説明

回折格子を備えた太陽電池組立体

【課題】回折格子を備えた太陽電池組立体を提供する。
【解決手段】色素増感又は有機吸収体のいずれかを用いた太陽電池構造体は、感光性材料を通る一次回折成分の移動を増大させるために、少なくとも一方の側に回折格子を備えている。二面電池は、上部と底部の両方に回折格子を使用し、一方の格子の周期的な回折素子はもう一方に対して格子の周期が4分の1だけシフトしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、より詳しくは回折格子を用いて吸収体を横切る斜めの一次回折モード成分を作り、それによって電池の効率を高める色素増感又は有機吸収体タイプの太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
種々のタイプの太陽電池が非偏光の太陽光を電気エネルギーに変換するために開発されている。太陽電池の研究における主要な目的は効率の向上と製造コストの低減である。色素増感光電極及び/又は有機吸収体を用いた太陽電池は、従来の結晶シリコン太陽電池よりも製造費用が非常に安い。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様は、太陽電池技術と回折格子技術の組み合わせによる効率の改善された太陽電池組立体である。本明細書においてさらに記載されるように、太陽光吸収体は、色素増感又は有機吸収体を用いたタイプのものであることができ、回折格子は、光電池の両側の一方又は両方の電極層に結合されたガラス又は他の光透過性材料の1つ又は複数の基材の形態を採用することができ、電極の境界部に透過性材料の表面に組み込まれたTiO2などの回折格子材料のパターンを示す。格子は、普通(垂直)の入射光の一次回折成分のみを結びつけるよう構築される。
【0004】
本発明の第2の態様によれば、その完全な開示が参照により本明細書に含められるヒデオ・イズミ及びNader Enghetaによって2010年1月25日に出願された米国特許出願第12/692,688号の同時係属出願において記載されている両側回折格子技術と太陽電池技術を有利に組み合わせることが可能であることが見出された。
【0005】
この知見の態様に従って、周期的に配置された回折格子材料をその中に組み込んだ基材を使用する回折格子が二面太陽電池の両側に配置され、非偏光の光がこれらの両方の側に入射するようにしている。2つの格子の周期性は同じであるが、一方の格子は2つの格子のうちもう一方の格子材料に対して少し、好ましくは4分の1周期だけシフトされ、それによって吸収体を通過する斜めの回折成分が抜け出すのを防ぎ、これらの成分を第2のパスに戻す。これによって色素増感及び有機吸収体タイプの光電池の効率が高められることが見出された。
【0006】
本明細書では添付図面について説明され、これらの図では、同様の符号は幾つかの図面を通して同様の部分を指している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明を具体化した第1の太陽電池組立体の断面図である。
【図2】本発明を具体化した第2の太陽電池組立体の断面図である。
【図3】本発明の態様を具体化した第3の光電池組立体又はその一部の断面図である。
【図4】一次回折成分に対する増大効果を示す図である。
【図5】本明細書に記載される太陽電池における波長対経路長の増大効果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、図面、特に図1を参照すると、電解質16中に色素増感吸収体又は光電極14を含む光電解質電池12を含む太陽電池組立体10が示されている。この場合において、「光電極」及び「吸収体」という用語は一般的な用語としての「吸収体」と区別しないで用いられる。電池24の上部境界は正極18によって画定され、電池の底部は負極20によって画定される。樹脂シール22によって電解質の電池体積の側面が閉じられている。電極18、20はフッ素をドープした二酸化スズ(SnO2:F)であることができ、光電極は色素増感二酸化チタン(TiO2)であることができる。
【0009】
下方の回折格子は、その表面に長方形の溝の周期的な配列が形成されたガラス基材26によって画定され、その表面はフッ素をドープした二酸化スズの電極20と結合し、それと光学的な境界を形成している。溝は二酸化チタン(TiO2)で満たされ、回折素子30を形成している。光透過性のプラスチックを基材26の製造においてガラスの代わりに使用してもよい。光が構造体10の下から入射するところの表面は、浅く周期性の低い長方形の溝のパターン28によって改質されており、反射防止特性を付与している。
