説明

回折格子型光結合器

【課題】低コストで簡便に形成することが可能である回折格子型光結合器を提供する。
【解決手段】シリコン光導波路26の一部分30の両側に複数のサブ光導波路24を並列に並べて、第1回折格子28が形成されている。シリコン光導波路の一部分には第2回折格子32が形成されている。第1回折格子と第2回折格子とによって回折格子部14が構成されている。シリコン光導波路の一端に第1光導波路ループ16が接続され、他端に第2光導波路ループ18が接続されている。そして、第1光導波路ループと第2光導波路ループは、光導波路ループ結合部20で結合される。光導波路ループ結合部には、入出力用シリコン光導波路22が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバ等からの出力光をシリコン細線型光導波路に入力させ、あるいはシリコン細線型光導波路からの出力光を光ファイバ等へ入力させるための回折格子型光結合器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化及び量産性に優れるシリコン(Si)を導波路素材とするシリコン細線型光導波路が注目されている。さらに、シリコン細線型光導波路を利用すれば、光デバイスと電子デバイスを同一チップに融合させて形成することが可能となる。シリコン光導波路(コア)をシリコンよりも屈折率の小さい素材で囲む構成の光導波路をシリコン細線型光導波路と呼ぶ。シリコンよりも屈折率の小さい素材とは、例えば、酸化シリコン(SiO2)等である。
【0003】
シリコン細線型光導波路において、コアを形成するシリコンとクラッドを構成する酸化シリコンの屈折率差はきわめて大きい。そのため、導波光の光電場成分のほとんどをコアに閉じ込めることが可能であり、コアの断面寸法をサブミクロン程度と極めて細く形成することができる。
【0004】
また、シリコンと酸化シリコンの屈折率差が大きいので、シリコン光導波路の曲げ半径を小さくして形成しても、この曲げ部分でシリコン光導波路から導波光がクラッド側に漏れ出ることはほとんどない。すなわち、シリコン光導波路の曲げ半径を小さくして形成しても、導波路損失が小さいままに保たれる。例えば、曲げ半径を1μm程度まで小さくしても、シリコン光導波路の直線導波路部分における導波路損失とほとんど変わらない。
【0005】
このように、シリコン光導波路の曲げ半径を小さく形成することが可能であることから、シリコン細線型光導波路により形成される光デバイスは、シリコン電子デバイスと同程度の大きさに形成できる。
【0006】
しかしながら、シリコン細線型光導波路を利用して形成された光デバイスに入出力される光を、光ファイバ、発光素子、あるいは受光素子等の外部素子に対して効率よく結合させるには、シリコン光導波路のコアの寸法を、外部から入出力される光束の寸法まで拡大する必要がある。すなわち、シリコン光導波路へ外部から入力される光を効率よく取り込み、及びシリコン光導波路から外部の光ファイバ等へ出力される光を低結合損失で結合させるには、シリコン光導波路のコアの寸法と外部から入出力される光束の寸法を同じ程度にする必要がある。
【0007】
このための方策として、これまで、様々な光結合器が検討されてきた。例えば、シリコン光導波路のコアの幅を調整するスポットサイズ変換光導波路が開示されている。(特許文献1〜3参照)。あるいは、シリコン光導波路のコアの厚みをテーパ状の形成したスポットサイズ変換光導波路の作成方法も開示されている(特許文献4あるいは5参照)。また、シリコン光導波路のクラッドを二重クラッド構造としたスポットサイズ変換器が開示されている(特許文献6参照)。
【0008】
さらに、クラッドの屈折率とコアの屈折率差である比屈折率差が段階的に変化するように、比屈折率差の異なる光導波路を並べて構成された光結合器が開示されている(特許文献7参照)。また、回折格子を用いた光結合器が開示されている(特許文献8〜10参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−162528号公報
【特許文献2】特開2000−235128号公報
【特許文献3】米国特許第6,684,011号明細書
【特許文献4】特開平09−15435号公報
【特許文献5】特開2005−326876号公報
【特許文献6】特開平07−63935号公報
【特許文献7】特開2003−207684号公報
【特許文献8】特開平11−174270号公報
【特許文献9】特開平11−174271号公報
