説明

回転ダンパ

【課題】大なる制動トルクを発生する回転方向が左右いずれでも1種類の回転部材で対応可能な誤組み防止可能な回転ダンパ。
【解決手段】弁部材を、羽根部の先端に、回転部材の軸部の円周方向に所定の範囲で羽根部に対して相対移動自在に設け、羽根部を、軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成し、弁部材は、羽根部に正常な組付け方向に組付けられたときにのみ、羽根部の先端を受容して軸部の円周方向への所定の範囲での羽根部に対する相対移動が許容される形状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ピアノの鍵盤蓋や便器の便座・便蓋などの回転軸部に用いられる回転ダンパに関し、より詳しくは回転ダンパの流体制御機構における弁部材の誤組付けを防止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ピアノの鍵盤蓋、便器の便座・便蓋等の上下開閉式の蓋や扉には、蓋等を回転自在に支持する軸部材の回転方向によって制動トルクを異ならせた回転ダンパが使用されている。これにより、開けるときは軽い力で蓋等を開けることができ、閉じるときは蓋等が急落下して手などを怪我することがなく、機器等の損傷を防止することもできる。
【0003】
このように構成された回転ダンパの多くは、粘性流体を収納したケーシング内に、ケーシングに対して相対回転自在に軸部材が設けられており、軸部材から径方向外方に突出形成された羽根部の先端面とケーシングの内周面との間に形成される粘性流体通路における粘性流体の流れを羽根部の先端に取付けた弁部材の動きにより制御している。この流体制御機構において、羽根部の先端に取付ける弁部材を誤って所定の取付け方向とは逆向きに取付けてしまうと、制動トルクのトルク特性が逆になってしまう。このため、上記の回転方向によって制動トルクを異ならせた回転ダンパにおいては、流体制御機構の弁部材の誤組付けを防止す必要がある。
【0004】
この点を考慮した発明が特許文献1に記載されている。この従来技術は、羽根部及び弁部材のいずれか一方の、軸部材の円周方向における片側に、他方の部材に向けて突出する突起を設け、他方には該突起を受入れ可能な突起受容部を弁部材の所定の範囲での円周方向への移動を許容するように形成し、羽根部材に弁部材を正常な組付け方向に組付けたときに弁部材の正常な組付けがなされ、逆向きの組付け方向に組付けたときは、相手部材に突起受容部がなく羽根部材に対する弁部材の正常な組付けができないようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007―327578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、軸部材の回転方向によって制動トルクを異ならせた回転ダンパは、回転ダンパとしての基本構造が同じであっても、ケーシングに対する軸部材の回転方向が右回転のときに制動トルクを大きくする場合と、左回転のときに制動トルクを大きくする場合とがある。それはピアノ蓋、便器の便座、便蓋等の物品に対する回転ダンパの取付位置によって決まり、その取付位置は最終製品のメーカー毎に異なる。回転ダンパのメーカーとしては最終製品メーカーの要求を満足させる必要があり、そのためには、特許文献1に示された弁構造のものでは、軸部材の円周方向において羽根部の右側に突起又は突起受容部を設けたものと、羽根部の左側に突起又は突起受容部を設けたものとの2種類の軸部材を用意する必要がある。
【0007】
