆体の光軸を含む断面における、型の溝部成形部の先端は、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。
【0022】
回折光学素子の突出部および溝部が型により成形される場合、型の溝部成形部の先端が、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有していることにより、上述の突出部成形部の場合と同様に、焼結前駆体の型への追従性が向上し、加工精度が向上する。さらに、焼結前駆体に対して型が接触する際、溝部成形部の先端への応力集中が緩和され、当該溝部成形部の先端における型の損傷が抑制されるため、回折光学素子の加工精度が向上するとともに、型の耐久性が向上して製造コストが抑制される。
【0023】
上記回折光学素子の製造方法において好ましくは、上記型に拘束された焼結前駆体の光軸を含む断面における溝部成形部の先端において、光軸から遠い側の面は、先端から離れるにしたがって光軸から離れるように傾斜するとともに、光軸から遠い側の面と光軸に平行な直線とは、7°以上75°以下の角度をなしている。
【0024】
これにより、加圧成形体の型からの離脱(離型)が容易となる。ここで、上記光軸から遠い側の面と光軸に平行な直線とのなす角度が7°未満では、離型が十分に容易とはならず、75°を超えると回折光学素子の光学特性が低下するため、当該角度は7°以上75°以下とすることが好ましい。
【0025】
上記回折光学素子の製造方法において好ましくは、上記型は、砥石または砥粒を用いて研削加工されている。
【0026】
上記型の表面粗さは、製造される回折光学素子の表面粗さに大きな影響を及ぼす。上述のように、型、特に型のうち回折光学素子の光学有効領域を成形する領域が砥石または砥粒を用いて研削加工されていることにより、型、特に型のうち回折光学素子の光学有効領域を成形する領域の表面粗さが低減される。その結果、一層加工精度を向上させることにより光学特性を向上させた、セラミックスからなる回折光学素子を製造することができる。ここで、上記砥石または砥粒(遊離砥粒)としては、たとえばダイヤモンド、cBN、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、超硬、酸化セリウム等の硬質材料を含む砥石または砥粒を用いることができる。
【0027】
なお、上記回折光学素子の製造方法において製造されるセラミックスからなる回折光学素子は、セラミックスを主成分として含み、残部不純物からなるものであってもよいし、セラミックスを主成分とし、焼結助剤などの添加剤を含み、残部不純物からなるものであってもよい。したがって、上記原料粉末は、セラミックスを主成分として含み、残部不純物からなる粉末であってもよいし、セラミックスを主成分として含み、焼結助剤などの添加剤が添加され、残部不純物からなる粉末であってもよい。
【0028】
本発明に従った回折光学素子は、上述の回折光学素子の製造方法により製造されている。
【0029】
製造コストを抑制しつつ、加工精度を向上させることにより光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子を製造することが可能な、上記本発明の回折光学素子の製造方法により製造されていることにより、本発明の回折光学素子は、セラミックスからなり、優れた光学特性を有する回折光学素子となっている。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明の回折光学素子によれば、加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子を提供することができる。また、本発明の回折光学素子の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0032】
図1は、本発明の一実施の形態における回折光学素子の構成を示す概略断面図である。また、図2は、図1の領域αを拡大して示す概略部分断面図である。図1および図2を参照して、本発明の一実施の形態における回折光学素子について説明する。
【0033】
図1を参照して、本実施の形態における回折光学素子1は、赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部11と溝部12とが繰り返し形成された回折光学素子である。この回折光学素子1は、円盤状の形状を有し、一方の主面31は凸形状、他方の主面32は平面形状を有している。また、一方の主面31は、突出部11と溝部12とが繰り返し形成された領域である光学有効領域10を含んでいる。光学有効領域10は、上記突出部11と溝部12とが形成されていない縁部20により取り囲まれている。さらに、上記突出部11および溝部12は、光軸Aを中心として一方の主面31に同心円状に形成されている。ここで、回折光学素子1を構成する赤外線を透過可能なセラミックスとしては、たとえば硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化リチウム(LiF)、石英(SiO)、スピネル(MgAl)、酸化ジルコニウム(ZrO)などの多結晶体を採用することができる。なお、本発明の回折光学素子において突出部と溝部とが繰り返し形成される主面の形状(回折光学素子形状)は、上記一方の主面31の形状を含め、平面、球面または以下の式(1)で表記される非球面の上に、突出部と溝部とが繰り返し形成された形状とすることができる。
