説明

回腸嚢炎発症の危険性を決定するための遺伝子検査

【課題】潰瘍性大腸炎を有する患者において、内部嚢が形成される外科的手順後に、回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法を提供する。
【解決手段】インターフェロンγレセプター遺伝子座に連結した回腸嚢炎関連対立遺伝子の、該患者における存在または非存在を決定することによって、回腸嚢炎発症の危険性を決定する方法。対立遺伝子が連結するインターフェロンγレセプター遺伝子座は、例えばインターフェロンγレセプター1遺伝子であり、有用な回腸嚢炎関連対立遺伝子は、例えばFA1マイクロサテライト171対立遺伝子のようなインターフェロンγレセプター1遺伝子の第6イントロン内に位置する対立遺伝子でありうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NIDDK助成金DK46763の下、政府の支持によってなされた。政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般に、自己免疫および炎症性腸疾患の分野に関し、そしてより詳細には、潰瘍性大腸炎を有する患者における回腸嚢炎の発症に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景情報)
炎症性腸疾患(IBD)は、以下の未知の病因の2つの胃腸障害を記載するために使用される、集合名である:クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)。IBD(これは、世界中で生じ、そして200万人もの多くの人々が罹患していると報告されている)の経過および予後は、広範に変動する。IBDの発症は、主に、幼児期にあり、下痢、腹痛および発熱という3つの最も共通の代表的症状を伴う。下痢は、穏やか〜重篤な範囲にわたり得、そして潰瘍性大腸炎において、しばしば、出血を伴う。貧血および体重の減少が、IBDのさらなる共通の症状である。IBDを有する患者の10%〜15%は、10年の期間にわたって診療を必要とする。さらに、IBDを有する患者は、腸の癌の発症の危険性が増加する。心理学的問題(不安および抑うつを含む)の発症の増加の報告は、おそらく、驚くべき症状ではなく、これは、しばしば、壮年期の人々を襲う消耗性の疾患である。
【0004】
IBDの診断、および多くの場合において、クローン病と潰瘍性大腸炎との識別において、進歩がなされてきた。しかし、クローン病および潰瘍性大腸炎の各々は、胃腸管を冒しそして類似の症状を生じる、異質の疾患の集合を表し得る。炎症性腸疾患に関連する異質性の1つの局面は、制御されない潰瘍性大腸炎の処置のための結腸切除後に見られる結果における、顕著な対照によって明らかにされる。好ましい手順は、回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を用いる腹式結腸切除であり、これによって、回腸の貯蔵所すなわち「嚢」の形成を介して自制を維持しながら、疾患性の結腸粘膜が除去される。潰瘍性大腸炎患者の部分群は、手術後に好ましい結果を経験するが、手術後10年で、ほぼ50%が「回腸嚢炎」を発症する。これは、潰瘍性大腸炎の元々の症状を模倣し得る、嚢の炎症である。いくらかの患者において、この回腸嚢炎の再発性の症状は、手術前に存在する症状と同様に消耗性である。従って、再発性すなわち「慢性」回腸嚢炎に罹患する患者のために、潰瘍性大腸炎の外科処置は、治療的価値をほとんどまたは全く提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回腸嚢炎または慢性回腸嚢炎の発症の危険性が増加した潰瘍性大腸炎患者の部分群を決定する遺伝学的方法は、手術後のこれらの患者の医療的管理において、および外科処置のための良好な候補の同定において有用である。不幸にも、回腸嚢炎または慢性回腸嚢炎の発症を予測するための遺伝学的方法は、現在、利用可能でない。従って、嚢手術後の回腸嚢炎または慢性回腸嚢炎の発症の危険性を決定する、簡便かつ非侵襲性の遺伝学的方法についての必要性が存在する。本発明は、この必要性を満たし、そして同様に関連する利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、潰瘍性大腸炎を有する患者において内部嚢を形成する外科手順後の回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法を提供する。この方法は、患者においてインターフェロンγレセプター遺伝子座に連鎖する回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定することにより、実施される。ここで、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在は、回腸嚢炎の発症の危険性の増加を示す。回腸嚢炎関連対立遺伝子が連鎖するインターフェロンγレセプター遺伝子座は、例えば、インターフェロンγレセプター1遺伝子であり得る。本発明において有用な回腸嚢炎関連対立遺伝子は、例えば、インターフェロンγレセプター1遺伝子の6番目のイントロン内に位置する対立遺伝子(例えば、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子)である。1つの実施形態において、回腸嚢炎関連対立遺伝子は、少なくとも4のオッズ比かつ1より大きい下側の95%信頼限界で、慢性回腸嚢炎に関連する。本発明の方法は、以下により詳細に記載するように、潰瘍性大腸炎の外科処置のための良好な候補の同定および手術後の高い危険性の患者の選択的な医療的管理において有用であり得る。
【0007】
好ましい実施形態において、本発明は、潰瘍性大腸炎を有する患者における、回腸嚢肛門吻合術後の慢性回腸嚢炎発症の危険性を決定する方法を提供する。この方法において、患者におけるインターフェロンγレセプター1 FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の存在または非存在を決定し、171対立遺伝子の存在は、慢性回腸嚢炎発症の危険性の増加を示す。
【0008】
別の実施形態において、潰瘍性大腸炎を有する患者における回腸嚢炎の危険性を決定するための本発明の方法は、患者から、インターフェロンγレセプター1遺伝子のFA1マイクロサテライト遺伝子座を含む核酸を含む材料を得る工程;およびこの核酸を酵素的に増幅して、FA1マイクロサテライト遺伝子座を含む増幅されたフラグメントを生成する工程によって行われ、ここで、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の存在は、回腸嚢炎発症の危険性の増加を示す。所望の場合、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子座が存在するかを決定するために、その増幅されたフラグメントを電気泳動する工程をさらに包含し得る。
・本発明はさらに、以下を提供し得る:
・(項目1) 潰瘍性大腸炎を有する患者において、内部嚢が形成される外科的手順後に、回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法であって、当該方法は、インターフェロンγレセプター遺伝子座に連鎖する回腸嚢炎関連対立遺伝子の、当該患者における存在または非存在を決定する工程を包含し、
ここで、当該回腸嚢炎関連対立遺伝子の当該存在が、回腸嚢炎発症の増加した危険性を示す、方法。
・(項目2) 上記インターフェロンγレセプター遺伝子座が、インターフェロンγレセプター1遺伝子(IFNGR1)である、項目1に記載の方法。
・(項目3) 上記回腸嚢炎関連対立遺伝子が、上記IFNGR1内にある、項目2に記載の方法。
・(項目4) 上記回腸嚢炎関連対立遺伝子が、上記IFNGR1の第6イントロン内に位置する、項目3に記載の方法。
・(項目5) 上記回腸嚢炎関連対立遺伝子が、IFNGR1 FA1マイクロサテライトである、項目4に記載の方法。
・(項目6) 上記回腸嚢炎関連対立遺伝子が、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子である、項目5に記載の方法。
・(項目7) 上記外科的手順が、回腸嚢肛門吻合を含む、項目6に記載の方法。
・(項目8) 上記回腸嚢炎が慢性回腸嚢炎である、項目1に記載の方法。
