説明

回転式流体機械

【課題】配管の本数が少なく振動も小さな回転式流体機械を提供する。
【解決手段】低段側の圧縮部(40)の各シリンダ室(41,51)にそれぞれ対応する各吐出ポート(65,66)と、高段側の圧縮部(50)の各シリンダ室(71,72)にそれぞれ対応する各吸入ポート(73,74)とがそれぞれ連通する中間圧空間(S2)をケーシング(10)の内部に区画する仕切部(38)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2段圧縮式の圧縮機構を備えた回転式流体機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷凍装置の冷媒回路等に接続されて、冷媒を圧縮する回転式流体機械が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、いわゆるマルチベーン(2ベーン)式の回転式流体機械が開示されている。この回転式流体機械の圧縮機構は、環状のシリンダと、シリンダ内に偏心して収納されるピストンとを備えている。シリンダには、径方向に延びる2つのブレード溝が180度ずれて互いに向かい合うように形成されている。各ブレード溝には、それぞれピストンと別体となるブレード(スライドベーン)が進退自在に収容されている。シリンダの内部には、各ブレードの先端がピストンの外周面に摺接することで、2つのシリンダ室が形成される。この圧縮機構では、第1のシリンダ室と第2のシリンダ室とにそれぞれ冷媒が吸入され、各シリンダ室で冷媒が圧縮される。圧縮後の冷媒は、各シリンダ室から吐出される。
【0004】
また、特許文献2には、ロータリー機構(偏心回転式ピストン機構)を2つ備え、各偏心回転式ピストン機構で冷媒が2段階に圧縮する、いわゆる2段圧縮式の圧縮機構を有する回転式流体機械が開示されている。具体的に、この回転式流体機械は、ケーシング内に2つの偏心回転式ピストン機構が収容されている。各偏心回転式ピストン機構は、1つのブレードを有してピストンの間に1つのシリンダ室が区画されている。低段側の偏心回転式ピストン機構のシリンダには、第1吸入管と第1吐出管とが接続されている。また、高段側の偏心回転式ピストン機構のシリンダには、第2吸入管が接続されている。
【0005】
回転式流体機械が運転されると、冷媒回路から第1吸入管に流入した低圧の冷媒が、低段側の偏心回転式ピストン機構のシリンダ室に送られて圧縮される。圧縮後の冷媒は、第1吐出管を流出し、その後に第2吸入管より高段側の偏心回転式ピストン機構のシリンダ室に送られて圧縮される。以上のようにして圧縮された冷媒は、ケーシングの外部に吐出されて冷媒回路へ送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−249977号公報
【特許文献2】特開2004−100608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に開示されているような二段圧縮式の圧縮機構の2つの偏心回転式ピストン機構を、特許文献1に開示されているような2ベーン式とすることが考えられる。つまり、低段側の偏心回転式ピストン機構の2つのシリンダ室でそれぞれ冷媒を圧縮し、圧縮後の冷媒を高段側の偏心回転式ピストン機構の2つのシリンダ室で更に圧縮することが考えられる。ところが、このように各偏心回転式ピストン機構を2ベーン式とすると、合計4つのシリンダ室に対応するように吸入管や吐出管をそれぞれ設ける必要があり、配管の本数が増えてしまう。また、このようにして各シリンダ室と繋がる配管の本数が増えてしまうと、冷媒の脈動に起因する配管の振動も大きくなってしまう。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、配管の本数が少なく振動も小さな回転式流体機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、ケーシング(10)内に、二段に重なるように配設される2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)を有する圧縮機構(30)と、該2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)を駆動する駆動軸(23)を有する駆動機構(20)とを備え、上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)は、2つのブレード溝(45,46,55,56)が形成される環状のシリンダ(41,51)と、該シリンダ(41,51)の内部に偏心して収納されるピストン(42,52)と、上記各ブレード溝(45,46,55,56)にそれぞれ進退自在に収納されてシリンダ(41,51)の内部を第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)とに区画する2本のブレード部(43,44,53,54)とをそれぞれ備え、上記圧縮機構(30)は、冷凍サイクルが行われる冷媒回路の冷媒を低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)でそれぞれ圧縮し、圧縮された冷媒を高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)でそれぞれ更に圧縮する二段圧縮式に構成されている回転式流体機械を対象とする。そして、この回転式流体機械は、上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)にそれぞれ対応する各吐出ポート(65,66)と、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)にそれぞれ対応する各吸入ポート(73,74)とがそれぞれ連通する内部空間(S2)を上記ケーシング(10)の内部に区画する仕切部(38)を備えていることを特徴とする。
【0010】
第1の発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)とで冷媒が二段階に圧縮される。即ち、冷凍サイクルが行われる冷媒回路の冷媒は、まず低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)に吸入され、各シリンダ室(61,62)でそれぞれ圧縮される。各シリンダ室(61,62)で圧縮された冷媒は、各々のシリンダ室(61,62)に対応する吐出ポート(65,66)をそれぞれ流出し、仕切部(38)によって区画された内部空間(S2)へ送られる。内部空間(S2)に送られた中間圧の冷媒は、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各吸入ポート(73,74)に流入し、各々の吸入ポート(73,74)に対応するシリンダ室(71,72)に吸入される。各シリンダ室(71,72)で圧縮された冷媒は、所定の経路を通じて冷媒回路へ送られる。
【0011】
以上のように、本発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の2つのシリンダ室(61,62)で圧縮された冷媒が、各吐出ポート(65,66)を通じて内部空間(S2)へ送られ、この内部空間(S2)の冷媒が、各吸入ポート(73,74)を通じて高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の2つのシリンダ室(71,72)へ吸入される。このため、本発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の2つの吐出ポート(65,66)に対応する吐出管や、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の2つの吸入ポート(73,74)に対応する吸入管を省略することができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、上記仕切部(38)は、上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)の各シリンダ(41,51)の外周部と上記上記ケーシング(10)の内周部との間に筒状の上記内部空間(S2)を区画するように構成され、上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)のシリンダ(41)には、上記各吐出ポート(65,66)が径方向に貫通して形成されていることを特徴とする。
【0013】
