説明

回生機構を備えた電動補助自転車

【課題】コンパクトで簡素な構成で、手押し後退時のクラッチ同士の干渉を防ぐ。
【解決手段】駆動体9と遊星キャリア5cとの間に逆入力用ワンウェイクラッチ15を、ハブケース12と遊星キャリア5cとの間にツーウェイクラッチ20を備える。駆動力は、リアスプロケット7から変速機構5を通ってツーウェイクラッチ20を介してハブケース12に伝達される。逆入力は、ハブケース12からツーウェイクラッチ20、逆入力用ワンウェイクラッチ15を介してリアスプロケット7に伝達される。ツーウェイクラッチ20の駆動力と逆入力とに対する係合の切替を、ハブケース12と遊星キャリア5cとの相対回転の方向に応じて自動で行い、手押し後退時にはツーウェイクラッチ20を係合不能状態に維持する係合切替手段Eを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車には、電動補助力を与えるためのモータ用電源としてバッテリが搭載される。このバッテリは、1回の充電で長時間走行できることが望ましいことから、自走中のエネルギーを有効に利用し、その自走中の回生発電により、バッテリを充電する機能を備えた電動補助自転車が開発されている。
【0003】
電動補助自転車に電力回生機能を搭載する場合、操作性と構造の簡素化を求めるならば、クランク軸及びその軸受等を含む人力駆動系と、モータによる補助動力をクランク軸に合力させる駆動系とを単一のハウジングに収容した駆動装置、いわゆるセンタモータユニットを備えた構造、いわゆるセンタモータ方式とするのが有利である。
センタモータ方式で、電力回生機能を搭載した電動補助自転車として、例えば、特許文献1に示すものがある。
【0004】
特許文献1に記載の技術は、センタモータ方式の電動補助自転車において、リアハブに変速機構と逆入力伝達用のクラッチを設けることにより、惰性走行時に後輪からの逆入力がチェーンを介してモータに伝達され、回生発電を可能としている。変速機構には、遊星歯車機構を用いており、入力が等速以上で伝達される増速型か、等速以下で伝達される減速型としている。
【0005】
増速型の遊星歯車機構50は、例えば、図12に示すように、車軸11の周りに設けられた複数の太陽歯車50a(50a−1、50a−2)と、その各太陽歯車50a(50a−1、50a−2)に噛み合う複数の歯車部を有する遊星歯車50e、その遊星歯車50eを保持する遊星キャリア50c、その遊星歯車50cのいずれかの歯車部に噛み合う外輪歯車50dを有している。外輪歯車50dは、ハブケース12と一体に回転する。また、複数の太陽歯車50a(50a−1、50a−2)と車軸11との間には、それぞれ変速用クラッチが設けられている。図中の符号7はリアスプロケット、符号8は車輪と一体に回転するハブフランジである。
【0006】
人力による又はモータによる駆動力で走行する際(自力走行時)には、遊星歯車機構50の遊星キャリア50cを入力部材として、遊星キャリア50cとハブケース12との間に設けた駆動用ワンウェイクラッチ50gを介して、駆動力が、入力部材からハブケース12へと伝達される直結状態に設定し得る。
また、入力部材から遊星歯車機構50を経由してハブケース12へと伝達される複数段階の増速状態にも設定し得る。
この変速段の切替は、複数の太陽歯車50a(50a−1、50a−2)と車軸11との間にそれぞれ設けてある変速用クラッチ50f(50f−1、50f−2)を、それぞれ係合可能状態、又は係合不能状態とに設定することによって行われている。
【0007】
また、逆入力伝達用のクラッチ(以下、「逆入力用クラッチ」と称する)4は、最も高速となる増速状態で車軸11に固定される太陽歯車50a−1と、その車軸11との間に設けられている。惰性走行時(坂道を惰性で下るような状態)において、逆入力は、逆入力用クラッチ4が係合可能状態にあるため、ハブケース12から入力部材へと伝達される。
【0008】
この構成では、逆入力用クラッチ4が通常のワンウェイクラッチであることから、そのままでは、手押し後退時(自転車を手で押してバックするような状態)に、駆動用ワンウェイクラッチ50gと干渉してロックしてしまうという問題がある。
【0009】
このため、後退時に逆入力用クラッチ4が解除されるように逆入力用クラッチ解除機構3を設けている。逆入力用クラッチ解除機構3は、後退時にのみ車軸11に対するハブケース12の回転方向が駆動方向と逆回転となることを利用して、ハブケース12の回転運動をテーパ状の部材3a、3bを利用して軸方向運動に変換し、その逆入力用クラッチ4を解除する(係合不能状態にする)機構となっている。
【0010】
しかし、逆入力用クラッチ解除機構3は、回転運動を軸方向運動に変換するために前記テーパ状の部材3a、3bを用いているため、所定の位置に解除部材が移動するまでにある程度ハブケース12が軸周り回転する必要がある。なお、特許文献1の図9等からは、少なくとも解除まで45°以上回転する必要があるものと推定される。
【0011】
このため、逆入力用クラッチ4以外の各クラッチ50g、50f(50f−1、50f−2)の状態によっては、その逆入力用クラッチ4が解除される前に、そのクラッチ50g、50f(50f−1、50f−2)との干渉が生じてしまい、後退できない場合が生じる恐れがある。
【0012】
また、特許文献1には、後退時に手動で、各クラッチ50g、50f(50f−1、50f−2)を係合不能状態にする機構を設ける手法についても開示されているが、後退のたびにこのような手動の切替を行うことは不便である。
【0013】
なお、特許文献2に記載された技術は、減速型の変速機構を採用し、遊星歯車機構からなる変速機構の最終出力部材とハブケースとの間を一体回転可能に連結している。最終出力部材は、遊星歯車を保持する遊星キャリアと噛み合っている。また、遊星歯車に噛み合う外輪歯車と、入力部材としての駆動体との間に、第一ワンウェイクラッチが設けられている。
自力走行時には、入力部材としての駆動体から、第一ワンウェイクラッチ、外輪歯車を通じて遊星歯車に駆動力を伝達し、遊星キャリア、最終出力部材へと走行用の駆動力を伝達する。
【0014】
また、駆動体と遊星キャリアとの間に第三ワンウェイクラッチを設けることにより、惰性走行時には、逆入力を、最終出力部材から遊星キャリア、第三ワンウェイクラッチを通じて駆動体へ伝達し、回生を可能としている。
このとき、第三ワンウェイクラッチが係合するのと連動して、自動的に第一ワンウェイクラッチを係合解除する第一ワンウェイクラッチ切替部を設けることにより、手動での切替えを行うことなく、手押し後退を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2010−095203号公報(第26−27頁第6−9図)
【特許文献2】特開2011−016479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記特許文献2に記載の技術によれば、自力走行(前進駆動)、惰性走行(前進非駆動)の逆入力伝達及び手押し後退のいずれもが実施可能である。
【0017】
しかし、駆動体と外輪歯車との間に新たに第一ワンウェイクラッチを設けなければならいため、構造が複雑となりハブケースの最外径部も大きくなる。
また、第三ワンウェイクラッチが係合するのと連動して、自動的に第一ワンウェイクラッチを係合解除する第一ワンウェイクラッチ切替部の機構についても、当該箇所に設けようとした場合、スペースを取り難く構造が複雑となる。
【0018】
そこで、この発明は、内装変速機を備えたセンタモータ式の電動補助自転車において、コンパクトで簡素な構成で、手押し後退時のクラッチ同士の干渉を防ぎ、手押し後退を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するために、この発明は、ハブケースの内部に変速機構及び変速制御機構を備え、前記変速機構は遊星歯車機構によって構成されて、車軸周りに設けられた太陽歯車と、その太陽歯車に噛み合う遊星歯車、及びその遊星歯車を保持する遊星キャリア、遊星歯車と噛み合う外輪歯車とを備え、前記外輪歯車は、駆動力の入力手段が取り付けられた駆動体と一体に回転可能であり、前記駆動体と前記遊星キャリアとの間に逆入力用ワンウェイクラッチを備え、前記ハブケースと前記遊星キャリアとの間にツーウェイクラッチを備え、前記入力手段から入力される駆動力は、前記変速制御機構によって前記変速機構の等速以下の変速比となるように選択された経路を通って前記ツーウェイクラッチを介して前記ハブケースに伝達され、前記ハブケースからの逆入力は、前記ハブケースから前記ツーウェイクラッチ及び前記逆入力用ワンウェイクラッチを介して前記入力部材に伝達され、前記ツーウェイクラッチの前記駆動力と前記逆入力とに対する係合の切替を、前記ハブケースと前記遊星キャリアとの相対回転の方向に応じて自動で行う係合切替手段を備え、前記係合切替手段は、前記ハブケースが、前記駆動力及び前記逆入力に対して、前記車軸の軸周り相対回転する方向と逆方向に相対回転する際には、前記ツーウェイクラッチを係合不能状態に維持する機能を有することを特徴とする電動補助自転車用内装変速機を採用した。