・(項目9) 潰瘍性大腸炎を有する患者において、回腸嚢肛門吻合後に、慢性回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法であって、当該方法は、インターフェロンγレセプター1 FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の、当該患者における存在または非存在を決定する工程を包含し、
ここで、当該171対立遺伝子の存在が、慢性回腸嚢炎発症の増加した危険性を示す、方法。
・(項目10) 上記回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定する工程が、上記患者由来の核酸の酵素的増幅を含む、項目1に記載の方法。
・(項目11) 項目1に記載の方法であって、電気泳動分析、制限フラグメント長多型分析、配列決定分析、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選択される工程をさらに包含する、方法。
・(項目12) 上記回腸嚢炎関連対立遺伝子が、少なくとも4のオッズ比および1より大きい下側の95%信頼限界で慢性回腸嚢炎と関連する、項目1に記載の方法。
・(項目13) 項目6に記載の方法であって、ここで、上記FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の存在または非存在が決定され、以下:
(a)インターフェロンγレセプター1遺伝子のFA1マイクロサテライト遺伝子座を含む核酸を含む物質を、上記患者から得る工程;および
(b)当該核酸を酵素的に増幅して、当該FA1マイクロサテライト遺伝子座を含む増幅されたフラグメントを生成する工程、
を包含し、ここで、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の存在が、回腸嚢炎発症の増加した危険性を示す、方法。
・(項目14) 項目13に記載の方法であって、以下:
(c)上記増幅されたフラグメントを電気泳動し、これによってFA1マイクロサテライト171対立遺伝子が存在しているか否かを決定する工程、
をさらに包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、インターフェロンγレセプター1遺伝子のマップ、および他のマーカーと相対的な第6染色体上のインターフェロンγレセプター1遺伝子の位置を示す。
【図2】図2は、隣接ヌクレオチドと共に、インターフェロンγレセプター1 FA1マイクロサテライトのヌクレオチド配列(Genbank登録番号U84721;配列番号1)を示す。マイクロサテライトは、プライマーA(配列番号2)およびプライマーB(配列番号3)と共に印される。
【図3】図3は、プライマー配列番号2および配列番号3を使用して、インターフェロンγレセプター1 FA1マイクロサテライト遺伝子座で遺伝子型決定された個体についてのクロマトグラムを示す。上の2つのクロマトグラムは、171対立遺伝子についてヘテロ接合性の患者を示し;3番目のクロマトグラムは、171対立遺伝子についてホモ接合性の患者を示し;そして4番目のクロマトグラムは、CEPH参照個体1347−02のヘテロ接合性の189/191対立遺伝子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発明の詳細な説明)
医療的管理をしない場合、潰瘍性大腸炎は、回腸切除によって治癒され得るが、これは、節制を維持するために新しく開発された手順さえも伴う、根治的処置である。好ましい外科手順は、結腸の一部または全体の除去および内部「嚢」の形成を含む。不幸にも、いくらかの術後の患者において、術前の潰瘍性大腸炎に類似する症状が、「回腸嚢炎」と呼ばれる状態において生じる。本発明の方法は、内部嚢を形成する手術後の潰瘍性大腸炎患者における回腸嚢炎発症の危険性を決定するための、簡便で非侵襲性の手段の発見に関する。
・本明細書中に開示されるように、外科手順(例えば、回腸嚢肛門吻合術)後の潰瘍性大腸炎患者における回腸嚢炎発症の増加した危険性に関連する遺伝マーカーが、同定された。特に、回腸嚢炎の発症の可能性と特定のマイクロサテライト対立遺伝子(FA1「171対立遺伝子」と呼ばれる)との間に、関連性が見出された。FA1マイクロサテライト(変動する数の「CA」ジヌクレオチドを含む、反復DNA配列)は、インターフェロンγレセプター1遺伝子の6番目のイントロン中に位置する(Altareら、Am.J.Hum Genet.62:723−726(1998);図1および2もまた参照のこと)。
【0011】
実施例Iに開示されるように、FA1マイクロサテライトは、嚢手術を受けている72人の潰瘍性大腸炎患者において特徴付けられた。FA1マイクロサテライトを含むゲノムDNAの小さいフラグメントを酵素的に増幅し、その後、電気泳動して、その増幅されたフラグメントのサイズを決定した。実施例Iに示されるように、慢性回腸嚢炎を発症した患者のうち、73.3%の患者が171対立遺伝子について陽性であった;対照的に、慢性回腸嚢炎を発症しなかった患者の位置、39.3%のみが、171対立遺伝子について陽性であった(表I)。統計学的分析は、171対立遺伝子について陽性である患者が、171対立遺伝子を欠失している患者と比較した場合に、術後に慢性回腸嚢炎を発症する有意により高い危険性を有することを確かめた(p=0.02、オッズ比=4.4)。従って、171対立遺伝子は、術後の慢性回腸嚢炎の発症に強く関連し、そして回腸嚢炎発症の危険性を決定するために使用され得る。
【0012】
本発明の方法は、回腸嚢炎手術を受けた患者の術後の医療的管理において有用である。本発明の方法に従って回腸嚢炎発症の増加した危険性を有すると決定された患者は、多くの治療の任意の1つによって予防的に処置され得る。回腸嚢炎についての医療的処置としては、以下が挙げられる:抗生物質(例えば、メトロニダゾール、シプロフロキサシン、アモキシシリンまたはクラブラン酸、エリスロマイシンおよびテトラサイクリン);抗炎症剤(例えば、メサラミン浣腸、スルファサラジンおよび経口メサラミン);免疫抑制剤(例えば、ステロイド浣腸、経口ステロイド、アザチオプリンおよびシクロスポリン浣腸);栄養剤(例えば、短鎖脂肪酸の浣腸または坐剤、およびグルタミン坐剤);および酸素ラジカルのインヒビター(例えば、アロプリノール)(例えば、Sandborn,Gastroenterol.107:1856−1860(1994);Hanauer,New Engl.J.Med.334(13):841−848(1996)を参照のこと)。
【0013】
本発明の方法は、回腸嚢炎を発症する増加した危険性にある患者の選択的処置を可能にし、そして低い危険性の患者に不必要な治療の副作用を回避させるのを可能にするために特に有用である。例えば、抗生物質処置(回腸嚢炎のための治療の好ましい過程である)に関連する副作用は、低い危険性の患者にこれらの薬物を不必要に摂取することを望ましくないものにする。本発明の方法は、臨床的症状が検出可能となる前に、回腸嚢炎を発症する危険性が増加した患者の処置を可能にし、初期の介入を介して慢性形態の回腸嚢炎の発症を予防し得る。従って、回腸嚢炎の発症の危険性を決定するための本発明の方法は、嚢手術を受けた潰瘍性大腸炎患者のより早期かつより選択的な処置において有用であり得る。
【0014】
従って、本発明は、外科手順後(これによって、内部嚢が、潰瘍性大腸炎を患う患者において形成される)、回腸嚢炎発症の危険性を決定する方法を提供する。この方法は、インターフェロンγレセプター遺伝子座に連鎖する回腸嚢炎関連対立遺伝子の患者における存在または非存在を決定することによって、実施され、ここで、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在は、回腸嚢炎発症の増大した危険性を示す。本発明の方法において、インターフェロンγレセプター遺伝子座は、例えば、インターフェロンγレセプター1遺伝子(IFNGR1)であり得、そして回腸嚢炎関連対立遺伝子は、IFNGR1内にあり得る(例えば、IFNGR1の6番目のイントロン)。好ましい実施形態において、回腸嚢炎関連対立遺伝子は、IFNGR1 FA1 マイクロサテライト対立遺伝子である(例えば、171対立遺伝子)。本発明の方法は、回腸嚢肛門吻合(ileal pouch anal anastomosis)後の慢性回腸嚢炎発症の危険性を決定するために特に有用であり得る。
【0015】
潰瘍性大腸炎は、痙攣、腹痛、直腸の出血ならびに血液、膿および粘膜の弛緩性排泄を伴う慢性の下痢によって特徴付けられる大腸の疾患である。潰瘍性大腸炎の発現は、広く変化する。悪化および寛解のパターンは、多くの潰瘍性大腸炎患者(70%)の臨床過程を分類するが、寛解がない連続した症状は、潰瘍性大腸炎を患う幾人かの患者に存在する。潰瘍性大腸炎の局所性合併症および全身性合併症としては、関節炎、眼の炎症(例えば、ブドウ膜炎)、皮膚潰瘍および肝臓疾患が挙げられる。さらに、潰瘍性大腸炎および特に、長期の広範な疾患は、結腸癌腫の増大した危険性に関連する。