このことは、軸部材は型成形で製造されるため、2種類の成形型が必要になることを意味する。軸部材は弁部材と比べて大型であり、材質は主として亜鉛合金や硬質プラスチックであり、構造は弁部材と比べて極めて複雑である。即ち、軸部材は、一端部から他端部にかけて、ピアノ蓋等当該回転ダンパが取付けられる機器との連結部、ケーシング内からのオイル漏れ防止のためのシール材取付け部、ケーシング内に収納される軸部、軸部の外周面からケーシング内周面に向けて径方向外方に突出する羽根部、ケーシング底壁の軸受部により支持される軸端部、等の凹凸の多い極めて複雑な形状に造られている。こうした理由により軸部材の成形型は極めて高価である。このため、1つのタイプの回転ダンパ毎に高価な軸部材の成形型を2種類用意する必要がある特許文献1に示された従来の構成では、製造コスト高の要因となっていた。本発明はこうした課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、粘性流体が充填されたケーシングと、該ケーシング内に一部が挿入された回転部材とからなり、前記ケーシングは内周面に軸方向に沿って設けられ径方向内方に突設された凸壁を有し、前記回転部材はケーシング内に挿入された軸部の外周面に軸方向に沿って設けられ径方向外方に突設された羽根部を有し、該羽根部の先端には弁部材が装着され、該弁部材により、前記軸部がケーシングに対して一方向に相対回転したときの制動トルクを大きく、他方向に相対回転したときの制動トルクを小さくするように、前記羽根部の先端と前記ケーシングの内周面との間の流体通路における粘性流体の流れが制御される回転ダンパにおいて、
前記弁部材を、前記羽根部の先端に前記軸部の円周方向に所定の範囲で前記羽根部に対して相対移動自在に設け、
前記羽根部を軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成し、
前記弁部材は、前記羽根部に正常な組付け方向に組付けられたときにのみ、前記羽根部の先端を受容して前記軸部の円周方向への前記所定の範囲での前記羽根部に対する相対移動が許容される形状に形成することを特徴とする回転ダンパを提供する。
【0009】
前記羽根部を軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成する構成は、前記軸部の径方向への凹凸形状、又は前記軸部の円周方向に左右対称に設けた凹凸形状、或いはこれらを組合わせた形状を前記羽根部の軸方向の長さを二等分する線分に対して一方の側と他方の側とで異ならせる構成とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、回転部材の羽根部を軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成し、前記弁部材は、前記羽根部に正常な組付け方向に組付けられたときにのみ、前記羽根部の先端を受容して前記軸部の円周方向への前記所定の範囲での前記羽根部に対する相対移動が許容される形状に形成したことにより、ケーシングに対する回転部材の回転方向が右回転のときに制動トルクを大きくする場合と、左回転のときに制動トルクを大きくする場合とがあっても、1種類の回転部材で対応することができ、回転部材を2種類用意する必要がない。代わりに弁部材を2種類用意することになるが、弁部材は回転部材に比して小型で形状が単純なため、弁部材の成形型は回転部材の成形型と比べると極めて安価であり、回転ダンパの製造コストを大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例1に係る回転ダンパの回転部材と弁部材を示す分解斜視図。
【図2】図1の回転ダンパの縦断面図であり、回転部材のみ正面図で示す図。
【図3】(a)、(b)、(c)は、それぞれ図2のA−A線、B−B線、C−C線、B−B線に沿った横断面図、(d)は弁部材の流体通路開放時におけるB−B線に沿った断面図。
【図4】弁部材を誤組付けしたときの回転部材の片側正面図であり弁部材を縦断面で示す図。
【図5】図4の回転部材と弁部材のD−D線に沿った断面図。
【図6】本発明の実施例2に係る回転部材の正面図であり弁部材を縦断面した図。。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ実施例2の弁部材が流体通路を閉塞した状態における図6のE−E線断面図、F−F線断面図。
【図8】(a)、(b)はそれぞれ実施例2の弁部材が流体通路を開放した状態における図7の(a)、(b)と同様の図。
【図9】実施例2の弁部材を誤組付けしたときの図4と同様の図。
【図10】実施例2の弁部材が流体通路を閉塞した状態における図7(a)と同様の図。
