説明

回路性能見積装置、回路性能見積方法及び回路性能見積プログラム

【課題】回路性能見積もりの精度と処理時間とのバランスを図ることができる回路性能見積装置、回路性能見積方法及び回路性能見積プログラムを提供することを課題とする。
【解決手段】モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もるコンピュータに、回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段45から項を取得して、項の組み合わせで新たなモデル式を生成するステップと、新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するステップとを実行させる回路性能見積プログラムにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回路性能を見積もる回路性能見積装置、回路性能見積方法及び回路性能見積プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばパッケージされた半導体集積回路(IC)であるチップ(CHIP)の設計及び製造は図1に示すように行われる。図1は、チップの設計及び製造のプロセスを表した一例のフローチャートである。図1に示すように、チップ設計のプロセスS10は回路トポロジ設計工程S11、トポロジ設計変数決定工程S12、レイアウト、マスク工程S13を含む。
【0003】
チップ製造のプロセスS20は前工程S21、後工程、テストS22を含む。例えば前工程S21は露光、エッチング(etching)、酸化拡散、CVD(化学気相成長法)、イオン注入、研磨等を含む。また、後工程はチップ分割(Dicing)、実装(Mounting)、接続(bonding)、成型(mold)、分離等を含む。
【0004】
前工程S21では、TEG(test element group)1を用いることでチップに発生する製造上の問題を見つけ出す。TEG1は前工程S21で発生する問題点の要因の究明に適した評価用素子である。なお、前工程S21ではTEG1を用いることによりプロセスパラメータ(Vth、U0、toxなど)2が収集される。前工程S21では、寸法や圧力、温度のばらつきによりプロセスパラメータ2のばらつきが発生し、チップの歩留まりに影響を与える。
【0005】
半導体製造のプロセスを最適化するための歩留制御方法であって、製品予測モデル式からの標準偏差と製品規格値に入る確率をプロセス条件値の関数として求める内容は従来から知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−145148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プロセスパラメータ2のばらつきは、チップ製造のプロセスS20に含まれる前工程S21の微細化により、増大する。すなわち、プロセスパラメータ2のばらつきの総和は増大する。結果、チップの歩留まりを改善する為には、チップ設計のプロセスS10においてもチップの歩留まりを考慮しなければならなくなった。このようにチップ設計のプロセスS10においてもチップの歩留まりを考慮する為には、チップの歩留まりを見積もる技術が必要となる。
【0008】
また、プロセスパラメータ2のばらつきはプロセスを縮めになればなるほどランダムばらつきが優位を占める為、チップ設計のプロセスS10では後述のチップ内ばらつきを考慮しなければならない。すなわちチップの歩留まりに影響するプロセスパラメータ2は劇的に増加する。
【0009】
図2はチップ間及びチップ内ばらつきの一例の説明図である。チップ間ばらつきは例えばチップ(Die)11、12間のプロセスパラメータ2のばらつきである。なお、チップ11、12の内部のプロセスパラメータはばらつきしていないものとする。チップ内ばらつきは例えばチップ13内のプロセスパラメータ2のばらつきである。チップ13は内部素子でもプロセスパラメータ2がばらついているものとする。
【0010】
チップ設計のプロセスS10においてチップの歩留まりを見積もる技術としてはSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)などによるモンテカルロシミュレーションがあった。SPICEは電子回路のアナログ動作をシミュレーションする回路シミュレータの一例である。
【0011】