【0020】
この構成によれば、ツーウェイクラッチの駆動力と逆入力とに対する係合の切替を、係合切替手段によって、ハブケースと遊星キャリアとの相対回転の方向に応じて自動で行うことができる。また、その係合切替手段は、ハブケースが、駆動力及び逆入力に対して、車軸の軸周り相対回転する方向と逆方向に相対回転する際には、ツーウェイクラッチを係合不能状態に維持することができる。このように、ツーウェイクラッチを自動で係合方向切替可能な構成とすることにより、特別な操作をすることなく前進駆動、前進非駆動時の逆入力伝達及び手押し後退を行うことができる。
さらに、ツーウェイクラッチを、比較的スペースを確保しやすい変速機構の出力部材である遊星キャリアとハブケースとの間に設けることにより、ハブケースの大型化を防ぎコンパクトで簡素な構成とすることができる。
すなわち、コンパクトで簡素な構成で、手押し後退時のクラッチ同士の干渉を防ぎ、手押し後退を可能とすることができる。
【0021】
この構成において、前記ツーウェイクラッチは、前記ハブケースと一体に回転する外輪と前記遊星キャリアと一体に回転する内輪との間にローラを備え、そのローラを周方向に保持する保持器を備えたローラクラッチによって構成され、前記係合切替手段による前記係合の切替は、前記保持器と前記外輪(その外輪と一体に回転するハブケースを含む)との間に備えられた回転抵抗付与部材によって、その保持器と外輪との間に摩擦による回転抵抗が付与されることで行われる構成を採用することができる。
すなわち、ツーウェイクラッチをローラクラッチによって構成し、保持器と外輪(ハブケース)との間に摩擦による回転抵抗を与えることにより、前進駆動時と前進非駆動時(回生時)の係合方向の切替を自動的に行うことができる。
【0022】
さらに、その構成において、前記駆動力及び前記逆入力に対する前記保持器と前記車軸との軸周り相対回転時よりも、前記逆方向の相対回転時における前記保持器と前記車軸との回転抵抗が相対的に大きくなるように設定されている構成を採用することができる。
すなわち、保持器と静止系(フレームに固定されている系)である車軸との間に、後退方向の回転に対してより大きな回転抵抗を、あるいは、後退方向の回転に対してのみ回転抵抗を与えることによって、手押し後退時にツーウェイクラッチの係合を抑制または解除することができ、その抑制又は解除によって手押し後退が可能となる。これは、車軸(静止系)に対する保持器の回転方向が、手押し後退時にのみ逆回転になることを利用している。
【0023】
この構成において、前記逆方向の相対回転時における前記保持器と前記車軸との回転抵抗は、前記保持器と前記外輪との間の回転抵抗よりも相対的に大きくなるように設定されている構成を採用することができる。
すなわち、手押し後退時(前記逆方向の相対回転時)における保持器と車軸との回転抵抗を、保持器と外輪(ハブケース)との間の摩擦抵抗よりも大きくする。この場合、保持器を車軸に対して後退方向に完全に回転不能とさせてもよいため、保持器と車軸との間に切替用ワンウェイクラッチを設けることが望ましい。
【0024】
切替用ワンウェイクラッチを備えた構成は、前記保持器と前記車軸との間に切替用ワンウェイクラッチを設け、前記切替用ワンウェイクラッチは、前記駆動力及び前記逆入力に対する前記保持器と前記車軸との軸周り相対回転のみを許容するものである。
この切替用ワンウェイクラッチには、例えば、ローラクラッチやスプラグクラッチを用いることができる。この場合、ローラクラッチやスプラグクラッチはラチェットクラッチ等に比べ係合するまでの遊び(バックラッシ)が比較的小さく、手押し後退時に、切替用ワンウェイクラッチによって保持器が車軸周りに相対回転不能となるまでのバックラッシが小さいことから、より確実にツーウェイクラッチの係合を抑制または解除することができる。
これらの構成により、後退時にツーウェイクラッチが解除され、他のクラッチとの干渉が起きて後退不能となることを防ぐことができる。
【0025】
これらの各構成において、前記太陽歯車と前記車軸との間に、前記変速制御機構によって、前記駆動力に対して係合可能状態と係合不能状態とに切替可能な変速用第一ワンウェイクラッチを備え、前記外輪歯車又はその外輪歯車と一体に回転する部材と前記遊星キャリアとの間に、前記変速制御機構によって、前記駆動力に対して係合可能状態と係合不能状態とに切替可能な変速用第二ワンウェイクラッチを備える構成を採用することができる。
すなわち、外輪歯車又はその外輪歯車と一体で回転する部材(前記駆動体等)と遊星キャリアとの間に、変速制御機構によって切替可能な変速用第二ワンウェイクラッチが設けられ、太陽歯車と車軸との間に変速制御機構によって切替可能な変速用第一ワンウェイクラッチを設けることにより、等速(直結)を含む減速型の変速機構とすることができる。このとき、最も速い変速段(トップギア)が等速となり、歯車を介さないで駆動力を伝達可能であるため、歯車の耐久性を高める上で有利である。
【0026】
また、前記駆動体と前記遊星キャリアとの間に設けられる逆入力用ワンウェイクラッチは、例えば、ラチェットクラッチ、ローラクラッチ、スプラグクラッチ等の既存のワンウェイクラッチ機構を採用することが可能であるが、同一部材間に変速用第二ワンウェイクラッチが設けられている場合には、両クラッチをラチェットクラッチとすることができる。これにより、両クラッチを軸方向同一位置に配置することが可能となるため、装置をさらにコンパクトとし得る。
一方で、逆入力用ワンウェイクラッチに、ローラクラッチ又はスプラグクラッチを採用した場合、前進駆動走行から前進非駆動走行に移行する際のバックラッシが小さい等の利点がある。
【0027】
これらの各構成において、前記変速制御機構は、車軸内を通して外部に引き出された操作部を軸方向に移動操作させることによって変速切替する構成を採用することができる。
すなわち、変速制御機構として、車軸内を通して外部に引き出された操作部を軸方向に移動操作することにより変速を行う方式を採用することにより、構造を簡素とすることができる。なお、変速制御機構の構成はこれに限らず、車軸周りに沿って外部に引き出された操作部を周方向に回転操作することにより変速を行う方式等、既知の変速制御機構を採用することができる。
【0028】
これらの各構成からなる電動補助自転車用内装変速機を、回生機構を備えた電動補助自転車に搭載することによって、前進駆動時には、ツーウェイクラッチを介して駆動輪のリアスプロケットからハブに駆動力が伝達され、自転車は前進する。前進非駆動時には、同じく、ツーウェイクラッチを介して、駆動輪のハブからの逆入力がリアスプロケットに伝達され、さらに、リアスプロケットから動力伝達要素を通してモータ駆動スプロケットにトルクが伝わることで、回生発電が可能となる。
また、そのツーウェイクラッチは自動で係合方向切替可能な構成となっているので、特別な操作をすることなく前進駆動、前進非駆動時の逆入力伝達及び手押し後退を行うことができる。さらに、ツーウェイクラッチは、比較的スペースを確保しやすい変速機構の出力部材である遊星キャリアとハブケースとの間に設けられているから、ハブケースの大型化を防ぎコンパクトで簡素な構成とすることができる。
すなわち、コンパクトで簡素な構成で、手押し後退時のクラッチ同士の干渉を防ぎ、手押し後退を可能とすることができる。
【0029】
なお、電動補助自転車のセンタモータユニット内においては、モータ出力軸とモータ駆動スプロケットとを直結することにより、駆動力及び逆入力の両方向のトルクを伝達することができ、また、クランク軸とクランクスプロケット(人力駆動スプロケット)との間には、駆動力のみ伝達し、逆入力時は空転するセンタワンウェイクラッチを組み込むことにより、逆入力によりペダルが強制的に回転するのを防止することができる。
このセンタワンウェイクラッチとしては、ローラクラッチ、スプラグクラッチ、ラチェットクラッチ等を採用することができる。
