説明

回転伝達部材及び円筒面処理方法

【課題】回転軸の外周面とこの外周面に外嵌される回転伝達部材の内周面との密着力を向上させて、回転伝達部材や締付け用のボルトを小さくにする。
【解決手段】回転伝達部材は、回転軸の外周面に密着可能な円筒内周面を有し、内径方向に縮径可能になった摩擦締結部材11と、摩擦締結部材11の半径方向外側に形成された第1テーパー部と、該第1テーパー部と接触する第2テーパー部を半径方向内側に有する締付け部材と、第1テーパー部と第2テーパー部との接触状態を変更させる変更手段とを有している。摩擦締結部材11の円筒内周面に、ダイヤモンド粒子43を分散して含有した無電解ニッケル層40が被覆されている。変更手段によって第1テーパー部と第2テーパー部との接触状態を変更させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプロケット、ギヤ、プーリ、カム、レバーまたはハンドルといった回転伝達部材を回転軸の外周に嵌めて、回転力を伝達する構造、及びこの回転部材の内周面処理方法に関する。特に、回転伝達部材の内周面と回転軸の外周面とにキー加工を行うことなく、回転伝達部材を回転軸に固定することができる回転伝達部材の構造及びこの回転部材の内周面の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、回転伝達部材の内周面と回転軸の外周面とにキー加工を行うことなく回転伝達部材を回転軸に固定する手段として、種々の回転伝達部材の構造が知られている。
【0003】
例えば、板ばねカップリングなどに用いられる回転伝達部材を回転軸に密着固定するための摩擦締結装置として、例えば、特許文献1に開示されたものが知られている。すなわち、特許文献1のものは、フランジ付き回転伝達部材の円周溝に締付け部材であるスリーブを圧入し、上記回転伝達部材の内径部を縮径して、該回転伝達部材を、これに嵌挿された回転軸の外周に固定するようにした摩擦締結装置において、上記スリーブにフランジを設け、該フランジにボルト挿入穴を設け、該ボルト挿入穴に対応して上記回転伝達部材のフランジにボルト用のねじ穴を設け、上記ボルト挿入穴に挿入され上記ねじ穴に捩じ込まれたボルトの締め付け力によって上記スリーブを上記円周溝に圧入するようにしている。
【0004】
また、例えば、特許文献2に開示されている構造も知られている。すなわち、特許文献2のものは、外面をテーパーに形成し、かつ、長さ方向にスリットが形成された固定リングを、回転伝達部材であるスプロケットの一方の面に当接し、この固定リングの外面に、内面をテーパーに形成した締付リングを嵌め込んで、上記スプロケットの軸穴と固定リングに回転軸を挿通し、上記締付リングとスプロケットとを、締付ボルトによって回転軸の長さ方向に締結するようにしている。
【0005】
また、例えば、特許文献3に開示されている構造も知られている。すなわち、特許文献3のものは、管壁に厚さが徐々に変化する環状溝が形成され該管壁に前記環状溝に連通するボルト挿入孔が軸方向に穿設された環状の締結具本体と、上記環状溝に対応して内径部と外形部の径が軸方向に沿って徐々に変化し軸方向にボルト用のねじ穴が穿設された雄テーパーリングとを備え、上記ボルト挿入孔に挿入したボルトを上記環状溝に嵌挿した雄テーパーリングのねじ穴にねじ込み、上記ボルトの軸力によって上記雄テーパーリングを上記環状溝内に引き込んで該環状溝を広げ上記本体の内径部に嵌挿する回転軸と上記本体とを固着するようにした締結具において、上記雄テーパーリングの内径面と外径面に固体潤滑材のコーティング面を形成している。
【特許文献1】特開平10−238518号公報
【特許文献2】特開平09−273514号公報
【特許文献3】特開平09−242771号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に示すものでは、締結固定部材であるスリーブ内でなく、このスリーブにフランジを設け、且つ回転伝達部材の外にフランジを設けて、お互いのフランジをボルトで締結することで、大軸径の締結を可能にしているが、これでは、回転伝達部材が大きくなる、ボルトが大きくなる又はボルト本数が増加する等の問題を有する。
【0007】
