説明

回転体への挿入物のアンバランス測定方法及びアンバランス修正方法

【課題】 挿入物が回転体に対して非固定で挿入されている場合であっても、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相の測定を容易に行い、そのアンバランスを適宜修正することを可能にした回転体への挿入物のアンバランス測定方法及びアンバランス修正方法を提供する。
【解決手段】 回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定する方法であって、挿入物の周上の任意の位置に第1の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第1の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行い、挿入物の前記ステップにおけるウェイト装着位相から30°〜150°ずらした位置に第2の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第2の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行った後、これら2つの条件で測定された複合体のアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相に基づいて、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定する方法及びそのアンバランスを修正する方法に関し、更に詳しくは、挿入物が回転体に対して非固定で挿入されている場合であっても、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相の測定を容易に行い、そのアンバランスを適宜修正することを可能にした回転体への挿入物のアンバランス測定方法及びアンバランス修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、空気入りタイヤにおいて発生する騒音を低減するために、タイヤ空洞内に騒音低減装置を挿入することが行われている。このような騒音低減装置として、例えば、タイヤトレッド部の内面に沿って延在する弾性材料からなるバンド部材と、該バンド部材に取り付けられた多孔質材料からなる吸音部材とを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。この騒音低減装置は、バンド部材の弾性力に基づいてタイヤに対して簡単に着脱することができるという利点がある。
【0003】
ところで、上述した騒音低減装置のような挿入物のアンバランスが大きいと、その挿入物を含む空気入りタイヤを備えた車体に振動が発生するため、挿入物のアンバランス量と位相を測定し、挿入物が持つアンバランスを修正することが必要である。
【0004】
しかしながら、上記騒音低減装置のような挿入物は、単独では形状を維持することができないためアンバランス量と位相を測定することができない。また、上記騒音低減装置をタイヤに挿入した状態でバランス測定を行うことが可能であるが、上記騒音低減装置はタイヤ内面に対して非固定状態で設置されるため、バランス測定時に騒音低減装置とタイヤとの間に位相ずれが生じる場合がある。そのため、測定毎にアンバランス量と位相が変化し、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を正確に求めることができないという問題がある。
【0005】
従来、回転体のアンバランス量と位相を正確に測定する方法として、種々の測定方法が提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。しかしながら、これらの測定方法は回転体自体のアンバランス量と位相を測定する方法であるため、その回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を正確に測定することはできないのが現状である。
【特許文献1】特開2007−237962号公報
【特許文献2】特開平5−52696号公報
【特許文献3】特開平6−50836号公報
【特許文献4】特公平7−119661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、挿入物が回転体に対して非固定で挿入されている場合であっても、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相の測定を容易に行い、そのアンバランスを適宜修正することを可能にした回転体への挿入物のアンバランス測定方法及びアンバランス修正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の回転体への挿入物のアンバランス測定方法は、回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定する方法であって、前記挿入物の周上の任意の位置に第1の計測用ウェイトを装着した状態で前記挿入物と前記第1の計測用ウェイトと前記回転体からなる複合体のバランス測定を行うステップと、前記挿入物の前記ステップにおけるウェイト装着位相から30°〜150°ずらした位置に第2の計測用ウェイトを装着した状態で前記挿入物と前記第2の計測用ウェイトと前記回転体からなる複合体のバランス測定を行うステップと、これら2つの条件で測定された前記複合体のアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、前記挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相に基づいて、前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算するステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、計測用ウェイトの位置を異ならせた2つの条件で測定された複合体のアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相を用いることにより、挿入物が回転体に対して非固定で挿入されている場合であっても、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を容易に求めることができる。