【0034】
【数1】

【0035】
そして、回折光学素子1の表面のうち光学有効領域10内の面粗さRaの平均値は0.05μm以下となっており、光学有効領域10内における面粗さRaの差は0.02μm以下となっている。
【0036】
上記構成により、本実施の形態における回折光学素子1は、加工精度を向上させることにより、光学特性を向上させたセラミックスからなる回折光学素子となっている。
【0037】
ここで、光学有効領域10内の面粗さRaは、たとえば突出部11や溝部12を乗り越えることなく、突出部11および溝部12に沿った方向、すなわち一方の主面31において光軸Aを中心とする径方向に垂直な方向に、任意の5箇所が測定される。そして、当該5箇所における測定値の平均値および最大値と最小値との差により、面粗さRaの平均値および面粗さRaの差を評価することができる。ただし、中心については、光軸Aをまたぐ径方向に測定を行なう。
【0038】
さらに、図1および図2を参照して、回折光学素子1は、上記セラミックスからなる粉末の焼結体であり、回折光学素子1の光軸Aを含む断面における突出部11の先端11Aは、当該粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。また、回折光学素子1の光軸Aを含む断面における溝部12の底12Aは、当該粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。ここで、平均粒径は、たとえば堀場製作所製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(LAシリーズ)を用いて測定することができる。
【0039】
これにより、突出部11の先端11Aおよび溝部12の底12Aの加工精度が向上し、回折光学素子の光学特性が一層向上している。
【0040】
さらに、図2を参照して、回折光学素子1の光軸Aを含む断面における溝部12の底12Aにおいて、光軸Aから遠い側の面12Bは、底12Aから離れるにしたがって光軸Aから離れるように傾斜するとともに、面12Bと光軸Aに平行な直線A’とは、7°以上75°以下の角度θをなしている。これにより、製造工程において、突出部11および溝部12が型による拘束により成形される場合、離型が容易となる。
【0041】
次に、本発明の一実施の形態における回折光学素子の製造方法について説明する。図3は、本発明の一実施の形態における回折光学素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。また、図4は、図3の加圧焼結工程を説明するための概略断面図である。また、図5〜図11は、加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【0042】
図3を参照して、本実施の形態における回折光学素子の製造方法においては、まず、セラミックスからなる原料粉末が準備される原料粉末準備工程が実施される。具体的には、原料粉末の主成分であるセラミックスの粉末、たとえばZnSの粉末が準備される。
【0043】
次に、図3を参照して、上記セラミックスからなる原料粉末が成形されることにより、成形体が作製される成形工程が実施される。具体的には、たとえば超硬合金、工具鋼などからなる硬質の金型を使用した油圧プレス法により上記粉末が成形されて、回折光学素子の概略形状を有する成形体が作製される。
【0044】
次に、図3を参照して、上記成形体が熱処理されて焼結前駆体が作製される一次焼結工程が実施される。具体的には、上述のように作製された成形体に対して、たとえば30Pa以下の真空雰囲気下で500℃以上1100℃以下の温度に加熱され、1時間以上10時間以下保持される熱処理が実施されて、焼結前駆体が作製される。この一次焼結工程における熱処理により、焼結前駆体の密度は55〜80体積%とされることが好ましい。このような条件の下では、原料粉末の粒径の変化はごく僅かとなっている。
【0045】
次に、図3を参照して、上記焼結前駆体が、型により拘束されつつ加圧され、かつ加熱されることにより変形されて、加圧焼結体が作製される加圧焼結工程が実施される。具体的には、図4を参照して、上述のように作製された焼結前駆体2が、回折光学素子1の突出部11を成形する突出部成形部91と、溝部12を成形する溝部成形部92とを含む型9により拘束されつつ、たとえば原料粉末の融点または昇華点の30%以上原料粉末の融点または昇華点以下の温度に加熱され、1MPa以上300MPa以下の圧力で加圧されて、焼結前駆体2よりも完成品である回折光学素子1に近い形状を有する加圧焼結体が作製される。
【0046】