【0016】
幾つかの病理的特徴は、炎症性腸疾患と対照的に潰瘍性大腸炎を特徴付ける。潰瘍性大腸炎は、通常、直腸の最も遠位な部位から可変な距離を、近位に伸展する広汎性の疾患である。用語「左側(left−sided)大腸炎」は、脾弯曲部程遠くに伸展する、結腸の遠位な部分を含む炎症を記載する。直腸の容赦(sparing)または結腸のみの右側(近位部分)の関与は、潰瘍性大腸炎において異常である。潰瘍性大腸炎の炎症プロセスは、結腸に限定され、そして例えば、小腸、胃または食道は含まない。さらに、潰瘍性大腸炎は、一般に、腸壁のより深い層に残る粘膜の表面的な炎症と区別される。陰窩膿瘍(退化した腸の陰窩は、好中球で満たされている)はまた、潰瘍性大腸炎の典型である(RubinおよびFarber,Pathology(第2版)Philadelphia:J.B.Lippincott Company(1994))。
【0017】
本明細書中で使用される場合、用語「潰瘍性大腸炎」は、「UC」と同義であり、そして潰瘍性大腸炎の特徴的な内視鏡的特徴または組織病理学的特徴を伴う左側結腸疾患の臨床的特徴を有する疾患を意味する。本明細書中で使用される場合、左側結腸疾患の臨床的特徴は、直腸の出血、尿意促迫およびしぶりである。直腸の出血は、粘膜の排泄を伴い得る。潰瘍性大腸炎の臨床的処置は、局所治療を用いた処置および推薦される全結腸切除もしくは全摘(near-total)結腸切除または実施される全結腸切除もしくは全摘結腸切除を用いた処置を含み得る。
【0018】
潰瘍性大腸炎の特徴的な内視鏡的特徴(これは、左側結腸疾患の臨床的特徴を伴って存在する場合、潰瘍性大腸炎を示す)は、近位または持続性の炎症よりも、遠位のより重篤な炎症である。潰瘍性大腸炎において存在し得るさらなる典型的な内視鏡的特徴は、結腸からの近位に伸展する炎症または表在潰瘍形成の存在もしくは深部潰瘍形成の欠損を含む。
【0019】
潰瘍性大腸炎の特徴的な組織病理学的特徴(これは、左側結腸疾患の臨床的特徴を伴って存在する場合、潰瘍性大腸炎を示す)は、同質の、持続性の、主に表在性の炎症であるか、または生検標本内の「病巣性(focality)」の欠損である。潰瘍性大腸炎に存在し得るさらなる典型的な組織病理的特徴は、陰窩膿瘍の存在または肉芽腫の欠損を含む。
【0020】
本明細書中で使用される場合、用語「潰瘍性大腸炎を患う患者」は、本明細書中で定義されるような潰瘍性大腸炎の特徴的な内視鏡的特徴または組織病理的特徴を伴う左側結腸癌疾患の臨床的特徴の存在によって定義されるように、潰瘍性大腸炎を有する患者を意味する。
【0021】
潰瘍性大腸炎が、医療的治療に非応答性である場合、結腸の外科的除去および内部嚢の形成は、疾患の有痛性の症状を治療し得る選択肢である。嚢手術の不運な合併症は、回腸嚢炎の発症であり得る。回腸嚢炎は、しばしば、腹の痙攣、糞尿意促迫(fecal urgency)および出血または発熱を含む、さらなる可変の症状を伴う下痢として現れ、そして術後の基準線より上の1日あたり少なくとも3回の便の増加によって臨床的に診断され得る(Sandbornら,Am.J.Gastroenterol.90:740−747(1995))。回腸嚢炎の特徴的な内視鏡的特徴は、粒度、可撓性または血管のパターンの消失、粘膜滲出または嚢の潰瘍化である。本明細書中で使用される場合、用語「回腸嚢炎」は、回腸嚢炎の1つ以上の特徴的な内視鏡的特徴と合わせた下痢によって臨床的に顕著である外科的に形成されたレザバーの非特異的な炎症を意味する。用語「回腸嚢炎」は、早期発症型回腸嚢炎、急性回腸嚢炎および慢性回腸嚢炎を含み、そして以下に議論される、慢性回腸嚢炎の処置応答性形態および処置耐性形態を含む。
【0022】
回腸嚢炎は、嚢の手術後、数ヶ月または数年で発症し得る。回腸嚢炎の累積非頻度は、嚢の手術後、15%、36%または46%の患者が、それぞれ、1年、5年、または10年で回腸嚢炎を発症するように、時間と共に増大する(Pennaら,Gastroenterol.106:A751(1994))。早期発症型回腸嚢炎は、外科手順後(それによって、結腸は、除去され、そして内部嚢が、形成される)の12ヶ月内に発症する回腸嚢炎の形態をいう。
【0023】
回腸嚢炎は、急に起こり得るか、または慢性状態として起こり得る。急性回腸嚢炎は、単一の現象として起こり得るか、または抑制的な治療が、必要とされない回腸嚢炎がない間隔の間に断続性の再発として起こり得る。対照的に、IPAA後の約5パーセントの原因である、慢性回腸嚢炎は、適切な医学的治療にもかかわらない回腸嚢炎の持続する症状によってか、または、医学的治療が、中断される場合、症状の急速な再発を伴う持続性の医学的に抑制的な治療の必要性によって特徴付けられる。慢性回腸嚢炎は、進行中の抑制的な治療を必要とする、処置応答性であり得るか、または処置耐性であり得る。
【0024】
本明細書中で使用される場合、用語「慢性回腸嚢炎」は、持続性の医学的に抑制的な治療を必要とする持続性(intermittent)再発性回腸嚢炎もしくは持続性(continuous)再発性回腸嚢炎または医学的処置にもかかわらず、持続性の症状によって特徴付けられる回腸嚢炎を意味する。
【0025】
本明細書中で使用される場合、用語「患者」は、回腸嚢炎を発症し得る、動物(例えば、ヒトまたは非ヒト哺乳動物)を意味する。
【0026】
本明細書中に記載される場合、用語「外科手術(それによって内部嚢が形成される)」は、「嚢手術」と同義であり、そしてしばしば、全結腸切除もしくは全摘結腸切除を含む、自制の維持のための内部レザバーの生成を生じる外科手順を意味する。形成された内部レザバーは、例えば、回腸のレザバーまたは回盲のレザバーであり得る。通常の外科手順(それによって、内部嚢は形成される)は、回腸嚢肛門吻合である。
【0027】
本発明の方法は、回腸嚢肛門吻合のような手術を受けた潰瘍性大腸炎患者における回腸嚢炎発症の危険性を決定するために有用である。回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在によって示される回腸嚢炎発症に関して本明細書中で使用される場合、用語「増大した危険性」は、回腸嚢炎関連対立遺伝子を欠損した患者に対する回腸嚢炎発症の可能性よりも有意に高い回腸嚢炎の発症の可能性を意味する。
【0028】
本発明の方法は、インターフェロンγレセプター遺伝子座に連鎖する回腸嚢炎関連対立遺伝子に依存する。本明細書中で使用される場合、用語「連鎖する(連鎖される)」は、2つの遺伝子の遺伝子座が、近接の結果として共に遺伝される傾向を有することを意味する。2つの遺伝子の遺伝子座が、連鎖され、そして多型性である場合、1つの遺伝子座における特定の対立遺伝子は、第2の遺伝子座における特定の対立遺伝子の遺伝のためのマーカーとして役立ち得る。
【0029】
本明細書中で使用される場合、用語「インターフェロンγレセプター遺伝子座」は、インターフェロンγレセプターのサブユニットをコードする遺伝子座を意味する。インターフェロンγレセプター遺伝子座は、例えば、ヒトインターフェロンγレセプター1遺伝子座(IFNGR1)またはインターフェロンγレセプター2遺伝子座(IFNGR2)であり得る。ヒトIFNGR1についての配列は、例えば、GenBank登録番号AL050337として入手可能であり、
インターフェロンγレセプター1の対応する転写されたmRNAについての配列は、例えば、GenBank登録番号J03143として見出され得る。ヒトインターフェロンγレセプター2の転写されたmRNAについての配列は、例えば、GenBank登録番号NM_005534として入手可能である。
【0030】
本発明の方法は、回腸嚢炎関連対立遺伝子に依存する。本明細書中で使用される場合、用語「回腸嚢炎関連対立遺伝子」は、安定に遺伝可能な分子バリエーションを意味し、このバリエーションは、伝統的なメンデルの遺伝学に従って予想される危険性よりも頻度が高く回腸嚢炎発症の増大した危険性と一緒に遺伝される傾向にある。回腸嚢炎関連対立遺伝子は、例えば、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子に連鎖する対立遺伝子であり得るか、またはFA1マイクロサテライト171対立遺伝子それ自体であり得る(実施例Iを参照のこと)。
【0031】