【図11】本発明の実施例3に係る回転ダンパの図2と同様の図。
【図12】(a)、(b)は、それぞれ実施例3の弁部材が流体通路を閉塞した状態における図11のH−H線、J−J線に沿った断面図。
【図13】実施例3の弁部材を誤組付けしたときの図4と同様の図。
【図14】図13の回転部材と弁部材のK−K線に沿った断面図。
【図15】本発明の実施例4に係る回転ダンパの回転部材の平面図。
【図16】本発明の実施例4に係る回転ダンパの図2と同様の図。
【図17】(a)、(b)は、それぞれ実施例4の弁部材が流体通路を開放した状態における図16のI−I線、M−M線に沿った断面図。
【図18】実施例4の弁部材を誤組付けしたときの図4と同様の図。
【図19】図18の回転部材と弁部材のN−N線に沿った断面図。
【図20】本発明の実施例1の第1変形例である実施例5に係る回転ダンパの回転部材の平面図。
【図21】図20の回転部材を収容した回転ダンパの図2と同様の縦断面図。
【図22】図21の回転ダンパの図3(a)と同様のO−O線に沿った横断面図。
【図23】本発明の実施例6とした実施例1の第1変形例における、弁部材を誤組付けしたときの図4と同様の図。
【図24】図23の回転部材と弁部材のP−P線に沿った断面図。
【図25】本発明の実施例1の第2変形例である実施例6に係る回転ダンパの回転部材の平面図。
【図26】図25の回転部材のQ−Q線に沿った横断面図。
【図27】図25の回転部材を収容した回転ダンパの図2と同様の縦断面図。
【図28】図27の回転ダンパの図3(a)と同様のR−R線に沿った横断面図。
【図29】本発明の実施例6とした実施例1の第2変形例における、弁部材を誤組付けしたときの図4と同様の図。
【図30】図29の回転部材と弁部材のS−S線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0013】
図1〜図5は、本発明の実施例1に係る回転ダンパを示す。図3の横断面図に示されるように、粘性流体が充填されたケーシング1と、該ケーシング1内に軸部7が挿入された回転部材10とからなり、ケーシング1は内周面に軸方向に沿って設けられ径方向内方に突設された凸壁1aを有する。図1から分るように、回転部材10は、ピアノ蓋等当該回転ダンパが取付けられる機器との連結部3、ケーシング1内からのオイル漏れ防止のためのシール材Rの取付け部5、ケーシング1内に収納される軸部7、軸部7の外周面に軸方向に沿って設けられケーシング1の内周面に向けて径方向外方に突出する羽根部9、ケーシング1の底壁の軸受部1bにより支持される軸端部11を有する。弁部材20は回転部材10の羽根部9の先端に取付けられて羽根部9の先端とケーシング1の内周面との間の流体通路Pにおける粘性流体Fの流れを制御する。
【0014】
図1に示される回転部材10の羽根部9には流体通路Pの一部をなす陥凹部91が形成されている。羽根部9の径方向先端はこの陥凹部91により軸方向一端部(図中右側)92の径方向先端92aと他端部(図中左側)93の径方向先端93aとに分かれている。図示例においては、他端部93の径方向先端93aにのみ該先端93aから軸部7の径方向外方に突出した凸部95が形成されている。これにより、羽根部9の先端92a,93aは軸方向の長さLを二等分する線分h−hに対して非対称の形状を有する。
【0015】
この図示例では凸部95は他端部93の径方向先端93aの長手方向ほぼ中央に且つ先端93aの全幅に亘り形成されているが、凸部95は他端部93の径方向先端93aの長手方向のいずれかに偏っていてもよい。要するに、羽根部9は、軸方向の一端部と他端部とで相異なり、軸方向の長さLを二等分する線分h−hに対して非対称の形状を有するように形成されていればよい。
【0016】
弁部材20は、回転部材10の羽根部9に取付けられた状態でケーシング1内に収納されたときにケーシング1の内周面と接する頂壁2と、軸部7の円周方向の一端側の垂下壁4a及び他端側の垂下壁4bを有し、この一端側の垂下壁4aは流体通路の他の一部をなす陥凹部6を有する。両垂下壁4a,4bの間は回転部材10の羽根部9が収まる溝12である。頂壁2の長手方向のいずれか一方の端部(図1、図2では左端)には弁部材20の幅方向中央に頂壁2を貫通する孔8が形成されている。