第2の発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)で圧縮された冷媒が、各吐出ポート(65,66)を通じてシリンダ(41)を径方向外側へ流れ、筒状の内部空間(S2)へ送られる。
【0014】
第3の発明は、第1又は2の発明において、上記ケーシング(10)を貫通して上記冷媒回路の中間圧の冷媒を上記内部空間(S2)に導入するためのインジェクション管(15)を更に備えていることを特徴とする。
【0015】
第3の発明では、冷媒回路の中間圧の冷媒が、インジェクション管(15)を通じて内部空間(S2)へ送られる。この冷媒は、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)で圧縮された後の冷媒と合流し、その後に高段側の偏心回転式ピストン機構(50)で更に圧縮される。
【0016】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、上記仕切部(38)は、上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の端部に形成されて上記内部空間(S2)の軸方向端面を閉塞する低段側閉塞部(31)を有し、上記ケーシング(10)の内部には、上記低段側閉塞部(31)を挟んで上記内部空間(S2)と反対側に区画されると共に、上記冷媒回路の冷媒が流入する吸入管(14)が連通する低圧空間(S1)が形成され、上記低段側閉塞部(31)には、上記低圧空間(S1)の冷媒を上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)にそれぞれ導入するための2つの吸入通路(37)が形成されていることを特徴とする。
【0017】
第4の発明では、仕切部(38)の低段側閉塞部(31)によって、ケーシング(10)の内部に低圧空間(S1)が区画される。冷媒回路の冷媒は、吸入管(14)を通じて低圧空間(S1)に流入する。低圧空間(S1)の冷媒は、低段側閉塞部(31)に形成された2つの吸入通路(37)を通じて低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)に吸入される。
【0018】
第5の発明は、第2乃至第4のいずれか1つにおいて、上記仕切部(38)は、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の端部に形成されて上記内部空間(S2)の軸方向端面を閉塞する高段側閉塞部(33)を有し、上記ケーシング(10)の内部には、上記高段側閉塞部(33)を挟んで上記内部空間(S2)と反対側に区画されると共に、上記冷媒回路へ冷媒を流出する吐出管(16)が連通する高圧空間(S3)が形成され、上記高段側閉塞部(33)には、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)で圧縮された冷媒をそれぞれ上記高圧空間(S3)へ吐出するための2つの吐出通路(75,76)が形成されていることを特徴とする。
【0019】
第5の発明では、仕切部(38)の高段側閉塞部(33)によって、ケーシング(10)の内部に高圧空間(S3)が区画される。高段側の偏心回転式ピストン機構の各シリンダ室(71,72)で圧縮された冷媒は、2つの吐出通路(75,76)を通じて高圧空間(S3)に流出する。高圧空間(S3)の冷媒は、吐出管(16)を通じてケーシング(10)の外部へ流出して冷媒回路に送られる。
【0020】
第6の発明は、第1乃至第5のいずれか1つにおいて、上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)は、各々の第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)との間に180度の容積変化の位相差が生じるようにそれぞれ設定され、且つ低段側の偏心回転式ピストン機構(40)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)との間に90度の容積変化の位相差が生じるように設定されていることを特徴とする。
【0021】
第6の発明では、各偏心回転式ピストン機構(40,50)において、第1シリンダ室(61,71)の容積変化の位相と第2シリンダ室(62,72)の容積変化の位相とが180度ずれている。このように、第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)の容積変化の位相を180度ずらすと、駆動軸(23)の出力トルクのピーク値も180度ずれる。このため、各偏心回転式ピストン機構(40,50)では、駆動軸(23)が1回転する際に生じる出力トルクの挙動が、180度毎にピーク値が交互に表れるような挙動となる。従って、出力トルクの変動を抑制できる。
【0022】
また、本発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の容積変化の位相と、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の容積変化の位相とが90度ずれている。このように、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の容積変化の位相を90度ずらすと、各偏心回転式ピストン機構(40,50)による駆動軸(23)の出力トルクのピーク値が90度ずれる。このため、圧縮機構(30)では、駆動軸(23)が1回転する際に生じる出力トルクが、90度毎にピーク値が交互に表れるような挙動となる。従って、出力トルクの変動を更に抑制できる。
【0023】
第7の発明は、第6の発明において、上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)は、上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)のピストン(42,52)の偏心方向と、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)のピストン(42,52)の偏心方向とが180度異なるように設定されていることを特徴とする。
【0024】
第7の発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)のピストン(42)の偏心方向と、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)のピストン(52)の偏心方向とが、互いに180度ずれている。このため、両者のピストン(42,52)の遠心力が相殺される。
【0025】
第8の発明は、第1乃至第7のいずれか1つにおいて、上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)のいずれか一方又は両方は、一方のブレード部(43,53)がピストン(42,52)と一体的に連接すると共に、該ブレード部(43,53)を揺動させるためのブッシュ(47,57)を有し、他方のブレード部(44,54)が上記ピストン(42,52)と別体となって該ピストン(42,52)と摺接するスライドベーン(44,54)を構成していることを特徴とする。
【0026】
第8の発明の偏心回転式ピストン機構(40,50)では、2つのブレード部(43,44,53,54)のうちの一方のブレード部(43,53)がピストン(42,52)と一体的に連接し、他方のブレード部(44,54)がスライドベーン(44,54)によって構成される。即ち、第8の発明では、一方のブレード部(43,53)がブッシュ(47,57)を介して揺動しながらブレード溝(45,55)を進退することで、ピストン(42,52)は自転することなくシリンダ(41)の内部を旋回(公転)する。同時に、スライドベーン(45,55)は、ピストン(42,52)と摺接するようにブレード溝(46,56)を進退する。この構成では、ピストン(42,52)の自転が禁止されることにより、スライドベーン(45,55)とピストン(42,52)とが摺接する速度(いわゆる摩耗摺動速度)が低くなる。また、ピストン(42,52)の自転が禁止されることにより、ピストン(42,52)におけるスライドベーン(45,55)との間の摺接する範囲も狭くなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)の吐出ポート(65,66)と、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)の吸入ポート(73,74)とが連通する内部空間(S2)をケーシング(10)の内部に区画している。このため、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各吐出ポート(65,66)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各吸入ポート(73,74)とを配管で接続する必要がないため、配管の本数を減らすことができる。また、これらのポート(65,66,73,74)を配管で接続すると、配管が振動して騒音となるが、本発明ではこのような配管の振動が発生することもない。更に、ケーシング(10)内の内部空間(S2)は、マフラー空間として機能するため、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の吐出脈動や、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の吸入脈動も低減でき、振動や騒音の発生を効果的に防止できる。