ここで、型9に拘束された焼結前駆体2の光軸Aを含む断面における、突出部成形部91の底91Aの曲率半径が、図5に示すように、原料粉末21の平均粒径の2分の1以下である場合、焼結前駆体2が型9により拘束されて変形される際に、突出部11の先端11A付近に空隙99が形成されて、原料粉末21から構成される焼結前駆体2の型9への追従性が低下する。その結果、突出部11の先端11A付近の形状転写精度が低下するおそれがある。さらに、突出部成形部91の底91A付近における原料粉末21の充填が不十分となるため、突出部11の先端11A付近の強度が低下し、図6に示すように、作製された加圧焼結体3が型9から離型される際に、突出部11の先端11Aにおいて欠けが発生するおそれがある。その結果、突出部成形部91の底91A付近に欠損部11Cが残存し、型9が汚染されるとともに、再度型9が使用される際に、当該欠損部11Cに起因して突出部成形部91の底91A付近に損傷が発生するおそれがある。
【0047】
これに対し、本実施の形態における回折光学素子の製造方法では、図4および図7を参照して、型9に拘束された焼結前駆体2の光軸Aを含む断面における、型9の突出部成形部91の底91Aは、原料粉末21の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。そのため、図7に示すように、焼結前駆体2が型9により拘束されて変形される際に、原料粉末21から構成される焼結前駆体2の型9への追従性が向上し、突出部11の先端11A付近の形状転写精度が向上する。さらに、突出部成形部91の底91A付近に原料粉末21が十分に充填されるため、図8に示すように、作製された加圧焼結体3が型9から離型される際の、突出部11の先端11Aにおける欠けの発生が抑制される。その結果、回折光学素子1の加工精度が向上するとともに、型9の汚染や損傷が抑制され、型9の耐久性が向上し、回折光学素子1の製造コストを抑制することができる。
【0048】
さらに、図9を参照して、型9に拘束された焼結前駆体2の光軸Aを含む断面における、溝部成形部92の先端92Aの曲率半径が、原料粉末21の平均粒径の2分の1以下である場合、上述の突出部成形部91の場合と同様に、焼結前駆体2の型9への追従性が低下し、回折光学素子1の形状転写精度が低下するおそれがある。さらに、焼結前駆体2に対して型9が接触する際、溝部成形部92の先端92Aに応力が集中する。その結果、当該溝部成形部92の先端92Aにおいて型9の損傷が発生するおそれがある。
【0049】
これに対し、本実施の形態における回折光学素子の製造方法では、図4および図10を参照して、型9に拘束された焼結前駆体2の光軸Aを含む断面における型9の溝部成形部92の先端92Aは、原料粉末21の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している。そのため、上述の突出部成形部91の場合と同様に、焼結前駆体2の型9への追従性が向上し、回折光学素子1の形状転写精度が向上するとともに、図10に示すように、焼結前駆体2に対して型9が接触する際、溝部成形部92の先端92Aへの応力集中が緩和される。その結果、当該溝部成形部92の先端92Aにおける型9の損傷が抑制されるため、型9の耐久性が向上し、回折光学素子1の製造コストを抑制することができる。
【0050】
さらに、図4および図11を参照して、型9に拘束された焼結前駆体2の光軸Aを含む断面における溝部成形部92の先端92Aにおいて、光軸Aから遠い側の面92Bは、先端92Aから離れるにしたがって光軸Aから離れるように傾斜するとともに、光軸Aから遠い側の面92Bと光軸Aに平行な直線A’とは、7°以上75°以下の角度θをなしている。そのため、焼結前駆体2が変形されて作製された加圧焼結体の型9からの離脱(離型)が容易となっている。
【0051】
以上のように、本実施の形態における回折光学素子の製造方法によれば、製造コストを抑制しつつ、形状転写精度を向上させることにより、光学特性を向上させた回折光学素子1を製造することができる。
【実施例1】
【0052】
以下、本発明の実施例1について説明する。焼結により得られたセラミックスの焼結体に対して、型を用いた成形を実施して回折光学素子の突出部および溝部を形成した場合と、切削加工により当該突出部および溝部を形成した場合とにおける表面の粗さを比較する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0053】
まず、図3に基づいて説明した上記本発明の実施の形態における回折光学素子の製造方法と同様に、原料粉末準備工程、成形工程および一次焼結工程を実施することにより、焼結前駆体を作製した。原料粉末の主成分となるセラミックスとしては、ZnS、ZnSe、MgFおよびCaFを採用した。そして、本発明の実施例として、当該焼結前駆体に対して、上記実施の形態と同様の方法で型による成形(上記実施の形態における加圧焼結工程)を実施し、直径φ10mmのレンズ形状を有し、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子を作製した(実施例A〜D)。
【0054】
