説明

回転式分析チップおよびそれを用いた測定システム

【課題】回転式分析チップにおいて、反応リザーバと測定リザーバとが一体化された反応測定リザーバを有し、該反応測定リザーバ中に反応ビーズ(抗体等が固定されたビーズ)が設置されている場合でも、反応測定リザーバ中の反応液の光学的測定値に反応ビーズに起因する誤差が生じ難い回転式分析チップ、および、それを用いた簡便な測定システムを提供すること。
【解決手段】本発明は、サンプル液が収容されるサンプルリザーバと、試薬液が収容される試薬リザーバと、前記サンプルリザーバおよび前記試リザーバに対して外周部方向に設けられ、反応ビーズが収容される反応測定リザーバと、前記サンプルリザーバと前記反応測定リザーバとを接続するサンプル流路と、前記試薬リザーバと前記反応測定リザーバとを接続する試薬流路とを備え、前記反応測定リザーバが、前記反応ビーズの移動を制限できる形状であることを特徴とする、回転式分析チップである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式分析チップをターンテーブルなどの遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転による遠心力を利用して回転式分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システム、および、それに用いられる回転式分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々な分析チップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称して分析チップと称する。)が提案されている。分析チップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm〜1cm程度のチップ内で行なえることから、検体(サンプル)および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。このような分析チップは、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0003】
分析チップの一例としては、その内部に、流体に対して特定の処理を行なう部位(室)とこれら部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網である「流体回路」を備えた分析チップが挙げられる。このような内部に流体回路を備える分析チップを用いて、検体の検査・分析(たとえば、検体が血液の場合にあっては、血液または血液中に含まれる特定成分の測定が挙げられる。)を行う場合、当該流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体やこれと混合される試薬の計量、検体と試薬との混合などの種々の流体処理が行なわれる。かかる種々の流体処理は、分析チップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことが可能である。
【0004】
ここで、検体または検体中の特定成分と混合あるいは反応させるための試薬があらかじめ流体回路内に内蔵、保持された、いわゆる試薬内蔵型分析チップが従来知られている。試薬内蔵型分析チップは、通常、その流体回路の一部として、試薬を保持するための1または複数の試薬保持リザーバを備えており、分析チップ製造時に試薬を当該試薬保持リザーバに充填、封止し、かかる状態で出荷されて使用に供される。
【0005】
近年、回転による遠心力を利用して流体回路に検体やビーズを流すための回転式の分析チップの開発が進められており(特許文献1、2)、コンパクトディスク(CD)のような円盤状の板の上に多数のリザーバとそれを接続する微細流路を作製し、これを回転させることにより生じる遠心力を利用して、リザーバ中の液体を微細流路に順次流す方法(多段階送液)も開発されている(非特許文献1)。このような方法を用いることにより、ポンプやバルブなどの周辺機器を使用せずに送液が行えるため、分析システム全体を小型化することができ、イムノアッセイ法に要求される試薬の添加や洗浄などの煩雑な操作を自動化できるというメリットがある。また、微小空間を反応の場としているため微量の検体でも測定することができ、分析時間も短縮することができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された測定方法では、通常、ポイントセンサー部を流路にそった直線方向に移動させることにより、全体をスキャンする必要があり、そのようなスキャン装置が必要となる。また、上記非特許文献1に開示された円盤状分析チップでは、微細流路のジャンクション部分の毛管力と回転による遠心力とを調節することで、各リザーバに溶液を流すため、各リザーバでの保持時間を厳密に制御するためには複雑な回路設計が必要となる。また、各リザーバでの保持時間(反応時間)の誤差が測定誤差に繋がる恐れもある。
【0007】
本発明者らは、既に、回転による遠心力を変化させることにより多段階送液のプロファイルをより厳密に制御することができる回転式分析チップを提案している。その回転式分析チップは、その表面に、サンプルリザーバと、該サンプルリザーバに対して回転式分析チップの外周部方向に設けられた反応リザーバと、該反応リザーバに対して回転式分析チップの外周部方向に設けられた測定リザーバとを有し、また、サンプルリザーバと反応リザーバとを接続する第1の流路、および、上記反応リザーバと上記測定リザーバとを接続する第2の流路を有しており、この第1の流路の断面積が上記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴としている。
【0008】
しかし、かかる回転式分析チップを用いた実際の測定においては、検体中の夾雑物や未反応物を反応リザーバ中から除去するための洗浄が必要となる場合が多く、その場合、洗浄液を溜めるための廃液リザーバを、測定リザーバの外周部方向に、さらに設ける必要がある。このため、回転式分析チップにおいては、該チップの製造を容易にし、製造コスト低減や製造効率の向上を図るために、反応リザーバと測定リザーバを一体化して反応測定リザーバとすることが好ましい。