【0009】
ここで、挿入物が回転体に対して非固定で取り付けられた状態とは、挿入物が回転体に対して摩擦力に基づいて係合した状態であり、回転数の上昇又は下降に伴って回転体と挿入物との間に位相ずれが発生し得る状態を意味する。
【0010】
本発明において、回転体としてはアンバランスを予め修正したものを使用するが、回転体にアンバランスが残存する場合に備えて、この回転体が持つアンバランス量と位相の成分を演算に加味すると良い。即ち、回転体が持つアンバランス量と位相を別途計測しておき、演算ステップにおいて2つの条件で測定された複合体のアンバランス量と位相から回転体が持つアンバランス量と位相の成分をそれぞれ除去することが好ましい。これにより、挿入物のアンバランス量と位相の測定精度を向上することができる。
【0011】
計測用ウェイトの質量は挿入物の質量の1%以上50%以下とすることが好ましい。これにより、挿入物のアンバランス量と位相の測定精度を向上することができる。また、計測用ウェイトの質量をバランス測定毎に定量単位で減じると共に、計測用ウェイトの装着位置をバランス測定毎に挿入物の周上の一方向に順次ずらして複合体のバランス測定のステップを繰り返し行い、最新2回の測定における複合体のアンバランス量の差ΔGとそのときに装着した計測用ウェイトの平均質量Mqとの比ΔG/Mqからなる判定量が予め設定された閾値以上になったとき、その最新2回の測定における測定条件及び測定結果に基づいて挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を求めることが好ましい。これにより、挿入物のアンバランス量と位相の測定を精度良くかつ効率良く行うことができる。
【0012】
上述のようなアンバランス測定方法によって求められた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相は、そのアンバランスの修正に利用することができる。つまり、上記アンバランス測定方法によって求められた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、挿入物のアンバランス位相の部分の質量をアンバランス量の分だけ減じるか、或いは、挿入物のアンバランス位相から180°の位置にアンバランス量と同じ質量のバランスウェイトを装着することにより、回転体への挿入物のアンバランスを修正することができる。
【0013】
特に、回転体が空気入りタイヤであり、挿入物がタイヤトレッド部の内面に沿って延在するバンド部材と該バンド部材に取り付けられた吸音部材とを備えた騒音低減装置である場合、上記アンバランス測定方法によって求められた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、吸音部材のアンバランス位相の部分の質量をアンバランス量の分だけ除去するか、或いは、バンド部材のアンバランス位相から180°の位置にアンバランス量と同じ質量のバランスウェイトを装着することにより、回転体への挿入物のアンバランスを修正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a),(b)は回転体である空気入りタイヤと該回転体への挿入物である騒音低減装置とからなる複合体を示す概略断面図である。図1(a)に示すように、空気入りタイヤ1に挿入される騒音低減装置2は、タイヤトレッド部の内面に沿って延在する弾性材料からなるバンド部材3と、該バンド部材3に取り付けられた多孔質材料からなる吸音部材4とを備えている。この騒音低減装置2は、図1(b)に示すように、空気入りタイヤ1に対してバンド部材3の弾性力によって取り付けられた状態で使用され、吸音部材4の吸音効果に基づいて騒音を低減するものである。走行時の車体を振動させないためには、回転体である空気入りタイヤ1と挿入物である騒音低減装置2の双方のアンバランスを抑えることあが必要である。そのため、各々のアンバランスを測定し、それを修正する必要がある。
【0015】
図2(a),(b)は従来のバランス測定装置を用いて挿入物を備えた回転体のアンバランスを測定した場合のアンバランス量と位相を示す概略断面図である。従来のバランス測定装置を用いて、空気入りタイヤ1からなる回転体のアンバランス量mbと、空気入りタイヤ1及び騒音低減装置2からなる複合体のアンバランス量mxとを測定した場合、仮に回転体と挿入物との相対的な位置が不動であれば、これらアンバランス量mb,mxに基づいて騒音低減装置2からなる挿入物のアンバランス量mを演算することができる。
【0016】
しかしながら、バランス測定時の回転数の上昇又は下降に伴って回転体と挿入物との位相ずれが発生するため、図2(a),(b)に示すように、空気入りタイヤ1からなる回転体のアンバランス位置Pbと騒音低減装置2からなる挿入物のアンバランス位置Pとが相対的に変化し、その結果、挿入物のアンバランス量m及びその位相が測定毎に異なってしまう。そのため、従来のバランス測定装置では、挿入物のアンバランス量m及びその位相を正確に求めることができず、特にアンバランスの位相が判然としない。
【0017】