ここで、型による成形においては、表面がダイヤモンドを含む砥石で研削された炭化ケイ素またはガラス状炭素からなる型が用いられ、真空加圧焼結炉において加圧および加熱されつつ上記焼結前駆体が変形されて成形が実施され、回折光学素子が作製された。加熱温度および圧力は、焼結前駆体の材質に応じて600〜1600℃および5〜300MPaの範囲から適宜選択された。
【0055】
一方、本発明の範囲外の比較例として、上記焼結前駆体に対して、単結晶ダイヤモンドバイトを用いた切削加工による成形を実施し、直径φ10mmのレンズ形状を有し、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子を作製した(比較例A〜D)。
【0056】
そして、作製された上記実施例および比較例の回折光学素子(サンプル)に対して、表面粗さ(Ra)の測定を行なった。測定箇所は中心からの距離が半径方向に0mm(中心)、1mm、2mm、3mm、4mmおよび5mmの個所を測定領域とした。ここで、表面粗さRaとは、粗さ曲線から、その平均線の方向に一定の基準長さを抜き取り、この抜き取り部分の平均線から粗さ曲線までの距離(偏差の絶対値)を合計してそれを基準長さで平均した値をいう。なお、表面粗さRaの測定は、JIS B 0601に準拠した測定方法で、たとえばフォータムリサーフ(Taylor Hobson社製PGIシリーズ)を用いて行なうことができる。
【0057】
次に、実験結果について説明する。上記実験における表面粗さの測定結果を表1に示す。表1には、各測定位置における表面粗さRa(単位:μm)が記載されている。表1を参照して、単結晶ダイヤモンドバイトを用いた切削加工により作製された比較例A〜Dのサンプルにおいては、表面粗さRaはいずれも0.06μm以上となっており、6箇所の測定値の平均値は0.082〜0.093μm、最大値と最小値との差(ばらつき)は0.039〜0.043μmとなっている。すなわち、比較例A〜Dは、本発明の光学回折素子における面粗さRaの平均値:0.05μm以下、面粗さの差:0.02μm以下との条件を満たしていない。これは、切削加工による作製方法では、単結晶ダイヤモンドバイトを用いた場合でも、十分に面粗さの平均値およびばらつきを低減できないことを示している。
【0058】
【表1】

【0059】
これに対し、型を用いた成形により作製された実施例A〜Dのサンプルにおいては、表面粗さRaはいずれも0.035μm以下となっており、6箇所の測定値の平均値は0.029〜0.032μm、最大値と最小値との差(ばらつき)は0.004〜0.006μmとなっている。すなわち、実施例A〜Dは、本発明の光学回折素子における面粗さRaの平均値:0.05μm以下、面粗さの差:0.02μm以下との条件を満たしている。このことから、型を用いた成形を採用した本発明の実施例における製造方法によれば、十分に面粗さの平均値およびばらつきを低減することにより光学特性を向上させた、回折光学素子が製造可能であることが確認された。
【実施例2】
【0060】
以下、本発明の実施例2について説明する。型を用いて回折光学素子の突出部を形成した場合の、原料粉末の粒径および使用された型の突出部成形部の底における曲率直径と、焼結前駆体の型への追従性、突出部の先端の破損および型の汚染の状態との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0061】
まず、図3に基づいて説明した上記本発明の実施の形態における回折光学素子の製造方法と同様に、原料粉末準備工程、成形工程および一次焼結工程を実施することにより、焼結前駆体を作製した。原料粉末の主成分となるセラミックスとしては、硫化亜鉛を採用した。そして、当該焼結前駆体に対して、上記実施の形態と同様の方法で型による成形(上記実施の形態における加圧焼結工程)を実施し、直径φ10mmのレンズ形状を有し、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子を作製した。ここで、原料粉末には、平均粒径が1μmのものおよび2μmのものを採用した。また、型は、突出部成形部の底における曲率直径が0.5〜4μmのものを使用した。そして、焼結前駆体の型への追従性、突出部の先端の破損および型の汚染の状態を調査した。
【0062】
次に、実験結果について説明する。上記実験における調査結果を表2に示す。表2の「追従性」では、型の突出部成形部の底における曲率直径に対する、作製された回折光学素子の突出部の先端における曲率直径の誤差が5%未満である場合を○、5%以上である場合を×と表示した。また、表2の「先端の破損」では、回折光学素子を20個作製した場合に、回折光学素子の突出部の先端に破損(先端の欠損)が確認されなかった場合を○、確認された場合を×と表示した。さらに、表2の「型の汚染」では、回折光学素子を20個作製した後、型の突出部成形部の底に回折光学素子を構成するセラミックスの付着が確認されなかった場合を○、付着が確認されたが洗浄にて除去可能な場合を△、付着が確認され、洗浄にて除去不可能な場合を×と表示した。
【0063】
【表2】

【0064】