チップ設計のプロセスS10においてチップの歩留まりを見積もる場合は、チップの性能の分布が分かるまで大量なモンテカルロシミュレーションの回数が必要である。SPICE等の回路シミュレータは処理が非常に重い。したがって、回路シミュレータによるモンテカルロシミュレーションでチップの歩留まりを見積もる為には、非常に時間が掛かるという問題があった。
【0012】
また、SPICE等の回路シミュレータの処理を軽くしようとすると、チップ設計のプロセスS10におけるチップの歩留まりの見積もりは、誤差が大きくなってしまうという問題があった。なお、特許文献1に記載されている技術は半導体製造のプロセスを改良して製品の歩留まりを改善するものであって、半導体設計のプロセスを改良して製品の歩留まりを改善するものではない。
【0013】
本発明の一実施形態は、回路性能見積もりの精度と処理時間とのバランスを図ることができる回路性能見積装置、回路性能見積方法及び回路性能見積プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する為、本発明の一実施形態は、モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もるコンピュータに、回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成ステップと、前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択ステップとを実行させる回路性能見積プログラムである。
【0015】
なお、本発明の一実施形態の構成要素、表現又は構成要素の任意の組合せを、方法、装置、システム、コンピュータプログラム、記録媒体、データ構造などに適用したものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態によれば、回路性能見積もりの精度と処理時間とのバランスを図ることができる
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】チップの設計及び製造のプロセスを表した一例のフローチャートである。
【図2】チップ間及びチップ内ばらつきの一例の説明図である。
【図3】SPICEによるモンテカルロシミュレーションによりチップの性能のばらつき分布を求める処理を表した一例の説明図である。
【図4】モデル式によるモンテカルロシミュレーションによりチップの性能のばらつき分布を求める処理を表した一例の説明図である。
【図5】線形モデル及び2次の多項式モデルの誤差、係数、モデリング時間を表した一例のテーブルである。
【図6】2次の多項式モデルに含まれる項の係数の大きさを表したグラフ図である。
【図7】回路性能見積プログラムを実行するコンピュータの一例のハードウェア構成図である。
【図8】本実施例の回路性能見積装置の一例のブロック構成図である。
【図9】本実施例のモデル式生成部の詳細を表した一例のブロック図である。
【図10】モデリング処理の手順を表したフローチャートである。
【図11】ステップS56の処理の詳細を表したフローチャートである。
【図12】タームライブラリの一例の構成図である。
【図13】モデル式と、そのモデル式の誤差(精度)との対応を表した一例の構成図である。
【図14】遺伝的アルゴリズム情報の一例の構成図である。
【図15】従来手法と本実施例との効果を比較する為の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明を実施するための形態を、以下の実施例に基づき図面を参照しつつ説明していく。本実施例の回路性能見積装置、回路性能見積方法及び回路性能見積プログラムは一例であって、例えば他の名称の装置、方法及びプログラムであってもよい。
【0019】
本実施例ではSPICEによるモンテカルロシミュレーションに代えて、モデル式によるモンテカルロシミュレーションによりチップの歩留まりを見積もる。モデル式はチップの回路性能とプロセスパラメータ2との関係をモデリングしたものである。モデル式の計算はSPICEの計算より非常に軽い。
【0020】
したがって、モデル式によるモンテカルロシミュレーションはSPICEによるモンテカルロシミュレーションよりも処理時間が短くなる。図3はSPICEによるモンテカルロシミュレーションによりチップの性能のばらつき分布を求める処理を表した一例の説明図である。図4はモデル式によるモンテカルロシミュレーションによりチップの性能のばらつき分布を求める処理を表した一例の説明図である。
【0021】