【0017】
図2に示すように、弁部材20に設けられた孔8は、弁部材20が正常な組付け方向に組付けられたときに、回転部材10の羽根部9の他端部側先端93に形成された凸部95を受容して、弁部材20を回転部材10と共にケーシング1内への収納を可能にする。また、孔8は、弁部材20の幅方向における寸法、即ち回転部材10の回転方向における寸法が、凸部95の羽根部9の幅方向における寸法、即ち回転部材10の回転方向における寸法よりも大きく形成されており、弁部材20が羽根部9に対して軸部7の円周方向に移動したとき、孔8がこの移動を妨げることはない。
【0018】
図3に示すように、弁部材20の両垂下壁4a,4b間の溝12は羽根部9を収納した状態で当該羽根部9と両垂下壁4a,4bとの間に隙間Sを有し、この隙間Sの存在により、図3(a)、(b)、(c)に示された位置と、図3(d)に示された位置との間の所定の範囲で、回転部材10の軸部7の円周方向に移動自在に羽根部9に取付けられる。この弁部材20の軸部7の円周方向への移動により、羽根部9の先端とケーシング1の内周面との間の流体通路Pにおける粘性流体Fの流れが制御される。
【0019】
即ち、図3(a)、(b)、(c)は、回転部材10がケーシング1に対して相対的に図中左方向に回転する間、弁部材20の陥凹部6を有さない垂壁4bが流体圧により羽根部9にほぼ密着した状態を示している。このとき、弁部材20の陥凹部6と羽根部9の陥凹部91とにより形成される流体通路Pは垂壁4bによりほぼ遮断されて粘性流体の流れが制限され、回転部材10には大きな制動トルクが作用する。一方、図3(d)は、回転部材10がケーシング1に対して相対的に図中右方向に回転して、弁部材20の陥凹部6を有する垂壁4aが流体圧により羽根部9に密着した状態を示している。このときは、垂壁4bと羽根部9との間には隙間Sができ、この隙間Sが弁部材20の陥凹部6及び羽根部9の陥凹部91と連通して流体通路Pが開放され、回転部材10に作用する制動トルクは小さい。
【0020】
図4と図5は、弁部材20が羽根部9に誤った組付け方向に組付けられた状態を示している。この状態では、弁部材20が、孔8のない長手方向端部が羽根部9の凸部95の上に位置するように組付けられているため、弁部材20は凸部95の上に乗っかっており、この状態で弁部材20を回転部材10と共にケーシング1内に収納することはできない。
【実施例2】
【0021】
図6〜10は、本発明の実施例2に係る回転ダンパを示す。実施例1に係る回転ダンパと同一の部材には同一の符号を使用する。
【0022】
図7〜図8に示されるように、回転部材30は、軸部37の外周面に軸方向に沿って径方向外方に突設された羽根部39を有し、該羽根部39は軸部37との連結部を除く径方向先端が円形断面を有するように形成されている。図6に示されるように、羽根部39の軸方向一端部側(図中右側)には何も設けられていないが、他端部側(図中左側)には径方向先端から軸部37の径方向外方に突出した凸部395が羽根部39の幅方向中央に形成されている。即ち、この実施例2においても、実施例1と同様に、羽根部39は、軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように軸方向の一端部と他端部の形状を異ならせて形成されている。
【0023】
再び図7〜図8を参照するに、弁部材40は、羽根部39に面した内面側に、羽根部39の径方向先端の丸い外面と合致する断面円形の凹部が長手方向に沿って形成されている。これにより弁部材40は、回転部材30のケーシング1に対する相対回転時に、粘性流体の作用により、断面円形の羽根部39の径方向先端周りに、即ち軸部37の円周方向に、所定の範囲で回動自在に羽根部39に取付けられている。図7(a)、(b)は、軸部47がケーシング1に対して相対的に左へ回転し、弁部材40がケーシング内周面との間の流体通路を遮断する位置にある状態を示し、図8(a)、(b)は、軸部47がケーシング1に対して相対的に右へ回転し、弁部材40がケーシング内周面との間の流体通路を開放する位置にある状態を示している。
【0024】
