説明

回転伝達装置およびこれを用いたシート材穿孔装置

【課題】 ラチェット機構を適用した回転伝達装置の歯跳びの問題が解決できる簡易な機械的構造でなる回転伝達装置、およびこれを用いたシート材穿孔装置を提供する。
【解決手段】 回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段とを有し、前記駆動歯車と前記従動歯車には前記回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されており、一方向の回転では前記歯により前記従動歯車が前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記従動歯車が前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動される回転伝達装置であって、所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段を有する回転伝達装置である。これを用いたシート材穿孔装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同軸上に配置され軸方向に対向して歯が形成された歯車により回転力を伝達する回転伝達装置に関し、および、複写機、プリンタ、ファクシミリ、これら複合機器などの画像形成装置の本体に、あるいは印刷機に搭載され、シート材に対して例えば2孔を穿孔するか、4孔を穿孔するかの切替を前記回転伝達装置を用いて可能としたシート材穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、同軸上に配置され軸方向に対向して歯が形成された歯車により回転力を伝達する対向歯式の回転伝達機構は周知である。例えば特許文献1には、マイクロメータにおいて、同軸上において対向する鋸歯状突起が形成された回転伝達リングの係合または離間の動作を用い、所定圧力に達するまで前記鋸歯状突起が係合して回転伝達でき、所定圧力に達した後は前記鋸歯状突起が離間して回転伝達できないようにする、対向歯式のラチェット機構を適用した定圧機構が開示される。
【0003】
本出願人は、上述した対向歯式の回転伝達機構を適用し、パンチ機構部A、Bを有し、シート材に対して例えば2孔を穿孔するか、4孔を穿孔するかの切替を可能としたシート材穿孔装置に係る発明を出願した(特許文献2)。具体的には、図1に示すように、回転軸142と、回転軸142に設けられた駆動歯車143と、回転軸142に回転自在かつ回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車144と、従動歯車144を駆動歯車143に向かって付勢する付勢手段141Aとを有し、駆動歯車143と従動歯車144には回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯143A、144Aが形成されており、一方向の回転では歯143A、144Aにより従動歯車144が駆動歯車143に対して噛み合い、他方向の回転では歯143A、144Aの傾斜により従動歯車144が駆動歯車143から回転軸142上を離間移動される、回転伝達装置を構成した。
【0004】
そして、該回転伝達装置の駆動歯車143および従動歯車144の外周部に形成された歯筋143a、144aに対し、連結歯車4A、4Bを介して2組のパンチ機構部A、Bが連結される。具体的には、従動歯車144には連結歯車4Aを介してパンチ機構部Aが、駆動歯車143には連結歯車4Bを介してパンチ機構部Bが連結される。この構成により、回転軸142の一方向の回転では従動歯車144が駆動歯車143に対して噛み合ってパンチ機構部A、Bを同時駆動でき、他方向の回転では従動歯車144が駆動歯車143から離間移動されてパンチ機構部Aは駆動されずにパンチ機構部Bのみを片側駆動できる。したがって、パンチ機構部A、Bそれぞれに2個のパンチを具備することで、シート材に対して例えば2孔を穿孔するか、4孔を穿孔するかを切替可能なシート材穿孔装置となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−287602号
【特許文献2】特願2010−199945号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した回転伝達装置を用いたシート材穿孔装置では、駆動歯車143に対して従動歯車144を噛み合わせてパンチ機構部A、Bを同時駆動すると、所定の待機位置にあったパンチ機構部A、Bは、シート材穿孔位置を経て再び所定の待機位置へ停止することになる。このとき、パンチ機構部Bは、所定の駆動トルクで回転される駆動歯車143側に連結されているため、一連の動作を高速で行った場合であっても特に問題を生じることはない。ところが、駆動歯車143が噛み合うことで回転されていた従動歯車144は、一連の動作が高速になった場合、パンチ機構部A側に生じる慣性力により駆動歯車143よりも回転が先行してしまう可能性があった。
【0007】
仮に、従動歯車144の回転が例えば慣性により駆動歯車143よりも先行するようになると、従動歯車144の歯144Aが駆動歯車143の歯143Aを乗り越して歯跳びを生じてしまい、ラチェット機構としての機能が損なわれることになる。こうなると、パンチ機構部A、Bの相対的な位置関係がずれてしまい、パンチ機構部A、Bのどちらか一方が所定の待機位置に停止されなくなってしまう。
また、一連の動作中、何らかの原因によりパンチ機構部Aが異常停止すると、ラチェット機構の特性上、パンチ機構部Aの所定の待機位置への復帰を駆動歯車143の逆回転によって行うことはできない。
【0008】
