説明

回転子の製造方法及びその製造方法を用いた回転子

【課題】
回転子の二次導体として高抵抗のアルミニウム合金材を用いた回転子のバランスウェイトのかしめ足が折れたり、亀裂の生じ無い回転子の製造方法と回転子を提供する。
【解決手段】
冷媒を圧縮する圧縮機構部に組み込まれた電動機の回転子であって、前記回転子の二次導体の材質が高抵抗のアルミニウム合金材を用いて鋳込まれ、前記回転子のバランスウェイトのかしめ足にバランスウェイトをかしめ固定する際、予め回転子を加熱した後に、前記バランスウェイトをかしめ固定する回転子の製造方法とその製造方法を用いた回転子とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉型圧縮機に搭載される電動機の回転子の製造方法とその製造方法を用いた回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵、エアコン等の室外機に用いられる密閉型圧縮機に搭載される誘導電動機及び誘導同期電動機には通常、回転子の二次導体として純アルミニウム材が使用さることが多い。
これは、低損失で電気特性的に優れ、また、鋳造し易く、低コストである点から採用される場合が多い。しかしながら、高い始動トルクを要求される場合、通常の純アルミニウム材(アルミニウム地金1種:アルミニウム 99.70(%)以上)で構成した二次導体では対応が取れない場合がある。所謂高抵抗の誘導電動機及び誘導同期電動機としなければならない場合がある。この場合、回転子の二次導体として採用される材料として高抵抗のアルミニウム合金材がある。
【0003】
しかしながら、高抵抗のアルミニウム合金材は、機械的性質の伸びが低く、純アルミニウム材に比べて硬く、回転子のエンドリング部から凸状に突き出たバランスウェイトのかしめ足として用いた場合、バランスウェイトをかしめ固定する際にかしめ足自体が折れたり、亀裂が生じたりしてバランスウェイトを確実に固定することが難しかった。
【0004】
このような高抵抗のアルミニウム合金材を使用した誘導電動機及び誘導同期電動機の特許としては特許文献1(特開昭55−126361号公報)等がある。この特許文献1では、先に述べたようにバランスウェイトのかしめ足をかしめ固定する際、かしめ足自体が折れたり、亀裂を生じたりするため、回転子の二次導体を構成する高抵抗のアルミニウム合金材のエンドリング表面に複数個のボス部を設け純アルミニウム材で構成したかしめ足の基部を埋設し一体化し、このかしめ足にバランスウェイトを取り付ける構造としている。
【0005】
【特許文献1】特開昭55−126361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の構造であればバランスウェイトは容易に固定でき小さなバランスウェイトであれば問題はない。しかしながら、密閉型圧縮機等に搭載される電動機の回転子に用いるバランスウェイトは大きいため、回転子駆動時の耐遠心力により高抵抗のアルミニウム合金材で構成されたエンドリング表面の複数個のボス部から、純アルミニウム材で構成されたかしめ足の基部が外部に吹き飛ばされたり、また、材質の温度係数の違い等により収縮膨張が繰り返されボス部とかしめ足の基部との間に隙間が生じバランスウェイトの取り付け位置がずれ、モーメント量がずれる恐れがある。また、特許文献1の様な構成は製造コストも掛り作業性が非常に悪くなってしまう。
【0007】
したがって、回転子の二次導体として高抵抗のアルミニウム合金材を用いても、回転子のエンドリング部から凸状に突き出たかしめ足にバランスウェイトをかしめ固定する際、かしめ足自体が折れたり、亀裂の生じることのない回転子が必要とされている。また、信頼性などを考慮した場合、回転子の二次導体を構成するエンドリング部の材質が、バランスウェイトのかしめ足を構成する材質と異なって構成されることもなく、回転子の耐遠心力に対してバランスウェイトが吹き飛ばされることなく、信頼性を向上した、製造コストの掛からない回転子が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