弁部材40の外面側は、羽根部39の一方の側(図中右側)に、流体抵抗が小さい丸い外面形状を呈し受圧面積の小さい丸壁部44aを有し、羽根部39の他方の側(図中左側)には大きな流体抵抗を受ける受圧面積の大きい平壁部44bを有する。また、弁部材40の外面側には更に、ケーシング1内に収納されたときにケーシング1の内周面と接する部位に、その長手方向のほぼ中央に長手方向に沿って、羽根部39の両側間の流体通路をなす陥凹部46を有する。また、弁部材40の長手方向のいずれか一方の端部(図示例では左端)には内外面を貫通する孔48が形成されている。
【0025】
図6に示すように、弁部材40に設けられた孔48は、弁部材40が正常な組付け方向に組付けられたときに、回転部材30の羽根部39の他端部側先端に形成された凸部395を受容して、弁部材40を回転部材30と共にケーシング1内への収納を可能にする。また、孔48は、弁部材40の幅方向における寸法、即ち回転部材30の回転方向における寸法が、凸部395の羽根部39の幅方向における寸法、即ち回転部材30の回転方向における寸法よりも大きく形成されている。このため、弁部材40が羽根部39に対して軸部37の円周方向に移動したとき、孔48がこの移動を妨げることはない。
【0026】
弁部材40は、このように構成されると共に、前述のように所定の範囲で回転部材30の軸部37の円周方向に移動自在に羽根部39に取付けられることにより、以下のように羽根部39の先端とケーシング1の内周面との間の粘性流体Fの流れを制御する。即ち、回転部材30が図7(a)、(b)中左方向に回転する間、弁部材40は平壁部44bが流体圧を受けて羽根部39の周りを右方向に回動して不図示のケーシングの内周面にほぼ密着し、弁部材20とケーシング内面との間の流体通路をほぼ遮断して粘性流体の流れを制限し、回転部材30には大きな制動トルクが作用する。一方、回転部材30が図8(a)、(b)中右方向に回転すると、弁部材40の丸壁部44aと不図示のケーシング内周面との間に粘性流体が入りこみ、弁部材40を羽根部39の周りを左方向に回動させる。このとき陥凹部46が弁部材40とケーシング内周面との間で羽根部材39の両側を連通することにより流体通路が開放され、回転部材10に作用する制動トルクは小さくなる。
【0027】
図9と図10は、弁部材40が羽根部39に誤った組付け方向に組付けられた状態を示している。この状態では、弁部材40が、孔48のない長手方向端部が羽根部39の凸部395の上に位置するように組付けられているため、弁部材40は凸部395の上に乗っかっており、この状態で弁部材40を回転部材30と共にケーシング1内に収納することはできない。
【実施例3】
【0028】
図11〜14は、本発明の実施例3に係る回転ダンパを示す。実施例1に係る回転ダンパと同一の部材には同一の符号を使用する。
【0029】
第3実施例に係る回転ダンパは実施例1に係る回転ダンパとほぼ同様に構成されている。即ち、回転部材50の羽根部59が流体通路の一部をなす陥凹部591を有し、羽根部59の径方向先端はこの陥凹部591により軸方向一端部側(図11では右側)の径方向先端592と他端部側(図11中左側)の径方向先端593とに分かれている。この第3実施例の回転部材50の羽根部59が実施例1と異なるのは、図示例における他端部側(図11中左側)の径方向先端593が一端部側(図11中右側)の径方向先端592と比較して肉厚に形成され、軸部57の円周方向の両方向に向けて左右対称に突出した凸部595、595’を有することである。即ち、羽根部59は軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように軸方向の一端部と他端部の形状を異ならせて形成されている。
【0030】
弁部材60も実施例1とほぼ同様に形成されている。即ち、図12(b)に示されるように、弁部材60は、ケーシング1内に収納されたときにケーシング1の内周面と接する頂壁62と、軸部57の円周方向の一端側の垂壁64a及び他端側の垂壁64bを有し、両垂下壁64a,64bの間は回転部材50の羽根部59が収まる溝68である。この円周方向一端側の垂下壁64aは流体通路の他の一部をなす陥凹部66を有する。実施例1と異なるのは、羽根部59の凸部595、595’に対応する頂壁62の長手方向端部(図11では左端)の溝68の幅が、肉厚の凸部595、595’を収納することができるように、反対側の端部(図11では右端)の通常の幅と比べて広く形成されていることである。