本発明の目的は、上述した回転伝達装置におけるラチェット機構の歯跳びの問題が解決できる簡易な機械的構造でなる回転伝達装置を提供し、および該回転伝達装置を用いたシート材穿孔装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した回転伝達装置における問題に鑑みて、従動歯車の駆動歯車からの離間移動を所定期間において阻止する移動制限手段を設けることで、上述した従動歯車の過回転による歯跳び現象を阻止できることを見出し本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明の回転伝達装置は、回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段とを有し、前記駆動歯車と前記従動歯車には前記回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されており、一方向の回転では前記歯により前記従動歯車が前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記従動歯車が前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動される回転伝達装置であって、所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段を有する、回転伝達装置である。
【0011】
本発明においては、前記従動歯車は歯筋が形成された外周部を有し、該外周部の歯筋に対して噛み合い可能な連結歯車を有することができる。
【0012】
また、前記連結歯車は外周に部分的に切り欠きが形成された回転板を自らの軸に有し、該回転板を前記移動制限手段として、前記切り欠きに対応する前記連結歯車の回転角度範囲外においては前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止し、前記連結歯車の回転角度範囲内においては前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を可能とすることができる。
【0013】
上述した本発明の回転伝達装置を用い、穿孔数の切り替えが可能な本発明のシート材穿孔装置を得ることができる。
すなわち本発明のシート材穿孔装置は、回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段と、所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段とを有し、前記駆動歯車と前記従動歯車には前記回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されており、一方向の回転では前記歯により前記従動歯車が前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記従動歯車が前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動される回転伝達装置を備えており、前記従動歯車にパンチ機構部Aが連結され、前記駆動歯車にパンチ機構部Bが連結され、前記回転伝達装置における一方向の回転により前記パンチ機構部A、Bが同時駆動され、他方向の回転により前記パンチ機構部Aが駆動される、シート材穿孔装置である。
【0014】
本発明においては、前記パンチ機構部A、Bそれぞれに2個のパンチを具備し、かつ前記パンチ機構部Aのパンチを両端側に配置し、前記パンチ機構部A、Bの同時駆動により4孔を、前記パンチ機構部Aの片側駆動により2孔の穿孔を可能とする、シート材穿孔装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の回転伝達装置は、所定期間においては回転伝達が確実となり、かつ不要な離間移動が防止される。これにより、従動歯車の歯が駆動歯車の歯に乗り上げて生じる上述したラチェット機構の歯跳びの問題が解決できる。
【0016】
本発明の回転伝達装置を上述したパンチ機構部A、Bを有するシート材穿孔装置に適用することで、パンチ機構部A、Bの同時駆動中の、もしくはパンチ機構部Bのみの片側駆動中の、上述したラチェット機構の歯跳びが確実に防止されたシート材穿孔装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】特許文献2に記載する回転伝達装置の一構成を示す図である。
【図2】本発明の回転伝達装置における移動制限手段の構成例の模式図である。
【図3】本発明の回転伝達装置となる一構成を模式的に示す図である。
【図4】図3に示す駆動歯車と従動歯車の噛み合い部分を拡大した図である。
【図5】本発明のシート材穿孔装置となる一構成の平面図と正面図である。
【図6】2組のパンチ機構部A、Bを待機位置から同時駆動してシート材に4孔を穿孔した状態を示す図である。
【図7】パンチ機構部Bを待機位置から駆動してシート材に2孔を穿孔した状態を図4(b)と反対方向の視点から示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の回転伝達装置における重要な特徴は、基本構成として、回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段とを具備する回転伝達装置において、所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段を設けたことである。
【0019】
まず、上述の基本構成における各要素について説明する。
回転軸は、駆動源に対して連結し、駆動源の駆動方向の切替に対応して双方向に回転可能な構成を有する機械的構成である。したがって、回転軸は、例えば、駆動源がモータなどの回転駆動源であれば、その回転運動をギヤなどの機械要素を有して自らの回転運動にできる軸構成であればよい。また、駆動源がシリンダなどの直線駆動源であれば、その直線運動をラックピニオンやクランクなどの機械的機構を有して自らの回転運動にできる軸構成であればよい。
【0020】
駆動歯車は、前記回転軸に対して固定的に設けられる歯車であり、該回転軸と一体に形成されていてもよく、該回転軸と同じ回転軸心を有して双方向に回転可能に構成される。駆動歯車には、回転軸方向に対向して従動歯車と噛み合い可能で、かつ従動歯車との間でラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されている。そして、該歯は、従動歯車と連結する回転方向において前側となる前歯面および後側となる後歯面とで形成することができる。前記傾斜は後歯面を含む平面と駆動歯車の回転中心と直行する平面とでなす角度に対応し、該角度は噛み合い角度をもたせるために20度以上とし、乗り上げ時の付勢手段からの付勢力を過剰に増大させないために50度以下とすることが望ましい。また、前歯面を含む平面と駆動歯車の回転中心と直行する平面とでなす傾斜角は、該傾斜角が小さくなるに連れて伝達効率が低下するため、70〜110度であることが望ましい。