冷媒を圧縮する圧縮機構部に組み込まれた電動機の回転子において、前記回転子には、圧縮機構部で生じるアンバランス量を補正するためにバランスウェイトが取り付けられており、前記バランスウェイトはバランスウェイトに設けられたかしめ孔に前記回転子のエンドリング部から凸状に突き出たバランスウェイトのかしめ足を挿通させ一体にかしめ固定する回転子において、
前記回転子の二次導体の材質が高抵抗のアルミニウム合金材を用いて鋳込まれる回転子であって、前記回転子のバランスウェイトかしめ足に、前記バランスウェイトをかしめ固定する際、予め回転子を加熱した後に、前記バランスウェイトをかしめ固定する回転子の製造方法とする。
【0009】
また、回転子の製造工程を考慮した場合、バランスウェイトのかしめ固定する工程は、前記回転子の二次導体に高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込む工程後、前記回転子の二次導体に高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込んだ熱を利用して前記バランスウェイトをかしめ固定する工程とした回転子の製造方法とする。
【0010】
前記バランスウェイトは、前記回転子のバランスウェイトのかしめ足にかしめ固定する際、前記回転子の加熱温度とほぼ同程度の温度に加熱してから、かしめ固定した回転子の製造方法とする。
【0011】
また、これらの製造方法を用いた回転子とすることにより、バランスウェイトのかしめ足が折れたり、亀裂の生じることのない、高い始動トルクを有した密閉型圧縮機等に搭載される誘導電動機及び誘導同期電動機の回転子とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電動機は、密閉型圧縮機などに用いられる電動機の起動時に高い始動トルクを要求された場合、回転子の二次導体の材料として高抵抗のアルミニウム合金材を使用することにより高い始動トルク性能を得ることが可能となるが、一方では、圧縮機構部で生じるアンバランス量を補正するため回転子のエンドリング部から凸状に突き出たバランスウェイトのかしめ足にバランスウェイトを取り付ける際、かしめ足自体が折れたり、亀裂が生じ易いため、バランスウェイトをかしめ固定する際は、予め回転子を加熱した後に、バランスウェイトをかしめ固定することにより、バランスウェイトのかしめ足自体が折れたり、亀裂が生じることのない回転子とすることができる。これにより、回転子の遠心力などによりバランスウェイトがかしめ足から外れ、吹き飛ばされることもなくなり、信頼性を向上させた回転子の製造方法とすることができる。
【0013】
また、バランスウェイトのかしめ固定を、回転子の二次導体に高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込んだ工程後、回転子の二次導体に高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込んだ熱が冷めない状態で、バランスウェイトを回転子のエンドリング表面から凸状に突出したバランスウェイトのかしめ足にかしめ固定する製造工程とすることにより、回転子を再加熱する製造工程が省略でき、作業性を改善した回転子の製造方法とすることができる。これにより、作業時間の短縮も図ることができる。
【0014】
尚、回転子のエンドリング部から凸状に突き出たバランスウェイトのかしめ足にバランスウェイトをかしめ固定する際に、バランスウェイトは回転子を加熱した温度とほぼ同程度の温度に加熱してから、バランスウェイトのかしめ足にかしめ固定することにより、バランスウェイトのかしめ足自体が熱膨張してバランスウェイトの貫通孔に挿入できなくなるような不良が無くなり、容易にかしめ固定することができる。
【0015】
また、前記製造方法で作られた回転子を用いることにより、製造が容易で回転子の二次導体として高抵抗のアルミニウム合金材を使用することができ、高い始動トルク性能を達成した回転子とすることができる。これにより高い始動トルクを有した電動機の回転子とすることができる。
【0016】
また、信頼性などを考慮した場合、回転子の二次導体を構成するエンドリング部とバランスウェイトのかしめ足を別部材で構成することもないので回転子の耐遠心力に対しても信頼性を向上させ、製造が容易で、品質に優れた、製造コストの掛からない回転子とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、誘導電動機及び誘導同期電動機に用いられる回転子に用いることができる。