図3では、アナログ設計データ21及びプロセスばらつき分布データ22を用いてSPICEによるモンテカルロシミュレーションを行う。アナログ設計データ21は例えば図1に示したトポロジ設計変数等である。プロセスばらつき分布データ22は例えば図1に示したプロセスパラメータ2である。SPICEによるモンテカルロシミュレーションは処理が非常に重いため、チップ性能のばらつき分布を求める為の処理時間が非常に長くなる。
【0022】
図4では、アナログ設計データ21及びプロセスばらつき分布データ22を用いてRSM(Response Surface Method)のSPICE計算で回路性能とプロセスパラメータとの関数関係をモデリングしたあと、モデル式によるモンテカルロシミュレーションを行っている。モデル式によるモンテカルロシミュレーションはSPICEによるモンテカルロシミュレーションに比べて処理が非常に軽いため、チップ性能のばらつき分布を求める為の処理時間がSPICEによるモンテカルロシミュレーションに比べて短くなる。
【0023】
ここでは、モデリング技術について説明する。モデリング技術には線形近似による線形モデルと高次多項式近似による多項式モデルとが含まれる。線形モデルはチップの回路性能とプロセスパラメータ2との関係を例えば以下の式(1)によりモデリングする。
【0024】
【数1】

【0025】
Pはチップの回路性能を表す。p〜pはプロセスパラメータ2を表す。p〜pは例えばVth_m0、U0_m0、Tox_m0、Vth_m1、U0_m1、Tox_m1等である。線形モデルではシミュレーションデータセット{P、p1、p2、…、pn}から係数{a0、a1、…、an}を求める(fittingを実施する)ために、少なくともn+1個のシミュレーションデータセットが必要となる。
【0026】
また、多項式モデルは、チップの回路性能とプロセスパラメータ2との関係を例えば以下の式(2)によりモデリングする。式(2)はm次の多項式モデルを表している。例えばプロセスパラメータ2が2個の2次の多項式モデルは式(3)のように表される。
【0027】
【数2】

【0028】
式(2)及び式(3)に含まれるp〜pは項(term)である。m次の多項式モデルではn変数の場合、Σ(n+m-1)Cm個以上のシミュレーションデータセットが必要となる。なお、n変数は上記のプロセスパラメータ2の個数に相当する。m次の多項式モデルでn変数の場合(n変数m次多項式の場合)は項の数に比例する数のシミュレーションデータセットが必要となる。
【0029】
上記した線形モデル及び多項式モデルは以下のような問題点がある。例えばプロセスパラメータ2のばらつきの総和の増大に伴って、線形モデルは誤差が大きくなるという問題があった。例えば式(4)はトランジスタの非線形性質を表している。非線形性質であるため、線形モデルでは誤差が大きくなる。
【0030】
【数3】

【0031】
また、プロセスパラメータ2のランダムばらつきが優位を占める為、多項式モデルは多項式変数である項の数が指数的に増える。したがって、多項式モデルではfittingするために、シミュレーションデータセットを計算するSPICEの処理時間は指数的に増えてしまう。
【0032】
例えばプロセスパラメータ2の数が200個(200変数)の場合、線形モデルでは201回以上のSPICEによる計算回数が必要である。2次の多項式モデルでは20301回以上のSPICEによる計算回数が必要である。3次の多項式モデルでは1373701回以上のSPICEによる計算回数が必要である。
【0033】
図5は線形モデル及び2次の多項式モデルの誤差、係数、モデリング時間を表した一例のテーブルである。図5はチップがオペアンプの例を表している。線形モデルは誤差が大きい回路性能が含まれる。回路性能(Offset)は誤差が24.83%と大きい。2次の多項式モデルはモデリング時間が2.3日と長い。
【0034】
なお、モデリング時間は係数の数と比例している。例えば2次の多項式モデルの係数の数は線形モデルの係数の数の25.5倍である。また、2次の多項式モデルのモデリング時間は線形モデルのモデリング時間の25.1倍である。2次の多項式モデルの係数の数が増えるとモデリング時間が比例して増加する。つまり、fittingに必要なfitting時間は2次の多項式モデルの係数の数の増加に比例して増加する。
【0035】
そこで、本実施例では精度とモデリング時間とのバランスが図られたモデル式を新たに作成することでチップの回路性能の見積もりの精度と処理時間とのバランスを図る。
【0036】
本実施例ではfitting時間が項の数と比例するという内容から、モデル式の項の数を減らすことでfitting時間を減らすことを考える。例えば式(5)の2次の多項式モデルに含まれる3及び4番目の項の係数が図6に示すように他の項の係数に比べて明らかに小さい場合は、3及び4番目の項を削除することにより、式(6)を作成できる。図6は2次の多項式モデルに含まれる項の係数の大きさを表したグラフ図である。