また、特許文献2に示すものでは、締付けリングによって固定リングを縮径して、固定リングを回転軸に固定しているが、この固定リングを更に回転伝達部材であるスプロケットに密着させる必要があり、回転伝達の精度が劣る。その上、固定リングと締付けリングの固定、固定リングと回転軸との固定、固定リングとスプロケットの固定が、締付けボルトの締付け力によってなされているので、耐締付け力の大きなボルトを必要とし、ボルトを大きくする又はボルト本数を増加するなどの対応を必要とする。
【0008】
また、特許文献3に示すものでは、ボルトの軸力を効率よく環状溝を広げる方向のトルクに変換するためにテーパー面に固体潤滑剤を塗布している。しかし、大きな回転力を伝達可能にするためには、回転伝達部材と回転軸との締付け部材であるボルトの本数を増加する、ボルトを大きくするなどの対応が必要であった。
【0009】
上述したように、特許文献1ないし3のいずれのものであっても、ボルトによる強固な締結力を得るために、ボルトを大きくしたり、ボルト本数を増加したり、また、ボルトが挿通するフランジ部を大きく形成するなどの対応が必要であった。
【0010】
本発明が斯かる点に鑑みてなされたものであり、回転伝達部材や締付け用のボルトを小さくして、しかも、回転伝達部材と回転軸との取付精度を損なうことなく、且つ確実に回転力を伝達できる構造を得ることを目的とする。特に、本発明では、締付けテーパー面の構造やボルト位置などではなく、回転軸の外周面とこの外周面に外嵌される回転伝達部材の内周面との密着力を向上させることによって、この密着部分のすべりを低減し、それによって、回転伝達部材や締付け用のボルトを小さくできるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
具体的には、請求項1の発明は、回転軸との間で相対的に回転力を伝達する回転伝達部材であって、上記回転伝達部材は、上記回転軸の外周面に密着可能な円筒内周面を有し、内径方向に縮径可能になった摩擦締結部材と、上記擦締結部材の半径方向外側に形成された第1テーパー部と、上記第1テーパー部と接触する第2テーパー部を半径方向内側に有する締付け部材と、上記第1テーパー部と上記第2テーパー部との接触状態を変更させる変更手段とを有し、上記摩擦締結部材の上記円筒内周面に、ダイヤモンド粒子を分散して含有した無電解ニッケル層が被覆され、上記変更手段によって上記第1テーパー部と上記第2テーパー部との接触状態を変更させることで、上記回転伝達部材と上記回転軸との間で回転力が伝達されるようになっている構成とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の回転伝達部材において、変更手段は、摩擦締結部材および締付け部材の円周方向に配設された複数のボルトである構成とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の回転伝達部材において、ダイヤモンド粒子の平均サイズが、4μm〜30μmである構成とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の回転伝達部材において、無電解ニッケル層の厚さは、5μm〜30μmであり、ダイヤモンド粒子が上記無電解ニッケル層から僅かに露出している構成とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の回転伝達部材において、大半のダイヤモンド粒子が、無電解ニッケル層の外側に、ダイヤモンド粒子の大きさの10%〜50%の高さ突出している構成とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の回転伝達部材において、無電解ニッケル層は、第1層及び第2層の二重層からなる構成とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項6に記載の回転伝達部材において、無電解ニッケル層は、第1層及び第2層の二重層からなる構成とする。
【0018】
請求項8の発明は、円筒内周面及び/又は円筒外周面を有する回転伝達部材に対する円筒面処理方法であって、上記回転伝達部材の上記円筒面を洗浄した後、ダイヤモンド粒子が浮遊する第1無電界ニッケルメッキ浴に該部材を所定時間浸漬して、ダイヤモンド粒子を分散して含有する第1無電解ニッケル層を円筒面に形成し、続いて、ダイヤモンド粒子が含まれない第2無電界ニッケルメッキ浴に浸漬し、付着したダイヤモンド粒子の周囲に第2無電解ニッケル層を形成する構成とする。