【発明の効果】
【0030】
この発明は、回生機能に対応した電動補助自転車用内装変速機を備えたハブにおいて、回生時に外部操作を行うことなく駆動輪からの逆入力を、センタモータユニットのモータに伝達可能となる。
【0031】
また、ツーウェイクラッチを自動で係合方向切替可能な構成とすることにより、特別な操作をすることなく前進駆動、前進非駆動時の逆入力伝達及び手押し後退を行うことができる。さらに、ツーウェイクラッチを、比較的スペースを確保しやすい変速機構の出力部材である遊星キャリアとハブケースとの間に設けることにより、ハブケースの大型化を防ぎコンパクトで簡素な構成とすることができる。
すなわち、コンパクトで簡素な構成で、手押し後退時のクラッチ同士の干渉を防ぎ、手押し後退を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施形態の前進駆動時(変速1段目)を示す縦断面図
【図2】(a)は図1のA−A断面図、(b)は図1のB−B断面図、(c)は図1のC−C断面図、(d)は図1のD−D断面図
【図3】同実施形態の前進駆動時(変速2段目)を示す縦断面図
【図4】(a)は図3のA−A断面図、(b)は図3のB−B断面図、(c)は図3のC−C断面図、(d)は図3のD−D断面図
【図5】同実施形態の前進駆動時(変速3段目)を示す縦断面図
【図6】(a)は図5のA−A断面図、(b)は図5のB−B断面図、(c)は図5のC−C断面図、(d)は図5のD−D断面図
【図7】同実施形態の前進非駆動時(変速は3段目)を示す縦断面図
【図8】(a)は図7のA−A断面図、(b)は図7のB−B断面図、(c)は図7のC−C断面図、(d)は図7のD−D断面図
【図9】同実施形態の手押し後退時(変速は3段目)を示す縦断面図
【図10】(a)は図9のA−A断面図、(b)は図9のB−B断面図、(c)は図9のC−C断面図、(d)は図9のD−D断面図
【図11】回生機構を備えた電動補助自転車の全体図
【図12】従来例の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0033】
この発明の一実施形態を、図1乃至図11に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車60は、図11に示すように、前輪61と駆動輪(後輪)62間の中央部付近において、その前輪61と駆動輪62とを結ぶフレームFに二次電池63及び補助駆動用のモータ(センタモータユニットC)を取り付けたセンタモータ方式である。
【0034】
駆動時、すなわち、ペダル64を通じてクランク軸から伝達された踏力、又は前記モータの出力による駆動力が入力された場合は、センタモータユニットCのクランクスプロケット65と、駆動輪62に設けた入力手段であるリアスプロケット7とを結ぶチェーン等の動力伝達要素66を介して、その後輪に駆動力が伝達可能となっている。また、非駆動時には、駆動輪62の電動補助自転車用内装変速機(リアハブ)10から前記モータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を、前記センタモータユニットCの二次電池63に還元する回生機構を備えている。逆入力は、リアスプロケット7、動力伝達要素66を介してセンタモータユニットCへ伝達される。
【0035】
なお、図示していないが、クランク軸とクランクスプロケット65の間には、駆動力を伝達する方向にロックし、逆入力に対して空転するセンタワンウェイクラッチが設けられている。このため、逆入力によって、クランク軸やペダル64等に対して駆動力が伝達されないようになっている。このセンタワンウェイクラッチとしては、ローラクラッチ、スプラグクラッチ、ラチェットクラッチ等、周知のワンウェイクラッチを採用できる。
【0036】
電動補助自転車用内装変速機10は、図1に示すように、駆動輪62の車軸11と同軸に設けたハブケース12内に、遊星歯車機構で構成された変速機構5、逆入力用ワンウェイクラッチ15、ツーウェイクラッチ20、変速制御機構40とを備えている。車軸11はフレームFに対して回転不能に固定されている。なお、図中の符号8は、ハブフランジを示している。
【0037】
変速機構5は、直結と2段減速の合計3段変速が可能な遊星歯車機構で構成された減速型である。その遊星歯車機構による変速機構5は、車軸11の外周に設けられた太陽歯車5aが、変速用第一ワンウェイクラッチ5fを介して接続されている。また、太陽歯車5aの外側には、その太陽歯車5aに噛み合う遊星歯車5eが設けられている。
この実施形態では、遊星歯車5eは歯数の異なる二つの歯車部を有し、太陽歯車5aは同じく二つ設けられて、その各太陽歯車5aが対応する歯車部にそれぞれ噛み合っている。以下、その二つの太陽歯車5aを、第一太陽歯車5a−1、第二太陽歯車5a−2と称する。
【0038】
変速用第一ワンウェイクラッチ5fは、その第一太陽歯車5a−1と車軸11との間、第二太陽歯車5a−2と車軸11との間にそれぞれ設けられている。
第一太陽歯車5a−1と車軸11の間の変速用第一クラッチ5fを、以下、変速用第一クラッチ部5f−1と称する。また、第二太陽歯車5a−2と車軸11の間の変速用第一クラッチ5fを、以下、変速用第二クラッチ部5f−2と称する。
【0039】
遊星歯車5eは、車軸11周りに回転自在に設けられた遊星キャリア5cによって、遊星キャリア軸5dを介して保持されている。
また、その遊星キャリア5cと、駆動力の入力部材であるリアスプロケット7が取り付けられている駆動体9とは、変速用第二ワンウェイクラッチ5g及び逆入力用ワンウェイクラッチ15を介して接続されている。
【0040】
なお、駆動体9は、軸受13を介して車軸11周りに回転自在である。また、ハブケース12は、軸受13、14を介して、その駆動体9及び車軸11周りに回転自在である。
【0041】
この変速用第一ワンウェイクラッチ5f、変速用第二ワンウェイクラッチ5gは、変速制御機構40によって、駆動力に対して係合可能状態と係合不能状態とに切替可能である。また、逆入力に対しては常に係合しない。
【0042】
この実施形態では、変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第一クラッチ部5f−1及び変速用第二クラッチ部5f−2、変速用第二ワンウェイクラッチ5gとして、それぞれラチェットクラッチ(ラチェット機構)を採用している。
【0043】
また、変速機構5は、遊星歯車5eのいずれかの歯車部に噛み合い、駆動体9と一体に回転可能である外輪歯車5bを備えている。この実施形態では、外輪歯車5bは、遊星歯車5eの歯数が少ない方の歯車部に噛み合っている。
【0044】
この実施形態では、駆動体9と外輪歯車5bとは別体に形成し、駆動体9の外面に外輪歯車5bと噛み合う同じ歯数の外歯車部を形成し、外輪歯車5bの内歯車部をインボリュートスプラインとして利用している。これにより、外輪歯車5bは、半径方向に浮動支持(半径方向に特に固定されていない状態)となるため、各遊星歯車に負荷される荷重のバランスが取りやすくなっている。ただし、例えば、駆動体9と外輪歯車5bとを完全に一体に形成する構成とすることも可能である。
【0045】
駆動体9と車軸11との間、及びハブケース12と車軸11との間には、それぞれ軸受部13が設けられ、互いに相対回転可能に支持されている。駆動体9とハブケース12との間にも、軸受部14が設けられて互いに相対回転可能となっている。
【0046】
変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第一クラッチ部5f−1は、車軸11に固定した揺動軸(クラッチ爪軸)5hの軸周りに、2つの揺動自在の変速用第一クラッチ爪5j(以下、変速用第一爪部5j−1と称する)が車軸11の外面に設けられており、その変速用第一爪部5j−1が噛み合う変速用第一クラッチカム面5k(以下、変速用第一カム面部5k−1と称する)が第一太陽歯車5a−1の内面に設けられている。変速用第一爪部5j−1は、特定方向の回転(駆動力が入力された場合に回転する方向と同方向)に対してのみ変速用第一カム面部5k−1に係合可能となるよう配置されている(図2(b)参照)。
【0047】