【0021】
前記歯の傾斜角は、70度以上であれば90度からの角度差分で生じる歯面間の滑りが低減して効率のよい回転伝達が可能となり、110度以下であれば歯先の肉厚が確保できて歯先が欠損するようなことがない。この傾斜角は、理想的には90度近傍がよく、互いの歯の接触摩擦による影響がなくなって高効率の回転伝達が可能となる。
【0022】
従動歯車は、自らが駆動歯車に対して連結したときに駆動歯車の回転運動を自らの回転運動として受けることができる構成を有する歯車である。従動歯車は、駆動歯車に形成されている歯に対応する歯を有しており、回転軸の一方向の回転では前記歯により前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動することができる。
【0023】
こうした駆動歯車と従動歯車の特殊な連結関係は、例えば、駆動歯車には回転軸心の周りに円環状に複数の歯を形成し、従動歯車には駆動歯車の歯形状に対応するように歯を形成することにより、回転軸の一方向の回転で噛み合って接触する歯面間で、駆動歯車から従動歯車への回転伝達を可能とする構成にできる。加えて、上述した傾斜を備えて互いの歯を形成することにより、回転軸の他方向の回転では駆動歯車の歯が従動歯車の歯を乗り越えることができて互いの歯が噛み合うことがないため、ラチェット機構を発現させることができる。
【0024】
付勢手段は、従動歯車を駆動歯車に向かって付勢する手段であり、例えばコイルバネや板バネといった弾性体の反発力を利用して回転軸方向への付勢を可能とする構成が簡便である。この付勢手段により、従動歯車は、駆動歯車からの離間移動が阻止される方向に常時付勢され、駆動歯車に対して常時噛み合う状態になっている。このため、従動歯車と駆動歯車との間でラチェット機構の非回転状態が発現される場合、従動歯車が付勢手段による付勢力に抗して回転軸上を離間移動することで駆動歯車との噛み合いを解消することになる。したがって、前記非回転状態の発現を所望する場合、付勢手段において付勢力は、駆動歯車の回転により該駆動歯車の歯が従動歯車の歯を乗り越えられるように設定される。
【0025】
次に、本発明の特徴となる従動歯車に係る前記移動制限手段について説明する。
本発明において、前記移動制限手段は、所定期間において、前記付勢手段のように従動歯車を駆動歯車に向かって付勢するよりもむしろ、従動歯車の回転軸上の離間移動を阻止するための機能を有する手段であり、従動歯車の駆動歯車からの離間移動をより確実に阻止するための手段である。
【0026】
すなわち、前記移動制限手段の適用により、所定期間においては前記付勢手段のみに拠る構成よりも従動歯車の駆動歯車に対する噛み合いをより確実にでき、駆動歯車の回転を従動歯車に対してより確実に伝達できる。また、所定期間外においては、回転方向に従う通常のラチェット機構の機能、例えば、従動歯車の駆動歯車からの離間移動を許容して回転伝達を妨げるか、従動歯車の駆動歯車との噛み合い状態を許容して回転伝達を可能にするか、といった機能を発現することができる。
【0027】
ここで、上述した移動制限手段に適用可能な構成例を挙げて説明しておく。
図2(a)は、外周の一部に切欠き60bを形成した回転板60であって、軸61により矢印で示す方向に回転可能に軸支されている。なお、回転板60の回転機構は適宜構成すればよく、ここでは詳細を略す。また、従動歯車44に関し、図の奥方向が付勢方向となり、手前方向が離間方向となる。
【0028】
該回転板60は、回転される切欠き60bの位置と従動歯車44の後端部44sとの位置関係が重要となる。具体的には、回転軸42上で付勢手段(図示せず)により付勢されて駆動歯車(図示せず)と噛み合う位置にある従動歯車44の後端部44sに対して外周部60aが当接されるように、かつ、回転板60の回転により切欠き60bが従動歯車44の後端部44sの位置に達した場合には、駆動歯車から離間移動した従動歯車44の後端部44sに対して切欠き40bの辺縁が当接されないように、回転板60を配置しておく。
【0029】
さらに、回転板60の1回転を全期間とし、切欠き60bのない外周部60aが従動歯車44の後端部44sに対して当接する間を所定期間に、切欠き60bが従動歯車44の後端部44sに位置する間を所定期間外に対応させておく。このように構成した回転板60であれば、1回転する間に、所定期間に対応する回転板60の外周部60aにおいて従動歯車44の回転軸42上の離間移動を阻止する前記移動制限手段としての機能を発現させることができる。
【0030】
また、図2(b)は、桿状の腕をもつレバー65であって、軸66を支点として矢印で示すように揺動可能に軸支されている。なお、レバー65の揺動機構は適宜構成すればよく、ここでは詳細を略す。また、従動歯車44に関し、図の奥方向が付勢方向となり、手前方向が離間方向となる。
【0031】
該レバー65は、揺動による停止位置と従動歯車44の後端部44sとの位置関係が重要となる。具体的には、回転軸42上で付勢手段(図示せず)により付勢されて駆動歯車(図示せず)と噛み合う位置にある従動歯車44の後端部44sに対し、レバー65が一方の揺動による停止位置で当接されるように、かつ、他方の揺動による停止位置で当接されないように、レバー65を配置しておく。このように構成されたレバー65であれば、レバー65を一方の揺動による停止位置に保持する間を所定期間に対応させておくことにより、従動歯車44の回転軸42上の離間移動を阻止する前記移動制限手段としての機能を発現させることができる。
【0032】
また、図2(c)は、矢印で示すように回転軸42方向に往復動可能に構成されたピン68である。なお、ピン68の往復動機構は適宜構成すればよく、ここでは詳細を略す。なお、従動歯車44に関し、図の右方向が付勢方向となり、左方向が離間方向となる。
【0033】
該ピン68は、往復動による停止位置と従動歯車44の後端部44sとの位置関係が重要となる。具体的には、回転軸42上で付勢手段(図示せず)により付勢されて駆動歯車(図示せず)と噛み合う位置にある従動歯車44の後端部44sに対し、ピン68が往動(図中においては前進)による停止位置で当接されるように、かつ、復動(図中においては後進)による停止位置で当接されないように、ピン68を配置しておく。このように構成されたピン68であれば、ピン68を往動による停止位置に保持する間を所定期間に対応させておくことにより、従動歯車44の回転軸42上の離間移動を阻止する前記移動制限手段としての機能を発現させることができる。
