説明

回転機械の振動特性計測装置

【課題】振動特性を計測する前に回転機械ごとの固有値(固有周期または固有振動数)を自動で計測することができる回転機械の振動特性計測装置を提供する。
【解決手段】回転機械の振動特性計測装置1は、マウント4に取り付けられた回転機械6を打撃しその打撃による回転機械6の振動から回転機械6の固有値を計測する固有値計測装置14を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機械の振動特性計測装置に関し、特に、回転機械ごとの固有値を計測することができる振動特性計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転機械の生産ラインにおいて、回転機械の振動特性(例えば回転アンバランス)を評価するため、回転機械の振動特性を計測する振動特性計測装置が用いられる(例えば下記特許文献1を参照)。この種の振動特性計測装置において振動特性を計測する場合、振動特性計測装置のマウントに回転機械を固定した状態で回転機械の回転体を回転させてその振動を検出する。
【0003】
振動特性評価の精度・信頼性を上げるためには、振動特性の計測の前に回転機械ごとの固有値(固有周期または固有振動数)を計測し、この固有値から不良品か否かを知ることが重要である。また、マウントに異常(ボルトのゆるみ等)があると振動特性を適正に測定することができないため、マウントに取り付けた状態の回転機械の固有値を計測して把握し、回転機械のみならずマウントの健全性を知ることも重要である。
【0004】
そのため、従来では、インパルスハンマーを用いて、手動で回転機械を打診し、その固有値の計測結果から不良品か否かを判定していた。また、ラインタクトが長くなる、人が入れない等の理由により、インパルスハンマーを用いた手動による計測ができない場合は、振動特性計測装置に備えられた加速度センサで検出された加速度から得られる振動特性から類推するしかなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2002−39904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インパルスハンマーを用いた手動による固有振動数の計測は、煩雑な作業であるし、打撃する位置が常に同じとは限らないから、固有値数計測の信頼性が低いという問題がある。
また、振動特性計測装置で計測された振動特性から固有値を類推する場合、振動特性を計測した後でないと、回転機械が不良品であるか否か、あるいはマウントが健全であるか否かの判定ができないため、振動計測の時間が無駄に費やされるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、振動特性を計測する前に回転機械ごとの固有値を自動で計測することができる回転機械の振動特性計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するため、本発明の回転機械の振動特性計測装置は、以下の技術的手段を採用する。
(1)本発明は、回転機械を取り付けるマウントを有し該マウントに取り付けられた回転機械の振動を検出することで該回転機械の振動特性を計測する回転機械の振動特性計測装置において、前記マウントに取り付けられた回転機械を打撃しその打撃による回転機械の振動から回転機械の固有値を計測する固有値計測装置を備える、ことを特徴とする。
【0009】
上記の本発明の構成によれば、固有値計測装置によりマウントに取り付けられた状態の回転機械の固有値を自動計測することができる。これにより、手動による固有値計測の煩雑さを解消でき、また、回転機械ごとの計測において常に同じ位置を打撃できるので固有値計測の信頼性を高めることができる。さらに、振動特性を計測する前に、固有値を計測し、回転機械が不良品であるか否か、あるいはマウントに異常が無いかどうかを確認できるので、振動計測の時間が無駄に費やされるという問題を解消できる。
【0010】
(2)上記の回転機械の振動特性計測装置において、さらに、前記固有値計測装置によって計測された固有値に基づいて前記回転機械又は前記マウントの健全性を判定する判定手段を備える。
【0011】
上記の構成によれば、判定手段によって回転機械又はマウントの健全性を自動判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、振動特性を計測する前に回転機械ごとの固有値を自動で計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の回転機械6の振動特性計測装置1の実施形態を示す概略構成図である。図1に示す振動特性計測装置1は、回転体7のアンバランス量を振動特性として計測するアンバランス量計測装置として構成されているが、本発明はこれに限定されず、回転機械6の振動特性を計測するその他の装置として構成することも可能である。