【0009】
反応測定リザーバの反応液は直接的に光学的方法等によって測定されるが、測定のための反応ビーズ(抗体等が固定されたビーズ)が反応測定リザーバ中に設置されている場合、この反応ビーズによって光学的方法による測定値に誤差が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−185671号公報
【特許文献2】特開2005−241453号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】中嶋秀、「コンパクトディスク型マイクロチップを用いる流れ分析法」、「ぶんせき」社団法人日本分析化学会、2009年7月、p.381−382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、上記回転式分析チップにおいて、反応リザーバと測定リザーバとが一体化された反応測定リザーバを有し、該反応測定リザーバ中に反応ビーズ(抗体等が固定されたビーズ)が設置されている場合でも、反応測定リザーバ中の反応液の光学的測定値に反応ビーズに起因する誤差が生じ難い回転式分析チップ、および、それを用いた簡便な測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、サンプル液が収容されるサンプルリザーバと、
試薬液が収容される試薬リザーバと、
前記サンプルリザーバおよび前記試薬リザーバに対して外周部方向に設けられ、反応ビーズが収容される反応測定リザーバと、
前記サンプルリザーバと前記反応測定リザーバとを接続するサンプル流路と、
前記試薬リザーバと前記反応測定リザーバとを接続する試薬流路とを備え、
前記反応測定リザーバが、前記反応ビーズの移動を制限できる形状であることを特徴とする、回転式分析チップである。
【0014】
前記反応測定リザーバが、前記反応ビーズが移動可能な領域と移動不可能な領域とからなることが好ましい。
【0015】
前記反応測定リザーバが、少なくとも1つのビーズ固定部材を有することが好ましい。
前記試薬リザーバは、前記試薬流路との接続部を除いて密閉されており、該試薬リザーバの壁の一部が開通可能なシール部材で構成されることが好ましい。
【0016】
上記の回転式分析チップは、さらに、前記反応測定リザーバに対して外周部方向に設けられた廃液リザーバ、および、前記反応測定リザーバと前記廃液リザーバとを接続する廃液流路を備えることが好ましい。
【0017】
前記サンプル流路の断面積が前記廃液流路の断面積よりも大きいことが好ましい。
前記試薬流路の断面積が前記廃液流路の断面積よりも大きいことが好ましい。
【0018】
上記の回転式分析チップは、さらに、前記反応測定リザーバに対して中心方向に設けられた洗浄液リザーバ、および、該洗浄液リザーバと前記反応測定リザーバとを接続する洗浄液流路を備えることが好ましい。
【0019】
前記洗浄液リザーバは、前記洗浄液流路との接続部を除いて密閉されており、該試薬リザーバの壁の一部が開通可能なシール部材で構成されることが好ましい。
【0020】
前記洗浄液流路の断面積が前記廃液流路の断面積よりも大きいことが好ましい。
上記の回転式分析チップは、遠心装置に配置された前記回転式分析チップが、該遠心装置によって回転することにより生じる遠心力を利用して、少なくとも前記サンプルおよび前記試薬液を前記反応測定リザーバに移送した後に、反応測定リザーバを光学的方法により測定する測定方法に用いられることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記試薬液が収容された密閉チャンバを備え、
該密閉チャンバは、上記の回転式分析チップに結合された状態で、該密閉チャンバと前記試薬リザーバとを連通させるための連通手段を有する、試薬カセットにも関する。
【0022】
さらに、本発明は、上記の回転式分析チップ、および、遠心装置を備え、
遠心装置に配置された前記回転式分析チップが、該遠心装置によって回転することにより生じる遠心力を利用して、少なくとも前記サンプルおよび前記試薬液を前記反応測定リザーバに移送した後に、反応測定リザーバを光学的方法により測定するための、測定システムに関する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の回転式分析チップは、反応リザーバと測定リザーバとが一体化された反応測定リザーバを有し、該反応測定リザーバ中に反応ビーズ(抗体等が固定されたビーズ)が設置されていながらも、反応測定リザーバ中の反応液の光学的測定値に反応ビーズに起因する誤差が生じ難いという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】本発明の測定システムの概略を示す模式図である。
【図1B】回転式分析チップの概略を示す図である。
【図2】回転式分析チップのリザーバおよび流路の概略を示す斜視図である。
【図3】回転式分析チップの一例のリザーバおよび流路を示す上面図である。
【図4】回転式分析チップの他の例のリザーバおよび流路を示す上面図である。
【図5】本発明の回転式分析チップの具体的態様を示す上面図である。
【図6】図5に記載の回転式分析チップを遠心装置上に配置した状態を示す上面図である。
【図7】図5と一部異なる回転式分析チップを用いた測定方法の各工程における送液の状態を示す模式図である。
【図8】本発明の回転式分析チップにおける試薬リザーバの一形態を示す断面模式図である。
【図9A】本発明の回転式分析チップに用いる試薬カセットの一形態を示す模式図である。
【図9B】図9Aに記載の試薬カセットの使用方法を説明するための断面模式図である。
【図10A】実施例1の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。
【図10B】実施例1の反応測定リザーバの形状の詳細を説明するための上面図である。