また、変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第二クラッチ部5f−2も、前記揺動軸(クラッチ爪軸)5hの軸周り揺動自在に、2つの揺動自在の変速用第一クラッチ爪5j(以下、変速用第二爪部5j−2と称する)が車軸11の外面に設けられており、その変速用第二爪部5j−2が噛み合う変速用第一クラッチカム面5k(以下、変速用第二カム面部5k−2と称する)が第二太陽歯車5a−2の内面に設けられている。変速用第二爪部5j−2は、同じく、前記特定方向の回転に対してのみ変速用第二カム面部5k−2に係合可能となるよう配置されている(図2(c)参照)。
【0048】
また、変速用第二ワンウェイクラッチ5gは、遊星キャリア5cに固定した揺動軸5iの軸周り揺動自在に、2つの揺動自在の変速用第二クラッチ爪5mが遊星キャリア5cの外面に設けられており、その変速用第二クラッチ爪5mが噛み合うクラッチカム面を有する変速用第二クラッチカム部5nが、駆動体9の内面に設けられている。変速用第二クラッチ爪5mは、同じく、前記特定方向の回転に対してのみ変速用第二クラッチカム部5nに係合可能となるよう配置されている(図2(a)参照)。
【0049】
逆入力用ワンウェイクラッチ15は、遊星キャリア5cに固定した揺動軸(クラッチ爪軸)16の軸周り揺動自在に、2つの揺動自在の逆入力用クラッチ爪17が遊星キャリア5cの外面に設けられており、その逆入力用クラッチ爪17が噛み合うクラッチカム面が、駆動体9の内面に設けられている。このクラッチカム面は、前記変速用第二クラッチカム部5nと共用されている。
【0050】
この逆入力用クラッチ爪17は、変速用第二ワンウェイクラッチ5gが係合可能な回転方向とは逆方向の回転(逆入力が入力された場合の回転方向)に対してのみ変速用第二クラッチカム部5nに係合可能となるよう配置されている。
すなわち、変速用第二クラッチカム部5nは、周方向に沿って凹凸が連続する形状となっており、変速用第二クラッチ爪5mが駆動力に対して、逆入力用クラッチ爪17が逆入力に対してそれぞれ係合可能な形状に形成されている。
【0051】
ツーウェイクラッチ20としては、周知の係合子クラッチを用いることができるが、この実施形態では、図2(d)に示すように、ローラクラッチを採用している。
【0052】
ツーウェイクラッチ20の構成は、図1に示すように、ハブケース12の内面に、そのハブケース12と一体で回転可能な円筒の外輪21を備える。外輪21は、圧入等によってハブケース12の内周部に固定されている。
また、ツーウェイクラッチ20は、遊星キャリア5cの外面に、その遊星キャリア5cと一体で回転可能な多角形状の内輪22を備える。
同軸上に配置された外輪21と内輪22とが軸周り相対回転可能であり、その内輪22の外周に設けられたカム面22aと外輪21の内周面21aとの間に設けられた周方向両側に伸びる楔空間に、係合子としてローラ23が配置されている。
【0053】
ローラ23を保持する保持器24は、図1に示すように、回転抵抗付与部材25に連結されている。回転抵抗付与部材25は、金属製の線材を外輪21(ハブケース12)の内面に円周方向に螺旋状に巻回したものであり、その弾性力によって予圧(この場合半径方向に拡がろうとする力)を与えられた状態となっている。また、その線材の片端部が内径側に屈曲されて保持器24に係止されている。
【0054】
また、回転抵抗付与部材25は、その弾性力によって外輪21又はその外輪21と一体に回転するハブケース12に所定の摩擦力となるよう接触しており、その摩擦力による回転抵抗があるものの外輪21に相対回転可能となっている。
これにより、回転抵抗付与部材25に連結されている保持器24も、外輪21に対して摩擦力による回転抵抗があるものの相対回転可能となっている。また、保持器24は、車軸11の外面に切替用ワンウェイクラッチ30を介して接続されている。これによって、保持器24は、車軸11に対して特定の回転方向(自転車が前進する際に回転する方向)にのみ相対回転可能となっている。
【0055】
この実施形態では、保持器24は、ローラ23を収容するポケット部を周方向に沿って複数備えた環状部と、その環状部から延長されて内径方向に立ち上がるフランジ状の端面板部とを備えている。また、端面板部の内径側端部は、切替用ワンウェイクラッチ30の外輪31と一体に形成されている。
【0056】
切替用ワンウェイクラッチ30は、図2(d)に示すように、車軸11と一体に回転する内輪32の外面に、周方向に沿って一定の間隔でカム面を備えている。同軸上に配置された外輪31と内輪32とが軸周り相対回転可能であり、その内輪32の外周面のカム面と、外輪31の内周面との間に設けられた周方向両側に伸びる楔空間に、係合子としてローラ33が配置されている。
【0057】
これらの切替用ワンウェイクラッチ30、及びツーウェイクラッチ20の保持器24の延長部(前記端面板部等)は、そのツーウェイクラッチ20の駆動力と逆入力とに対する係合の切替を、ハブケース12と遊星キャリア5cとの相対回転の方向に応じて自動で行う係合切替手段Eとして機能する。また、その係合切替手段Eは、ハブケース12が、駆動力及び逆入力に対して車軸11に対して軸周り相対回転する方向と逆方向に相対回転する際には、ツーウェイクラッチ20を係合不能状態に維持する機能を有する。
【0058】
変速制御機構40は、車軸11の中心に設けた軸方向へ伸びる孔11b内を通して外部に引き出された操作部41と、その操作部41に接続され車軸11の外径側に設けられた変速用部材47、変速用第二クラッチ切替部46を有している。
【0059】
操作部41は軸状を成し、車軸11内に設けた孔11b内に進退自在に挿通されており、弾性部材43によって軸方向外側に付勢されている。このため、操作部41の軸方向への移動操作は、その操作部41をハブ内に押し込む時は、弾性部材43の付勢力に抗して行われ、押し込む力を解除すると、操作部41は、その付勢力によって自動的に元の状態に復帰する。
また、操作部41には、所定の負荷を与えられた弾性部材42が内蔵されており、所定値を超える押し込み方向の荷重が操作部41に負荷されると、弾性部材42が圧縮され、操作部41が縮まることが可能な構造となっている。すなわち、必要以上に操作部41を軸方向に移動操作した場合、操作部41に内蔵された弾性部材42によって過剰操作量分を吸収可能となっている。
【0060】
操作部41は、車軸11に設けられた横穴45に挿入されたピン41aによってその車軸11に保持されている。このピン41aを、操作部41によって横穴45内で軸方向へ移動操作することにより、変速用部材47及び変速用第二クラッチ切替部46の軸方向への移動を行うことができる。
このとき、変速用部材47は、車軸11に設けられた横穴45に挿入されたピン41aと変速用第二クラッチ切替部46とによって、その軸方向位置が規定されている。変速用部材47は、ピン41aと変速用第二クラッチ切替部46とともに軸方向へ移動する。このため、ピン41aを操作部41によって横穴45内で軸方向へ移動操作することにより、変速用部材47と変速用第二クラッチ切替部46の軸方向への移動を行うことができる。
【0061】
変速制御機構40の操作と変速用第一ワンウェイクラッチ5f、変速用第二ワンウェイクラッチ5gとの関係について、それぞれ説明する。
操作部41の軸方向への移動操作により、変速用部材47が軸方向へ移動し、その移動によって、変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第二クラッチ部5f−2が、駆動力に対して係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えられる。すなわち、第二太陽歯車5a−2を、駆動力に対して車軸11周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
なお、変速用第一クラッチ部5f−1は、変速用部材47の軸方向への移動によらず、常に駆動力に対して係合可能状態となっている。
【0062】
その作用について説明すると、変速用第一クラッチ部5f−1及び変速用第二クラッチ部5f−2のそれぞれにおいて、変速用第一爪部5j−1及び変速用第二爪部5j−2は、それぞれカム面5k(変速用第一カム面部5k−1又は変速用第二カム面部5k−2)への係合側の端部(一端)が、弾性部材5pによって、そのカム面5k側に起き上がる方向に負荷を与えられている。
【0063】
変速用部材47には、車軸11の軸方向に沿って1箇所の切欠部47bと、外径方向にやや膨出した突出部47aが設けられている。
車軸11内を通って外部に引き出された操作部41を、車軸11外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用部材47も軸方向に移動し、その変速用部材47の切欠部47bが、変速用第二爪部5j−2の位置とその位置から外れた位置との間で移動する。