本発明の方法において有用な回腸嚢炎関連対立遺伝子は、例えば、回腸嚢炎発症の増大した危険性と共に遺伝される傾向にあるマイクロサテライト(ms)、単一ヌクレオチド多型(snp)または、可変数のタンデム反復(VNTR)多型であり得る。マイクロサテライトは、2つのヌクレオチド、3つのヌクレオチド、4つのヌクレオチドまたは5つのヌクレオチドの2つ以上の反復であり得;マイクロサテライトにしばしば見られるジヌクレオチド反復は、CA、TA、GA、AC、AGもしくはGC反復またはそれらの相補鎖を含む。マイクロサテライトは、例えば、6以上のヌクレオチド反復、8以上のヌクレオチド反復、10以上のヌクレオチド反復、12以上のヌクレオチド反復、14以上のヌクレオチド反復、16以上のヌクレオチド反復、20以上のヌクレオチド反復、22以上のヌクレオチド反復または24以上のヌクレオチド反復を含み得る。1つ以上のヌクレオチドのバリエーション(例えば、1つ以上のヌクレオチドの置換、挿入または欠失)に加えて、当業者は、回腸嚢炎関連対立遺伝子はまた、初期ヌクレオチド配列における差異を生成しない異常なメチル化または他の改変のような分子バリエーションであり得ることを理解する。
【0032】
回腸嚢炎関連の対立遺伝子は、イントロンもしくはエキソンまたはコード配列に対する配列5’もしくは3’に生じ得、そして遺伝子産物の発現または活性に影響し得るかあるいは影響しないかもしれない。インターフェロンγレセプター遺伝子内の回腸嚢炎関連の対立遺伝子は、例えば、活性が低いかまたは不活性なインターフェロンγレセプター遺伝子産物の生成を生じ得るか、あるいは量の減少したインターフェロンγレセプター遺伝子産物を生じ得る。インターフェロンγレセプタ遺伝子内の回腸嚢炎関連の対立遺伝子はまた、イントロン内または5’もしくは3’調節配列内に位置し得、そしてインターフェロンγレセプターコードmRNAの転写もしくは翻訳またはスプライシングの調節に影響し得る。従って、このような対立遺伝子は、インターフェロンγレセプター遺伝子発現レベルの変化またはインターフェロンγレセプター遺伝子産物改変体の発現を生じ得る。回腸嚢炎関連の対立遺伝子が、インターフェロンγレセプターコード配列内の1以上のアミノ酸置換、欠失、または挿入を生じるヌクレオチド改変であってインターフェロンγレセプター遺伝子産物改変体を生成する場合、この改変体は、インターフェロンγの結合後のシグナル伝達の能力を欠くポリペプチドであり得るか、またはドミナントネガティブな分子として機能する可溶性インターフェロンγレセプターポリペプチドであり得る。
【0033】
好ましい実施形態において、回腸嚢炎の発症の危険性は、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子を使用して決定される。回腸嚢炎関連の対立遺伝子(例えば、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子)は、市販の参照DNA(例えば、PE Biosystems(Foster City、CA)から得られる)を使用して、Centre d’Etude du Polymorphisme Humain(CEPH)参照個体(例えば、1347−02と名付けられた個体(Dibら、Nature 380:152−154(1996))と比較して定義される。本明細書中で使用する場合、用語「FA1マイクロサテライト171対立遺伝子」は、「171対立遺伝子」と同義であり、そしてインターフェロンγ FA1マイクロサテライトの対立遺伝子を意味し、これは、アッセイにおいてプライマー(配列番号2および3)で増幅された場合に171塩基対(bp)の大きさを有し、ここで、CEPH参照個体1347−02のヘテロ接合性のFA1対立遺伝子は、189塩基対および191塩基対の大きさを有する。このFA1マイクロサテライトは、多型であり、そして異なる個体中で、異なる数の反復を有する。例えば、インターフェロンγレセプター1 FA1マイクロサテライトは、GenBank登録番号AL050337の残基64213〜64254で、21個の「CA」反復を有する。FA1マイクロサテライトの別の例は、GenBank登録番号U84721として利用可能であり、これは、U84721の残基89〜132で、22個の「GT」反復(CA反復の相補体)を含む。
【0034】
本明細書の実施例1で開示されるように、171対立遺伝子の存在は、例えば、プライマー5’−TET−TGA ATT TTA GTG TTT GTT CTG GCT−3’(配列番号2)および5’−CAT GCT TTG ATG ATT ATC TTT GTG−3’(配列番号3)での増幅によって生成される171塩基対のフラグメントのゲル電気泳動によって、簡便に検出され得る。当業者は、171対立遺伝子の単一のコピーが回腸嚢炎の発症の高い危険性を示すのに十分であること;従って、171対立遺伝子についてヘテロ接合体の潰瘍性大腸炎の患者が、171対立遺伝子のいずれのコピーも有さない潰瘍性大腸炎の患者の確率よりも有意に高い回腸嚢炎発症の確率を有することを理解する。
【0035】
命名「171」が、特定のプライマー対(配列番号2および3)でのFA1マイクロサテライト遺伝子座の増幅によって得られるフラグメントの大きさを反映していることが理解される。CEPH参照個体1347−02の189対立遺伝子および191対立遺伝子、ならびにFA1マイクロサテライト領域内の遺伝子配列と比較した171対立遺伝子の大きさの観点から、当業者は、本発明の方法において有用であり得る種々の代替のプライマー対を容易に設計し得る。代替のプライマー対によって、171対立遺伝子は、異なる特徴的な大きさを有し、これは、同じ代替のプライマー対で増幅した場合に、CEPH参照個体1347−02のヘテロ接合体対立遺伝子の大きさよりも18塩基対および20塩基対小さい。
【0036】
1つの実施形態において、本発明は、潰瘍性大腸炎を有する患者における回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法を提供し、これは、患者由来の核酸の酵素的増幅を使用してインターフェロンγ遺伝子座に対する回腸嚢炎関連の対立遺伝子の連鎖の存在または非存在を決定することによる。他の実施形態において、回腸嚢炎関連の対立遺伝子の存在または非存在は、電気泳動分析、制限フラグメント長多型分析、配列決定分析、またはこれらの技術の組み合わせによって決定される。
【0037】
本発明はまた、潰瘍性大腸炎を有する患者における回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法を提供し、これは、患者からFA1マイクロサテライト遺伝子座を含む核酸を含む材料を得、そしてこの核酸を酵素的に増幅してFA1マイクロサテライト遺伝子座またはその一部を含む増幅フラグメントを生成することによる。当業者は、増幅フラグメントが、列挙した遺伝子座の部分を含むことのみを必要とすることを理解する。従って、例えば、増幅フラグメントは、種々の長さのCA反復を含むFA1マイクロサテライト遺伝子座の部分を含むことのみを必要とし、そして例えば、GenBank登録番号U84721の全体の配列を含む必要はない。
【0038】
別の実施形態において、本発明は、潰瘍性大腸炎を有する患者における回腸嚢炎の発症の危険性を決定する方法を提供し、これは、患者からFA1マイクロサテライト遺伝子座を含む核酸を含む材料を得、この核酸を酵素的に増幅してFA1マイクロサテライト遺伝子座を含む増幅フラグメントを生成し、そしてこの増幅フラグメントを電気泳動し、それによってFA1マイクロサテライト171対立遺伝子が存在するか否かを決定することによる。171対立遺伝子の存在は、回腸嚢炎の発症の危険性の増大を示す。
【0039】
本明細書中で使用する場合、用語「材料」は、核酸が調製され得る生物学的な任意の事物を意味する。この用語、材料は、全血、血漿、リンパ、尿、乳汁、唾液、皮膚、毛包、頸部、頬、または核酸を含む他の体液もしくは組織を含む。好ましい材料は、頬または全血であり、これらは、非侵入性の手段によって容易に得ることができ、そして酵素的増幅のためのゲノムDNAの調製に使用され得る。
【0040】
本明細書中で使用する場合、用語「核酸」は、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチドを意味し、そして一本鎖の核酸および二本鎖の核酸の両方を含む。総ゲノムDNAは、本発明の方法を実行するための特に有用な核酸である。
【0041】