【特許文献10】特開2009−288718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、光デバイスはその構成が複雑かつ精密化されており、製造工程において高いコストが発生する状況となっている。そこで、低コストで上述のような光デバイスが製造される技術が求められている。
【0011】
上述のシリコン細線型光導波路により形成される光デバイスも、外部からこの光デバイスに光を入出力させるための光結合器を含めて、製造工程が少ない簡便な方法を以って低コストで形成されることが要請される。
【0012】
上述の特許文献8〜10に開示された回折格子を利用する光結合器の構成は、シリコン光導波路が形成されている層とは異なる層に、光結合機能部分である回折格子が形成されている。しかしながら、このようにシリコン光導波路と回折格子が異なる層に形成するには、少なくとも、シリコン光導波路を形成する工程と回折格子を形成する工程とを別々に実行することが必要となる。このため製造工程が多くなり、簡便に形成することができない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の発明者は、鋭意研究した結果、光結合機能部分の形状を工夫することで、シリコン光導波路と、光結合機能部分となる回折格子部とを同一の層に形成し、しかも高効率な光結合が可能な回折格子型光結合器を実現できることを確信した。すなわち、シリコン光導波路の一部を含んで回折格子部を形成し、あるいは回折格子部をシリコン光導波路の途中に組み込んで、この回折格子部を介して外部との光の入出力を可能とする光結合器の構成を見出した。
【0014】
シリコン光導波路と回折格子が同一の層に形成される構成とし、シリコン光導波路の形成と回折格子の形成とを一括して実行できれば工程の数を減らすことができ、低コストで簡便に光結合器を形成することが可能となる。
【0015】
すなわち、この発明は、低コストで簡便に形成することが可能であり、しかも結合効率が実用に供するに十分な大きさを有する回折格子型光結合器を提供することを目的とする。
【0016】
この発明の要旨によれば、上述の目的を達成するため、回折格子型光結合器は、以下の特徴を具えている。
【0017】
この発明の第1の回折格子型光結合器は、導波路幅が周期的に変化する部分を有するシリコン光導波路と、導波路幅が周期的に変化する部分の両側に、シリコン光導波路と平行かつ周期的に設けられた複数のサブ光導波路とを備えている。そして、シリコン光導波路と複数のサブ光導波路とにより第1回折格子が構成され、シリコン光導波路の導波路幅が周期的に変化する部分により第2回折格子が構成される。
【0018】
シリコン光導波路を伝播する光は、第1回折格子により第1励起光として励起された後、第1励起光が第2励起光として励起されて、第2励起光が外部へ出力される。一方、外部から入力される光は、第2回折格子により第2励起光として励起された後、第2励起光が第1励起光として励起されて、第1励起光がシリコン光導波路を伝播する。
【0019】
この発明の第2の回折格子型光結合器は、導波路幅が周期的に変化する部分を有する複数のサブ光導波路が平行かつ周期的に並べられている。そして、複数のサブ光導波路が平行かつ周期的に並べられることにより第1回折格子が形成され、複数のサブ光導波路の導波路幅が周期的に変化していることにより第2回折格子が形成される。第1回折格子と第2回折格子とで回折格子部が構成され、この回折格子部がシリコン光導波路の途中に組み込んで構成されている。
【0020】
シリコン光導波路を伝播する光は、第1回折格子により第1励起光として励起された後、第1励起光が第2励起光として励起されて、第2励起光が外部へ出力される。一方、外部から入力される光は、第2回折格子により第2励起光として励起された後、第2励起光が第1励起光として励起されて、第1励起光がシリコン光導波路を伝播する。
【発明の効果】
【0021】
この発明の第1及び第2の回折格子型光結合器によれば、いずれも第1及び第2回折格子と外部から入力される光あるいは外部へ出力される光を導波するシリコン光導波路とは同一の層に形成された構成とされているので、シリコン光導波路の形成と回折格子の形成を一括して実行することが可能となる。したがって、製造工程の数を減らすことができ、低コストで簡便に形成できる回折格子型光結合器を提供することが可能となる。
【0022】