【0064】
その移動により、変速用第二爪部5j−2に変速用部材47の突出部47aが接すると、弾性部材5pの弾性力に抗して、変速用第二カム面部5k−2側に起き上がるのが抑制される。このため、変速用第二爪部5j−2は変速用第二カム面部5k−2に係合できない状態となる(以下、係合不能状態と称する。)。
また、変速用部材47の切欠部47bが変速用第二爪部5j−2に対面すると、変速用第二爪部5j−2は、その変速用部材47による拘束が解除され、変速用第二爪部5j−2の一端が変速用第二カム面部5k−2側に起き上がり、駆動力に対して係合することが可能な状態となる(以下、係合可能状態と称する。)。
【0065】
例えば、図1及び図2(b)(c)は、変速用第一爪部5j−1と変速用第二爪部5j−2のうち、変速用第一爪部5j−1のみが係合可能状態で、その変速用第一爪部5j−1が実際に起き上がって係合している状態を示しており、図3及び図4(b)(c)は、変速用第一爪部5j−1と変速用第二爪部5j−2の両方が係合可能状態で、その内の変速用第一爪部5j−1は係合可能状態であるが空転しており、変速用第二爪部5j−2が係合している状態を示している。
【0066】
また、変速用部材47の切欠部47bの軸方向一端、すなわち、突出部47a側の端部には、テーパ面47cが設けられている。このテーパ面47cは、変速用第二爪部5j−2が、変速用第二カム面部5k−2と係合している状態から、その係合を解除しようとする際に、テーパ面47cが変速用第二爪部5j−2の他端に接することで、その係合解除をスムーズにしている。すなわち、そのテーパ面47cの傾斜面によって、変速用第二爪部5j−2を変速用第二カム面部5k−2から外す力を大きくすることができる。
【0067】
また、その操作部41の軸方向への移動操作により、変速用第二クラッチ切替部46が軸方向へ移動する。その移動によって、変速用第二クラッチ切替部46の大径部46cが、変速用第二ワンウェイクラッチ5gの変速用第二クラッチ爪5mに対面する位置と、その位置から離脱した位置とに移動し、変速用第二ワンウェイクラッチ5gは、駆動力に対して係合可能状態又は係合不能状態とに切り替えられる。
すなわち、駆動力に対して、駆動体9を遊星キャリア5c周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0068】
その作用について説明すると、変速用第二ワンウェイクラッチ5gにおいて、2つの変速用第二クラッチ爪5mは、変速用第二クラッチカム部5nへの係合側の端部(一端)が、図示しない弾性部材によって、その変速用第二クラッチカム部5n側に起き上がる方向に負荷を与えられている。一方、その係合側の反対側の端部(他端)は、変速制御機構40における変速用第二クラッチ切替部46に接しており、その弾性部材の弾性力に抗して、変速用第二クラッチカム部5n側に起き上がるのが抑制されている(例えば、図2(a)参照)。
【0069】
ここで、操作部41を、車軸11外からの外部操作により軸方向へ移動させると、変速用部材47とともに変速用第二クラッチ切替部46も軸方向に移動し、その変速用第二クラッチ切替部46が、変速用第二クラッチ爪5mの位置とその位置から外れた位置との間で移動する。
【0070】
その移動により、変速用第二クラッチ切替部46に対面した変速用第二クラッチ爪5mは、その変速用第二クラッチ切替部46の大径部46cによって拘束され、その一端が、変速用第二クラッチカム部5n側に起き上がらないため、駆動力に対して係合しない状態となる。また、変速用第二クラッチ切替部46の大径部46cが、変速用第二クラッチ爪5mの位置から離脱し、変速用第二クラッチ切替部46の小径部46dが変速用第二クラッチ爪5mの位置に移動すると、その変速用第二クラッチ切替部46による拘束が解除され、その一端が、変速用第二クラッチカム部5n側に起き上がり、駆動力に対して係合することが可能な状態となる。また、変速用第二クラッチ切替部46は、小径部46dから大径部46cに拡径するテーパ面46eが設けられており、変速用第二クラッチ爪5mが、変速用第二クラッチカム部5nと係合している状態から、その係合を解除しようとする際に、テーパ面46eが変速用第二クラッチ爪5mの他端に接することで、その係合解除をスムーズにしている。すなわち、そのテーパ面46eの傾斜面によって、変速用第二クラッチ爪5mを変速用第二クラッチカム部5nから外す力を大きくすることができる。
例えば、図6は、変速用第二クラッチ爪5mが係合可能状態となって実際に係合している状態を示しており、図2、図4は、変速用第二クラッチ爪5mが拘束されて、それぞれ係合不能状態となっているのを示している。
【0071】
なお、この変速制御機構40では、前述のように、操作部41の中に所定の負荷(F1)を与えられた前記弾性部材42が内蔵されている。また、車軸11中心に設けた軸方向へ伸びる孔11bは、操作部41側と反対側の端部が塞がれており、別の前記弾性部材43が所定の負荷(F2)を与えられて、ピン41aと前記反対側の端部との間に備えられている。このとき、各弾性部材42、43の弾性力は以下の関係となっている。
F1 > F2+k2・Xmax2 ・・・(1)
ここで、k2は弾性部材43のばね定数、Xmax2はピン41aが初期位置から最も押し込まれたときの移動量である。
【0072】
操作部41を軸方向に押し込む方向に移動させた場合、その操作部41に押されてピン41aが車軸11に設けられた横穴45に沿って軸方向へ移動する。このとき、上記(1)式の関係により、操作部41に内蔵された弾性部材42は圧縮されず、弾性部材43のみが圧縮されることになる。例えば、図5に示すように、ピン41aが横穴45の右端まで押し込まれた状態で、さらに操作部41が押し込まれるような負荷を受けた場合に、弾性部材42が圧縮されて、その分の押し込み量を吸収可能となっている。つまり、変速3段目(3速時)に変速する場合において、ピン41aを正確に横穴45の右端に移動させることは困難なため、押し込み量が多少前後しても問題がないような機能を持たせている。
【0073】
また、変速制御機構40は、さらに別の弾性部材44を備えている。この弾性部材44は、シフトダウンをよりスムーズにするために機能する。
特に、登坂時等、大きな駆動力が負荷された状態でシフトダウンを行いたい場合、各変速用クラッチにも大きなトルクが負荷されていることから、変速用部材47等に設けられたテーパ面47cと弾性部材43の弾性力のみで係合解除することは困難である。このとき、例えば、弾性部材43の弾性力を非常に大きくすれば、その係合解除が可能となる。しかし、この場合、弾性部材43の弾性力に抗してシフトアップする際に必要な操作力も非常に大きくなってしまい、操作性が大きく低下する。そこで、回転部材(この実施形態では駆動体9)のトルクを利用して、強制的に変速用部材47等を軸方向に移動させる機能を付与しようとするものである。
【0074】
すなわち、変速用第二クラッチ切替部46の内部に、前記弾性部材44が、所定の負荷(F3)を与えられて備えられている。弾性部材44は、ピン41aと変速用第二クラッチ切替部46の底面との間に配置される。このとき、各弾性部材43、44の弾性力は以下の関係となっている。
F2 > F3+k3・Xmax3 ・・・(2)
ここで、k3は弾性部材44のばね定数、Xmax3はピン41aが初期位置から変速用第二クラッチ切替部46内部に最も押し込まれたときの移動量である。
【0075】
シフトダウンする際に、外部より操作部41を押し込んでいる負荷を開放すると、弾性部材43の弾性力によって、ピン41aが押し戻される。このとき、ピン41aは、上記(2)式の関係より、弾性部材44の弾性力に抗して、変速用第二クラッチ切替部46の内面に設けられた内面溝部46bに移動し、ピン41aの両端が内面溝部46bに接触する。この内面溝部46bは、あるリード角を持つ傾斜面、すなわち、軸方向に対して一定の角度を成すテーパ面を有する凹凸で構成される。そのテーパ面は、軸方向一方から他方に向かうにつれて周方向いずれかの側へ近づくように傾斜している。
【0076】