【0019】
請求項9の発明は、請求項8に記載の回転伝達部材の円筒面処理方法において、第1無電界ニッケルメッキ浴では、回転伝達部材を浸漬する前に攪拌手段で浴槽内の浴液を攪拌して、ダイヤモンド粒子を浴槽内に分散浮遊させ、その後、攪拌を中断してから上記回転伝達部材を浸漬し、上記第1無電界ニッケルメッキ浴内のダイヤモンド粒子を自然落下させて回転伝達部材の円筒面に該ダイヤモンド粒子を付着させる構成とする。
【0020】
請求項10の発明は、請求項8又は9に記載の回転伝達部材の円筒面処理方法において、第1無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度75℃〜98℃の範囲で、15秒〜10分の時間、浸漬する構成とする。
【0021】
請求項11の発明は、請求項8ないし10のいずれか1つに記載の回転伝達部材の円筒面処理方法において、第2無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度75℃〜98℃の範囲で、60秒〜60分の時間、浸漬する構成とする。
【0022】
請求項12の発明は、請求項8ないし11のいずれか1つに記載の回転伝達部材の円筒面処理方法において、第1無電界ニッケルメッキ浴中のダイヤモンド粒子の平均サイズが、4μ〜30μである構成とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1によれば、回転軸の外周面と回転伝達部材の内周面とのすべりを防止し、固定力を増加できるので、回転軸と回転伝達部材との間で回転力を確実且つ高精度に伝達できる。その結果、従来と同じ回転トルクを得る場合に、変更手段を軽量、コンパクトにできる。特に、回転伝達部材やボルト挿通部分の構造、ボルト構造などに影響されることなく、従来の構造にも簡単に適用できる点で大きなメリットを有する。
【0024】
請求項2によれば、ボルト挿通部分を軽量、コンパクトにできる、ボルトを小さくにできる、ボルト本数を低減できる等の効果を発揮できる。
【0025】
請求項3によれば、ダイヤモンド粒子が回転軸の外周面に確実に食い込む構造とすることができる。
【0026】
請求項4によれば、ダイヤモンド粒子を無電解ニッケル層に強固に保持できる。
【0027】
請求項5によれば、ダイヤモンド粒子を無電解ニッケル層に強固に保持でき、且つダイヤモンド粒子が回転軸の外周面に確実に食い込む構造とすることができる。
【0028】
請求項6によれば、ダイヤモンド粒子を無電解ニッケル層にさらに強固に保持できる。
【0029】
請求項7によれば、ダイヤモンド粒子を無電解ニッケル層にさらに強固に保持できるとともに、ダイヤモンド粒子が回転軸の外周面に更に強固に食い込む構造とすることができる。
【0030】
請求項8によれば、ダイヤモンド粒子が回転伝達部材の円筒面、即ち円筒内周面、円筒外周面に高い密着力で付着するので、回転軸の外周面に回転伝達部材が確実に固定される。
【0031】
請求項9によれば、ダイヤモンド粒子を、回転伝達部材の円筒面、即ち円筒内周面、円筒外周面に高い密着力で付着させることができるとともに、回転伝達部材の円筒面全体に分散して存在させることができる。
【0032】
請求項10、11によれば、ダイヤモンド粒子が回転伝達部材の円筒面全体に確実に分散して存在するようにできる。
【0033】
請求項12によれば、ダイヤモンド粒子を、回転伝達部材の円筒面、即ち円筒内周面、円筒外周面に高い密着力で付着させることができる。
【0034】
尚、本発明では、回転伝達部材の円筒内周面及び円筒外周面を総称して、円筒面という表現を用いる。
【0035】
また、回転軸と回転伝達部材とを摩擦固定して、回転軸から回転伝達部材に回転を伝達する場合と、回転伝達部材から回転軸に回転を伝達する場合との2つの場合がある。本発明では、これら両方の場合を含むように、相対的に回転という表現を使用した。
【0036】