【0010】
周期的な二酸化チタンの素子34を備えたガラス基材32から構成される第2の回折格子は上方の電極18に結合され、光が入射する上面36は、反射防止の格子タイプの表面36を示すよう改質されている。
【0011】
図1に示されるように、下方の基材26の周期的な素子30は、上方の回折格子32における素子34の幾何学的な間隔周期を4分の1だけシフトしたものであり、したがって、上記の係属出願である米国特許出願第12/692,688号でより十分に記載されているように、光学的なブロッキング機能を発揮する。
【0012】
図1の組立体における各格子は、ガラスとフッ素をドープした二酸化スズ電極との界面においてガラス中の周期的な溝を満たすTiO2の長方形の素子を含む周期的な構造体からなる。ガラスを通過する非偏光の太陽光は、主として斜めの一次回折モードに回折され、結果として、電解質16中に浸漬された二酸化チタンの色素増強光電極14の吸収層14を通る回折成分の移動経路が増大する。図1の両側配置の利点は、格子30と34の間の4分の1の先のシフトとともに、両側からの非偏光の太陽光の経路が増大するという事実である。上記の米国特許出願第12/692,688号において記載されるデバイスとは異なり、シフトされた格子26、32はここでは固定されていることに留意されたい。
【0013】
図1の構造体のための製造プロセスは、ガラス基材26、32に周期的な溝を作成し、当該溝を二酸化チタンで満たし、そして得られた構造体をフッ素をドープした二酸化スズ電極18、20に結合させることを伴う。格子の周期は、斜めの回折を達成するために波長のオーダーであるのに対し、反射防止表面28、36の距離周期は非常に小さい。白金粒子38が電極18の内面、すなわち電池の内部にある表面に結合される。
【0014】
図1の構造体におけるガラス部材及び電解質が1.5の屈折率を有するのに対し、吸収層及び二酸化スズ電極は約2の屈折率を有する。二酸化チタンの屈折率は2.38である。全体的な設計は以下の仕様を有する。すなわち、格子素子の周期(P)は0.84λ〜0.9λであり、曲線因子(R)は0.34〜0.44であり、格子素子の高さ(H)は0.59λ〜0.69λである。回折格子30、34の屈折率は、吸収層14、電解質16、及び電極18、20の屈折率よりも大きい。より詳細には、その内容が参照により本明細書に含められる2009年12月15日に出願された同時係属出願の米国特許出願第12/638,334号を参照されたい。ここで、λは750nmであり、周期Pは655nm又は0.87λであり、エッジ幅は255nmであり、曲線因子は0.39であり、格子高さは480nm又は0.64λである。
【0015】
図4は、格子がどのようにして普通の入射光の一次成分のみを電池に結びつけるのかを示している。ここで、構造体は、上部ガラス層32’が回折素子を含まない以外は図1と同一である。図5は図1の構造体10で実現される光学経路の増大の結果を示している。縦軸は吸収層14の厚さに対する有効経路長を表している。光学経路は1往復すなわち下から上そして下への戻りにおいて計算される。図5に示すとおり、650nm〜800nmにおいて2の経路長の増大が達成され、450nm〜800nmの波長範囲における平均の増大値は1.8である。
【0016】
次に、図2を参照すると、色素増感太陽電池組立体40のための第2の構成が示されている。電解質42で満たされた電池は、色素増感二酸化チタン光電極52を含む電解質電池を画定するシールされた縁部44を有する。フッ素をドープした二酸化スズから作成される負極46が部分的な境界層を形成し、二酸化ケイ素セパレータ50によって色素増感電極52から隔てられたL形の正極48が下方の境界の残りの部分を形成している。図2の構造体における同一平面内であるが横方向に反対の正極と負極がある物理的配置により、隣り合う物理的関係において太陽電池を電気的に直列化する能力が向上する。
【0017】
図2の構造体は、二酸化チタンの周期的に配置された格子素子56を備えかつ反射防止特性のための微細な溝を設けたパターン58を示すガラス格子部材54をさらに含む。
【0018】
図2に示される構造体の上側は、格子素子62の周期的な配置と反射を低減する上部パターン構造64を備えた上方のガラス基材60を含む。また、格子54、56の屈折率は、吸収層、電解質及び電極の屈折率よりも大きい。
【0019】
電極48は、構成材料としてIn23:Sn+Pt又は炭素を使用することができる。炭素が使用される場合、白金元素を省くことができる。
【0020】