【0028】
第2の発明では、ケーシング(10)の内周部と各シリンダ(41,51)の外周部との間に筒状の内部空間(S2)を形成しているため、比較的簡易な構造により、第1の発明の作用効果を奏することができる。
【0029】
第3の発明では、インジェクション管(15)の冷媒を内部空間(S2)に導入するようにしている。このため、1本の配管を追加するだけで、冷媒回路の中間圧の冷媒を高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)へ送ることができる。また、インジェクション管(15)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)とを直接的に接続しないため、吸入脈動に起因するインジェクション管(15)の振動も抑制できる。
【0030】
第4の発明では、吸入管(14)と低圧空間(S1)とを連通させ、低圧空間(S1)の冷媒を2つの吸入通路(37)を通じて低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)へ吸入させている。このため、1本の吸入管(14)を追加するだけで、低圧の冷媒を低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)へ送ることができる。また、吸入管(14)と低段側の偏心回転式ピストン機構(40)とを直接的に接続しないため、吸入脈動に起因する吸入管(14)の振動も抑制できる。また、低圧空間(S1)は、マフラー空間として機能するため、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の吸入脈動を更に低減できる。
【0031】
第5の発明では、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)で圧縮した冷媒を2つの吐出通路(75,76)を通じて高圧空間(S3)へ送り、高圧空間(S3)の冷媒を吐出管(16)よりケーシング(10)の外部へ吐出させている。このため、1本の吐出管(16)を追加するだけで、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)で圧縮した冷媒を冷媒回路へ送ることができる。また、吐出管(16)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)とを直接的に接続しないため、吐出脈動に起因する吐出管(16)の振動も抑制できる。また、高圧空間(S3)は、マフラー空間として機能するため、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の吐出脈動を更に低減できる。
【0032】
第6の発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)の容積変化の位相を180度ずらし、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)の容積変化の位相を180度ずらし、更に低段側の偏心回転式ピストン機構(40)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の容積変化の位相を90度ずらすようにしている。このため、駆動軸(23)の出力トルクのピークを約90度毎に分散できるため、出力トルクの変動を効果的に抑制できる。
【0033】
また、第7の発明では、低段側の偏心回転式ピストン機構(40)のピストン(42)の偏心方向と、高段側の偏心回転式ピストン機構(50)のピストン(52)の偏心方向とが、180度ずれているため、両者のピストン(42,52)の遠心力を相殺できる。従って、駆動軸(23)に取り付けるバランサーを省略できたり、このバランサーの小型化を図ったりすることができる。
【0034】
また、第8の発明では、偏心回転式ピストン機構(40,50)の2つのブレード部(43,44,53,54)のうちの一方をピストン(42,52)と連結させ、他方をピストン(42,52)と別体のスライドベーンで構成することで、2つのシリンダ室(61,62,71,72)を区画している。そして、一方のブレード部(43,53)をブッシュ(47,57)によって揺動させながらブレード溝(45,55)内で進退させることで、ピストン(42,52)の自転を禁止させながら、スライドベーン(44,54)をピストン(42,52)に摺接させ、各シリンダ室(61,62,71,72)で冷媒を圧縮できるようにしている。
【0035】
このようにピストン(42,52)の自転を禁止するようにすると、ピストン(42,52)とスライドベーン(44,54)とが摺接する速度(いわゆる摩擦摺動速度)を低減できる。その結果、ピストン(42,52)の外周面の摩耗を防止できる。また、このようにピストン(42,52)の自転を禁止するようにすると、ピストン(42,52)においてスライドベーン(44,54)の先端部が摺接する範囲が狭くなる。その結果、ピストン(42,52)の外周面の摩耗を効果的に防止できる。その結果、ピストン(42,52)の摩耗に起因する冷媒漏れを防止できる。一方、このようにしてピストン(42,52)の摺接範囲が狭くなった場合にも、この摺接範囲でピストン(42,52)が摩耗してしまう。しかしながら、このようなピストン(42,52)の摺接範囲は、吐出ポートや吸入ポートの近傍に位置するため、このような箇所で冷媒漏れが生じても、圧縮効率はさほど低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施形態に係る回転式流体機械の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】図2は、実施形態に係る圧縮機構の横断面図であり、(A)は低段側の圧縮部を示し、(B)は高段側の圧縮部を示している。
【図3】図3は、実施形態に係る圧縮部の圧縮動作の説明図である。
【図4】図4は、実施形態に係る回転式流体機械の低圧室(吸入室)の容積変化を表したグラフである。
【図5】図5は、実施形態に係る回転式流体機械の低圧室(吸入室)の容積変化率(容積変化の速度)を表したグラフである。
【図6】図6は、比較例となる回転式流体機械の低圧室(吸入室)の容積変化を表したグラフである。
【図7】図7は、比較例となる回転式流体機械の低圧室(吸入室)の容積変化率(容積変化の速度)を表したグラフである。
【図8】図8は、実施形態に係る圧縮部の出力トルクの変化を表したグラフである。
【図9】図9は、その他の実施形態の第1の例の圧縮機構の横断面図であり、(A)は低段側の圧縮部を示し、(B)は高段側の圧縮部を示している。
【図10】図10は、その他の実施形態の第2の例の圧縮機構の横断面図であり、(A)は低段側の圧縮部を示し、(B)は高段側の圧縮部を示している。
【図11】図11は、その他の実施形態の第3の例の圧縮機構の横断面図であり、(A)は低段側の圧縮部を示し、(B)は高段側の圧縮部を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0038】
《発明の実施形態》
図1に示すように、本実施形態に係る回転式流体機械は、ケーシング(10)内に電動機(駆動機構)(20)及び圧縮機構(30)が収納される全密閉型の回転式圧縮機(5)である。この回転式圧縮機(5)は、空気調和装置の冷媒回路に接続され、蒸発器から吸入した冷媒を圧縮して凝縮器(放熱器)へ吐出するために用いられる。
【0039】
ケーシング(10)は、縦長の円筒状に形成された胴部(11)と、この胴部(11)の上端部に固定された上部鏡板(12)と、胴部(11)の下端部に固定された下部鏡板(13)とで構成された密閉容器である。胴部(11)には、吸入管(14)とインジェクション管(15)とが接続されている。また、上部鏡板(12)には、吐出管(16)が接続されている。吸入管(14)には、冷媒回路の蒸発器で蒸発した後の低圧のガス冷媒が流れる。吐出管(16)には、回転式圧縮機(5)で圧縮された後(冷媒回路の凝縮器に流入する前)の高圧のガス冷媒が流れる。インジェクション管(15)には、冷媒回路の中間圧(即ち、冷媒回路の高圧圧力(凝縮圧力)と低圧圧力(蒸発圧力)との間の圧力)の冷媒が流れる。