また、本発明において、ダイヤモンド粒子の平均的なサイズ(平均サイズ)は、小さすぎると無電解ニッケル層からのダイヤモンド粒子の突出量が不足し、大きすぎると、無電解ニッケル層からのダイヤモンド粒子の突出量が大きくなり過ぎて、ダイヤモンド粒子を無電解ニッケル層に安定して固定することが難しくなる。そのために、ダイヤモンド粒子の平均サイズは、4μm〜30μmであることが好ましく、特に、8μm〜25μmであることが好ましい。なお、平均サイズと説明したのは、ダイヤモンド粒子のサイズにはバラツキがあり、同じ大きさで統一することが困難であり、一般的に平均サイズという形で取り扱われているので、本発明でも平均サイズで定義した。
【0037】
また、本発明では、ダイヤモンド粒子は無電解ニッケル層の外側に突出させるのが望ましいが、そのダイヤモンド粒子の突出量が少ないと回転軸の外周面への食い付きが弱くなり、回転軸の外周面と回転伝達部材の内周面との固定力が不足する。一方、ダイヤモンド粒子の無電解ニッケル層からの突出量が多すぎると、回転軸の外周面への食い付きが強すぎて、回転軸の外周面を傷つける可能性が高くなり、また、無電解ニッケル層からダイヤモンド粒子が剥がれ落ちやすくなる。そのために、無電解ニッケル層の外側に、ダイヤモンド粒子の平均サイズに対して、そのサイズの10%〜50%の高さ突出していることが好ましく、特に、そのサイズの15%〜30%の高さ突出していることが好ましい。ダイヤモンド粒子の平均サイズで表現すると、無電解ニッケル層から平均0.1μm〜10μm突出していることが好ましく、特に、0.2μm〜5μmであることが好ましい。
【0038】
また、無電解ニッケル層の第1層の厚さが薄すぎると、ダイヤモンド粒子を回転伝達部材の内周面に付着させることができなくなる。逆に、第1層の厚さが厚すぎると、付着するダイヤモンド粒子の付着状態が安定しない。そのために、無電解ニッケル層の第1層の厚さは、0.1μm〜5μmであることが好ましく、特に、0.2μm〜4μmであることが好ましい。
【0039】
無電解ニッケル層の第2層の厚さが薄すぎると、ダイヤモンド粒子を無電解ニッケル層に付着固定する付着力が弱くなり、逆に、厚すぎると、ダイヤモンド粒子が、埋没する可能性が高くなる。そのために、無電解ニッケル層の第2層の厚さは、5μm〜25μmであることが好ましく、特に、6μm〜20μmであることが好ましい。
【0040】
無電解ニッケル層の第1層と第2層を合わせた厚さは、上記した理由により、5μm〜30μmであることが好ましく、特に、6μm〜24μmであることが好ましい。
【0041】
また、製造方法において、第1無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度が低すぎると、析出速度が下がり、メッキ層の厚さが薄くなり、異常析出が発生しやすい。逆に、処理温度が高すぎると、メッキ厚さが厚くなり、異常析出が発生しやすい。処理時間が短すぎるとダイヤモンド粒子の付着量が不足し、処理時間が長すぎるとダイヤモンド粒子の付着量が多すぎる結果となる。そのために、第1無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度75℃〜98℃の範囲で、15秒〜10分の時間で浸漬することが好ましい。
【0042】
また、ダイヤモンド粒子を第1無電解ニッケルメッキ槽で分散浮遊させるために、被メッキ処理部材である回転伝達部材を浸漬する前に、予め第1無電解ニッケルメッキ槽のメッキ液を攪拌することが好ましい。この攪拌速度、攪拌時間は、ダイヤモンド粒子の大きさや量、メッキ浴槽の大きさ、被メッキ処理部材の大きさ・形状等によって異なるが、入れたダイヤモンド粒子がメッキ浴槽内で分散する状態になればよく、攪拌時間は、例えば、10秒〜10分であることが好ましい。なお、被メッキ処理部材である回転伝達部材を浸漬した状態で、攪拌しすぎると、被メッキ処理部材に付着するダイヤモンド粒子が安定せず、時には、付着したダイヤモンド粒子が剥がれる可能性があり、事前に攪拌し、メッキ処理中は攪拌しない方が好ましい。攪拌手段としては、空気等の気体、無電解ニッケル液などを槽内に送るようにすれば良い。なお、被メッキ部材をこの浴槽に浸漬する前に上記攪拌を中断して、ダイヤモンド粒子を自然落下させて被メッキ部材にダイヤモンド粒子を付着させるようにすることが好ましいが、ダイヤモンド粒子の付着に影響がない程度に僅かに攪拌して、浴液に流動性を与えるようにしていてもよい。