【図10C】実施例1の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図11A】実施例2の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。
【図11B】実施例2の反応測定リザーバの形状の詳細を説明するための上面図である。
【図11C】実施例2の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図12A】実施例3の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。
【図12B】実施例3の反応測定リザーバの形状の詳細を説明するための上面図である。
【図12C】実施例3の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図13A】実施例4の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。
【図13B】実施例4の反応測定リザーバの形状の詳細を説明するための上面図である。
【図13C】実施例4の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図14A】実施例5の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。
【図14B】実施例5の反応測定リザーバの形状の詳細を説明するための上面図である。
【図14C】実施例5の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図15A】比較例1の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図15B】比較例2の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図15C】比較例3の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図16A】比較例4の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【図16B】比較例5の蛍光強度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(回転式分析チップおよびそれを用いた測定システムの概要)
図1Aに、本発明の回転式分析チップが適用される測定装置の概略を示す。回転式検査チップ1はターンテーブル21上に設置されており、モータ22で回転させることができる。回転式分析チップ1に設けられた流路内における種々の流体処理は、回転式分析チップに対して働く、遠心装置2のターンテーブル21の中心から外周部方向への遠心力を順次変化させることにより行なうことができる。回転式分析チップに働く遠心力は、モータ22およびターンテーブル21などの回転機構を有する遠心装置に、回転式分析チップ1を載置して回転させることにより発生する。ターンテーブル21の回転数を変化させることにより、回転式分析チップに働く遠心力を変化させることができる。
【0026】
図1Bに回転式分析チップの概略を示す。図1Bに、本発明の回転式分析チップの一実施形態を示す。回転式分析チップ1には、中心から外周部方向に向けて、いくつかのリザーバが設けられており、それらの各リザーバを接続する流路部分が設けられている。なお、本明細書において「リザーバ」とは、サンプル液(検体)、試薬液、洗浄液、廃液などを保持する領域を意味する。
【0027】
本発明の回転式分析チップは、少なくとも反応測定リザーバ12(中に反応ビーズ4が収容されている)を備えている。なお、図1Bは分析チップの概略を説明するための概略図であり、本発明の回転式分析チップは、図示されていないリザーバや流路を有していてもよい。
【0028】
本明細書においては、回転式分析チップが遠心装置に設置された状態での遠心装置の(ターンテーブル等の)回転軸に向く方向を「中心方向」、遠心装置の外周側に向く方向を「外周部方向」と呼ぶこととする。
【0029】
回転による遠心力で反応ビーズ4が収容された反応測定リザーバ12に導入された液体に、光源31から励起のための電磁波を照射し、液体中の蛍光物質によって励起される蛍光などを光検出器32で検出する。光源31としては、LED(発光ダイオード)、LD(レーザーダイオード)などを用いることができ、光検出器32としては、PD(フォトダイオード)、APD(アバランシェ・フォトダイオード)、PM(フォトマル)などを用いることができる。
【0030】
図2を用いて回転式分析チップのリザーバおよび流路の概略を説明する。図2に示されるように、回転式分析チップの中心側からサンプルリザーバ11、サンプル流路101、反応測定リザーバ12、廃液流路102、廃液リザーバ13が設けられている。反応測定リザーバ12にはタンパク質等が結合された反応ビーズ4が充填されている。ここで、サンプル流路101の断面積は廃液流路102の断面積よりも大きくなるように設計されていることが好ましい。なお、図2はリザーバおよび流路の概略を説明するための概略図であり、本発明の回転式分析チップは、通常、図示されていないリザーバや流路を有していてもよく、サンプルリザーバ11が試薬リザーバや洗浄液リザーバを兼ねていてもよい。
【0031】
上記回転式分析チップの材料は特に限定されないが、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ガラス、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。工業的に生産するためには、PMMA、PET、COP、COCを用いることが好ましい。反応測定リザーバにおける測定が蛍光の検出量の測定である場合、少なくとも反応測定リザーバを構成する材料は蛍光を生じにくい材料であることが好ましい。蛍光を生じにくい材料は、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂であり、具体的にはPMMA、COP、COCが挙げられる。