このとき、変速用第二クラッチ切替部46は、例えば、図2(a)に示すように、外面に設けた凸部46aが、駆動体9の内面に設けられた凹部9aに噛み合っており、駆動体9と車軸11周りに一体に回転している。一方で、変速用第二クラッチ切替部46は駆動体9に対して軸方向への移動は可能となっている。ピン41aは車軸11の横穴45によって車軸11周りでの回転運動は不可能となっている。このため、例えば変速3段目(図5)から変速2段目(図3)へのシフトダウン時に、弾性部材43の弾性力によって、ピン41aが変速用第二クラッチ切替部46の内面溝部46bに押し込まれると、変速用第二クラッチ切替部46はピン41aによって、車軸11周りの相対回転不能となる。
しかしながら、変速用第二クラッチ切替部46は駆動体9と一体に回転しているため、駆動体9からの駆動力が変速用第二クラッチ切替部46に伝達される。変速用第二クラッチ切替部46は、ピン41aによって車軸11周りに相対回転不能であるが、内面溝部46bのテーパ面によって回転方向の力が軸方向の力に変換され、ピン41aの軸方向位置は固定されたままで、変速用第二クラッチ切替部46が強制的に軸方向一方(リアスプロケット7側)へ移動され、変速用第二ワンウェイクラッチ5gの変速用第二クラッチ爪5mの他端に変速用第二クラッチ切替部46外面のテーパ面46eが接触し、前記軸方向の力によって、変速用第二クラッチ爪5mの変速用第二クラッチカム部5nへの係合を解除することができる。このとき、変速用第二クラッチ切替部46と変速用部材47の軸方向移動は連動して行われる。
【0077】
また、ピン41aの軸方向他方への移動、すなわち、ピン41aのリアスプロケット7とは逆側への移動を抑制するために、車軸11の横穴45は、実際にはあるリード角を持った穴となっている。
変速用第二クラッチ切替部46の大径部46cが変速用第二ワンウェイクラッチ5gから離脱すると、弾性部材44の弾性力によって、変速用第二クラッチ切替部46はピン41aに対して初期位置まで移動し、ピン41aが内面溝部46bから抜け出すことで、シフトダウンが完了する。変速2段目(図3)から変速1段目(図1)へのシフトダウンの場合についても、同様の機構でシフトダウンが行われる。
【0078】
このように、変速用第一ワンウェイクラッチ5fに関し、変速制御機構40は、駆動力に対して、その変速用第一クラッチ5fの変速用第二クラッチ部5f−2を、係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、第二太陽歯車5a−2を、駆動力に対して、車軸11周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
また、変速用第二ワンウェイクラッチ5gに関し、変速制御機構40は、駆動力に対して、その変速用第二ワンウェイクラッチ5gを係合可能状態又は係合不能状態とに切り替える機能を有している。この切替により、駆動体9を、駆動力に対して、遊星キャリア5c周りに相対回転可能または相対回転不能とに切り替えることができる。
【0079】
この切替によって、前進駆動時に、踏力又はモータの出力による駆動力が、動力伝達要素66からリアスプロケット7を通じて駆動体9に入力され、変速機構5によって等速、又は減速状態で遊星キャリア5cに伝達され、ツーウェイクラッチ20に伝達される。
このとき、保持器24が外輪21に対して回転抵抗付与部材25を介して摩擦によって回転抵抗が与えられているため、保持器24に対して内輪22(遊星キャリア5c)が相対的に速く回転する。これにより、ローラ23は、外輪21と内輪22によって形成された楔空間の狭まる方向に移動していき、ローラ23は楔空間に噛み込み、遊星キャリア5cからハブケース12に駆動力が伝達される。
【0080】
一方、前進非駆動時には、駆動輪62からの逆入力は、その変速機構5のいずれの変速段においても、駆動輪62から等速で動力伝達要素66へ伝達される。
【0081】
その逆入力を伝達する機構について詳しく説明すると、図7、図8に示すように、前進非駆動時には、駆動輪62からの逆入力がハブケース12に伝達され、ツーウェイクラッチ20に伝達される。このとき、保持器24が外輪21に対して(ハブケース12に対してであってもよい)回転抵抗付与部材25を介して摩擦によって回転抵抗が与えられているため、外輪21及び保持器24(ローラ23)が、内輪22に対して相対的に速く回転する。
これにより、ローラ23は外輪21と内輪22によって形成された前進駆動時とは逆方向の楔空間の狭まる方向に移動していき、ローラ23は楔空間に噛み込み、ハブケース12から遊星キャリア5cに逆入力が伝達される。
【0082】
遊星キャリア5cに伝達された逆入力は、逆入力用ワンウェイクラッチ15を介して等速で駆動体9に伝達され、リアスプロケット7から動力伝達要素66に伝達される。このとき、第一太陽歯車5a−1及び第二太陽歯車5a−2は、変速用第一ワンウェイクラッチ5fに対して空転方向に回転しているため、いずれの変速段においても、変速用第一ワンウェイクラッチ5fが係合することはない。
また、逆入力用ワンウェイクラッチ15が係合しているため、同一位置に逆向きに設けられた変速用第二ワンウェイクラッチ5gが係合することはない。つまり、いずれの変速段においても、駆動輪62からの逆入力は、ハブケース12、ツーウェイクラッチ20、遊星キャリア5c、逆入力用ワンウェイクラッチ15、駆動体9、リヤスプロケット7、動力伝達要素66の順に等速で伝達される。
【0083】
このように、係合切替手段Eは、ツーウェイクラッチ20の駆動力と逆入力とに対する係合の切替を、ハブケース12と遊星キャリア5cとの相対回転の方向に応じて自動で行うことができる。また、その係合切替手段Eによるツーウェイクラッチ20の係合の切替は、保持器24と外輪21とが、又は保持器24とハブケース12とが回転抵抗付与部材25を介して接触していることによる回転方向の摩擦によって、その保持器24に回転抵抗が付与されることで自動的に行われる。
【0084】
つぎに、変速機構5による変速段の切替について具体的に説明すると、例えば、変速用第二ワンウェイクラッチ5gにより、駆動体9を遊星キャリア5cに駆動力に対して相対回転可能とし、変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第一クラッチ部5f−1により第一太陽歯車5a−1を車軸11に駆動力に対して相対回転不能とし、変速用第二クラッチ部5f−2により第二太陽歯車5a−2を車軸11に駆動力に対して相対回転可能とする。この場合、リアスプロケット7から駆動力が入力されると、駆動体9から外輪歯車5bを介して遊星歯車5eに駆動力が伝達される。
【0085】
また、変速用第二ワンウェイクラッチ5gにより、駆動体9を遊星キャリア5cに駆動力に対して相対回転可能とし、変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第一クラッチ部5f−1及び変速用第二クラッチ部5f−2により、第一太陽歯車5a−1及び第二太陽歯車5a−2の両方を車軸11に駆動力に対して係合可能状態とする。
このとき、駆動力に対して、変速用第二クラッチ部5f−2によって駆動力に対して第二太陽歯車5a−2のみが車軸11に固定され、第一太陽歯車5a−1は空転状態となる。第二太陽歯車5a−2が噛み合っている遊星歯車5eの歯車部の歯数が、第一太陽歯車5a−1が噛み合っている遊星歯車5eの歯車部の歯数よりも多いからである。
この場合、リアスプロケット7から駆動力が入力されると、駆動体9から外輪歯車5bを介して遊星歯車5eに駆動力が伝達される。
【0086】
また、変速用第二ワンウェイクラッチ5gにより、駆動体9を遊星キャリア5cに駆動力に対して相対回転不能とし、変速用第一ワンウェイクラッチ5fの変速用第一クラッチ部5f−1及び変速用第二クラッチ部5f−2により、第一太陽歯車5a−1及び第二太陽歯車5a−2の両方を車軸11に駆動力に対して係合可能状態とする。
このとき、変速用第二ワンウェイクラッチ5gによって駆動力に対して駆動体9が遊星キャリア5cに相対回転不能となり、第一太陽歯車5a−1及び第二太陽歯車5a−2は空転状態となる。この場合、リアスプロケット7から駆動力が入力されると、駆動体9から変速用第二ワンウェイクラッチ5gを介して遊星キャリア5cに等速で駆動力が伝達される。
【0087】
変速1段目の状態を、図1及び図2に示す。この実施形態では、車軸11の軸方向両端のうち、リアスプロケット7を設けた側に変速制御機構40の操作部41を配置しているが、これを逆方向に配置してもよい。
【0088】
この変速1段目において、変速用第二爪部5j−2は、図2(c)に示すように、変速制御機構40における変速用部材47の突出部47aによってその他端が拘束され、係合不能状態となっている。一方、変速用第一爪部5j−1は、図2(b)に示すように、常に駆動力に対して係合可能状態となっている。