【0034】
本発明の回転伝達装置を、図2(a)に示す外周の一部に切欠き60bを形成した円板60を適用し、具体的に構成した一例を図3、図4に示す。
図3に示す回転伝達装置は、回転軸42と、該回転軸42に設けられた駆動歯車43と、回転軸42に回転自在かつ回転軸42方向に移動可能に設けられた従動歯車44と、該従動歯車44を駆動歯車43に向かって付勢する付勢手段となるバネ41Aとを有する。また、駆動源であるモータ9は両端がフレーム8に固設され、モータ9の出力軸に固設されたギヤ10が、軸73に軸支されたギヤを介し、1本の回転軸42の一端に固設されたギヤ72に連結される。
【0035】
駆動歯車43は、回転軸42方向に突出する歯43Aを有し、モータ9の駆動方向の切替に対応して双方向に回転可能になっている。また、従動歯車44は、駆動歯車43の歯43Aに対して噛み合い可能に回転軸42方向に突出して形成された歯44Aを有し、バネ41Aの弾性力により駆動歯車43側に向かって付勢される。これらの歯43A、44Aは、図4に示すように、回転軸42を中心として円環状に複数形成されており、駆動歯車43の歯43Aは、従動歯車44が連結可能な回転方向において前側となる前歯面43Aaおよび後側となる後歯面43Abが主たる2面となる歯形状を有する。
【0036】
さらに、歯43Aにおいて、主たる2面がなす歯先の向きに係る傾斜、すなわち前歯面43Aaを含む平面と駆動歯車43の回転中心となる回転軸42が直交する平面とでなす傾斜角は90度に形成され、同様に後歯面43Abを含む平面がなす傾斜角は60度に形成される。また、従動歯車44の歯44Aにおいても同様に、歯面44Aa、44Abに係る傾斜角は駆動歯車43の歯43Aに対応して形成される。
【0037】
また、駆動歯車43および従動歯車44の外周部には歯筋43a、44aが形成され、各々の歯筋43a、44aは軸12A、12Bに軸支された連結歯車4A、4Bに対して噛み合い連結される。そして、連結歯車4A、4Bには、軸12A、12Bから半径方向に所定量離間された位置に、連接アーム6A、6Bが連結された駆動ピン13A、13Bが設けてある。したがって、駆動歯車43の回転により連結歯車4Aが回転され、従動歯車44の回転により連結歯車4Bが回転され、これら連結歯車4A、4Bの回転によりクランク機構が発現されて連接アーム6A、6Bは直動しながらも揺動する運動を行うことができる。
【0038】
駆動歯車43が静止状態にある場合、図3、図4に示すように互いの歯43A、44Aが、バネ41Aの弾性力により見掛け上は噛み合った状態にある。この状態からモータ9を一方または他方へ回転すると、モータ9の回転はギヤ10、71、72を介して回転軸42へ伝達され、さらに回転軸42に設けられた駆動歯車43に対して一方または他方への回転として伝達される。
【0039】
一方の回転により駆動歯車43が実線で示す矢印方向に回転した場合、駆動歯車43の歯43Aは対応する従動歯車44の歯44Aとの接触を強める方向に挙動し、互いの歯43A、44Aの歯面間の圧接力が増して噛み合いがより強固となる。したがって、駆動歯車43の実線で示す矢印方向への回転が従動歯車44に対して伝達され、さらに従動歯車44の回転により連結歯車4Bに対して回転が伝達される。この場合、駆動歯車43および従動歯車44が同時駆動するため、回転伝達される連結歯車4A、4Bもまた同時駆動することとなる。
【0040】
また、他方の回転により駆動歯車43が破線で示す矢印方向に回転した場合、駆動歯車43の歯43Aは対応する従動歯車44の歯44Aから離間する方向に挙動し、終には互いの歯43A、44Aに傾斜を有するために駆動歯車43の歯43Aが従動歯車44の歯44Aに乗り上げて乗り越すこととなる。したがって、互いの歯43A、44Aの噛み合いが解消されて、駆動歯車43の破線で示す矢印方向への回転が従動歯車44に対して伝達されず、当然ながら連結歯車4Bに対しても回転が伝達されない。すなわち、一方の回転伝達を可能とし他方の回転伝達を不可能とするラチェット機構が発現される。
【0041】
上述の回転伝達を可能とする回転伝達装置に対し、本発明の特徴となる従動歯車44の移動制限手段として、連結歯車4Aの軸12Aに対して図2(a)に示す外周に部分的に切欠き60bが形成された回転板60を設け、該回転板60の1回転を連結歯車4Aの1回転に対応させている。なお、軸12Aが図2(a)に示す軸61に対応する。
【0042】
図3に示す連結歯車4Aの1回転が連接アーム6A側の1動作に対応するクランク機構においては、例えば連接アーム6A側を確実に動作させたい場合はこの間を所定期間と考えて、回転板60の外周部60aが従動歯車44の後端部44sに対して当接できるように回転板60を配置することで、本発明の作用効果が得られる。つまり、この構成により、連接アーム6A側が動作状態にある間は、連結歯車4Aに同期回転する回転板60の外周部60aが従動歯車44の後端部44sに当接し、従動歯車44の回転軸42上の離間移動が阻止されて従動歯車44の噛み合いが維持される。したがって、連結歯車4Aの回転が維持されるため、連接アーム6A側の動作を確実にできる。
【0043】
また、例えば連接アーム6A側を動作させずに静止状態を維持したい待機位置にある場合などでは、前記所定期間外としておけばよい。具体的には、回転板60の切欠き60bが従動歯車44の後端部44sの位置となるように回転板60を配置すればよい。この構成により、連接アーム6A側が静止状態にある間は、これに連結する連結歯車4Aも回転していないため、回転板60の外周部60aが従動歯車44の後端部44sに当接することがなく、従動歯車44の駆動歯車43からの離間移動を妨げない状態が維持される。したがって、この状態で駆動歯車43が従動歯車44との噛み合いを解消する方向に回転すると、従動歯車44が回転軸42上を離間移動できて連結歯車4Aに対して回転伝達されないため、連接アーム6A側の動作を起動することがない。
【0044】