本実施形態では、圧縮機30に搭載される誘導同期電動機の回転子2として説明する。図1は圧縮機30に搭載された誘導同期電動機の回転子2の縦面図である。
【0018】
実施形態の回転子2は薄板の回転子鉄板を積層し、回転子鉄心2aを構成している。この回転子鉄心2aの回転中心には回転子軸孔37が設けられ密閉圧縮機30の圧縮機構部34と連動しているシャフト36に焼き嵌め、もしくは圧入等により挿入されている。この圧縮機構部34では、アキュームレータ31で冷媒と冷凍機油が分離され、分離された冷凍機油は油溜め35に戻り、分離された冷媒は吸入管32から圧縮機構部34に入り、圧縮機構部34で冷媒と冷凍機油とが圧縮され混合ガスとして、圧縮機30に組み込まれた電動機の固定子1に設けられた切り欠き部、ギャップ、回転子2に設けられた通路孔等を経由して吐出管33から吐出される循環サイクルとなっている。
【0019】
図1の実施形態の回転子2には、回転子鉄心2a内の外周近傍に、誘導同期電動機の始動時の起動トルクを得るために使用する二次導体10の高抵抗のアルミニウム合金材が鋳込まれる挿通孔11が円周方向に複数個設けられている。この挿通孔11と回転子軸孔37との間には、誘導同期電動機の運転時に使用する永久磁石8が埋め込まれる永久磁石挿入孔9が設けられている。本実施形態の回転子2の極数は2極(1対極)を形成している。
【0020】
次に、図1で用いられる圧縮機の誘導同期電動機の回転子2の製造方法について説明する。
回転子鉄心2aは、薄板電磁鋼板をプレスなどで打ち抜き、隣同志の薄板電磁鋼板を凸凹の係り止めにより一体に積層した周知のオートクランプ方式で積層されている。
【0021】
その後、回転子2の回転子鉄心2a内の外周近傍の円周方向に設けられた複数の挿通孔11に高抵抗のアルミニウム合金をダイキャストする。本実施形体で使用する高抵抗のアルミニウム合金材はシリコン量が全体重量の4.5(%)〜13.5(%)程度含んでいるアルミニウム合金材であり、アルミニウム−シリコン系、アルミニウム−シリコン−マンガン系、アルミニウム−マグネシウム系、アルミニウム−マグネシウム−マンガン系、アルミニウム−シリコン−銅系、アルミニウム−シリコン−銅−マンガン系のアルミニウム合金材である。ダイキャストの湯温は、約700度程度としている。
【0022】
図2には本実施形態に用いる密閉型圧縮機30に搭載される誘導同期電動機の回転子2の回転子鉄心2aに高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込んだダイキャスト後に、各部品を回転子2に組み付ける様子を示している。また、図3は各部品が回転子2に組み付けられた後の様子を示している。図2に示すようにダイキャスト後の回転子鉄心2aを冷却後、永久磁石8を永久磁石挿入孔9に挿入する。この際、永久磁石挿入孔9に永久磁石8を挿入する方法として、隙間ばめ、圧入、焼きばめ等がある。ここで、永久磁石8を永久磁石挿入孔9に挿入する場合、ダイキャスト時の熱を利用して、圧入、焼きばめ等を行うこともできる。回転子鉄心2aの温度が下がらないうちに、永久磁石8を永久磁石挿入孔9に挿入させて冷却をすることにより永久磁石8はずれることなく永久磁石挿入孔9に確実に固定することができる。
【0023】
永久磁石挿入孔9に永久磁石8を挿入した後、永久磁石挿入孔9から永久磁石8が飛び出さないように永久磁石挿入孔9を端板3で塞いでいる。この場合、回転子鉄心2aに設けられた永久磁石挿入孔9の開口部が、回転子鉄心2aの両方に開口している場合は、回転子鉄心2aの両端部に端部3を用いて開口部を塞ぐように取り付ける。また、回転子鉄心2aの薄板鉄板により、どちらか片方を塞いだ状態となっている場合(図1及至図3参照)、永久磁石8を挿入した側の開口部のみ端板3で塞ぐことになる。
【0024】
また、同様に、高抵抗のアルミニウム合金材で構成された二次導体10の回転子2のエンドリングから飛び出たかしめ足6にバランスウェイト5を挿通させかしめ固定する際、常温でエンドリングから飛び出ているかしめ足6にバランスウェイト5をかしめ固定しようとすると、かしめ足6が折れたり、亀裂が入ってしまうため、バランスウェイト5を確実に回転子2に固定することができない。
【0025】