【0037】
【数4】

【0038】
式(6)は精度をほとんど落とすことなく、fitting時間を減少させることができるモデル式となる。このような式(6)のモデル式によれば、モンテカルロシミュレーションに必要なシミュレーションデータセットの数は減少する。
【0039】
しかし、モデル式の項の係数を求めた後、他の項の係数に比べて明らかに係数が小さい項を削除するのでは、モデル式の項の係数を求めるために必要なシミュレーションデータセットの数を減少させることができない。そこで、本実施例では式(5)の項の組み合わせの式(7)のモデル式から誤差が少ないモデル式を以下のように選択する。
【0040】
【数5】

【0041】
なお、モデル式(5)の項の組み合わせの式(7)から精度と処理(fitting)時間とのバランスの取れたモデル式を選択する処理は後述する。
【0042】
(ハードウェア構成)
図7は、回路性能見積プログラムを実行するコンピュータの一例のハードウェア構成図である。図7のコンピュータ30はバス39で相互に接続されている入力装置31、出力装置32、記録媒体読取装置33、補助記憶装置34、主記憶装置35、演算処理装置36及びインターフェース装置37を有する。
【0043】
入力装置31はキーボードやマウス等である。入力装置31は、各種信号を入力するために用いられる。出力装置32はディスプレイ装置等である。出力装置32は、各種ウインドウやデータ等を表示するために用いられる。インターフェース装置37は、モデム又はLANカード等である。インターフェース装置37は、ネットワークに接続する為に用いられる。
【0044】
本実施例の回路性能見積プログラムは、図7のコンピュータ30を制御する各種プログラムの少なくとも一部である。回路性能見積プログラムは、記録媒体38の配布やネットワークからダウンロードすることによって提供される。回路性能見積プログラムを記録した記録媒体38はCD−ROM、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の様に情報を光学的,電気的或いは磁気的に記録する記録媒体、ROM、フラッシュメモリ等の様に情報を電気的に記録する半導体メモリ等、様々なタイプの記録媒体を用いることができる。
【0045】
回路性能見積プログラムは、回路性能見積プログラムを記録した記録媒体38が記録媒体読取装置33にセットされると、記録媒体38から記録媒体読取装置33を介して補助記憶装置34にインストールされる。なお、ネットワークからダウンロードされた回路性能見積プログラムはインターフェース装置37を介して補助記憶装置34にインストールされる。補助記憶装置34はインストールされた回路性能見積プログラムを格納すると共に必要なファイル,データ等を格納する。
【0046】
主記憶装置35は、回路性能見積プログラムの起動時に補助記憶装置34から回路性能見積プログラムを読み出して格納する。演算処理装置36は主記憶装置35に格納された回路性能見積プログラムに従って、後述するような各種処理を実現している。回路性能見積プログラムを実行するコンピュータ30は回路性能見積装置の一例である。
【0047】
(ブロック構成)
回路性能見積プログラムを実行するコンピュータは、図8に示すような各種処理を実現している。図8は本実施例の回路性能見積装置の一例のブロック構成図である。
【0048】
回路性能見積装置40は、タームライブラリ(term library)生成部41、モデル式生成部42、モデル式選択部43、モンテカルロシミュレーション部44、タームライブラリDB45、モデル式DB46、ルールDB47、遺伝的アルゴリズムDB48を有している。
【0049】
タームライブラリ生成部41はモデル式のターム(項)を含むタームライブラリを生成する。モデル式生成部42はタームライブラリに含まれる1つ以上のタームを組み合わせてモデル式を生成する。モデル式選択部43はモデル式生成部42で生成したモデル式が精度要求を達成するとき、そのモデル式を選択する。モンテカルロシミュレーション部44はモデル式選択部43で選択したモデル式によりモンテカルロシミュレーションを行うものである。
【0050】
タームライブラリDB45はタームライブラリを記録する。モデル式DB46はモデル式と、そのモデル式の誤差(精度)とを対応付けて記録する。ルールDB47はモデル式生成部42で生成するモデル式のルールを記録する。遺伝的アルゴリズムDB48は後述の遺伝的アルゴリズムで利用する遺伝的アルゴリズム情報を記録する。