表2を参照して、突出部成形部の底の曲率直径が原料粉末の平均粒径未満(突出部成形部の底の曲率半径が原料粉末の平均粒径の1/2未満)である条件3、6および7では、「追従性」および「先端の破損」において良好な結果が得られない一方、突出部成形部の底の曲率直径が原料粉末の平均粒径以上(突出部成形部の底の曲率半径が原料粉末の平均粒径の1/2以上)である条件1、2、4および5においては、「追従性」および「先端の破損」において良好な結果が得られた。このことから、突出部成形部の底は、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有していることが好ましいといえる。さらに、「型の汚染」をより確実に回避する観点から、突出部成形部の底は、原料粉末の平均粒径のよりも大きい曲率半径を有していることがより好ましいといえる。
【実施例3】
【0065】
以下、本発明の実施例3について説明する。型を用いて回折光学素子の溝部を形成した場合の、原料粉末の粒径および使用された型の溝部成形部の先端における曲率直径と、焼結前駆体の型への追従性、および型の耐久性との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0066】
まず、上記実施例2と同様に焼結前駆体を作製した。そして、当該焼結前駆体に対して、上記実施の形態と同様の方法で型による成形(上記実施の形態における加圧焼結工程)を実施し、直径φ10mmのレンズ形状を有し、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子を作製した。ここで、原料粉末には、平均粒径が1μmのものおよび2μmのものを採用した。また、型は、溝部成形部の先端における曲率直径が0.5〜4μmのものを使用した。そして、焼結前駆体の型への追従性、および型の耐久性を調査した。
【0067】
次に、実験結果について説明する。上記実験における調査結果を表3に示す。表3の「追従性」では、型の溝部成形部の底における曲率直径に対する、作製された回折光学素子の溝部の先端における曲率直径の誤差が5%未満である場合を○、5%以上である場合を×と表示した。また、表3の「耐久性」では、溝部成形部の先端に損傷がない状態で、回折光学素子が100個以上作製できた場合を○、10個以上99個以下作製できた場合を△、9個以下である場合を×と表示した。
【0068】
【表3】

【0069】
表3を参照して、溝部成形部の先端の曲率直径が原料粉末の平均粒径未満(溝部成形部の先端の曲率半径が原料粉末の平均粒径の1/2未満)である条件3、6および7では、「追従性」において良好な結果が得られない一方、溝部成形部の先端の曲率直径が原料粉末の平均粒径以上(溝部成形部の先端の曲率半径が原料粉末の平均粒径の1/2以上)である条件1、2、4および5においては、「追従性」において良好な結果が得られた。このことから、溝部成形部の先端は、原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有していることが好ましいといえる。さらに、「耐久性」をより向上させる観点から、溝部成形部の先端は、2μm以上であることが好ましいといえる。
【実施例4】
【0070】
以下、本発明の実施例4について説明する。型を用いて回折光学素子を成形した場合の、回折光学素子の光軸を含む断面における光軸から遠い側の面と光軸に平行な直線とのなす角θ(図11参照)である抜きテーパと、成形された回折光学素子の離型の容易性(離型性)および光学特性との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下の通りである。
【0071】
まず、上記実施例2および3と同様に焼結前駆体を作製した。そして、当該焼結前駆体に対して、上記実施の形態と同様の方法で型による成形(上記実施の形態における加圧焼結工程)を実施し、直径φ10mmのレンズ形状を有し、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子を作製した。そして、回折光学素子の成形に際し、型の抜きテーパを0〜80°の範囲で変化させ、離型性を調査するとともに、得られた回折光学素子のMTF(Modulation Transfer Function;変調伝達関数)を測定した。MTFとは、空間周波数分解能力を表し、高いほど良質な画像が得られる。このMTFは、たとえば赤外線レンズ用MTF測定装置(ユーカリ光学製YY−305)を用いて測定することができる。
【0072】
次に、実験結果について説明する。上記実験の結果を表4に示す。表4の「離型性」では、型による成形後、真空ピンセットの吸引力により回折光学素子を型から分離可能であった場合を○、分離できなかった場合を×と表示した。また、「MTFの低下率」では、抜きテーパが0°の場合を基準として、測定されたMTFの低下率を表示した。ここで、MTFの低下が4.5%未満であれば当該光学ロスは、実用上、画像に影響しない。
【0073】
【表4】

【0074】