ここでは、回転子2をダイキャスト後、回転子2に予め熱を加え、回転子2の二次導体10として構成されたエンドリング7から凸状に突き出たバランスウェイトのかしめ足6が加熱された状態でバランスウェイト5をかしめ固定している。図4には回転子2を予め加熱してバランスウェイト5をかしめた場合のかしまり具合の不良率を示した図である。縦軸は製品流動時の1ロット中の不良率を表している。横軸は、回転子2を予め加熱した加熱温度を示している。図4からも解るように回転子2の加熱温度が約200度以下では不良率が徐々に多くなり、加熱温度が約180度以下では全くと言っていいほどかしめ足6にバランスウェイト5をかしめることができない。無理にかしめ様とすると、かしめ足6が折れたり、亀裂が生じる。
【0026】
従って、回転子2の二次導体10として高抵抗のアルミニウム合金材を使用した場合、回転子2を予め約200度以上に加熱することによりバランスウェイト5のかしめ不良を低減することができる。一方、本実施形態では、回転子鉄心2aの永久磁石挿入孔9に永久磁石8を挿入し回転子鉄心2aの両端部もしくは片方を端板3で塞いでいるが、端板3をエンドリング7に固定する際も同様の問題が起こる場合がある。例えば高抵抗のアルミニウム合金材で構成された二次導体10の回転子2のエンドリング7から飛び出た突起部12に端板3を固定する場合には予め約200度以上に加熱してから端板3等を固定することが好ましい。
【0027】
尚、ここでの回転子2の加熱温度はバランスウェイト5や端板3を高抵抗のアルミニウム合金材で構成された二次導体10の回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12に固定する場合、少なくとも加熱温度が200度以上に維持する必要がある。
【0028】
ここでは、回転子鉄心2aに二次導体10をダイキャストする際、高抵抗のアルミニウム合金材の湯温を約700度の高温に加熱している。ダイキャスト後は回転子2を常温まで下げ、後工程の回転子2の取り扱を容易にしている。従って、約700度の高温から常温まで回転子2を一旦冷却するための時間が必要となる。そして、後工程の回転子2の組み立て工程において、バランスウェイト5や端板3を回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12にかしめ固定するために再度加熱し回転子2に取り付けている。
【0029】
この工程を図5のフローチャートで示す。約700度で回転子鉄心2aに高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込む。その後、回転子2の外径加工、次に回転子2の内径加工が完了した後、回転子2を約300度〜約200度程度(実施形態では回転子2の組み立て工程において、バランスウェイト5や端板3を回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12にかしめ固定するまでの間に自然冷却してしまうため、これを考慮して約280度程度)まで再加熱した後、回転子2の永久磁石挿入孔9に永久磁石8を挿入し、バランスウェイト5、端板3をそれぞれ、回転子2のエンドリング7から飛び出したかしめ足6や突起部12にかしめ固定して誘導同期電動機の回転子2が完成する。尚、誘導電動機の場合は、回転子2を前記同様に再加熱後、バランスウェイト5のみを回転子2のエンドリング7から飛び出したかしめ足6にかしめ固定して完成となる。
【0030】
ここで、前記にも記述したが、この回転子2が冷却する途中の回転子2の製品温度が約300度〜約200度近辺において、高抵抗のアルミニウム合金材で構成された二次導体10の回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12でバランスウェイト5や端板3を固定することにより、ダイキャスト後、回転子2を再度、バランスウェイト5や端板3をかしめ固定するだけのために再加熱する必要も無くなる。
【0031】