また、回折格子部が第1回折格子と第2回折格子とで構成されていることにより、外部から入力される光の伝播方向と回折格子部に接続されているシリコン光導波路の伝播方向とが直交する方向であっても、高効率な光結合が可能な回折格子型光結合器が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の実施形態の第1の回折格子型光結合器の構成の説明に供する図であり、(A)は第1の回折格子型光結合器の構造を示す概略的斜視図であり、(B)は回折格子部の導波路パターンを拡大して示す概略的平面図である。
【図2】この発明の実施形態の第1の回折格子型光結合器の光結合特性を示す図である。
【図3】サブ光導波路の幅とシリコン光導波路幅とが等しく設定された第1の回折格子型光結合器の回折格子部の導波路パターンを拡大して示す概略的平面図である。
【図4】サブ光導波路の幅とシリコン光導波路幅とが等しく設定された第1の回折格子型光結合器の光結合特性を示す図である。
【図5】この発明の実施形態の第2の回折格子型光結合器の構成の説明に供する図であり、(A)は第2の回折格子型光結合器の構造を示す概略的斜視図であり、(B)は回折格子部の導波路パターンを拡大して示す概略的平面図である。
【図6】この発明の実施形態の第2の回折格子型光結合器の光結合特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図を参照して、この発明の実施形態につき説明する。なお、各図は、この実施形態に係る一構成例を示すものであり、この発明の実施形態が理解できる程度に各構成要素の配置関係等を概略的に示しているに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。また、以下の説明において、特定の構成素材及び設計条件等を用いることがあるが、これら構成素材及び設計条件等は好適例の一つに過ぎず、したがって、何らこれらに限定されない。また、各図において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。
【0025】
<第1の回折格子型光結合器>
図1(A)及び(B)〜図4を参照して、この発明の実施形態の第1の回折格子型光結合器の構成について説明する。図1(A)は、第1の回折格子型光結合器の構造を示す概略的斜視図である。また、図1(B)は、回折格子部の導波路パターンを拡大して示す概略的平面図である。
【0026】
図1(A)及び(B)に示すように、第1の回折格子型光結合器は、次のように構成されている。
【0027】
シリコン基板10上に、光導波路パターン構造体12が積層されている。光導波路パターン構造体12は、Siを素材とする光導波路パターンとこの光導波路パターンをコアとして取り囲むSiO2クラッド層からなる。
【0028】
ここで、第1の回折格子型光結合器を構成する光導波路パターンにつき説明する。光導波路パターンには、入出力用シリコン光導波路22、回折格子部14を構成するシリコン光導波路26、第1光導波路ループ16、第2光導波路ループ18、及び光導波路ループ結合部20が含まれている。シリコンをコアとして、このコアを酸化シリコン材で囲んで構成される構造体であるので、混乱が生じない範囲で、総称してシリコン光導波路ということもある。
【0029】
シリコン光導波路26の一部分30(図1(B)に矩形の破線で囲って示してある)の両側に複数のサブ光導波路24を並列に並べて、第1回折格子28が形成されている。サブ光導波路24の導波方向に対して垂直の方向の屈折率分布が周期的に変化する構造となり、回折格子としての機能が発現する。この領域が第1回折格子28となっている(図1(B)に矩形の破線で囲って示してある)。シリコン光導波路26の一部分30には、光ファイバ34を伝播して外部から入力される光あるいは光ファイバ34を伝播するように外部へ出力される光が導波される。
【0030】
シリコン光導波路26の一部分30の導波路幅は周期的に変化している。シリコン光導波路26の一部分30の導波路幅を周期的に変化させると、このシリコン光導波路26の一部分30の等価屈折率が該シリコン光導波路26の導波方向に周期的に変化する構造となり、回折格子としての機能が発現する。この領域(図1(B)に矩形の破線で囲って示してある)が第2回折格子32となっている。
【0031】
回折格子部14は、第1回折格子28と第2回折格子32とによって構成されている。第1回折格子28と第2回折格子32は、互いに屈折率分布の周期が形成される方向が直交しているので、第1回折格子28で励起される第1励起光の伝播方向と第2回折格子32で励起される第2励起光の伝播方向とは直交する。このことによって、回折格子部14に外部から入力される光あるいはこの回折格子部14から外部に出力される光の伝播方向と、この回折格子部で結合されるシリコン光導波路26を導波する光の伝播方向とが直交する関係にあっても高い結合効率が実現される。