【0043】
第2無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度が低すぎると析出速度が下がり、メッキ層の厚さが薄くなり、異常析出が発生しやすい。逆に処理温度が高すぎるとメッキ厚さが厚くなり、異常析出が発生しやすい。処理時間が短すぎると第2無電界ニッケルメッキ層の厚さが不足し、ダイヤモンド粒子の固定力が不十分となり、処理時間が長すぎると第2無電界ニッケルメッキ層の厚さが厚くなりすぎて、ダイヤモンド粒子が埋もれてしまい、突出不足となる。そのために、第2無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度75℃〜98℃の範囲で、60秒〜60分の時間で浸漬することが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0045】
(実施形態1)
図1ないし図4は、本発明の実施形態1に関わり、回転軸の回転を歯車に伝達する摩擦締結部材に対して適用した例を示す。
【0046】
回転伝達部材10は、摩擦締結部材11、外側摩擦締結部材23、第1締付け部材15及び第2締付け部材19を有する。摩擦締結部材11は、薄肉のリング形状からなり、縮径可能にスリット12が形成されている。摩擦締結部材11の円筒内周面11aが、摩擦締結部材部材として回転軸30の外周面30aに摩擦固定可能になっている。摩擦締結部材11の半径方向外側には、第1テーパー部13及び第3テーパー部14が互いに接近する方向で径が大きくなるように形成されている。第1締付け部材15は、リング形状からなり、第1締付け部材15の内周面には、摩擦締結部材11の第1テーパー部13に面接触する第2テーパー部16が形成され、外周面には、外側摩擦締結部材23の第5テーパー部24に面接触する第6テーパー部17が形成されている。第2締付け部材19は、第1締結部材と対称的なリング形状からなっている。第2締付け部材19の内周面には、摩擦締結部材11の第3テーパー部14に面接触する第4テーパー部20が形成され、外周面には、外側摩擦締結部材23の第7テーパー部25に面接触する第8テーパー部21が形成されている。第1締付け部材15には、円周方向に均等間隔で、12個のねじ穴18が設けられ、第2締付け部材19には、ねじ穴18に対応する貫通穴22が設けられている。外側摩擦締結部材23の円筒外周面23aが歯車等の機械要素31の内周面31aに摩擦固定されるようになっている。外側摩擦締結部材23の第5テーパー部24と第7テーパー部25との間に平面部26が設けられている。
【0047】
摩擦締結部材11の円筒内周面11aには、図3に示すように、第1無電解ニッケル層41及び第2無電解ニッケル層42からなる無電解ニッケル層40が被覆されている。この無電解ニッケル層40にダイヤモンド粒子42が分散して含有されている。ダイヤモンド粒子42の一部が第1無電解ニッケル層41にかかり、ダイヤモンド粒子42の主たる部分が第2無電解ニッケル層42に含まれ、ダイヤモンド粒子42の外側(半径方向内側)先端部分が第2無電解ニッケル層42から数μm露出している。
【0048】
次に、無電解ニッケル層40の製造方法を図4に基づいて説明する。まず、ステップS1として、被メッキ処理材である摩擦締結部材11に対して、無電解ニッケルメッキの前工程として通常に行われる工程、即ち、脱脂、酸洗い、及び活性化の前処理を行う。その後、ステップS2として、第1無電解ニッケルメッキ浴槽を前もって空気などで攪拌して、ダイヤモンド粒子43が分散して浮遊した状態に準備しておき、攪拌を中断した後、摩擦締結部材11の円筒内周面11aが露出した状態で、この第1無電解ニッケルメッキ浴槽に、所定時間浸漬する。これによって、薄い層の第1無電解ニッケル層41をバインダーとして、ダイヤモンド粒子43を摩擦締結部材11の円筒内周面11aに付着させる。この状態では、ダイヤモンド粒子43の大部分が、第1無電解ニッケル層41から露出している状態であり、安定しない。続いてステップS3として、この露出した部分を補うように、ダイヤモンド粒子が含まれてない第2無電解ニッケルメッキ浴槽に、摩擦締結部材11を所定時間浸漬する。このステップによって、ダイヤモンド粒子43の先端部分が数μmの高さ露出した状態で、ダイヤモンド粒子43の周りが無電解ニッケル層42で覆われて、無電解ニッケル層40に安定してダイヤモンド粒子43が保持される。その後、ステップS4として、摩擦締結部材11を取り出して洗浄・乾燥する。