以上より、本発明の回転伝達装置によれば、駆動歯車に噛み合って回転する従動歯車は移動制限手段によって回転軸上の離間移動が物理的に阻止されているため、たとえ回転中に慣性力などの負荷変動が作用したとしても、従動歯車の歯が駆動歯車の歯を乗り越すような歯跳びを生じることがない。また、何らかの原因により回転中に従動歯車に連結する上述の連結歯車4Aや連接アーム6Aなどが異常停止した場合であっても、従動歯車と駆動歯車の噛み合いが維持されているため、駆動歯車の逆回転により従動歯車を回転して異常停止からの復帰を行うことが可能となる。
【0045】
上述した本発明の回転伝達装置を用い、穿孔数の切り替えが可能な本発明のシート材穿孔装置を得ることができる。
具体的には、回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段と、所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段とを有し、前記駆動歯車と前記従動歯車には前記回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されており、一方向の回転では前記歯により前記従動歯車が前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記従動歯車が前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動される、上述した本発明の回転伝達装置を備える。
【0046】
その上で、2つのパンチ機構部A、Bを具備し、前記従動歯車にパンチ機構部Aが連結され、前記駆動歯車にパンチ機構部Bが連結され、前記回転伝達装置における一方向の回転により前記パンチ機構部A、Bが同時駆動され、他方向の回転により前記パンチ機構部Bが駆動される構成とすることで、シート材穿孔装置を得ることができる。
【0047】
回転伝達装置側の駆動歯車および従動歯車に対するパンチ機構部A、Bの連結は、駆動歯車および従動歯車の外周部に対して歯筋を設け、各々の歯筋に連結する連結歯車を設け、さらに該連結歯車の1回転をパンチ機構部A、Bの1動作に対応させるクランク機構を具備する構成が望ましい。これにより、図1を示して説明した本発明の一例となる回転板を適用し、簡易な構成でなる従動歯車の前記移動制限手段を構成できる。
【0048】
上述の構成を有した上で、例えば、前記パンチ機構部A、Bそれぞれに2個のパンチを具備し、かつ前記パンチ機構部Aのパンチを両端側に配置し、前記パンチ機構部A、Bの同時駆動により4孔を、前記パンチ機構部Aの片側駆動により2孔の穿孔を可能とする、2孔と4孔の穿孔数切替機構を有するシート材穿孔装置を得ることができる。このような構成でなるシート材穿孔装置はレシプロ式と称され、複写用紙等を使用する複写機やその後処理装置などの事務機器への搭載は特に好適となる。また、穿孔対象となるシート材は、シート状の形態を有する各種のシート材であってよく、例えば、紙、樹脂、食品、木材、金属、セラミックス、あるいはこれらの複合材等でなるものに適用可能である。
【0049】
以下、本発明のシート材穿孔装置につき、シート材に対して2孔または4孔の穿孔切替を可能とする構成例を挙げて、説明する。
図5は、本発明の一例となる2組のパンチ機構部A、Bを有するシート材穿孔装置1(以下、穿孔装置1という。)であり、図5(a)は上方からの視点で、図5(b)はシート材(図示せず)の挿入方向からの視点で、穿孔装置1の待機状態を示す。回転伝達装置の詳細構成については図3を参照する。また、2組のパンチ機構部A、Bを図5(b)に示す待機位置から同時駆動してシート材に4孔を穿孔した状態を図6に示し、パンチ機構部Bを図5(b)に示す待機位置から駆動してシート材に2孔を穿孔した状態を図5(b)と反対方向の視点から図7に示す。
【0050】
図1に示す穿孔装置1は、梃子クランク機構により穿孔駆動を行う2組のパンチ機構部A、Bとダイフレーム20がシート材搬送方向との直交方向に互いに平行に配置され、その一端側に回転伝達装置Cが配置される。なお、穿孔対象となるシート材はダイフレーム20とパンチフレーム7でなすパンチ列に沿った狭隘な空間に挿入され、このパンチ列方向がすなわちシート材幅方向に対応する。
【0051】
回転伝達装置Cは、図3に示す構成であって、回転軸42と、該回転軸42に設けられた駆動歯車43と、回転軸42に回転自在かつ回転軸42方向に移動可能に設けられた従動歯車44と、該従動歯車44を駆動歯車43に向かって付勢する付勢手段となるバネ41Aとを有し、従動歯車44の移動制限手段として外周に部分的に切欠き60bが形成された回転板60が従動歯車44に連結する連結歯車4Aの軸12Aに対して設けてある。そして、該回転板60は、穿孔装置1が穿孔前の待機状態にあるとき、従動歯車44が回転軸42上を移動しても切欠き60bが従動歯車44の後端部44sに対して干渉しない位置に配置されている。また、モータ9の両端はフレーム8に固設され、モータ9の出力軸に固設されたギヤ10が、軸73に軸支されたギヤを介し、回転軸42の一端に固設されたギヤ72に連結される。
【0052】
各パンチ機構部A、Bは、シート材に穿孔するための2個のパンチと、これを穿孔駆動する梃子クランク機構を備え、回転伝達装置Cにおける駆動歯車43と従動歯車44に対して各々が連結歯車4A、4Bにより連結される。各々の連結歯車4A、4Bは、連接アーム6A、6Bと駆動ピン12A、13Bとの関係により、回転伝達装置Cからの出力として伝達された回転駆動力を梃子クランク機構に対する入力に変換するためのクランクギヤ機能が発現される。
【0053】
前記パンチ機構部Aは、連接アーム6Aの長手方向となるシート材幅方向に沿って2個のパンチ2Aa、2Abが付設され、ダイフレーム20にシート材幅方向に沿って設けた4個のダイ孔のうちの2個のダイ孔3Aa、3Abと噛み合うことで、シート材に対して2孔の穿孔が可能である。同様に、前記パンチ機構部Bは、連接アーム6Bの長手方向に沿ってパンチ2Aa、2Abとは異なる位置に2個のパンチ2Ba、2Bbが付設され、前記4個のダイ孔のうちの2個のダイ孔3Ba、3Bbと噛み合うことで、シート材のパンチ機構部Aによる穿孔位置とは異なる位置に対して2孔の穿孔が可能である。
【0054】