回腸嚢炎関連の対立遺伝子の存在または非存在は、当該分野で周知の種々の分子遺伝型決定方法を使用して決定され得る。このような遺伝型決定方法としては、例えば、電気泳動ベースの方法、配列決定分析、制限フラグメント長多型分析、対立遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、ヘテロ二重鎖移動度アッセイ、一本鎖コンフォメーション多型分析、変性勾配ゲル電気泳動、切断フラグメント長多型分析およびローリングサークル増幅が挙げられる。当業者は、変性勾配ゲル電気泳動およびヘテロ二重鎖移動度アッセイを含む電気泳動ベースの方法が、マイクロサテライト対立遺伝子であるところの回腸嚢炎関連の対立遺伝子の存在または非存在の決定のために特に有用であることを理解する。一般には、Birrenら(編)Genome Analysis:A Laboratory Manual 第1巻(Analyzing DNA)New York、Cold Spring Harbor Laboratory Press(1997)およびAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology 第2章(補遺49)John Wiley&Sons,Inc.New York(2000)を参照のこと。
【0042】
1つの実施形態において、回腸嚢炎関連の対立遺伝子の存在は、電気泳動分析を使用して決定される。電気泳動(ゲルまたはキャピラリー電気泳動を含む)は、大きさの異なる対立遺伝子を含む増幅フラグメントの分離において有用であり得る。用語「電気泳動分析」または「電気泳動」は、増幅フラグメントのような1以上の核酸に関して本明細書中で使用される場合、電場の影響下で、荷電した分子を定常溶媒を通じて移動させるプロセスを意味する。電気泳動の移動度は、核酸の電荷(核酸の大きさに比例する)に基づいて主に分離し、より小さい核酸は、より迅速に移動する。用語、電気泳動分析または電気泳動は、スラブ(slab)ゲル電気泳動(例えば、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動)およびキャピラリー電気泳動の両方を使用する分析を含む。数分の分離時間で高い(キロボルトレベル)分離電圧の存在下で、小直径の(50〜100μm)の石英キャピラリー内で一般に生じるキャピラリー電気泳動分析は、本発明の方法において特に有用であり得る。キャピラリー電気泳動分析を使用して、増幅フラグメントのような核酸は、UV吸収または蛍光標識によって簡便に検出され、そして一塩基の解像度が、数百塩基対までのフラグメント上で得られ得る。このような電気泳動分析の方法およびその改変は、例えば、Ausubelら、前出、2000に記載のように、当該分野で周知である。
【0043】
制限フラグメント長多型(RFLP)分析はまた、本発明の方法において回腸嚢炎関連の対立遺伝子の存在または非存在を決定するために有用であり得る(Jarchoら、Dracopoliら、Current Protocols in Human Genetics 2.7.1〜2.7.5頁、John Wiley&Sons、New York、Innisら(編)、PCR Protocols、San Diego:Academic Press,Inc.(1990))。本明細書中で使用する場合、用語「制限フラグメント長多型分析」は、「RFLP分析」と同義であり、そして制限酵素を使用して遺伝子多型を区別するための任意の方法を意味する。この制限酵素は、核酸の分解を触媒し、そして特定の塩基配列(一般には、パリンドロームまたは逆反復)を認識するエンドヌクレアーゼである。当業者は、RFLP分析の使用が、多型の部位で2つの対立遺伝子を区別し得る酵素に依存し得るか、あるいは、RFLP分析が、同じ部位で切断される場合のフラグメントの大きさに依存し得ることを理解する。
【0044】
配列決定分析はまた、本発明の方法において回腸嚢炎関連の対立遺伝子の存在または非存在を決定するために使用され得る。用語「配列決定分析(sequence analysis)」は、増幅フラグメントのような1以上の核酸に関して本明細書中で使用する場合、手動または自動の任意のプロセスをいい、これによって、核酸中のヌクレオチドの順番を決定する。用語、配列決定分析は、化学的配列決定(Maxam−Gilbert)およびジデオキシ酵素的配列決定(Sanger)ならびにこれらの改変を含むことが理解される。従って、用語、配列決定分析は、キャプラリー電気泳動およびレーザー誘導蛍光検出に依存するキャピラリーアレイDNA配列決定を含み、そして例えば、MegaBACE 1000またはABI 3700を使用して実行され得る。配列決定分析はまた、ゲル電気泳動および蛍光検出、放射性核種検出などのような検出方法を使用して実行され得る。ゲル電気泳動は、例えば、ABI 377 DNAシーケンサーを使用して実行され得る。用語、配列決定分析によってまた含まれるものは、熱サイクル配列決定(Searsら、Biotechniques 13:626−633(1992));固相配列決定(Zimmermanら、Methods Mol.Cell Biol.3:39−42(1992))およびマトリックス補助レーザー離脱/イオン化飛行時間質量分析法であるところのMALDI−TOF MS(Fuら、Nature Biotech.16:381−384(1998))のような質量分析法による配列決定である。用語、配列決定分析はまた、例えば、ハイブリダイゼーションによる配列決定(SBH)(これは、未知のDNAに存在する配列の断片を同定するための全ての可能性のある短いオリゴヌクレオチドのアレイに依存する)を含む(Cheeら、Science 274:61−614(1996);Drmanacら、Science 260:1649−1652(1993);およびDrmanacら、Nature Biotech.16:54−58(1998))。当業者は、これらのバリエーションまたはさらなるバリエーションが、本明細書中に定義される用語、配列決定分析に含まれることを理解する。一般には、Ausubelら、前出、2000;第7章を参照のこと。
【0045】
クレアバーゼ(cleavase)フラグメント長の多形性分析はまた、本発明の方法において有用であり得る。クレアバーゼは、DNAの一本鎖領域と二本鎖領域の間の接合部を切断する酵素である。クレアバーゼ消化後のDNAサンプルのゲル濾過移動パターンは、一本鎖および二本鎖領域の数、DNAの一本鎖領域と二本鎖領域との間の平衡、および各切断フラグメントにおけるヌクレオチドの数によって、DNAサンプルの各改変体について特有であり得る。この特有のパターン、すなわち「バーコード」は、その移動パターンによって核酸サンプルサンプルを迅速に遺伝子型決定するのに用いられ得る(例えば、Tondellaら、J.Clin.Microbiol.,37:2402〜2407(1999);および米国特許第5,719,028号および同5,846,717第を参照のこと)。
【0046】
変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)がまた、本発明の方法において、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定するために用いられ得る。DGGEにおいて、二本鎖DNAは、漸増する濃度の変性剤を含有するゲル中で電気泳動され;ミスマッチの対立遺伝子からなる二本鎖フラグメントは、さらに迅速に融解するセグメントを有し、このようなフラグメントを、完全に相補的な配列に比較した場合、示差的に遊走させる(Sheffieldら「Identifying DNA Polymorphism by Denaturing Gradient Gel Electrophoresis」Innisら.,前出、1990)。
【0047】
ヘテロ二重鎖移動度アッセイ(HMA)は、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定するために用いられ得る、別の周知のアッセイである。HMAは、多形性配列の存在を検出するために有用である。なぜなら、ミスマッチ(不適合)を保有するDNA二本鎖は、完全に塩基対合した二本鎖の移動度に比べてポリアクリルアミドゲルにおける移動度が減少しているからである(Delwartら、Science 262:1257〜1261(1993);Whiteら、Genomics 12:301〜306(1992))。
【0048】
一本鎖コンフォメーション多型(SSCP)の技術がまた、本発明の方法において、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定するために用いられ得る(Hayashi、PCR Methods Applic.1:34〜38(1991)を参照のこと)。この技術は、非変性ゲル電気泳動の際、変化した電気泳動の移動度を生じる、一本鎖DNAの二次構造における差異に基づく変異を検出するために用いられ得る。多型フラグメントは、既知の対立遺伝子を含有する、対応する標準的フラグメントに対する、試験フラグメントの電気泳動パターンの比較によって検出される。