【0040】
電動機(20)は、ステータ(21)とロータ(22)とを備えている。ステータ(21)は、円筒形状に形成され、ケーシング(10)の内周面に固定されている。ロータ(22)は、ステータ(21)の内部に挿通されている。ステータ(21)には、駆動軸(23)が連結されている。ケーシング(10)の底部寄りには、下側軸受け部材(25)が設けられている。下側軸受け部材(25)は、駆動軸(23)の下部を回転自在に支持している。
【0041】
駆動軸(23)の上部には、上側と下側の偏心部(26,27)が隣り合うように設けられている。これらの偏心部(26,27)は、駆動軸(23)よりも大径に形成され、駆動軸(23)の軸心に対して偏心している。下側の偏心部(26)の軸方向長さは、上側の偏心部(27)の軸方向長さよりも大きくなっている。下側の偏心部(26)の偏心方向と、上側の偏心部(27)の偏心方向とが、駆動軸(23)の回転方向において互いに180度の角度差を有している。
【0042】
圧縮機構(30)は、2つの圧縮部(偏心回転式ピストン機構)(40,50)が軸方向に重なるように配設されている。つまり、圧縮機構(30)では、第1圧縮部(40)と第2圧縮部(50)とが上下方向に隣り合わせに配置されている。圧縮機構(30)には、下から上に向かって順に、リアヘッド(31)、第1シリンダ(41)、ミドルプレート(32)、第2シリンダ(51)、及びフロントヘッド(33)が設けられている。
【0043】
リアヘッド(31)は、環状の第1シリンダ(41)の下端面を閉塞している。リアヘッド(31)の外周面は、ケーシング(10)の胴部(11)の内周面に固定されている。リアヘッド(31)の軸心部には、駆動軸(23)の中間部が挿通される主軸受け部(34)が下方に突出して形成されている。主軸受け部(34)は、駆動軸(23)の中間部を回転自在に支持している。
【0044】
ミドルプレート(32)は、筒状に形成され、その内部を駆動軸(23)が貫通している。ミドルプレート(32)は、第1シリンダ(41)の上端面と第2シリンダ(51)の下端面とを閉塞している。ミドルプレート(32)の外径は、ケーシング(10)の胴部(11)の内径よりも短くなっている。
【0045】
フロントヘッド(33)は、環状の第2シリンダ(51)の上端面を閉塞している。フロントヘッド(33)の外周面は、ケーシング(10)の胴部(11)の内周面に固定されている。フロントヘッド(33)の軸心部には、駆動軸(23)の上端が挿通される上側軸受け部(35)が上方に突出して形成されている。上側軸受け部(35)は、駆動軸(23)の上端部を回転自在に支持している。
【0046】
第1シリンダ(41)及び第2シリンダ(51)は、軸方向にやや扁平な環状に形成されている。第1シリンダ(41)の軸方向高さは、第2シリンダ(51)の軸方向高さよりもやや長くなっている。第1シリンダ(41)及び第2シリンダ(51)の外径は、ケーシング(10)の胴部(11)の内径よりも短くなっている。
【0047】
第1シリンダ(41)と第2シリンダ(51)とミドルプレート(32)とは、各々の軸心が概ね一致しており、且つ各々の外径も概ね等しくなっている。これにより、ケーシング(10)の胴部(11)の内周面と、各シリンダ(41,51)及びミドルプレート(32)の外周面との間には、詳細は後述する環状の中間圧空間(S2)が区画されている。
【0048】
圧縮機構(30)では、第1圧縮部(40)が低段側の偏心回転式ピストン機構を構成し、第2圧縮部(50)が高段側の偏心回転式ピストン機構を構成している。即ち、圧縮機構(30)は、第1圧縮部(40)で圧縮した冷媒を第2圧縮部(50)で更に圧縮する、二段圧縮式に構成されている。
【0049】
図2に示すように、第1圧縮部(40)(図2の(A)を参照)は、第1シリンダ(41)と第1ピストン(42)と第1ブレード(43)と第1スライドベーン(44)とを有している。第1ピストン(42)は、第1シリンダ(41)の内部に偏心して収納されている。第1ブレード(43)及び第1スライドベーン(44)は、第1シリンダ(41)の内部を第1シリンダ室(61)と第2シリンダ室(62)とに区画するための2つのブレード部を構成している。
【0050】
第1シリンダ(41)には、その内部に円柱状の空間が形成されている。第1シリンダ(41)の内部には、第1ピストン(42)が第1シリンダ(41)の軸心から偏心して配設されている。第1ピストン(42)の内部には、下側偏心部(26)が係合している。
【0051】
第1シリンダ(41)には、第1ブレード溝(45)と第1ベーン溝(46)とが形成されている。第1ブレード溝(45)と第1ベーン溝(46)とは、それぞれブレード溝を構成しており、第1シリンダ(41)の軸心を挟んで互いに対向するように配設されている。つまり、第1ブレード溝(45)と第1ベーン溝(46)(第1ブレード(43)と第1スライドベーン(44))とは、駆動軸(23)の回転方向において概ね180度の角度差を有している。
【0052】
第1ブレード溝(45)は、一端が第1シリンダ(41)の内周面に開口するように略径方向に延びている。第1ブレード溝(45)は、略円形状のブッシュ溝(45a)を含んでいる。このブッシュ溝(45a)には、一対のブッシュ(47)が嵌合している。一対のブッシュ(47)は、互いに対向する平坦部とブッシュ溝(45a)の内周壁に摺接する円弧部とをそれぞれ有している。そして、各ブッシュ(47)の平坦部の間には、第1ブレード(43)が進退自在に嵌合している。第1ブレード(43)における第1ピストン(42)側の端部は、該第1ピストン(42)の外周部と一体的に連接している。これにより、第1ピストン(42)は、自転をすることなく、第1シリンダ(41)の内周面に沿うように揺動運転(公転運動)を行うように構成されている(詳細は後述する)。
【0053】
第1ベーン溝(46)は、一端が第1シリンダ(41)の内周面に開口するように径方向に延びている。第1ベーン溝(46)には、第1スライドベーン(44)と、スプリング(48)とが収容されている。第1スライドベーン(44)は、第1ベーン溝(46)に進退自在に収容されている。第1スライドベーン(44)の前側の先端部は、駆動軸(23)の軸方向の断面が略円弧状をしている。第1スライドベーン(44)の後側には、スプリング(48)が収容されている。スプリング(48)は、第1スライドベーン(44)を第1ピストン(42)側に付勢する付勢部材を構成している。以上により、第1スライドベーン(44)は、その先端部が回転する第1ピストン(42)の外周面と常時摺接するように構成されている。
【0054】
第2圧縮部(50)は、第2シリンダ(51)と第2ピストン(52)と第2ブレード(53)と第2スライドベーン(54)とを有している。第2ピストン(52)は、第2シリンダ(51)の内部に偏心して収納されている。第2ブレード(53)及び第2スライドベーン(54)は、第2シリンダ(51)の内部を第1シリンダ室(71)と第2シリンダ室(72)とに区画するための2つのブレード部を構成している。
【0055】
第2シリンダ(51)には、その内部に円柱状の空間が形成されている。第2シリンダ(51)の内部には、第2ピストン(52)が第2シリンダ(51)の軸心から偏心して配設されている。第2ピストン(52)の内部には、上側偏心部(27)が係合している。
【0056】
第2シリンダ(51)には、第2ブレード溝(55)と第2ベーン溝(56)とが形成されている。第2ブレード溝(55)と第2ベーン溝(56)とは、それぞれブレード溝を構成しており、第2シリンダ(51)の軸心を挟んで互いに対向するように配設されている。つまり、第2ブレード溝(55)と第2ベーン溝(56)(第2ブレード(53)と第2スライドベーン(54))とは、駆動軸(23)の回転方向において概ね180度の角度差を有している。
【0057】
第2ブレード溝(55)は、一端が第1シリンダ(41)の内周面に開口するように略径方向に延びている。第2ブレード溝(55)は、略円形状のブッシュ溝(55a)を含んでいる。このブッシュ溝(55a)には、一対のブッシュ(57)が嵌合している。一対のブッシュ(57)は、互いに対向する平坦部とブッシュ溝(55a)の内周壁に摺接する円弧部とをそれぞれ有している。そして、各ブッシュ(57)の平坦部の間には、第2ブレード(53)が進退自在に嵌合している。第2ブレード(53)における第2ピストン(52)側の端部は、該第2ピストン(52)の外周部と一体的に連接している。これにより、第2ピストン(52)は、自転をすることなく、第2シリンダ(51)の内周面に沿うように揺動運転(公転運動)を行うように構成されている(詳細は後述する)。