【0032】
回転式分析チップの厚さは特に限定されないが、0.1〜100mmであることが好ましく、より好ましくは2〜3mmである。回転式分析チップの基板に流路部分を形成する方法は特に限定されないが、機械加工、サンドブラスト加工、射出成型などのいずれか、もしくは複数を組み合わせた加工方法を用いて、基板に1μm〜10mmの幅もしくは深さの流路を形成し、熱圧着、接着、嵌め込み等の方法で、複数(通常は2枚)の基板、フィルムなどを接合することにより形成する方法が挙げられる。形成された流路の断面積は、10μm2〜10mm2であることが好ましい(深さは、5μm〜5mmであることが好ましい)。
【0033】
回転式分析チップに形成される各流路は各リザーバとの接続以外に外部と連通していないことが好ましい。サンプルおよび試薬が外部に流出する恐れや、サンプルおよび試薬の劣化による測定誤差を生じる恐れがあるからである。
【0034】
回転式分析チップに形成される各流路(上記サンプル流路、廃液流路など)の内部表面は、接触角の大きい材料(撥水性の高い材料)から形成されることが好ましい。流路の内部表面の接触角が小さい(親水性が高い)と、毛細管現象により各リザーバ間を液体が移動してしまうため、送液の制御が難しくなるためである。そのためには、各流路の内部表面には、撥水コート層を有することが好ましい。撥水コート層を有することにより、一定の回転数における僅かな変化で全ての液体が中心側のリザーバから外周部側のリザーバ(例えば、サンプルリザーバから反応測定リザーバ)へ全て送液され送液制御が容易になる傾向があるためである。また、流路への異物やタンパクの吸着を防ぐ効果も期待できる。なお、流路の全てに同様の撥水コートを施してもよく、部分毎に別の種類の撥水コートを施してもよい。ただし、サンプルリザーバの内部表面には撥水コート層を形成しないことが望ましい。検体をサンプルリザーバに注入する際等に不都合が生じる場合があるからである。
【0035】
撥水コート層の材料は特に限定されないが、蛍光を生じにくい材料が好ましく、回転式分析チップの基板材料の表面を曇らせたり、溶かしたりしない材料が好ましい。具体的には、回転式分析チップの基板材料としてアクリル樹脂を用いる場合、例えば、フロロテクノロジー社製のフロロサーフ(登録商標)、旭硝子社製のサイトップ(登録商標)、日華化学社製のアデッソ(登録商標)などが挙げられる。このうち、好ましくは、フロロテクノロジー社製のフロロサーフである。
【0036】
なお、回転式分析チップの形状は、例えば円盤状であるが、必ずしも円盤状である必要はなく、バランスよく回転することの出来る形状であれば正多角形、長方形等の他の形状を採用することもできる。また、回転式分析チップは、複数の分割チップを設置することのできる円盤型のチップホルダーに、各分割チップを設置することで構成されるようなものであってもよい。
【0037】
上記サンプルリザーバが、検体を注入するための注入口を有している場合、検体注入前に異物の混入を防ぎ、また検体注入後に注入口を覆うシールを貼付してもよい。シールには、記号、数字、説明書きなどを記載し、検体を注入した注入口の番号と検出器からの出力結果が対応するようにしてもよい。
【0038】
上記反応測定リザーバにおける反応は、特に限定されないが、抗原−抗体反応、蛋白質とリガンドとの反応、ハイブリダイゼーション反応、酵素反応などが挙げられる。
【0039】
上記反応測定リザーバには、タンパク、DNA、生体分子等を固定するためのビーズが充填されていることが好ましい。ビーズは特に限定されないが、例えば、プラスチックビーズ、ガラスビーズ、金属(磁性を持つものなど)ビーズが挙げられる。ビーズの直径は、好ましくは1μm〜10mmであり、より好ましくは0.1〜1.0mmであり、廃液流路に流れ込まない程度の大きさとすることが好ましい。ビーズの形状は特に限定されないが、球体、立方体、円筒体などが挙げられ、複数の形状のビーズを組み合わせて充填してもよい。また、多孔質材料からなるビーズを用いてもよい。
【0040】
上記反応ビーズは、通常、上記の各種反応に必要な生体分子等で修飾されている。例えば、反応が抗原抗体反応であり、検体中の抗原を測定する場合は、ビーズに同様の抗原、または抗体を修飾することが好ましい。この場合、サンプルリザーバに抗体を含む検体と抗原−標識複合体を含む試薬とを注入し、反応測定リザーバに送ることにより、抗原抗体反応が行われ、その後、未反応の抗原−標識複合体を含む液が廃液リザーバに送られる。反応測定リザーバに貯留された液に蛍光を励起する電磁波を照射し、励起された蛍光を測定することで、検体中の抗体を定量することができる。
【0041】
図3に示すように、上記反応測定リザーバ12および/または廃液リザーバ13には排気口121,131が設けられることが好ましい。排気口がないと気圧により流路に液を流すことが難しくなるためである。このとき、排気口121,131が設けられる位置は、反応測定リザーバ12、廃液リザーバ13よりも回転式分析チップの中心側(上流側)であることが好ましい。反応測定リザーバ12および廃液リザーバ13内の液体が、図中の矢印の方向に働く遠心力によって、排気口121,131から外部に流出してしまわないようにするためである。特に反応測定リザーバ12に空気が入ると測定値に影響するため、液で満たされるようにすることが望ましい。同様の理由により、排気管122,132は、それぞれ反応測定リザーバ12、測定リザーバ13の回転式分析チップの中心側に接続されることが好ましい。
【0042】
図2では2段階の送液機構を説明したが、本発明の回転式分析チップは3段階以上の送液機構を有する構造とすることが好ましい。3段階の送液機構を有する本発明の回転式分析チップの一例の流路部分を図4に示す。図4に示される回転式分析チップにおいては、反応測定リザーバ12よりも回転式分析チップの中心側(上流側)に、サンプルリザーバ11とは別に、試薬流路103で接続された試薬リザーバ14を備えられている。ここで、各流路の断面積(太さ)は、例えば、サンプル流路101>試薬流路103>廃液流路102となるように設計することができる。これのような回転式分析チップの回転速度を段階的に早くすることにより、3段階の送液が可能となる。すなわち、まず回転速度を適度な速度まで上げることでサンプルリザーバ11中の検体(サンプル液)を反応測定リザーバ12に導入し、次に回転速度をさらに上げることで試薬リザーバ14の試薬を反応測定リザーバ12に導入し、さらに回転速度を上げることで検体と試薬の反応液を廃液リザーバ13に導入することができる。