【0031】
図11及び図12に示されるように、弁部材60は回転部材50の羽根部59に正常な組付け方向に組付けられたときに、溝68が羽根部59の他端部側径方向先端593に形成された凸部595、595’を受容して、弁部材60を回転部材50と共にケーシング1内への収納を可能にする。また、溝68は、弁部材60の幅方向における寸法、即ち回転部材50の回転方向における寸法が、凸部595、595’の羽根部59の幅方向における寸法、即ち回転部材50の回転方向における寸法よりも大きく形成されている。このため、弁部材60が羽根部59に対して軸部57の円周方向に移動したとき、溝68がこの移動を妨げることはない。
【0032】
弁部材60はこのように構成され、実施例1と同様に所定の範囲で回転部材50の軸部57の円周方向に移動自在に羽根部59に取付けられて、羽根部59の先端とケーシング1の内周面との間の粘性流体Fの流れを制御する。
【0033】
図13と図14は、弁部材60が羽根部59に誤った組付け方向に組付けられた状態を示している。この状態では、弁部材60が、溝68の通常幅を有する長手方向端部が羽根部59の肉厚の円周方向凸部595、595’の上に位置するように組付けられているため、図14に示されるように、弁部材60は凸部595、595’の上に乗っかっており、この状態で弁部材60を回転部材50と共にケーシング1内に収納することはできない。
【実施例4】
【0034】
図15〜19は、本発明の実施例4に係る回転ダンパを示す。実施例1に係る回転ダンパと同一の部材には同一の符号を使用する。
【0035】
実施例4に係る回転ダンパは実施例3に係る回転ダンパとほぼ同様に構成されている。即ち、図15及び図16に示されるように、回転部材70の羽根部79が流体通路の一部をなす陥凹部791を有し、羽根部79の径方向先端はこの陥凹部791により軸方向一端部側(図15、図16では右側)の径方向先端792と他端部側(図11中左側)の径方向先端793とに分かれている。
【0036】
この実施例4の回転部材70の羽根部79が実施例3と異なるのは、図示例における一端部側(図15、図16中右側)の径方向先端792が、図15の平面視で、図中右の端部から左に末広がりに狭い幅の台形状に形成され、他端部側(図15、図16中左側)の径方向先端793は、図15の平面視で、一端部側(図15、図16中右側)から末広がりに広い幅の台形状に形成されていることである。即ち、他端部側(図15、図16中左側)の径方向先端793は、平面視で、幅の狭い台形状の一端部側(図15、図16中右側)の径方向先端792と比較して、幅広に形成されて軸部77の円周方向の両方向に向けて左右対称に突出した円周方向凸部795、795’を有する。
【0037】
弁部材80も実施例3とほぼ同様に形成されている。即ち、図17(b)に示されるように、弁部材80は、ケーシング1内に収納されたときにケーシング1の内周面と接する頂壁82と、軸部77の円周方向の一端側の垂壁84a及び他端側の垂壁84bを有し、両垂下壁84a,84bの間は回転部材70の羽根部79が収まる溝88である。この円周方向一端側の垂下壁84aは流体通路の他の一部をなす陥凹部86を有する。また、羽根部759の凸部795、795’に対応する頂壁82の長手方向端部(図15、図16では左端)の溝88の幅も、実施例3とほぼ同様に、幅広の凸部795、795’を収納することができるように、反対側の幅の狭い端部(図15、図16では右端)と比べて広く形成されていることである。
【0038】
図16及び図17に示されるように、弁部材80は回転部材70の羽根部79に正常な組付け方向に組付けられたときに、溝88が羽根部79の他端部側の径方向先端793に形成された凸部795、795’を受容して、弁部材80を回転部材70と共にケーシング1内への収納を可能にする。
【0039】