そこで、本発明では、回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定するにあたって、挿入物の周上の任意の位置に第1の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第1の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行うステップAと、挿入物のステップAにおけるウェイト装着位相から30°〜150°ずらした位置に第2の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第2の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行うステップBと、これら2つの条件で測定された複合体のアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相に基づいて、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算するステップCとを実施する。
【0018】
図3は本発明の実施形態からなる回転体への挿入物のアンバランス測定方法を示すフローチャートである。図3に示す計算式において、各計測用ウェイトの質量M1 ,M2 、複合体のアンバランス量Mm1,Mm2及び回転体が持つアンバランス量Mmbはグラム(g)単位で計算し、位相αm1,αm2,αmb,φ,θ1 ,θ2 は度(°)で計算している。例えば、cos(90°)=0、cos-1(0)=90°である。但し、質量単位としてミリグラム(mg)やキログラム(kg)等の単位を用いたり、位相単位としてラジアン(rad)単位等の単位を用いるようにしても良い。
【0019】
ステップAにおいては、挿入物の周上に設定された基準位置から回転軸廻りに位相θ1 となる位置に質量M1 の第1の計測用ウェイトを装着する(ステップA1)。そして、挿入物と第1の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行うことにより、複合体のアンバランス量Mm1と位相αm1を測定する(ステップA2)。ここで、位相αm1は回転体の周上に設定された基準位置からの回転軸廻りの位相である。
【0020】
ステップBにおいては、挿入物の周上に設定された基準位置から回転軸廻りに位相θ2 となる位置に質量M2 の第2の計測用ウェイトを装着する(ステップB1)。そして、挿入物と第2の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行うことにより、複合体のアンバランス量Mm2と位相αm2を測定する(ステップB2)。ここで、位相αm2は回転体の周上に設定された基準位置からの回転軸廻りの位相である。
【0021】
これらステップA,Bにおいては、回転体としてアンバランスを予め修正した共通のものを使用する。回転体のアンバランス量が大き過ぎると計測用ウェイトや挿入物のアンバランス量が相対的に小さくなって測定精度が低下する要因となる。
【0022】
ステップAにおけるウェイト装着位置に対するステップBにおけるウェイト装着位置の位相θは、θ=θ2 −θ1 から求められるが、この位相θは30°〜150°とする。位相θが0°又は180°であると演算結果が2通り存在するため求めるべき位相が特定できなくなる。この位相θが0°及び180°から離れた値であるほど測定精度が向上するので、位相θの範囲は60°〜120°とすることが好ましい。特に、位相θを90°とした場合、演算自体が簡素化されるため演算上の誤差を減じることが可能になる。
【0023】
ステップBにおける計測用ウェイトの質量M2 はステップAにおける計測用ウェイトの質量M1 と同じであっても良く、異なっていても良い。また、ステップA,Bにおいて計測用ウェイトの径方向の取付位置は同じであることが想定されるが、仮にステップA,Bにおいて計測用ウェイトの径方向の取付位置が異なる場合、MR=M’R’の関係から半径Rの取付位置での質量Mを半径R’の取付位置での質量M’に換算して用いるようにすれば良い。
【0024】
ステップCにおいては、ステップA,Bの2つの条件で測定された複合体のアンバランス量Mm1,Mm2と位相αm1,αm2、各計測用ウェイトの質量M1 ,M2 、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相θ1 ,θ2 に基づいて、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算する。必要であれば、回転体が持つアンバランス量Mmbと位相αmbを別途計測しておき(ステップC1)、2つの条件で測定された複合体のアンバランス量Mm1,Mm2と位相αm1,αm2から回転体が持つアンバランス量Mmbと位相αmbの成分をそれぞれ除去する。ここで、位相αmbは回転体の周上に設定された基準位置からの回転軸廻りの位相である。回転体のアンバランス量Mmbと位相αmbを用いて残留アンバランスを除去することで測定精度を向上することができる。
【0025】
次いで、図3に示す計算式に基づいて、回転体のアンバランス量Mmbと位相αmb及びステップAで測定された複合体のアンバランス量Mm1と位相αm1を用いて第1の計測用ウェイト及び挿入物のアンバランス量Q1 を演算する一方で(ステップC2)、回転体のアンバランス量Mmbと位相αmb及びステップBで測定された複合体のアンバランス量Mm2と位相αm2を用いて第2の計測用ウェイト及び挿入物のアンバランス量Q2 を演算する(ステップC3)。更に、図3に示す計算式に基づいて、既に得られた物性値をパラメータとして、挿入物のアンバランス量mと位相φを求める(ステップC4)。ここで、位相φは挿入物の周上に設定された基準位置からの回転軸廻りの位相である。
【0026】