【0058】
第2ベーン溝(56)は、一端が第2シリンダ(51)の内周面に開口するように径方向に延びている。第2ベーン溝(56)には、第2スライドベーン(54)と、スプリング(58)とが収容されている。第2スライドベーン(54)は、第2ベーン溝(56)に進退自在に収容されている。第2スライドベーン(54)の前側の先端部は、駆動軸(23)の軸方向の断面が略円弧状をしている。第2スライドベーン(54)の後側には、スプリング(58)が収容されている。スプリング(58)は、第2スライドベーン(54)を第2ピストン(52)側に付勢する付勢部材を構成している。以上により、第2スライドベーン(54)は、その先端部が回転する第2ピストン(52)の外周面と常時摺接するように構成されている。
【0059】
第1圧縮部(40)には、各シリンダ室(61,62)に対応するように、2つの吸入ポート(63,64)と2つの吐出ポート(65,66)とが設けられている。具体的に、第1圧縮部(40)では、一方のシリンダ室(61)に対応するように第1吸入ポート(63)と第1吐出ポート(65)が形成され、他方のシリンダ室(62)に対応するように第2吸入ポート(64)及び第2吐出ポート(66)が形成されている。
【0060】
第1吸入ポート(63)及び第2吸入ポート(64)は、第1シリンダ(41)に形成されている。第1吸入ポート(63)は、第1ブレード(43)の近傍に形成され、第2吸入ポート(64)は、第1スライドベーン(44)の近傍に形成されている。第1吸入ポート(63)及び第2吸入ポート(64)の入口端は、第1シリンダ(41)の下面に開口している。第1吸入ポート(63)及び第2吸入ポート(64)の出口端は、第1シリンダ(41)の内周面に開口し、シリンダ室(61)と連通している。また、本実施形態では、第1吸入ポート(63)及び第2吸入ポート(64)の出口端に、それぞれ吸入弁(67,67)が設けられている。第1吸入ポート(63)と第2吸入ポート(64)とは、第1シリンダ(41)の軸心を挟んで互いに対向するように配設されている。つまり、第1吸入ポート(63)と第2吸入ポート(64)とは、駆動軸(23)の回転方向において概ね180度の角度差を有している。
【0061】
上記のリアヘッド(31)には、第1吸入ポート(63)及び第2吸入ポート(64)とそれぞれ繋がる2つの吸入通路(37)が形成されている。各吸入通路(37)は、各吸入ポート(63,64)の入口端と低圧空間(S1)とをそれぞれ連通させている。
【0062】
第1吐出ポート(65)及び第2吐出ポート(66)は、第1シリンダ(41)を径方向に貫通して形成されている。第1吐出ポート(65)は、第1スライドベーン(44)の近傍に形成され、第2吐出ポート(66)は、第1ブレード(43)の近傍に形成されている。第1吐出ポート(65)及び第2吐出ポート(66)の入口端は、第1シリンダ(41)の内周面に開口し、シリンダ室(61,62)と連通している。第1吐出ポート(65)及び第2吐出ポート(66)の出口端は、第1シリンダ(41)の外周面に開口し、中間圧空間(S2)と連通している。また、第1吐出ポート(65)及び第2吐出ポート(66)には、それぞれ幅広の弁収容室(68,68)が形成されている。これらの弁収容室(68,68)には、リード弁から成る吐出弁(69,69)がそれぞれ設けられている。
【0063】
第1吐出ポート(65)と第2吐出ポート(66)とは、第1シリンダ(41)の軸心を挟んで互いに対向するように配設されている。つまり、第1吐出ポート(65)と第2吐出ポート(66)とは、駆動軸(23)の回転方向において概ね180度の角度差を有している。
【0064】
第1圧縮部(40)では、第1シリンダ室(61)における第1シリンダ(41)と第1ピストン(42)との摺接部の位相と、第2シリンダ室(62)における第1シリンダ(41)と第1ピストン(42)との摺接部の位相とが180度ずれている。即ち、第1圧縮部(40)は、第1シリンダ室(61)と第2シリンダ室(62)との間に概ね180度の容積変化が生じるように設定されている。
【0065】
第2圧縮部(50)には、各シリンダ室(71,72)に対応するように、2つの吸入ポート(73,74)と2つの吐出ポート(75,76)とが設けられている。具体的に、第2圧縮部(50)には、一方のシリンダ室(71)に対応するように第3吸入ポート(73)と第3吐出ポート(75)が形成され、他方のシリンダ室(72)に対応するように第4吸入ポート(74)及び第4吐出ポート(76)が形成されている。
【0066】
第3吸入ポート(73)及び第4吸入ポート(74)は、第2シリンダ(51)を径方向に貫通して形成されている。第3吸入ポート(73)は、第2ブレード(53)の近傍に形成され、第4吸入ポート(74)は、第2スライドベーン(54)の近傍に形成されている。第3吸入ポート(73)及び第4吸入ポート(74)の入口端は、第2シリンダ(51)の外周面に開口し、中間圧空間(S2)と連通している。第3吸入ポート(73)及び第4吸入ポート(74)の出口端は、第2シリンダ(51)の内周面に開口し、シリンダ室(71,72)と連通している。また、本実施形態では、第3吸入ポート(73)及び第4吸入ポート(74)の出口端に、それぞれ吸入弁(77,77)が設けられている。
【0067】
第3吸入ポート(73)と第4吸入ポート(74)とは、第2シリンダ(51)の軸心を挟んで互いに対向するように配設されている。つまり、第3吸入ポート(73)と第4吸入ポート(74)とは、駆動軸(23)の回転方向において概ね180度の角度差を有している。
【0068】
第3吐出ポート(75)及び第4吐出ポート(76)は、フロントヘッド(33)を軸方向に貫通している。第3吐出ポート(75)は、第2スライドベーン(54)の近傍に形成され、第4吐出ポート(76)は、第2ブレード(53)の近傍に形成されている。第3吐出ポート(75)及び第4吐出ポート(76)の入口端は、フロントヘッド(33)の下面に開口し、シリンダ室(71,72)と連通している。第3吐出ポート(75)及び第4吐出ポート(76)の出口端は、高圧空間(S3)と連通している。第3吐出ポート(75)及び第4吐出ポート(76)の出口端には、吐出弁(図示省略)が設けられている。また、フロントヘッド(33)の上部には、第3吐出ポート(75)及び第4吐出ポート(76)の周囲を覆うように、マフラー(28)が設けられている。第3吐出ポート(75)及び第4吐出ポート(76)は、高段側の圧縮部(50)の各シリンダ室(71,72)で圧縮された冷媒をそれぞれ高圧空間(S3)へ吐出するための2つの吐出通路を構成している。
【0069】
第3吐出ポート(75)と第4吐出ポート(76)とは、第2シリンダ(51)の軸心を挟んで互いに対向するように配設されている。つまり、第3吐出ポート(75)と第4吐出ポート(76)とは、駆動軸(23)の回転方向において概ね180度の角度差を有している。
【0070】
第2圧縮部(50)では、第1シリンダ室(71)における第2シリンダ(51)と第2ピストン(52)との摺接部の位相と、第2シリンダ室(72)における第2シリンダ(51)と第2ピストン(52)との摺接部の位相とが180度ずれている。即ち、第2圧縮部(50)は、第1シリンダ室(71)と第2シリンダ室(72)との間に概ね180度の容積変化が生じるように設定されている。
【0071】
また、本実施形態の圧縮機構(30)では、第1圧縮部(40)における各吸入ポート(63,64)や各吐出ポート(65,66)の開口位置と、第2圧縮部(50)における各吸入ポート(73,74)や各吐出ポート(75,76)の開口位置とが、駆動軸(23)の回転方向に90度ずれている。これにより、圧縮機構(30)では、第1圧縮部(40)と第2圧縮部(50)との間において、90度の容積変化が設定されている。つまり、圧縮機構(30)では、第1シリンダ(41)の各シリンダ室(61,62)の容積変化と、第2シリンダ(51)の各シリンダ室(71,72)の容積変化とが、互いに180度ずれている。
【0072】
また、本実施形態の回転式圧縮機(5)では、ケーシング(10)の内部が低圧空間(S1)と中間圧空間(S2)と高圧空間(S3)とに区画されている。
【0073】
低圧空間(S1)は、リアヘッド(31)の下側に区画されている。つまり、低圧空間(S1)は、リアヘッド(31)を挟んで中間圧空間(S2)と反対側に区画されている。低圧空間(S1)には、吸入管(14)の出口端が開口しており、該吸入管(14)と低圧空間(S1)とが連通している。これにより、低圧空間(S1)は、冷媒回路の低圧冷媒(吸入冷媒)と概ね同じ圧力となっている。また、低圧空間(S1)は、電動機(20)のステータ(21)及びロータ(22)を収容するための収容空間を構成している。