【0032】
第1回折格子28の構成部分となっているシリコン光導波路26の一方の端(シリコン光導波路の一部分30の一方の端)に第1光導波路ループ16が接続され、他端に第2光導波路ループ18が接続されている。そして、第1光導波路ループ16と第2光導波路ループ18は、光導波路ループ結合部20で結合される。光導波路ループ結合部20には、入出力用シリコン光導波路22が接続されている。
【0033】
外部から取り込まれる光は、回折格子部14の第1回折格子28によって第1励起光として励起され、図1(B)に示すように、第1励起光は、Q1及びQ2と示す方向に伝播する導波光として生成される。すなわち第1励起光は、回折格子部14の屈折率分布の周期が形成されている方向に伝播する。
【0034】
第1励起光が回折格子部14の第2回折格子32によって第2励起光として励起されP1及びP2と示す方向に伝播する導波光として生成される。すなわち第2励起光は、第2回折格子32の屈折率分布の周期が形成されている方向に伝播する。そして、第2励起光は、シリコン光導波路26、第1光導波路ループ16及び第2光導波路ループ18を伝播して、光導波路ループ結合部20で合波されて入出力用シリコン光導波路22へ取り込まれる。
【0035】
シリコン光導波路26の一部分30を伝播する光の電場成分の、方向性光結合器の作用でシリコン光導波路26の両側に設けられているサブ光導波路24に洩れ出る量を少なくするため、サブ光導波路24の幅D2とシリコン光導波路26の幅D1とは相異なる値に設定してある。すなわち、光ファイバ34から回折格子部14に入力される入力光が、シリコン光導波路26に集中して導波されるように、サブ光導波路24の幅とシリコン光導波路26の幅とは相異なる値に設定してある。これは、幅の異なる回折格子構成要素が1つ存在すると、その幅の異なる回折格子構成要素(ここでは、シリコン光導波路26の一部分30)に光が集中するというフォトニック結晶理論に基づいている。
【0036】
一方、外部へ出力される光は、入出力用シリコン光導波路22を伝播し、光導波路ループ結合部20で分岐されて第1光導波路ループ16及び第2光導波路ループ18を伝播して、回折格子部14の第2回折格子18によって第2励起光として励起される。そして、第2励起光が回折格子部14の第1回折格子16によって第1励起光として励起されることにより回折格子部14から外部に向けて出力される。
【0037】
すなわち、第1の回折格子型光結合器によれば、外部から入力される光あるいは外部へ出力される光が、第1回折格子28によって第1励起光として励起され、第1励起光が第2回折格子32によって第2励起光として励起される。そして、第2励起光あるいは外部から入力される光あるいは外部へ出力される光がシリコン光導波路26を伝播する構成とされていることによって、回折格子部14を介して、外部との光の入出力が可能となっている。
【0038】
このような光導波路パターン構造体12は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を入手して、以下の工程によって形成できる。SOI基板は、広く市販品として入手可能であり、シリコン基板に酸化シリコン層、及びこの酸化シリコン層上に光導波路の厚みの寸法に等しい厚みのシリコン層が形成されている。
【0039】
SOI基板の酸化シリコン層上に形成されているシリコン層に対して、ドライエッチング等の手法によって、第1の回折格子型光結合器を構成する光導波路パターンだけを残してエッチングして取り除く。それに続き、エッチング処理で残された光導波路パターンを導波構造のコアとして取り囲むSiO2クラッドを化学気相成長(CVD: Chemical Vapor Deposition)法等によって形成する。
【0040】
SiO2クラッドは、少なくとも光導波路パターンとして残されたシリコン層の厚みと同程度の厚みに形成すればよく、必ずしも光導波路パターンが完全に覆われる厚みまで厚く形成する必要はない。また、SiO2クラッドは必ずしも必要でない。
【0041】
こうして、回折格子部14、第1光導波路ループ16、第2光導波路ループ18、光導波路ループ結合部20、及び入出力用シリコン光導波路22が同一の層(シリコン基板10上に形成された光導波路パターン構造体12)に形態として形成される。すなわち、回折格子部14、第1光導波路ループ16、第2光導波路ループ18、光導波路ループ結合部20、及び入出力用シリコン光導波路22は、光導波路パターン構造体12として一括形成される。