上述した回転体への挿入物のアンバランス測定方法によれば、計測用ウェイトの位置を異ならせた2つの条件で測定された複合体のアンバランス量Mm1,Mm2と位相αm1,αm2、回転体が持つアンバランス量Mmbと位相αmb、各計測用ウェイトの質量M1 ,M2 、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相θ1 ,θ2 を用いることにより、挿入物が回転体に対して非固定で挿入されている場合であっても、挿入物の単体としてのアンバランス量mと位相φを少ない測定回数で容易に求めることができる。
【0027】
上記アンバランス測定方法において、計測用ウェイトの質量は挿入物の質量の1%以上50%以下にすると良い。これにより、挿入物のアンバランス量と位相の測定精度を向上することができる。挿入物のアンバランス量に比較して計測用ウェイトの質量が大き過ぎると、測定値に含まれる挿入物のアンバランス成分が過小になり、挿入物のアンバランス量の測定精度が低下する。また、計測用ウェイトの質量が小さ過ぎると、2回の測定での測定値の変化が小さくなり、挿入物の位相の演算精度が低下する。
【0028】
また、上記アンバランス測定方法において、計測用ウェイトの質量をバランス測定毎に定量単位で減じると共に、計測用ウェイトの装着位置をバランス測定毎に挿入物の周上の一方向に順次ずらして複合体のバランス測定のステップを繰り返し行い、最新2回の測定における複合体のアンバランス量の差ΔGとそのときに装着した計測用ウェイトの平均質量Mqとの比ΔG/Mqからなる判定量が予め設定された閾値以上になったとき、その最新2回の測定における測定条件及び測定結果に基づいて挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を求めると良い。つまり、最新2回の測定を上述したステップA,Bに当てはめれば良い。これにより、挿入物のアンバランス量と位相の測定を効率良く行うことができる。
【0029】
ここで、計測用ウェイトの質量の初期値をW(g)とし、測定毎の減量値をδ(g)とし、測定回をnとしたとき、n回目の測定時の計測用ウェイトの質量Mn はMn =W−(n−1)×δとする。計測用ウェイトの質量の初期値Wは、挿入物の質量の20%〜50%の範囲に設定すると良い。計測用ウェイトの質量の初期値Wは挿入物のアンバランス量より大きく、かつ挿入物のアンバランス量付近が好ましい。初期値Wが大き過ぎると測定回数が増加し、初期値Wが小さ過ぎると挿入物のアンバランス量を下回ってしまう恐れがある。一方、測定毎の減量値δは初期値Wの5%〜20%の範囲に設定すると良い。減量値δが小さ過ぎると測定回数が増加し、減量値δが大き過ぎるのは測定条件として好ましくない。
【0030】
装着する計測用ウェイトの質量は挿入物のアンバランス量に近いほうが好ましいので、比ΔG/Mqからなる判定量を用い、この判定量が閾値以上になったとき測定を終了させると良い。比ΔG/Mqからなる判定量の閾値は0.2〜0.5の範囲から選ばれた任意の値に設定すれば良い。この閾値を大きくするほど測定精度を高くすることが可能になる。この比ΔG/Mqの閾値を0.2以上に設定した場合、位相の誤差を3°以下にすることができる。一方、比ΔG/Mqの閾値を0.5よりも大きい値に設定した場合、精度は向上するものの、測定回数が増加するため効率の良い測定ができなくなる。
【0031】
なお、比ΔG/Mqからなる判定量に基づいて測定の終了を判断する以外に、計測用ウェイトの質量が予め設定された値以下になったときに測定を打ち切っても良い。つまり、計測用ウェイトの質量が小さくなるまで測定を要するということは、アンバランスが微小であることを意味する。
【0032】
上述のようなアンバランス測定方法によって求められた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相は、そのアンバランスの修正に利用される。つまり、上記アンバランス測定方法によって求められた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、挿入物のアンバランス位相の部分の質量をアンバランス量の分だけ減じるか、或いは、挿入物のアンバランス位相から180°の位置にアンバランス量と同じ質量のバランスウェイト(質量調整部材)を装着することにより、回転体への挿入物のアンバランスを精度良く修正することができる。勿論、挿入物のアンバランス位相の部分の質量を減じることとバランスウェイトを付加することを組み合わせても良い。
【0033】
回転体が空気入りタイヤ1であり、挿入物がタイヤトレッド部の内面に沿って延在するバンド部材3と該バンド部材3に取り付けられた吸音部材4とを備えた騒音低減装置2である場合、図4(a)に示すように、上記アンバランス測定方法によって求められた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、吸音部材4のアンバランス位相の部分4aの質量をアンバランス量の分だけ除去するか、或いは、図4(b)に示すように、バンド部材3のアンバランス位相から180°の位置にアンバランス量と同じ質量のバランスウェイト5を装着することにより、回転体への挿入物のアンバランスを修正することができる。この場合、バランスウェイト5は接着面を持ったシート状部材であることが好ましい。
【0034】
上述した実施形態では、回転体が空気入りタイヤであり、挿入物がタイヤトレッド部の内面に沿って延在するバンド部材と該バンド部材に取り付けられた吸音部材とを備えた騒音低減装置である場合について説明したが、本発明では回転体及び挿入物としては種々の構造物を包含するものである。回転体としては、挿入物を保持可能な回転体であれば良く、空気入りタイヤ、空気入りタイヤとホイールとの組立体等を挙げることができる。挿入物としては、回転体に装着可能であれば良く、ホイールのリム外周面にバンド部材を介して装着される装置(例えば、センサ装置)、ホイールのリム外周面に搭載される中子構造体(例えば、ランフラット用中子構造体)、ホイールのリム外周面又はタイヤ内面に設置される騒音低減装置、ホイールカバー等を挙げることができる。