表4を参照して、離型性は抜きテーパが7°以上において良好であったのに対し、抜きテーパが大きくなるほどMTFの低下率が上昇していることが分かる。そして、抜きテーパが75°を超えるとMTFの低下率が4.5%を超えている。したがって、離型性の向上と抜きテーパによる画像への影響の抑制とを両立する観点から、抜きテーパは7°以上75°以下とすることが好ましいといえる。また、離型性を確実に確保する観点から、抜きテーパは10°以上とすることが好ましく、15°以上とすることがより好ましい。一方、抜きテーパによる画像への影響を一層抑制する観点から、抜きテーパは60°以下とすることが好ましく、45°以下とすることがより好ましい。
【0075】
なお、上記実施の形態および実施例においては、本発明の回折光学素子の形状の一例として、平凸球面の形状を図示し、これに基づいて回折光学素子を説明したが、本発明の回折光学素子はこれに限られない。
【0076】
図12は、本発明の回折光学素子の形状の一例である平凸レンズの形状を示す概略断面図である。また、図13は、本発明の回折光学素子の形状の一例である平凹レンズの形状を示す概略断面図である。また、図14は、本発明の回折光学素子の形状の一例である両凸レンズの形状を示す概略断面図である。また、図15は、本発明の回折光学素子の形状の一例である両凹レンズの形状を示す概略断面図である。また、図16および図17は、本発明の回折光学素子の形状の一例である凹凸レンズの形状を示す概略断面図である。
【0077】
図12〜図17を参照して、本発明の回折光学素子の形状としては、たとえば、図12に示すように、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成される回折面としての一方の主面31が凸形状の球面または非球面であり、他方の主面32が平面である平凸レンズ、図13に示すように、回折面としての一方の主面31が凹形状の球面または非球面であり、他方の主面32が平面である平凹レンズ、あるいは図14に示すように、回折面としての一方の主面31が凸形状の球面または非球面であり、他方の主面32も凸形状の球面または非球面である両凸レンズを採用することができる。さらに、本発明の回折光学素子の形状としては、図15に示すように、回折面としての一方の主面31が凹形状の球面または非球面であり、他方の主面32も凹形状の球面または非球面である両凹レンズ、図16に示すように、回折面としての一方の主面31が凸形状の球面または非球面であり、他方の主面32が凹形状の球面または非球面である凹凸レンズ、あるいは図17に示すように、回折面としての一方の主面31が凹形状の球面または非球面であり、他方の主面32が凸形状の球面または非球面である凹凸レンズを採用してもよい。
【0078】
すなわち、本発明の回折光学素子の形状としては、上記図12〜図17に示した形状を含め、平凸球面、平凸非球面、平凹球面、平凹非球面、両凸球面、両凸非球面、両凹球面、両凹非球面、メニスカス球面、メニスカス非球面など、種々の形状を選択することができる。
【0079】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の回折光学素子およびその製造方法は、高い光学特性が要求される回折光学素子およびその製造方法に特に有利に適用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の一実施の形態における回折光学素子の構成を示す概略断面図である。
【図2】図1の領域αを拡大して示す概略部分断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態における回折光学素子の製造方法の概略を示すフローチャートである。
【図4】図3の加圧焼結工程を説明するための概略断面図である。
【図5】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図6】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図7】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図8】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図9】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図10】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図11】加圧焼結工程における図4の領域β付近を拡大して示す概略部分断面図である。
【図12】回折光学素子の形状の一例である平凸レンズの形状を示す概略断面図である。
【図13】回折光学素子の形状の一例である平凹レンズの形状を示す概略断面図である。
【図14】回折光学素子の形状の一例である両凸レンズの形状を示す概略断面図である。
【図15】回折光学素子の形状の一例である両凹レンズの形状を示す概略断面図である。
【図16】回折光学素子の形状の一例である凹凸レンズの形状を示す概略断面図である。
【図17】回折光学素子の形状の一例である凹凸レンズの形状を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0082】