【0042】
図2を参照して、第1の回折格子型光結合器による外部から入力される光あるいは外部へ出力される光に対する結合効率についての計算シミュレーションを行った結果について説明する。図2の横軸は波長をμm単位で目盛って示してあり、縦軸は第1の回折格子型光結合器の回折格子部14へ入力される入力光の強度を任意スケールで示してある。
【0043】
曲線aは、光ファイバ34から入力されて光結合されて第1光導波路ループ16に入力される光の強度を示している。曲線bは、回折格子部14から上方に向けて反射される(回折格子部14等の光導波路パターンが形成されている層から反射される)光の強度を示している。また、曲線cは、回折格子部14から下方に向けて透過される(回折格子部14等の導波路パターンが形成されている層及びシリコン基板10に向けて透過される)光の強度を示している。
【0044】
図2に示す結合効率に関する計算シミュレーションは、3次元FDTD(Finite Difference Time Domain)法によって行った。計算に用いた条件は以下のとおりである。
【0045】
回折格子部14、第1光導波路ループ16、第2光導波路ループ18、光導波路ループ結合部20等の光導波路パターンを導波構造のコアとして取り囲むSiO2クラッド層の屈折率を1.46とした。光導波路パターンを構成するSiの屈折率を3.47、光導波路パターンを構成するSi層の厚さを260 nmに設定した。回折格子部14に入射させる光束をガウス関数で与えられる強度分布を有する直径5μmの平行光束であると仮定した。
【0046】
第1回折格子28の回折格子周期(Λ1)は900 nm、回折格子部14に含まれるシリコン光導波路26の幅(D1)は450 nm、サブ光導波路24の幅(D2)は500 nm、第2回折格子32の回折格子周期(Λ2)は900 nm、第2回折格子32の導波路幅の変調度(導波路幅が周期的に変化している部分のシリコン光導波路26の一部分30の最大幅と最小幅の差:d)は23 nmにそれぞれ設定した。すなわち、図1(A)及び(B)に示す第1の回折格子型光結合器は、D1 ≠ D2となるように設定されている。
【0047】
回折格子部14に入射させる光束の波長が1.52μmである場合に、第1光導波路ループ16に入力される光強度が最大となっている。この場合、第2光導波路ループ18にも同じ大きさの光が入力されるので、回折格子部14に入射された光の80%程度が光導波路ループ結合部20を介して入出力用シリコン光導波路22に入力されると結論される。すなわち、回折格子部14に入射された光の80%程度がこの第1の回折格子型光結合器によって取り込まれると結論される。
【0048】
図1(A)及び(B)に示す第1の回折格子型光結合器は、サブ光導波路24の幅D2とシリコン光導波路26の幅D1とは相異なる値に設定してある。これは、上述したように、光ファイバ34から回折格子部14に入力される入力光がシリコン光導波路26に集中して導波されるように意図して設定されたものである。
【0049】
図1(A)及び(B)に示す第1の回折格子型光結合器では、サブ光導波路24の幅をD2にすべて等しく設定されている。ここで、サブ光導波路24の幅をD2に統一することなく、シリコン光導波路26に隣接するサブ光導波路24-1だけをシリコン光導波路26の幅D1とは相異なる値に設定するが、これ以外のサブ光導波路24-2の幅をシリコン光導波路26の幅D1と等しく設定した場合に第1の回折格子型光結合器の光結合特性にどの程度の影響が及ぶかについて確認するために、以下検討を行う。
【0050】
図3に示すように、サブ光導波路24の内シリコン光導波路26に隣接するサブ光導波路24-1を除き、それ以外のサブ光導波路24-2の幅D1をシリコン光導波路26の幅と等しく450 nmに設定してある。サブ光導波路24-2は図3において左右2箇所しか示していないが、実際にはシリコン光導波路26に隣接して対称に左右に複数箇所設置されている。
【0051】
図3に示すようにサブ光導波路24-1及びサブ光導波路24-2の幅を設定した第1の回折格子型光結合器の結合効率についての計算シミュレーションを行った結果について説明する。図4に示す曲線a〜cは、図2と同様に、曲線aは第1光導波路ループ16に入力される光の強度を示し、曲線bは回折格子部14から上方に向けて反射される光の強度を示し、曲線cは回折格子部14から下方に向けて透過される光の強度を示している。
【0052】