【実施例】
【0035】
アンバランスを修正した回転体(Mmb=0g、αmb=0°)と、基準位置から30°の位置に10gのアンバランスを有する挿入物(予めアンバランスを修正した上で所定の位置に所定のウェイトを貼り付けたもの)とを用意し、これらを組み立てた状態でのバランス測定を以下の要領で行い、その結果を表1に示した。
【0036】
従来例1:
回転体に対して挿入物を非固定で取り付け、その挿入物と回転体からなる複合体のバランス測定を行った。
【0037】
比較例1:
回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定するに際し、挿入物の周上の所定の位置(θ1 =0°)に所定の質量(M1 =20g)を有する第1の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第1の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行い、挿入物の周上の所定の位置(θ2 =180°)の位置に所定の質量(M2 =20g)を有する第2の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第2の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行った後、これら2つの条件で測定された複合体のアンバランス量と位相、回転体が持つアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相に基づいて、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算した。
【0038】
実施例1:
回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定するに際し、挿入物の周上の所定の位置(θ1 =0°)に所定の質量(M1 =20g)を有する第1の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第1の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行い、挿入物の周上の所定の位置(θ2 =90°)の位置に所定の質量(M2 =20g)を有する第2の計測用ウェイトを装着した状態で挿入物と第2の計測用ウェイトと回転体からなる複合体のバランス測定を行った後、これら2つの条件で測定された複合体のアンバランス量と位相、回転体が持つアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相に基づいて、挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算した。
【0039】
【表1】

【0040】
この表1に示すように、従来例1では挿入物の単体としてのアンバランス量が得られるものの、その位相が不明であった。また、比較例1では挿入物の単体としてのアンバランス量が算出されるものの、その位相の値が2通り算出された。これに対して、実施例1では挿入物の単体としてのアンバランス量と位相が正確に得られた。
【0041】
次に、本発明のアンバランス測定方法において、計測用ウェイトの質量をバランス測定毎に定量単位で減じると共に、計測用ウェイトの装着位置をバランス測定毎に挿入物の周上の一方向に順次ずらして複合体のバランス測定のステップを繰り返し行った。
【0042】
より具体的には、アンバランスを修正した回転体(Mmb=0g、αmb=0°)と、アンバランスを修正した後で基準位置から150°の位置に10gのウェイトを貼り付けて意図的にアンバランスを生じさせた質量200gの挿入物とを用意し、初回の計測用ウェイトの質量を挿入物の質量の50%である100gとし、計測用ウェイトの質量をバランス測定毎に定量単位(δ=20g)で減じると共に、計測用ウェイトの装着位置(挿入物の基準位置に対する位置)をバランス測定毎に挿入物の周上の一方向に順次ずらして複合体のバランス測定のステップを繰り返し行い、最新2回の測定に基づいて挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算し、その結果を表2に示した。
【0043】
この試験において、測定回nでの計測用ウェイトの質量をMn とし、測定回nで測定された複合体のアンバランス量をGn としたとき、最新2回の測定における複合体のアンバランス量の差ΔGとそのときに装着した計測用ウェイトの平均質量Mqとの比ΔG/Mqからなる判定量は、ΔG/Mq=2×|Gn −Gn-1 |/(Mn +Mn-1 )により求められる。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示すように、比ΔG/Mqからなる判定量の値が増加するほどアンバランス位相の誤差が小さくなっている。特に、比ΔG/Mqが閾値0.2以上となったとき、更に好ましくは、閾値0.5以上になったとき、その最新2回の測定における測定条件及び測定結果に基づいて挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を求めるのが好ましいということが判る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】回転体である空気入りタイヤと該回転体への挿入物である騒音低減装置とからなる複合体を示し、(a)は組立前の状態の概略断面図であり、(b)は組立後の状態の概略断面図である。