弁部材80はこのように構成され、実施例1及び実施例3と同様に、所定の範囲で回転部材70の軸部77の円周方向に移動自在に羽根部79に取付けられて、羽根部79の径方向先端とケーシング1の内周面との間の粘性流体Fの流れを制御する。
【0040】
図18と図19は、弁部材80が羽根部79に誤った組付け方向に組付けられた状態を示している。この状態では、弁部材80が、溝88の幅の狭い長手方向端部が羽根部79の幅広の円周方向凸部795、795’の上に位置するように組付けられているため、図19に示されるように、弁部材80は凸部795、795’の上に乗っかっており、この状態で弁部材80を回転部材70と共にケーシング1内に収納することはできない。
【実施例5】
【0041】
図20〜24は、本発明の実施例1の第1変更例に係る回転ダンパを実施例5として示す。実施例1に係る回転ダンパと同一の部材には同一の符号を使用する。
【0042】
この実施例5とした実施例1の第1変更例は、実施例1の回転部材10の羽根部9に関するものである。羽根部9は実施例1について説明したように、軸方向中央の陥凹部91により軸方向の一端部92(図中右側)の径方向先端92aと他端部93(図中左側)の径方向先端93aとに分かれている。第1変更例においては、他端部93の径方向先端93aに軸部7の径方向外方に突出した凸部95´が、幅方向の片側、図示例では上側に偏らせて形成されており、他端部の径方向先端93aの全幅に亘り形成されていない点が実施例1と異なるところである。しかし、このような凸部95´の配置も羽根部9の先端の形状としては、軸方向の長さLを二等分する線分h−hに対して非対称の形状を有することには変わりがない。
【0043】
この図示例では、凸部95´は他端部93の径方向先端93aにおいて長手方向ほぼ中央に設けられているが、長手方向のいずれかに偏っていてもよい。要するに、羽根部9は、軸方向の長さLを二等分する線分h−hに対して非対称の形状を有するように軸方向の一端部と他端部の形状を異ならせて形成されていればよい。
【0044】
第1変更例の弁部材20は実施例1の弁部材20とほぼ同じに形成されている。弁部材20の軸部7の円周方向への移動により、羽根部9の径方向先端とケーシング1の内周面1cとの間の流体通路Pにおける粘性流体Fの流れが制御される点についても実施例1の流体制御と同じであるため、それらについての詳しい説明は省略する。
【0045】
図23と図24は、弁部材20が羽根部9に誤った組付け方向に組付けられた状態を示している。この状態では、弁部材20が、孔8のない長手方向端部が羽根部9の軸方向他端部93の凸部95´の上に位置するように組付けられているため、弁部材20は凸部95´の上に乗っかっており、この状態で弁部材20を回転部材10と共にケーシング1内に収納することはできない。
【実施例6】
【0046】
図25〜29は、本発明の実施例1の第2変更例に係る回転ダンパを実施例6として示す。実施例1に係る回転ダンパと同一の部材には同一の符号を使用する。
【0047】
この実施例6とした実施例1の第2変更例も、実施例1の回転部材10の羽根部9に関するものである。第2変更例の回転部材110の羽根部109は、実施例1と異なり、軸方向両端にケーシング1の内周面1cと接する位置まで軸部材107の径方向に伸延した伸延部197,199を有し、この軸方向両端の伸延部197,199が弁部材20により覆われることはなく、ケーシング1の内周面1cと弁部材20を介さずに直に接する。これら伸延部197,199は図26に示すように横断面形状は先端197aにかけて末広がりの扇形状をしている。
【0048】
羽根部109の軸方向両端の伸延部197,199より内側の部分は実施例1と全く同様に形成されている。即ち、羽根部109の径方向先端部分は中央の陥凹部191により軸方向の一端部192(図中右側)と他端部193(図中左側)とに分断されている。他端部193の径方向先端193aに軸部107の径方向外方に突出した凸部195が他端部の径方向先端193aの全幅に亘り形成されている。このような凸部195の配置も羽根部109の径方向先端の形状としては、軸方向の長さLを二等分する線分h−hに対して非対称の形状を有することには変わりがない。
【0049】