サブ光導波路24の内シリコン光導波路26に隣接するサブ光導波路24-1を除き、それ以外のサブ光導波路24-2の幅D1をシリコン光導波路26の幅と等しくすれば、図4に示すように回折格子部14に入射させる光束の波長が1.52μmであるとき、第1光導波路ループ16に入力される光強度が最大となっている。しかしながら、曲線bに示すように、図2と比較して回折格子部14から上方に向けて反射される光成分が大きくなっている。
【0053】
このことから、少なくともシリコン光導波路26に隣接するサブ光導波路24-1だけをシリコン光導波路26の幅D1とは相異なる値に設定すれば、所望の光結合特性は得られるが、サブ光導波路24の幅をD2にすべて等しく設定することによって、より一層優れた特性が得られることが分かる。
【0054】
なお、シリコン光導波路26の幅D1とサブ光導波路24の幅をD2は、図1(A)及び図3では、D1<D2と設定されているが、D1>D2と設定してもよい。
【0055】
<第2の回折格子型光結合器>
図5(A)、(B)及び図6を参照して、この発明の実施形態の第2の回折格子型光結合器の構成について説明する。図5(A)は、第1の回折格子型光結合器の構造を示す概略的斜視図である。また、図5(B)は、回折格子部の導波路パターンを拡大して示す概略的平面図である。
【0056】
第2の回折格子型光結合器も、上述の第1の回折格子型光結合器同様の手法で形成できる。ここで、第2の回折格子型光結合器を構成する光導波路パターンにつき説明する。
【0057】
複数のサブ光導波路44を並列に並べることによって第1回折格子38が構成され、サブ光導波路44のそれぞれには第2回折格子52が形成されている。すなわち、複数のサブ光導波路44が配置されている領域は、サブ光導波路44の伝播方向に対して垂直の方向の屈折率分布が周期的に変化する構造となり、回折格子としての機能が発現する。この領域が第1回折格子38となっている。
【0058】
一方、サブ光導波路44には第2回折格子52が形成されている。第2回折格子52は、サブ光導波路44の導波路幅を周期的に変化させることによって形成されている。サブ光導波路44の導波路幅を周期的に変化させると、このサブ光導波路44の等価屈折率が周期的に変化する構造となり、回折格子としての機能が発現する。
【0059】
第1回折格子38と第2回折格子52とによって回折格子部40が構成されている。
【0060】
複数のサブ光導波路44がこのサブ光導波路44の両端に設けられた第1サブ光導波路結合部46及び第2サブ光導波路結合部48によって結合されており、第1サブ光導波路結合部46に第1光導波路ループ16が接続され、第2サブ光導波路結合部48に第2光導波路ループ18が接続されている。
【0061】
第1光導波路ループ16と第2光導波路ループ18は、光導波路ループ結合部20で結合され、光導波路ループ結合部20には、入出力用シリコン光導波路22が接続されている。
【0062】
外部から取り込まれる光は、回折格子部40の第1回折格子38によって第1励起光として励起され、第1励起光は、図5(B)に示すように、Q1及びQ2と示す方向に伝播する導波光として生成される。第1励起光が回折格子部40の第2回折格子52によって第2励起光として励起され、P1(P1-1〜P1-4)及びP2(P2-1〜P2-4)と示す方向に伝播する導波光として生成されることによって、第1光導波路ループ16及び第2光導波路ループ18を伝播して、光導波路ループ結合部20で合波されて入出力用シリコン光導波路22へ取り込まれる。
【0063】
一方、外部へ出力される光は、入出力用シリコン光導波路22を伝播し、光導波路ループ結合部20で分岐されて第1光導波路ループ16及び第2光導波路ループ18を伝播して、第1サブ光導波路結合部46及び第2サブ光導波路結合部48を介して回折格子部40に入力される。そして、回折格子部40の第2回折格子52によって第2励起光として励起される。さらにこの第2励起光が回折格子部40の第1回折格子38によって第1励起光として励起されることにより回折格子部40から外部に向けて出力される。
【0064】
すなわち、第2の回折格子型光結合器によれば、外部から入力される光あるいは外部へ出力される光が、第1回折格子38によって第1励起光として励起され、第1励起光あるいは外部から入力される光あるいは外部へ出力される光が第2回折格子52によって第2励起光として励起される。そして、第2励起光あるいは外部から入力される光あるいは外部へ出力される光がシリコン光導波路であるサブ光導波路44等を伝播する構成とされることによって、回折格子部40を介して、外部との光の入出力を可能としている。
【0065】