【0051】
図9は本実施例のモデル式生成部の詳細を表した一例のブロック図である。モデル式生成部42は、タームによるモデル式生成部51、インデックス付与部52、遺伝子生成部53、遺伝的アルゴリズム処理部54、遺伝子によるモデル式生成部55、ルール判定部56を有している。
【0052】
タームによるモデル式生成部51はタームライブラリに含まれる1つ以上のタームを組み合わせてモデル式を生成する。インデックス付与部52はタームライブラリDB45に記録されているタームライブラリの各タームにインデックス(index)を付与する。遺伝子生成部53はタームライブラリに含まれる1つ以上のタームを組み合わせて個体の遺伝子を生成する。遺伝的アルゴリズム処理部54は遺伝的アルゴリズムにより新しい個体を捜査する。
【0053】
遺伝子によるモデル式生成部55は遺伝的アルゴリズム処理部54により捜査された新しい個体の遺伝子からモデル式を生成する。また、ルール判定部56は遺伝子によるモデル式生成部55によって生成されたモデル式がルールDB47に記録されているモデル式のルールを満たしているか判定する。
【0054】
(処理手順)
回路性能見積装置40は例えば回路性能とプロセスパラメータ2との関係を図10に示す手順によりモデリングする。図10はモデリング処理の手順を表したフローチャートである。なお、図10のフローチャートにおいてiの初期値は「2」とする。
【0055】
ステップS51に進み、タームライブラリ生成部41はモデル式のタームを含むタームライブラリ100を生成する。タームライブラリ100の詳細は後述する。ステップS52に進み、モデル式生成部42はタームライブラリ100に含まれるタームをi個、組み合わせてモデル式101を生成する。モデル式101の詳細は後述する。
【0056】
ステップS53に進み、モデル式選択部43はモデル式生成部42で生成したモデル式に対して最小2乗法などでfittingを実施し、係数{a0、a1、…、an}を求める。
【0057】
ステップS53に続いてステップS54に進み、モデル式選択部43は係数が求まったモデル式とシミュレーションデータとのMSE誤差を求め、そのMSE誤差でモデル式の誤差(精度)を評価する。
【0058】
モデル式選択部43はモデル式生成部42で生成したモデル式の中に、精度が精度要求を達成しているものがあれば、精度要求を達成しているモデル式を選択したあと、図10のフローチャートの処理を終了する。
【0059】
モデル式選択部43はモデル式生成部42で生成したモデル式の中に、精度が精度要求を達成しているものがなければステップS55に進み、最大ループ数に到達したか否かを判定する。モデル式選択部43は最大ループ数に到達していなければ、モデル式生成部42に、タームの更新及びモデル式の生成を指示する。
【0060】
タームの更新及びモデル式の生成を指示されると、モデル式生成部42はステップS56に進み、タームを更新し、i個のタームを組み合わせて新しいモデル式を生成したあとステップS53に戻り、処理を続ける。
【0061】
一方、モデル式選択部43は最大ループ数に到達していれば、iが最大値iより小さいか否かを判定する。iが最大値iより小さければ、モデル選択部43はステップS58に進み、iに「1」を加算する。その後、モデル式選択部43はモデル式生成部42にモデル式の生成を指示する。モデル式生成部42はモデル式の生成を指示されると、ステップS52に戻り、処理を続ける。
【0062】
図11はステップS56の処理の詳細を表したフローチャートである。ステップS61に進み、モデル式生成部42に含まれるインデックス付与部52はタームライブラリ100に含まれる各タームにインデックスを付ける。例えば図11のタームライブラリ100の各タームには[1]〜[9]を2進数で表したインデックスが付けられる。
【0063】
ステップS62に進み、遺伝子生成部53はタームライブラリ100に含まれるタームをi個、組み合わせて個体の遺伝子を生成する。例えば図11ではタームライブラリ100に含まれるインデックス[1]の「x」及びインデックス[2]の「y」を組み合わせて生成した個体「x+y」の遺伝子「00010010」を表している。また、図11ではインデックス[3]の「x2」及びインデックス[4]の「y2」を組み合わせて生成した個体「x2+y2」の遺伝子「00110100」を表している。
【0064】
ステップS63に進み、遺伝的アルゴリズム処理部54は公知の遺伝的アルゴリズムにより新しい個体を捜査する。例えば図11では親遺伝子「00010010」と「00110100」から交叉(crossover)により遺伝子「00110010」の個体、突然変異(mutation)により遺伝子「00110101」の個体を作る。