【図2】従来のバランス測定装置を用いてアンバランスを測定した場合のアンバランス量と位相を示し、(a)は回転体と挿入物の或る状態での概略断面図であり、(b)は回転体と挿入物の他の状態での概略断面図である。
【図3】本発明の実施形態からなる回転体への挿入物のアンバランス測定方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態からなる回転体への挿入物のアンバランス修正方法を示し、(a)はアンバランス位相の部分の質量を除去する場合の概略断面図であり、(b)はアンバランス位相から180°の位置にバランスウェイトを装着する場合の概略断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 空気入りタイヤ(回転体)
2 騒音低減装置(挿入物) 3 バンド部材
4 吸音部材
5 バランスウェイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体に対して非固定で取り付けられた挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を測定する方法であって、前記挿入物の周上の任意の位置に第1の計測用ウェイトを装着した状態で前記挿入物と前記第1の計測用ウェイトと前記回転体からなる複合体のバランス測定を行うステップと、前記挿入物の前記ステップにおけるウェイト装着位相から30°〜150°ずらした位置に第2の計測用ウェイトを装着した状態で前記挿入物と前記第2の計測用ウェイトと前記回転体からなる複合体のバランス測定を行うステップと、これら2つの条件で測定された前記複合体のアンバランス量と位相、各計測用ウェイトの質量、及び、前記挿入物に設定された基準位置からの各計測用ウェイトの位相に基づいて、前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を演算するステップとを含むことを特徴とする回転体への挿入物のアンバランス測定方法。
【請求項2】
前記回転体が持つアンバランス量と位相を別途計測しておき、前記演算ステップにおいて前記2つの条件で測定された前記複合体のアンバランス量と位相から前記回転体が持つアンバランス量と位相の成分をそれぞれ除去することを特徴とする請求項1に記載の回転体への挿入物のアンバランス測定方法。
【請求項3】
前記計測用ウェイトの質量を前記挿入物の質量の1%以上50%以下としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転体への挿入物のアンバランス測定方法。
【請求項4】
前記計測用ウェイトの質量をバランス測定毎に定量単位で減じると共に、前記計測用ウェイトの装着位置をバランス測定毎に前記挿入物の周上の一方向に順次ずらして前記複合体のバランス測定のステップを繰り返し行い、最新2回の測定における前記複合体のアンバランス量の差ΔGとそのときに装着した計測用ウェイトの平均質量Mqとの比ΔG/Mqからなる判定量が予め設定された閾値以上になったとき、その最新2回の測定における測定条件及び測定結果に基づいて前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相を求めることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回転体への挿入物のアンバランス測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずかに記載のアンバランス測定方法によって求められた前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、前記挿入物の前記アンバランス位相の部分の質量を前記アンバランス量の分だけ減じることを特徴とする回転体への挿入物のアンバランス修正方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずかに記載のアンバランス測定方法によって求められた前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、前記挿入物の前記アンバランス位相から180°の位置に前記アンバランス量と同じ質量のバランスウェイトを装着することを特徴とする回転体への挿入物のアンバランス修正方法。
【請求項7】
前記回転体が空気入りタイヤであり、前記挿入物がタイヤトレッド部の内面に沿って延在するバンド部材と該バンド部材に取り付けられた吸音部材とを備えた騒音低減装置であり、請求項1〜4のいずかに記載のアンバランス測定方法によって求められた前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、前記吸音部材の前記アンバランス位相の部分の質量を前記アンバランス量の分だけ除去することを特徴とする回転体への挿入物のアンバランス修正方法。
【請求項8】
前記回転体が空気入りタイヤであり、前記挿入物がタイヤトレッド部の内面に沿って延在するバンド部材と該バンド部材に取り付けられた吸音部材とを備えた騒音低減装置であり、請求項1〜4のいずかに記載のアンバランス測定方法によって求められた前記挿入物の単体としてのアンバランス量と位相に基づいて、前記バンド部材の前記アンバランス位相から180°の位置に前記アンバランス量と同じ質量のバランスウェイトを装着することを特徴とする回転体への挿入物のアンバランス修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−151643(P2010−151643A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330501(P2008−330501)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】