また、変速用第二ワンウェイクラッチ5gの変速用第二クラッチ爪5mは、図2(a)に示すように、変速制御機構40における変速用第二クラッチ切替部46によって一端が拘束され係合不能状態となっている。
このため、駆動体9と遊星キャリア5cとは、駆動力に対して相対回転可能となっているが、逆入力用ワンウェイクラッチ15により、逆入力に対しては相対回転不能となっている。
【0089】
この状態では、リアスプロケット7からの駆動力は、第一太陽歯車5a−1の歯数をa1、外輪歯車5bの歯数をdとすると、減速比、
(a1+d)/d
でハブケース12に伝達される。
【0090】
変速2段目の状態を、図3及び図4に示す。前述の変速1段目の状態から、外部操作により変速制御機構40の操作部41を、図3で示す矢印の方向へ軸方向のある位置まで押し込むと、変速用部材47及び変速用第二クラッチ切替部46が軸方向にスライドし、変速用第二爪部5j−2の位置に変速用部材47の切欠部47bが移動する。
これにより、変速用第一爪部5j−1及び変速用第二爪部5j−2の両方が係合可能状態となるが、この場合、前述のように、変速用第二爪部5j−2のみが係合して、第二太陽歯車5a−2が駆動力に対して車軸11に相対回転不能となる。第二太陽歯車5a−2が駆動力に対して車軸11に相対回転不能となると、第一太陽歯車5a−1は変速用第一爪部5j−1に対して空転方向(係合しない方向)に回転することになるため、変速用第一爪部5j−1が係合可能状態のままでも問題ない。また、変速用第二ワンウェイクラッチ5gの変速用第二クラッチ爪5mは係合不能状態のままである。
【0091】
この状態では、リアスプロケット7からの駆動力は、第二太陽歯車5a−2の歯数をa2、第一太陽歯車5a−1と噛み合う遊星歯車5eの歯数をb1、第二太陽歯車5a−2と噛み合う遊星歯車5eの歯数をb2、外輪歯車5bの歯数をdとすると、減速比
[(a2×b1)/(b2×d)]+1
でハブケース12に伝達される。
【0092】
変速3段目の状態を、図5及び図6に示す。前述の変速2段目の状態から、外部操作により変速制御機構40の操作部41を、図5で示す矢印の方向へ軸方向のある位置までさらに押し込むと、変速用部材47及び変速用第二クラッチ切替部46が軸方向にスライドし、変速用第二クラッチ爪5mの位置に変速用第二クラッチ切替部46の小径部46dが移動する。
これにより、変速用第二クラッチ爪5m、変速用第一爪部5j−1及び変速用第二爪部5j−2のいずれもが係合可能状態となるが、この場合、変速用第二クラッチ爪5mのみが係合して、駆動体9が駆動力に対して遊星キャリア5cに相対回転不能となる。駆動体9が駆動力に対して遊星キャリア5cに相対回転不能となると、第一太陽歯車5a−1及び第二太陽歯車5a−2は、変速用第一爪部5j−1及び変速用第二爪部5j−2に対して空転方向(係合しない方向)に回転することになるため、変速用第一爪部5j−1及び変速用第二爪部5j−2が係合可能状態のままでも問題ない。
【0093】
この状態では、リアスプロケット7からの駆動力は、駆動体9、変速用第二ワンウェイクラッチ15、遊星キャリア5c、ツーウェイクラッチ20、ハブケース12の順に等速で伝達される。
【0094】
変速3段目から2段目に戻す場合や、変速2段目から1段目に戻す場合、操作部41を押し込む方向の力を解除すれば、あるいは緩めれば、前述のシフトダウン時の説明にある通り、変速用部材47、変速用第二クラッチ切替部46が押し戻されるので、容易に変速操作が可能である。
【0095】
このとき、変速用第二クラッチ切替部46、及び変速用部材47の切欠部47bの軸方向端部に設けられたテーパ面46e、47cによって、変速用第二クラッチカム部5nに噛み込んでいる変速用第二クラッチ爪5m、変速用第一クラッチカム面5kに噛み込んでいる変速用第二爪部5j−2の他端を押し上げる力が強くなり、変速用第二クラッチ切替部46及び変速用部材47が戻り易くなるため、スムーズな切替が可能となる。
【0096】
前進非駆動時(回生時)の状態を、図7及び図8に示す。駆動輪62からの逆入力がハブケース12に伝達されると、ツーウェイクラッチ20における保持器24は、外輪21(ハブケース12)に回転抵抗付与部材25によって摩擦接触されているため、外輪21と保持器24が、内輪22に対して相対的に速く回転する(図8(d)の時計回り方向)。これによって、ローラ23が外輪21と内輪22によって形成された楔空間の狭まる方向に移動し、ローラ23が楔空間に噛み込む。
【0097】
これによって、逆入力は、いずれの変速段であっても、ハブケース12、ツーウェイクラッチ20、遊星キャリア5c、逆入力用ワンウェイクラッチ15、駆動体9、リアスプロケット7の順に等速で伝達される。
このとき、第一太陽歯車5a−1及び第二太陽歯車5a−2は、変速用第一ワンウェイクラッチ5fに対して空転方向に回転しているため、いずれの変速段においても、変速用第一ワンウェイクラッチ5fが係合することはない。図7及び図8では、変速3段目の状態で示しているが、変速1段目及び2段目の状態であっても同様である。
【0098】
手押し後退時の状態を図9及び図10に示す。この場合、車軸11に対して、前進非駆動時とは逆方向に駆動輪62及びハブケース12が回転する(図10(d)の反時計回り方向)。
【0099】
このとき、ツーウェイクラッチ20における保持器24は、外輪21(又はハブケース12)に回転抵抗付与部材25によって摩擦接触されているため、外輪21と保持器24が、内輪22に対して相対的に速く回転しようとする(図10(d)中の反時計回り方向)。しかしながら、保持器24は車軸11に切替用ワンウェイクラッチ30を介して接続されており、前記回転方向に対しては相対回転不能となっている。
したがって、保持器24は、外輪21との摩擦力に打ち勝って、その場にとどまることになる。つまり、保持器24は回転せず、ツーウェイクラッチ20は係合しない。
【0100】
例えば、保持器24が、図7及び図8に示すように(特に、図8(d)参照)、前進非駆動時の位置にある時に、手押し後退しようとした場合を想定する。このとき、手押し後退による外輪21の回転方向は、ローラ23に対して空転方向(前進時と逆方向)となるため、この状態ではローラ23が楔空間に噛み込むことはない。
【0101】
また、例えば、保持器24が、図9及び図10に示すように(特に、図10(d)参照)、前進駆動時の位置にあるときに手押し後退しようとした場合を想定する。このとき、一時的にローラ23が楔空間に噛み込む可能性があるが、仮に、ローラ23が楔空間に噛み込み、その状態で外輪21が回転しようとしても、次の瞬間、保持器24はその場にとどまろうとするため、ローラ23は保持器24によって楔空間から外れる方向に力を受け、ローラ23が楔空間から外れ、外輪21が空転することになる。このため、手押し後退が支障なく可能である。
【0102】
このように、保持器24がその場にとどまろうとするのは、その手押し後退による外輪21の車軸11に対する相対回転の際、切替用ワンウェイクラッチ30が保持器24を車軸11に対して後退方向に完全に回転不能とさせるからである。すなわち、切替用ワンウェイクラッチ30は、駆動力及び逆入力に対する保持器24と車軸11との軸周り相対回転のみを許容するものだからである。
【0103】
また、手押し後退時、保持器24をその場にとどまらせようとするための、切替用ワンウェイクラッチ30に代わる他の手段としては、その手押し後退による外輪21の車軸11に対する相対回転の際における、保持器24と車軸11との回転抵抗を、その保持器24と外輪21との接触による回転方向の摩擦による抵抗よりも相対的に大きくなるように設定する手法がある。
すなわち、保持器24と静止系(フレームに固定されている系)である車軸11との間に、後退方向の回転に対してより大きな回転抵抗を、あるいは、後退方向の回転に対してのみ回転抵抗を与えることによって、手押し後退時にツーウェイクラッチ20の係合を自動的に抑制または解除することができる。
【0104】
この実施形態では、歯数の異なる2段の歯車部を有する遊星歯車5eを使用しているが、この遊星歯車5eを、1段もしくは3段以上の歯車部を有する遊星歯車5eとしてもよい。
また、この実施形態では、逆入力用ワンウェイクラッチ15にラチェットクラッチを用いているが、ローラクラッチまたはスプラグクラッチ等、他のワンウェイクラッチ機構を用いてもよい。