【0065】
ステップS64に進み、遺伝子によるモデル式生成部55は遺伝的アルゴリズム処理部54により捜査された新しい個体の遺伝子からモデル式を生成する。例えば図11ではステップS63で作った遺伝子「00110101」の個体からモデル式「x2+xy」を生成する。
【0066】
ステップS65に進み、ルール判定部56は遺伝子によるモデル式生成部55によって生成されたモデル式がルールDB47に記録されているルールを満たしているか否かを判定する。例えばルールとしては、各タームがタームライブラリ100に存在する、タームのインデックスが重複しない、モデル式のタームが重複しない、モデル式が重複しないなどである。
【0067】
モデル式がルールを満たしていないと判定すると、ルール判定部56は遺伝的アルゴリズム処理部54に新しい個体の捜査を指示する。新しい個体の捜査を指示されると、遺伝的アルゴリズム処理部54はステップS63に戻り、処理を続ける。モデル式がルールを満たしていると判定すると、ルール判定部56は図11に示したフローチャートの処理を終了する。
【0068】
図12はタームライブラリの一例の構成図である。図12のタームライブラリはモデル式の変数が{p0、p1、…、pn}であるときの1次、2次、…、特定義のタームの一例を表している。図12のタームライブラリはタームライブラリDB45に記録される。
【0069】
図13は、モデル式と、そのモデル式の誤差(精度)との対応を表した一例の構成図である。図13ではi(i=1〜m)個のタームを組み合わせて生成したモデル式と、そのモデル式の誤差(精度)とが対応付けられている。iが「1」のときのモデル式の数が個体(population)数となる。図13のモデル式と、そのモデル式の誤差(精度)との対応はモデル式DB46に記録される。
【0070】
図14は、遺伝的アルゴリズム情報の一例の構成図である。図14では、両親モデル式と、親遺伝子であるインデックスと、交叉(crossover)により捜査された遺伝子と、突然変異(mutation)により捜査された遺伝子と、突然変異により捜査された遺伝子から生成したモデル式とが対応付けられた遺伝的アルゴリズム情報の一例を表している。図14の遺伝的アルゴリズム情報は遺伝的アルゴリズムDB48に記録される。
【0071】
図15は従来手法と本実施例との効果を比較する為の説明図である。図15では従来手法としての線形近似、2次近似、3次近似のモデル式と、本実施例のモデル式とにおけるプロセスパラメータ数、Fitting係数、Fittingデータ、時間効率、モデリング誤差を表している。図15に示したように、本実施例のモデル式は線形近似と同じデータ数で、2次近似よりモデリング誤差(精度)が良い。
【0072】
本実施例は回路性能とプロセスパラメータ2との関係を示すモデル式において、プロセスパラメータ2から作られたタームライブラリ100から最適なタームを捜査してモデル式を生成し、回路性能の見積もりの精度と、処理時間とのバランスを図っている。タームライブラリ100から最適なタームを捜査してモデル式を生成する手法としては遺伝的アルゴリズムを利用することができる。
【0073】
本発明は、以下に記載する付記のような構成が考えられる。
(付記1)
モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もるコンピュータに、
回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成ステップと、
前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択ステップと
を実行させる回路性能見積プログラム。
(付記2)
前記モデル式生成ステップは、前記記録手段から取得した前記項から遺伝的アルゴリズムにより新たなモデル式を生成する付記1記載の回路性能見積プログラム。
(付記3)
前記モデル式生成ステップは、前記モデル式選択ステップにより精度要求を満たすモデル式を選択できるまで、前記項の組み合わせの数を順次増加させて前記新たなモデル式を生成する付記2記載の回路性能見積プログラム。
(付記4)
前記モデル式選択ステップは、前記モデル式生成ステップが生成した前記新たなモデル式に対してフィッティング(fitting)を行って前記モデル式の係数を求め、該係数が求まった前記モデル式の精度を評価する付記3記載の回路性能見積プログラム。
(付記5)
モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もるコンピュータによって実行される回路性能見積方法であって、