【0049】
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションがまた、本発明の方法において、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定するために用いられ得る。対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションは、例えば、回腸嚢炎関連対立遺伝子のヌクレオチドに対して、完全に相補的な配列を有する標識されたオリゴヌクレオチドプローブの使用に基づく。適切な条件下で、この対立遺伝子特異的プローブは、回腸関連対立遺伝子を含む核酸にハイブリダイズするが、このプローブに比較して1つ以上のヌクレオチドミスマッチ(不適合)を有する、1つ以上の他の対立遺伝子にはハイブリダイズしない。所望の場合、別の対立遺伝子に適合する第二の対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドがまた用いられ得る。同様に、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド増幅の技術を用いて、例えば、回腸嚢炎関連対立遺伝子のヌクレオチド配列に完全に相補的であるが他の対立遺伝子に比較して1つ以上のミスマッチを有する、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いることによって、回腸嚢炎関連対立遺伝子を選択的に増幅し得る(Mullisら(編)、The Polymerase Chain Reaction,Birkhaeuser、Boston、(1994))。当業者は、回腸嚢炎関連対立遺伝子と1つ以上の他の対立遺伝子との間を識別する1つ以上のヌクレオチドミスマッチが、好ましくは、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションにおいて用いられるべき対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーの中心に配置されることを理解する。対照的に、PCR増幅において用いられるべき対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、好ましくは、回腸嚢炎関連対立遺伝子と他の対立遺伝子を、このプライマーの3’末端で識別する1つ以上のヌクレオチドミスマッチを含む。
【0050】
ローリングサークル増幅がまた、本発明の方法において、回腸関連対立遺伝子の存在または非存在を決定するために用いられ得る(Banerら、Nucleic Acids Res.26:5073〜5078(1998)、およびLizardiら.,Nat.Genet.19:225〜232(1998))。ローリングサークル増幅において、直線プローブは、プローブの5’末端および3’末端が特定のヌクレオチド配列において直ちに隣接するヌクレオチドにハイブリダイズするように、設計される。サンプルDNAが、特定の配列を有する場合、5’末端および3’末端は、隣接し、そしてこのプローブは、リガーゼを用いて環状にされ得る。特定の配列のないサンプルDNAは、お互いに直ちに隣接する5’末端および3’末端ハイブリダイズを生じず、従って環状化のための首尾よいテンプレートとしては作用しない。次いで、環状化されたプローブを、ローリングサークル複製において用いて、検出の前に配列を増幅し得る。
【0051】
回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定するための他の周知のアプローチとしては、自動化配列決定およびRNAaseミスマッチ技術が挙げられる(Winterら、Proc.Natl.Acad.Sci.82:7575〜7579(1985))。さらに、当業者は、上記の増幅方法または切断方法がまた、酵素反応の検出のためまたはテンプレートとしてDNAマイクロアレイを用いて、固体状態の方法において用いられ得ることを理解する(Ausubelら、前出、2000)。同様に、質量分析を、例えば、米国特許第6,043,031号、同第5,605,798号、および同第5,547,835号に記載のように、切断産物または増幅産物の検出のために用い得る。本発明の方法は、多型対立遺伝子を検出するためのこれらのまたは他の当該分野で認識されたアッセイを用いて実施され得る。
【0052】
1つの実施形態において、回腸嚢炎関連対立遺伝子と回腸嚢炎発生のリスクの上昇との間の関連の強度は、少なくとも1の95%以下の信頼区間限界で、少なくとも4のオッズ比で、特徴付けられる。オッズ比は、少なくとも1の95%以下信頼区間限界では、例えば、少なくとも3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、または6.0であり得、例えば、オッズ比は、95%信頼区間は1.2〜15.4で、少なくとも4である(表1を参照のこと)。本明細書において開示されるように、171の対立遺伝子について陽性な潰瘍性大腸炎患者のうち35%が、IPAA後に慢性回腸嚢炎を発症したが、一方、171の対立遺伝子について陰性の患者のうち11%しか慢性回腸嚢炎は発症しなかった。Kaplan−Meier生存分析は、72例の試験した患者の群における、171の対立遺伝子が、171の対立遺伝子を欠く患者に比較して、慢性回腸嚢炎のリスクのさらに高いリスクと有意に関連していたことを示した。オッズ比は、95%信頼区間限界が少なくとも1.2で4.4であった。オッズ比を決定する方法は、当該分野で周知である(例えば、Schlesselmanら.,Case Control Studies:Design,Conduct and Analysis Oxford University Press,New York(1982)を参照のこと)。
【0053】
本明細書の実施例Iにおいて開示されたように、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子は、0.02のp値で慢性回腸嚢炎の上昇したリスクと関連していた。「p値」または「確率値」は、当該分野で公知の用語である。対立遺伝子と回腸嚢炎のような状態との間の関連についての試験において、p値は、この対立遺伝子および条件が、無作為な因子または偶発的因子と関連する確率を測定する。1.00のp値は、この確率が高いか確実であること、この対立遺伝子および条件の関連が、無作為な因子または偶発的因子に起因することを示す。このことは、この対立遺伝子が、この条件に影響しないことを示す。0.05のp値は、対立遺伝子と条件との間の関連の統計学的試験における代表的閾値である。0.05のp値は、「偽陽性率」、すなわち、この試験が、対立遺伝子とこの条件との間の関連が存在することを誤って示す率が、20の試験のうち1回であることを示す。回腸嚢炎関連対立遺伝子は、例えば、0.04、0.03、0.02、0.01、0.009、0.008、0.007、0.006、0.005、0.004、0.003、0.002、もしくは0.001以下のp値で、または0.00095、0.0009、0.00085、もしくは0.0008未満のp値で、回腸嚢炎発症の高いリスクと関連し得る。ある場合には、p値は、例えば、サンプルサイズ(ファミリーの数)、遺伝子の異質性(結合型および非結合型)、臨床的異質性、または分析的アプローチ(パラメトリック法またはノンパラメトリック法)のような因子を考慮するために補正されることが必要かもしれない。
【0054】
別の実施形態において、本発明は、手術手順(これによって内部パウチ(ポーチ)が作製される)後、潰瘍性大腸炎を有する患者における回腸嚢炎発生のリスクの低下を決定する方法を提供する。この方法は、この患者における、インターフェロンγレセプター遺伝子座に結合した回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または非存在を決定する方法からなる。ここでこの回腸嚢炎関連対立遺伝子の非存在は、回腸嚢炎発生のリスクの低下を示す。
【0055】
用語、リスクの低下とは、本明細書において用いる場合、回腸嚢炎関連遺伝子の非存在によって示された回腸嚢炎発生に関して言及する場合、回腸嚢炎関連対立遺伝子を有する患者についての回腸嚢炎発生の確率よりも有意に低い回腸嚢炎発症の確率をいう。
【0056】