【0049】
これによって、摩擦締結部材11の円筒内周面11aは、ダイヤモンド粒子43の先端部分が数μm露出した状態の無電解ニッケル層40で被覆されるので、このダイヤモンド粒子43が、回転軸30の外周面30aに食い込むこととなり、摩擦締結部材11の円筒内周面11aと回転軸30の外周面30aとが強固に摩擦固定される。
【0050】
また、外側摩擦締結部材23の円筒外周面23aにも、摩擦締結部材11の円筒内周面11aと同様な無電解ニッケル層40が形成されている。円筒外周面23aの無電解ニッケル層40は、摩擦締結部材11の円筒内周面11aと同様であり、詳細な説明は省略する。
【0051】
次に、回転伝達部材10を回転軸30及び機械要素31に固定する作業について説明する。先ず、摩擦締結部材11、外側摩擦締結部材23、第1締付け部材15及び第2締付け部材19を、ボルト27で軽く(お互いが分離しない程度で、)組み立てておく。そして、回転軸30を摩擦締結部材11の円筒内周面11a内に通し、且つ外側摩擦締結部材23の円筒外周面23aに機械要素31を被せる。その後、ボルト27を締め付けることによって、第1締付け部材15と第2締付け部材19とを接近させて、摩擦締結部材11を縮径させて円筒内周面11aを回転軸30の外周面30aに摩擦固定し、外側摩擦締結部材23を拡径させて円筒外周面23aを機械要素31の内周面31aに摩擦固定する。
【0052】
この場合、円筒内周面11a、円筒外周面23aに形成したダイヤモンド粒子23が、それぞれ回転軸13の外周面13a、機械要素31の内周面31aに食い込んで強固に摩擦締結されることとなる。
【0053】
強固に摩擦締結されるので、実施形態1の構造例のボルト27の本数を、仮に半分の6本にしても、従来と遜色ない締付け固定状態が得られた。このことからすると、例えば、ボルト本数を少なくすること、ねじ穴加工や貫通穴加工を低減できると言える。また、第1締付け部材や第2締め付け部材を小径として軽量、コンパクト化を図れると言える。
【0054】
(実施形態2)
実施形態2は、特開平10−238518号公報に示される板ばねカップリングに使用される回転伝達部材100に、本発明を適用した例である。即ち、回転伝達部材100の縮径可能な薄肉部112の円筒内周面112aに実施形態1と同様な無電解ニッケル層を形成した。その結果、回転軸(図示せず)の外周面に、薄肉部112の円筒内周面112aが強固に摩擦固定された。
【0055】
なお、摩擦締結部材の円筒内周面が密着可能な回転軸の外周面にも、摩擦締結部材の円筒内周面と同様にダイヤモンド粒子が分散して含有された無電解ニッケル層を被覆するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば、スプロケット、ギヤ、プーリ、カム、レバーまたはハンドルといった回転伝達部材を回転軸の外周に嵌めて、回転を相対的に伝達するものに適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態1に係る回転伝達部材の分解断面図を示す。
【図2】回転伝達部材の側面図を示す。
【図3】実施形態1に示す無電解ニッケル層の拡大断面図を示す。
【図4】本発明の実施形態1に係る無電解ニッケル層の製造工程を示す。
【図5】本発明の実施形態2に係る回転伝達部材の断面図を示す。
【符号の説明】
【0058】
10 回転伝達部材
11 摩擦締結部材
12 スリット
13 第1テーパー部
14 第2テーパー部
15 第1締付け部材
18 ねじ穴
19 第2締付け部材
22 貫通穴
23 外側摩擦締結部材
27 ボルト(変更手段)
30 回転軸
31 機械要素
40 無電解ニッケル層
41 第1無電解ニッケル層
42 第2無電解ニッケル層
43 ダイヤモンド粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸との間で相対的に回転力を伝達する回転伝達部材であって、
上記回転伝達部材は、上記回転軸の外周面に密着可能な円筒内周面を有し、内径方向に縮径可能になった摩擦締結部材と、