【0043】
上記回転式分析チップを用いた測定システムは、それ単体で測定結果を表示する機能を有することが好ましい。持ち運びが容易となり、自宅での測定等様々な場面での使用が可能となるためである。あるいは、コンピュータなどの外部の制御装置に接続し、制御装置上の表示機能により測定結果を表示し、ソフトウェアで制御を行ってもよい。例えば、ソ
フトウェアに基づいたコンピュータからの指示通りに検体、試薬を回転式分析チップに注入したり、回転式分析チップの回転速度を制御し、コンピュータの画面上に測定結果のグラフや測定値などを表示させることができる。この場合は、コンピュータ以外の測定システムの構成点数が少なくなり、小型化した安価なシステムを提供することができる。
【0044】
(回転式分析チップの具体的態様)
図5は、本発明の回転式分析チップのより具体的な態様を示す上面図である。図5に示される回転式分析チップは、少なくともサンプルリザーバ11、反応測定リザーバ12および試薬リザーバ(第1の試薬リザーバ14aおよび第2の試薬リザーバ14b)とを備えており、反応測定リザーバ12内には反応ビーズ4が収容されている。
【0045】
本発明の回転式分析チップは、反応測定リザーバ12の形状が反応ビーズ4の移動を制限できる形状であることを特徴としている。反応測定リザーバ12は、反応ビーズ4が移動可能な領域と移動不可能な領域とからなることが好ましい。また、反応測定リザーバ12は、少なくとも1つのビーズ固定部材を有することが好ましい(図13A、図14A参照)。
【0046】
図5に示す回転式分析チップは、さらに、廃液リザーバ13および/または洗浄液リザーバ15などを備えている。
【0047】
図示していないが、試薬リザーバ(第1の試薬リザーバ14aおよび第2の試薬リザーバ14b)は、試薬流路103a,103bとの接続部を除いて密閉されており、該試薬リザーバの壁の一部(分析チップの上面側)が開通可能なシール部材で構成されている。また、洗浄液リザーバ15も、前記洗浄液流路104との接続部を除いて密閉されており、該試薬リザーバの壁の一部(分析チップの上面側)が開通可能なシール部材で構成されている。
【0048】
また、反応測定リザーバ12、廃液リザーバ13およびサンプル廃液リザーバ11bには、それぞれ、排気口121,131,11b1および排気管122,132,11b2が中心側に設けられている。
【0049】
(測定方法)
以下、図5に示す回転式分析チップを用いて測定を行う方法について説明する。なお、図5に示す回転式分析チップ1は、遠心装置のターンテーブル21上に図6に示される状態で配置される。
【0050】
(1) まず、遠心装置によって、回転式分析チップを一定の速度で回転させることにより、サンプルリザーバ11に注入されたサンプル液(例えば、唾液、血液)は、サンプル流路101aを通って秤量リザーバ11aに移動し、余分なサンプル液(検体)はサンプル廃液リザーバ11bに移動する。
【0051】
(2) 回転速度を上げることにより、サンプル液を、秤量リザーバ11aから流路101を通して反応測定リザーバ12に移送する。この回転数を一定時間維持すること等により、サンプル液中のタンパク質などが反応ビーズ4に固定されたタンパク質に結合する等の反応が起こる。
【0052】
(3) さらに、回転速度を上げることにより、サンプル液を、反応測定リザーバ12から廃液流路102を通して廃液リザーバ13に移送する。
【0053】
(4) 洗浄液リザーバ15に貫通穴を開けた後に、回転式分析チップを回転させることにより、洗浄液を反応測定リザーバ12に移送する。
【0054】
(5) 回転速度を上げることにより、洗浄液を反応測定リザーバ12から廃液リザーバ13に排出する。なお、(4)〜(5)の操作を数回繰り返しても良い。
【0055】
(6) 試薬リザーバに貫通穴を開けた後に、回転式分析チップを回転させることにより、試薬液(基質溶液など)を反応測定リザーバ12に導入する。なお、図5に示す回転式分析チップにおいては、まず、第1の試薬リザーバ14a、第2の試薬リザーバ14aに順次、貫通穴を開けて、回転式分析チップを回転させることにより、試薬を2段階に移送することができる。このような態様は、2種類の試薬を使用時に混合して使用する場合などに有用である。
【0056】
具体的には、例えば、順次下記の回転数で遠心装置上の分析チップを回転させることによって、以下の送液を行う。
(1) サンプル液を、サンプルリザーバ11からサンプル流路101aを通して秤量リザーバ11aに移送する(回転数500rpm)。
(2) サンプル液を、秤量リザーバ11aからサンプル流路101bを通して反応測定リザーバ12に移送する(回転数1700rpm)。
(3) サンプル液を、反応測定リザーバ12から廃液流路102を通して廃液リザーバ13に移送する(回転数3000pm)。
(4) 洗浄液リザーバ15に貫通穴を開け、洗浄液を反応測定リザーバ12に移送する(回転数2000rpm)。
(5) 洗浄液を反応測定リザーバ12から廃液リザーバ13に排出する(回転数3000rpm)。
(6) 試薬リザーバに貫通穴を開け試薬液を反応測定リザーバ12に導入する(回転数2000rpm)。
【0057】
図7は、図5に記載の回転式分析チップとは、洗浄液リザーバが第1の洗浄液リザーバ15aおよび第2の洗浄液リザーバ15bであり、試薬リザーバ14が1段階である点で異なる回転式分析チップを用いた場合における、上記と同様の測定方法の各工程における送液の状態を示す模式図である。
(1) サンプル液がサンプルリザーバ11に注入された状態を示す。
(2) サンプル液が秤量リザーバ11bに移送された状態を示す。(分注と秤量が同時に行われる。)