この工程を図6のフローチャートに示す。約700度で回転子鉄心2aに高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込む。その後、回転子2を約300度〜約200度程度(実施形態では回転子2の組み立て工程において、バランスウェイト5や端板3を回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12にかしめ固定するまでの間に自然冷却してしまうため、これを考慮して約280度程度)まで冷却後、回転子2の永久磁石挿入孔9に永久磁石8を挿入し、バランスウェイト5、端板3をそれぞれ、回転子2のエンドリング7から飛び出したかしめ足6や突起部12にかしめ固定した後、回転子2の外径加工、内径加工をして誘導同期電動機の回転子2を完成する。尚、誘導電動機の場合は、回転子鉄心2aに二次導体10の高抵抗のアルミニウム合金材をダイキャストした後、バランスウェイト5のみを回転子2のエンドリング7から飛び出したかしめ足6にかしめることになる。
【0032】
この工程としては、回転子2に高抵抗のアルミニウム合金材の二次導体10を鋳込んだ工程後、鋳込んだ熱が約300度〜約200度程度(実施形態では回転子2の組み立て工程において、バランスウェイト5や端板3を回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12にかしめ固定するまでの間に自然冷却してしまうため、これを考慮して約280度程度)まで冷却した後に、バランスウェイト5や端板3をかしめる工程とすることにより、作業時間の短縮ができ回転子2を再加熱する工程を省略することができる。そして、高抵抗のアルミニウム合金材で構成された回転子2の二次導体10のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12が折れたり、亀裂が生じることも無くなり、品質的にも優れ、安定した製品を作ることができる。
【0033】
尚、回転子2をダイキャスト後、ダイキャスト型から取り出し、バランスウェイト5や端板3をかしめ固定する温度を約300度〜約200度程度まで自然冷却しているが、時間に余裕のない場合や、作業効率を考えた場合、強制的に冷却を施してもよい。実施形態では約280度程度に加熱し加熱温度が約200度より下がらない温度でバランスウェイト5や端板3のかしめ作業を行っている。
【0034】
但し、回転子2のエンドリング7から飛び出した突起部12がさほど大きくなく簡易に端板3を固定するだけであれば、必ずしもこの工程にしなければならないことはなく作業性の良い工程とすればよい。例えば、約700度で回転子鉄心2aに高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込む。その後、回転子2を約300度〜約200度程度(実施形態では回転子2の組み立て工程において、バランスウェイト5や端板3を回転子2のエンドリング7から飛び出たかしめ足6や突起部12にかしめ固定するまでの間に自然冷却してしまうため、これを考慮して約280度程度)まで冷却後、バランスウェイト5のみを回転子2のエンドリング7から飛び出したかしめ足6にかしめ固定した後、回転子2の外径加工、内径加工をして、その後、回転子2の永久磁石挿入孔9に永久磁石8を挿入し、回転子2のエンドリング7から飛び出した突起部12に端板3をかしめ固定して誘導同期電動機の回転子2としてもよい。また、前記工程において回転子2の外径加工、内径加工については、必要のない場合は省略することができ、回転子2の内径加工が先の工程で、外径加工が後の工程でもよい。必要において追加、削除、変更することができる。
【0035】
また、密閉型圧縮機30の回転子2は、図1で説明したように圧縮機構部34での偏心ロータにより発生するアンバランス量を回転子2で補正するためのバランスウェイト5を回転子2に取り付けているが、ここで問題になるのは回転子2の二次導体10である高抵抗のアルミニウム合金材が、製品温度が約300度〜約200度程度となっているため、熱膨張によりかしめ足6が膨らんでしまう。従って、常温では問題なくバランスウェイト5をかしめ足6に挿通させることができるが、熱時ではバランスウェイト5をかしめ足6に挿通することが出来ずに、かしめ足6の途中にバランスウェイト5が止まってしまう。
【0036】