上述の構成を有する穿孔装置1において、回転伝達装置Cは、パンチ機構部A、Bを同時駆動するか、あるいはパンチ機構部Bを駆動するかを、モータ9の駆動方向の切替により決定できる機械的機構となる。具体的には、パンチ機構部A、Bの同時駆動は、モータ9が図3において実線で示す矢印方向すなわち駆動歯車43と従動歯車44の噛み合い状態を維持できる方向へ回転した場合に実現できる。モータ9の回転は各部材を介して駆動歯車43に伝達される。そして、駆動歯車43の回転は、連結歯車4Bに対して歯筋43aにより伝達され、同時に、従動歯車44に対して互いの歯43A、44Aの噛み合いにより伝達され、さらに連結歯車4Aに対して歯筋44aにより伝達され、連結歯車4Aが回転する。
【0055】
このとき、連結歯車4Aの回転により、該連結歯車4Aと同軸12A上に設けられた回転板60もまた回転し、該回転板60の切欠き60bに代わって外周部60aが従動歯車44の後端部44sに対して当接可能な位置にくる。これにより、連結歯車4Aが360度回転して回転板60の切欠き60bが当初の待機位置へ戻る所定期間において、たとえ従動歯車44が回転軸42上を移動して駆動歯車43から離間しようとしても後端部44sが回転板60の外周部60aに対して当接して離間移動が阻止される。したがって、前記所定期間において駆動歯車43に対する従動歯車44の噛み合いが確実に維持できる。なお、前記所定期間外となる待機状態においては、切欠き60bにより従動歯車44の後端部44sに対して回転板60が干渉しないため、従動歯車44の回転軸42上の移動は阻止されることがない。
【0056】
また、連結歯車4Aに連結するパンチ機構部Aは、連結歯車4Aが回転する前記所定期間は穿孔駆動することになるが、過負荷などの不具合により異常停止を起こす場合が想定される。このような場合であっても、回転板60の外周部60aが従動歯車44の後端部44sに対して当接可能に位置しているため、モータ9を逆方向に回転することで待機位置へ復帰させることができる。これは、従動歯車44が回転軸42上を移動して駆動歯車43から離間しようとしても、回転板60の外周部60aが当接することで従動歯車44の離間移動が阻止され、駆動歯車43に対する従動歯車44の噛み合いが維持され解消されないからである。
【0057】
上述のように駆動歯車43および従動歯車44に伝達された回転は、歯筋43a、44aを介して連結歯車4A、4Bに伝達され、軸12A、12Bから離間して設けられた駆動ピン13A、13Bを所定の回転半径で回転軌跡を描くように回転運動させる。これによりクランク機構が発現され、駆動ピン13A、13Bの回転運動が連接アーム6A、6Bの直線運動に変換されてパンチ機構部A、Bを同時駆動する。
【0058】
また、パンチ機構部Bのみの片側駆動は、図3において破線で示す矢印方向すなわち駆動歯車43と従動歯車44の噛み合い状態を解消可能な方向へモータ9が回転した場合に行われる。当該回転は、各部材を介して駆動歯車43に対しては伝達されるものの、歯43A、44Aの噛み合いが傾斜により維持できずに解消されるため従動歯車44に対しては伝達されない。したがって、駆動歯車43に伝達された回転が歯筋43aで連結する連結歯車4Bにのみ伝達され、駆動ピン13Bのみを上述のように回転運動させる。これにより、クランク機構が発現され、駆動ピン13Bの回転運動が連接アーム6Bの直線運動に変換されてパンチ機構部Bに限り片側駆動する。
【0059】
次に、パンチ機構部A、Bの構成に関して説明する。
パンチ機構部Aは、回転伝達装置Cの従動歯車44と連結する連結歯車4Aに対して駆動ピン13Aにより連接アーム4Aを連結し、該連接アーム4Aに伝達された駆動力が入力となって梃子クランク機構により穿孔駆動する。同様に、パンチ機構部Bは、回転伝達装置Cの駆動歯車43と連結する連結歯車4Bに対して駆動ピン13Bにより連接アーム4Bを連結し、該連接アーム4Bに伝達された駆動力が入力となって梃子クランク機構により穿孔駆動する。
【0060】
パンチ機構部A、Bを穿孔駆動する梃子クランク機構は、回転運動するクランク部材となる連結歯車4A、4Bと、一端が揺動可能となるように他端をピン14で軸支した梃子部材となる揺動アーム5A、5Bと、揺動アーム5Aと連結歯車4Aとを連結するとともにパンチ機構部A側のパンチ2Aa、2Abが付設された連接部材となる連接アーム6A、および揺動アーム5Bと連結歯車4Bとを連結するとともにパンチ機構部B側のパンチ2Ba、2Bbが付設された連接部材となる連接アーム6Bと、シート材のシート面に対向配置したパンチフレーム7と、これら部材を繋ぐ前記ピン14およびピン15A、15Bによって構成される。
【0061】
連結歯車4A、4Bは、上述したように駆動ピン13A、13Bの回転運動を連接アーム6A、6Bの直線運動に変換するクランクとしての機能を有する。
連接アーム6A、6Bは、連結歯車4A、4Bに具備する駆動ピン13A、13Bに対して連結し、かつ、ピン15A、15Bにより揺動アーム5A、5Bに対して連結し、ダイ孔3Aa、3Abの孔列方向に沿うように配置される。この構成により、連接アーム6A、6Bは、連結歯車4A、4Bの駆動ピン13A、13Bと揺動アーム5A、5Bとを連結しながら、駆動ピン13A、13Bおよびピン15A、15Bの個所を揺動支点として揺動可能となる。したがって、連接アーム6A、6Bは、梃子クランク機構をなす連接棒としての機能を有することができる。
【0062】
揺動アーム5A、5Bは、パンチフレーム7で軸支したピン14に対して一端を固設し、他端はピン15A、15Bにより連接アーム6A、6Bに対して連結する。そして、ピン14をパンチフレーム7で支持して回転可能になす。この構成により、揺動アーム5A、5Bは、ピン14を揺動支点として揺動可能となる。したがって、揺動アーム5A、5Bは、梃子クランク機構をなす梃子としての機能を有することができる。なお、揺動アーム5A、5Bの一端の支持は、梃子クランク機構をなす固定リンクとしての機能を有する後述のいずれかの構成を利用して行えばよい。
【0063】
前記固定リンクの機能は、パンチフレーム7により揺動アーム5A、5Bの一端を支持し、フレーム8に固設した軸12A、12Bにより連結歯車4A、4Bを軸支し、かつ、パンチフレーム7とフレーム8とを一体に組み立てる構造体によって得られる。さらに、ダイフレーム20もまた、パンチフレーム7と一体に組み立てることで固定リンクとしての機能を有することができる。なお、パンチフレーム7とダイフレーム20は、パンチ機構部A、Bで共有可能に構成できる。これらパンチフレーム7、フレーム8、ダイフレーム20は、構造体として一体化することができる。
【0064】