【0015】
振動特性計測装置1は、床面などに固定されたベース2と、ベース2上に固定されたバネ要素3と、バネ要素3の上部にて固定及び支持されたマウント4と、振動を検出する振動センサ9と、回転体7の回転を検出する回転検出器10と、回転体7のアンバランス量(質量及び方位)を演算するアンバランス量演算部11とを備える。
【0016】
バネ要素3の本数及びバネ定数は、バネ要素3の材質(硬さ)やアンバランス計測を行う周波数(回転数)に応じて適切な数及び値に設定される。
マウント4は、回転体7を備えた回転機械6を装着し、しっかりと固定できるように構成されている。振動特性計測の対象となる回転機械6は、例えば、過給機、圧縮機、タービン、モータなどである。
【0017】
振動特性計測を行う際の回転体7の回転駆動は、図示しない外部駆動装置で行ってもよいし、回転機械6自体が備えるモータ等の駆動源で行ってもよい。また、例えば、回転機械6が過給機である場合、マウント4に空気導入口と空気排出口を設け、マウント4内部に空気を圧送することで過給機のタービンインペラを回転させる構成であってもよい。
【0018】
振動センサ9は、図示例ではマウント4に取り付けられているが、回転機械6に取り付けることも可能である。回転体7の回転アンバランスを計測するためには、回転体7の回転軸心8aに垂直な方向の振動を計測することが必要である。このため、振動センサ9は、回転体7の回転軸心8aに垂直な方向の振動を計測するようにマウント4(又は回転機械6)に取り付けられている。
【0019】
この場合、振動センサ9によって計測する振動の方向は、回転体7の回転軸心8aに垂直な方向である限り、水平方向でも、鉛直方向であっても、その他の方向であってもよい。
【0020】
振動センサ9は、従来のアンバランス計測において用いられていたのと同様に、振動を検出できる各種センサであればよく、例えば、加速度センサ、速度センサ、変位センサを単独で、あるいは組み合わせて用いることが可能である。振動センサ9による検出データは、アンバランス量演算部11に送信される。
【0021】
回転検出器10は、回転軸8の先端近傍に配置され、回転軸8の基準位置からの回転角を検出する。回転検出器10には光学式や磁気式のものを適用できる。回転検出器10による検出データはアンバランス量演算部11に送信される。
【0022】
アンバランス量演算部11は、振動センサ9及び回転検出器10からの検出信号に基づいてアンバランス量(質量及び方位)を演算する。回転体7のアンバランス修正は、算出されたアンバランス量に基づいて回転体7の一部を除去することで行う。
【0023】
図1に示すように、回転機械6の振動計測装置は、さらに、マウント4に取り付けられた回転機械6を打撃しその打撃による回転機械6の振動から回転機械6の固有値(固有周期または固有振動数)を計測する固有値計測装置14を備える。
【0024】
固有値計測装置14は、回転機械6を打撃する打撃部15(インパクトハンマー)と、打撃による回転機械6の振動を検出する振動検出部16と、回転機械6の固有値を演算する固有値演算部18とを有する。
【0025】
図1において、打撃部15と振動検出部16は、本体17に設けられている。打撃部15は、回転機械6を打撃することで回転機械6を加振するものであり、回転機械6に対して打撃動作できるように本体17に取り付けられおり、その打撃動作は、直線運動によるものでも、回転運動によるものでもよい。
【0026】
打撃部15の先端部には力センサ15aが設けられており、打撃部15が回転機械6に与えた加振力の大きさを計測できるようになっている。力センサ15aとしては、ロードセル、圧電素子などを用いることができる。
【0027】
振動検出部16は、振動を検出できる各種センサであればよく、例えば、加速度センサ、速度センサ、変位センサを単独で、あるいは組み合わせて用いることが可能である。なお、振動センサ9が回転機械6に取り付けられる場合には、振動検出部16の代わりに、打撃による振動を振動センサ9によって検出する構成としてもよい。
【0028】