前の研究は、高いpANCA力価(100ELISA単位/mlより大きい)の存在が、回腸嚢炎発生のリスクの指標として用いられ得ること、およびこのような方法が、本明細書において参考として援用されている米国特許第5,937,862号において例示されていることを実証している。さらに、本明細書において開示したように、回腸嚢炎関連の171の対立遺伝子の存在が、回腸嚢炎発生のリスクの上昇と関連するが、高いpNACA力価の存在とは関連しないことが見出された(実施例IBを参照のこと)。従って、回腸嚢炎関連対立遺伝子(例えば、FA1ミクロサテライト171対立遺伝子)、および高いpANCA力価の存在は、回腸嚢炎発生の高いリスクの独立した指標である。これらの結果は、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子についての遺伝子試験が、高いpANCA力価についての血清学的試験と組合されて、回腸嚢炎発生のリスクを決定する非常に鋭敏な方法をもたらし得ることを示す。
【0057】
従って、本発明はまた、外科的手順後の回腸嚢炎発病の危険性を決定するための遺伝学的試験および血清学的試験をあわせる方法を提供し、それによって、内部嚢が、潰瘍性大腸炎を有する患者中に作製される。この方法は、インターフェロンγレセプター遺伝子座に連鎖された回腸嚢炎関連対立遺伝子の患者における存在または非存在を決定すること;および患者における高いpANCA力価の存在または非存在を決定することによって実行され、ここで、回腸嚢炎関連対立遺伝子の存在または高いpANCA力価の存在のいずれかは、回腸嚢炎発病の増加した危険性を示す。
【0058】
本明細書中に開示される結果はまた、原発性硬化性胆管炎(PSC)(肝臓内管の関与を伴なうかまたは伴なわない肝臓外胆管の閉塞性炎症性線維症によって特徴付けられる疾患)に関する。この疾患は、一般的に、たゆまぬ様式で(予測不可能にもかかわらず)肝硬変、門脈圧亢進症、および肝不全からの死に進行する。原発性硬化性胆管炎は、単独で生じ得るか、または潰瘍性大腸炎と関連して生じ得、そしてあまり一般的ではないが、種々の他の疾患と関連して生じる。症状は、一般的に、黄疸、純正(puritis)かつ非特異的な上腹部疼痛が挙げられる。原発性硬化性胆管炎の医学的処置は、単独または併用した、コルチコステロイド、抗体、免疫抑制剤、および胆嚢刺激物質(cholecystogues)が挙げられ得る。
【0059】
実施例Iに開示されるように、171対立遺伝子について陽性であった原発性硬化性胆管炎を有さない患者(37.5%;p=0.019)と比較して、原発性硬化性胆管炎を発病した患者の優位に高いパーセンテージが、171対立遺伝子について陽性であった(69.2%)。これらの結果は、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子が、原発性硬化性胆管炎の診断指標として使用され得ることを示す。
【0060】
従って、本発明はまた、個体におけるインターフェロンγレセプター1 FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の存在または非存在を決定することによって、原発性硬化性胆管炎を診断する方法を提供し、ここで、この171対立遺伝子の存在は、原発性硬化性胆管炎の診断である。この遺伝学的方法は、多型対立遺伝子の存在または非存在を決定するための種々の分子技術のうちのいずれかを使用して実行され得る(上記を参照のこと)。
【0061】
潰瘍性大腸炎は、胃腸管に影響を与えそして類似の徴候を生成する多数の別個の疾患サブタイプを示す異質性の障害であると認識される。異質性の潜在する潰瘍性大腸炎は、例えば、特定の処置戦術に対する種々の応答に影響され得る。疾患サブタイプの例は、医学的に耐性の潰瘍性大腸炎を有する潰瘍性大腸炎患者のサブグループである(米国特許第5,968,741号(1999年10月19日発行)を参照のこと)。これらの患者は、ステロイド、5−アミノサリチル酸(5−ASA)、6−メルカプトプリン(6−MP)、シクロスポリンAなどに非応答性である。標準的な処置に対するこれらの耐性の結果として、潰瘍性大腸炎患者のサブグループは、代表的に、医療処置または結腸切除のより攻撃的な形態を必要とする。
【0062】
臨床的なサブタイプの他の例としては、クローン病のpANCA陽性臨床サブタイプ(これは、クローン病の代表的である特徴に加えた潰瘍性大腸炎の特徴によって特徴付けられる)が挙げられる。これらのpANCA陽性クローン病患者は、粘膜炎症の類似した型に罹患し、そして特定の治療経過と同様に応答し、そしてさらに、潰瘍性大腸炎の医学的治療技術において効果的である治療ストラテジーと同じ治療ストラテジーのうちのいくつかから利益を受け得るが、他のクローン病患者は、非応答性である(米国特許第5,916,748号(1999年6月29日発行)、および米国特許第5,874,233号(1999年2月23日発行)を参照のこと)。
【0063】
上記に鑑みて、当業者は、FA1マイクロサテライト対立遺伝子がまた、潰瘍性大腸炎またはクローン病の特定のサブタイプと関連し得ることを理解する。臨床的なサブタイプは、その疾患の特徴が同じ疾患を有する他の患者よりも互いにより類似する、特定の疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)を有する患者のサブグループである。
【0064】
潰瘍性大腸炎の例示的なサブタイプは、嚢手術を受け、そして引続いて腸管外合併症(例えば、クローン病において見出される炎症に類似した炎症)が続く慢性回腸嚢炎を発病する潰瘍性大腸炎を有するとして診断された患者のサブグループである。このような集団は、Goldsteinら,Am.J.Surg.Pathol.21:1343−1353(1997)に記載される。本発明に従って、回腸嚢炎関連対立遺伝子(例えば、FA1 マイクロサテライト 171対立遺伝子)の存在は、嚢手術後に発病するクローン病様合併症の患者のこのサブタイプを同定するために、使用され得る。
【0065】
本発明はまた、少なくとも15ヌクレオチドを含み、かつ、温和にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、GenBank登録番号AL050337のヌクレオチド63214〜64213を有する核酸分子またはGenBank登録番号AL050337のヌクレオチド64255−65254を有する核酸分子と選択的にハイブリダイズする、単離されたヌクレオチドプローブを提供する(ただし、このヌクレオチドプローブは、GenBank登録番号AL050337でもU84721でもない)。本発明はまた、GenBank登録番号AL050337のヌクレオチド63214〜64213を有する核酸分子またはGenBank登録番号AL050337のヌクレオチド64255〜65254を有する核酸分子の、少なくとも10個連続するヌクレオチドを含む、単離されたヌクレオチドプローブを提供する(ただし、このヌクレオチドプローブは、GenBank登録番号AL050337でもU84721でもない)。本発明の単離されたヌクレオチドプローブは、例えば、少なくとも12、15、17、18、20、21、22、23、24または25ヌクレオチドの長さを有し得る。本発明の単離されたヌクレオチドプローブは、例えば、最大20、25、30、35、40、60、80、100、150または200ヌクレオチドの最大長を有し得る。
【0066】
潰瘍性大腸炎を処理するための外科的手順後の回腸嚢炎発病に対する、患者の罹病性を示すためのキットがさらに、本発明によってさらに提供される。本発明のキットは、インターフェロンγレセプター1遺伝子のFA1 マイクロサテライト遺伝子座を含む増幅フラグメントを形成するための増幅反応において一緒に使用され得る、2つのヌクレオチドプローブを含む(ただし、これらの2つのヌクレオチドプローブは、GenBank登録番号AL050337でもU84721でもない)。
【実施例】
【0067】
以下の実施例は、例示することが意図されるが、本発明を限定することは意図されない。
【0068】
(実施例I)
本実施例は、インターフェロンγレセプター1 FA1 マイクロサテライト 171対立遺伝子が、回腸嚢肛門吻合術後の慢性回腸嚢炎の発病と関連するこ
とを、実証する。
【0069】
(A.FA1 マイクロサテライト 171対立遺伝子と、慢性回腸嚢炎の増加した危険性との関連)