第2変更例の弁部材20は実施例1の弁部材20とほぼ同じに形成されている。羽根部109が軸方向両端の伸延部197,199が設けられている部分を除くと実施例1の羽根部9と同じ形状をしているからである。したがって、弁部材20は羽根部109の軸方向両端の伸延部197,199より内側の部分に被せるように取り付けられる。軸部107がケーシング1に対して相対回転すると、実施例1に関して説明したように、弁部材20が軸部107の円周方向への移動し、羽根部9の径方向先端とケーシング1の内周面1cとの間の流体通路Pにおける粘性流体Fの流れを弁部材20が移動して制御する。
【0050】
図29と図30は、弁部材20が羽根部109に誤った組付け方向に組付けられた状態を示している。この状態では、弁部材20が、孔8のない長手方向端部が羽根部109の軸方向他端部193の凸部195の上に位置するように組付けられているため、弁部材20は凸部195の上に乗っかっており、この状態で弁部材20を回転部材110と共にケーシング1内に収納することはできない。
【符号の説明】
【0051】
1 …ケーシング
2,62,82 …弁部材の頂壁
3 …回転部材の他機器との連結部
4a/4b,64a/64b,84a/84b …弁部材の垂下壁
6,46,66,86 …弁部材の陥凹部
7,37,57,77,107 …回転部材の軸部
8,48 …弁部材の孔
68,88 …弁部材の溝
9,39,59,79,109 …回転部材の羽根部
10,30,50,70,110…回転部材
20,40,60,80 …弁部材
91,191,391,591,791 …羽根部
92,192,392,592,792 …羽根部の長手方向一端部
93,193,393,593,793 …羽根部の長手方向他端部
95,95´,195,395 …羽根部の径方向凸部
595/595’,795/795’ …羽根部の両周方向凸部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体が充填されたケーシングと、該ケーシング内に一部が挿入された回転部材とからなり、前記ケーシングは内周面に軸方向に沿って設けられ径方向内方に突設された凸壁を有し、前記回転部材はケーシング内に挿入された軸部の外周面に軸方向に沿って設けられ径方向外方に突設された羽根部を有し、該羽根部の先端には弁部材が装着され、該弁部材により、前記軸部がケーシングに対して一方向に相対回転したときの制動トルクを大きく、他方向に相対回転したときの制動トルクを小さくするように、前記羽根部の先端と前記ケーシングの内周面との間の流体通路における粘性流体の流れが制御される回転ダンパにおいて、
前記弁部材を、前記羽根部の先端に前記軸部の円周方向に所定の範囲で前記羽根部に対して相対移動自在に設け、
前記羽根部を軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成し、
前記弁部材は、前記羽根部に正常な組付け方向に組付けられたときにのみ、前記羽根部の先端を受容して前記軸部の円周方向への前記所定の範囲での前記羽根部に対する相対移動が許容される形状に形成することを特徴とする回転ダンパ。
【請求項2】
前記羽根部を軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成する構成は、前記軸部の径方向への凹凸形状を、前記羽根部の軸方向の長さを二等分する線分に対して一方の側と他方の側とで異ならせる構成であることを特徴とする請求項1に記載の回転ダンパ。
【請求項3】
前記羽根部を軸方向の長さを二等分する線分に対して非対称の形状を有するように形成する構成は、該羽根部の左右幅方向に対称に設けた前記軸部の円周方向への凹凸形状を、前記羽根部の軸方向の長さを二等分する線分に対して一方の側と他方の側とで異ならせた構成であることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転ダンパ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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