また、前記ピン14には、揺動アーム5Aと一体となって同期回転するディテントカム50A、および揺動アーム5Bと一体となって同期回転するディテントカム50Bが固設される。また、パンチフレーム7には、ディテントカム50A、50Bに形成したそれぞれの凹部に対し、それぞれ嵌り込み可能な凸部を有してなるディテントバネ51A、51Bが固設される。この構成により、ピン14の移動により、ディテントバネ51A、51Bの凸部いずれかが、もしくはいずれもが、ディテントカム50A、50Bの凹部に嵌り込む位置関係となった場合は、凸部が凹部から離脱できる程の駆動力がピン14に作用しない限り、揺動アーム5A、5Bはその位置から揺動できずに振れ止めされる。したがって、揺動アーム5A、5Bと連結する連接アーム6A、6B、さらにこれに連結する連結歯車4A、4Bもまた振れ止めされる。
【0065】
穿孔装置1では、上述のように連接アーム6Aに対して2個のパンチ2Aa、2Abが付設され、連接アーム6Bに対して2個のパンチ2Ba、2Bbが付設される。パンチ2Aa、2Abはその刃先と反対側の一端に設けたパンチ取付部30Aa、30Abに対してパンチピン31Aa、31Abが貫通して固設される。パンチ2Ba、2Bbに対するパンチ取付部30Ba、30Bbおよびパンチピン31Ba、31Bbの関係も同様である。そして、パンチ取付部30Aa、30Abは、連接アーム6Aに設けた2個の長孔17Aa、17Abを連通する係止ピン18Aa、18Abが貫通することで係止される。同様に、パンチ取付部30Ba、30Bbは、連接アーム6Bに設けた2個の長孔17Ba、17Bbを連通する係止ピン18Ba、18Bbが貫通することで係止される。
【0066】
また、それぞれのパンチ2Aa、2Ab、2Ba、2Bbは、パンチフレーム7に設けたパンチ案内部16Aa、16Ab、16Ba、16Bbに挿入され、これにより穿孔方向および離間方向に移動自在に案内される。なお、連接アーム6A、6Bに設けた長孔17Aa、17Ab、17Ba、17Bbには、それぞれ連結歯車4A、4B側に近づくにしたがって傾斜角度が大きくなるように、それぞれに好適となる所定の傾斜が設けられている。
【0067】
連接アーム6A、6Bが穿孔方向へ接近するとき、揺動する連接アーム6A、6Bはシート材に対して平行を維持しながら移動することがないため、シート材とそれぞれのパンチ2Aa、2Ab、2Ba、2Bbの刃先との距離は、連接アーム6A、6Bの長手方向における付設位置によって差を生じる。そこで、それぞれのパンチ2Aa、2Ab、2Ba、2Bbの穿孔方向への移動量を同等量に近似するために、当該付設位置における差分に対応して長孔17Aa、17Ab、17Ba、17Bbの傾斜角度を調整することが望ましい。
【0068】
以上より、穿孔装置1のパンチ機構部Aでは、連結歯車4A、駆動ピン13A、連接アーム6A、ピン15A、揺動アーム5Aの間を連結し、固定リンクを形成するかのように連結歯車4Aの回転中心すなわち軸12A軸心とピン14軸心との間をパンチフレーム7およびフレーム8とで固定し、この構成により連結歯車4A、連接アーム6A、揺動アーム5Aの連動によるパンチ2Aa、2Abの穿孔駆動が可能となる。同様に、パンチ機構部Bでは、連結歯車4B、駆動ピン13B、連接アーム6B、ピン15B、揺動アーム5Bの間を連結し、固定リンクを形成するかのように連結歯車4Bの回転中心すなわち軸12B軸心とピン14軸心との間をパンチフレーム7およびフレーム8とで固定し、この構成により連結歯車4B、連接アーム6B、揺動アーム5Bの連動によるパンチ2Ba、2Bbの穿孔駆動が可能となる。
【0069】
以下、穿孔装置1によるシート材への4孔穿孔について説明する。
モータ9始動前、バネ41Aで押圧された従動歯車44の歯44Aは駆動歯車43の歯43Aに対して見掛け上は噛み合い状態にある。この状態から、モータ9が図3に示す実線の矢印方向に回転し始めると、駆動歯車43と従動歯車44とが噛み合い状態を維持して実線の矢印方向に同時に回転し始め、さらに連結歯車4A、4Bが同時に回転し始める。すると、駆動ピン13A、13Bが回転運動を開始し、これにより連接アーム6A、6Bの直線運動が起動される。このとき、駆動歯車43と従動歯車44が十分に噛み合っているため、ディテントバネ51A、51Bの凸部がディテントカム50A、50Bの凹部から離脱できるだけの駆動力が伝達される。
【0070】
連接アーム6A、6Bの直線運動が起動されると、該連接アーム6A、6Bがパンチの穿孔方向に揺動し始め、シート材のシート面に対して水平状態の姿勢にあった連接アーム6A、6Bが駆動ピン13A、13Bに連結する一端側が駆動ピン13A、13Bの回転運動に追従するように動作し、シート材から離間する方向に移動する。また、連接アーム6A、6Bの揺動アーム5A、5Bにピン15A、15Bで連結された他端側に着目すると、揺動アーム5A、5Bのピン15A、15B側がピン14を揺動支点として穿孔方向と交差する方向に移動するため、連接アーム6A、6Bのピン15A、15B側が、あたかも揺動アーム5A、5Bの移動に追従するかのように動作し、シート材に近づく方向へ移動する。そして、連結歯車4A、4Bが回転を継続すると、駆動ピン13A、13Bが最上点の位置を通過し、連結歯車4A、4Bが穿孔前の待機状態から120度ほど回転した位置に達する。
【0071】
このとき、パンチ機構部Aでは、揺動アーム5A側に位置するパンチ2Aaは若干シート材へ近づく方向へ移動しており、連結歯車4A側に位置するパンチ2Abは若干シート材から離間する方向へ移動している。この状態から、さらに連結歯車4Aが回転すると、連接アーム6Aの駆動ピン13A側およびピン15A側がともにシート材に近づく方向に移動するようになるため、2個のパンチ2Aa、2Abはともにシート材へ近づく方向へ移動するようになる。これはパンチ機構部Bのパンチ2Ba、2Bbも同様である。
【0072】
さらに連結歯車4A、4Bが回転を継続すると、パンチ機構部Aにおいてはパンチ2Aaの刃先がダイ孔3Aaに到達し、次いで連結歯車4Aが150度ほど回転した位置に達する頃にはパンチ2Abの刃先がダイ孔3Abに到達する。この間に、パンチ機構部Bにおいてはパンチ2Baの刃先がダイ孔3Baに到達し、パンチ2Bbの刃先がダイ孔3Bbに到達する。そして、連結歯車4A、4Bの回転が170度を越える頃には、パンチ機構部Aに具備する2個のパンチ2Aa、2Abおよびパンチ機構部Bに具備する2個のパンチ2Ba、2Bbにより、シート材への4孔の穿孔が終了する。