【0105】
さらに、この実施形態では、切替用ワンウェイクラッチ30にローラクラッチを用いているが、これに、スプラグクラッチ等、他のワンウェイクラッチ機構を用いてもよい。
また、遊星キャリア5cにツーウェイクラッチ20、変速用第二ワンウェイクラッチ5g及び切替用ワンウェイクラッチ30が配置されているが、これらの各クラッチを別部材上に配置し、遊星キャリア5cと一体回転可能に連結してもよい。
また、変速制御機構40について、この実施形態では、操作部41の軸方向移動によって変速する機構を採用しているが、この変速制御機構40としては、既知の自転車用変速機構を採用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1、10 リアハブ
3 逆入力用クラッチ解除機構
4 逆入力用クラッチ
5、50 変速機構
5a、50a 太陽歯車
5a−1 第一太陽歯車
5a−2 第二太陽歯車
5b 外輪歯車
5c、50c 遊星キャリア
5d 遊星キャリア軸
5e 遊星歯車
5f 変速用第一ワンウェイクラッチ
5f−1 第一クラッチ部
5f−2 第二クラッチ部
5g 変速用第二ワンウェイクラッチ
5h、5i クラッチ爪軸
5j、5m クラッチ爪
5j−1 第一クラッチ爪部
5j−2 第二クラッチ爪部
5k 変速用第一クラッチカム面
5k−1 第一クラッチカム面部
5k−2 第二クラッチカム面部
5n 変速用第二クラッチカム部
5p 弾性部材
7 リアスプロケット(入力手段)
8 ハブフランジ
9 駆動体
9a 凹部
11 車軸
12 ハブケース
13、14 軸受部
15 逆入力用ワンウェイクラッチ
16 クラッチ爪軸
17 逆入力用クラッチ爪
20 ツーウェイクラッチ
21 外輪
22 内輪
23 ローラ(係合子)
24 保持器
25 回転抵抗付与部材
30 切替用ワンウェイクラッチ
31 外輪
32 内輪
33 ローラ(係合子)
34 保持器
40 変速制御機構
41 操作部
41a ピン
42、43、44 弾性部材
45 横穴
46 変速用第二クラッチ切替部
46a 凸部
46b 内面溝部
46c 大径部
46d 小径部
46e テーパ面
47 変速用部材
47a 突出部
47b 切欠部
47c テーパ面
E 係合切替手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブケース(12)の内部に変速機構(5)及び変速制御機構(40)を備え、前記変速機構(5)は遊星歯車機構によって構成されて、車軸(11)周りに設けられた太陽歯車(5a)と、その太陽歯車(5a)に噛み合う遊星歯車(5e)、及びその遊星歯車(5e)を保持する遊星キャリア(5c)、遊星歯車(5e)と噛み合う外輪歯車(5b)とを備え、前記外輪歯車(5b)は、駆動力の入力手段(7)が取り付けられた駆動体(9)と一体に回転可能であり、前記駆動体(9)と前記遊星キャリア(5c)との間に逆入力用ワンウェイクラッチ(15)を備え、前記ハブケース(12)と前記遊星キャリア(5c)との間にツーウェイクラッチ(20)を備え、
前記入力手段(7)から入力される駆動力は、前記変速制御機構(40)によって前記変速機構(5)の等速以下の変速比となるように選択された経路を通って前記ツーウェイクラッチ(20)を介して前記ハブケース(12)に伝達され、前記ハブケース(12)からの逆入力は、前記ハブケース(12)から前記ツーウェイクラッチ(20)及び前記逆入力用ワンウェイクラッチ(15)を介して前記入力部材(7)に伝達され、
前記ツーウェイクラッチ(20)の前記駆動力と前記逆入力とに対する係合の切替を、前記ハブケース(12)と前記遊星キャリア(5c)との相対回転の方向に応じて自動で行う係合切替手段(E)を備え、前記係合切替手段(E)は、前記ハブケース(12)が、前記駆動力及び前記逆入力に対して、前記車軸(11)の軸周り相対回転する方向と逆方向に相対回転する際には、前記ツーウェイクラッチ(20)を係合不能状態に維持する機能を有することを特徴とする電動補助自転車用内装変速機。
【請求項2】
前記ツーウェイクラッチ(20)は、前記ハブケース(12)と一体に回転する外輪(21)と前記遊星キャリア(5c)と一体に回転する内輪(22)との間にローラ(23)を備え、そのローラ(23)を周方向に保持する保持器(24)を備えたローラクラッチによって構成され、前記係合切替手段(E)による前記係合の切替は、前記保持器(24)と前記外輪(21)との間に備えられた回転抵抗付与部材(25)によって、その保持器(24)と外輪(21)との間に摩擦による回転抵抗が付与されることで行われることを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項3】
前記駆動力及び前記逆入力に対する前記保持器(24)と前記車軸(11)との軸周り相対回転時よりも、前記逆方向の相対回転時における前記保持器(24)と前記車軸(11)との回転抵抗が相対的に大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項2に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項4】
前記逆方向の相対回転時における前記保持器(24)と前記車軸(11)との回転抵抗は、前記保持器(24)と前記外輪(21)との間の回転抵抗よりも相対的に大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項5】
前記保持器(24)と前記車軸(11)との間に切替用ワンウェイクラッチ(30)を設け、前記切替用ワンウェイクラッチ(30)は、前記駆動力及び前記逆入力に対する前記保持器(24)と前記車軸(11)との軸周り相対回転のみを許容することを特徴とする請求項2乃至4に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項6】
前記切替用ワンウェイクラッチ(30)は、ローラクラッチまたはスプラグクラッチによって構成されていることを特徴とする請求項5に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項7】
前記太陽歯車(5a)と前記車軸(11)との間に、前記変速制御機構(40)によって、前記駆動力に対して係合可能状態と係合不能状態とに切替可能な変速用第一ワンウェイクラッチ(5f)を備え、前記外輪歯車(5b)又はその外輪歯車(5b)と一体に回転する駆動体(9)と前記遊星キャリア(5c)との間に、前記変速制御機構(40)によって、前記駆動力に対して係合可能状態と係合不能状態とに切替可能な変速用第二ワンウェイクラッチ(5g)を備えることを特徴とする請求項1乃至6に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項8】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ(15)及び前記変速用第二ワンウェイクラッチ(5g)は、ラチェットクラッチによって構成されていることを特徴とする請求項7に記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項9】
前記逆入力用ワンウェイクラッチ(15)は、ローラクラッチまたはスプラグクラッチによって構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項10】
前記変速制御機構(40)は、車軸(11)内を通して外部に引き出された操作部(41)を軸方向に移動操作させることによって変速切替することを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の電動補助自転車用内装変速機。
【請求項11】
前輪と後輪とを結ぶフレームに二次電池及び補助駆動用のモータを取り付け、クランク軸から伝達された踏力又は前記モータの出力による駆動力を駆動力伝達要素を介して駆動輪に伝達可能とし、前進非駆動時には、駆動輪からモータの出力軸への逆入力により生じた回生電力を二次電池に還元する回生機構を備えた電動補助自転車の前記駆動輪に、請求項1乃至10のいずれか一つの電動補助自転車用内装変速機を設けた回生機構を備えた電動補助自転車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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