上記擦締結部材の半径方向外側に形成された第1テーパー部と、
上記第1テーパー部と接触する第2テーパー部を半径方向内側に有する締付け部材と、
上記第1テーパー部と上記第2テーパー部との接触状態を変更させる変更手段とを有し、
上記摩擦締結部材の上記円筒内周面に、ダイヤモンド粒子を分散して含有した無電解ニッケル層が被覆され、
上記変更手段によって上記第1テーパー部と上記第2テーパー部との接触状態を変更させることで、上記回転伝達部材と上記回転軸との間で回転力が伝達されるようになっていることを特徴とする回転伝達部材。
【請求項2】
変更手段は、摩擦締結部材および締付け部材の円周方向に配設された複数のボルトであることを特徴とする請求項1に記載の回転伝達部材。
【請求項3】
ダイヤモンド粒子の平均サイズが、4μm〜30μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の回転伝達部材。
【請求項4】
無電解ニッケル層の厚さは、5μm〜30μmであり、
ダイヤモンド粒子が上記無電解ニッケル層から僅かに露出していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の回転伝達部材。
【請求項5】
大半のダイヤモンド粒子が、無電解ニッケル層の外側に、ダイヤモンド粒子の大きさの10%〜50%の高さ突出していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の回転伝達部材。
【請求項6】
無電解ニッケル層は、第1層及び第2層の二重層からなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の回転伝達部材。
【請求項7】
第1層が摩擦締結部材側に位置し、その厚さが0.1μm〜5μmであり、第2層が該第1層の外側に位置し、その厚さが5μm〜25μmであり、
上記第1層と上記第2層との総厚さは、5μm〜30μmであることを特徴とする請求項6に記載の回転伝達部材。
【請求項8】
円筒内周面及び/又は円筒外周面を有する回転伝達部材に対する円筒面処理方法であって、
上記回転伝達部材の上記円筒面を洗浄した後、ダイヤモンド粒子が浮遊する第1無電界ニッケルメッキ浴に該部材を所定時間浸漬して、ダイヤモンド粒子を分散して含有する第1無電解ニッケル層を円筒面に形成し、続いて、ダイヤモンド粒子が含まれない第2無電界ニッケルメッキ浴に浸漬し、付着したダイヤモンド粒子の周囲に第2無電解ニッケル層を形成することを特徴とする回転伝達部材の円筒面処理方法。
【請求項9】
第1無電界ニッケルメッキ浴では、回転伝達部材を浸漬する前に攪拌手段で浴槽内の浴液を攪拌して、ダイヤモンド粒子を浴槽内に分散浮遊させ、その後、攪拌を中断してから上記回転伝達部材を浸漬し、上記第1無電界ニッケルメッキ浴内のダイヤモンド粒子を自然落下させて回転伝達部材の円筒面に該ダイヤモンド粒子を付着させることを特徴とする請求項8に記載の回転伝達部材の円筒面処理方法。
【請求項10】
第1無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度75℃〜98℃の範囲で、15秒〜10分の時間、浸漬することを特徴とする請求項8又は9に記載の回転伝達部材の円筒面処理方法。
【請求項11】
第2無電界ニッケルメッキ浴では、処理温度75℃〜98℃の範囲で、60秒〜60分の時間、浸漬することを特徴とする請求項8ないし10のいずれか1つに記載の回転伝達部材の円筒面処理方法。
【請求項12】
第1無電界ニッケルメッキ浴中のダイヤモンド粒子の平均サイズが、4μ〜30μであることを特徴とする請求項8ないし11のいずれか1つに記載の回転伝達部材の円筒面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−249077(P2008−249077A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−93566(P2007−93566)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(594190574)岡野機工株式会社 (19)
【Fターム(参考)】