そこで、回転子鉄心2aの高抵抗のアルミニウム合金材をダイキャストすると同時に、バランスウェイト5も加熱し、バランスウェイト5の温度を約300度〜約200度程度になるようにする。バランスウェイト5の材質と回転子2の高抵抗のアルミニウム合金材との若干の熱膨張係数の違いがあるが回転子2の温度と略同じ程度にする。これにより、製品温度が約300度〜約200度程度で熱膨張した回転子2のかしめ足6でも、容易にバランスウェイト5を挿通させ、かしめ足6の途中にバランスウェイト5が止まることなく確実にバランスウェイト5を固定することができる。
【0037】
これにより製造された電動機の回転子2は、密閉型圧縮機30の高い始動トルクが要求される電動機に用いることができ、回転子2の二次導体10の材料として高抵抗のアルミニウム合金材を使用することにより高い始動トルク性能を得ることが可能となる。また、これらの回転子2に用いられる、回転子2のエンドリング部7から凸状に突き出たかしめ足6にバランスウェイト5を取り付ける際に、バランスウェイト5のかしめ足6が折れたり、亀裂の生じることの無い回転子2にすることができ、高性能で、製造が容易で、品質的にも優れた回転子2とすることができ、信頼性を向上させた製造方法にて製作した回転子2とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態の圧縮機に搭載された誘導同期電動機の回転子の縦面図である。
【図2】図1の回転子のエンドリングのかしめ足及び突起部にバランスウェイト及び端板をかしめる前の図である。
【図3】図2に示した回転子のエンドリングのかしめ足及び突起部にバランスウェイト及び端板をかしめた後の図である。
【図4】回転子のエンドリングのかしめ足にバランスウェイトをかしめる際の加熱温度に対する不良率を示した図である。
【図5】実施形態における回転子の製造工程を示すフローチャート図である。
【図6】別の実施形態における回転子の製造工程を示すフローチャート図である。
【0039】
1・・・固定子
2・・・回転子
2a・・・回転子鉄心
3・・・端板
4・・・かしめ孔
5・・・バランスウェイト
6・・・かしめ足
7・・・エンドリング
8・・・永久磁石
9・・・永久磁石挿入孔
10・・・二次導体
11・・・挿通孔
30・・・圧縮機
31・・・アキュームレータ
32・・・吸入管
33・・・吐出管
34・・・圧縮機構部
35・・・油溜め
36・・・シャフト
37・・・回転子軸孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構部に組み込まれた電動機の回転子において、前記回転子には、圧縮機構部で生じるアンバランス量を補正するためにバランスウェイトが取り付けられており、前記バランスウェイトはバランスウェイトに設けられたかしめ孔に前記回転子のエンドリング部から凸状に突き出たバランスウェイトのかしめ足を挿通させ一体にかしめ固定する回転子において、
前記回転子の二次導体の材質は高抵抗のアルミニウム合金材を用いて鋳込まれた回転子であって、前記回転子のバランスウェイトかしめ足に、前記バランスウェイトをかしめ固定する際、予め回転子を加熱した後に、前記バランスウェイトをかしめ固定したことを特徴とする回転子の製造方法。
【請求項2】
前記バランスウェイトのかしめ固定は、前記回転子の二次導体に高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込んだ工程の後であって、前記回転子の二次導体に高抵抗のアルミニウム合金材を鋳込んだ熱を利用して前記バランスウェイトをかしめ固定したことを特徴とする請求項1項に記載の回転子の製造方法。
【請求項3】
前記バランスウェイトは、前記回転子のバランスウェイトのかしめ足にかしめ固定する際、前記回転子を加熱した温度とほぼ同程度の温度に加熱してかしめ固定したことを特徴とする請求項1項または請求項2項に記載の回転子の製造方法。
【請求項4】
請求項1項及至請求項3項のいずれか一つに記載の製造方法を用いた回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−114949(P2010−114949A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282892(P2008−282892)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000100872)アイチエレック株式会社 (58)
【Fターム(参考)】