第2の回折格子型光結合器においても第1の回折格子型光結合器と同様に、第1回折格子38で励起される第1励起光の伝播方向と第2回折格子52で励起される第2励起光の伝播方向とは直交する。このことによって、回折格子部40に外部から入力される光あるいはこの回折格子部40から外部に出力される光の伝播方向と、この回折格子部40で結合されるサブ光導波路44を導波する光の伝播方向とが直交する関係にあっても高い結合効率が実現される。
【0066】
図6を参照して、第2の回折格子型光結合器による外部から入力される光あるいは外部へ出力される光に対する結合効率についての計算シミュレーションを行った結果について説明する。図6の横軸は波長をμm単位で目盛って示してあり、縦軸は光強度を第2の回折格子型光結合器の回折格子部40への入力光の強度を任意スケールで示してある。
【0067】
曲線aは、光ファイバ34から入力されて光結合されて第1光導波路ループ16に入力される光の強度を示している。曲線bは、回折格子部40から上方に向けて反射される(回折格子部40等の導波路パターンが形成されている層から反射される)光の強度を示している。また、曲線cは、回折格子部40から下方に向けて透過される(回折格子部40等の導波路パターンが形成されている層及びシリコン基板10に向けて透過される)光の強度を示している。
【0068】
図6に示す結合効率に関する計算シミュレーションも、図2及び図4に示した計算シミュレーションである3次元FDTD法によって行った。計算に用いた条件は以下のとおりである。
【0069】
回折格子部40、第1光導波路ループ16、第2光導波路ループ18、光導波路ループ結合部20等の光導波路パターンを導波構造のコアとして取り囲むSiO2クラッド層の屈折率を1.46とした。光導波路パターンを構成するSiの屈折率を3.47、光導波路パターンを構成するSi層の厚さを260 nmに設定した。回折格子部40に入射させる光束をガウス関数で与えられる強度分布を有する直径5μmの平行光束であると仮定した。
【0070】
第1回折格子38の回折格子周期(Λ1)は900 nm、回折格子部40に含まれる第1回折格子38のサブ光導波路44の幅(D1)は450 nm、第2回折格子52の回折格子周期(Λ2)は900 nm、第2回折格子52の導波路幅の変調度(導波路幅が周期的に変化している部分のサブ光導波路44の最大幅と最小幅の差:d)は23 nmにそれぞれ設定した。
【0071】
図6に示すように、回折格子部40に入射させる光束の波長が1.5μm近傍で、第1光導波路ループ16に入力される光が最大となっている。この場合、第1光導波路ループ18にも同じ大きさの光が入力されるので、上述した第1の回折格子型光結合器と同様に、回折格子部40に入力された光の80%程度が光導波路ループ結合部20を介して入出力用シリコン光導波路22に入力されると結論される。すなわち、回折格子部40に入力された光の80%程度がこの第2の回折格子型光結合器によって取り込まれると結論される。
【符号の説明】
【0072】
10:シリコン基板
12:光導波路パターン構造体
14、40:回折格子部
16:第1光導波路ループ
18:第2光導波路ループ
20:光導波路ループ結合部
22:入出力用シリコン光導波路
24、44:サブ光導波路
26:シリコン光導波路
28、38:第1回折格子
30:シリコン光導波路の一部分
32、52:第2回折格子
34:光ファイバ
46:第1サブ光導波路結合部
48:第2サブ光導波路結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波路幅が周期的に変化する部分を有するシリコン光導波路と、
前記部分の両側に、前記シリコン光導波路と平行かつ周期的に設けられた複数のサブ光導波路と
を備えることを特徴とする回折格子型光結合器。
【請求項2】
前記シリコン光導波路と前記複数のサブ光導波路とにより、第1回折格子が構成され、
前記シリコン光導波路の、導波路幅が周期的に変化する前記部分により、第2回折格子が構成され、
前記シリコン光導波路を伝播する光が、前記第1回折格子により第1励起光として励起された後、該第1励起光が第2励起光として励起されて、該第2励起光が外部へ出力され、
外部から入力される光は、前記第2回折格子により前記第2励起光として励起された後、該第2励起光が前記第1励起光として励起されて、該第1励起光が前記シリコン光導波路を伝播する
ことを特徴とする請求項1に記載の回折格子型光結合器。
【請求項3】
前記シリコン光導波路の導波路幅が周期的に変化する部分の一方の端に第1光導波路ループが接続され、他端に第2光導波路ループが接続され、