この振動特性計測装置1で計測する回転機械6の振動特性は、回転体7の回転軸8に垂直な方向に関するものであるため、計測される回転機械6の固有値も回転体7の回転軸心8aに垂直な方向についてのものであるのが良い。したがって、打撃部15は、回転体7の回転軸心8aに垂直な方向に回転機械6を加振するように配置されるのがよく、振動検出部16は、回転体7の回転軸心8aに垂直な方向の振動を検出するように配置されるのがよい。この場合、打撃部15による加振方向と、振動検出部16により検出される振動の方向が同じになるように、打撃部15及び振動検出部16が配置されるのがよい。
【0029】
本体17は、マウント4に固定された回転機械6に対して進退移動可能に設置されており、固有値計測を行うときは打撃部15が回転機械6に打撃を与えかつ振動検出部16が振動を検出できるように計測位置(A)に移動し、固有値計測を行うとき以外は待機位置(B)に移動するようになっている。
【0030】
力センサ15a及び振動検出部16からの検出データは、固有値演算部18に送信される。固有値演算部18は、打撃部15が回転機械6に与えた加振力と、打撃による回転機械6の振動とから、回転機械6の固有値(固有周期または固有振動数)を算出する。算出された固有値は表示装置20にて表示されオペレータが確認できるようになっている。
【0031】
このように、本発明の回転機械の振動特性計測装置1によれば、振動特性(本実施形態では回転体7のアンバランス量)を計測する前に、固有値計測装置14によりマウント4に取り付けられた状態の回転機械6の固有値を計測することができる。これにより、手動による固有値計測の煩雑さを解消でき、また、回転機械6ごとの計測において常に同じ位置を打撃できるので固有値計測の信頼性を高めることができる。
【0032】
回転機械6の固有値が測定されたら、例えばオペレータにより、算出された固有値が正常な範囲内にあるかどうかが確認され、正常な範囲から外れる場合には、回転機械6が不良品であるか、マウント4に何らかの異常(ボルトのゆるみなど)があると判定される。したがって、振動特性を計測する前に、回転機械6が不良品であるか否か、あるいはマウント4に異常が無いかどうかを確認できるので、振動計測の時間が無駄に費やされることがない。
【0033】
図1に示すように、振動特性計測装置1は、さらに、固有値計測装置14によって計測された固有値に基づいて回転機械6又はマウント4の健全性を判定する判定手段19を備えてもよい。この場合、判定手段19は、算出された固有値が正常な範囲から外れている場合には、回転機械6が不良品であるか、マウント4に何らかの異常があると判定する。この判定結果は、表示装置20にて表示されオペレータが確認できるようになっている。
【0034】
上記の構成によれば、回転機械6又はマウント4の健全性を判定手段19によって自動判定することができる。
【0035】
なお、上記において、本発明の実施形態について説明を行ったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれら発明の実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の回転機械の振動特性計測装置の実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0037】
1 回転体の振動特性計測装置
2 ベース
3 バネ要素
4 マウント
6 回転機械
7 回転体
8 回転軸
8a 回転軸心
9 振動センサ
10 回転検出器
11 アンバランス量演算部
14 固有値計測装置
15 打撃部
15a 力センサ
16 振動検出部
17 本体
18 固有値演算部
19 判定手段
20 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械を取り付けるマウントを有し該マウントに取り付けられた回転機械の振動を検出することで該回転機械の振動特性を計測する回転機械の振動特性計測装置において、
前記マウントに取り付けられた回転機械を打撃しその打撃による回転機械の振動から回転機械の固有値を計測する固有値計測装置を備える、ことを特徴とする回転機械の振動特性計測装置。
【請求項2】
さらに、前記固有値計測装置によって計測された固有値に基づいて前記回転機械又は前記マウントの健全性を判定する判定手段を備える、請求項1記載の回転機械の振動特性計測装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−71933(P2010−71933A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242475(P2008−242475)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】