(3) 反応測定リザーバ12へサンプル液が移送された状態を示す。
(4) 反応測定リザーバ12の1回目の洗浄状態を示す。(洗浄液リザーバ15aの洗浄液が移送されることで、洗浄液リザーバ15bの洗浄液が反応測定リザーバ12へ移送され、さらに廃液リザーバ13に移送される。)
(5) 反応測定リザーバ12の2回目の洗浄状態を示す。(洗浄液リザーバ15bの洗浄液が反応測定リザーバ12へ移送され、さらに廃液リザーバ13に移送される。)
(6) 反応測定リザーバ12の洗浄液が完全に廃液リザーバ13へ排出された状態を示す。
(7) 試薬リザーバ14の試薬液が反応測定リザーバ12に導入された状態を示す。
【0058】
本発明の回転式分析チップにおいて、試薬リザーバに収容される試薬液は、測定時に注入されてもよく、あらかじめ試薬液が収容されていてもよい。試薬の安定性を保つためには、測定時に注入されることが好ましい。測定時に試薬液を注入する方法としては、手作業により注入する方法を用いてもよいが、後述の試薬カセットによる方法が好適に用いられる。
【0059】
(試薬リザーバの好適例)
上記試薬リザーバの好適な一例としては、反応測定リザーバに通じる流路との接続部を除いて密閉されており、一部が開通可能なシール部材で構成されている試薬リザーバが挙げられる。図8は、本発明の回転式分析チップにおける試薬リザーバの一形態を示す断面模式図である。図8では、試薬リザーバ14の上部がシール部材141で塞がれており、反応測定リザーバに通じる流路103との接続部を除いて密閉されている。このような構造により、回転式分析チップを遠心装置によって回転させても試薬リザーバ14内の試薬液が移送されないようにすることができる。そして、使用時にシール部材141を外部と開通させた後に、遠心装置によって回転式分析チップ1を回転させることにより、試薬液を流路103を通して反応測定リザーバ12に移送することができる。
【0060】
シール部材141を外部と開通させる方法は特に限定されないが、例えば、シール部材141にニードルを用いて貫通穴を開ける方法などが挙げられる。貫通穴は、試薬リザーバ14の中心方向寄りに開けることが好ましい。貫通穴を外周部方向寄りに開けた場合、試薬液が貫通穴からがシール部材141は、貫通穴を開けることができる部材であれば、その材料、厚さ、形状等は特に限定されない。シール部材141の材料は、試薬液の保持が確認できるため、透明の材料を用いることが好ましい。
【0061】
(試薬カセット)
本発明の回転式分析チップの試薬リザーバに、使用時に試薬液を充填する方法として、試薬カセットを用いる方法が挙げられる。該試薬カセットは、試薬液が収容された密閉チャンバを備えている。該密閉チャンバは、上記の回転式分析チップに結合された状態で、該密閉チャンバと前記試薬リザーバとを連通させるための連通手段を備えている。
【0062】
図9Aは、試薬カセットの一形態を示す模式図である。試薬カセット5においては、ドーナツ状のシート52上に試薬液が収容された密閉チャンバ51が備えられている。
【0063】
図9Bを用いて、図9Aに記載の試薬カセットの使用方法を説明する。まず、試薬カセット5は、試薬リザーバ14の開口部上に密閉チャンバ51が位置するように、シート52に設けられた粘着剤等によって回転式分析チップ上に貼合される。使用時に、ロッド6が密閉チャンバ51を押圧することにより、密閉チャンバ51の下部のシート52が試薬リザーバ14内に設けられた突起部142の先端で破断される。これにより、試薬液が試薬カセット5から試薬リザーバ14に移送される。このような方法を用いることにより、試薬液の保存安定性が確保できる。また、試薬を送るタイミングを制御することもできる。
【実施例1】
【0064】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
<試験用分析チップの作製>
PMMAからなる2枚の板状体に、凹部をNCフライス加工機により形成した。一方の板状体の凹部内に、直径1.0mmの反応ビーズ(抗体等は固定されていない試験用のガラスビーズ)を収容し、さらに、1μMレゾルフィン溶液(溶媒:リン酸塩緩衝溶液)を凹部から該溶液が表面張力で盛り上がり反応ビーズを覆う程度の量で添加した。次に、この板状体に他方の板状体を、2つの板状体の凹部同士が一体となって1つの密閉リザーバ(本発明の回転式分析チップの反応測定リザーバに相当する)を形成するように、熱圧着して試験用の分析チップを作製した。なお、密閉リザーバ中には上記反応ビーズとレゾルフィン溶液が封入されており、少量の空気も封入されている。
【0066】
以下の実施例および比較例では反応測定リザーバ(上記密閉リザーバ)の形状を変えた10種類の分析チップを作製した。
【0067】
<蛍光強度測定試験>
蛍光強度の測定は、光ファイバー型蛍光検出器(FLE1000:日本板硝子製)を用いて、暗室、室温の条件で行った。各実施例および比較例の試験用分析チップを遠心装置に設置し、500rpmで10秒間回転させた後、分析チップが静止してから一定時間経過後(10秒後)に反応測定リザーバの一定範囲を上記装置でスキャンした。
【0068】
(実施例1)
図10Aは、実施例1の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。該反応測定リザーバの形状は、図10Aに示す底面を有する高さ1.5mmの柱状(垂直に掘り込まれた形状)である(以下、同様)。
【0069】
また、図10A中の縦方向の矢印は、試験用分析チップを遠心装置に設置し回転させた際に、遠心力の働く方向を示している。試験用分析チップは、遠心装置上に、このような方向に合わせて設置され、上記の蛍光強度測定試験に付される(以下、同様)。
【0070】
また、図10A中の横方向の矢印は、上記蛍光強度測定における蛍光スキャンの経路を示している(以下、同様)。なお、蛍光スキャンは、遠心装置によって回転式分析チップを回転させながら行うため、このように横方向の円弧状の経路となる場合が多い。
【0071】