【0074】
高圧空間(S3)は、フロントヘッド(33)の上側に区画されている。つまり、高圧空間(S3)は、フロントヘッド(33)を挟んで中間圧空間(S2)と反対側に区画されている。高圧空間(S3)には、吐出管(16)の入口端が開口しており、該吐出管(16)と高圧空間(S3)とが連通している。これにより、高圧空間(S3)は、冷媒回路の高圧冷媒(吐出冷媒)と概ね同じ圧力となっている。
【0075】
中間圧空間(S2)は、2つのシリンダ(41,51)及びミドルプレート(32)の外周部と、ケーシング(10)の内周部との間において、リアヘッド(31)とフロントヘッド(33)とによって区画されている。つまり、リアヘッド(31)とフロントヘッド(33)とは、筒状の中間圧空間(S2)を区画するための仕切部(38)を構成している。リアヘッド(31)は、第1圧縮部(40)の端部に形成されて中間圧空間(S2)の軸方向端面(下端面)を閉塞する低段側閉塞部を構成している。フロントヘッド(33)は、第2圧縮部(50)の端部に形成されて中間圧空間(S2)の軸方向端面(上端面)を閉塞する高段側閉塞部を構成している。
【0076】
中間圧空間(S2)は、筒状の内部空間を構成している。中間圧空間(S2)には、インジェクション管(15)の出口端が開口しており、該インジェクション管(15)と中間圧空間(S2)とが連通している。中間圧空間(S2)は、冷媒回路の中間圧冷媒と概ね同じ圧力となっている。
【0077】
−運転動作−
次に、回転式圧縮機(5)の運転動作について説明する。まず、回転式圧縮機(5)の基本的な動作について図1及び図2を参照しながら説明する。
【0078】
電動機(20)が通電されると、駆動軸(23)が回転して圧縮機構(30)が駆動される。圧縮機構(30)が駆動されると、蒸発器で蒸発した後の冷媒が、吸入管(14)を通じてケーシング(10)内の低圧空間(S1)に吸入される。低圧空間(S1)を流れる冷媒は、電動機(20)の周囲を流れる。これにより、冷媒が電動機(20)によって冷却される。
【0079】
低圧空間(S1)の冷媒は、各吸入通路(37,37)を通じて第1吸入ポート(63)と第2吸入ポート(64)とにそれぞれ流入する。第1吸入ポート(63)に流入した冷媒は、第1圧縮部(40)の第1シリンダ室(61)で圧縮された後、第1吐出ポート(65)に流出する。第2吸入ポート(64)に吸入された冷媒は、第1圧縮部(40)の第2シリンダ室(62)で圧縮された後、第2吐出ポート(66)に流出する。第1吐出ポート(65)と第2吐出ポート(66)とをそれぞれ流出した冷媒は、中間圧空間(S2)で合流する。なお、中間圧空間(S2)には、冷媒回路の中間圧の冷媒がインジェクション管(15)を経由して適宜導入される。
【0080】
中間圧空間(S2)を流れる中間圧の冷媒は、第3吸入ポート(73)と第4吸入ポート(74)とにそれぞれ流入する。第3吸入ポート(73)に流入した冷媒は、第2圧縮部(50)の第1シリンダ室(71)で圧縮された後、第3吐出ポート(75)に流出する。第4吸入ポート(74)に流入した冷媒は、第2圧縮部(50)の第2シリンダ室(72)で圧縮された後、第4吐出ポート(76)に流出する。第3吐出ポート(75)と第4吐出ポート(76)とをそれぞれ流出した冷媒は、高圧空間(S3)で合流する。この際、高圧空間(S3)を流れる高圧冷媒は、マフラー(28)を通過した後、吐出管(16)を経由してケーシング(10)の外部の冷媒回路へ送られる。
【0081】
次いで、回転式圧縮機(5)の圧縮機構(30)の圧縮動作の詳細について、図3を参照しながら説明する。なお、第1圧縮部(40)と第2圧縮部(50)とでは、容積変化の位相が90度ずれている点を除くと、基本的な動作は同じである。よって、以下には、第1圧縮部(40)の動作を代表して説明する。なお、図3において、各吸入ポート(73,74)にそれぞれ設けられる吸入弁(67)の図示を省略している。
【0082】
駆動軸(23)が回転すると、下側偏心部(26)によって第1ピストン(42)が駆動される。これにより、第1ピストン(42)は、第1シリンダ(41)の内周面に沿うように偏心回転運動(公転運動)を行う。この際、ブッシュ溝(45a)内のブッシュ(47)が揺動すると同時に、ブッシュ(47)の間の第1ブレード(43)が径方向に進退する。また、第1ブレード(43)は、第1ピストン(42)との接触を維持するように第1ブレード溝(45)内を進退する。以上により、第1シリンダ室(61)や第2シリンダ室(62)の容積が変化し、冷媒の圧縮動作が行われる。
【0083】
まず、第1シリンダ室(61)での冷媒の圧縮動作について説明する。第1ピストン(42)の回転角が約0°の位置(第1ピストン(42)が第1ブレード溝(45)に最も近接する位置)から、第1ピストン(42)が時計回りに回転すると、第1シリンダ室(61)の低圧室(Lp1)の容積が徐々に大きくなっていく。その結果、第1吸入ポート(63)から低圧室(Lp1)に冷媒が吸入されていく。なお、この際には、吸入弁(67)が第1吸入ポート(63)を開放させた状態となる。このような冷媒の吸入動作は、回転角が約270°に至るまで継続して行われる。第1ピストン(42)の回転角が約270°を越えると、低圧室(Lp1)の容積が僅かに減少変化する。その結果、吸入弁(67)によって第1吸入ポート(63)が閉鎖される。
【0084】
第1吸入ポート(63)が閉鎖された後に第1ピストン(42)が更に回転すると、低圧室(Lp1)内が昇圧されて高圧室(Hp1)となり、この高圧室(Hp1)の容積が徐々に小さくなっていく。その結果、高圧室(Hp1)の冷媒が圧縮されていく(例えば回転角270°〜135°)。第1ピストン(42)が更に回転して、高圧室(Hp1)内の冷媒の圧力が所定値より高くなると(例えば回転角が135°を越えると)、第1吐出ポート(65)の吐出弁(69)が開放され、高圧室(Hp1)の冷媒が第1吐出ポート(65)から中間圧空間(S2)へ吐出される。このような冷媒の吐出動作は、回転角が約180°に至るまで継続して行われる。
【0085】
次いで、第2シリンダ室(62)での冷媒の圧縮動作について説明する。第1ピストン(42)の回転角が約180°の位置(第1ピストン(42)が第1ベーン溝(46)に最も近接する位置)から、第1ピストン(42)が時計回りに回転すると、第2シリンダ室(62)の低圧室(Lp2)の容積が徐々に大きくなっていく。その結果、第2吸入ポート(64)から低圧室(Lp2)に冷媒が吸入されていく。なお、この際には、吸入弁(67)が第2吸入ポート(64)を開放させた状態となる。このような冷媒の吸入動作は、回転角が約90°に至るまで継続して行われる。第1ピストン(42)の回転角が約90°を越えると、低圧室(Lp2)の容積が僅かに減少変化する。その結果、吸入弁(67)によって第2吸入ポート(64)が閉鎖される。
【0086】
第2吸入ポート(64)が閉鎖された後に第1ピストン(42)が更に回転すると、低圧室(Lp2)内が昇圧されて高圧室(Hp2)となり、この高圧室(Hp2)の容積が徐々に小さくなっていく。その結果、高圧室(Hp2)の冷媒が圧縮されていく(例えば回転角180°〜315°)。第1ピストン(42)が更に回転して、高圧室(Hp2)内の冷媒の圧力が所定値より高くなると(例えば回転角が315°を越えると)、第2吐出ポート(66)の吐出弁(69)が開放され、高圧室(Hp2)の冷媒が第2吐出ポート(66)から中間圧空間(S2)へ吐出される。このような冷媒の吐出動作は、回転角が約0°(360°)に至るまで継続して行われる。
【0087】
−実施形態1の効果−
上記実施形態1に係る回転式流体機械では、以下のような効果を奏することができる。
【0088】
〈配管の本数について〉
上記実施形態1の回転式圧縮機(5)では、冷媒配管の本数を大幅に削減することができる。具体的には、まず、回転式圧縮機(5)では、第1圧縮部(40)の第1吐出ポート(65)と第2吐出ポート(66)とを中間圧空間(S2)に連通させ、且つ第2圧縮部(50)の第1吸入ポート(63)と第2吸入ポート(64)とを中間圧空間(S2)に連通させている。このため、例えば第1圧縮部の2つの吐出ポートと第2圧縮部の2つの吸入ポートとを配管で接続する場合と比較して、冷媒配管を2本削減できる。
【0089】
また、上記実施形態1の回転式圧縮機(5)では、中間圧の冷媒を冷媒回路へ導入するためのインジェクション管(15)を中間圧空間(S2)に繋ぐようにしている。このため、例えば第1圧縮部の2つの吐出ポートと第2圧縮部の2つの吸入ポートとを配管で接続し、これらの配管にそれぞれインジェクション管を接続する場合と比較して、インジェクション管を1本削減できる。