1 回折光学素子、2 焼結前駆体、3 加圧焼結体、9 型、10 光学有効領域、11 突出部、11A 先端、11C 欠損部、12 溝部、12A 底、12B 光軸から遠い側の面、20 縁部、21 原料粉末、31 一方の主面、32 他方の主面、91 突出部成形部、91A 底、92 溝部成形部、92A 先端、92B 光軸Aから遠い側の面、99 空隙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子であって、
前記表面のうち光学有効領域内の面粗さRaの平均値が0.05μm以下であり、
前記表面のうち光学有効領域内における面粗さRaの差が0.02μm以下である、回折光学素子。
【請求項2】
前記回折光学素子は、前記セラミックスからなる粉末の焼結体であり、
前記回折光学素子の光軸を含む断面における前記突出部の先端は、前記粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している、請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記回折光学素子の光軸を含む断面における前記溝部の底は、前記粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している、請求項2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記回折光学素子は、前記セラミックスからなる粉末の焼結体であり、
前記回折光学素子の光軸を含む断面における前記溝部の底は、前記粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している、請求項1に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記回折光学素子の光軸を含む断面における前記溝部の底において、前記光軸から遠い側の面は、前記底から離れるにしたがって前記光軸から離れるように傾斜するとともに、前記面と前記光軸に平行な直線とは、7°以上75°以下の角度をなしている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子の製造方法であって、
前記セラミックスからなる原料粉末が成形されることにより、成形体が作製される工程と、
前記成形体が熱処理されて焼結前駆体が作製される工程と、
前記焼結前駆体が、型により拘束されつつ加圧され、かつ加熱されることにより変形されて、加圧焼結体が作製される工程とを備え、
前記型は、前記突出部を成形する突出部成形部と、前記溝部を成形する溝部成形部とを含み、
前記加圧焼結体が作製される工程において前記型に拘束された前記焼結前駆体の光軸を含む断面における、前記型の前記突出部成形部の底は、前記原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している、回折光学素子の製造方法。
【請求項7】
前記断面における前記型の前記溝部成形部の先端は、前記原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している、請求項6に記載の回折光学素子の製造方法。
【請求項8】
赤外線を透過可能なセラミックスからなり、表面に突出部と溝部とが繰り返し形成された回折光学素子の製造方法であって、
前記セラミックスからなる原料粉末が成形されることにより、成形体が作製される工程と、
前記成形体が熱処理されて焼結前駆体が作製される工程と、
前記焼結前駆体が、型により拘束されつつ加圧され、かつ加熱されることにより変形されて、加圧焼結体が作製される工程とを備え、
前記型は、前記突出部を成形する突出部成形部と、前記溝部を成形する溝部成形部とを含み、
前記加圧焼結体が作製される工程において前記型に拘束された前記焼結前駆体の光軸を含む断面における、前記型の前記溝部成形部の先端は、前記原料粉末の平均粒径の2分の1よりも大きい曲率半径を有している、回折光学素子の製造方法。
【請求項9】
前記断面における前記溝部成形部の先端において、前記光軸から遠い側の面は、前記先端から離れるにしたがって前記光軸から離れるように傾斜するとともに、前記面と前記光軸に平行な直線とは、7°以上75°以下の角度をなしている、請求項6〜8のいずれか1項に記載の回折光学素子の製造方法。
【請求項10】
前記型は、砥石または砥粒を用いて研削加工されている、請求項6〜9のいずれか1項に記載の回折光学素子の製造方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の回折光学素子の製造方法により製造された、回折光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−115871(P2009−115871A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−285729(P2007−285729)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(505186636)SEIハイブリッド株式会社 (52)
【Fターム(参考)】