実施例3の反応測定リザーバ12は、反応ビーズ4が移動可能な領域12a(反応ビーズ4が収容された中央部分)と反応ビーズが移動不可能な領域12b(反応ビーズの直径よりも細い3つの凸状部分)から構成されている。このため、反応ビーズ4は一定の狭い領域12a内しか移動することができず、蛍光スキャン(反応測定リザーバを蛍光検出器の光ファイバーでなぞること)プロファイルの測定毎の変動が少なくなる。
【0072】
また、内部の液体は領域12bにも移動することができるため、サンプル液や試薬液が全体的に拡散され易く、反応測定リザーバ12内の液体を均一に保ち易くなる。該反応測定リザーバの形状の詳細は図10Bに示す通りである。図10Cに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0073】
(実施例2)
図11Aは、実施例2の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。実施例3の反応測定リザーバ12は、反応ビーズ4が移動可能な領域12a(反応ビーズ4が収容された円形部分)と反応ビーズが移動不可能な領域12b(反応ビーズの直径よりも細い溝状部分)から構成されている。このため、反応ビーズ4は実施例1よりも狭い領域12a内しか移動することができず、蛍光スキャンプロファイルの測定毎の変動が少なくなる。また、図10Aに示されるように、蛍光スキャンの経路が反応ビーズ4を通らないようにすることができるため、蛍光スキャンスペクトルが反応ビーズ4の影響を受けず、より再現性の高い測定を行うことができる。
【0074】
また、内部の液体は領域12bにも移動することができるため、サンプル液や試薬液が全体的に拡散され易く、反応測定リザーバ12内の液体を均一に保ち易くなる。該反応測定リザーバの形状の詳細は図11Bに示す通りである。図11Cに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0075】
(実施例3)
図12Aは、実施例3の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。実施例3の反応測定リザーバ12は、反応ビーズ4が移動可能な領域12a(反応ビーズ4が収容された円形部分)と反応ビーズが移動不可能な領域12b(反応ビーズの直径よりも細い溝状部分)から構成されている。このため、反応ビーズ4は実施例2と同様の狭い領域12a内しか移動することができず、蛍光スキャンプロファイルの測定毎の変動が少なくなる。なお、実施例2と比べると、蛍光スキャンの経路が反応ビーズ4を横切るため、蛍光スキャンスペクトルの反応ビーズ4に相当する部分は測定毎の変動が生じるが、これ以外の部分に基いて測定を行うことができる。
【0076】
また、内部の液体が移動できる領域12bが、遠心方向に対して水平方向に伸びているため、遠心方向に伸びている場合に比べてサンプル液や試薬液が全体的に拡散され易く、反応測定リザーバ12内の液体を均一に保ち易くなる。該反応測定リザーバの形状の詳細は図12Bに示す通りである。図12Cに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0077】
(実施例4)
図13Aは、実施例4の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。実施例4の反応測定リザーバ12は、反応ビーズ4の両側(横方向)に存在する2つのビーズ固定部材12cによって、反応ビーズ4が移動可能な領域12aと反応ビーズが移動不可能な領域12bに分けられている。このため、反応ビーズ4は一定の狭い領域12a内しか移動することができず、蛍光スキャンプロファイルの測定毎の変動が少なくなる。なお、実施例3と同様に、蛍光スキャンの経路が反応ビーズ4を横切るため、蛍光スキャンスペクトルの反応ビーズ4に相当する部分は測定毎の変動が生じるが、これ以外の部分に基いて測定を行うことができる。
【0078】
また、内部の液体が移動できる領域12bが、実施例2、3よりも広いため、サンプル液や試薬液が全体的に拡散され易く、反応測定リザーバ12内の液体を均一に保ち易くなる。該反応測定リザーバの形状の詳細は図13Bに示す通りである。図13Cに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0079】
(実施例5)
図14Aは、実施例5の反応測定リザーバの形状を示す上面図である。実施例5の反応測定リザーバ12は、反応ビーズ4の両側(縦方向)に存在する2つのビーズ固定部材12cによって、反応ビーズ4が移動可能な領域12aと反応ビーズが移動不可能な領域12bに分けられている。このため、反応ビーズ4は一定の狭い領域12a内しか移動することができず、蛍光スキャンプロファイルの測定毎の変動が少なくなる。また、図14Aに示されるように、蛍光スキャンの経路が反応ビーズ4を通らないようにすることができるため、蛍光スキャンスペクトルが反応ビーズ4の影響を受けず、より再現性の高い測定を行うことができる。
【0080】
また、内部の液体が移動できる領域12bが、実施例2、3よりも広いため、蛍光スキャンの経路が反応ビーズ4を通らないようにすることを可能としつつも、サンプル液や試薬液が全体的に拡散され易く、反応測定リザーバ12内の液体を均一に保ち易くなる。該反応測定リザーバの形状の詳細は図14Bに示す通りである。図14Cに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0081】
(比較例1)
比較例1の反応測定リザーバの形状は、底面が直径2.0mmの真円であり高さ0.96mmの円柱状(容積3.02μL)である。図15Aに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0082】
(比較例2)
比較例2の反応測定リザーバの形状は、底面が直径1.8mmの真円であり高さ1.5mmの円柱状(容積3.82μL)である。図15Bに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0083】
(比較例3)