血液サンプルを、回腸嚢炎を有する72人の白色人患者から、回腸嚢肛門吻合術を施したときに収集した。回腸嚢炎発病に関する各患者の状態を、手術後の1ヶ月と81ヶ月との間に少なくとも1回追跡調査した(中心の追跡調査:手術の27ヶ月後)。追跡調査は、患者の遺伝子型およびpANCA状態に対して目隠しされた研究者による、臨床的および内視鏡的な試験された回腸嚢炎の評価を含んだ。評価した72人の患者のうち、36%(n=26)が、回腸嚢炎を発病し、そして22%(n=16)が、回腸嚢炎の症状再発したという基準に基づいて、慢性回腸嚢炎を発病しているとして分類した。
【0070】
患者を、インターフェロンγレセプター1遺伝子の第6イントロン中に位置するFA1マイクロサテライトマーカーについて遺伝子型決定し、そしてFA1対立遺伝子と慢性回腸嚢炎との間の関係について分析した。特異的FA1対立遺伝子(171対立遺伝子と命名される)が、試験した72人の患者のうちの34人に存在した(47%)。この171対立遺伝子について陽性であった患者のうち、35%は、慢性回腸嚢炎を発病した。対照的に、この171対立遺伝子について陰性であった患者の内の11%のみが、慢性回腸嚢炎を発病した。さらに、慢性回腸嚢炎を発病した患者のうち、73.3%が、171対立遺伝子について陽性であり;対照的に、慢性回腸嚢炎を発病しなかった患者のうち、39.3%のみが、この171対立遺伝子について陽性であった(表I)。
【0071】
Kaplan Meier生存分析によって、171対立遺伝子陽性患者が、171対立遺伝子陰性患者よりも、慢性回腸嚢炎を発病する有意に高い危険性を有したことが、確認された(p=0.02、オッズ比=4.4、95%信頼限界=1.2〜15.4)。これらの結果は、FA1マイクロサテライト171対立遺伝子の存在が、回腸嚢肛門吻合術を受けた潰瘍性大腸炎患者における慢性回腸嚢炎の増加した危険性の指標であることを示す。
【0072】
腸管外合併症、外科的適応症(原発性硬化性胆管炎(colangitis)および回腸嚢炎)について試験された66人の患者に対して、類似の分析を実行した。これら66人の患者のうち、48人をまた、pANCAレベルについて試験した。慢性回腸嚢炎を用いた知見と類似して、回腸嚢炎のいずれかの形態を発病した患者は、回腸嚢炎を有さない患者よりも、171対立遺伝子についてより頻度が高く陽性であった(p=0.039、表Iを参照のこと)。さらに、原発性硬化性胆管炎(PSC)を発病した患者の優位に高いパーセンテージがまた、171対立遺伝子について陽性であったPSCを有さない患者の37.5%(p=0.019)に関して、171対立遺伝子について陽性であった(69.2%)。考え合わせると、これらの結果は、FA1 171対立遺伝子が、慢性回腸嚢炎、回腸嚢炎または原発性硬化性胆管炎の発病の診断指標として試用され得ることを示す。
【0073】
FA1 マイクロサテライト遺伝子座における遺伝子型決定を、本質的に以下のように実行した。各患者由来のゲノムDNAを、GenBank登録番号U84721に報告されるFA1マイクロサテライトに隣接する配列に基づくプライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅した(図2)。プライマーAは、配列5’−TET−TGA ATT TTA GTG TTT GTT CTG GCT−3’(配列番号2)を有し、そしてプライマーBは、配列5’−CAT GCT TTG ATG ATT ATC TTT GTG−3’(配列番号3)を有し、これらは、Research Genetics(Huntsville,Alabama)によって調製した。PCR増幅を、製造業者ら(Perkin Elmer,Foster City,CA)の指示書に従って、Ampli−Taq Gold.TM TaqI DNAポリメラーゼを用いて実行した。簡単に言うと、PCRを、10mM Tris−HCl緩衝液(pH 8.3);50mM KCl;0.001% ゼラチン;2.5mM MgCl;1単位のAmpli−Taq GoldTM TaqI DNAポリメラーゼ;40〜100ng ゲノムDNA;ならびに200μMの各dATP、dCTP、dTTPおよびdGTPを含む、20μl容量中で実行した。サーマルサイクリングを、以下のように実行した:95℃で10分間を1サイクル;95℃で30秒間、55℃で75秒間、および70℃で15秒間を35サイクル;ならびに70℃で10分間を1サイクル。
【0074】
【表1】


増幅されたPCR産物を、以下のように分析した。PCR産物のサンプルを、蒸留した脱イオン水で、1:5〜1:20に希釈した。この希釈したサンプルを、4.25%ポリアクリルアミド/6M尿素ゲル上にロードし、そして製造者によって提供される標準的なプロトコルに従って、ABI Prism 377 DNA Sequencer(Perkin Elmer,Foster City,CA)を使用して2〜2.5時間電気泳動した。このバンドの位置によって、サイズ標準物およびGenScan(登録商標)Reference Guide(Perkin Elmer,Foster City,CA,1997)において示唆される方法に従って、サイズを割り当てた。参照個体由来のヘテロ接合性FA1マイクロサテライト(CEPH 1347−02)を、内部標準として使用した;この個体は、FA1マイクロサテライト189対立遺伝子および191対立遺伝子を有することが示された。上記の条件下で、CEPH 1347−02の189対立遺伝子および191対立遺伝子は、188.5bpおよび190.4bpの見掛け上のサイズを有し、そして、171対立遺伝子は、170.9の見掛け上のサイズを有する(図3)。統計学的方法を、Statistical Analysis Software(Carey,New Jersey)を使用して行った。患者がpANCA陽性(少なくとも1 ELISA単位/ml)であるか、そして患者が高いpANCAレベル(少なくとも100 ELISA単位/ml)を有するかを、P値を、患者の民族性(ユダヤ人対非ユダヤ人)を考慮して算出した。
【0075】
(B.FA1マイクロサテライト171対立遺伝子および高pANCAレベルは、独立して慢性回腸嚢炎の発生と関連する)
手術前の高レベルのpANCAは、IPAA後の慢性回腸嚢炎に関連することが示されている。pANCA状態を、1999年8月17日発行の米国特許第5,937,862号において開示される方法に従って、Prometheus Laboratories,Inc.(San Diego,CA)によって、本研究における患者のうち52人において決定した。pANCAの高レベルまたは低レベルのいずれかを有するとして患者を分類し、ここで、高pANCAレベルは、100単位/ml以上のレベルとみなす。52人の患者のうち6人(12%)は、結腸切除およびIPAAの前に、高レベルのpANCAを有した。これらのうち、5人の患者(83%)は、慢性回腸嚢炎を発症した。
【0076】
pANCAレベルとFA1 171対立遺伝子との間の関連性を、層別化分析によって試験した。この結果は、171対立遺伝子陽性患者における慢性回腸嚢炎の発生率が、pANCA状態と独立であることを示した(pANCA陽性患者についてp=0.010、および高いpANCAレベルを有する患者についてp=0.011、表1を参照のこと)。これらの結果は、慢性回腸嚢炎が、pANCA依存性経路およびpANCA非依存性経路の両方によって発症し得ることを実証する。これらの結果は、pANCAが、FA1 171対立遺伝子と組み合わされて、回腸嚢炎または慢性回腸嚢炎の発症を予測する、特に感受性の方法を生成し得ることをさらに示す。
【0077】
上記に提供される全ての学術論文、参考文献、および特許の、括弧内または他の引用は、以前に述べられているか否かにかかわらず、本明細書中で参考として援用される。
【0078】
本発明は、上記の実施例についての参照と共に記載されてきたが、本発明の精神から逸脱することなく、種々の改変がなされ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、上記の特許請求の範囲のみによって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載される発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−115278(P2012−115278A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−22791(P2012−22791)
【出願日】平成24年2月6日(2012.2.6)
【分割の表示】特願2001−576934(P2001−576934)の分割
【原出願日】平成13年4月10日(2001.4.10)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】