該第1光導波路ループと該第2光導波路ループは、光導波路ループ結合部で結合され、
該光導波路ループ結合部には、入出力用シリコン光導波路が接続されており、
外部から取り込まれる光は、前記回折格子部分の前記第1回折格子によって前記第1励起光として励起され、該第1励起光が前記回折格子部分の前記第2回折格子によって前記第2励起光として励起されることによって、該第2励起光が前記シリコン光導波路、前記第1光導波路ループ及び前記第2光導波路ループを伝播して、前記光導波路ループ結合部で合波されて前記入出力用シリコン光導波路へ取り込まれ、
外部へ出力される光は、前記入出力用シリコン光導波路を伝播し、前記光導波路ループ結合部で分岐されて前記第1光導波路ループ及び前記第2光導波路ループを伝播して、前記回折格子部分の前記第2回折格子によって前記第2励起光として励起され、該第2励起光が前記回折格子部分の前記第1回折格子によって前記第1励起光として励起され、該第1励起光が前記シリコン光導波路を伝播することにより、
前記回折格子部分を介して、外部との光の入出力を可能とすることを特徴とする請求項2に記載の回折格子型光結合器。
【請求項4】
前記サブ光導波路の幅は全て等しく、該サブ光導波路の幅は前記シリコン光導波路幅とは異なっていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回折格子型光結合器。
【請求項5】
前記シリコン光導波路幅と、少なくとも該シリコン光導波路に隣接して配置される前記サブ光導波路の幅とが相異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の回折格子型光結合器。
【請求項6】
導波路幅が周期的に変化する部分を有する複数のサブ光導波路が平行かつ周期的に並べられていることを特徴とする回折格子型光結合器。
【請求項7】
前記複数のサブ光導波路が平行かつ周期的に並べられることにより第1回折格子が形成され、前記複数のサブ光導波路の導波路幅が周期的に変化していることにより第2回折格子が形成され、前記第1回折格子と前記第2回折格子とで回折格子部分が構成され、
該回折格子部分がシリコン光導波路の途中に組み込んで構成されており、
前記シリコン光導波路を伝播する光が、前記第1回折格子により第1励起光として励起された後、該第1励起光が第2励起光として励起されて、該第2励起光が外部へ出力され、
外部から入力される光は、前記第2回折格子により前記第2励起光として励起された後、該第2励起光が前記第1励起光として励起されて、該第1励起光がシリコン光導波路を伝播する
ことを特徴とする請求項6に記載の回折格子型光結合器。
【請求項8】
前記複数のサブ光導波路が当該複数のサブ光導波路の両端に設けられた第1サブ光導波路結合部及び第2サブ光導波路結合部によって結合され、
前記第1サブ光導波路結合部に第1光導波路ループが接続され、前記第2サブ光導波路結合部に第2光導波路ループが接続されることによって、前記回折格子部分がシリコン光導波路の途中に組み込まれており、
該第1光導波路ループと該第2光導波路ループは、光導波路ループ結合部で結合され、該光導波路ループ結合部には、入出力用シリコン光導波路が接続され、
外部から取り込まれる光は、前記回折格子部分の前記第1回折格子によって前記第1励起光として励起され、該第1励起光が前記回折格子部分の前記第2回折格子によって前記第2励起光として励起されることによって、該第2励起光が前記シリコン光導波路、前記第1光導波路ループ及び前記第2光導波路ループを伝播して、前記光導波路ループ結合部で合波されて前記入出力用シリコン光導波路へ取り込まれ、
外部へ出力される光は、前記入出力用シリコン光導波路を伝播し、前記光導波路ループ結合部で分岐されて前記第1光導波路ループ及び前記第2光導波路ループを伝播して、前記回折格子部分の前記第2回折格子によって前記第2励起光として励起され、該第2励起光が前記回折格子部分の前記第1回折格子によって前記第1励起光として励起され、該第1励起光が前記シリコン光導波路を伝播することにより、
前記回折格子部分を介して、外部との光の入出力を可能とすることを特徴とする請求項7に記載の回折格子型光結合器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−64940(P2013−64940A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204594(P2011−204594)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】