前記コンピュータが、
回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成ステップと、
前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択ステップと
を実行する回路性能見積方法。
(付記6)
モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もる回路性能見積装置であって、
回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成手段と、
前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択手段と
を有する回路性能見積装置。
【0074】
本発明は、具体的に開示された実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1 TEG(test element group)
2 プロセスパラメータ
11〜13 チップ(Die)
21 アナログ設計データ
22 プロセスばらつき分布データ
30 コンピュータ
31 入力装置
32 出力装置
33 記録媒体読取装置
34 補助記憶装置
35 主記憶装置
36 演算処理装置
37 インターフェース装置
38 記録媒体
39 バス
40 回路性能見積装置
41 タームライブラリ(term library)生成部
42 モデル式生成部
43 モデル式選択部
44 モンテカルロシミュレーション部
45 タームライブラリDB
46 モデル式DB
47 ルールDB
48 遺伝的アルゴリズムDB
51 タームによるモデル式生成部
52 インデックス付与部
53 遺伝子生成部
54 遺伝的アルゴリズム処理部
55 遺伝子によるモデル式生成部
56 ルール判定部
100 タームライブラリ
101 モデル式

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もるコンピュータに、
回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成ステップと、
前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択ステップと
を実行させる回路性能見積プログラム。
【請求項2】
前記モデル式生成ステップは、前記記録手段から取得した前記項から遺伝的アルゴリズムにより新たなモデル式を生成する請求項1記載の回路性能見積プログラム。
【請求項3】
前記モデル式生成ステップは、前記モデル式選択ステップにより精度要求を満たすモデル式を選択できるまで、前記項の組み合わせの数を順次増加させて前記新たなモデル式を生成する請求項2記載の回路性能見積プログラム。
【請求項4】
前記モデル式選択ステップは、前記モデル式生成ステップが生成した前記新たなモデル式に対してフィッティング(fitting)を行って前記モデル式の係数を求め、該係数が求まった前記モデル式の精度を評価する請求項3記載の回路性能見積プログラム。
【請求項5】
モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もるコンピュータによって実行される回路性能見積方法であって、
前記コンピュータが、
回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成ステップと、
前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択ステップと
を実行する回路性能見積方法。
【請求項6】
モデル式によるシミュレーションで回路性能を見積もる回路性能見積装置であって、
回路性能とパラメータとの関係を示すモデル式に含まれる項が記録されている記録手段から前記項を取得して、前記項の組み合わせで新たなモデル式を生成するモデル式生成手段と、
前記新たなモデル式でシミュレーションを行い、精度要求を満たすモデル式を選択するモデル式選択手段と
を有する回路性能見積装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−43093(P2012−43093A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182297(P2010−182297)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】