【0090】
また、上記実施形態1の回転式圧縮機(5)では、吸入管(14)を低圧空間(S1)に繋ぎ、低圧空間(S1)から2つの吸入通路(37)を通じて第1圧縮部(40)の各シリンダ室(61,62)へ冷媒を吸入させている。このため、例えば第1圧縮部の2つの吸入ポートにそれぞれ吸入管を接続する場合と比較して、吸入管を1本削減できる。
【0091】
また、上記実施形態1の回転式圧縮機(5)では、吐出管(16)を高圧空間(S3)に繋ぎ、第2圧縮部(50)の各シリンダ室(71,72)の吐出ポート(75,76)から高圧空間(S3)へ冷媒を吐出させている。このため、第2圧縮部の各吐出ポートにそれぞれ吐出管を接続する場合と比較して、吐出管を1本削減できる。
【0092】
〈脈動の低減効果〉
上記実施形態1では、第1圧縮部(40)の2つのシリンダ室(61,62)で冷媒を圧縮した後、第2圧縮部(50)の2つのシリンダ室(71,72)で冷媒を更に圧縮している。このため、1つのシリンダ室を有する2つの圧縮部で冷媒を二段圧縮する方式と比較して、冷媒を吸入する際に生じる脈動(いわゆる吸入脈動)を低減することができる。この点について図4〜図7を参照しながら説明する。
【0093】
図4は、実施形態1の回転式圧縮機(5)において、第1圧縮部(40)の各低圧室(Lp1,Lp2)の容積変化を表したものであり、図5は、これらの低圧室(Lp1,Lp2)の容積変化率(容積の変化速度;dV/dt[cc/sec])を表したものである。これに対し、図6は、従来例(1つのシリンダ室を有する低段側の圧縮部)の低圧室の容積変化を表したものであり、図7は、この低圧室の容積変化率を表したものである。なお、図4における太線は、2つの低圧室(Lp1,Lp2)の容積の合計の変化を、図5における太線は、2つの低圧室(Lp1,Lp2)の合計の容積変化率を表したものである。率
これらの図から明らかなように、本実施形態では、ピストン(42)が一回転する際の各低圧室(Lp1,Lp2)の容積の変動幅、及び容積の変化速度を従来例よりも小さくできる。このため、このような低圧室(Lp1,Lp2)の容積変化に起因する吸入脈動を低減でき、運転音を小さくできる。
【0094】
また、実施形態1では、吸入管(14)を低圧空間(S1)に連通させているため、この吸入管(14)を第1圧縮部(40)に直接接続する場合と比較して、吸入管(14)の振動を低減できる。また、低圧空間(S1)は、マフラー空間として機能するため、冷媒の吸入脈動を更に低減できる。
【0095】
また、実施形態1では、第1圧縮部(40)の各吐出ポート(65,66)と中間圧空間(S2)とを連通させ、更に中間圧空間(S2)と第2圧縮部(50)の各吸入ポート(73,74)とを連通させている。このため、仮に第1圧縮部(40)の各吐出ポート(65,66)と第2圧縮部(50)の各吸入ポート(73,74)とを配管でそれぞれ接続すると、これらの配管が振動してしまうが、本実施形態では、このような配管の振動を無くすことができる。また、中間圧空間(S2)は、マフラー空間として機能するため、冷媒の吐出脈動や吸入脈動を更に低減できる。
【0096】
また、上記実施形態1では、吐出管(16)を高圧空間(S3)に連通させているため、この吐出管(16)を第2圧縮部(50)に直接接続する場合と比較して、吐出管(16)の振動を低減できる。また、高圧空間(S3)は、マフラー空間として機能するため、冷媒の吐出脈動を更に低減できる。
【0097】
〈出力トルクの変動の低減効果〉
また、上記実施形態1では、第1圧縮部(40)において、第1シリンダ室(61)の容積変化の位相と第2シリンダ室(62)の容積変化の位相とを180度ずらしている。また、第2圧縮部(50)において、第1シリンダ室(71)の容積変化の位相と第2シリンダ室(72)の容積変化の位相とを180度ずらしている。更に、第1圧縮部(40)の容積変化の位相と、第2圧縮部(50)の容積変化の位相とを互いに90度ずらすようにしている。以上のようすることで、駆動軸(23)の出力トルクの変動を抑制することができる。この点について図8を参照しながら説明する。
【0098】
図8は、実施形態1の回転式圧縮機(5)において、低段側となる第1圧縮部(40)の出力トルクの変化と、第2圧縮部(50)の出力トルクの変化と、第1圧縮部(40)及び第2圧縮部(50)の出力トルクを合成したものの変化を表したものである。同図から明らかなように、各圧縮部(61,62)の容積変化の位相差を約180度とし、且つ第1圧縮部(40)と第2圧縮部(50)の容積変化の位相差を約90度とすることで、第1圧縮部(40)における出力トルクのピーク値と、第2圧縮部(50)における出力トルクのピーク値とが、概ね90度毎に交互に表れることになる。その結果、出力トルクの変動を大幅に低減することができる。
【0099】
〈その他の効果〉
上記実施形態1の第1圧縮部(40)や第2圧縮部(50)では、2つのブレード部材(43,44,53,54)のうちの一方をピストン(42,52)と連接するブレード(43,53)で構成し、他方をピストン(42,52)と別体のスライドベーン(44,54)で構成することで、各シリンダ(41,51)内に2つのシリンダ室(61,62,71,72)を区画している(図2を参照)。そして、ブレード(43,53)をブッシュ(47,57)によって揺動させながらブレード溝(45,55)内で進退させることで、ピストン(42,52)の自転を禁止させながら、スライドベーン(44,54)の先端部をピストン(42,52)に摺接させている。このようにピストン(42,52)の自転を禁止するようにすると、ピストン(42,52)とスライドベーン(44,54)とが摺接する速度(いわゆる摩擦摺動速度)を低減できる。その結果、ピストン(42,52)の外周面の摩耗を防止できる。
【0100】
また、このようにピストン(42,52)の自転を禁止するようにすると、ピストン(42,52)においてスライドベーン(44,54)の先端部が摺接する範囲が狭くなる。その結果、ピストン(42,52)の外周面の摩耗を効果的に防止できる。その結果、ピストン(42,52)の摩耗に起因する冷媒漏れを防止できる。一方、このようにしてピストン(42,52)の摺接範囲が狭くなった場合にも、この摺接範囲でピストン(42,52)が摩耗してしまう。しかしながら、このようなピストン(42,52)の摺接範囲は、吐出ポート(65,75)や吸入ポート(64,74)の近傍に形成されるため、仮にこのような箇所で冷媒漏れが生じても、圧縮効率にはほとんど影響しない。
【0101】
また、上記実施形態1の第1圧縮部(40)及び第2圧縮部(50)は、第1圧縮部(40)のピストン(42)の偏心方向と、第2圧縮部(50)のピストン(52)の偏心方向とが180度異なるように設定されている。このため、各ピストン(42,52)の遠心力が互いに相殺されるため、駆動軸(23)のバランサーを省略する、あるいはこのバランサーの小型化を図ることができる。
【0102】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0103】
上記実施形態の2つの圧縮部(40,50)は、2つのブレード部のうちの一方がピストン(42,52)と連接し、他方がスライドベーン(44,54)で構成される構造となっているが、この構造を2つの圧縮部(40,50)のうちいずれか一方のみに採用しても良い。
【0104】
また、圧縮部(40,50)の少なくとも一方又は両方を、いわゆる2ベーン式としても良い。具体的には、例えば図9に示すように、シリンダ(41)に2つのベーン溝(46,46)(即ブレード溝)を形成し、各ベーン溝(46,46)にスライドベーン(44,44)(ブレード)をそれぞれ進退自在に収容する構成としても良い。この構成においても、シリンダ(41)内に2つのシリンダ室(61,62)を形成して吸入脈動を低減できる。
【0105】
また、上記実施形態では、例えば図2に示すように、第1圧縮部(40)のピストン(42)と第2圧縮部(50)のピストン(52)との間に180度の角度差を設定し、且つ第1圧縮部(40)における各吸入ポート(63,64)や各吐出ポート(65,66)の開口位置と、第2圧縮部(50)における各吸入ポート(73,74)や各吐出ポート(75,76)の開口位置との間に90度の角度差を設定している。これにより、上記実施形態では、第1圧縮部(40)と第2圧縮部(50)との間に90度の位相差を設定するようにしている。しかしながら、例えば図10に示すように、第1圧縮部(40)のピストン(42)と第2圧縮部(50)のピストン(52)との間に90度の角度差を設定し、且つ第1圧縮部(40)における各吸入ポート(63,64)や各吐出ポート(65,66)の開口位置と、第2圧縮部(50)における各吸入ポート(73,74)や各吐出ポート(75,76)の開口位置とを軸方向に一致させる(各開口位置の角度差を0度とする)ようにしても良い。この構成においても、第1圧縮部(40)と第2圧縮部(50)との間に90度の位相差を設定することができるので、例えば図8に示すように、出力トルクの変動を抑制できる。