図2の太陽電池構造体は、本質的には図1に関して上で記載したように機能する。図4は、光電池を通る一次回折成分の移動経路の増大を示すものであり、この構造体の結果として可能性のある効率の向上が推定される。上でも説明したとおり、構造体の両側の性質によって、2つの方向のそれぞれから入射する非偏光の太陽光に関してこのような増大が得られる。
【0021】
図3は、一方の側にインジウムスズ酸化物の負極74が結合し、反対側にアルミニウムの正極76が結合した有機吸収層72を含む、格子によって増強した太陽電池構造体70の形態の本発明のさらなる実施態様を示すものである。周期的な二酸化チタンの回折素子80を備えたガラス回折層78がインジウムスズ酸化物の電極74に結合され、好ましくは光入射表面82が短い距離周期の格子溝82を示すよう改質されている。有機吸収体72を通る一次成分の移動経路の増大もまた図3の構造体において実現される。
【0022】
当業者であれば、本発明に対する種々の改良及び付加に想到するであろう。例えば、上方の回折格子素子34を有しない片面の実施態様の上部ガラス32をポリマーの膜又はプレートに置換することができる。底部ガラス層26も同様に、透明のポリマープレートで置換することができる。ガラス部材26、32の典型的な厚さは0.5mm〜5mmである。吸収体14の二酸化チタンはZnO又はSnO2で置換することができる。二酸化チタンの格子材料もまた、Ta25、ZrO2又はNb25で置換することができ、これらのすべてが2よりも大きい屈折率を有する。加えて、屈折素子30、34、56、62及び80の幾何学的形状は必ずしも長方形ではなく、三角形又は「ブレーズド(blazed)」であってもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素増感光電極及び有機吸収体からなる群より選択された光電吸収体を含む電池と、
前記電池の一方の側に取り付けられた第1電極と、
前記電池の反対側に取り付けられた第2電極と、
前記電池及び電極からなる部材の屈折率よりも大きな屈折率を有する回折格子であって、入射する非偏光の普通光を一次モードに回折してそれによって斜めの一次回折成分の光学経路を増大するための、前記第1及び第2電極のうち一方を覆う回折格子と
を含む、太陽電池組立体。
【請求項2】
前記格子が、前記電極に結合されたガラスのような光透過性材料の層と、前記の一方の電極と境界を接する表面において前記光透過性材料中に組み込まれた格子材料の周期的なパターンとを含む、請求項1に記載の太陽電池組立体。
【請求項3】
前記格子材料が二酸化チタン(TiO2)である、請求項2に記載の太陽電池組立体。
【請求項4】
前記第1及び第2電極がフッ素をドープした二酸化スズ(SnO2:F)から作成される、請求項1に記載の太陽電池組立体。
【請求項5】
前記電池が電解質を含む、請求項1に記載の太陽電池組立体。
【請求項6】
前記パターンの周期性が、斜めの一次入射光の回折を達成するために波長のオーダーである、請求項2に記載の太陽電池組立体。
【請求項7】
非偏光の光がまず入射するガラスの表面が反射防止特性を作り出すよう改質されている、請求項2に記載の太陽電池組立体。
【請求項8】
前記改質が前記回折格子の周期性に対して実質的に周期性が増大した格子を含む、請求項7に記載の太陽電池組立体。
【請求項9】
前記格子の回折特性が、650nm〜800nmの波長範囲において約2の光学経路の増大を達成するようなものである、請求項1に記載の太陽電池組立体。
【請求項10】
電解質電池と、
前記電池における吸収体と、
前記電池の一方の側に周期的に配置された表面素子を有する第1の回折格子と、
前記電池のもう一方の側に周期的に配置された表面素子を有する第2の回折格子と
を含み、前記格子のうち一方の周期的に配置された素子が、回折された非偏光の光の一次成分が光電池を2回以上横断するように、もう一方の格子の素子に対して素子の周期が約4分の1だけ横方向にシフトされた、二面太陽電池。
【請求項11】
前記吸収体が色素増感光電極である、請求項10に記載の太陽電池。
【請求項12】
前記電池が電解質を含む、請求項11に記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−18924(P2012−18924A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−149301(P2011−149301)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【Fターム(参考)】