【0073】
この後は、連結歯車4A、4Bの回転とともに、連接アーム6A、6Bのピン15A、15B側が最下点の位置に達した後にシート材から離間する方向へと移動方向を転じ、4個のパンチ2Aa、2Ab、2Ba、2Bbが移動方向を転じるように移動し、終には元あった待機位置へ戻され、シート材に対する4孔穿孔の一連の動作が終了する。
【0074】
上述した穿孔装置1による4孔の穿孔動作はパンチ機構部A、Bの同時駆動による。一方、2孔の穿孔動作はパンチ機構部Bの片側駆動による。具体的には、待機状態から、駆動歯車43と従動歯車44の噛み合いが解消される図3に破線で示す矢印方向にモータ9を回転し、該回転を従動歯車44には伝達させずに駆動歯車43を片側駆動し、従動歯車44に連結する連結歯車4Aを回転させずに駆動歯車43に連結する連結歯車4Bに限り回転させることによる。
【0075】
連結歯車4Bに限り回転した場合、パンチ機構部Bの連接アーム6Bに限り直線運動が起動され、パンチ機構部B側にのみ駆動力が伝達される。この後のパンチ機構部Bの一連の穿孔動作は上述した4孔穿孔時と同様であるため説明を略すが、パンチ機構部Bに具備する2個のパンチ2Ba、2Bbが穿孔駆動され、シート材に対して2孔が穿孔される。
【符号の説明】
【0076】
1:穿孔装置、A,B:パンチ機構部、C:回転伝達装置、2Aa,2Ab,2Ba,2Bb:パンチ、3Aa,3Ab,3Ba,3Bb:ダイ孔、4A,4B:連結歯車、5A,5B:揺動アーム、6A,6B:連接アーム、7:パンチフレーム、8:フレーム、9:モータ、10:ギヤ、12A,12B:軸、13A,13B:駆動ピン、14:ピン、15A,15B:ピン、16Aa,16Ab,16Ba,16Bb:パンチ案内部、17Aa,17Ab,17Ba,17Bb:長孔、18Aa,18Ab,18Ba,18Bb:係止ピン、20:ダイフレーム、30Aa,30Ab,30Ba,30Bb:パンチ取付部、31Aa,31Ab,31Ba,31Bb:パンチピン、41A:バネ、42:回転軸、43:駆動歯車、43a:歯筋、43A:歯、43Aa:前歯面、43Ab:後歯面、44:従動歯車、44a:歯筋、44s:後端部、44A:歯、44Aa,44Ab:歯面、50A,50B:ディテントカム、51A,51B:ディテントバネ、60:回転板、60a:外周部、60b:切欠き、61軸、65:レバー、66:軸、68:ピン、69:軸、71,72:ギヤ、73:軸、108:フレーム、109:モータ、110,111,112:ギヤ、113:軸、141A:バネ、142:回転軸、143:駆動歯車、143a:歯筋、143A:歯、144:従動歯車、144a:歯筋、144A:歯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段とを有し、前記駆動歯車と前記従動歯車には前記回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されており、一方向の回転では前記歯により前記従動歯車が前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記従動歯車が前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動される回転伝達装置であって、
所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段を有することを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記従動歯車は歯筋が形成された外周部を有し、該外周部の歯筋に対して噛み合い可能な連結歯車を有することを特徴とする請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記連結歯車は外周に部分的に切り欠きが形成された回転板を自らの軸に有し、該回転板を前記移動制限手段として、前記切り欠きに対応する前記連結歯車の回転角度範囲外においては前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止し、前記連結歯車の回転角度範囲内においては前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を可能とすることを特徴とする請求項2に記載の回転伝達装置。
【請求項4】
回転軸と、該回転軸に設けられた駆動歯車と、前記回転軸に回転自在かつ前記回転軸方向に移動可能に設けられた従動歯車と、該従動歯車を前記駆動歯車に向かって付勢する付勢手段と、所定期間において前記従動歯車の前記回転軸上の離間移動を阻止する移動制限手段とを有し、前記駆動歯車と前記従動歯車には前記回転軸方向に対向して噛み合い可能かつラチェット機構を発現する傾斜を備えた歯が形成されており、一方向の回転では前記歯により前記従動歯車が前記駆動歯車に対して噛み合い、他方向の回転では前記歯の傾斜により前記従動歯車が前記駆動歯車から前記回転軸上を離間移動される回転伝達装置を備えており、
前記従動歯車にパンチ機構部Aが連結され、前記駆動歯車にパンチ機構部Bが連結され、前記回転伝達装置における一方向の回転により前記パンチ機構部A、Bが同時駆動され、他方向の回転により前記パンチ機構部Bが駆動されることを特徴とするシート材穿孔装置。
【請求項5】
前記パンチ機構部A、Bそれぞれに2個のパンチを具備し、かつ前記パンチ機構部Aのパンチを両端側に配置し、前記パンチ機構部A、Bの同時駆動により4孔を、前記パンチ機構部Aの片側駆動により2孔の穿孔を可能とすることを特徴とする請求項4に記載のシート材穿孔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−210688(P2012−210688A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78123(P2011−78123)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(305022598)株式会社日立メタルプレシジョン (69)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】