【0106】
また、上記実施形態では、第1圧縮部(40)や第2圧縮部(50)の各吸入ポート(63,64,73,74)にそれぞれ吸入弁(67)を設けているが、例えば図11に示すように、吸入弁(67)を省略した構成としても良い。
【0107】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明は、2段圧縮式の圧縮機構を備えた回転式流体機械について有用である。
【符号の説明】
【0109】
5 回転式流体機械
10 ケーシング
14 吸入管
15 インジェクション管
16 吐出管
20 電動機(駆動機構)
23 駆動軸
30 圧縮機構
31 リアヘッド(低段側閉塞部)
33 フロントヘッド(高段側閉塞部)
37 吸入通路
38 仕切部
40 第1圧縮部
41 シリンダ
42 ピストン
43 第1ブレード(ブレード部)
44 第1スライドベーン(ブレード部)
45 第1ブレード溝(ブレード溝)
46 第1ベーン溝(ブレード溝)
47 ブッシュ
51 シリンダ
52 ピストン
53 第2ブレード(ブレード部)
54 第2スライドベーン(ブレード部)
55 第2ブレード溝(ブレード溝)
56 第2ベーン溝(ブレード溝)
57 ブッシュ
61 第1シリンダ室
62 第2シリンダ室
63 第1吸入ポート(吸入ポート)
64 第2吸入ポート (吸入ポート)
71 第1シリンダ室
72 第2シリンダ室
75 第3吐出ポート(吐出ポート)
76 第4吐出ポート(吐出ポート)
S1 低圧空間
S2 中間圧空間
S3 高圧空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング(10)内に、二段に重なるように配設される2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)を有する圧縮機構(30)と、該2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)を駆動する駆動軸(23)を有する駆動機構(20)とを備え、
上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)は、2つのブレード溝(45,46,55,56)が形成される環状のシリンダ(41,51)と、該シリンダ(41,51)の内部に偏心して収納されるピストン(42,52)と、上記各ブレード溝(45,46,55,56)にそれぞれ進退自在に収納されてシリンダ(41,51)の内部を第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)とに区画する2本のブレード部(43,44,53,54)とをそれぞれ備え、
上記圧縮機構(30)は、冷凍サイクルが行われる冷媒回路の冷媒を低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)でそれぞれ圧縮し、圧縮された冷媒を高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)でそれぞれ更に圧縮する二段圧縮式に構成されている回転式流体機械であって、
上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)にそれぞれ対応する各吐出ポート(65,66)と、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)にそれぞれ対応する各吸入ポート(73,74)とがそれぞれ連通する内部空間(S2)を上記ケーシング(10)の内部に区画する仕切部(38)を備えていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項2】
請求項1において、
上記仕切部(38)は、上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)の各シリンダ(41,51)の外周部と上記上記ケーシング(10)の内周部との間に筒状の上記内部空間(S2)を区画するように構成され、
上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)のシリンダ(41)には、上記各吐出ポート(63,64)が径方向に貫通して形成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記ケーシング(10)を貫通して上記冷媒回路の中間圧の冷媒を上記内部空間(S2)に導入するためのインジェクション管(15)を更に備えていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項4】
請求項2又は3において、
上記仕切部(38)は、上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の端部に形成されて上記内部空間(の軸方向端面を閉塞する低段側閉塞部(31)を有し、
上記ケーシング(10)の内部には、上記低段側閉塞部(31)を挟んで上記内部空間(S2)と反対側に区画されると共に、上記冷媒回路の冷媒が流入する吸入管(14)が連通する低圧空間(S1)が形成され、
上記低段側閉塞部(31)には、上記低圧空間(S1)の冷媒を上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)の各シリンダ室(61,62)にそれぞれ導入するための2つの吸入通路(37)が形成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1つにおいて、
上記仕切部(38)は、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の端部に形成されて上記内部空間(S2)の軸方向端面を閉塞する高段側閉塞部(33)を有し、
上記ケーシング(10)の内部には、上記高段側閉塞部(33)を挟んで上記内部空間(S2)と反対側に区画されると共に、上記冷媒回路へ冷媒を流出する吐出管(16)が連通する高圧空間(S3)が形成され、
上記高段側閉塞部(33)には、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)の各シリンダ室(71,72)で圧縮された冷媒をそれぞれ上記高圧空間(S3)へ吐出するための2つの吐出通路(75,76)が形成されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つにおいて、
上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)は、各々の第1シリンダ室(61,71)と第2シリンダ室(62,72)との間に180度の容積変化の位相差が生じるようにそれぞれ設定され、且つ低段側の偏心回転式ピストン機構(40)と高段側の偏心回転式ピストン機構(50)との間に90度の容積変化の位相差が生じるように設定されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項7】
請求項6において、
上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)は、上記低段側の偏心回転式ピストン機構(40)のピストン(42,52)の偏心方向と、上記高段側の偏心回転式ピストン機構(50)のピストン(42,52)の偏心方向が180度異なるように設定されていることを特徴とする回転式流体機械。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つにおいて、
上記2つの偏心回転式ピストン機構(40,50)のいずれか一方又は両方は、一方のブレード部(43,53)がピストン(42,52)と一体的に連接すると共に、該ブレード部(43,53)を揺動させるためのブッシュ(47,57)を有し、他方のブレード部(44,54)が上記ピストン(42,52)と別体となって該ピストン(42,52)と摺接するスライドベーン(44,54)を構成していることを特徴とする回転式流体機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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