比較例3の反応測定リザーバの形状は、底面が直径1.6mmの真円であり高さ2.3mmの円柱状(容積4.71μL)である。図15Cに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0084】
(比較例4)
比較例4の反応測定リザーバの形状は、底面が長径2.0mm、短径1.3mmの楕円であり、高さ1.5mmの楕円柱状(容積3.06μL)である。比較例4の試験用分析チップは、楕円の短軸方向が遠心方向となるように(横向きに)、遠心装置に設置されて上記の蛍光強度測定試験に付された。図16Aに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0085】
(比較例5)
比較例5の反応測定リザーバの形状は、比較例4と同様に底面が長径2.0mm、短径1.3mmの楕円であり、高さ1.5mmの楕円柱状(容積3.02μL)である。比較例5の試験用分析チップは、楕円の長軸方向が遠心方向となるように(縦向きに)、遠心装置に設置されて上記の蛍光強度測定試験に付された。図16Bに、蛍光強度の測定結果を示す。
【0086】
以上の測定結果から、比較例と比べて、実施例では、測定毎の蛍光スキャンプロファイルの変化が小さいことが分かる。比較例において、測定毎の蛍光スキャンプロファイルの変化が大きくなっているのは、比較例の反応測定リザーバにおいては、反応ビーズや空気が反応測定リザーバ内の全領域を移動できるためであると考えられる。
【符号の説明】
【0087】
1 回転式分析チップ、101,101a,101b サンプル流路、102 廃液流路、103,103a,103b 試薬流路、104 洗浄液流路、11 サンプルリザーバ、11a 秤量リザーバ、11b サンプル廃液リザーバ、11b1 排気口、11b2 排気管、12 反応測定リザーバ、12a 反応ビーズが移動可能な領域、12b 反応ビーズが移動不可能な領域、12c ビーズ固定部材、121 排気口、122 排気管、13 廃液リザーバ、131 排気口、132 排気管、14 試薬リザーバ、141 シール部材、142 突起部、15 洗浄液リザーバ、21 ターンテーブル、22 モータ、31 光源、32 光検出器、4 反応ビーズ、5 試薬カセット、51 密閉チャンバ、52 シート、6 ロッド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液が収容されるサンプルリザーバと、
試薬液が収容される試薬リザーバと、
前記サンプルリザーバおよび前記試薬リザーバに対して外周部方向に設けられ、反応ビーズが収容される反応測定リザーバと、
前記サンプルリザーバと前記反応測定リザーバとを接続するサンプル流路と、
前記試薬リザーバと前記反応測定リザーバとを接続する試薬流路とを備え、
前記反応測定リザーバが、前記反応ビーズの移動を制限できる形状であることを特徴とする、回転式分析チップ。
【請求項2】
前記反応測定リザーバが、前記反応ビーズが移動可能な領域と移動不可能な領域とからなる、請求項1に記載の回転式分析チップ。
【請求項3】
前記反応測定リザーバが、少なくとも1つのビーズ固定部材を有する、請求項2に記載の回転式分析チップ。
【請求項4】
前記試薬リザーバは、前記試薬流路との接続部を除いて密閉されており、該試薬リザーバの壁の一部が開通可能なシール部材で構成される、請求項1に記載の回転式分析チップ。
【請求項5】
さらに、前記反応測定リザーバに対して外周部方向に設けられた廃液リザーバ、および、前記反応測定リザーバと前記廃液リザーバとを接続する廃液流路を備える、請求項1に記載の回転式分析チップ。
【請求項6】
前記サンプル流路の断面積が前記廃液流路の断面積よりも大きい、請求項5に記載の回転式分析チップ。
【請求項7】
前記試薬流路の断面積が前記廃液流路の断面積よりも大きい、請求項5に記載の回転式分析チップ。
【請求項8】
さらに、前記反応測定リザーバに対して中心方向に設けられた洗浄液リザーバ、および、該洗浄液リザーバと前記反応測定リザーバとを接続する洗浄液流路を備える、請求項3に記載の回転式分析チップ。
【請求項9】
前記洗浄液リザーバは、前記洗浄液流路との接続部を除いて密閉されており、該試薬リザーバの壁の一部が開通可能なシール部材で構成される、請求項8に記載の回転式分析チップ。
【請求項10】
前記洗浄液流路の断面積が前記廃液流路の断面積よりも大きい、請求項8に記載の回転式分析チップ。
【請求項11】
遠心装置に配置された前記回転式分析チップが、該遠心装置によって回転することにより生じる遠心力を利用して、少なくとも前記サンプルおよび前記試薬液を前記反応測定リザーバに移送した後に、反応測定リザーバを光学的方法により測定する測定方法に用いられる、請求項1に記載の回転式分析チップ。
【請求項12】
前記試薬液が収容された密閉チャンバを備え、
該密閉チャンバは、請求項1に記載の回転式分析チップに結合された状態で、該密閉チャンバと前記試薬リザーバとを連通させるための連通手段を有する、試薬カセット。
【請求項13】
請求項1に記載の回転式分析チップ、および、遠心装置を備え、
遠心装置に配置された前記回転式分析チップが、該遠心装置によって回転することにより生じる遠心力を利用して、少なくとも前記サンプルおよび前記試薬液を前記反応測定リザーバに移送した後に、反応測定リザーバを光学的方法により測定するための、測定システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図16A】
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【図16B】
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【公開番号】特開2011−196849(P2011−196849A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64623(P2010−64623)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】